仮面ライダーディケイド 〜Road Of Precure〜 4話 |
「五代雄介って言うんだ。よろしく」
笑顔が似合う男は、親指を立ててそういった。
「五代……ユウスケ?」
ユウスケはその名前が自分と同じであることに驚く。そんなユウスケの驚きを知ってか知らずか、五代雄介と名乗った男性は人懐っこい笑顔を浮かべて彼を見る。
「またの名を、クウガって言うんだ」
「―――え?」
驚きの顔を浮かべるユウスケ、雄介は続ける。
「君も出会ったろ? もう一人のブレイド、それにもう一人のキバに」
そのことに、思いつく節があったユウスケ。ライダー大戦の世界において、彼は剣崎一真と名乗り、金色のライダーに変身する青年や、士の前にたびたび現れた紅渡というキバに変身する青年のことを知っている。
「君達がめぐったライダー世界……僕らはこれをリマジ世界と読んでいるんだけど、これにはもう一つ、オリジナル世界と呼ばれる世界があるんだ」
「オリジナル、世界?」
「そう、そして俺はそのオリジナル世界のクウガってこと……とはいえ、今は変身する力も残ってないんだけどね」
自嘲気味に笑いを浮かべる雄介。
「本当は、君とは出会わないはずだったんだけど、渡君にちょっと無茶を言ってさ。どうしても君に会いたくて」
「俺に?」
「ああ」
それまで彼が浮かべていた人懐っこい笑顔が消え、真顔を浮かべる。
「君はもう、戦うべきじゃない」
「え……?」
驚きを浮かべるユウスケに、彼は続ける。
「君は、アークルがどういうものか知ってるかい?」
「クウガに変身するためのアイテム、じゃないんですか?」
「それだけじゃない」
変身ベルト、アークル。その秘密を、彼は告げる。
「アークルを装備した者は、アークルから伸びる神経状の物質によって変身することができるんだ。その神経状の物質は君が強くなるのにあわせて増えていく……そして、その物質が脳に届いたとき」
それは、クウガとなったものが背負う宿命。
「君は理性を失い、ただ戦うだけの生物兵器になる」
第四話「決めます必殺技! ハートキャッチプリキュア!!」
「どうして、ココロパフュームを返しちゃったんですか!」
「だってさ……」
えりかは自分のパートナー精霊であるシフレに責められて、言葉を濁す。
「つぼみに、あんなこといわれるなんて、思ってなかったし」
「それは、そうですぅ……」
あれほど、優しかった少女が言ったとは思えないほどの冷たい言葉。その言葉に、押し切られてしまった。
「でも、えりかは僕が選んだパートナーですぅ。たとえつぼみでもそれをあんな風に言うなんて許せないですぅ!」
顔を真っ赤にさせて憤慨しているコフレを尻目に、えりかは公園の中にある湖の湖面を見つめながら、つぼみに言われた言葉を思い出す。
『ずっと我慢してきました。相手のことを考えないで無神経に物事をズカズカいう貴方に』
「……やっぱ、私のせいなのかな」
えりかは、自分自身の欠点のことを誰よりも理解しているつもりだ。相手の気持ちを考えれない―――それは、彼女の姉からも何度も言われている言葉だ。だからこそ、何よりもその言葉が心に突き刺さっていた。思わずもれるため息。そんな彼女を、湖面が映す。
そして、その姿を見ている者がいた。
「彼女が、キュアマリンの変身者、来海えりか、か」
海東大樹である。ディエンドライバーを取り出すと、面白そうに笑みを浮かべる。こうやって目的の獲物を奪い取る瞬間が彼にとっては最大の楽しみである。いざ、一歩を踏み出そうとするも、
「……!」
何者かの気配を感じて思いとどまる。彼と同じように、シフレも気づいたのかぬいぐるみのふりをしてベンチへと降りる。そこに現れるのは、白いパラソル片手の、えりかと同じく長い髪が特徴的な少女。その顔つきはどこか似ている。
「……ももねぇ」
「どうしたのえりか、ため息なんてついちゃって貴方らしくもない」
来海えりかの姉、来海ももか。高校生だが人気モデルで雑誌から引張りダコの有名人である。
「どうしてここに?」
「ファッション誌のグラビア撮影でね。私は今休憩中」
彼女が対岸を見る。釣られて顔を向けてみれば、そこにはカメラや機材を構えたスタッフたちが慌しく動き回っている。
「どうしたの、ため息なんてえりからしくないじゃない」
「別にももねぇには関係ないでしょ……ほっといてよ」
「……つぼみちゃんと、喧嘩したの?」
「!」
図星を突かれて、表情を堅くする。その姿を見て、やっぱりかという表情を浮かべるももか。
「どうせ、まだ相手の気持ち考えないでズバズバ言っちゃったんでしょ?」
「……そう、だけどさ」
思っていたのと違う反応に一瞬、驚きの表情を浮かべるももか。だが、すぐにその表情を柔らかくすると、
「どうしたの、えりかにしては大人しいじゃない」
「だってさ……」
えりかは、先ほどの経緯を話す。勿論、プリキュアであることがばれる部位は隠しておいて、だが。
「そう、そんなことがあったんだ」
「うん」
いつも、姉である彼女に対して反発してくる彼女には珍しく、素直に頷くえりか。そんな妹の姿を、ももかは微笑を浮かべる。
「それ、本当につぼみちゃんだったのかな」
「え?」
姉の突然の言葉に、理解できないという顔を浮かべるえりか。
「私は、えりかほどつぼみちゃんのこと知らないけどさ。私がえりかから聞いてるつぼみちゃんと、今の話のつぼみちゃんは、とてもじゃないけど同一人物とは思えないなぁ」
「で、でもあれは確かに……」
「あんたさ、確かに人の気持ちを考えるのが苦手だけどさ」
全てを包み込むようなそんな優しい笑顔を浮かべながら、彼女の姉ももかは言う。
「人を見る目まで、悪くないと思うんだよね」
落ち込み、意気消沈しているえりかの頭を優しく撫でる。
「えりか、あんたが友達になりたいって思ったつぼみちゃんは、本当にそんなことを言う子だったの?」
「それは……」
「ももかさぁーん! そろそろお願いしまーす!」
遠くから、ももかを呼ぶ声がする。彼女はその言葉に元気よく答えると、えりかに言う。
「えりか、もう一度よく考えてみて。本当に、あんたの知ってるつぼみちゃんは、そんなことをいう子だったのかを」
最後に、微笑んで彼女は去っていく。その後姿を、何も言わずに見送るえりか。最後に彼女に言われた言葉が、頭の中を回る。
『それ、本当につぼみちゃんだったのかな』
たしかにえりかの知っているつぼみという少女はあんなことをいうような人物ではなかった。誰かの心情を誰よりも感じることのできる彼女が、あんなことを言うようには思えない。しかし、えりかには彼女を傷つけてしまったという負い目があった。
彼女の中で、様々な思いが巡り、
「あーもー、ももねぇの言ってることわかんないよ!!」
えりかは頭を抱えてそう叫ぶのであった。
そんなえりかの姿を見つめていた大樹。一部始終を見ていた彼は、すでにえりかが彼の目的であるココロパフュームを持っていないことを知った以上、彼にはここに留まる意味はないのだが。
「姉、か」
彼にも兄がいた。志したものが違ったために今となっては完全に決別してしまった兄―――彼は、海東大樹が仮面ライダーを目指したきっかけになった人物でもあった。そんな、今では戻れない兄との関係を、えりかたち姉妹に重ねる。
そんな、彼が取った行動は……
「君が、来海えりかだね?」
「へ、そうだけど……」
隠れることもなく、堂々とえりかの前に現れる大樹。その堂々さに呆気に取られる彼女。
「えーっと、あんた誰?」
「……何、こういうものさ」
そういって彼が見せたのは、ディエンドライバーとディエンドのカード。それで察するえりか。
「あれは、ディケイドが持ってたのと同じカードですぅ!」
「あんた、士さんたちの仲間?」
「それに近いもの、かな。ちょっと君たちの持っているココロパフュームとやらが欲しくてね」
大樹の飄々としたその言葉に、思わず身構えるえりかとコフレ。だが、そんな彼女達を見て思わず笑みを浮かべる大樹。
