仮面ライダーディケイド 〜Road Of Precure〜 5話
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「今日も、絶好調なりぃー!」

 

 元気よく声を上げて家を飛び出す少女。広いデコに少し太めの眉毛が特徴的な少女、日向咲。女子ソフトボール部に所属する彼女は、大きなスポーツバッグをリュックのように背負っている。

 元気欲飛び出したのはいいものの、いささか元気が良すぎたのか、出会い頭に誰かにぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい!」

「大丈夫だ、気にするな」

 

 急いで頭を下げる咲。彼女がぶつかったのは、背の高い男性―――門矢士だ。今回の彼の姿は、白いコック服に頭には白いバンダナ。そして、胸元には「バイト 門矢士」の文字が書かれた名札。その名札を見て、咲は笑顔を見せる。

 

「あなたが、今回バイトに来てくれる門矢さんですね!?」

「そうだが、お前は……」

 

 咲は、笑顔を浮かべたまま自分の後ろにある家―――地元でも有名なパン屋『パンパカパン』を見せる。

 

「私、この家の娘の日向咲です! 今日一日、よろしくお願いします!」

 

 きちっと礼をする咲の姿を見ながら、士は合点がいったという風に呟く。

 

「そうか、お前がこの世界のプリキュアか……」

「え? 今なんて?」

「なんでもない、気にするな」

 

 咲の頭をポンポンと叩くと、

 

「それよりも、いいのか。学校があるんじゃないのか?」

「ああー?! そうだった!! ごめんなさい、失礼します!!」

 

 咲はまた一礼をしてから慌しく走り出す。その後姿を見送りながら、

 

「日向咲、か……あと一人はどこにいるんだ」

 

 

「夕凪町、ですか。いい街ですね」

 

 海岸線の道路を歩きながら、夏海は言う。その言葉に、ユウスケは頷く。

 

「ああ、空気も美味しいし緑も景色も綺麗だし、住むならこんな町がいいよな」

 

 彼女達がやってきた世界は、夕凪町。ある程度開発はされているものの、緑が豊かで景色がよく、自然がまだ残っている町だ。中央にある丘の天辺には、幹周りが10メートルは超えそうな巨大な大樹が立っている。自然と町並みの調和が上手くできている心落ち着く町だ。

 

「あんなところで、スケッチをしている子がいますよ」

 

 夏海が指差した先には、浜辺に座り込んでスケッチブック片手に絵を描いている少女。長い髪の一部を頭の上で括っている。

 

「わかるなぁ、こんな綺麗な景色見てたら、誰だって絵にしたくなるよ」

 

 ユウスケの言葉に頷く夏海。そんな少女に、駆け寄る一人の少女。

 

「舞ぃー!」

 

 その言葉に、それまで写実に集中してた少女は顔を上げる。顔を左右に振り、自分の名前を呼んだ少女の姿を捉えると、笑顔を浮かべる。同じ制服を着ていることから、おそらく同じ学校の友達同士なのだろう。

 

「咲!」

「こんなところで、何してたの?」

「海が綺麗だったから、少しスケッチしてたの」

 

 そういって、自分の書いていたスケッチブックを見せる舞。そこには、太陽の光に照らされて、キラキラと光っている海の絵が、綺麗に描かれていた。その絵に咲は瞳を輝かせる。

 

「すごーい! さすが舞、こんな綺麗な海の絵、私見たことないよ!」

「それは言いすぎよ」

 

 咲の言葉に、恥ずかしいのか少しだけ頬を染める舞。その光景を、微笑ましそうに見つめている夏海とユウスケ。

 

「本当に綺麗ムプ!」

「舞は本当に絵が綺麗フプ!」

 

 すると、それにあわせて丸い玉に尻尾と手と耳をつけた黄色とピンク色のものが、舞の絵を覗き込んで言った。

 

「な、なんですかあれ?!」

 

 いきなり会われた謎の物体に驚くの声を上げる夏海。それは、海岸に居た二人も同じだったらしく、咲も驚きの表情で声を上げる。

 

「フープ、ムープ! なんでここに?!」

「ムプ?」

「ププ?」

 

 咲の言葉に顔をかしげるような仕草を取る二人。

 

「フープ、ムープ、どうして咲の家でジッとしかおかないラピ!」

「誰かに見つかったら大変チョピ」

 

 今度は咲と舞のカバンから、水色でウサギのような耳の長いウサギのようなのと、白色で犬のように長い耳を垂れさせているものが現れると、ウサギのようなものがフープ・ムープを咎める。

 

「先の家でジッとしているのは暇ムプ!」

「フープたちもフラッピ、チョッピと一緒に学校行きたいププ!」

 

 フラッピ、チョッピと呼ばれた二人のマスコットのような動物、ウサギ―フラッピ―は顔を真っ赤にして怒り出す。

 

「駄目ラピ! 学校は遊びに行くところじゃないラピ!」

「そうチョピ、それに舞や咲に迷惑がかかるチョピ」

 

 犬のような動物、チョッピはフラッピと反対に穏やかな声で彼らをなだめようとするが、二人は駄々をこねる子供のように空中で円を描きながら、

 

「いやムプ! ムープたちも一緒に学校行くムプ!」

「お留守番はいやププ!」

 

「我侭言ったら駄目ラピ!」

 

 そんな彼らの言い争いを、少し離れていた場所で聞いている夏海とユウスケ。そこで、彼らは気づく。

 

「ユウスケ、ひょっとしてあの子達が!」

「ああ、きっとあの子達がこの世界のプリキュアなんだ!」

 

 きっと、今言い争っている生物達は彼女達をプリキュアに変身させるための力を持っているのだろう。これまで出会ってきた二組のプリキュアがそうであったように。

 

「とりあえず、近くに―――」

 

「そんなにお暇が嫌なんでしたら、私がお相手して差し上げましょうか?」

 

 海のほうから聞こえた声に、顔を向ける咲たち。ユウスケたちもそっちに顔を向けると、青い海の上に一人の女性が立っていた。洋服と着物をミックさせたような衣装に、とぐろを巻いている蛇のような頭と渦巻きのような長いもみ上げ、そして化粧の濃い顔をした女性。

 その姿を見ると同時に、フープとムープが咲と舞の背中へと隠れる。二人は、彼女を見ると同時に叫ぶ。

 

「貴方は!」

「ハナミズターレ!!」

 

「誰が鼻水たれやねん!!」

 

 一瞬、怒り狂ったような表情で叫んだ彼女であったが、咳を一つして冷静になると、

 

「私の名前はミズ・シタターレ、ですわ」

 

