英雄伝説〜運命が改変された少年の行く道〜
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〜ケルディック〜

 

「……なんだか理不尽だよね。」

オットーの家を出たエリオットは先程のオットーの話を思い出して不安そうな表情で呟き

「ああ……そうだな。」

エリオットの言葉にリィンは頷き

「領地における税を管理するのは貴族の義務であり権利……帝国の制度がそうなっている以上、どうしようもないと思うけど……」

「――他家のやり方に口をはさむつもりはないが。此度の増税と露骨な嫌がらせはさすがに問題だろう。アルバレア公爵家当主……色々と噂を聞く人物ではあるが。」

「そうですね……民の生活をまるで考えていない政治どころか、民を苦しめている政治ですね。」

アリサ、ラウラ、プリネはそれぞれ厳しい表情をしていた。

 

「えっと……ユーシスのお父さんだよね?うーん、いっそユーシスに相談するわけにはいかないのかな?」

問題となっている人物の親族が自分達のクラスメイトである事を思い出したエリオットは提案したが

「いや……難しいだろうな。当主の決定は絶対……ましてアルバレア家は四大名門だ。」

「実際、皇帝陛下に継ぐくらいの権力を持っているでしょうしね……」

「それにいくら息子の進言とは言え、アルバレア公爵自身が聞かない可能性が高いでしょうね。」

「やっぱり無理かぁ……」

リィンやアリサ、プリネの説明を聞いて肩を落として諦めた。

 

「―――うんうん、悩んでるみたいね、青少年。」

その時サラ教官がリィン達に近づいてきた。

「サラ教官……」

「ど、どうしたんですか?」

「そろそろ行こうと思ってね。予想通りB班の方がグダグダになってるみたいだからちょっとフォローしてくるわ。」

「えっ……!?」

「今からB班の実習地に向かうんですか?」

「紡績の町パルムといえばここから相当離れているが……」

サラ教官が向かおうとしている場所を聞いたアリサとエリオットは驚き、ラウラは目を丸くした。

 

「ま、何とかなるでしょ。まあ話に聞く所ツーヤのお蔭で最低限の依頼はB班全員でやり遂げたみたいよ。現役親衛隊長のツーヤを向こうに入れて正解だったわ♪」

「ツーヤが……」

「あの二人を一体どうやって宥めたのかしら?」

サラ教官の説明を聞いたプリネは目を丸くし、アリサは不思議そうな表情をした。

 

「ああ、簡単な話よ。班のメンバーを二手に分けてユーシスとマキアスを離れ離れにして依頼をこなしたそうだけど……宿屋に戻った後は結局いつもの如く言い合いを始めたそうよ。」

「確かにあの二人の仲の悪さを考えると妥当な判断ですね。」

「でも結局喧嘩していたら意味ないけどね……」

「まあ、ツーヤ自身は悪くあるまい。むしろ班が一丸となって動けない状況下でありながらも、依頼をこなしたのだから、成果としては充分だし、良くその判断をしたと思う。」

サラ教官の説明を聞いたリィンは納得した様子で頷き、エリオットは疲れた表情で呟き、ラウラは静かな表情で答えた。

 

「―――そういうわけでこちらは君達に任せたわ。せいぜい悩んで、何をすべきか自分達自身で考えてみなさい。」

「あ………」

「女神(エイドス)の加護を。レポート、期待してるわよ。」

そしてサラ教官はリィン達から去り、駅の中へと入って行った。

 

「……参ったな。」

「な、何だかこっちの状況を完全に見透かしてたような……」

「まったく、昼間から飲んでたのに抜け目ないというか……」

(フフ、さすがは元A級正遊撃士ね。)

「…………………いずれにせよ、今日は宿に戻るとしよう。レポートもあることだし、夕食は早めに取る必要がある。」

「そうだな……」

「はあ……さすがに疲れたわね。」

「町中や街道を駆け巡った挙句、魔獣退治もしましたしね。」

「ご飯を食べたらそのまま寝ちゃいそうなんだけど……」

その後リィン達は宿に戻って夕食を取り始めた。

 

〜風見亭〜

 