「心配しなくても君達がココロパフュームを持っていないことは知っているよ」
「え……?」
「それに、僕は盗みがいがある物にしか興味がないのさ……今の君から、ココロパフュームを奪っても何も楽しくないのさ」
その言葉を聴いて、思わず視線を落とすえりか。その姿を尻目に、海道は鋭い言葉を告げる。
「いい加減に見てないで出てきたらどうだい?」
「え?」
わからない、という顔を浮かべるえりかたち。だが、大樹は手に持っていたディケイドライバーをえりかたちの背中にある林へと向かって引き金を引いた。乾いた音と共に林に弾丸が叩き込まれる。
「……さすがはディエンド。一筋縄ではいかない、か」
林が揺れたかと思うと、そこから現れるのは、
「も、もう一人の私?!」
「ど、どうなってるですか?!」
其処から現れたのは、服装も髪型もえりかと瓜二つの少女……そう、ワームがえりかに擬態した姿である。それにあわせるように、周りから現れるサナギ体のワームたち。
「ど、どうゆうこと?!」
「ワームっていうのは人に擬態することができるのさ。で、このワームは君自身に擬態している」
「じゃあ、さっき私が会ったつぼみは?!」
「もしかしたら、ワームだったかもしれないね」
その言葉を聴いて、えりかの顔が少しだけ安堵に緩む。先ほどのつぼみは、ひょっとしたらつぼみ本人ではないかもしれない可能性が出てきたからだ。
「ディエンド、あんたの目的はココロパフュームを集めることでしょ? 私の目的はそこにいるオリジナルを倒すこと。そこのオリジナルを倒せば貴方の手にもココロパフュームが手に入りやすいはず……私たちの利害は一致しているわ」
手を貸せ、と言外に言っている彼女に対して、大樹は笑いを一つこぼしてから告げる。
「生憎だけど、僕は簡単に手に入るお宝なんかに興味はない……それに、ワームなんかと手を組むつもりも毛頭ない」
ディケイドライバーを引き抜き、そこへとカードを差し込む。
「邪魔させてもらうよ」
-Kamen Ride DIEND!-
彼の体をシビリアンの鎧が包み込む。上半身を包み込む黒いアーマー、そして頭部へと黒いカードが突き刺さる。ディケイドと同時期に生み出されたもう一人のライダー、ディエンド。ライダー召還ができる珍しいライダーだ。
それを見て、彼女らしくない邪悪な笑みを浮かべるワームえりか。
「確かにディエンド、貴方は強い。だけど、私相手にもその強さが維持できるかしら?」
彼女の姿が変化していく目は落ち込み体全身に突起物が現れる。長い触手が頭部から二つ伸びると、その腕は巨大な三つの爪を持つはさみへと変化する。―――キャマラスワーム、いわゆるエビワームだ。
「クロックアップもできないあんたに、私達に勝てる可能性は0よ」
クロックアップ能力、カブトの世界のライダーとワームしか持っていない脅威の能力。これをもたないものは、敵に触れることすらできない。ディケイドと違って他のライダーに変身できないディエンドにも、同じことが言える。
だが、ディエンドはそれを一笑する。
「そうだね、クロックアップは”僕には”できない」
取り出すのは、三枚のカード。
-Kamen Ride-
-KETAROS!-
-HERCUS!-
-CAUCASUS!-
現れるのは、金銀銅、それぞれの色を持った三人のライダー。
「ゼクトの敵は、俺が倒す!」
銅のライダー、ゼクトに忠誠を誓ったライダー、ケタロス。
「ゼクトは、俺が潰す!」
銀のライダー、ゼクトに反旗を翻したライダー、ヘラクス。
「バラの花言葉は愛……愛と共に散りなさい」
金のライダー、真実を知りながらもただ強さのみを追い求めたライダー、コーカサス。
「何、こいつら……?」
「今はもう存在しない未来にいたライダーたちさ。君達も知らないだろうね」
消えてなくなった未来の世界に存在していた三人のライダーの姿に、驚きを隠せないキャマラスワーム、だが彼女も強気な態度を崩さない。
「だが、三人のライダーを召還しただけで何ができる!」
ワームたちが一斉にクロックアップを行い、高速の世界へと突入していく。それにあわせるように、三色のライダーも、
-CLOCK UP-
-CLOCK UP-
-HYPER CLOCK UP-
勝負は一瞬だった。黒く鈍い銅の光と、白く輝く銀の光が駆け巡り、サナギワームたちを蹴散らして炎を生み出す。―――そして、金色の光は、誰の目にも光を捉えることができない。
「……そんな、どうして」
キャマラスワームには理解ができなかった。彼女の背中にはコーカサスがただ立っている。彼が何をしたのかも、何をされたのも理解できない。―――なのに、致命傷を負っている自分。キャマラスワームは決して弱いワームではない。オリジナル世界においては、ガタックを一方的に嬲り、撃破したこともある強敵である。
だが、それを上回るのがコーカサスの力なのだ。
コーカサスと戦う者は、戦う前に敗北している―――それが、彼の強さを表す言葉である。彼と相対したとき、すでにそのものは敗北しているのだ。
コーカサスの脇に、ケタロス・ヘラクスが並ぶ。その姿を後ろに見ながら、キャラマスワームは全身から緑色の炎を噴出しながら、その場に倒れこんだ。
「言っただろ、”僕は”クロックアップできないってね」
ワームたちを圧倒しながらも、ディエンドは涼しい顔で告げた。その姿に、言葉を亡くして立ちすくむえりかとコフレ。
「わかったかい? ワームはどんな姿にだってなれるのさ……君の姿にも、君の友達の姿にも、ね」
「そ、それじゃあ、さっきのつぼみは!?」
「ひょっとしたら、偽者かもしれないね」
その言葉に、表情を明るくさせるえりかであったが、あることに気づいて顔を青ざめる。
「そ、それじゃあ私、ひょっとしてワームにココロパフュームを……?!」
「そ、そうですぅ! 大変ですぅ!」
「すぐに取り返さないと?!」
あわてて走り出そうとする彼女であったが、ふと足を止める。
「……? えりか、どうしたんですか?」
「でも、さ。私がつぼみのこと傷つけちゃったことは、事実なんだよね」
気まずそうに、彼女は言った。たとえ先ほどのつぼみがワームであろうとも、彼女が傷つけてしまった事実は変わらないのである。そして、どうして彼女を傷つけてしまったのかわからないえりか。
「どんな顔して、会えばいいのよ」
「えりか……」
「わからなければ、聞けばいいじゃないか」
そんな彼女に、ディエンドはあっけらかんと言い放った。
「え?」
「理解できないことは、悪いことなのかい? わからないということは、駄目なことなのかい?」
諭すように、彼は言う。
「他人の気持ちを完全に理解できる人間なんていない、そうだろ?」
素直に頷くえりか。
「人との付き合い方なんて、人それぞれさ。君は、君のやり方でつぼみという子に付き合っていけばいい」
「そう、かな?」
「そうさ、僕と士たちだって、そうだったからね」
宝物を奪うことで士たちの邪魔をしながらも、彼らが危機に陥ったとき、必ず手を差し出す男。その付き合い方は他人には理解できないかもしれないが、それが海東大樹なりの人との付き合い方なのだ。
「さぁ、急ぎたまえ。じゃないと、つぼみって子がワームに襲われるよ」
その言葉に、えりかは決意を固める。
「いくよ、コフレ!」
「はいですぅ!」
そうやって走り出した彼女たちの姿を、ディエンドはただ見つめていた。
つぼみは、川原の土手を、トボトボと歩いていた。
「つぼみ、元気だすですぅ」
がっくりと肩を落としている彼女に、スプレが励ましの言葉を送るも、その顔は暗いままだ。
「ねぇ、スプレ……私は、プリキュアに相応しいのでしょうか?」
「当たり前です! つぼみは花を大切に思う気持ちや他人を思いやる気持ちをもっているですぅ!」
「だけど……」
それでも表情が暗いつぼみ、そんな彼女に声をかける者が居た。
「どうやら、相当落ち込んでいるみたいだな」
その言葉に、顔を上げるつぼみ。その視線の先には、
「士さん、夏海さん」
門矢士と光夏海がいた。
