犬神さん?猫山さん
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【猫山】

 

 犬神さんの明るさや人懐っこさは私に限らず全体的に向けられ、

その延長線上に私がいるような気がする。

 

 秋と一緒にいる犬神さんの態度の方が特別な感じに思えて

正直嫉妬を覚えてしまうくらいだ。

 

「もう、さっさと課題済ませちゃいな!」

「わーん、秋ちゃんの鬼ー!」

 

 イライラ。

 

「ん、どうしたん。猫山」

「ううん・・・なんでもない」

 

「そう、何かあったら相談乗るよ」

「ありがとう・・・」

 

 面倒そうに課題を進める犬神さんの後ろ姿を眺めながら

私は本気で好かれているわけではないのかもって思ってしまう。

ただ猫っぽい部分に惹かれているだけなのかもって。

 

 ため息を吐きながら放課後の教室から除く空模様は私の心と

同じようにどんより曇っていた。

 

 私の気持ちはどんどん犬神さんのことを好きになっていくというのに・・・。

しとしとじめじめ。胸の内がどんどんと湿度があがっていくような

不快感に満ちていった。

 

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 ザァァァァァ

 

 偶然にもどしゃぶりの雨が課題を終えて帰ろうとした私たちの前で

降り出したのだ。

天気予報にもなかったことだから傘など持ってきてるはずもなく。

 

「私一つ持ってますけど、これで帰りますか?」

「んー、悪いし。止むまで待つよ」

 

「いえいえ、相合傘で帰りましょうよ!」

「や、折り畳みじゃ小さいし!なんでそんな必至なのさ!」

 

「あ・・・そうですね」

 

 これだ・・・。調子いいように近づいてくるが、私が拒絶反応を見せると

すぐに引いてしまうとこが見えてしまう。

 

 まぁ、プールやカップケーキでの件で私が強く拒絶してしまったから

気にしているのかもしれないけど。

それは好きすぎで胸が苦しくなってしまうからで・・・。

 

 そこまで考えてから私はため息を吐く。

それは本人に言わないと意味がないってことくらいはわかっている。

わかってはいるが・・・。

 

 犬神さんが苦笑しながら何かを私に喋りながら見上げているのを

横から見てドキッとする。

 

 この距離でこんなんだからあまりに近いと心臓が

止まってしまいそうで怖い。

 

 でもあまり距離を空けすぎて近づけなくなってしまうのは

もっと怖かった。

 

 私は犬神さんの傍にずっといたい。

そりゃ、ほかの子とかに目移りするのはどうにかしてほしいとか

呆れることはあるけれど。根本的な感情はやはり好きなのだ。

 

 ライクではなく、ラブ。しびれるほど熱い感情がこみ上げるほどに。

 

 私は犬神さんの手を取って引っ張った。

 

「ね、猫山さん?」

「ずっとここにいても仕方ないでしょ。別のとこいこう」

 

「え、もしかして私といいことでもしちゃいます?

猫山さんになら大歓迎ですよ!なんて」

 

「その通りかもしれない」

 

「え?」

「私、犬神さんに色々しちゃうかもしれない」

 

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【犬神】

 

 なんということでしょう。

某リフォーム番組のような言葉が脳裏に響くくらい、

今目の前にいる猫山さんがアグレッシヴになっていて

驚きを隠せずにいた。

 

 雨が降っていて外に出られないから、今屋上へと向かう

道に何があるのか期待と不安でいっぱいだった。

 

 もしかして、と思うのと同時に振られてしまうのではないか。

そういう気持ちはある。

 

 昔からそうだった。友達を作るのは簡単なのに好きな人に

近づこうとするといつもドン引きされて私の前から

いなくなってしまうから。

 

「犬神さん、好きだよ」

 

 そんなこと言われてもピンと来ないくらい臆病になっていた。

 

「私もですよ。猫山さん大好きです!」

 

 今ある関係が壊れてしまうのなら、私は恋人なんていらない。

まるで引きこもりのように気持ちが塞がっていたのを。

今あなたは開けようとがんばってくれているのに。

 

