ルーミアのお札 |
今日は新月。
私を包む宵闇は今日は表していない。
日頃。夜と言ってもその空には月や星が輝き、とても「暗闇」と呼べるものではない。
だから私は、夜であっても自分を宵闇に包み込み、完全なる「暗闇」を作る。
今宵は新月。
天に輝く月は隠れ。数カ月に1度の星明かりのみの夜。
暗闇と呼ぶには少し明るいけど、たまには外の景色を見るのも悪くはない。
それに、新月の夜にはいろいろな思いがある。
「うぅ・・・。じいちゃん・・・。」
あそこで泣きながら歩いている人間は、どこかで見たことがあるような気がするなぁ。
そう言えばどこかの紅白が、夜中に出歩く人間は食べてもいいと言っていたっけ。
その紅白は食べれなかったけど・・・。
「うぅ・・・・。」
でもまぁ、今日は紅魔館でご飯を食べたばかりだから、そんなにおなかは減ってないし。
「そこの人間。あなたは食べてもいい人間?」
「ひぃ!お、お前・・・妖怪だな!」
人間はひ弱。
動物は個体の力が弱い時、集団を作り、個体としての生ではなく。種としての生を守ろうとする。
人間もまたしかりだ。村を作り、基本的に集団で行動している。中には例外もいるけど・・・
「こ、怖くなんかないぞ!!ぼ、僕の爺ちゃんは妖怪に会っても生きて帰ってきたんだからな!!」
怯えているのなら逃げればいいのに。
普通動物は、自分の生命の危機を感じると、自己防衛をしようとする。
それが、攻撃であるか、防御であるか、逃亡であるかはその種、あるいは状況によって違う。
でも、この場合。自分の祖先の話をしたところで防衛行動にはならないし、攻撃や防御をしても無意味なことが分かっているはずなのに、なんで逃げないんだろう。
この人間は愚かなのかな?
「お、お前ら妖怪は、人間を食べる悪い奴らだって先生が言ってた。でも、僕は逃げたりなんかしないぞ!」
うん?懐に何か入っているのかな?
小さな人間が懐から赤いものを取り出してきた。
「こ、これは爺ちゃんが、昔妖怪から奪った妖怪の力を封じるお札だ!これがあれば、お前なんか、やっつけられるんだぞ!!」
「そーなのかー。」
何をそんなに誇っているのだろうか。そんなお札があっても、結局私に当てることができなければ意味なんてないのに。
まぁ、今日は新月だし、気分もいいから、話相手につかうかな。
「さっき、あなたは「人間を食べる悪い奴」って言ったけど、なんであなたはそう思うの?」
私が質問したことが不思議だったのか、小さな人間は私の方を見つめてきた。
「そんなの当たり前だ!命がある人間を殺すやつは悪い奴だ!!」
「では、あなたは生き物を殺さないの?」
「・・・は?お、お前何言ってるんだ??」
「あなたは何を食べて生きてるの?」
噛み砕かないと、話を理解できないのかな。この小さな人間は・・・
「人間は植物や動物を食べる。それらにも命がある。それは悪いことではないの?」
「・・・」
私が言っていることは理解できてるのかな?
まぁ、そんなことは関係ないか。
「人間にとって、植物や魚とかの動物が食べ物であるのと同じように、私たち妖魔にとって人間は食べ物なの。それの何が悪いの?」
「ひ、人を食べるやつは悪い奴だって、先生が・・・」
確か小さい人間はまだ成長途中なんだっけな?