「俺が……ただの生物兵器、に?」
ユウスケの言葉を、雄介は頷いて肯定する。思わず、自分の腹部−アークルが眠っている場所−へと視線を向ける。これまで、何の迷いもなく使ってきた力と、その危険性を、彼は改めて実感した。
「多分、君はそれを無自覚に感じていたんじゃないかなって思う」
「え?」
「君が必要以上に変身しないのは、アークルの危険性を感じた君の体が、力を使うことを抑えてたんじゃないかな」
ディケイドと違って、小野寺ユウスケはここぞという時以外は変身しなかった。それは、彼の体が無意識に行っていた危険回避だったのかもしれない。
「だから、君はもう戦わなくて―――」
その言葉をユウスケは手で制した。
「すいません、五代さん。俺、それだけはできません」
力強い意思を持って、その言葉を告げた。
「……どうしてか、聞かせてもらってもいいかな?」
「姐さんと……八代さんとの約束なんです。最後に、交わした」
その言葉を発したとき、ゆりは気づいた―きっと、彼女だから気づけた―そのとき、ユウスケの瞳の中に映る、悲しみの光を。
「その、姐さんって人は……?」
彼女の言葉に、ユウスケは答えなかった。ただ、何かを誤魔化すように、笑顔で答えた。その顔を見て、薫子が全てを理解したかのように、訪ねた。
「その八代さんって人は、貴方にとって大切な人だったのね」
「……はい、俺は彼女の笑顔を護りたかった。あの人に認めてもらいたかった。だから、この力を手に入れたんです」
瞳をつぶればいつでも思い出せる、彼女の笑顔―――もう、見ることができない笑顔。
「……どうして」
搾り出すように、ゆりは言った。
「大切な人を失って、怪物になるかもしれないリスクを背負って……それでもあなたは、戦い続けるというの?」
その言葉に、ユウスケは頷いた。
月影ゆりは、彼の悲しみが理解できた。かつて、彼女も大切な人を失ってしまった過去を持っている。それゆえに、彼女は戦えなくなってしまったから。だからこそ理解できなかった、彼が戦い続けれる理由が。
「それは……」
ユウスケが何かを言おうとしたとき、植物園の入り口のほうで大きな音がした。思わず顔を向ける彼らの瞳に映ったのは、入り口を壊して入ってくる三対のワーム。金色と銀色、そして黒色のそれらは、三体ともが全員同じ姿をしていた。
コレオプテラワーム―――コガネムシワームだ。
「見つけたぞ、月影ゆり……いや、キュアムーンライト!」
金色のコレプテラワームが、ゆりを指差して答える。
「たとえ変身できなくとも、憂いは断っておく……貴様を、殺す!」
思わず身構える彼女の前に、スッと立つ男がいた。
「ユウスケさん?!」
「逃げろ、ゆりちゃん……ここは、俺がなんとかする」
「でも、あなたは!」
ゆりに向けて、彼は顔を向ける。
「さっき聞いたよね、なんで俺が戦い続けるかって」
穏やかな顔を浮かべて。
「約束、なんだ」
「約束?」
小野寺ユウスケは顔を前に向けて三体のワームを見据える。
「世界中の人々の笑顔を護るって……あの人に約束したんだ」
ゆりは見る、彼の背中を―――その背中に隠された悲しみを。
「花の蕾を見つめている君の笑顔……とても、綺麗だったから」
「私の、笑顔……?」
「だから、こんな奴らに君の笑顔を、消されたくないんだ」
彼女が無意識に浮かべた笑顔が、とても綺麗だったから。
「だから、見てて欲しい……俺の!」
雄介は見る、彼の背中を―――その背中にかつての自分を重ねて。
「変身!」
アークルの光が彼の姿を包み込み、赤き鎧を身に纏う。かつて、古代の民リントが戦闘民族グロンギと対抗するために身に纏った戦士の鎧、クウガ。またの名前を―――仮面ライダークウガ。人の笑顔を護るために戦う戦士。
「ここは、俺に任せて、ゆりさん達は早く逃げて!」
彼は立ち向かう。たった一人で。
「ゆりちゃん、見ておきなさい」
薫子は言った。彼の後姿を見つめながら。
「悲しみを乗り越えた者の―――彼の強さを」
「……私、自信がないんです」
土手に広がる花畑を見つめながら、つぼみはぽつりと言った。
「プリキュアになっても、えりかの足を引っ張るばかりで、迷惑ばかりかけて。ずっと考えてました……私に、プリキュアの資格なんてないんじゃないかって」
そういって、彼女は自分のひざに顔を埋める。士はそんな彼女に目をくれずに花畑を見つめ続ける。
「俺は……お前達以外のプリキュアに会ったことがある」
「え?」
顔を上げて士の顔を見るつぼみ。彼はそのまま言葉を続ける。
「こことはちがう世界でな」
「……その二人は、強かった、ですねよね」
「ああ、強かった」
士は思い出す。前の世界で、戦っていた二人のプリキュアの姿を。
「だけど、ただ強いだけじゃなかった」
互いに弱い心を持ちながらも、その弱さを互いに支え合いながら戦っていた彼女達のことを。
「無敵の強さを持ってたわけじゃない。そこら辺にいるただの女の子だった……お前のようにな」
プリキュアの資格、それは士にはわからない。でも、彼女達を見ていてプリキュアがどんなものなのかはわかる。
「だからこそ互いを思いやり、支えあって戦っていた」
そこで初めて、士はつぼみの顔を見た。落ち込んでいる彼女に、彼は告げる。
「プリキュアはただ強い存在じゃない。誰かを思いやる優しい心を持つ者……俺はそう思う」
「優しい心?」
「つぼみちゃんは、さっき小さな子供を助けようとしたじゃないですか」
士の言葉を、夏海が引き継ぐ。
「そんな優しい心こそが、プリキュアにとって大事なものなんじゃないですか?」
「優しい、心……?」
二人の言葉を受けて、自分の胸を見つめる。其処に宿っているであろう自分の心を。
「私は……プリキュアの資格、あるんでしょうか?」
恐る恐る聞く彼女に、士は小さな笑みを浮かべて答える。
「ああ、お前は……優しい心を持っているお前は、プリキュアに相応しい。俺は、そう思う」
「いいえ、あなたはプリキュアには相応しくありません」
冷たい言葉が、彼らの頭上から降ってきた。思わず振り返る士たちが見たのは、弟切ソウと彼の横に立っているつぼみワーム。
「わ、私?!」
「お前、カブトの世界の?!」
驚きの表情を浮かべる彼らの姿を見て、ソウは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「驚いたか、ディケイド! 貴様のやられた恨みを晴らすために、俺は地獄から蘇ったのだ!」
「ふん、どうせスーパーショッカーの狗にでもなりさがっただけだろ」
その言葉に、ソウは一瞬激昂しかかるも、それを押しとどめる。
「その勢いがどこまで続くかな? 我らがスーパーショッカーの恐ろしさを見せてやろう……つぼみ!」
「はい」
つぼみの姿を取ったワームが、ある物を取り出した。
「あれは、ココロパフュームですぅ?!」
「どうして、あなたがそれを!」
その言葉に、邪悪な笑みを浮かべるつぼみワーム。
「だけど、妖精がいなかったら変身できないはずですぅ!」
「スーパーショッカーを舐めないでください」
冷酷に言い放ち、彼女は一つの種を取り出す―――真っ黒な心の種を。
「それは、プリキュアの種!?」
「馬鹿な、そんなものまでスーパーショッカーは!」
驚く彼女達の前で、ワームは言う。あの言葉を。
「プリキュア、オープンマイハート!」
漆黒の闇が彼女の姿を包み込む。どす黒い光が彼女の全身を包み、漆黒のドレスへと変わる。そこから現れるのは、
「闇夜に咲く一輪の花……ダークブロッサムッ!」
その姿は、なにからなにまでキュアブロッサムと瓜二つだった。唯一、違うとすれば衣装の色。本来ならば白とピンクはずの彼女のドレスは、黒とピンクという配色に変わっている。
「黒い、キュアブロッサム!?」
「さぁ、ディケイド、そしてプリキュア! ここが貴様らの墓場だ!」
声を高ぶらせて、弟切ソウも自分本来の姿を現す。フィロキセラワーム、ぶどうの木の天敵でもあるブドウネアブラムシのワームだ。カブトの世界において、ディケイドを苦しめた強敵である。
