小説8
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その頃、友達の焼肉バイキングやステーキハウスが大好きなとても体の大きな広ちゃんの家政婦のお仕事で出会った友達の伊藤ジョイさんという女性の山手の邸宅によく遊びに行ったものだった。

 

ただ単に遊びに行くわけでなくて、既に広ちゃんがジョイさんの邸宅の家政婦として雇われていた期限が切れていたので、無料で掃除洗濯、雑用、家事を手伝うために殆どボランティアに近い形で関わりを続けていたのだった。

 

掃除をしたお礼に体の大きな広ちゃんの方は、何かの飲み物のケースを1ケース(だいたい中身は30本くらい)渡してもらっていたが、私の方は別に何ももらえなかったので馬鹿らしくて、掃除や洗濯、家事もあまり捗らず適当に過ごしていた。それで、その女性は、金髪だったのだが、家の留守電は常に英語で、始まりの英語が“This is joy・・・”でちょっと変わっているな日本で英語使う必要はないのにと私はいつも思っていた。

 

さらに、その伊藤ジョイなる女性は、「私はアメリカ人よ、両親はアメリカに住んでいるの」と言っていたが、後々に分かったことだが、彼女の両親は、アメリカではなく日本に住んでおり、両親も含め、彼女も紛れもなく日本人だった。それに目も釣り目で切れ長で、とてもアメリカ人とは思えない人相だった。どうみても純和風顔だった。それでも、いつも彼女は、人前では、そう言い切っていたのだ。

 

そんなある日のことだった。広ちゃんから頼まれて、伊藤ジョイさんの邸宅にお手伝いに行って欲しいとその頃、自分の住むアパートに電話が来たのだった。それで、いつもは一緒にその邸宅にお手伝いに行っていたので、今日は違うのかと広ちゃんに尋ねると「私は今日は行けない、用事があるの、でも、ジョイさんから電話が来て美容院に行きたいって言うから、彼女目が悪いの知っているでしょ、だから今すぐジョイさんのところへ行って美容院に連れて行ってあげて」と言われ、言われるままにすぐジョイさんの邸宅に車で向かったのだった。

 

確かに伊藤ジョイという女性は、目が悪かった、初めて広ちゃんと一緒に会った時も、自分の服を探す時目と顔は上の方を向いたまま手だけ床か畳の上で上下左右、斜めや円を描くように動かして、自分の持ち物を探したり服を探していたので、かなり目が悪いことはよく見て取れたのだった。ただ、最終的に目にビーズを入れる手術をして完治したのだった。

 

最初にジョイさんのいる邸宅に私は呼び鈴を押してから入っていった。するとしばらくしてジョイさんが、玄関の扉を開けて部屋に上げてくれた。それから応接間に行ったのだが、そこで突然ショッキングなことを言われたので、スッカリ私はこの女性のことが怖くなってしまった。「いきなり50万円を貸してくれないかしら」と言われたからだ。

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「何故、私があなたに50万円を貸さないといけないのですか?」私は確か咄嗟にそう言い返したと思う。すると「何故ってお金に困っているから、どうしてもすぐに50万円が必要なの、何とかならないかしら」とヒタスラ大金を請求してきたので正直言って面食らってしまった。また同時にこの人は、非常に常識がない人だと思った。その当時既に40代だったのにそんなすごい大金をいきなりクレと言える神経がどうしても私には理解できなかったし、年がいくつであろうがちょっと酷いなと思ったのだった。

 

それで、思わずムカッと来たので「すみません、私帰ります」と言い出したら、「ちょっと待って」と言うので、「どうしてですか?」と言うと、「だったら一緒に考えましょう、どうしたらお金をつくれるかを・・・」と、しきりに何とかお金をつくる方法を話し合いたいとどこまでも粘ってくきて、「持っている癖に」まで言ってのけてきたのだ。何なんだこの人はと思ったけど、美容院に行く日だったので、とにかく美容院に車で連れて行って降ろしたけど、あまりに態度が失礼すぎるし会話の内容も酷すぎると思ったのでその場でおきざりにして帰ってしまったのだった。

 

その頃の自分は結構短気だったと思う、また当時の自分の人相は、目はぱっちりしていて眉毛はつりあがっていた。

 

また別の日のことだ。広ちゃんの話によるとジョイさんは万引き癖がすごいらしく、どこかに出かけると必ずお金がない訳でもないのにお店に並べている物を必ずバッグの中にいくつかしまい込む悪癖があると言うのだった。

 

私は思った、そんな素行の悪い可笑しな人と関わったら自分まで同じカラーに染まって変になってしまうのではと強く懸念したのだった。

 

ジョイさんは、邸宅の他に部屋に洋服だけがつまった衣装部屋みたいなアパートも所有していて、そこにも招待されたことがあった。びっしりスーツやドレスが詰まっていてすごいなと思ったものだった。なので、おそらく接客期間も長いんだろうなと想像してしまった。

 

またある日、突然ジョイさんが元いた邸宅を引っ越してしまって、青ざめた顔をした広ちゃんがあちこち探し回ったらすぐ近所の別の邸宅に引っ越していた時もあった。その時は、広ちゃんが居留守を使われても何度も新しく越した先の邸宅の呼び鈴をしつこく鳴らし続けて、玄関のドアをドンドンと激しくたたいて『ジョイさん!ジョイさん!』としつこく叫び続けていたら、さすがに根負けしたらしくジョイさんが扉を開けて姿を現してまた話ができたのだった。ジョイさんがその時引っ越した理由が本当に信じられないような内容なのだ。広ちゃんの自営業の親から30万円を借りたのを返すのが嫌でその倍もお金がかかる引っ越しを近所でしてのけたのだった。当時はどこも敷金と礼金が0などなかった時代だから、信じられないような奇行だった。結局、ジョイさんは姿を現したのもつかのま、27万円だけ返すとあと3万円は広がつけて返しておいてだけで無視を決め込みまたすぐに姿をくらましたのだった。

