真・恋姫?無双 〜夏氏春秋伝〜 第三十八話
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バタバタと忙しかった仕事もようやく落ち着いてきたある日。

 

もうひと騒動起こしてやらんとばかりにとある集団が陳留に到着していた。

 

「ん〜〜〜〜……っ!やっと着いた〜っ!」

 

「ちぃ姉さん、騒がない!ちょっとは落ち着いて」

 

「でもでも人和ちゃん。久しぶりに帰ってきたんだよ〜?お姉ちゃんもちょっと騒ぎたいくらいだよ〜」

 

「天和姉さんまで!最近ようやくだけど、私達も人気が出てきてるんだから、騒ぎを起こさないよう配慮しないといけないでしょう?」

 

「まぁまぁ、人和ちゃん。ちょっとくらいなら大丈夫。その為に護衛として兵士さん達を連れてきてるの〜」

 

「う〜ん……まぁ、沙和さんがそう言うのでしたら…」

 

陳留の門手前にも関わらず、集団の中心からは三姉妹と沙和が声高に話す声が聞こえてくる。

 

その内容から察するに、どうやら三姉妹が騒ぎを起こしかねない、と聞いている者がいたら考えただろう。

 

本来ならストッパーたる役目の沙和までもが一緒になって騒ぐものだから、もう手に負えない状態なのであった。

 

 

 

「それじゃあ、沙和は今回の興行で志願してくれた人達のことを報告に行ってくるの〜」

 

「あ、はい。行ってらっしゃ……早…」

 

「沙和も大変ね〜。着いてすぐに仕事とか」

 

「沙和さんの場合、早く終わらせて遊びたいんじゃない?」

 

「あはは、確かにそうかも!」

 

陳留に着くなり城に向かって走り去った沙和を見送りながら、人和と地和が他愛ない会話を交わす。

 

そんな2人の後ろから天和がいつもより一段と高いテンションで話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、地和ちゃん、人和ちゃん!一報亭のシュウマイ食べに行こーよ!」

 

「あ、いいね、それ!ちぃも食べたい!」

 

「ちょっと、姉さん達!無駄遣いはしたくないっていつも言ってるでしょう?」

 

ノリノリの天和、地和にお叱りを入れる人和。

 

いつもならば論戦は人和が圧勝するのだが、今回ばかりは少し勝手が違っていた。

 

「でもでも〜。私達今回の興行で頑張ったでしょ〜?だったら、自分達へのご褒美くらい、あげてもいいんじゃないかな〜?」

 

「いよっ!さすが、天和姉さん!いいこと言った!」

 

「はぁ……分かったわ。但し、一報亭は高いから、1人3個まで!いい?」

 

『はぁ〜い!』

 

珍しく人和が言い負かされた、というよりは折れただけであろうが、ともかく、天和、地和の要求が久方ぶりに通ったのだった。

 

なんだかんだ言いつつも、割とノリノリな人和も加え、意気揚々と一報亭を目指す3人。

 

だが、その軽やかな足取りは、ふと耳に入ってきたある話によって、変えられてしまう。

 

「よう、お隣さん。儲かってるかい?」

 

「いやぁ、そこそこってところだな。やっぱ、長年曹操様に仕えていた夏侯恩とかいう武官が戦死したらしいから、将軍様達が喪に服してるんかねぇ?」

 

「つい先日、洛陽から来たってぇ商人からの情報だったか?だがよぉ、代わりに、って言ったら怒られるかも知んねぇが、御遣い様がいらっしゃったんだろ?」

 

「あんまりそこは関係無いんだろうなぁ。まぁ、どちらにせよ、誰かが買ってくれないとあっちゃあ、俺達露店商には死活問題だわ」

 

「だなぁ」

 

姉妹が通っているのは露天商が道の両脇に店を構えることを許可されている通り。

 

露店商の中は大陸中を周る者がいるため、その情報量は中々のものなのだ。

 

そんな露店商同士の会話が耳に入った途端、3人の足は止まってしまう。

 

「……嘘…」

 

耳から入った情報を頭が受け付けようとせず、天和の口から言葉だけが漏れ出した。

 

「っ!」

 

天和の漏らした呟きがトリガーとなって、地和が駆け出す。

 

「姉さん、待って!私も!」

 

「お、お姉ちゃんも行く!」

 