「ちっ、俺たちも行くぞ!」
「は、はい!」
士の言葉に答えるように、つぼみもココロパフュームを取り出す。
「変身!」
「プリキュア、オープンマイハート!!」
-Kamen Ride DECADE!!-
「大地に咲く一輪の花! キュアブロッサム!」
士がディケイドに、つぼみがキュアブロッサムへと姿を変える。その光景を、面白そうに見つめているダークブロッサムと、憎憎しそうに見つめているソウ。
変身するや否や、フィロキセラワームは背中の羽を羽ばたかせて、ディケイドへと襲い掛かる。ディケイドは、咄嗟にライドブッカーを剣状へと変形させてそれを受け止める。
「ディケイド、貴様だけは俺が俺の手で切り刻んでやる!」
「面白ぇ、できるもんならやってみろ!」
自分の上司とディケイドの戦いを尻目に、ダークブロッサムはブロッサムへと視線を向ける。
「教えてあげます、キュアブロッサム。あなたの、本当の強さを」
「!」
一拍。ダークブロッサムは一瞬でブロッサムまで間合いを詰めると、拳を振るう。とっさに腕を交差させて防御するも、吹き飛ばされる。
「早い……そして、強い!」
「そもそも、これはあなた本来の強さなんですけどね」
「!?」
背中から聞こえる声、衝撃。気づいたときには、前に吹き飛ばされていた。悲鳴さえも上げる暇がない。なんとか立ち上がりながら、相手を見るも、ダークブロッサムは涼しい顔でこちらを見つめている。
「キュアブロッサム、あなたはスペックだけならプリキュアの中でもかなりの能力を持っています。だけど、あなた自身がそれに気づいていない、活かしきれていない」
その両手に、黒い光が集まっていく。
「活かしきれてない能力ほど、無駄なものはありません!」
同時にブロッサムへと放つ。それを右に飛んで回避するが、それを読んでいたようにダークブロッサムが間合いを詰める。
「自分の本気も出し切れない、そんなあなたは、プリキュア失格です!」
腹部へと強烈な蹴り。まともに組み合うこともできずに再び吹き飛ばされ、地面を転がるブロッサム。その姿を、ダークブロッサムは見下した目で見つめる。
「これで、終わりです。私があなたを倒して、本物のキュアブロッサムになるんです」
「……を、どこで……?」
「はい?」
かすれるような声で、ブロッサムは言った。
「ココロパフュームを、どこで手に入れたのですか?」
彼女の言葉に、ダークブロッサムは邪悪な笑みを浮かべて答える。
「えりかから奪ったに決まってるじゃないですか」
「つぼみ!」
「……えりか」
彼女の言葉に合わせるように、その場に駆けつけるえりか。息を切らせて、驚きの表情で見つめている彼女の姿を、ダークブロッサムはさらにその口元を歪ませる。
「えりか、来てくれたんですね。私が、本物のキュアブロッサムを倒すところを」
「……! 違う、私は!!」
「ありがとうございますえりか。あなたのお陰で、私はこうやってプリキュアになることもできました」
「わ、私は」
「ありがとうございます、私の『親友』」
「やめてください!」
ブロッサムの言葉が、ダークブロッサムの言葉を止める。
「あなたは、えりかの親友なんかじゃありません!」
「……まだ、そんな元気あったんですね」
再び、ダークブロッサムが動く。間合いを一瞬で詰めると、その手をブロッサムの腹部へと押し当てる。
「ダークブロッサム、インパクトッ!」
「キャアアアア!」
「つぼみ!!」
黒い光が爆ぜて、ブロッサムの体を吹き飛ばす。悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、地面を転がるブロッサム。彼女の元へと思わず駆けつける。
「つぼみ!」
「えり、か……」
膝を突き、ブロッサムを抱き上げるえりか。彼女の目に入ってくるのは、ダークブロッサムの手によって酷く傷つけられ、汚れた彼女の服と体。それを見て、彼女の顔が歪む。
「ごめん、つぼみ私のせいで……!」
小さな雫が、ブロッサムの頬を撫でる。
「えりか……」
「私が、間違ってココロパフューム渡しちゃったから、つぼみが……!」
その言葉に、つぼみは優しく微笑んだ。
「えりか、あなたは何も悪くない……だって、えりかは騙されただけなんだから」
ブロッサムは立ち上がる。ふらつきながらも、しっかりと足を地に付けて。
「えりか、あなたの心の花を、知ってますか?」
その顔に、優しい笑顔を絶やさずに。その言葉に、首を横に振るえりか。彼女の両手を優しく包み込み、彼女は言った。
「綺麗な白いシクラメン。―――花言葉は、純潔」
心が、清く澄んでいる彼女らしい、そんな花。
「私、えりかと一緒に居るととっても楽しいんです。私と違って、自分に素直で、皆から慕われて、クラスの人気者……そんなえりかと友達になれて、本当に嬉しかったんです」
「でも、私、つぼみのこと考えないで言いたいこといって、きっとつぼみのこと」
彼女の言おうとしたことを、ブロサッムは首を横に振って否定する。
「それは、誰かのためを想ってしたことじゃないですか。まおさんを励ますために、彼女のことを想っていった言葉じゃないですか」
言葉こそ正しくなかったかもしれない。それでも、その行動は誰かのためを想って、彼女なりに精一杯頑張って起こしたこと。ブロッサムはえりかの手を離し、毅然とした顔を浮かべてダークブロッサムへと向き直る。
「私の大切な親友を、騙して、傷つけるなんて……私」
その心に怒りの炎を灯して、彼女は叫ぶ。
「堪忍袋の尾が、切れました!」
その言葉に、ダークブロッサムは嘲るような笑みを浮かべる。
「だったら、どうするんですか? あなたでは、私には絶対に勝てないのに!」
「あなたなんかに負けません!」
にらみ合う二人。先に動いたのは、ダークブロッサム。
「はぁああああ!」
拳を力強く握り締め、大地を蹴り上げてブロッサムの顔面へと放つ。だが、ブロッサムはそれを最小限の動きで、紙一重に回避する。
「何っ?!」
ダークブロッサムの腹部へと両の掌を当て、
「ブロッサム、インパクトォ!」
「―――ッ!」
彼女の石に答えるかのように、強力なエネルギー弾が至近距離で放たれ、爆ぜる。灰色の粉塵が吹き上がり、ダークブロッサムの体を後ろへと吹き飛ばす。苦悶の表情を浮かべ、腹部を押さえながらもなんとか着地する。
「あなた、急に……!」
睨み付けるダークブロッサムの視線を、ブロッサムは凛々しい表情で受け止める。
「あなたには、負けません!」
胸の宝石を叩き、そこから現れた柄を引き抜く。
「集まれ、花のパワー! ブロッサム、タクトッ!」
「ッ! ブロッサムタクト!」
それにあわせるように、ダークブロッサムも回転盤のついたタクトを引き抜く。
「「花よ輝け!」」
タクトの先端へとエネルギーが溜まっていく。そのエネルギーは巨大な花のつぼみの形を形成していく。
「「プリキュア、ピンクフォルテウェーブッ!!」」
そのエネルギーの塊が、互いに発射される。花弁の下の葉を回転しながら高速で飛ぶそれは、互いに激突しあう。互いの力が拮抗しあう。
「く、あなたなんかに、この私が……私が!」
「たとえ、どれだけ私の姿かたちを真似ようとも、心の中までコピーすることはできません。たとえ、貴方がプリキュアに変身できたとしても、他者のことを蔑ろにする貴方は、決してプリキュアなんかじゃない!」
タクトを握る手に、力がこもる。彼女の言葉一つ一つに答えるように、ブロッサムの放った花弁が大きくなっていく。
「そんな貴方に、私は絶対に負けません!」
ついに、ブロッサムの放った花弁が、ダークの放ったものを凌駕する。散っていく自分の花弁と、迫り来る巨大な花弁の前に、ダークブロッサムは回避することもできない。
「ば、馬鹿なぁああああああああ?!」
強力なエネルギーの前に彼女の被っていた皮は吹き飛ばされ、その中からワーム本来の姿が現れる。頭部、背中から露出している昆虫の足に、左手は鋭利な鎌の形となっているセクティオワーム―――カマキリワームだ。