 自分の正式な名前で訂正すると、扇子を取り出しバッと広げると口元を隠す。仕草こそ貴婦人であるが、何故か高貴さは感じられないのは、彼女の品のせいだろうか。

 

「今日こそ、太陽の泉のありかを教えていただくわよ?」

 

「知っててもお前なんかに絶対に教えないラピ!」

「そうチョピ!」

 

「そぉ? それじゃあ、力ずくで教えてもらうとするわ……ウザイナー!」

 

 ミズシタターレの表情が凶悪な笑みを生み出すと、彼女の背中の海面が轟音と共に大きな水柱を生み出す。そこから現れるのは、怪獣映画に出てきそうな大ウツボ。その背中には、氷のたてがみがついている。凶暴な唸り声を上げるウザイナーを見て、フラッピ、チョッピはそれぞれ咲と舞へと顔を向ける。

 

「咲!」

「舞!」

 

 二人の言葉に、顔を頷ける二人。フラッピとチョッピは折りたたみ式の携帯のような形になる。二人はそれを手に掴む。開くと、上部に回転盤が着いており、そこに三角形の紙を挟み込むように差し込むと、盤を回転させる。互いの手を掴み、

 

「デュアル、スピリチアルパワー!」

 

 変身アイテムを持つ手を、交差させる。眩い虹色の光が彼女達を包み込み、上空へと浮かび上がらせると、咲の体をピンクの衣装が、舞の体を白い衣装が包み込んでいく。

 

「花開け、大地に!」

「羽ばたけ、空に!」

 

 花が開くように、そして翼を広げるように彼女らの衣装が広がっていくと、二人は体から光の粒子を走らせて大地へと降り立つ。

 

「輝く金の花、キュアブルーム!」

「煌く銀の翼、キュアイーグレット!」

「「ふたりはプリキュア!!」」

 

 互いにウザイナーを指差しながら、

 

「聖なる泉を汚す者よ!」

「あこぎな真似は、お止めなさい!」

 

 その姿を、遠巻きに見ていたユウスケと夏海。

 

「ユウスケ、あれが」

「ああ、この世界のプリキュアだ」

 

 

 

第五話「スプラッシュスターの世界 プリキュア絶対絶命」

「今日と言う今日こそは、太陽の泉のありかを教えて貰うわよ、ウザイナーっ!」

「ウザイ、ナー!」

 

 ミズシタターレの言葉に、気だるそうな声を上げながらも突進するウザイナー。ブルームとイーグレットは腰を落とすと、足元に力を込める。すると、彼女達の足が光り始める。

 

「あれは……?」

 

 瞬間、彼女達が飛び上がると同時に、その体が一気に跳ね上がる。それは、跳躍と言うよりはすでに飛翔と言ったほうが正しい。驚くユウスケたちとは別に、彼女らも驚く。

 

「このウザイナー!」

「早い!」

 

 見た目が巨体でありながら、プリキュアたちと同等かそれ以上の素早さを持っているウザイナー。自分の体をムチのようにしならせると、その体で二人を打つ。とっさに腕を交差させてガードする二人、その攻撃が当たると同時に、光が弾けてダメージを軽減する。

 

「またです! あの光は一体……!」

 

 吹き飛ばされる二人の体、地面に叩きつけられるも、はやり光が弾けて彼女達の体を優しく受け止める。

 

「なるほど、あれがあいつらの力か」

「士君!」

 

 後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、そこにはマシンディケイダーに跨った士の姿。興味深そうに二人のプリキュアの戦いを見つめている。

 

「こ、のぉおおおお!」

 

 ブルームが裂帛の叫びを上げると同時に、その拳に光―精霊の力―が宿る。その拳をウザイナーに叩きつけると、重厚な音と共にウツボウザイナーの体へとめり込む。だが、再びウツボウザイナーの尾が唸り、ブルームの体を弾き飛ばす。

 

「ブルーム!」

 

 イーグレットがすかさずその体を受け止める。そこへ、ウツボウザイナーは大きく息を吸い込むと全てを凍らせる氷の吐息を放つ。二人は両の手を前に突き出す。すると、淡い光が彼女達を包み込み、その吐息を受け止める。

 

「バリアまで張れるのか、万能だな」

 

 感心する士、だが、想像以上にその吐息は強いらしく、二人は光の障壁で受け止めているものの反撃に転じることができない。その姿を、ミズシタターレは笑う。

 

「あらあら、防御一辺倒じゃあ勝てないわよ?」

 

 彼女の言葉に答えるように、その場を引き裂くバイクの排気音が響く。二人が音のしたほうを剥けば、そこには巨大な牙に跨った、鋭利な牙を持つ獣人。彼女が跨っているのは巨大な牙にバイクのタイヤを付けたような禍々しいバイク。その先端につけられている鋭利な牙が、二人に襲い掛かる。

 

「「きゃあああああ!」」

 

 彼女達を護っていたバリアも、流石にそれには耐え切れなくなったのか弾けてしまう。巨大なバイクの牙が二人へと襲い掛かり、吹き飛ばす。光の加護が彼女達を護るものの、完全にはダメージを消しきることができない。

 

「あら、原始タイガーってことは、キバちゃんかしら?」

 

 思い当たる節があるのか、にやりと微笑むミズシタターレ。彼女の目の前では原始タイガーがバイクを切り返し、足がまだふら付いている二人へとバイクを向ける。排気音を唸らせながら、再び二人へと襲い掛かろうとする。

 

 だが、

 

「いくぞ、ユウスケ!」

「ああ!」

「「変身!」」

 

 -Kamen Ride DECADE!!-

 

 士とユウスケはディケイド、クウガに変身すると互いに飛び上がり、原始タイガーの乗っているキババイクの機首へと蹴りを放つ。二人同時の蹴りの前にバランスを失った原始タイガーはバイクごと転倒するものの、怪人らしいタフさで立ち上がる。

 

「お前は!」

「あなたは!」

 

「「ディケイド!!」」

 

 ミズシタターレ、プリキュアの両方から名前を呼ばれ、ディケイドはやれやれといった風に嘆息。

 

「人気者も辛いな、まったく」

 

「世界の破壊者、ディケイド……!」

「ダークフォールだけじゃなくて、ディケイドまでこの世界にやってくるなんて!」

 

「ま、まってくれ、俺たちは敵じゃない!」

 

 ハートキャッチの世界とは違い、こちらは鳴滝の手が掛かっていたのが、ダークフォール共々プリキュアから敵視されてしまうディケイド。それを、間に入るクウガ。

 

「俺たちは、君達を助けに来たんだ!」

 

「私たちを」

「助けに?」

 

「詳しい話は後だ。まずはこいつらを倒すぞ!」

 