「なんで、人間は命あるものを奪っていいのに、自分たちは奪われないの?」
「そ、それは・・・」
この人間にその問いの答えを求めるのは無理かな・・・
こんなことをするのは一体何度目なんだろう。
「何で私たち妖魔が夜に行動すると思う?」
「へ?」
「妖魔が夜に行動する理由は何だと思う?」
「そ、そんなの、妖怪は太陽の光が苦手だからだろ・・・?」
自信がないなら、そう言えばいいのに
「確かに太陽の光が苦手な妖魔もいるわ。でも苦手としていない妖魔もいるわ。」
天狗に向日葵、変わり者だけど、日の光を苦手としない者は確かにいる。
「それに、いくら太陽が苦手だからと言っても、私は宵闇を纏うことができるし、他の妖魔も昼間に行動しようと思えば出来る。昼間の方が人が一人で歩いていることが多いし、簡単に人間を襲うことができる。それをしないのはなんでだと思う?」
「・・・」
もうこの人間の理解を超えてしまっているのかもしれない。
さっきから、黙ったままだ。
「単に夜の方が動きやすいからとかって言う変わったやつもいるけど、その本質は生命としての自己保存の本能なのよ。」
「自己保存?」
「そ。夜に行動する人間は少ない。その人間を食べたぐらいでは、人間はいなくならない。」
あぁ、なんだか星の光がまぶしいなぁ・・・
「でも、昼間から頑張って人を襲っていたのでは、簡単にたくさん食べれるけど、人間がいなくなってしまう。そしたら困るのは私たち。だから、妖魔は夜行なの。わかった?」
これはあくまで一般的な妖魔であって、これに当てはまらないやつもいるけどね・・・スキマとか、鬼とか・・・・
「そ、それで、お前は何が言いたいんだよっ!?」
話が分からなすぎて、怒ったのかしら。どこかの氷の妖精みたいね。
「特に何か言いたいわけじゃないよ。ただの暇つぶし。今日はおなかも空いてないし、ただの戯れ。それに今日は新月だしね。」
「それが何か関係あるのかよ!?」
小さな人間は恐怖心というものを無くすのが早いらしい。
ついさっきまで怖がっていたのに、少し話をしたくらいで、顔からは怯えた表情が消えている。
「あなたがさっき出したお札。それを私につけてみる?」
「え!?」
これも幾度目かの戯れ。
「今私の髪についている赤いリボンもあなたの持っているお札と同じように力を封じるものなの。あなたのお札を私につけて、私のお札をあなたにあげるわ。これから帰るときに妖魔に襲われるかもしれないでしょ?」
私が少し笑いながらそう言うと、小さな人間はどうしようかと迷っているようなそぶりをした。
「さっきも言ったけど、今日はあなたを食べたりしないわ。それにあなたにはお札があるでしょ?」
「ほ、本当に襲わないな!?」
さっきまで消えていた怯えた表情がまた現れた。
「うん。襲わない。」
「わ、わかった。」
本来自分の敵である者の言葉をそこまで信用していいのかな。
これもまた、この人間が小さいからかな・・・。
小さな人間は恐る恐ると言った感じに私の方へ近寄って来た。
「先にあなたのお札をつけないと、私の力が抑えられないよ?」
「わかってるよ!そんなこと!・・・。」
小さな人間は、不慣れな手つきで私の髪にお札をつける。
つけ終わると、もともとついていたお札を外した。
久しぶりの感覚に懐かしさを覚えた。
「さぁ。もう村にお帰り。私は気分がいいから襲わないけど、他の奴のことまで分からないよ。」
「・・・帰らない。」
さっきまでと表情が変わった。
「じいちゃんいなくなったから・・・・帰らない・・・・。」
そう言えば、見つけたときは泣いていたんだっけ・・・
「じいちゃん・・・約束してたのに・・・一緒に香霖堂まで行くって、約束したのに・・・。」
「何で・・・なんで死んじゃうんだよぉ・・・」
「ふ~ん。なら勝手にすればいいわ。」
「え?」
小さな人間は不意を突かれたのか、きょとんとした顔をしていた。
「じゃあね。」
私はそんなこと気にしないで、その場を後にした。
「もう、そんなになるんだ・・・。」
小さな人間とあった場所からしばらく行ったところで、私は星空を見上げていた。
「あの小さな人間が死んだのか。」
例外もいるけど、一般的に妖魔の寿命は人より長い。
必然的に経験する物事も多くなる。
「あれから、どれくらい経ったのかな・・・」
私は記憶の中へと落ちていった。
「頼む!俺を食ってくれ!!」
その日も新月だった。
「食べてもいいけど、あなたは珍しい人間ね。自分から食べられたいだなんて・・・」
星明かりの下で、私に自らを食らえという人間。
「俺は・・・俺は何度も死んで、何度も生き返った。」
「??」
「俺は御阿礼の子と同じように転生を繰り返して、何度もこの幻想郷に生まれている。」
御阿礼の子のことは聞いたことがあった。何でもここで起こったことを記録する人間らしい。
その人間は、何度も転生しているらしい。
「ただし、俺は御阿礼の子と違い、前世の記憶が無くならない。」
「そーなのかー。」