地和の走る先、その向こうに城があることを確認した人和がすぐに地和に続き、天和も少し遅れて始動する。

 

のんびりした足取りは瞬く間に慌ただしい駆け足へと変貌したのだった。

 

 

 

 

 

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食事時の現在、一刀の姿は街の飯店にあった。

 

以前に一刀が多少の入れ知恵をしたことで、大陸には珍しいテラス席を備えた店。

 

一刀はそのテラス席で食事を摂っていた。

 

その向かいに座るは黒衣隊が一人、周倉。

 

「へぇ。美味いんだな、この店」

 

「ああ、流琉が元々勤めていた飯店だ。料理の味は流琉のお墨付きと言っていいだろうさ」

 

一見すれば男同士仲良く昼食に来た様子。

 

しかし実のところはそうではないことは、2人の醸す雰囲気が物語っていた。

 

尤も、それに気付ける者がどれだけいるのか、ということはあるが。

 

その後も剣呑な空気は変わらぬままに2人は世間話を交えて食事を続け、やがて2人共出された料理を食べ終わった。

 

暫しの食休みを挟んでから、徐ろに周倉が尋ねた。

 

「で?本題は何だ?」

 

「ああ。実は……」

 

「あ〜〜〜〜〜っっ!!」

 

一刀が真剣な表情を作って答えようとしたその瞬間、2人の横から叫び声が割って入ってきた。

 

一体何事か、とそちらを振り向くと、視線の先には肩で息をする地和の姿があった。

 

「あれ?地和じゃないか。それに天和と人和も。おかえり。帰ってきてたんだな」

 

「おお!地和ちゃん、天和ちゃん、人和ちゃん!元気そうで何より!ってか、どうしたんだ?そんなに慌てて」

 

地和達は3人が3人共切羽詰ったような表情をしている。

 

対する一刀と周倉は何とものんびりとしたもので、両者の間の温度差は中々に大きい。

 

荒い息遣いから走ってきたのであろうことは察することが出来たが、その理由が分からない。

 

それが故の周倉の言だったのだが、その一言がどうやら地和に火を点けたようだった。

 

「どうした、じゃないわよ!一刀!さっきあんたが死んだとかって聞いたんだけど?!」

 

「ホントだよ〜!私、い〜っぱい心配したんだから〜!」

 

「隊長……!くっ……」

 

感情のままに捲し立てる地和と天和。

 

言葉の上では一刀を責めてはいるのだが、確かに心配していたことも伝わってくる。

 

そしてそれが伝わるが為に、周倉は羨ましさと嫉妬の入り混じった眼光を一刀に向け、ギリリと歯を食いしばっていた。

 

ところで、今5人がいるこの場所。ここは別に一般人立ち入り禁止のような場所では無い。

 

そのような場所で騒ぐ者は周囲の注目を集める。そして…

 

「おい、あれ!天和ちゃんじゃないか?!」

 

「地和ちゃんに人和ちゃんもいるぞ!」

 

「話している相手は……御遣い様か!?」

 

騒ぎの中心が陳留では有名人となった三姉妹と一刀となれば、当然の如く瞬く間に人が集まって来てしまう。

 

「あっちゃ……天和、地和。話は後で聞くから、取り敢えず今は城に向かおう。

 

 店主。今日の料理も美味かった。ありがとう。勘定はここに。釣りは迷惑料として受け取っといてくれ。

 

 行くぞ、周倉、天和、地和、人和」

 

言うや否や、一刀は三姉妹を追い立てるようにして席を後にする。

 

周倉もその後にピッタリ付いていき、5人は風のように騒ぎの場から去っていった。

 

「あ、北郷の旦那!さすがにこの額は!……行ってしまわれた」

 

一刀の置いていった銭を見て慌てた店主の叫びも虚しく、瞬く間にその姿は見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

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「この辺でいいか。で、地和。何の話だったっけ?」

 

中庭の四阿にまでやって来て、ようやく一刀は足を止めた。

 

改めて聞き返す一刀に即座に地和が喰ってかかる。

 

「だ・か・ら!街に着いたら会話が耳に入ったのよ!一刀が死んだとか言うから急いで城に向かっていたのに…!」

 

「一刀ったら飯店でお昼食べてるんだもん!それはびっくりだよ〜!」

 