 起き上がってきた原始タイガーが唸り声を上げながらディケイドへと襲い掛かってくる。ディケイドは、それを見て一枚のカードを取り出す。

 

「化け猫退治は、鬼の仕事だな」

 

 -Kamen Ride HIBIKI!-

 

 ディケイドの体を青白い炎が包み込むと、腕でそれを払う。すると、そこから現れるのは濃い青の体に角を持った異色のライダー、響鬼。魔化魍と呼ばれる怪物たちを狩るために人間の体を極限まで鍛えた者。

 さらに、もう一枚のカードをベルトへと差し込む。

 

 -Attack Ride ONIBI-

 

 その目も鼻もない能面の口元がパカっと開くとそこから炎が噴出しディケイドへと襲い掛かろうとした原始タイガーへと逆に襲い掛かる。猛烈な炎に包まれて悲鳴を上げる原始タイガーに、ディケイドはさらにカードを一枚取り出す。

 

 -Attack Ride ONGEKIBOU-

 

 鬼の霊石が埋め込まれた特殊なバチ、音撃棒を取り出すと、燃え盛る原始タイガーへと走り出す。擦れ違い様へとその霊石を腹部へと叩き付ける。清めの音が原始タイガーへと叩き込まれる。同時に、身動きを止める原始タイガー。一拍をおいて、爆発。

 

「凄い、あれが」

「ディケイド……」

 

 ブルームとイーグレットが驚きの表情で見つめる中、一つの声が響く。

 

「ついにこの世界にやってきたか、仮面ラーイダディケイド!」

 

 聞こえる新たな声に、その場にいた全員が顔を向ける。そこに立っているのは、四人の男。

 

 サソリをあしらった兜に血だらけの甲冑、盾と斧を持つ男。

 その後ろには、牙の生えた動物の頭蓋骨を被り、豹皮を袈裟懸け、牙のついた杖に牙のネックレスを首にかけている呪術者風の男。

 顔を大きな仮面で隠し、ボロボロの黒い着物に身を包んでいるどこかの僧侶を思わせる男。

 そして赤褐色の色をした鎧を身にまとい、右手にはとげ付き鉄球、いわゆるモーニングスターをはめている男。

 

「あ、あなた達は?!」

「ダークフォールの新たな幹部?!」

 

「いや、違う! こいつらは!」

 

 驚くプリキュアたちに対して、先頭に立っている血だらけの甲冑が答える。

 

「そう、我らはダークフォールではない。誇り高きデストロンに所属していた戦士! ドクトルG(ゲー)!」

「キバ男爵!」

「ツバサ大僧正!」

「ヨロイ元帥!」

 

「V3の世界の幹部達か!」

 

 そう、彼こそは仮面ライダーV3の世界において、彼を苦しめた凶悪な幹部たちなのである。血だらけの甲冑に身を包むドクトルG、呪術者を思わせる不気味な風格のキバ男爵、邪悪な僧侶の姿に物々しさを感じさせるツバサ大僧正、そして醜く歪んだ口とまとうオーラで人を圧倒させるヨロイ元帥。全員が全員、V3を追い詰めた強敵だ。

 

「バダンの暗闇大使、ワームのフィロキセラを倒したことは褒めよう。だが、我々が彼らのように上手くいくなと思うなよ!」

 

 ドクトルGの言葉に合わせるように、後ろの三人がそれぞれ叫ぶ。

 

「ユキオオカミ!」

「火焔コンドル!」

「ガマクビガメ!」

 

 オオカミ、コンドル、亀をモチーフにしたそれぞれの怪物が現れる。それぞれがおどろおどろしい泣き声を上げながら威嚇する。

 

「デストロンだとかV3だとか、何なのよあなた達!」

 

 ブルームの言葉に、ドクトルGは答える。

 

「我らはスーパーショッカー! 世界全てを支配するものだ!」

 

「世界すべてを?」

 

 全てを滅ぼすことが目的であるダークフォールとは間逆とも言えるその目的に、動揺が隠せないプリキュアたち。そんな彼らが、何故協力し合っているのだろうか。

 

「まぁ、詳しいことはわからないけれど、アクダイカーン様のご命令ならしょうがないわよね。中々、面白い物つかってるしね」

 

 ミズシタターレは軽くそういう。

 

「では、ミズシタターレよ、我らの怪人をお前に預ける」

「はいはい、あんた達はせいぜいダークフォールで休んでおきなさいよ」

 

 彼女の言葉に返事はせずに、銀色のベールに包まれて消えていく元デストロンの幹部達。ミズシタターレは再びプリキュアたちの方へと顔を向けると、

 

「さぁて、それじゃあ再開といきましょうか?」

「ウザイ、ナァー!」

 

「「!!」」

 

 再びウツボウザイナーが咆哮を上げながらプリキュア達へと突進する。それぞれ左右に飛び回避するプリキュアであったが、

 

「そうは!」

「させん!」

 

 ブルームに向かって火焔コンドルが、イーグレットにユキオオカミが襲い掛かる。完全に不意を疲れて身動きが取れない二人。そこへ、

 

「超変身!」

 

 -Attack Ride REKKA-

 

 ドラゴンフォームになったクウガが跳躍して蹴りを食らわし火焔コンドルを落とし、ディケイド響鬼が音撃棒から放った火球でユキオオカミを落とす。

 

「士、コンドルと亀は俺が相手する! だから!」

「ああ、あのでっかいのとオオカミ野郎は任せろ」

 

 ディケイドはブルーム、イーグレットの前に立ち、彼らを護るようにクウガはガマクビカメ、火焔コンドルへと立ち向かう。

 

「そういうことだ、頼むぞキュアブルーム、キュアイーグレット」

「なんだかよくわかんないけど!」

「貴方が敵じゃないってことはわかりました!」

 

 二度も助けられ、ディケイドに対する誤解を解く二人。そんな三人へと、ウツボウザイナーは巨大を震わせ、尻尾を薙ぎ払うかのように振るう。上空へと飛び上がり、これを何とか回避する。

 

「あの巨体をなんとかしないと、厄介だな」

「だけど、早い!」

 

 すでにウツボウザイナーは高速で彼らの下へと回り込むと、その巨大な大口を開ける。放とうとしているのは、先ほどの冷気の息。

 

「そうはさせるかよ!」

 

 -Kamen Ride RYUKI!-

 

 ディケイドの体が今度は西洋の騎士を思わせるような姿へと変わる。赤い体に、龍を連想させるような兜。仮面ライダー龍騎、ライダーバトルにおいて人々のために戦った戦士。

 

 -Kamen Ride STRIKE VENT!-

 

 上空から人の拳よりも一回り大きな龍の首が降ってくると、ディケイド龍騎の右腕へと装着される。それを前方へと突き出すと、そこから大量の炎が噴出し、ウツボウザイナーの冷気の息と拮抗する。

