欠陥異端者 by.IS 第十一話(臨海学校)
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女生徒「海っ! 見えたぁ!」

 

旅行バスがトンネルを抜けると、女生徒が声を上げる。

今日から臨海学校。『ISの非限定空間における稼働試験』というのが主題で行われる二泊三日の旅行。

しかし、実際にISを使用した訓練が行われるのは二日目。初日は完全自由時間で、午前、午後とも海で戯れられる。十代の少女たちはそれが楽しみで仕方がないのだ。

 

鈴音「はぁ・・・・・・・・・・・・えへへっ・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・」

 

一番前の座席に座る鈴音と零。鈴音は、窓を眺めながらつまらなそうにため息をついたり、突然照れだして笑ったりを繰り返していた。隣の零は、そんな鈴音を「気持ち悪い」と、バスに揺られながら3時間以上も思っていた。

しかし、鈴音が何故そんな状態なのかを理解しているので、問い詰める事はなかった・・・単に、思い人と今一緒にいない事と、これからの自由時間が楽しみなのだろう。

 

小林「そろそろ旅館に着くから、席に座ってください。荷物、忘れないように」

 

女生徒「「「はーい!!」」」

 

今時の高校は返事をする人の方が少ないというのに、このクラス・・・もとい、IS学園の生徒は良い子ばかりである。

その良い子達が出していたカメラ、今日のために新調してきた水着などバックに仕舞い、それから10分ぐらいで宿に着いた。

既に、一組が先に旅館に入っており、女将さんと挨拶を交わしてから、二組は一組がたむろっている中に混じる。

 

本音「あ〜、れいちんだぁ〜! それとリンリンも〜!」

 

零と鈴音が丁度、旅館に入ると、その一組の輪から見覚えのある声が聞こえてきた。無駄に長い袖をブンブン振って、走っているようで歩いて近づいてくる本音だった。

 

鈴音「あのさ、そのリンリンってやめてくれない?」

 

本音「なんで〜? リンリンはリンリンだよぉ?・・・ハッ! ま、まさか偽物のリンリン!?」

 

鈴音「・・・」

 

鈴音は小学校時代、"鈴音"という名前を弄られる苦い思い出がある・・・まぁ、その間に一夏が入って、一夏に惚れていったという裏事情もあるが。

 

鈴音「・・・はぁ、もういいわよ」

 

本音「???」

 

心がピュアなのか、ただの馬鹿なのかは放っておいて、そんな様子を零は表情に変化がないものの優しい目で見ていた。

 

鈴音「なによ?」

 

零「いや・・・別に」

 

睨みはきかしているが鈴音は不満で言っている訳ではない。ただ不審そうに鈴音は問いかけた。しかし零は意図を話さず、鈴音は疑問に思ったが、それ以上の追及はしなかった。

 

鈴音「ってか、零は部屋に行かなくていいの? どうせ、ここでくっちゃべっても、また浜辺で会えるんだし」

 

零「・・・今ここで、会いたい人がいるんです」

 

鈴音「なに? 好きな子?」

 

本音「ぇええ!? そうなのぉ!?」

 

鈴音の発言のせいで、本音だけでなく、その近くにいた女子全員がこちらに注目する。

編入当初の零の評価は、取っつきにくくあまり関わりたくない存在だったが、学園生活を通し、人との関わり、そして何よりクラス対抗戦の時の勇気ある行動で、だいたいの女子から支持層を獲得している。

一夏ほどではないが、女子の興味の的として見られるようになったのは確かだ。

だが零の恋愛事情は、一夏以上に興味深いものなのかもしれない。普段から消極的で、クラスの生徒と関わっていこうとする行動は一度もない。

そんな零が、誰かに惚れている事じたい珍しい訳で、詰め寄ったりはしないけど、聞き耳を立てて様子を窺いたくなる。

しかし、この手の話題は零がもっとも苦手とするものだ。しかも零自身、"複雑な気持ち"を持っている。

 

零「違います」

 

鈴音「え〜、つまらなっ」

 