「そういう感じじゃなくて・・・。その・・・」

 

 真っ赤になって子猫のように必死に伝えようとして

その言動が愛おしくて私は彼女を抱きしめた。

 

「い、犬神さん。なにを!?」

「私・・・ダメですね〜・・・」

 

「なにが・・・」

 

 互いの表情が見えないようにハグをして私は呟いた。

胸のドキドキが収まらない。こういう表情はあまり見せたくない。

弱い私を彼女に見せたくないのだ。

 

 だから、私がダメという意味で零れた言葉を聞いた猫山さんは

私の背中を撫でながら諭すように囁いた。

 

「犬神さん、私は言ったからね・・・。後は犬神さんの気持ち・・・

聞かせて?」

「私も・・・」

 

 言う途中で猫山さんはすごい力で密着する私の体を剥がして

私と視線を合わせてきた。すごく真剣なまなざしを向けて。

 

「ちゃんと私を見て・・・言って・・・?」

 

 恋心にちゃんと正面から向き合ってくれる子なんていなかった。

いつも冗談か本気と取ると逃げていく子しかいなくて。

上辺だけの付き合いしかしてくれない子ばっかりで。

心が死んでしまいそうだった。

 

 なのに猫山さんを見ていると気持ちが揺さぶられる。

あんなにシャイで消極的な猫山さんが・・・。

 

 その勇気に私は涙が浮かびそうなほど感動をして言葉を

詰まらせてしまう。頬に一筋の熱いものが流れてから

私はブサイクな笑顔を浮かべながら嬉しい気持ちと伝えた。

 

「猫山さん、愛しています・・・。私と付き合ってください・・・」

「うん・・・。いいよ」

 

 これほどの緊張感はかつて味わったことなくて

足が震えて力が抜ける。

 

 猫山さんが私の体に寄せてきたのと同時に二人はバランスを

崩して床にしりもちをつくようにして倒れる。

 

 ここは他に誰もいない。二人だけの世界だ。

あまりにも体の距離が近くて相手の鼓動も聞こえてきそうな。

そんな感覚。

 

 私の上に乗る猫山さんの重みが温もりが匂いが・・・。

何もかもが愛おしい。

 

「犬神さん・・・」

「猫山さん・・・」

 

 チュッ・・・。

 

 猫山さんがとろけるような目をして私の口元に近づいて。

湿っていてぷりぷりした感触に私の心は静かに燃え上っていった。

 

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【猫山】

 

 付き合ってください。いつもの調子のいい感じに言う犬神さんとは違って

潤んだ瞳をしながら口元が少し震えて不安そうに見つめてくるわんこに見えて。

私の胸は煩いくらいに騒ぎ立てる。可愛すぎる、可愛すぎる。

 

 すぐにでも了承したいけれど。言葉が上手く出てこなくて

少し詰まり気味に返事をする。

 

 それから自然に私たちは吸い寄せられるようにお互いの唇を重ね合わせた。

 

 チュッ・・・チュッ・・・。

 

 犬神さんの唇に触れてから離れることができなくて、貪るように犬神さんを求め続けた。

長く長く続くキスの時間。ずっとやっていてもいいくらいに気持ちがいい。

その時、わずかに姉が「舌も入れちゃえ」とか言うのが脳裏に浮かんだが

さすがに今そこまでするほどの勇気がないので小鳥同士が啄ばむような

キスを少しでも長く続けていた。

 

 ふと遠くから足音が聞こえて、どちらからともなくキスを中断して体勢を戻して

立ち上がった。

 

 しばらくして誰も上って来ないから二人で様子を見にいくと、どうやら近くの廊下を

通っただけだったようで。あの幸せな時間が終わってしまったことに

ホッとしたというか、残念だったというか。

 

 ホッという気持ちはドキドキに耐えられずに潰れてしまうんじゃないかってくらい

胸が強く高鳴っていたから。

 

「あ、あはは。なんか照れますね」

「犬神さんにしては珍しい反応だよね。もっと手馴れてるイメージあったけど」

 