「ふう、ごちそうさま。うーん、さすがに野菜とか新鮮で美味しかったねぇ。」

「ああ、さすがに地の物の料理は違うな。」

「ライ麦を使ったパンもなかなかの美味だった。」

「郷土料理でしか味わえない味でとても美味しかったです。」

「うーん、こんな楽しみがあるなら”特別実習”も悪くないけど。今頃B班のエマたちはどうしてるのかしら……?」

それぞれが夕食の感想を言い合っている中、B班の事を思い出したアリサは苦労していると思われるエマたちの様子を思い浮かべながら呟いた。

 

「そうだな……こんな風に一緒にテーブルを囲んではいなさそうだけど。」

「そうだねぇ……」

「ユーシスさんとマキアスさん……エマさん達ならまだしも、他の方達に迷惑をかけていないとよいのですが……」

そして会話が途切れるとその場に静寂が一瞬訪れ、ある事が気になっていたエリオットはふと疑問を口にした。

 

「……本当、僕達”Z組”って何で集められたんだろうね?どうもARCUSの適性だけが理由じゃない気がするんだけど。」

「うん、それは間違いあるまい。それだけならば今日のような実習内容にはならぬだろうしな。」

「どうやら私達に色々な経験をさせようとしてるみたいだけど……どんあ真意があるのかまでは現時点ではまだわからないわね。」

「そうだな………」

「……………」

それぞれが考え込んでいる様子を見たプリネは静かな笑みを浮かべて見つめていた。

 

「―――士官学院を志望した理由が同じという訳でもないだろうし。」

「士官学院への志望理由……」

「その発想は無かったわね……」

リィンが呟いた推測を聞いたエリオットは呆け、アリサは目を丸くした。

 

「ふむ―――私の場合は単純だ。目標としている人物に近づくためといったところか。」

「目標としてる人物?」

「もしかして父親であるアルゼイド子爵ですか?」

ラウラが呟いた言葉を聞いたエリオットとプリネは尋ねたが

「ふふ、それが誰かはこの場では控えておこう。アリサの方はどうだ?」

ラウラは静かな笑みを浮かべて答えを誤魔化した後アリサに視線を向けた。

 

「そうね……―――色々あるんだけど”自立”したかったからかな。ちょっと実家と上手く行ってないのもあるし。」

「そうなのか……」

「―――私は前にも言いましたが、エレボニアとメンフィルの関係の修復の為、ですね。本来私はそのつもりはなかったのですが、ある方に頼まれて通う事にしたのです。」

「ある方?」

「それって誰なの?」

「プリネ達を他国の士官学院へ通うわせる事を依頼した人物……気になるな。」

プリネが呟いた言葉を聞いたアリサは首を傾げ、エリオットは尋ね、ラウラは考え込んでいた。

「ふふ、私もラウラさん同様この場でその名を言う事は控えておきますね。」

「フフッ、一本取られたな。」

プリネは微笑みながら答え、プリネの答えを聞いたラウラは苦笑した。

 

「うーん、その意味では僕もプリネ達と同じ少数派なのかなぁ……元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね。」

「あら、そうなの?」

「もしかして音楽系の進路ですか?」

エリオットの意外な話を聞いたアリサは目を丸くし、エリオットが音楽が好きな事を知るプリネは尋ねた。

 

「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど……リ、リィンはどうなの?そう言えば今まで聞いたことなかったけど。」

「俺は……そうだな………学院に入った理由は二つあるが………その内の一つが”自分”を―――見つけるためかもしれない。」

エリオットに尋ねられたリィンは考え込んだ後答えた。

「え……」

「へ……」

「まあ……」

「…………………」

(???どういう意味かしら?)

リィンの答えを聞いたその場にいる全員は呆け、リィンの中にいるベルフェゴールは首を傾げた。

 

「いや、その。別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか……」

「えへへ。いいじゃない、カッコよくて。うーん……”自分”を見つけるかぁ。」

「ふふ、貴方がそんなロマンチストだったなんて。ちょっと意外だったわね。」

「フフ、私もリィンさんがそんな事を言うなんて驚きました。」

(そういう所も可愛いわよ♪)

「はあ……変な事を口走ったな。」

エリオット達に微笑ましそうに見つめられたリィンは疲れた表情で溜息を吐き

「……………」

ラウラは会話に加わらず真剣な表情でリィンを見つめていた。

 

その後マゴットに早朝に起こす事を頼んだリィンはエリオット達と共に部屋に戻ろうとしたがラウラに呼び止められて立ち止まった。

「―――リィン。」

「?どうしたんだ?」

「迷いもあったがやはり聞いておこう。―――そなた。どうして本気を出さない?」

「え。」

(へえ?)