天和もまた地和の言葉を遮って詰め寄ってきた。

 

両者の邂逅から時間が経っているものの、2人のテンションは未だ落ち着く様子を見せない。

 

そこで一刀を視界に収めてからずっと黙り込んでしまっている人和に話を振ることにした。

 

「人和、詳しい経緯を教えてくれないか?」

 

「…え?あ、ええ、分かったわ。えっと、先程の話なんですけど、露店が並ぶ通りで商人の方達が話しているのを耳にしたんです。

 

 その内容が、”夏侯恩が死んだ”という事と”天の御遣いが陳留に来た”という事でした」

 

なるほど、と納得し、3人が疑問に思っているであろうことに答えようとする。

 

が、一刀が話し始めるよりも、人和が鋭い視線を一刀に向けつつ質問を投げる方が早かった。

 

「一刀さん、私はこのような噂が広まることを華琳様が無責任に放っておくとは到底思えません。

 

 ですが、実際に一刀さんに会って、ふと浮かんだある仮定が正しいとすれば、むしろ放っておく方がいいのだろうと思いました」

 

開こうとした口を閉じ、一刀は人和の話に耳を傾ける。

 

「私の考えが正しいのでしたら……話題に上がっていた”天の御遣い”というのは一刀さんのことではないのですか?」

 

人和の話を聞いて天和、地和の顔が驚きに染まる。

 

そして一様に一刀を見つめることになった。

 

やはり人和は鋭い、とでも言っておこうか。いや、どちらかと言えば、冷静である、の方が正しいだろう。

 

3人は”夏侯恩の訃報”という情報を突然得ることで心を乱された。

 

だが、もしそれが無ければ、一刀の服装から先の事実を推測することは比較的容易であろう。

 

目まぐるしく遷移した状況に振り回されかけるも、冷静さを保つことが出来たその精神力をこそ褒めるべきだ、と一刀は考えたのだった。

 

「ああ、人和の言う通りだ。今までは訳あって隠してたんだが…まあ、時が来た、ってところか」

 

天和、地和の驚きが更に増し、目を丸くして絶句する。

 

人和も自分で言っておきながらもやはり驚いたようだ。

 

何かを言おうと口を開きかけ、しかし言葉にならずにそのまま閉じてしまった。

 

「だが、それで何が変わるってわけでもないさ。今まで通りで構わない」

 

「そんな……一刀さんがそう仰っても、とても……」

 

「えっと、ね?本当に今まで通りでいいの?」

 

どうしても言い淀んでしまう人和の言葉を遮るように天和が尋ねてくる。

 

僅かに詰まった言葉から、まだ驚きが抜けたわけでは無いことは分かるが、表情からはそれが読めない。

 

さすがにアイドル、それも大陸を獲る、とかつて豪語していただけのことはある。

 

感心を裏に潜めつつ、勿論だ、と一刀が返すと、天和は満面の笑みを浮かべた。

 

「それだったらさぁ〜……一報亭のシュウマイ、奢ってよ〜!ほら、私達に嘘ついてたことはそれでチャラにしてあげるからっ♪」

 

普段の2割増で明るく声を挙げる。

 

そこにはどこか無理矢理作った感が否めないものがあった。

 

妙な雰囲気になってしまう前に、その空気を変えよう。

 

そう天和の目が語っている。

 

一刀としても、明るく親しみやすいことが魅力の3人が変に固くなってしまうのは好ましくない。

 

そこで天和のそれに乗ることにした。

 

「またそこか。まあいいんだが、天和もよく飽きないもんだ」

 

「美味しい物に飽きなんて来ないよ〜。ほら、早く行こ〜!」

 

「そうだな。さ、地和、人和行くぞ。周倉も来るだろ?」

 

「お?いいのか?」

 

「ああ、丁度良いところに3人が来たことだし、店ででも話すよ」

 

腕を振り上げ先頭を行く天和を笑みを漏らしながら一刀が追う。

 

声を掛けられた周倉もまた同様。

 

「地和ちゃん、人和ちゃん、何してるの〜?置いてっちゃうよ〜?」

 

「あ…ま、待って、姉さん!」

 

「姉さん……分かった、今行くわ」

 

天和の考えが伝わったか、残る2人もまた、驚きをひとまず置いておくことにし、天和を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