「くそ……!」
同時に、弾かれたココロパフュームが宙を舞い、川原の芝生の上に落ちる。
「ふん、やるじゃないか」
フィロキセラワームの攻撃をライドブッカーで弾きながら、ディケイドは言った。
「く、早くココロパフュームを取り戻せ!」
「させるかよ!!」
彼の動きを、ライドブッカーで切りかかって足止めするディケイド。ブロッサムへと叫ぶ。
「ブロッサム! えりか! 早くココロパフュームを取り戻せ!」
「はい!」
「行かせるかよ!」
ココロパフュームへと駆け出すブロッサムと、えりか。だが、彼らの行く手を遮るようにセクティオワームが鎌を振るう。それにあわせるように、サナギ体のワームが現れる。
「これじゃあ、近づけない!」
ワームに阻まれ、誰もココロパフュームに近づけないディケイド、ブロッサムたち。サナギ体のワームがその隙を狙ってココロパフュームへと近づいていく。それを見ながらも、近づくことができない。
「このままじゃあ、ココロパフュームが!」
伸ばされている手、その手がココロパフュームに近づく。だが、
「残念だけど、それを渡すわけにはいかないね」
銃声が、サナギ体ワームを穿つ。驚きの声を上げながら後ろへと下がるワームの前に現れたのは、
「海東?!」
「海東さん?!」
シビリアンと黒のツートンカラーのライダー、ディエンド。彼は自分の足元に転がっているココロパフュームをゆっくりと拾い上げた。
「ふーん、これがココロパフュームか。なるほど、良くできてる」
「海東、それをこっちに渡せ!」
ディケイドが思わず声を上げる。無理も無い、お宝を目にした時の彼の行動と言うものは、痛いほどよくわかっているからだ。そんな彼を、ディエンドは鼻で笑う。
「士、君は僕と言う人間を過小評価してないか」
彼はそういって、あっさりとココロパフュームを宙へと放った。多くの人々がその行方を見守る中、ココロパフュームはポトリ、とえりかの手の中へと落ちる。
「海東さん!」
「海東、お前……」
「僕が狙っているのはこのココロパフュームじゃない、僕の狙いは歴代最強と言われたキュアフラワーのココロパフューム、さ」
「ディエンド、貴様ぁ!」
きっと仮面の下で笑っているだろう、そんな明るい声で告げるディエンド、そして彼の行動に怒りを爆発させるフィロキセラワーム。そんな彼らの前で、えりかはパートナーのコフレと頷きあう。
「いくよコフレ!」
「はいですぅ!」
「プリキュア、オープンマイハート!」
青い光が彼女のみをまとい、動きやすいミニスカドレスとなっていく。
「海原に揺れる一輪の花、キュアマリン!」
「マリン!」
「お待たせ、ブロッサム!」
ブロッサムの隣に並ぶマリン、互いに微笑み合うとセクティオワームを睨み付ける。
「私達がそろった以上は!」
「好き勝手にはさせません!」
彼女達の放つ雰囲気に、思わず後ろへと下がってしまうセクティオワーム。だが、戦いはそう簡単には終らない。
「ようやくそろったか、プリキュア!」
突然、響く声に、全員が顔を向ける。川原の土手の上にたっている一人の男。燃えるような赤い髪に着崩した軍服と、腰に挿してある一本のサーベル、そしてその手には一つの宝石。
「お前は……クモジャキー?!」
驚きの声を上げるマリンに、クモジャキーは不適に笑う。
「史上最弱のプリキュアを別々に倒してもつまらんじゃき、面白くなるまでまっておったが、ディケイドにディエンド、面白い奴がいっぱいいるぜよ」
「クモジャキー、貴様見ているのならば手伝え!!」
フィロキセラワームの言葉を、クモジャキーは一笑する。
「何を言ってるぜよ、自分一人で十分だと言って出撃したのはお前ぜよ。自分の失態を俺のせいにするんじゃない」
「くっ……!」
「それに、貴様のやりかたはすかん。やはり男は小細工なしの正々堂々が一番ぜよ!」
川原へと舞い降りるクモジャキーは、セクティオワームの真後ろへと降りる。
「ワームとやら、貴様の力使わせてもらうぜよ!」
そのまま、彼の背中へと手に持っていた宝石を差し込む。
「デザトリアンよ、我に仕えよ!!」
「!!」
「あいつ、ワームをデザトリアンに……!」
宝石を差し込まれたセクティオワームは苦しむようなうめき声を上げると同時に、その体が肥大化していく。人の形をとっていた体は巨大化し、名前の由来にもなったカマキリムシの形へと変化していく。
左手の鎌はさらに巨大化し、右腕は鋭利な爪が伸びる。顔は逆三角形の形となると巨大な複眼がギロリと光り、その背中から昆虫独特の関節のついた足が地面を掴む。
「カーマカマー!!」
おどろおどろしい鳴き声と共に、セクティオデザトリアンが誕生したのである。
クウガは苦戦していた。
「ぐぅ……!」
コレオプテラワームの攻撃を受けて、思わず後ろへと下がる。だが、それを待っていたかのように別のもう一体が背中から彼を襲う。防御もとることができずに、地面を転がるクウガ。
「無駄だよ、仮面ライダークウガ。三対一で、貴様に何ができる」
「くっ……!」
なんとか立ち上がるも、彼を三体のコレプテラワームは取り囲む。そして、一斉に襲い掛かる。それを受け止めるのに手一杯で、反撃することができない。
「このままじゃ、ユウスケさんは!」
「大丈夫よ、ゆりちゃん」
思わず身を乗り出したゆりを、薫子は止める。
「でも!」
「ゆりちゃん、仮面ライダーは絶対に負けないわ。どんな敵が、どんな強敵が相手だろうと」
その言葉に、ゆりは今戦っているクウガを見る。防戦一方で、ただ傷ついていくだけの彼の姿を見て、悔しそうに下唇を噛む。そんな彼女に向けて、薫子は言う。
「信じるのよ、彼の……仮面ライダーの強さを」
「超変身!」
クウガの鎧が青いものへと変化する。俊敏性に飛んだ形態、ドラゴンだ。近くにあったポールを引き抜くと、ドラゴンロッドへと変化させて、威嚇するように振り回す。
「悪あがきを!」
三体のワームが一斉に襲い掛かる。ドラゴンロッドのリーチを生かして敵が近づく前に打ち払い、なんとか三体のワームを相手にしていく。だが、致命傷を与えることができない。
「面倒だ、一気に終らせるぞ!」
瞬間、三体の姿が消える。
「これは、クロックアッ―――!」
言い切る前に、クウガの体が弾き飛ばされる。勢いでドラゴンロッドが弾かれて、お手玉のように空中に打ち上げられていく。さらに弾かれ、植物園の扉を突き破って外へと吹き飛ばされる。トライチェイサーの側まで転がるクウガ。彼の前に、足を止めて姿を見せる三体のワーム。
「諦めろ、仮面ライダークウガ。クロックアップもできないお前に、私達に勝つことは出来ない」
クロックアップ、それを持つ者、持たざる者では戦いと言う次元にすら立てない脅威のシステム。カブトの世界のライダーたちが他の世界のライダーたちに比べて脅威とされる最もたる由縁。
だが、クウガは立ち上がる。―――クロックアップの差、数の差、そんなものは関係ない。
「……お前達を放っておけば、多くの笑顔が消されてしまうんだ」
それは、あの人が望んだことではないから。
クウガはなんとか立ち上がると、トライチェイサーからあるものを取り出した。それは、一丁の拳銃―――ある人の、形見。
その拳銃を懐かしそうに見つめる、その姿をゆりはみていた。仮面に隠されているのにも関わらずに、心を貫くような悲しみが伝わってくる。
「どうして……どうして、あの人はあそこまでして戦うことができるの……!」
「俺にもわからない、けど」
ゆりの言葉に、雄介は答える。
「彼は立ち止まらないよ。きっと、その体が動かなくなるまで。そんな、気がする」
三体のワームへと彼は向き直る。その手に大切な人の形見を持って。
(姐さん……俺に力を、貸してくれ)
『私の笑顔のために戦って、あんなに強いなら……世界中の人の笑顔のためなら、あなたはもっと強くなれる。私に見せて、ユウスケ』
『命令かよ、八代刑事』
『……ええ、命令よ』
(そして見ててくれ、俺の!)