この一言で鈴音も周囲の女子たちも、興味が薄れ、また各グループ違う話題で盛り上がり始める。

 

本音「な、なんだぁ〜・・・違うんだぁ・・・じゃあ、誰を待ってるの?」

 

零「ここの従業員です」

 

鈴音・本音「「従業員?」」

 

意外な発言に面を食らった二人・・・だけでなく、周囲の女子もまた聞き耳を立てた。恋愛事と同じく他人のプライベートには、興味をそそられてしまう。

しかし、鈴音がさらに詳しい情報を聞き出そうとした時、旅館の女将さんから零が呼び出された。

 

鈴音「・・・何か、謎が多いわよね、アイツ」

 

本音「だね〜」

 

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女将さんに案内されたのは、従業員スタッフの休憩スペース。そこにはもう、待機していた私の待ち人がいた。

 

高峰「やぁ、零君。久しぶりだね」

 

零「はい、会うのは3年ぶりです」

 

この男性は((高峰|たかみね))さん。私のいた孤児院の院長さんだった方だ。もう50歳を超えているというのに、温和な表情は変わらず、皺は増えたが、若さがまだ残っている。

私のいた孤児院は、どんな子でも一人立ちするまで世話を見る暖かな場所だった。しかし、経営的にも厳しくなって子供の将来を支え切れなくなった。民間の孤児院だったので、強い後ろ盾も無く、私が出院した一年後に無くなった。

子供達は別の孤児院へ、先生達は別の就職先を探し、院長の高峰さんはここの旅館にありつけた・・・現在、寿司屋でバイトをした経験を活かして、板前をしている。

 

ちなみに、高峰さんがここで働いている事を知ったのは、この臨海学校が始まる前、ここの旅館のパンフレットが配られた時だった。そこに載ってある写真の内の一枚に高峰さんが写っていたのを発見して、実際に問い合わせてみたら当たりだったのだ。

 

高峰「しかし、よく電話をしてくれた。ここに来て以来、ニュースとか新聞を見ないようにしてて、君がIS学園に入学しているなんて知らなかったんだ。電話をしてくれなかったら、入れ違いになっていた・・・いやぁ〜、立派になった!」

 

身を乗り出して私の頭を撫でる。昔はもっと柔らかい手だったのだが、今は少しゴツゴツしていた。

私が小さい頃もよく、こうやって撫でてもらった。あの時は、何でこんな事をされるのか、されなければいけないのかが分からず、嫌がっていた。

しかし、今なら分かる。高峰さんは、こうやって自分の気持ちを伝えようとしている。「嬉しい」「ありがとう」「よく出来ました」・・・口では言わないが、手から伝わるぬくもりで話しかけてくれていたんだ。

 

女将「よかったですね、高峰さん。自分の育てた子が立派になられて」

 

高峰「ええ、こんなに嬉しい日は久々だ」

 

女将「ふふふっ」

 

女将さんは、お茶を持ってきた後、「ごゆっくり」と言い残して部屋を出た。

 

高峰「それにしても、本当に変わったよ。君は、問題児より扱いが難しい問題児だったから」

 

零「そんなに、ですか?」

 

手の付けられない問題児・・・そういう人は確かにいた。だが、私は大人しい方の子供で、怒られた事もない・・・なのに、何故?

 

高峰「疑問に思うのは分かる。これは君自身も気付いていない部分だから。

   あくまで、これは僕の意見だから鵜呑みしなくていい。僕から見た零君は、すごく周りの顔色を窺って、ずっと自分の殻に籠っている印象だったんだ。その窺う相手が大人だけなら分かる。そういう子は多くいるから・・・しかし、君は大人だけでなく、同じく院に入っている子供にまで気をやっている。年上、年下、関係なくだ。

   いじめや虐待を受けている子供に、よくある傾向だが、君の登校状態や院内の生活を見ていて、とても穏便に暮らしている・・・穏便に暮らそうとしている。

   長々と話してしまったが、もし陰で暴力を振るわれていたのなら謝る」

 

零「・・・いえ、高峰さんの言う通りです」

 