 

「ブルーム、イーグレット、今だ!」

「「はい!」」

 

 だが、彼女達が攻撃するよりも早く、ユキオオカミが動く。

 

「ウルトラブリザードォ!」

「キャアアアア!?」

 

 その口から絶対零度の息が吐き出され、その冷気が攻撃を放とうとしていたブルーム、イーグレットへと襲い掛かる。直撃を受けてしまい、吹き飛ばされる二人。

 

「ブルーム、イーグレット!」

 

 

 一方で、クウガは火焔コンドル、ガマクビガメを相手に優勢に進んでいた。ドラゴンフォームのドラゴンロッドを振り回し、火焔コンドルの炎攻撃、ガマクビガメの爆弾子ガメを払い落としていく。

 

「クウガ、邪魔をするな……!」

「いや、邪魔をさせてもらう!」

 

 ドラゴンロッドをガマクビガメへと叩きつけてみるも、その強固な鎧の前に弾かれてしまう。ヨロイ一族に属しているだけあり、その防御力はかなりのもののようだ。

 

「だったら!」

 

 ドラゴンロッドを投げ捨て、トライチェイサーの握り手を引き抜くと、ロッドとして展開させる。

 

「超変身!」

 

 青の鎧が紫色のものへと変化する。大地の力、屈指の防御力と攻撃力を持つタイタンフォーム。ロッドは大剣と変化する。ゆっくりと歩を進めながらガマクビガメへと向かっていく。

 対してガマクビガメは子ガメ爆弾を繰り出す。子ガメ爆弾はタイタンフォームの装甲へと登り、爆発していくがタイタンフォームになった彼は怯みさえもしない。

 

「ば、馬鹿な、俺の爆弾が!」

 

 敵の攻撃をもろともせずに接近し、そのまま手に持った大剣を振り上げる。

 

「はぁああああああ!」

 

 それを、一気に振り下ろす。その強力なパワーによって振り下ろされた剣は、ガマクビガメの強力な甲羅を砕き、叩ききる。爆発する炎さえも気にせずにクウガは振り返る。

 

「貴様ぁあああ!」

 

 急降下してくる火焔コンドル、クウガは手に持っていた大剣を放り投げる。そして、今度は拳銃を取り出し、

 

「超変身!」

 

 今度は紫から緑の装甲へと変わる。ペガサスフォーム、超感覚を持つ戦士。遠距離攻撃を持つがゆえに飛行能力を持つ相手にも相性がいい。手に持った弓を引き絞り、火焔コンドルへと狙いをつける。

 

「はぁっ!」

 

 短い気合の声と共に放たれる一矢は、火焔コンドルを頭から貫く。悲鳴を上げることも敵わずにそのままクウガの横を通り過ぎていく。後ろで起こる爆発にクウガは振り返らなかった。

 

 

「大丈夫か、ブルーム! イーグレット!」

 

 地面に降り立つディケイドは、急いで二人を見る。

 

「大丈夫、だけど……!」

 

 そこには、体の三分の一が凍り付いてしまっているブルームとイーグレットの姿。すでに足が凍りつき、自由にその場から動けない。ウツボウザイナーはそんな彼女達に向けてさらに息を吸い込む。

 

「させるか!」

 

 急いで駆けつけようとするディケイド龍騎。だが、その前に立ちふさがるのはユキオオカミだ。

 

「邪魔をするな!」

 

 ディケイドが足止めされているうちに、ウツボザケンナーは再び冷気の息を動けなくなっている二人へと放つ。さらに、彼女達を縛っている氷が面積を増やしていく。

 

「ブルーム!」

「イーグレット!」

 

 彼女達のパートナーであるフラッピ、チョッピが悲鳴に近い叫び声を上げる。何とか防御をとろうとしても、腕が動かずにバリアを張ることもできない。そんな彼女らを、ミズシタターレは嘲笑う。

 

「何が伝説の戦士よ! 全然たいしたことないじゃない」

 

 ディケイドも何とか彼女達を助けようとするも、ユキオオカミの放つ冷気の息のせいで迂闊に近づくこともできずに、ただ見ていることしかできない。それを見かねたフープ、ムープが駆けつけようとするが、

 

「ブルーム!」

「イーグレット!」

 

「フープ、ムープ、着たら駄目!」

 

 ブルームがそれを止める。このまま近づいてしまえば、彼らも道連れにしてしまうかもしれないからだ。だが、そうしている間にも彼女達の体は凍っていく。

 

「士、今行く!」

 

 二体の怪人を倒したクウガは、ユキオオカミに足止めされているディケイドの元へと急ぐ。ミズシタターレはさらに続ける。

 

「この程度のものを逃がすなんて、愚かな『奴ら』」

 

 その言葉は、目の前の二人に向けられた言葉ではなかった。彼女はその顔を邪悪な笑みで染めて告げる。

 

「それとも……よほどの意気地なしだったのかしらねぇ! 『満』と『薫』は!」

 

「満、薫……?」

 

 士たちの知らない誰かの名前を挙げ、その人物達を侮辱するミズシタターレ。それをきいていた夏海も、初めて聞く名前に首をかしげる。だが、その言葉を聴いて誰よりも強く反応した者達がいた。

 

「違うムプ!」

「満と薫は!」

 

 ムープとフープ、そして、

 

 

「「意気地なしなんかじゃない!!」」

 

 

 ブルームと、イーグレット。

 

 彼女達は自分達の体が凍りつきそうになりながらも、それまで似ない顔でミズシタターレを睨み付ける。

 

「満さんと薫さんは、自分達の運命を!」

「アクダイカーンに従うことしかできなかった運命を、変えようとしたのよ!」

 

 凍りつきながらも劣勢でありながらも、その瞳に消えない光を宿して、二人はその言葉を否定する。

 

「あなたなんかより!」

「はるかに強い!」

 

 その言葉に、涙を浮かべながらプリキュアたちを見つめるフープとムープ。だが、ミズシタターレはそんな二人を嘲笑う。

 

「強い? そんな二人がいまはどうなったの? 愚かにもアクダイカーン様に逆らったあいつらに、未来なんてないわ!」

 

「……信じ続ければ、絶対に願いは叶う」

「だから、私たちは!」

 

 今にも負けそうな絶体絶命にも関わらずに彼女達は叫ぶ。

 

「「絶対に諦めない!」」

 

「意気込みは結構ね、でも、貴方達に勝ち目なんか!」

 

「グァアアアアアア?!」

 

 叫び声と共に上がる爆音。ミズシタターレが驚いて顔を向ければ、そこにはマイティキックでユキオオカミを撃破したクウガ、そして、

 