「超変身っ!」
彼の体が光りだし、その鎧を緑色へと変化する。拳銃は弓矢のような形の武器となり、その巨大な瞳も緑色へと変わっていく。ペガサスフォーム、彼の形態の中で、唯一ワームに対抗できる形態。だが、その変身をワームは嘲笑う。
「たしかに、ペガサスフォームならば我々を捕らえられるかもしれない……だが、三体も同時に狙えるかな!」
再び、三体のワームの姿が消える。だが、先ほどまでと違い、クウガは超感覚によって三体がいる場所が察知できる。複雑に絡み合いながらこちらに牙を振るうワームの攻撃を、超感覚で察知して紙一重で回避していく。
「無駄だ!」
だが、ペガサスフォームでクロックアップを捕らえることができても、それ自体が高速で動けるわけではない。なんとか回避し続けるも、ついに捕らえられてしまう。真上へと吹き飛ぶクウガの体、それでも構わずに彼は弓を引く。
「これで、終わりだ!」
コレオプテラワームが、己の勝利を確信したとき、
「そこだっ!」
一閃が走った。
―――三体のコレオプテラワーム全員が止まる。驚愕の顔で染まっているコレオプテラワームの前に、ゆっくりと地面に降り立つ。彼の後ろには、一直線に並んだコレオプテラワームが、全員ムネを貫かれた状態で止まっていた。
「貴様、我々が一直線に並ぶのを……!」
そう、彼は待っていたのだ。決して装甲の高くないペガサスの状態でありながら、三体が一直線に――― 一矢で倒せるようになるまでを。50秒しか維持できないペガサスフォームの状態で。
「俺の、勝ちだ!」
後ろで起こる爆発が、彼の背を照らす。
「カーマカマー!」
振るわれた巨大な鎌を、真上に飛んで逃げるブロッサムとマリン。鋭利な鎌が川原を切り裂き、石交じりの砂が巻き上がる。さらに、真上に逃げたブロッサムたちへと鋭利な爪の生えた腕を振るう。
「ブロッサム!」
「マリン!」
「「インパクトッ!」」
右手に光が集まると同時に、振るわれた腕へと叩きつける。巨大な腕を弾くも、衝撃で自分達も後ろへと飛ばされる。
「カーマカマァー!」
「こいつ、強い!」
「いつものデザトリアンよりも、強くて堅い、です!」
ワームと融合したことにより、規格外の強さを発揮するデザトリアン。その姿を、クモジャキーは面白そうに見つめながら、
「やはり、史上最弱のプリキュアには、このデザトリアンには勝てないぜよ!」
そう言い切った。悔しそうにそれを見つめるブロッサムたち。その周りをサナギワームたちが取り囲んでいく。
「あんな強いデザトリアンと、これだけのワームに囲まれたら……!」
「やれやれ、僕を無視しないで欲しいね」
だが、銃声と共に弾丸が数体のサナギワームへと打ち込まれる。よろめいてから、弾丸の飛んできたほうへと顔を向けるサナギワーム。そこには、銃を構えたディエンドが。
「君達の相手は僕だよ」
彼の挑発に乗るように、ブロッサムたちから標的を変えるサナギ絵アームたち。その姿を見つめながら、ディエンドは三枚のカードを取り出す。
「君達に合わせるのもいいんだけど、それじゃあ芸が無い。最近手に入れたカードも使いたいしね」
そういって、そのカードをディエンドライバーに差込み、先端を引く。
-Kamen Ride!-
そして、前へと打ち出す。
-FAIZ ACCEL-
-ACCEL TRIAL-
-OZU RATORATA-
現れるのは銀、青、黄のライダーたち。
「戦うことが罪なら……俺が背負ってやる!」
銀のフォトンエネルギーを身にまとう、ファイズの高速強化形態、ファイズアクセル。
「全て……振り切るぜ!」
バイクスーツを思わせる体に、フェイスヘルメットを被ったような頭部の青いライダー、アクセルの強化形態、アクセルトライアル。
「ライダーは、助け合いでしょ!」
ライオンを思わせるような鬣に、展開式クローのついた両腕。俊敏性の高い猫科動物の最強コンボ、オーズラトラーター。
全員が、高速移動を得意とするライダーたちだ。
「それじゃあ、頼むよ。僕の兵隊さん」
サナギワームたちへと、三人のライダーが向かっていく。
「マリン、ダイブ!」
上空から勢いをつけてセクティオデザトリアンへと蹴りを食らわせるマリン。セクティオデザトリアンはそれを腕で防御すると、弾き飛ばす。
「やっぱ、一人じゃ駄目! ブロッサム、同時に行くよ!」
「はい!」
共に駆け出す二人、デザトリアンが巨大な腕を振り上げると、それを地面に叩きつける。砕かれた岩が弾丸となってブロッサムたちへと襲い掛かる。それをなんとか回避するマリンだが、ブロッサムは足が取られてしまう。
「キャアッ?!」
「ブロッサム!」
「ワタシハ―――」
ブロッサムに迫っていた岩石を拳で打ち砕く。だが、その隙を狙ってセクティオデザトリアンは二人へと間合いを詰める。
「ワタシハアユミのアシヲヒッパリタクナイカラガンバッタノニ!」
「この叫び声?!」
デザトリアンの叫び声に、思い当たる節があるブロッサムたち。それに答えるかのように、コフレとスプレが赤く丸い玉を持って叫ぶ。
「ブロッサム、マリン、心の花を奪われたのはマオさんですぅ!」
彼らが持っている玉の中には膝を抱えて苦しそうに唸っている先ほどのテニス少女、マオがいた。
「ワタシハ、アユミトズットコンビデイタイノニ!」
「……!」
振り上げられる巨大な腕、マリンをそれを見ると同時にブロッサムを後ろへと突き飛ばす。振り下ろされる腕、マリンはそれをたった一人で受け止める。重厚な音と共に衝撃が彼女の体に襲い掛かる。
「マリン!」
悲鳴のような叫び声を上げるブロッサム。彼女の目の前で、マリンはたった一人、敵の攻撃を受け止めている。彼女も急いで立ち上がり、それに加わる。
「また……迷惑かけて!」
申し訳なさそうに言うブロッサムに、顔を向けるマリン。
「やっぱり私、駄目なんです。私、マリンの足ばっかり引っ張って!」
ずっと、心のどこかで感じていたこと。
「マリンは、もっと強い子と組むべきなんです!」
彼女の言葉に、瞳を大きくして驚くマリン。
「もしかして、それでずっと悩んでたの?」
「……はい」
申し訳なさそうに瞳を伏せるブロッサム、彼女は気づかなかった―――マリンが、安堵の笑みを浮かべていたことを。
「そうだったんだ……もー、ちゃんと言ってよ、言ってくれないとわかんないよ!」
マリンの言葉を聴いて、クモジャキーは笑う。
「喧嘩か、最弱どころか最悪のコンビぜよ!」
だが、その言葉を否定するものがいた。
「お前には、そう見えるのか?」
フィロキセラワームと鍔迫り合いをしながら、ディケイドは言った。
「何……?」
「もしそう見えるんだったら、お前の目は節穴だな」
「……私たちは、最悪なんかじゃない!」
ディケイドに答えるようにマリンの言葉が響く。
「最高のコンビなのよ!」
それまで、押されていたマリンの四肢に力が篭っていく。
「私はブロッサムが好き! 頭がよくて、いろんなところに気がつけるなんて素敵だよ!」
裏も表もない、そんな彼女の笑顔をブロッサムは見る。何でもかんでも素直に言ってしまう、そんな彼女の隠しもしない本音。その言葉に呼応するかのように、腕が押し返されていく。
「きっと私たち、お互いの力が必要なんだよ!」
人の気持ちを理解できる、だけど引っ込み思案なつぼみと、行動力はあるけれど、人の心の機微を捉えるのが苦手なえりか。互いに正反対でも、苦手としていることを補え合える関係。だからこそ、今回のようなことも何度でもおきるだろう。