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「あ〜…むっ……ん〜!美味し〜っ!」

 

「ちょっと、一刀!シュウマイ無くなっちゃったわよ!おかわりはまだなの?!」

 

シュウマイを頬張って恍惚の表情を浮かべる天和。

 

空になった皿を指差して目の端を吊り上げる地和。

 

一報亭に入ったばかりの頃はともかく、食べ始めてしばらくもすれば、天和と地和は自然と元の状態へと戻っていた。

 

「はぁ…」

 

その様子に溜息を抑えきれない様子の人和。

 

しかし、そんな2人のおかげと言うべきか、人和の肩からはすっかり余計な力は抜けていた。

 

「さっき頼んでおいたからすぐ来るよ。少しだけ待ってくれ」

 

「すいません、一刀さん」

 

「いやいや、謝ることは無いよ。それよりも、ほら。人和も食べなって」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

頭が良いが故に色々と考えてしまうことが多い人和であるが、それは今回においても同じであった。

 

そこで一刀は身をもって今まで通りを演じる。

 

その様子を眺め、それに触れ、ようやく人和もなんとか自分を納得させてくれたようだ。

 

言葉に残る僅かな硬さも直に無くなるだろう。

 

そう考え、一刀は内心で安堵の息を吐いた。

 

「お待たせしました〜。一報亭特製シュウマイ、追加4皿になりま〜す」

 

『待ってました!』

 

運ばれてきたシュウマイに我先にと天和、地和が飛びかかる。

 

「姉さん達っ!」

 

人和はそんな姉2人を行儀が悪いと叱りつつ、自身もしっかりとシュウマイを確保していく。

 

実に賑やかに、そして和やかに、一報亭での食事の時間は過ぎていった。

 

 

 

「はぁ〜、食べた食べた。もう、お腹いっぱい!」

 

「お姉ちゃんも大満足〜」

 

「あの…とんでもない量になってますけど、本当にいいんですか?一刀さん」

 

皆が食事を終えた後、テーブルに積み重ねられた皿の山を見て人和が恐る恐る一刀に尋ねる。

 

「なに、問題無いよ。3人とも頑張っているみたいだし、俺からのささやかな贈り物だと思っといてくれればいい」

 

答える一刀の表情に無理らしきものは一切感じられなかった。

 

それも当然、一刀はこれまでの給金にほとんど手を付けていないのだ。

 

その主な理由は多忙であるが、加えて特別お金を使う用事がなかったこともある。

 

時々こうやって誰かにご飯を奢ることが一刀にとっての大きい出費となっていた。

 

「そういえば〜。一刀と周倉さんは何の話をしてたの?」

 

食後の小話に丁度良いと思ったのか、天和が思い出したように尋ねる。

 

それまでは3人が嬉々として食事を取る様子をただ嬉しそうに見つめていただけだった周倉も居住まいを正す。

 

このタイミングならばそれほど問題無いだろうと考え、一刀はその問いに答える。

 

「実は周倉にある任務を頼もうと思っていてな。その話をしようとしていたところだったんだ」

 

「任務?」

 

訝しげな顔をする周倉。

 

それもそうだろう、今まで一刀が任務を言い渡すだけの理由で個人を食事に誘うようなことは無かったのだから。

 

しかし、それをこの場で声に出して問うことは出来ない。

 

周倉は視線で一刀に理由を求める。

 

一刀もまた周倉が疑問に感じることは織り込み済みであり、簡単な説明を追加して先を話す。

 

「天和達はまたすぐに巡業に向かうことになるだろう?その際、側付きの護衛を周倉に任せようと思っているんだ。

 

 周倉なら実力も申し分ないし、何より3人のことをよく知っているわけだしな」

 

「そうだったんだ〜。久しぶりの一緒だね。よろしく、周倉さん」

 

「ちぃ達の護衛を出来るんだから、誇りに思いなさいよね!」

 

「なるほど。事情は分かりました。よろしくお願いします、周倉さん」

 

「あ、あぁ。天和ちゃんにも地和ちゃんにも人和ちゃんにも、誰にも指一本触れさせないぜ」

 

説明に納得を示した姉妹3人は笑顔で周倉に挨拶をする。

 

対して周倉も気合の入った様を見せてはいるが、両者の間にはどうしてか温度差があった。

 

