運命の幽波紋 第5話『犬の頼まれ事』
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奏華は戦乙女との戦闘が終わり、ロスヴァイセやオーディンのいる場所へ戻ってきた。

 

「いやァ〜凄いんだなぁ。 戦乙女って言うのも! 反撃してくるときの闘気が半端なかったぜ」

 

戻ってきて早々に先ほどの戦闘の感想を言い始める奏華に、オーディンは少し苦笑いをする。

 

それもそうだろう。

 

ロスヴァイセから聞いた話では、普通の人間である奏華がフェンリルを殴り、ましてやそれを倒してしまうと聞いたときオーディンは何かの間違いだろうと疑ったくらいだ。

 

だからこそ、その力量を測るために神殿で一番強い戦乙女と戦わせてみたわけだが、数撃で倒してしまう強さはあの若さにしては感心してしまう。

 

「(じゃが……あれほどの強さは先ほどの巨人と比較しても大差は無い。 一体、どれほど修練を積んであの領域に経った事やら……)」

 

そんな風にオーディンが思考を巡らせる中、その本人である奏華はロスヴァイセとスタンドについて質問の質疑応答をしていた。

 

「先ほど奏華さんの近くに出現した巨人がスタンドと言うのですね?」

 

「おう。 俺の近くに出てきた奴がスタンドって言うんだ」

 

奏華はついさっきの戦闘で使用したスタンド──運命《デスティニー》を呼び出す。

 

星の白金《スタープラチナ》や世界《ザ・ワールド》と同じ様に人型の同型型であり、まさに奏華の半身とも呼べるようなスタンドである。彼の着ている紅い羽織を運命も着ていて、何故か全ての形や色合いが人に酷似し過ぎているという不思議スタンドであり、ちょっと違うようで似ているところは似ている、というのが体現されている。

 

運命を上から下まで見ることを繰り返すロスヴァイセに奏華は言う。

 

「コイツがスタンドって言うのは分かってもらえたと思うが、由来までは言ってなかったよな。 スタンドとは立ち向かう者、そばに立つ者と言う意味でstand upとstand by meと名付けられたことからスタンドと呼ぶようになったんだ」

 

「それじゃあ、この運命って言うのが奏華さんの立ち向かう者、傍に立つ者ということなんですね……」

 

「exactly《その通りでございます》」

 

奏華はスタンドを戻し、一つ伸びをする。伸びをしている最中に何処かから何かが鳴くような音がすると────

 

「すまん。 俺の腹が鳴ったわ(笑) 一気に動いたから腹がスッカラカンだ」

 

その瞬間ロスヴァイセはクスッと笑い、

 

「では、後少しで夕食の時間になるので食堂に移動しましょうか。 ゆっくり歩いていけば丁度良い時間になると思います」

 

こちらです、とロスヴァイセの先導のもと奏華達は食堂に向かっていく。ちなみにずっと物思いに耽っていたオーディンも忘れずに連れて行った。

 

 

 

†    †    †

 

 

 

それから奏華達は食事を取り、部屋に戻っていった訳だが………。

 

「何故に俺はロスヴァイセの部屋で寝ることになってんの? これってアレか? 思春期の男を生殺しにするための儀式が何かなのか!?」

 

現在の状態をどうすれば良いのか思考を巡らせる奏華を不審に思ったロスヴァイセは彼に言った。

 

「しょうがないですよ。 他の部屋は空いていなくて大体は満室になってしまっているんですから」

 

「それでも何でこの部屋だけ一人部屋になってんだよ……」

 

奏華の疑問もごもっともである。結構の大きさを誇るこの神殿にどれだけのヴァルキリーがいるのか。それが全体の部屋を埋め尽くし、ロスヴァイセを一人部屋にしてしまう辺り、途方もない位のヴァルキリーがいるということを嫌でも分かってしまう。

 

「(本当は空き部屋があるんですけど、そこに止まってもらったら他の人に取られちゃいそうなので私の部屋にしてもらったんですけどね)」

 

一途な彼女は、彼を同僚に取られることを恐れてオーディンをきょうかry……もといO☆HA☆NA☆SHI☆をして頼み込んだ。

 

その結果が今現在である。

 

今頃オーディンはベッドの上で怯えている未来が見えるのは何故だろうか。

 

そんなことはさておき、既に奏華とロスヴァイセはベッドに寝ていて、後目を閉じるだけで夢の国へ一直線の状態である。

 

「ふぁ〜〜……。 そろそろ眠くなってきたので私は先に寝かせていただきますね……」

 

「ん? ああ、おやすみ。 俺はもうちょいしてから寝ることにするわ」

 

目を擦り始めて頭をふらふらさせるロスヴァイセはもう寝るらしく、奏華は少し物思いに耽っている。

 

「じゃあ、おやすみなさい……」

 

ロスヴァイセの挨拶に奏華もおやすみなさいと返し、無言の空間が数十分ほど続く。ロスヴァイセが寝入った事を確認した奏華は、ベッドから降りてドアまで移動していく。

 

「(ちょっくら鍛錬しに行ってくるぜ。 行ってきます)」

 

小声でそう言い残すと、音も立てずにドアを開けて廊下に出て行った。

 

 

 

 

 

「さて、鍛錬すると言って出てきた訳だが……」

 

全くもってそれは違う、と奏華は言いたくなった。

 

話は変わるが、奏華のスタンドである運命《デスティニー》は他のスタンドと同様に能力を持っている。最も、星の白金や世界、D4C《いとも容易く行われるえげつない行為》、|紅の王《キング・クリムゾン》のようにおおそれた能力では無いのだが、それでも使いようによっては最高の効果を発揮する能力を持ち得ていた。