それでも、共にいたい――― 一緒にいたいと思うから。
「スプレも必要ですぅ!」
「コフレもですぅ!」
マリンの言葉に、妖精たちも同意すると、ブロッサムたちに手を貸す。それは、小さな力かもしれない。だが、その思いは確実にブロッサムたちの力になっていく。少しずつ、持ち上げられていく手。
「「こ、のおおおおおお!」」
そして、押し上げられる手、バランスを崩して不恰好に背中から倒れこむ。その姿を見つめながら、マリンはブロッサムの手を取った。
「私たちは、二人でプリキュアだよ!」
「二人で……プリキュア」
その言葉に、自信がなさそうにブロッサムは言う。
「私で……本当に私でいいんですか?」
「ブロッサムでいい! じゃなくて―――」
そう、そうじゃない。
「ブロッサムがいいの!」
きっと、キュアマリンのパートナーは、キュアブロッサムしかありえない。
「はい!」
その言葉に、花が咲くように笑顔を浮かべながら、嬉しそうに彼女は答えた。
その言葉に答えるように、ディケイドのライドブッカーから一枚のカードが飛び出す。それを手に掴むディケイド。そこには、四つの花が描かれている。そのカードを見て、仮面の下で笑う士。
「ごちゃごちゃ言う奴は好かんぜよ! 男なら、一人人生と言う荒波を超えていくんじゃ!」
だが、その言葉をクモジャキーは否定する。
「コンビとか一人じゃないとか、まっことくだらん!」
「くだらなくはない!」
フィロキセラワームを弾き飛ばしながら、ディケイドが叫ぶ。
「たしかに、こいつらは弱いかもしれない。一人では最弱かもしれない。だが、二人なら違う!」
ブラックやホワイトのような強さは持ってないかもしれない。でも、彼女達と同じものを、ブロッサムとマリンは持っている。
「二人でなら、互いの欠点を補え合える。互いに支えあえる! それだけで、この二人は強くなれる!」
まだ、駆け出したばかりの二人。だけど、その強さはいつかきっとブラックやホワイトに並ぶだろう。―――いつも、二人ならば。
「そんな相手を、『友達』と言うんだ!」
「……お前、何者ぜよ!」
クモジャキーの言葉に、ディケイドは答える。
「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」
取り出すのは、ケータッチ。
-KUUGA-AGITO-RYUKI-FAIZ-DLADE-HIBIKI-KABUTO-DEN-O-KIVA-Final Kamen Ride DECADE!-
コンプリートフォームへと変身、フィロキセラワームの触手攻撃を切り払っていく。
「―――人が人を求める気持ちは、大切だよ!」
ディケイドの言葉へと、マリンが続ける。
「まおちんの気持ちを利用して、そんな怪物を暴れさせるなんて……海より広い私の心も、ここらが我慢の限界よ! 覚悟しなさい、クモジャキー!」
その言葉に、クモジャキーは不適な笑みを浮かべて答える。
「だったらまず、このデザトリアンを倒して見せろ!」
セクティオデザトリアンが立ち上がり、咆哮する。振り上げられる巨大な鎌、身構える二人に、シプレとオフレが叫ぶ。
「ここは二人攻撃ですぅ!」
「二人の心が一つになった今!」
「「チョースーパーな技がきっと出るですぅ!」
その言葉に、互いの顔を見合わせるブロッサムとマリン。互いに、迷いはない。
「マリン!」
「やろう、ブロッサム!」
「「これが、私たち二人の力!」」
互いに胸の宝石からタクトを引き抜く。タクトの先端から青とピンクの鮮やかな光で線を引きながら、彼女達は叫ぶ。
「「集まれ、花のパワー!」」
「ブロッサム、タクト!」
「マリン、タクト!」
同時に、中央の回転盤を回すと、タクトの先端に光が集まっていく。
「集まれ、二つの花の力よ! ―――プリキュア!!」
描くのは、力強い「f」の文字。―――もっと強くの意味をもつ、フォルテ。その文字は光となって彼女達の体を包み込み、一つのエネルギー弾となる。
「フローラルパワー、フォルテッシモォー!」
二つの光の玉は空中で一つとなり、ハートの形となって、セクティオデザトリアンの胸を貫く! セクティオデザトリアンの後ろへと立つブロッサムとマリン。その手には、デザトリアンに使われた心の花の宝石。
「ハート、キャッチッ!」
そして、爆発。その爆発に吹き飛ばされ、地面を転がるセクティオワーム。
「終らせるぞ!」
フィロキセラワームを弾くと同時に、ディケイドも必殺のカードを差し込む。
-Final Attack Ride!-
ディケイドが空中へと飛び上がると、ホログラムカードが道を示すかのようにセクティオワームへと向かう。
-DeDeDe,DECADE!-
「はぁあああああああ!」
エネルギーをまとったディケイドの必殺の蹴りが、セクティオワームを貫く。断末魔の叫びを上げることもできずに、爆発するセクティオワーム。
-Exseed Gharge-
-トライアル! マキシマムドライブ!-
-Scanning Charge!-
真紅の蹴りが貫き、高速の蹴りが砕き、そして金色の爪が切り裂く。ディエンドの前で、三体のライダーがそれぞれの必殺技でサナギアームたちを片付けていく。
―――その姿を、クモジャキーは面白そうに見つめていた。
「……面白い、最弱と呼ぶのはやめてやるきに」
まるで、彼女達がデザトリアンを倒したことを喜ぶかのように、彼は言う。
「お前らもっと強くなれ! そしたら俺が倒してやるぜよ」
「ま、まて、クモジャキー! 貴様、ここまで場を荒らしておいて一人逃げるつもりか?!」
フィロキセラワームが非難するように叫ぶが、クモジャキーは彼を見下した瞳で見つめる。
「俺は弱いものには興味はない……それは、お前も一緒ぜよ。あれだけ啖呵を切ったんじゃ、一人で何とかして見せろ」
その捨て台詞と共に、消えていくクモジャキー。その姿を、唖然と見つめるフィロキセラワーム。
「どうやら、残ったのはお前だけみたいだな?」
「……くっ! ディケイドォ……貴様さえいなければぁ!!」
怒りをあらわにするフィロキセラワーム。
「これで、お前も終わりだ、フィロキセラワーム!」
「ワームをつかってマリンを騙すなんて、許せません!」
「ブロッサムを傷つけたこと、絶対に許さないんだから!」
「貴様らごときに、私が倒されてたまるか!」
怒りを露にするフィロキセラワーム、ディケイドは一枚のカードを取り出す。―――先ほどの新しいカード。
「いくそ、ブロッサム! マリン!」
「はい!」
「やるっしゅ!」
-Final Attack Ride!-
そのカードを腰のディケイドライバーに差込み、軽く叩く。
-HEARTCATCH PRECURE!!-
ディケイドドライバーに浮かび上がる文字は「DECADE FORTISSIMO」。ブロッサムとマリンが再びタクトを振るう。
「プリキュア!」
「ライダー!」
描かれるフォルテ記号。それにあわせるように、ディケイドライバーから同じようにフォルテの文字が現れ、彼の体を包み込む。浮かび上がる三つの光、それにあわせるようにホログラムカードがフィロキセラワームまでの道を作る。
「「「フォルテッシモォー!」」」
三つの光が一つとなって、ホログラムカードを潜っていく。一枚くぐるたびに、大きくなっていくそれは、先ほどのよりも巨大なハートとなってフィロキセラワームを飲み込む!