「さて、それじゃあそろそろお暇して、沙和を探しに行こうか。今の話を含めてちょっと華琳様に話があることだし」

 

「そうなの?一刀も大変ね〜」

 

まるで他人事のように言う地和に向かって、一刀はその態度が180度変わるようなことを発した。

 

「何を言っている、地和達3人にも来てもらうぞ?3人のこれからに関する大切な話なんだから」

 

「うぇっ!?」

 

「え〜っ!私、もうちょっと遊びたいよ〜!!」

 

「ちょっと待って、姉さん達!あの、一刀さん。私達のこれからに関する、ってどういうことなんでしょう?」

 

騒ぎだそうとする姉2人を抑え、人和が疑問を呈する。

 

当然そう来るだろうと予測しやすかったために、その回答は澱みなく紡がれる。

 

「3人の活動方針ややってもらう内容自体はこれまでと変わらないよ。ただ、ちょっとした、けれどきっと傍から見れば大きな変更を加えようと思ってね。

 

 まあ、3人の意向を無視してまでそれを実行するつもりも無いわけだから、3人に同席してもらおうと思ってるだけさ」

 

「そういうことでしたら……姉さん、行っておきましょう」

 

「ちぇ〜っ。分かったわよ」

 

「は〜い」

 

姉妹が快く、とまでは言わないが納得を示してくれたことを見届けて5人は店を後にした。

 

 

 

 

 

城に向かう道中、辺りの店の新たな品揃えにはしゃぎながら前を歩く3人の後ろで、周倉が一刀に小声で問うていた。

 

「で、本当の理由は何だ?隊の指令じゃねぇんだろ?」

 

「ああ。察しの通り、これは隊の指令じゃない。だが、無関係と言うわけでもないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

ここで一拍置いて一刀は一層真剣な眼差しを周倉に向けてから続ける。

 

「大陸は今、嵐の前の静けさの中にあると言っていいだろう。直に大陸中を大きな動乱が包み込む。

 

 そうなった時、或いはその直前ぐらいからなんだが、周倉には一つ、大きな仕事を頼むことになるだろう。

 

 どれだけ軽く見積もっても年単位、しかも命の危険も半端じゃない。だが、きっとお前にしか出来ないだろう任務だ」

 

「……俺を黒衣隊に入れたはいいが、隊に必要最低限のこと以外はひたすら戦闘能力を鍛えさせられたのは、それに関係があるのか?」

 

中々どうして鋭いではないか。まさに周倉が言った通りである。

 

「そういうことだ。話を戻すと、今回の任務は、言ってみればその仕事の報酬の前払いだ。

 

 ただ、あの3人には話してないが、勿論断ってくれても構わない。俺が勝手に最善だろうと思っている策なだけだから、きっと代替案はあるはずだからな」

 

「だがよ、あの時からずっと、あんたが最善だと思ってるってことでもあんだろ?だったら俺は拒否することは無ぇよ」

 

思ってもいなかった即答に思わず目を見張る一刀。

 

それを見て周倉は思わずといったように吹き出していた。

 

「あんたもそんな顔をするんだな。でも、まあ驚きもするか。

 

 確かに俺は、始めは天和ちゃん達が助かるなら、ってだけの理由であんたに下った。

 

 だがよ、実際にあんたの下で隊の一員として過ごす内、あんたの、そして曹操様の、大陸を、民を思う気持ちの強さを実感したんだよ。

 

 実際、この街もそうだが、皆住みやすそうにしているしな。俺が黄巾に与する前のとこでは考えられなかったことだ。

 

 そんなだからよ、今はあんたらの理想の為に、俺が出来ることはしたい、って思うようになってんだ。だから、受けるぜ。その仕事とやら。そして完璧にこなしてやらぁ!」

 

「そうか…そう、か。ありがとう、周倉。お前を仲間に迎えて、本当に正解だったようだ」

 

思わず感涙に咽びそうになる。

 

周倉に己の想いが伝わっていたことにも、周倉がそこまで共感してくれていたことにも。

 

(ありがとう、周倉。本当に感謝してもしきれないくらいだ…)

 

心の底まで感謝する一刀。

 

その感謝で暖かくなった気持ちを抱え、4人と共に城に向かうのだった。

 

 

 

 

 