 

それすなわち『運命を予知し捻曲げる能力』である。

 

完全に紅の王のような能力だが、色々な所で相違点が出てくる。例えばキンクリの能力を使えば、自分のこれから起こりうる未来を音声付きで発動者に見せ、それを変える能力となっているが、運命の場合は予知する所までは合っているがそれを変えることは殆ど出来ないと言っても過言ではない。

 

捻曲げると言うのは、簡単に言って起こりそうな事象を他の事象に変えると言うことである。やりようによっては宝くじが一等賞で当たったルートに変える事も出来るが、そんな事をおいそれとできる訳がない。

 

この能力には欠点があり、あまりにも大きくルートを改変し過ぎると、世界が変わった反動が発動者に一気に降りかかってくるのだ。

 

まあ、今現在のようにどこに着いたという程度の改変なら肩こりと足の痛み程度の反動が帰ってくるだけなのだが。

 

「よし、ようやく外に出られたぜェ〜……」

 

それから能力を使用して、何とか外に出られた奏華は休憩とばかりに腰をつく。座ってから数分後、奏華は目の前の暗がりにある草村に向かって呟いた。

 

「なあ、いるんだろ? わざわざ俺を呼び出すとは仲間で復讐でもしに来たか?」

 

誰もいないと思われる場所に、奏華は語りかけるように呟いていく。そして何やら動く気配がしたかと思うと、草村から出てくるモノが。

 

『気づいていたのか。 つくづく得体の知れない男だ』

 

「バァーカ。 誰が得体の知れない男だボケナス」

 

草村から出てきたのは昼間殴り飛ばした狼……フェンリルだった。奏華がここまで来た本当の理由はこれにあった。ベッドに座っていた時から外に来いと、頭の中で騒ぐものだから面倒くさいけど行ってやろうと思ったのだ。

 

『まあいい。 いきなり呼び出したのはこちらが悪かった、謝ろう』

 

「そんな世辞はどうでもいいから。 俺を呼び出したって事は何か要件があるんだろ? 言ってみろよ」

 

『ふむ。 知っているならば話は早い。 実はお前に頼みたいことがあったのだ』

 

頼みたいこと?と、言葉を続ける奏華にフェンリルは頷いて話を続ける。

 

『そうだ。 我が同胞のこの娘をお前と一緒に連れて行って欲しいのだ』

 

そういうやいなや、フェンリルの横に出てきた新たなフェンリル。奏華が倒したフェンリルとは違い、全体的に黒っぽいのだが銀色にも見えるし、黒色とも取れる。

 

「何で俺にそんな大役を押しつけんだよ? フェンリルつったって伝説上の生き物で個体数だって少ないんだろ。 それを見ず知らずの人間に渡すのはアウトじゃねぇのか?」

 

『それには及ばない』

 

どういう意味だ、と言いかけた奏華に被せて、新たなフェンリルが喋り出す。

 

『私達フェンリルの雌は、族長を負かした者に一頭ずつ着いていくという掟があります。 私もその掟に従うのですが、はっきり言いましょう。 あなたといる方が楽しそうです』

 

「そ、そうなのか……」

 

存外、フェンリルでもこういうのが多いのだろうか、そう思わずにはいられない奏華であった。

 

『そういうことだ。 この娘のことをよろしく頼むぞ』

 

「はぁ〜……。 しょうがねぇ、やってやるよ。 お前の口車に乗っかってやるんだから感謝しろよ?」

 

『分かっている。 では本当に頼むぞ』

 

フェンリルは上を向いて高い声で一鳴きすると、素早い動きでこの場から去って行った。この場に残されたのは預かったフェンリルと奏華だけである。

 

ちらりとそのフェンリルを見ると、じっと奏華のことを見続けている。いきなりのことでビクッとした奏華は気を取り直して話掛ける。

 

「なあ、お前名前は何て言うんだ?」

 

『名前………ですか? 無いですね』

 

「何でそんなにさらりと言うんだよ……。 だが、名前が無いとさすがに不便だな。 呼び名も無いって言ってるようなモンだしな」

 

そんなものなのですか、と言うフェンリルにそんなものだ、と相槌を打つ。

 

「しょうがない。 俺が決めるが問題は無いな?」

 

『大丈夫です。 かっこいい名前を所望します』

 

「勝手にハードルを上げるでないわ。 ん〜………黒と白は安直過ぎるからもうちょい他の………」

 

腕を組んで考え続ける奏華をじっと見つめるフェンリル。心なしか目がキラキラ輝いているような気がするのは何故だろうか。

 

やはり、名前を着けてもらうのは犬と同じ様なモノなのか、と思わずにはいられない奏華だった。

 

それから数分後、PONっと手を打った奏華はバッと顔を上げてフェンリルを見る。

 

「決まったぞ! 格好良さそうなのが!」

 

『どんな名前ですか? 勿体ぶらずに教えて欲しいです』

 

「まあ、急かすんじゃねぇ。 今から言ってやるからよォ〜。

 

───────お前の名前はネビリムだ!」

 

『ネビリムですか? 何というか………懐かしいような響きです』

 

そうだろう、と頷く奏華にネビリムはふと気になったことを聞いてみた。

 

『そういえば私はあなたの名前を聞いていませんでした。 あなたの名前を教えて欲しいです』

 

「ん? ああ、そういやァ〜それを言うのを忘れてたっけな。 俺の名前は虚片奏華。 スタンド使いだ」

 

奏華はロスヴァイセと初めて会った時と同じ様にネビリムに向かって自己紹介をした。

説明
犬にだって人に何かを頼みたい事もあるさ……。
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