[武装神姫]主人の亡き後
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「うにゅ……う、うううん……」

 天使型の神姫が目を覚ました。

「あ、起きた」

 それを見た15、6歳くらいの少女が少し驚いたように声を出した。

 神姫は目の前の人間が自分のご主人様でないと知り、尋ねる。

「おはようございます……えっと、すみません、ご主人様は?」

「私、夜弥(やみ)って言うの、よろしくね! あなたの名前は?」

 少女は興奮した様子で言った。

 そのせいで神姫の質問は頭に入らなかったのだろう。神姫の質問に答えていない。

 仕方なしに、とりあえず神姫は少女の質問に答える事にした。

「私は天使型アーンヴァルのストラトです」

「へー、ストラトっていうんだー!? 良い名前だね! ところで、君って旧式の天使型だよね?」

 夜弥と名乗った少女は、ストラトが答えるとすぐに新たな質問を繰り出した。

 しかし、ストラトには意味の分からない単語があった。

「……『旧式』ってどういう事ですか?」

 ストラトの知りうる限り、天使型の神姫は『アーンヴァル トランシェ2』か『天使コマンド型のウェルクストラ』、あとはリペイントくらいしか無かったはずだ。

 どれをとっても自分が旧式と呼ばれるには違和感がある。

「あーそっか。今は2057年。ストラトがいつから寝てたかはよく知らないけど、今はもうまともに動いている初期発売の天使型はすっごく珍しいんだよ! 去年、20周年で復刻版の天使型が発売したから、ストラトのそっくりさんはいっぱい居るけどね!」

「えっ!? ……2057、年」

 ストラトは衝撃を受けた。

 彼女の最後の記憶は2042年。つまり15年間も寝ていた事になる。

「あの……私のご主人様は?」

「ね、ストラト。私の神姫にならない?」

「それはできません。MMS国際規則によって私達は縛られていますから」

「あーそっかー……、じゃあ友達になってよ、ね?」

「それは構いませんが……私のご主人様を知りませんか? お願いします、答えて下さい!」

 3度目の質問。

 ストラトの必死さに夜弥は黙る。

「……私、捨てられたんでしょうか?」

「違う!……そうじゃないんだけど……」

 さっきまでの元気が夜弥から消える。

「……もし、私がご主人様に捨てられたのなら、夜弥さんが本当の意味で私のご主人様になりたいのでしたら、神姫センター本店に送って強制リセットをかけて下さい。ご主人様のいない私なんて……」

 不安に押しつぶされそうなストラトは、いじけたような声を出した。

 オーナー本人がいない場合のリセットは、日本では東京赤坂にある神姫センター本社でのみ可能である。そこに神姫を送り、強制リセットをかけて送り返してもらえるというサービスだ。

 このとき、必要なのは神姫の同意のみである。

 オーナーのいない状態の神姫をなるべく出さず、盗難によって強制リセットされるのは防ぐという意味合いから、こういった制度が取られていた。

「……ゴメン、ストラトを落ち込ませようとしたわけじゃないんだ」

 夜弥は意を決したように口を開く。

「ストラトのオーナーはね、もう死んでるんだ。15年前、私が生まれて間もない頃に……」

「…………」

 ストラトは言葉が出ない。

 ご主人様がもう死んでいる――その事実が神姫の心を大きく叩いた。

 その痛みは、今までやってきたバトルのどんなダメージよりも痛かった。

「私は、佐々木夜弥。あなたのオーナーの娘、です……」

「…………」

「…………」

 うなだれ、言えないストラト。色んな思いで次の言葉が美味く出てこない夜弥。

 しばらくの沈黙があり、先に口を開いたのは夜弥だった。

「あのさ……私、生まれてすぐにお父さん死んじゃったから、どんな人だったか知らないの。お母さんは思い出すのが辛いみたいで話してくれないし……」

 一度そこで言葉を切ると、優しくストラトを自分の手の上に乗せ、顔の近くまで近づけた。

「ねぇ、お願い。お父さんの事を教えて」

「……ご主人様が私を捨てたんじゃないかと少しでも疑った私をお許しください」

 まるで協会で懺悔をするようにつぶやいたストラトは、目を閉じるとゆっくりと話し始めた。

 心から自分を大切にしてくれた、優しかったご主人様の事を。

 15年もの歳月が経った昨日を思い出しながら。

 

 思い出話の後、2人で今後の事を話した結果、ストラトはリセットせずに、夜弥を『オーナー』と呼ぶ事になった。

 正規の関係じゃないから公式バトルに参戦する事はできないが、そんな事2人には関係ない。

 思い出を共有する事で信頼関係を築いた2人。

 この2人の思い出は、ここから始まる。

 

 

 

 

 

 

 佐々木謙二。享年31歳。死因は交通事故……だったらしいです。

 これが私の『ご主人様』。

 それは……それだけは、一生変わることはありません。

説明
僕を武装神姫に引き込んでくれた友人が、一ヶ月前くらいに急にメールをくれました。
「オーナーが突然死んでしまったりしたら神姫はどうなるのだろう?」
直後、僕の頭の中で、想像力が働きまくりました。

ふと気づくと20分くらいかけて思いついた事をその友人に返信してました。
それがこの話の元となってます(笑)

タイトルは暗いですが、希望の詰まった話ですので、気に入って頂けましたら幸いです。
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タグ
武装神姫 オーナー 白子 アーンヴァル 

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