「何度も生まれ、その度に付きまとう記憶。俺にはなんの能力もないが、その代りにこの転生の環から抜け出せない。幾世代も前の俺が大罪を犯したから、その罰として記憶を残したまま転生しつづけるさせられている。人間の里に来ていた閻魔様に許しを乞うたが、だめだった。だが、閻魔様はこの転生の環から抜け出せる方法を教えてくれた。」
そこまで言うと、人間は改めて私の方を見た。
「次の新月が明けるまでに、このお札を妖怪につけて、そのあとその妖怪に食われること。それが閻魔様が教えてくれた方法。」
「そんな条件を私が飲むと思ってるの?」
有無を言わさず食べることもこともできるけど・・・
新月の日はどうしてか、遊びたくなるのよね。
「いやよ。そんなお札付けられたら、私の力が抑えられつけられちゃうじゃない。」
「俺が、お札を付けた後に他の人間に言ってはずしてもらってくれ。そうすれば、お前も力を取り戻せるだろう?」
そんな簡単なことをしても閻魔様はあなたを許さないと思うけど・・・
「ふーん。それで、あなたは抵抗しないで食べられるの?」
本当はそんなことするべきじゃないんだけど・・・
これも、新月のせいかしら。
「あぁ。お札さえつけさせてもらえるなら、抵抗なんかしない。」
「そう。残念ね。私が寝ている間なら付けられたかもしれないけど、私はまだ起きてるわ。」
私はそう言いながら、近くの木の下に動いた。
「ふぁ。何だか眠くなってきたわ。」
私は木の下で横になった。
「あ、ありがとう!!」
人間はそう言うと、私の近くまで歩いてきた。
「・・・」
私は目を瞑ったまま、人間がお札をつけるのを待った。
「ッ!!」
全身の少しの痛みが走った。
「痛いじゃない。」
目を開けると、人間は懐から出したであろう懐刀を自分の首にあてていた。
「ありがとう。でわこの身をささげよう。」
そう言うと人間はその刃を引いた。
「そう。それじゃあ、いただきます。」
私は、まだ少し息のある人間を貪った。
それから、しばらく後の新月の日、私は小さな人間にあった。
その小さな人間はあの時の人間が私につけたのと同じお札を持っていた。
「お前なんて、うちのあったお札でやっつけてやる。」
そう言ってお札を掲げる小さな人間。
そしてまた、新月のせいか戯れをしたくなる私。
「そのお札を私につけて、私のお札をあなたにあげる・・・」
そのあと、何度そのやり取りを行ったのかはもう覚えていない。
今日あった小さな人間は、その前の小さな人間の孫。その前の小さな人間のはそのまた前の小さな人間の孫。
結局、あの時私に食べられた人間は、罪を許されたわけではないみたいだった。
あの人間の子孫は、何十年かに1度、こうして私のもとにあのお札を持ってやってくる。
それを私が受け入れるのは、新月がもたらす不思議な魔力のせいか。
お札がついていても、人間を襲うことに全く困らないから、毎回受け入れてしまうのか。
幾度も繰り返すうちに、あの人間の一族に愛着がわいたのか。
そんなことは定かではないけど、ただ毎回戯れをせずにはいられないのは事実。
これは人間が飼っている牛に愛着を覚えるのと同じなのだろうか。
「ふふ。次はまた何十年後ね・・・。」
私は、月の代わりに夜を照らす、星を見上げた。
どうもkomanariです。
今回は東方の話を投稿してみたのですが、いかがだったでしょうか?
えっと、もしこんな話が即出だったらごめんなさい。
僕は東方の曲の中でルーミアの「妖魔夜行」がとっても好きで、今回もルーミアに「妖魔夜行」って言わせたくて、ちょっと無理やりでしたが、言わせてみました。
この話は、もともとハートフルな感じの話にするつもりだったのですが、いつの間にかシュールな感じになってしまいました。
なので、読みにくいと感じた方がいらっしゃったかもしれません。
そのような方々には、お詫び申し上げます。
おまけですが、ルーミアが頭良く見えるのは僕の仕様です。
説明 | ||
東方紅魔郷のルーミアの話です。 はじめはハートフルな感じになる予定だったのですが、気がついたらこんな感じになってました。 えっと、不慣れなので、しゃべり方や文章などに不快感を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、閲覧していただければ幸いです。 また、誤字・脱字などありましたら、お手数ですがご指摘をお願いします。 |
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コメント | ||
blue様>こちらにもコメントしていただいて、本当にありがとうございます。とっても嬉しいです。どぶウサギさんですね。今度聞いてみます!僕的には709secさんの「Get the star for you」っていうアレンジがとっても好きです。(komanari) 東方枠でも発見するとは…。東方初プレイでルーミアにコンティニューしたのはいい思い出。「どぶウサギ」さんの妖魔夜行アレンジが神。(blue) |
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