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「む〜っ!沙和、さっさとお仕事終えて遊びたかったのに〜!」

 

「すまんな、沙和。だが、天和達の活動に関係することだし、沙和がいる方が話が早いもんだからな」

 

運よく城の門前で沙和を捕まえることに成功し、6人はそのまま華琳の執務室へと足を向けていた。

 

不満たらたらの沙和をどうにか宥めつつ、目的の部屋に到着、一刀が皆を代表して扉をノックする。

 

「入りなさい」

 

室内からの声に許可を得て6人は入室する。

 

「失礼します、華琳様。既に沙和から聞き及んでいるかとは思いますが、天和達3人が帰還致しましたのでその報告と、同時に一つ提案がございまして伺いました」

 

「提案?また何か目新しいものを出してくれるのかしら?」

 

皆が入室したことを見計らってから発された一刀の言葉に興味を示す華琳。

 

一刀も微笑を浮かべてそれに答えた。

 

「多少は目新しいのでは無いかと。提案内容は今後の天和達の活動についてです。

 

 ただ、そうは言っても特に活動内容を変えてもらう、というわけでは無いのですが」

 

「あら?だとしたら、一体何を提案するつもりなのかしら?」

 

今度は何を言い出すのだろう。華琳の楽しそうな表情からはそんな心躍らせている様が見て取れた。

 

「極単純なことです。天和達の活動名、これを変えてもらおうかと思いまして」

 

「ちょっと待ってよ、一刀!活動名を変えるってどういうことよ!」

 

「一刀さん、さすがにこれには私も抗議させてもらいます。今使っている活動名は私達3人がずっとやってきた名前。

 

 変えろ、と言われてもそう簡単には納得しかねます」

 

「そうだそうだー!」

 

3姉妹から非難が轟々と上がるが、取り敢えずそれを意識の外に置いておき、一刀の説明は続く。

 

「彼女達に名乗って貰いたい名は、”数え役萬シスターズ”です」

 

「しす…何?」

 

聞きなれない言葉が飛び出し、華琳も思わず聞き返してしまう。

 

3姉妹もまた頭上に疑問符を浮かべて一刀を見つめている。

 

まあ、当然こうなるだろうな、と傍白し、説明を追加していく。

 

「”シスターズ”です。まあ、天の言葉、といったところでしょうか。意味は”姉妹”。

 

 ですので、ユニット名…失礼、活動名自体の意味は変わりません。が、天の言葉を使うこと、ここに意味を持たせようと思っています」

 

「天の言葉、ね。通りで…で?その利は何かしら?貴方のことだから、当然用意しているでしょう?」

 

これも一種の信頼か。華琳は既に前向きに検討している様子で、策の利を問う。

 

「今現在、3人は魏国王・華琳様公認ということになっています。そこに、天の御遣いもまた認めていることを示す。

 

 そうすることで3人の活動により一層の効果を期待出来るものと考えています。

 

 幸い3人の実力は確かなもの。実際にここ最近の兵志願数は激増していますので、この策が3人の負担となるようなことはないでしょう。

 

 勿論、3人がどうしても嫌だと言うのであれば、この話は取り下げてもよ…」

 

「やるわ、一刀!!いいじゃない、”しすたぁず”!!」

 

「うんうん!何かこう、天の国〜、って響きだよね〜!」

 

「姉さん……」

 

一刀の言葉を遮るようにしてノリノリで叫び出す地和と天和。

 

手首にモーターでも付いているかの如き手の平返しに人和も片手で額を押さえて頭を振っている。

 

「人和は反対かな?」

 

「……もう一度聞いておきたいんですけど、その、しすたぁず?という名称を使っても、今の活動名の意味合いは変わらないんですよね?」

 

「ああ、そこは心配しなくてもいい。証明しろ、と言われてもさすがに無理だから、そこは信じてもらうしか無いんだが」

 

「いえ、一刀さんがそう仰ってくださるのならそうなんでしょう。一刀さんはそんなつまらない嘘は吐かないというくらいは分かっているつもりですから。

 

 提案のことですけど、姉さん達も既にああですし、私も意味合いが変わらないのであれば特に異存はありません」

 

「ならこれで決まりのようね。天和、地和、人和。貴女達はこれより”数え役萬しすたぁず”として活動しなさい」

 

『はいっ!』

 