あえて、一時期 嫌がらせを受けていた事を告げなかったが、それを取ったとしても高峰さんの洞察力には恐れ入っていた・・・まさか、私の事までしっかり見ていたとは。

顔色を窺っていた事については、自覚があった。というより、意図的にそうしていた。

どうすれば、自分の負担が軽くなるかを先を見通して考えていた結果である。簡単に説明すると、この人に喧嘩を売ったら、後で仲間を連れて来られて集団リンチされる・・・と言った具合だ。

 

零「"壁を感じる"、"謎"、"掴みどころがない"・・・ある人は、"周りを信用していない"。こういう事をよく言われます」

 

IS学園の生徒だけではない。これまで働く場所を転々として出会った、色んな人からもらった言葉だ。

 

高峰「だが、今の君からそんなもの微塵も感じない。私のようにお互いがよく知る相手だからなのかもしれないが、私の知る前の零君はもっと自己中心的だった」

 

零「僕が・・・自己中心的?」

 

高峰「自分がこう思うから、こうしたいから、こうならなければいい、自分には関係ない・・・こういう考えを頭の片隅に置いていたんだと、僕は思うんだ。

   覚えてるかい? 君が8歳の時にお遊戯会をやる事になったのを」

 

確か、私のいた孤児院では、年に一度、孤児院の子供達が企画して、半年かけてそれを練り、地域の人達に発表する伝統があった。

毎年毎年やる事が異なっていて、お遊戯もあれば、ケーキ屋、自由研究発表などを行っていた。

 

高峰「お遊戯会の準備が始まったのに、君はいつも傍から見て、声をかけられるまで何もしなかった。だから、僕が声をかけた─────」

 

零「『零君は、これを見てどう思う?』・・・でしたね」

 

高峰「よく覚えてるね。じゃあ、その後に君は何て言ったか?」

 

零「『とても素晴らしいと思います。地域の人達、さぞ楽しまれるでしょう』」

 

高峰「ハッハッハッ! あれには僕も面を食らったね。あんなの大人が社交辞令で使う言葉だ」

 

零「確かにそうですね」

 

自然と笑みがこぼれた。それを見た高峰さんは、また面を食らったように目を見開いた。

途端に、ガシッと両手を握られた。

 

高峰「そうだよ! その笑顔! 僕はそれを見たかったぁ・・・」

 

涙で目を滲ませながら、切々と喜ぶ高峰さん。私は、ただ「はあ・・・」としか言えなかった。

この人は、本当にドが付くぐらいのお節介で、良い人なんだ・・・。この人になら・・・今の私なら、悩みを打ち明けられるかもしれない。ずっと見つけられていない"生きる目的"を─────

 

零「高峰さん」

 

高峰「何だい? 僕に聞きたいことがあるなら何でも言ったまえ」

 

零「見せたいものがあります」

 

そう言って片時も外さなかった眼帯を取り、今まで隠してきた左目を開眼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一夏「いや〜、久々に海に来たけど、気持ちがよかったな」

 

零「うん・・・昼食後も泳ぐんですか?」

 

午前中は、とことん遊びまくった・・・まぁ、色々と苦労した事も多かったが楽しかった。

しかし楽しい時間は速く過ぎていくものだ。昼食をいただくために、一度は旅館に戻って、その後に海に行く人とそのまま旅館に残って先生と待機する人に分かれる。

せっかく海に来たんだから、とことん遊べばいいのに・・・明日になれば、鬼教官の厳しい訓練が待っているのだから。

で、今の俺達は、水着から制服に着替えて食堂に向かっている。

 

一夏「おう、せっかく海に来たんだからな・・・って、敬語はやめてくれよ。何かこう、背筋がぞっとするんだ」

 

前は、「一夏」という呼び方をしてくれていたのに、今では「一夏さん」と呼ばれている。

「一夏」と呼ばれていた方がしっくりときていたのに、理由を聞くと「その方が呼びやすい」だとさ。

 

零「背筋がぞっと・・・こんな感じですか?」

 

一夏「ぉおっ!?」

 