「ブルーム、イーグレット、いま助ける!」

 

 ディケイド龍騎が、右腕から炎を放ち二人の身を縛っていた氷を溶かす。

 

「く、小癪なぁ!」

 

「イーグレット!」

「ええ!」

 

 ブルームとイーグレットが手を繋ぎあう。瞳を閉じて、ブルームは前に、イーグレットは空へと手を伸ばす。

 

「大地の精霊よ……」

 

 ブルームの言葉に答えるように、大地から無数の光が現れ、

 

「大空の精霊よ……」

 

 イーグレットの言葉にも大空から無数の光が降り注ぐ。その光はそれぞれ二人の腕へと集まっていく。その確かな力を感じて、二人は目を開ける。

 

「いま、プリキュアと共に!」

「奇跡の力を解き放て!」

「「プリキュア!」」

 

 全身を淡い光に包みながら、二人は力の集まった二つの腕で、前方に渦を描く。それによって、集まってきた光が塊となる。

 

「「ツインストリーム!」」

 

 そしてその塊を両の手で前へと弾く!

 

「「スプラァァァッシュッ!」」

 

 二つの精霊の力はまるで激流のように波打ちながら、ウツボウザイナーを包み込んでいく。

 

「ちぃっ!」

 

 自分が巻き込まれるよりも早く、ミズシタターレはウザイナーから離れる。そんな彼女の前で、激流に飲み込まれていくウザイナー。その光はウザイナーを消し去っていく。その姿を、忌々しそうに見つめる。

 

「今日のことは、水に流してあげるわ……!」

 

 その言葉を吐き捨てて、彼女は消え去っていく。彼女が消えていった場所を見つめながら、一安心するブルームとイーグレット。そして、二人の間にゆっくりと落ちてくる雫のような宝石。それを受け止めてから、ディケイドとクウガの方へと向き直ると、

 

「助けていただいて、ありがとうございました」

「お陰で助かりました」

 

「何、怪人の相手は俺たちが専門だからな」

 

 変身をといていく士たち。咲や舞らも変身をとき、元の制服姿へと戻っていく。そこで、咲は士の姿を見て驚く。

 

「って、ええ?! 士さん?! 士さんがディケイドだったの?!」

「咲、知り合い……?」

 

 舞の言葉に、士が自分の家に来ていたバイトであることを説明する咲。そして、改めて自分達を自己紹介する士と咲たち。

 

「ってことは、あのドリトルゲーとか言うのが、士さんたちが追っている敵なんですね」

「咲、ドクトルだよ」

 

「そうだ。本来ならばこの世界にいるはずがなかったんだがな」

 

「それで、これまで見たこともない敵が出てきてたのかラピ」

 

 その言葉に、咲のパートナーであるウサギのような精霊、フラッピは頷く。どうやら、ここでも一週間ほど前から、スーパーショッカーの怪人たちが暴れているようだ。

 

「あいつら恐いムプ」

「恐いププ」

 

 ムープとフープはそれぞれ咲と舞の背中へと隠れる。

 

「こんなときに、満と薫が居てくれれば……」

 

 ムープが小さく呟いた言葉。先ほどもミズシタターレの口から出た二つの名前。

 

「あの、その満さんと薫さんって言うのは……?」

 

 夏海の何気ない言葉、その言葉に咲と舞は少しだけ動きを止めた。それから、視線を落とす。それは、彼女ら二人だけではなく、フラッピやチョッピ、そしてフープ、ムープもだ。

 咲が意を決したように、その口を開く。

 

「満、薫は……私の、私たちの大切な友達」

 

 

 常夜の世界、ダークフォール。生物の息吹が感じられない、漆黒の海に砕けた岩が突き出している世界。その世界の中央にある、薄暗い洞窟の中に、彼らは居た。

 その最も奥底、闇包まれた洞窟に広がる地底湖。その中央には、燃え盛る炎が灯っている。その光にたらされているのは、先ほどまでディケイドたちと戦っていたミズシタターレ、そして、

 

「ミズシタターレ、お前の使命はなんだ?」

 

 巨大な巨人。その身長たるや40mを超えていそうな巨人でありながら、それでも玉座に座っていると言う巨大な姿。兜を被ったその巨人の名前はアクダイカーン。ダークフォールの長にしてこの世界の滅亡を望む者たちである。

 

「う、それは……」

「それは太陽を泉のありかを見つけ出すこと、でありましょう? ミズ、シタターレ殿」

 

 言いよどんだ彼女にそう声をかけたのは、逆に大人の半分ほどしか身長のない和服姿の男。まるでひょうたんのような顔をしており、その口は卑しく笑っている。彼の名前はゴーヤーン。アクダイカーンの右腕であり、伝令役でもある男だ。

 

「我らが怪人を貸したというのに全滅とは、たいした腕よのう」

「流石はダークフォールの幹部だな」

 

 先に帰還していたツバサ大僧正、ヨロイ元帥の二人が皮肉るようにそういうと、唇を噛みながらも怒りを堪えるミズシタターレ。

 

「本当に申し訳ありません、わざわざスーパーショッカーから皆さん出向いて貰ったと言うのに」

 

 ゴーヤーンがさらにそういうものだから、ミズシタターレのプライドもズタズタである。彼女は自ら進み出て長であるアクダイカーンへと進言する。

 

「もう一度私にチャンスをください、アクダイカーン様! 次こそ、次こそはあの憎きプリキュアを……!」

「いいだろう、お前に任せよう。ミズシタターレ」

「はっ!」

 

 威勢良く返事をすると、彼らに背中を向けて去っていくミズシタターレ。その後姿を見送ってから、アクダイカーンはさらに告げる。

 

「行け、ゴーヤーン!」

「……は?」

 

 その言葉が一瞬理解できなかったゴーヤーンに、アクダイカーンはさらに告げる。

 

「貴様も行くのだ、ゴーヤーン」

「わ、私もですか?!」

「これまであの物に任せてきたが、この体たらく……かくなる上は、おまえ自身が直接、太陽の泉の在り処を見つけてくるのだ」

「は、ははぁー!」

 

 その言葉にゴーヤーンは平伏する。その姿に、デストロン幹部達も口を挟む。

 

「では、ゴーヤーンの援助を我らが果そう」

「……何のつもりだ、スーパーショッカー」

 

 アクダイカーンの言葉に、ドクトルGは不敵な笑みを浮かべる。

 

「我らにとってもプリキュア、そして仮面ライダーは邪魔な存在……それを葬るのは我らの目的。それに手を貸すのは当たり前であろう」

 