「馬鹿な……この俺がぁーーーー!!」
「「ハート、キャッチッ!」」
断末魔の叫びを上げて、爆発するフィロキセラワーム。地面へと降り立つディケイドとブロッサム、マリン。その後ろで、ドサリと誰かが倒れる音がする。
「……え、あれは?」
「お、小畑さん?!」
驚きの声を上げて駆け寄っていくブロッサム。そこに倒れていたのは、スーツ姿のちょっと気の弱そうな若いサラリーマン。
「知り合いなのか?」
「はい、お父さんの知り合いなのですが……なんで小畑さんが?」
「士くん!」
それまで戦闘を見守っていた夏海が、ディケイドへと駆け寄ってくる。それを、変身を解除して向かえる士。
「どうした、夏みかん」
「これが、あの人の体から……」
そういって彼女が士に手渡したのは、黒くて細長いUSBメモリのようなもの。その表面にはPの文字がアブラムシの形を模して描かれている。
「これは……ガイアメモリ?!」
-フィロキセラワーム!-
士が驚きの声を上げると同時に、小さな爆発を起こして真っ二つに砕けるガイアメモリ。―――士たちは知ることはないが、それはガイアメモリの中でも次世代型といわれるT2ガイアメモリに酷似していた。
「……なるほどな、スーパーショッカーのたくらみがだいたいわかった」
士は、厳しい顔つきでそう呟いた。
「マオ、マオ!」
自分を呼ぶ声を聞いて、小笠原まおは瞳を開ける。そこには、彼女とダブルスを組んでいる熊沢あゆみの姿。
「ここは……?」
「びっくりしたよ、コートに来たら倒れてるんだもの!」
練習しすぎで倒れてしまったのだろうか?と一人思いながら、まおは先ほど見た夢を思い出す。二人の少女が、互いに自分達の気持ちを言い合ってた姿を。それに押されるように、彼女はあゆみへと向き直る。
「あゆみ、私もっと頑張って練習するから! コンビ、解散しないで!!」
涙ながらに訴えるまおの姿を、唖然と見つめるあゆみ。驚きの声と共に彼女は答える。
「何言ってるの、それは私の台詞よ!」
「え?」
驚くまおに、あゆみは告げる。
「私、強くならないとコンビ解散されちゃうと思って……それで、一人で特訓しようと思ったの」
なんのことはない、互いに同じことを思って、すれ違ってしまっただけ。そのことに気づき、まおは安堵するやら情けないやら。そして、自分のパートナーの顔を見る。
「これからも、一緒にやってくれる?」
「勿論、だって私たち、最高のコンビだもの!」
互いに笑いあう二人。―――その姿を、遠くでつぼみたちは見ていた。
「ブルースターの花言葉は、『信じる心』。お互いを信じることで、二人は前よりもっと強い友情に結ばれたんですね」
二人を、嬉しそうに見つめているつぼみ。えりかは、そんな彼女にそっと近づく。
「私たちの友情も、強くなったね」
「はい!」
笑顔で答えるつぼみに、えりかは続ける。
「じゃあ、私たち、親友だね」
「……え、親友?」
驚きの声を上げる彼女に、えりかは念を押すように駆け寄り、
「でしょう?!」
必死な眼で見つめてくる。そんな彼女の姿が面白かったのか、そして、その言葉が嬉しかったのか、笑顔を浮かべるつぼみ。
「はい、親友です!」
「だよね!」
互いに笑いあいながら、手を繋ぐ二人。それを、少し離れた場所で見つめながら、士は持っているカメラのシャッターを切った。
「あの二人も、大丈夫そうですね」
「ああ、あいつらならもう問題はないだろ」
士と夏海は二人の背中を見つめながら、楽しそうに手をつなぎながら帰っている二人の姿を見送った。
「……怪我の治療、ありがとうございました」
植物園の入り口で、ユウスケは頭を下げた。
「そう、もう行くのね」
「はい。ずっとこの世界にいるわけにはいかないから」
名残惜しそうな薫子の言葉に、笑顔で答える。
「……」
彼を、ただ無言で見つめ続けるゆりに、ユウスケは笑顔を向けていった。
「俺、君が何を抱えているのかよくわからないけど……けど、君ならきっともう一度立ち上がれると思う」
「え?」
ただ、まっすぐに彼女を見つめて。
「君が、花を愛する気持ちを……その優しさを失わなければ、君はきっとまた立ち上がれる」
「……そう、でしょうか」
ゆりの言葉に、ユウスケは静かに頷いた。
「じゃあ、俺そろそろ行かないと」
トライチェイサーに跨り、エンジンを噴かす。ヘルメット被り、最後に一礼をすると、バイクを走らせて行った。
「まるで、風みたい」
ゆりは、その後姿を見つめて呟いた。その言葉に、薫子は
「そうよ、風のように現れて、風のように去っていく……それが、仮面ライダーなのよ」
そして、五代雄介のほうへと向く。
「あなたの迷いも、晴れたかしら?」
彼女の言葉に、驚きの表情を浮かべる。
「知ってたんですか?」
「ええ、何となくね」
雄介は穏やかな笑顔を浮かべる。
「大丈夫です。俺、あの人のお陰で大事なことを思い出しました……これで、また戦えます」
彼も、背を向ける―――彼が向かうべき、戦場へ行くために。
「頑張ってね、五代雄介君」
「はい!」
その言葉に返すのは、彼のトレードマーク―――サムズアップ。
「小野寺ユウスケ、だたいま帰りましたー!」
「遅いぞ、どこほっつき歩いてたんだ」
帰ってくるなり迎えてくるのは士の冷たい言葉。慣れっこなのか気にせずに机の上に広げられていた写真を一枚、手に持つ。
「へぇ、綺麗に取れてるじゃん」
そこに映っているのは、互いに笑いあう少女たちの笑顔の下に、しっかりと繋がれた手の写真。
「すべてが終ってから帰ってきやがって、大変だったんだぞ」
「まぁ、いいじゃないですが、他の世界に行ってしまう前に帰ってこれてたんですから」
愚痴る士に、それをなだめる夏海。
「そっか、もう終っちゃったのか。どんな子がいるのか興味あったんだけ―――!」
不意に、ユウスケの足に走る電流。思わずよろけて写真館の絵を固定している鎖に触れてしまう。鎖がほどけて、再び新しい絵が降りてくる。
そこに描かれているのは、背の高い大樹、その枝枝からは小さな光の妖精たちが見えており、そして彼らに囲まれるように立っている二人の少女。
「これが、次の世界か」
士は、小さく呟いた
続く。
次回の仮面ライダーディケイドは!
「デュアルスピリチアルパワー!」
ディケイドの前に現れるのは、精霊の力を借りて戦うプリキュア。
「輝く金の花! キュアブルーム!」
「煌く銀の翼! キュアイーグレット!」
彼らを待ち受けるのは元デストロンの幹部たち。
「来たな、仮面ラーイダディケイド!」
ダークフォールと手を組んだスーパーショッカーの前に、苦戦するヒーローたち。
「これで終わりですよ……プリキュア!」
プリキュア最大の危機が訪れる!
5話「スプラッシュスターの世界 プリキュア絶体絶命」
説明 | ||
pixivに投稿している作品です ハートキャッチの世界、後篇です。 |
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