ラウラの唐突な質問を聞いたリィンは呆け、リィンの中にいるベルフェゴールは興味ありげな表情をした。

 

「そなたの剣、そなたの太刀筋、そして列車で呟いたかのカシウス卿と同じ流派である事……”八葉一刀流”に間違いないな?」

「あ……」

「”剣仙”ユン・カーファイが興した東方剣術の集大成とも言うべき流派。皆伝に至った者は”理”に通ずる達人として”剣聖”とも呼ばれるという。」

「……詳しいんだな。帝国ではほとんど知られていない流派のはずなんだけど。」

「我がアルゼイド流は古流ながら他の流派の研究も欠かしておらぬ。それに父に言われていたのだ。『そなたが剣の道を志すならばいずれは八葉の者と出会うだろう』と。」

「”光の剣匠”が?はは、光栄というか恐れ多いというか……」

(なるほど……もしかしてリィン(この子)が丁度いい好敵手になると思っていたのかしら?)

ラウラの話を聞いたリィンは目を丸くした後苦笑し、ベルフェゴールは興味ありげな表情でラウラを見つめていた。

 

「…………………」

一方ラウラは何も答えずリィンをジッと見つめ

「俺は……ただの”初伝”止まりさ。確かに一時期、ユン老師に師事していたこともある。だが、剣の道に限界を感じて老師から修行を打ち切られた身だ。」

見つめられたリィンは真剣な表情で答えた。

 

「……え……」

「その、だから別に手を抜いてるわけじゃないんだ。八葉の名を汚しているのは重々わかっているけど……これが俺の”限界”だ。……誤解させたのならすまない。」

「…………………」

リィンの答えを聞いたラウラは考え込んだ後リィンに背を向けた。

 

「ラウラ……?」

「そなた自身の問題だ。私に謝る必要はない。……いい稽古相手が見つかったと思ったのだがな。」

「あ……」

僅かに落胆した様子のラウラの言葉を聞いたリィンはラウラが自分が嘘をついている事を気付いている事に気付いた。

 

「少し外で素振りしてくる。悪いが、先にアリサたちとレポートをまとめていてくれ。」

そしてラウラは宿から出て行き

「…………………」

(ご主人様が本気を出さない理由って、私と戦った時に見せてくれた”あの力”が関係しているのでしょう?)

(…………ああ。)

(そう。まあ、ご主人様がそれでいいのなら私は構わないし、いざ危険になった時はこの私がいるからね。ご主人様の判断に任せるわ。)

(……助かる。今だけはその言葉がありがたく身にしみるよ……)

その様子を見守っていたリィンは肩を落とした。

 

(……色々あるみたいね。何か抱えているような顔はたまにしていたけど……)

一方リィンとラウラの様子を2階から見守っていたアリサは考え込み

(アリサも気付いていたんだ。ふふ、何だかんだいって結構気にしてたみたいだね?)

アリサの小声を聞いたエリオットは苦笑しながら尋ねた。

(そ、それはその……謝るチャンスを伺ってて……べ、別に意識してたとかそういうのじゃないんだからね!?)

(あはは……)

(クスクス……)

恥ずかしそうな表情で呟いたアリサの言葉を聞いたエリオットとプリネは微笑ましそうに見つめていた。

 

(でも……何かを抱えてるのは誰だって同じなんじゃないかな。君だってそうじゃないの?)

(それは……―――確かにそうね。)

その後レポートを書き終えたリィン達は明日に備えて休み始めた。

 

 

説明
第31話
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コメント
感想ありがとうございます。 本郷 刃様&Kyogo2012様 リィンはホントに苦労人ですねww(sorano)
この中で一番の苦労人はリィンですね。しかし、ラウラよ。お前もそんなに力があるわけじゃなかろう?一人で修行ぐらい出来ないのか?他人の力で自分の力を高めようなんて・・・・ってゲームでも思ったよ。(Kyogo2012)
ある意味一番大変なのはリィンですからね・・・(本郷 刃)
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