人和も納得を示したことで、非常に早いものであるが策の施行が決定する。

 

ここでようやく沙和に話の矛先が向く。

 

「というわけだ、沙和。何から何までを大幅に変更しろ、とは言わないが、出来れば変化があったと分かる程度のことをして貰いたい。

 

 手段は沙和に任せる。必要があれば俺の知識も提供しよう、出来るか?」

 

「まっかせてなの〜!これは沙和の腕が鳴るの〜!」

 

「周倉も、こういうわけで、だ。次の巡業を失敗させる訳にはいかないからな。

 

 お前の実力を見込んで、護衛を頼む、……表向きはな。

 

 頼めるか?」

 

「おう、任せとけ!」

 

ぼそりと付け加えた内容も含め、周倉も同意に首を振る。

 

沙和と周倉への指示を終え、これで用事が全て済んだことになった。

 

「さて…それでは私たちはこれで…」

 

「待ちなさい。一刀、貴方だけ、少し残ってもらえるかしら?」

 

「私ですか?はい、分かりました」

 

「それじゃあ沙和達は今後のことを話し合いに戻るの〜!失礼しましたなの〜」

 

沙和を先頭に皆口々に退席の辞を述べ、部屋を去って行った。

 

 

 

 

 

執務室に華琳と一刀のみが残され、十分に時間が経った後、華琳が静かに切り出した。

 

「一刀、貴方は今の、そしてこれからの大陸をどう見るかしら?」

 

「嵐の前の静けさ、一年と経たず動乱が訪れるかと」

 

「やっぱり、ね。私も同じ見立てよ。一刀、率直に聞くわ。我が魏国、この動乱を生き残れると思うかしら?」

 

「絶対に、とは言えません。どれほど万全に準備をしたとて、不測の事態一つで崩れ去ることもあるのが戦乱の世です。

 

 どこかで一つでも誤れば、忽ち魏国が消滅の憂き目にあうこともありましょう。

 

 ですが、順当に最後まで残る数カ国にはなれるでしょう。そこからは時の運、時代に選ばれた者が勝ち残ることに」

 

「ふふ、厳しいわね。でも、だからこそ信用出来る言葉でもあるわ」

 

辛辣なようにも聞こえる一刀の予測。

 

しかし、それは華琳自身の予測にも大筋で合致したものであった。

 

通常の家臣であれば、このような状況で華琳に同じ質問をされたところで耳触りの良い意見を述べるか、同等の予測からフォローの雨霰となるだろう。

 

だが、一刀は決してそのような楽観意見は述べない。

 

自身の分析に基づいた意見を述べ、他の影響を受けない。

 

その様子に、華琳は一刀の中に再び王としての資質を見た。

 

一刀ならば或いは対等な存在として扱える。そう直感的に思った。

 

それが故か、気づけば華琳の口からある提案、というよりも命令が飛び出していた。

 

「一刀、これからは私のことを華琳と、そう呼び捨てなさい。ついでに敬語も禁止しておこうかしら」

 

「はい?一体何故?」

 

「あら、別に不思議なことでは無いのではなくて?私は大陸をまとめ上げるべく興した魏国の王。そして、貴方は大陸に安寧を齎すべく降り立った天の御遣い。

 

 立場的には対等でも何ら問題は無いでしょう?」

 

「……」

 

確かに、その論に穴は無いように思われる。

 

疑問は、何故突然、そのようなことを言い出したのか、である。

 

ただの気まぐれ、とは考えにくい。

 

何かしら、華琳なりの考えがあるのだろうが、今の一刀にはそれを把握することは出来なかった。

 

「……なるほど、了解した」

 

悩んだ結果、拒否ではなく受諾を選択。

 

まあ、一刀にとってのデメリットがほぼ無いので当然の選択ではあろうが。

 

「ふふ、それでいいわ」

 

その笑顔の下で華琳が何を思うのか。

 

いつかそれが分かる日も来るだろう。

 

「近々、戦乱の世の開始を告げる鐘が鳴るだろう。一瞬たりとも準備を怠らず、入念に備えないとな…」

 

「ええ、そうね。いよいよ始まるわ。私の、曹孟徳の覇道が…」

 

王の資質を抱えた者が2人、並び立って暮れゆく空を見上げる。

 