 当然のことながら、アクダイカーンは彼らのことを信用していない。彼らの目的は世界征服であり、その世界には彼らダークフォールも入っているのだから当たり前と言えば当たり前だが。

 

「いいだろう、だが邪魔立ては許さんぞ」

「……わかっておる」

 

 そういうと、ドクトルGは歩き出す。その後ろをついていくゴーヤーン。残りの三人の幹部は、その姿をただジッと見つめていた。

 

 

「どうしたんですか、ユウスケ。さっきから元気がないですね」

 

 夕凪中学校、咲と舞が通っている学校の屋上に夏海とユウスケはいた。あのあと、咲と舞は学校があるために登校して、士も仮初とはいえパンパカパンのバイトへと戻ったのである。

 そして、夏海とユウスケの二人は彼女達が学校に言ってる間、屋上に来ていたのだが、どこかユウスケの様子が変なことに夏海は気づいていた。屋上の手すりにもたれかかりながら、考え込むように遠くを見つめているユウスケ。

 

「……夏海ちゃんさ、さっきの話、どう思った」

「満さんと、薫さんの話、ですか?」

 

 その言葉に無言で頷くユウスケ。夏海は彼と同じように、遠くを見つめながら答える。

 

「あの二人は、大変なものを背負って戦っているんだなって、思いました」

 

『満、薫は……私の、私たちの大切な友達』

 

 霧生満と霧生薫。それは、ある日、咲と舞の学校にやってきた二人の転校生。愛想がいい満と無表情な薫、人付き合いが苦手な二人だったけど、彼女達はそんな二人と親交を深めていった。

 

 だが、彼女達はダークフォールの放った滅びの戦士であった。

 

 自分達の正体を明かし、咲と舞の二人と戦うことになった彼女達だったが、咲と舞の懸命な説得により、ダークフォールの戦士である運命と戦うことを決意した二人。しかし、運命はどこまでも二人を追い詰める。

 

 ゴーヤーンの手によってダークフォールに連れて行かれた二人を助けるために向かった咲と舞であったが、アクダイカーンの圧倒的な力の前に敗れる。そんな彼女達を助けるために、自らを盾として逃がした満と薫。

 

 彼女達を助けることが出来なかった二人。

 

『……でも、私たちはまだ諦めてません』

 

 彼女達にプリキュアの力を与えたフィーリア王女が告げたと言う、『強い思いを持てば、二人に届く』と言う言葉を信じて、彼女達は戦い続けているのだという。再びであると言う確かな証拠はなにもない。

 

 大切な人を護りきれなかった過去と、不確かな未来の希望―――それでも、戦い続ける二人の少女。

 

「……俺たちがもっと早く着ていれば、満って子と薫って子も助けられたのかもしれない」

「ユウスケ?」

「あの子達にあんな顔、させずに済んだのかもしれないのに!」

 

 悲しみを押さえ込んだような無理やり作った笑み、そんな顔を浮かべていた彼女達。そんな顔を見て、何も出来なかった自分。ユウスケの心中に広がっていくのは、何も出来ないと言う無力感。

 

「いままで色んな世界を巡ってきた。だけど、どの世界でも誰かが傷ついて、泣いてる」

 

 自分の手を見つめながら、彼は続ける。

 

「なのに俺は、何も出来ない!」

 

 どこに当てたらいいのかわからない怒りを、屋上の手すりにぶつける事しか出来ない。

 

「俺は……無力だ」

 

 彼は気づいていない。彼が感情を激しくするたびに、体に走っている電流に。

 

 

 学校の授業も終わり、放課後。校庭では生徒達が部活動を始めており、生徒達の掛け声で活気があふれている。その中に日向咲の姿もあった。校庭とは別に設けられた野球用のダイヤモンド。そこのピッチャーマウンドにユニフォーム姿で彼女が立っていた。

 

「……」

 

 呼吸を落ち着かせて、バッターボックスのキャッチャーを見つめる。大きく息を吸い込んでから、一気に振りかぶる。ソフトボール独特の押し出すような下投げで放たれたボールは、速球となってミットへと飛び込んだ。バシッという快音を鳴らしてボールはミットへと入るボール。

 

「咲、今日も絶好調ね!」

「うん!」

 

 その姿を、美翔舞はダイヤモンドを見下ろせるように作られた土手から見つめている。勿論、その手にはスケッチブックが握られており、ボールを投げる瞬間の咲の姿が描かれている。いかにも今にも投げようとしている躍動感が生き生きと描かれている。

 

「咲ちゃんって、ソフト上手いんだなぁ」

「舞さんは、凄く絵が上手なんですね」

「いえ、そんな……」

 

 頬を染めて照れる舞。咲は万年一回戦負けだったソフト部を連戦連勝まで押し上げ、舞は美術部部長が直々にスカウトにやってくるほどの人物だ。舞の隣で、同じように見つめている夏海とユウスケ。

 

「確かに、いい腕をしているな」

 

 そんな彼らの後ろから聞こえたのは、士の声だ。いつもどおりにクールを気取っているのだが、服装がコック服であるために決まっていない。どこか滑稽でもあるのだが、本人が堂々としているのであえて誰も突っ込まなかった。

 

「「「ありがとうございましたー!」」」

 

 丁度、ソフト部の練習も終ったのか、咲たちは中央に集まり、礼をする。ユニフォームの姿で舞達の下へと駆け寄ってくる咲。

 

「舞ぃー! 一緒に帰ろう! あ、士さん達も来てたんですね」

「ああ」

 

 笑顔を浮かべたまま、咲は士たちに言う。

 

「今日、士さんたちに案内したいところがあるんですけど、いいですか?」

 

 

 

「トネリコの木?」

 

 町の中央、丘の上に立っている巨木の元へと案内された士たち。

 

「はい、私たちはこの木のこと、そう呼んでいるんです」

「凄い、大きな木なんですね」

 

 その大きな木は一軒家よりも大きな木で、見上げても天辺が見えないほどの大きさだ。自然と人の町並みが融和しているこの町を象徴するかのような場所である。その巨大な木の根に腰をかける。

 

「嫌なこととかここにくるんです。そしたら、不思議と気持ちが落ち着いて」

 

 フラッピたちは咲たちの前で鬼ごっこをして楽しんでいる。その姿を、笑顔で見つめている。

 

「なるほど、確かにいい場所だ」

「でしょ!」

 

 大きな木が根元に影を生み出し、枝と葉の間からこぼれる光がキラキラと光り、幻想的な光景を生み出している。その光景に思わず顔がほころぶ士。その隣の夏海やユウスケも同じだ。全員が、穏やかな顔を浮かべると、

 

「咲、舞、嫌な気配が近づいてるラピ!」

 