急に俺の背中を、下から上へと指で擦ってきた。

これでも箒から剣道の稽古をつけてもらっているから、突然の強襲への対応力は向上しているが、まさか零からこんな事をさせられるとは思っていなかった。

というか、零の奴、今日はやけに機嫌が良さそうに見える。楽しそうに海に浮かんで、のほほんさんと話してたし・・・。

 

一夏「今日、何か良い事あったのか?」

 

零「?・・・何でですか?」

 

どうやら、零の機嫌の良さは無意識のものらしい。まっ、俺はこっちの零の方が好きだから、これ以上、聞くのはやめていこう。

 

一夏「いや、聞かなかった事にしといてくれ」

 

零「???」

 

零と一緒にいて少しずつ分かった事がある。

初めて会った時、零は確実に俺を遠ざけていた。

俺は、男が二人だけしかいないこの学園で、お互いに仲良くやって、困った時は助け合えた方が良いと思って、初めから積極的に接していた。

だから、いくら俺に壁を作ろうとしても、手当たり次第に話題を作って話しかけていた訳だが、それを逆手に取られて零が余計に自分から話さなくなってしまった事があった。

落合零っていう人は、人とコミュニケーションを取る事に抵抗があるんだな・・・と、割り切って積極的に話さなくなったのは、シャルが編入してからだ。

 

でも、今にして思えば零は、人と関わりたい・・・関わって気持ちを満たしたい欲求があったのではないだろうか。

今みたいに背筋を擦って悪戯をする行為だって、今も前もやってみたかったのではないだろうか。

ただ、俺にそれをやっていいのか、友達として関わっていいのか不安だった・・・つまり、俺は信用されてなかった。

 

一夏(それはそれで、へこむよな〜・・・)

 

何を考えているか分からないのは変わっていないが、零からの信頼を勝ち取れた・・・って事で、思っていいのかな?

 

零[ピタッ]

 

一夏「ん? どうし────あ〜」

 

急に立ち止まった零の視線の先には、旅館の庭先に突き刺さったままの巨大な人参があった。

零は、この世のものとは思えないと驚愕している表情をしている。そこまでオーバーな反応でないけれど、口角は片方が引き攣っているし、混乱しているのは間違いなかった。

 

一夏「これは、あれだ・・・その・・・」

 

俺は、これが飛来して降ってきたのを目の前で目撃している。でも、これほどまでに説明の難しい状態は初めてだった。

 

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千冬「今から、非限定空間によるIS稼働訓練を始める!」

 

生徒「「「はいっ!」」」

 

臨海学校二日目。ついに、臨海学校の本来の目的がなされようとしている。

まず、専用機持ちとそれ以外の生徒を分けられ、それ以外の生徒組は山田先生が監督につき、量産機の稼働テスト、新型装備の実用テストが行われる。

専用機持ち達は、千冬姉の元へと呼び出された。

 

セシリア「あら? なぜ、箒さんがここにいるのです?」

 

箒「・・・それは[ドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!]」

 

シャルロット「な、なに? この音?」

 

ある方向から地鳴りが響いてくる。他の生徒達も動揺していて、何より山田先生が一番動揺していた・・・先生?・・・。

この時、動揺どころか、ため息を深くついていたのは箒と千冬姉だった。

 

?「・・・・・・・・ちゃ〜・・・ん」

 

鈴音「声が聞こえる」

 

?「ち〜・・・・・・ちゃ〜・・・ん・・・」

 

ラウラ「ちーちゃん?」

 

千冬「・・・あのバカ」

 

千冬姉が毒づいたと同時に、向こうの丘から物凄い速さで、しかも生身で突っ込んでくる人影が一つ。

『不思議の国アリス』のアリスが着ているような青と白のワンピース・・・華奢な体つきにも関わらず、たわわに実った胸・・・そして、ウサミミ。

 

束「ちーーーいーーーちゃーーーんっ!!!!」

 

千冬「・・・束」

 

千冬姉めがけて両腕を広げ疾走する人こそ、ISの製造者であり、世界から指名手配されている篠ノ之束だ。

説明
さて、早いことで原作でいう三巻の半分まで来ました。
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