静かに、しかし着実に、戦乱の世は近づいてきているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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いつも拙作を読んでくださってありがとうございます。

 

今後のことで少し皆様にお聞きしてみたいことがあります。

 

皆さんご存知かと思いますが、BaseSonさんが公式として武将の追加を行われました。

 

その追加された武将の中には私が使用しようと考えていた武将も(当然のことながら)おりました。

 

ここからがちょっとした質問なのですが、これから私のSSの中でもオリジナル武将をまだ数人出すつもりでおります。

 

その武将に関して、事前に考えた性格等が公式とは異なるものとなってしまっています。

 

そこで

 

 

 

@公式を利用した方がイメージしやすいから、公式を利用

 

A姿形、真名含め完全にオリジナル

 

B姿形、真名は公式で性格はオリジナル

 

 

 

これらでどうすべきかと悩んでおります。

 

もし良ければ皆様のご意見をお聞かせください。

 

なお、これは今後出す武将に関してですので、既に登場している武将(孫堅、劉弁、劉協)はこれまで通りでいこうと思っています。

説明
第三十八話の投稿です。


次からようやく時系列を進めていけそう…かなぁ
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コメント
>>禁玉⇒金球様 3姉妹のイメージとしては天和と地和がそれぞれ自由気ままに動いて、人和がなんとか間を取り持つ、って感じで考えてますので。まぁ、黄巾も言わば3人は被害者なわけですしねぇ…(ムカミ)
Aが宜しいかと思います、原作に沿った部分も違う部分も楽しければ楽しいのですから。ときにこの三姉妹は喉元過ぎれば何とやらというか早くも…ね、うん(禁玉⇒金球)
皆様、この2日間のご意見ありがとうございました。皆様の意見を鑑みた結果、今後はAを基本路線とすることにしました。今回のアンケ結果を受けて、今後も楽しんで頂けるよう、執筆に励みたいと思います!(ムカミ)
>>陸奥守様 なるほど、確かに。第3者の自由な想像によって作り出される世界、その自由さこそが二次創作の面白みとも言えますものね。(ムカミ)
2が良いと思う。原作と違うから二次創作は面白いのだ(陸奥守)
>>naku様 暗い!暗いです! でも、現実の芸能界などはそれくらいドロドロしてそうで、怖いものがありますね…(ムカミ)
>>アン様 確かに、人物のイメージが人によって…という典型とも言える例にデレ桂花がありますしねぇ。原作と正反対とも言えるものなのに、確かに桂花であって、しかも魅力溢れているあたり、すごいですよね。(ムカミ)
Aでb今更人物のイメージうんたらってのはなんの問題もありませんからね。公式は公式。ここはここで(アン)
>>神木ヒカリ様 naku様 なるほど、基本路線はAが良さそうですね。真名だけ公式ですか、その手もありかも知れないですね。ご意見ありがとうございます!(ムカミ)
>>naku様 本物の姉妹ですし、喧嘩することはあれど必ず最後は仲良しになるはず!です!(願望)(ムカミ)
基本Aで、真名だけ公式がいいかな。(神木ヒカリ)
>>zeroone様 本郷 刃様 まひろ様 ロックオン様 なるほどなるほど。今のところ、Aを基本にBを混ぜる、がいい感じといったところですかね。他の方も、また既に回答くださった4人の方も、意見がまた出ましたらどんどんお聞かせください。(ムカミ)
>>本郷 刃様 原作でもありましたが、華琳は”気高く、けれど寂しがり屋の女の子”。そういった子は対等な相談相手がいないと、潰れてしまいかねません。だからこそ、無意識にそういった相手を探しているのではないか、と思ってます。(ムカミ)
性格云々はともかく、姿形がはっきりしてるほうがいいです。Bで^^(ロックオン)
個人的にはAを推したいです。外史はいくつあっても良いと思うのですよ。あとは製品が発売されるまでの勝負かと(まひろ)
一刀が華琳と対等な関係を築きましたか、2人の関係が1歩前進ですね・・・AとBを使い分ければよいかと、@は結局のところ詳しい性格まで露わになったわけじゃないですからね(本郷 刃)
すでに考えていた武将は2後々武将を足そうとして公式にあるなら1と分けてはどうでしょう?(夜桜)
タグ
真・恋姫†無双 一刀 魏√再編 

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