 フラッピとチョッピが立ち止まると、彼らの耳が伸びてアンテナのようになる。これは、邪悪な気配を感じると反応する彼らの特徴だ。ムープ、フープもそれを感じたのか、咲と舞の背中へと隠れる。

 そこへ響き渡る、女性の高笑い。同時に、彼女達の目の前に上がる水柱、そして現れる一人の女性。

 

「おーっほっほっほ! こんにちは、プリキュアのお二人さん!」

 

「あなたは!」

「ハナミズダーレ?!」

 

「わざと言ってんだろ?! ……ミズ、シタターレですわ」

 

 また、一瞬だけ激昂するもののなんとか冷静になる彼女の姿を、士は馬鹿にするように、

 

「朝やられたばっかだっていうのに、懲りない奴だな」

「私にも誇り高きダークフォールの戦士としてのプライドがありますの。このまま引き下がったら私の沽券に関わりますわ!」

 

 邪悪な笑みを浮かべて、そう答えると、大きく手を上げる。

 

「でてきなさい、ウザイナー!!」

「ウザイ、ナー!」

 

 彼女の叫び声に答えるように、近くの森の木々を押し分けて、巨大な影が姿を現す。大きな寸胴に小さな寸胴を四肢になるようにつけたような姿、腹部には蛇口、背中にはタンク、そしてナットの鼻のついた頭のうえには蛇口のひねり。水道管を元に作られた水道管ウザイナーだ。

 

「咲、舞!」

「変身チョピ!」

 

「俺たちも行くぞ!」

「おう!」

 

 フラッピ、チョッピが変身アイテムとなり咲と舞の手に収まり、士とユウスケが変身ポーズを取る。

 

「「デュアル、スピリチアルパワー!」」

 

「「変身!」」

 -Kamen Ride DECADE!!-

 

 それぞれがプリキュア、仮面ライダーに変身すると、ディケイドは夏海に向かって、

 

「お前は離れてろ」

「はい!」

 

 変身できない夏海は戦いに巻き込まれないように離れた草むらへと向かう。一定の距離まで離れ、ディケイドたちの方へと向いたとき、何者かの手が彼女の口を塞ぐ。

 

「!?」

「暴れないで貰おうか、光夏海」

 

 いつの間に現れたのか、ドクトルGが邪悪な笑みを浮かべながら彼女の口を塞いでいた。手に持った斧を彼女の首元に当てて、言外に動くなと伝える。

 

「少し貴様の姿を利用させてもらうぞ……フッフッフ」

 

 何かの薬品だろうか、急激に失われていく意識の中で、夏海が聞こえた言葉は、それが最後であった。

 

 一方、ウザイナーは仮面ライダーの二人に、ミズシタターレはプリキュアの二人にへと襲い掛かる。

 

「今日こそ、太陽の泉のありか、教えて貰うわよ!」

「誰が、貴方なんかに!」

「教えるもんですか!」

 

 ミズシタターレが腕を振るうと、水が刃の形となって放たれて彼女達へと襲い掛かる。左右に分かれて回避したところを、さらに小さな水の玉を弾丸のように放つ。それを、とっさに精霊の壁で防御する二人だったが、

 

「甘いわよ!」

「!」

 

 だが、二人の動きが止まったところに今度は巨大な水の塊を叩きつけられる。なんとか精霊の壁で防御する二人であったが、圧倒的な質量の前に叩き潰されてしまう。

 

「「きゃああああああ!」」

 

 一方、ディケイドとクウガも、慣れない巨大な敵相手に苦戦を強いられる。

 

「ウザイ、ナー!」

 

 両の手から発射される水流をなんとか回避して攻撃をするものの、放水攻撃のせいで取り付くことが出来ず、ライドブッカーのガンモードで攻撃するものの、思ったようなダメージも見込めない。

 

「くそ、厄介な敵だ!」

「取り付くことが出来れば……!」

 

 だが、それは相手もわかっているのか、放水攻撃を中心にして敵に近づけさせないようにしている。巨大な敵を相手にすするならば響鬼が適任なのだが、属性的に相性が悪い。

 

「だったら、遠距離からぶっ飛ばしてやる!」

 

 放水攻撃から離れながら、ディケイドはケータッチを取り出す。

 

 -KUUGA-AGITO-RYUKI-FAIZ-DLADE-HIBIKI-KABUTO-DEN-O-KIVA-Final Kamen Ride DECADE!-

 

 コンプリートフォームへと変身、一気に必殺技を決める。

 

 -KABUTO! Kamen Raide-

 

 ディケイドの横に現れるのは、巨大なカブトの角を持った赤と銀のライダー

 

 -Hyper-

 

 ハイパークロックアップによって高速移動だけではなく、時間をさかのぼることさえも可能にした脅威のライダー、仮面ライダーカブト、ハイパーフォーム。

 

 -Final Attack Raide KA,KA,KA,KABUTO!-

 

 ザビー、ドレイク、サソードの三つのゼクターが組み合わさり四つのゼクターのパワーが組み合わされた必殺技、ハイパーマキシマムサイクロン。数十体のワームを一撃で一掃する火力を持つ技が、ディケイドと同時にウザイナーへと放たれる。

 

「ウザイナー?!」

 

 それに対して、ウザイナーも放水攻撃で迎え撃つも、火力が違いすぎた。超火力のビームの前に水は瞬く間に蒸発していき、回避することも出来ずに胴体へと直撃を受ける。

 

「ウザイ、ナァアアア?!」

 

 独特の叫び声を上げながら、爆発するウザイナー。それと同時に、雫のような宝石が落ちてくる。

 

「馬鹿な、私のウザイナーが一撃で?!」

 

「イーグレット!」

「ええ!」

 

 驚いて隙を見せたミズシタターレの一瞬を、ブルームとイーグレットは逃がさない。手を握り合い、

 

「大地の精霊よ……」

「大空の精霊よ……」

「今、プリキュアと共に!」

「奇跡の力を解き放て!」

 

「―――!」

 

「「プリキュア!」」

 

 精霊の力が水のようなエネルギーとなり、それを弧を描き渦へとまとめていく。

 

「「ツインストリーム、スプラァッシュ!!」」

 

 精霊の光の激流が、ミズシタターレへと襲い掛かる。だが、彼女はそれを避けようとせずに、両手で受け止める。その威力の前に、彼女の体も後ろへと下がっていく。

 

「く、またしても……憶えておきなさい、プリキュアァ!!」

 

 忌々しいそうに叫ぶと、その場から消え去るミズシタターレ。彼女が消えたことで、安堵の息を漏らすブルームとイーグレット。

 

「やれやれ、ダークフォールとかいう連中もスーパーショッカー並にしつこい奴らなんだな」

 