「失礼な!こう見えても私はピュアですよ、ピュア!」

「自分で言うとなおさら嘘臭いんだよね」

 

「どうしろと!」

「ふふっ」

 

 必死に純をアピールしている犬神さんを見ていて思わず視線を外して

笑いを堪えるも少し漏れてしまったのを犬神さんは見逃さず。

 

 うざいくらいに絡んできて抱きしめてきた。けど、その時にちょっと真剣な声で。

 

「私、本気ですから」

「わかってるよ」

 

 何度も何度も私は彼女の言葉を聴いて私もそれに応えた。

特別なことには彼女は少し臆病なのかもしれない。

だからああやってふざけたこともするのかも。

 

 いや・・・あれも本性だろうなと、私は苦笑しながら抱いた犬神さんの背中を

ぽんぽん叩く。

 

「そうだ、犬神さん」

「なんですか?」

 

 一度離れて再び目を合わせると、私はちょっと悪戯めいた顔をしながら

自分の携帯を犬神さんに向けて言った。

 

「今度買い物できた時は秋じゃなくて私に連絡してよ」

「え、でも・・・。家も秋ちゃんより遠いし」

 

「嫌なの?」

「嫌なわけないですよ!ただ猫山さんに申し訳なくて」

 

「私はそういう風に気遣われるのが嫌。

特に今は私たち付き合ったばかりなんだよ」

 

 わかるでしょって、気持ちを込めて犬神さんを見つめる。

顔を赤くして小さく頷く犬神さんが可愛らしかった。

 

「わかりました、猫山さん」

「うん」

 

 二人頷いて話を一段落させると辺りが暗くなっていることに気付いた。

今から家に帰るには少し遅いと思われる。ひどくめんどくさくなってきた。

 

「危ないですし、私が猫山さん送っていきますよ」

「や、それじゃ犬神さんが危ないし。余計に時間かかるし」

 

「じゃあうちに泊まります?今日も私一人しかいないので・・・わんこ除いて」

「いいの?」

 

「はい!」

 

 このやりとりでさっきまで初々しかった犬神さんの表情はなくなり、

いつもの明るくて調子の良さそうな犬神さんにもどっていた。

何事もなかったかのようになるのかとちょっと不安になったけど。

 

 荷物を持って教室から昇降口へ、外に出た後は犬神さんの方から

私の手を握ってきてくれた。恋人繋ぎ・・・。

 

 私は単純だから、そういう何気ない行動にもほっこりとした気持ちになって。

心躍らせながら犬神さんの家へと歩いていった。

 

 もちろんその後自宅に電話をかけて出たお姉ちゃんに説明をして

泊めてもらうことを認めてもらったのだった。

 

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 お泊りの日からしばらくして。いつものように部屋でごろごろしていた。

ちょっとだけ違うのは以前より携帯電話に目が行くようになったこと。

 

 いつお呼びがかかるか休日が毎回楽しみにしていた。

思い出し笑いをしている時、携帯電話が受信したのを見て私はすぐさま

携帯を取り出して確認すると電話の通知があった。

 

(来た・・・)

 

 ドキドキする気持ちを抑えながら電話に出ると私は平静を保つようにして

相手に話しかけた。

 

「もしもし」

 

 私が憧れていた特別な関係の一つが達成して身に染みるように感じた。

私たちの関係はここから、今から始まるんだって。

 

「行く!今向かうから待っててね」

 

 好きな人と一緒にいられるのってなんて幸せなんだろう。

時々ケンカをしたりもするけれど。

居心地のいい彼女の傍にいつでも居られるようにがんばる。

私はそう強く想ったのだった。

 

 

説明
ブログで書いたものです。二人が付き合うまでの話なんですが、
ちょっと犬神さんを臆病にしすぎた感があるんですが。
まぁ、イチャイチャしてくれればいいかなと思いながら
書きましたw少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
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犬神さんと猫山さん 百合 犬神八千代 猫山鈴 キス 

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