昼下がりの午後 |
少年は睡魔と必死に格闘していた。
昼下がりの古文の授業……教科書は睡眠薬と化し、先生の言葉は子守唄のように聞こえる。
ポカポカとした陽気と満腹感がそれに拍車をかけ、まぶたがまるで錘のように垂れ下がってくる。
眠い……眠すぎる……
少年は何度も、呪文のようにつぶやいた。周囲を見回すと机に伏してスースーと寝息を立てている生徒もちらほらいる。
俺も寝ちゃおっかな……少年は甘い誘惑に何度も乗ろうとした。しかしその度に眠ったらいけない!と良心が引き止め、何とか持ちこたえていた。
少年の心は理性と欲望という名の葛藤の狭間で揺れ動いていた。
眠れ眠れ。そうすれば楽になるぞ。苦しまなくってすむんだ。
いや、眠っちゃだめだ!!授業についていけなくなるぞ!学生の本分は勉強だろ!!
なにをいっている!?本能の赴くまま行動することこそ人間のあるべき姿だ!!
いや違う!!理性を働かし、なすべきことはきちんとしなければいけないのが人間だ!!
もはや少年は限界を超えていた。無論先生の言葉など耳に入っていなかった。
授業なんか受けてどうする?大体古文なんて日本語じゃないんだから受けたってしょうがないだろ?
古文は立派な日本語だ!!昔の人の考え方を知る上でも、大切な勉強だ!
どこが?現代の生活においてまったく役に立たないじゃないか。
違う!!現代の生活において役立つとか役立たないとか、そのような物差しで計れるレベルのことではない!
やめろ!!やめてくれ!!これ以上俺を困らせないでくれ!!
少年は気が狂いそうになった。これはもはや、少年にとって拷問以外何物でもなかった。
眠りたいのに眠れない……眠れないのに眠りたい……
このままではいけない、と思った少年はひとつの決断を下した。最後まで起きている……それは同時に煩悩の囁きがよりいっそう激しくなる結果をもたらすことになった。
眠れ。
勉強なんてどうでもいいじゃん。
無理は体によくないぞ。
少年は必死に耐えつづけた。自分の決めたことを覆すわけにはいかなかった。
後もう少し、もうちょっとの辛抱だ!!
やがて、少年の勝利を告げる授業の終わりを告げるチャイムがなった。
やった!!俺は勝ったんだ!!少年は心の中でガッツポーズをし、勝利の美酒に酔いしれていた。
「じゃ、今日授業で話したことが今度のテストに丸々出るからな。しっかり復習しておけよ」
しかし、先生のこの一言が少年の心を貫き、彼を幸福の絶頂から不幸のどん底に叩き落した。
無論、先生の話など聞こえてはいない。何故なら少年は悪魔と必死に戦うことに全力を尽くしていたから。
俺の言ったとおり眠っておけばよかったのに……
心のどこかで悪魔の高笑いが聞こえたような気がした。
少年はがっくりうなだれて窓の外を見た。空には雲ひとつない青々とした晴天が一面に広がっていた。
(終わり)
説明 | ||
ショートショートです。 昔書いた作品に、ちょっと手を加えてみました。 |
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