「まったく、何も一日二回もこなくてもいいのに」

「いい迷惑チョピ」

 

 プリキュアたちが変身を解除し、ディケイドたちも解除しようとするのだが、そこで気づく。

 

「……夏海はどこだ?」

「え?」

 

 ディケイドの言葉に、クウガと咲、舞もあたりを見回すが、それらしい影が見えない。

 

「もしかして、あいつらに……!」

「士くん、私はここですよ」

 

 すると、彼らの後ろから夏海が何事もなかったかのように現れる。

 

「なんだよ、夏海ちゃん、びっくりさせないでよ」

 

 ユウスケの言葉に、夏海は申し訳なさそうに、

 

「ごめんなさい、ユウスケくん」

 

 その言葉に、何かが引っかかった士。だが、その何かが確信に変わらない。

 夏海はゆっくりと歩いていくと、変身アイテムから妖精の姿へと戻ったフラッピ、チョッピに近づくと、その頭を優しくなでる。

 

「フラッピくん、チョッピさんも大丈夫ですか?」

 

「大丈夫チョピ、咲が護っててくれたラピ」

「そうチョピ、舞が護っててくれたチョピ」

 

「そうですか」

 

 その姿に、安心して変身を解くユウスケだったが、ディケイドは何も言わずにライドブッカーの銃口を向ける。突然の行動に、驚く周り。銃口を向けられた夏海も、フラッピとチョッピを抱きかかえて驚きの顔を浮かべる。

 

「士さん、何を?!」

「おい士、何やってんだよ!!」

「そうですよ士くん、ユウスケくんの―――」

 

「黙れ」

 

 言葉と同時に銃声。弾丸が夏海の足元に打ち込まれる。

 

「いいか、夏海は俺や他人のことをくん、さんで呼ぶが……ユウスケのことはユウスケ『くん』とは呼ばない!」

 

「……!」

 

「あ、そういえばそうだ」

「お前は、誰だ……!」

 

 その言葉に、夏海の顔が変わり、一瞬にして邪悪な笑みを浮かべる。それに驚くフラッピとチョッピ。だが、彼らの体を夏海はしっかりと握って放さない。

 

「え、それじゃあ、この夏海さんは……」

「偽者?!」

 

 咲と舞も驚きの表情を浮かべて一歩下がる。夏海は、彼女らしくない低い声で告げる。

 

「流石だなディケイド、この俺の変装を見破るとは……だが、遅かったな」

 

 一閃。

 

「何?!」

 

 光が走ったかと思うと、強力なビームが士の背中へと襲い掛かった。轟音と爆音を響かせて吹き飛ばされるディケイド。あまりの衝撃に変身が解除され、生身の体で地面を転がっていく。来ていたコック服は焼け焦げ、その口から血がこぼれている。

 

「士?!」

 

 同時に、夏海の姿が変化する。全身が毛むくじゃらになり、蚊を思わせるような人方の化け物になる。だが、その左目は大きく盛り上がり、カメラが埋め込まれている。

 

「この姿、スーパーショッカー!」

「いけない、フラッピとチョッピが!」

 

「よくやったカメラモスキート!」

 

 ディケイドを吹き飛ばした強力なビームが放たれた方向から声がする。振り返ってみれば、そこに立っているのはドクトルGとゴーヤーンの姿。

 

「これはこれは、流石はスーパーショッカーの怪人殿。こうもたやすく作戦を成功させるとは」

「当たり前だ、カメラモスキートは私の心血を注いだ怪人。これぐらいたやすい」

 

「ドクトルG!」

「それに、ゴーヤーン!!」

 

 二人の幹部の登場に驚く咲たち。一方でカメラモスキートは羽を羽ばたかせると、ドクトルGとゴーヤーンの元へと下りる。かしずくように頭を下げると、手に持っているフラッピとチョッピを差し出す。

 

「フラッピとチョッピを返して!」

 

「それは無理な話でございます。このお二人からは、太陽の泉の在り処を教えてもらわねばなりませんゆえ」

 

 ゴーヤーンは下卑た笑い顔を浮かべながら、そう告げる。

 

「カメラモスキート、私とゴーヤーンは先にダークフォールに戻る。お前は変身能力を失ったプリキュア二人を抹殺してから帰って来い」

「……は、わかりました!」

 

 二人の幹部を護るように立ちはだかるカメラモスキート。その姿に、二人を護るように立ちはだかるユウスケ。

 

「それではプリキュア殿、仮面ライダー殿、お先に失礼します」

 

 ゴーヤーンとドクトルGの足元に現れる巨大な黒い穴。そこへと体を沈めていく二人。

 

「咲!」

「舞!」

 

 互いのパートナーの名前を呼ぶ二人に、思わず駆け出す咲と舞。だが、それを邪魔せんと襲い掛かろうとするカメラモスキート。だが、ユウスケが瞬時にクウガに変身すると、彼に組み合ってその動きを止める。

 

「フラッピ!」

「チョッピ!」

 

 彼らに向かって必死に手を伸ばし、飛び込む咲と舞。だが、その手は届くことは叶わず、無情にも彼らの目の前で巨大な穴は消えていく。何も掴むことが出来ずに、地面へと転がる二人。

 

「そんな……フラッピ!」

「嘘でしょ……チョッピ!」

 

「く……奪われたと言うのか……二人の精霊が……!」

 

 うめくように言う士。

 

 パートナーであるフラッピとチョッピが奪われる――――それはすなわち、変身する力を失ったと言うこと。

 

 だが、何よりも、家族同然のパートナーを、なす術もなく奪われてしまったと言う絶望。

 

「そんな……」

「どうしよ……」

 

 途方もない絶望が、二人の少女の肩へと圧し掛かった。

 

 

 続く。

 

 途方もない絶望の中で、突き進もうとする少女達。だが、術が見つからずに苦悩する。

 

「フラッピとチョッピを取り返さないと!」

「でも、どうやってダークフォールに向かえばいいのか……」

 

 そんな中、鳴滝が告げるディケイドの力とは?

 

「教えてやろう、ディケイド、貴様に隠された能力の一つをな」

 

 ダークフォールに向かう中、ユウスケはある少女達と出会う。

 

「君達は……ひょっとして!」

 

 絶望の中で光を見つけ出したとき、プリキュアは新たな力を手にする。

 

「天空に満ちる月、キュアブライト!」

「大地に薫る風、キュアウィンディ!」

 

 そして、ついにユウスケが覚醒する。

 

「あれは……金のクウガ?」

 

 第6話「集え、星空の仲間達! ふたりはプリキュアSpalsh☆Star!」

説明
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スプラッシュスターの世界、前篇です。
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