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ジョイさんには、パトロンがいた。パトロンの名前は長谷川さんだった。顔は名犬ラッシーのように綺麗なすっとした感じの面長で薄い顔だった。彼が邸宅の家賃の保証人でもあった。この人にはすぐに会うことはなかったけれど次に話す事件がきっかけで知り合うこととなった。

 

その事件とは、広ちゃんと私とジョイさんの中が疎遠になるような恐ろしい事件だった。それは、ある日突然起きた。ジョイさんが過去に騙したおじいさんが結婚詐欺で裁判所に訴えた上にやくざに依頼をしたことだった。結婚詐欺の被害金額は総額120万円だった。この事件のせいでジョイさんは山の手から消えたのだった。

 

ジョイさんが山の手から消えて、私や広ちゃんや広ちゃんの友達の旦那さんが心配になって夜中にみんなでジョイさんの邸宅の中に上がりこんで電気を消してろうそくの炎だけにしておいて、こっそりジョイさんが戻って気はしないかと一晩中泊り込みで待ち伏せしたこともあったが無駄だった。

 

結局、ジョイさんは、その頃、後で分かったのだが東南アジア方面に一人逃げていたのだった。

 

また、ジョイさんが逃亡している期間にやくざのなんとか組の黒くて太い筆書きの借金請求の張り紙が邸宅の玄関にベタッと貼られていて、“〇〇〇組参上、至急電話くれたし”とハッキリ書かれていたことが今でも髣髴と脳裏に蘇ってくる。

 

そして、書いてあるとおり、友達の広ちゃんがやくざに電話をしてしまい、横浜の関内のルノワールかなんかの喫茶店でやくざと待ち合わせして話し合っていた姿もまざまざと今でも鮮明に思い出すことができる。とても強面で黒いサングラスをしていた。私は広ちゃんとやくざが話し合っている斜め後ろの席でじっとしていて何かあったらすぐ110番する係りだった。

 

結局何事もなくその場は平和に話し合いが終わったのでホッとしたのだった。

 

その後、先ほど書いた、長谷川さんと出会うことになったのは、大家さんに訪ねたら彼がジョイさんの邸宅の保証人だという事で、どうしても話がしたいからと言ったら連絡先を教えてくれたことがきっかけだった。

 

そして、見事、苦労の甲斐あって、邸宅の保証人の長谷川さんと邸宅前で待ち合わせをして広ちゃんと私との3人で会うことが実現したのだった。長谷川さんが言うには、『自分は友達でも恋人でもなんでもない、ただインドネシアでブティックをやっていると言っていて、話し方もしっかりしているし身なりも良く羽振りも良さそうだったからあくまでビジネス上の関係で信頼して保証人になった』と言い切っていた。また失礼な話だが、『男と女の関係はまったくない、バッチイと思ってそんなこと考えたことはない』とまで言うので、ジョイさんも変だけどこの人も少し変だと思い、驚いて我が耳を疑ったものだった。

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結局、長谷川さんのところへはジョイさんから連絡が行くことはなく、だから早々に邸宅を引き払うこととなり、滞納した家賃の45万円の3か月分全ての支払いを彼が背負わされていた。また、長谷川さんが言うには「あの女のことだ、もしも勝手に邸宅の荷物を処分したりしようものならあとで何を言い出すかわかりはしない、だから安いアパートを借りてそこに全部ぶっこむつもりだ」と言う事で、ジョイさんが去りし後の邸宅を引き払う日に集まった私と広ちゃんとその友達の操ちゃんに「欲しい物があったら何でもいいからもらっていっていいよ」と気前よく言ってくれたので、私は白いスチール製のサクランボのデザインの額縁と白いカラーボックスと赤い綺麗な海外製の敷物をもらった。

 

当時もしや姿を現すかもと警察の人も現場に来ていて、警察にも話を聞いたのだが、ジョイさんのパスポートは友達名義で、本名はヨウコだった。アメリカ人と言うのは真っ赤な嘘で日本人で親もジョイさんの話ではハワイに住んでいるそうだったけど実際は日本暮らしだそうだった。

 

そしてその日が過ぎてもしばらくジョイさんは戻ってくることはなかったのだが、一ヶ月かもっと早くか忘れたけれど、広ちゃんのところにジョイさんから連絡が来て、東南アジアに逃亡していたけど戻ってきたとのことで私と広ちゃんとジョイさんの3人だけでこっそり落ち合ったのだった。だが私は元々は広ちゃんの紹介で会っただけだったので、色々あったし、その後カラオケに行くのは遠慮したのだった。ジョイさんの話しによると「自分は東南アジアに旅行に行っただけで旅先で熱病にかかってダウンして話もできない状態だったので逃げていた訳じゃない、お金だって相手(被害者)との最初の借用書での約束で毎月返せるだけでいい、100円づつでもいいのだから、私は詐欺をしていない」と言い切っていた。

 

すぐにその話をジョイさんの保証人の謎のパトロンの長谷川さんに広ちゃんと話に言ったら、すごく驚いた感じで、でもとても嬉しそうに「言っておいてくれ、俺は悪い奴じゃない、俺が何とかする、俺に任せてくれ」と言い放っていた。

 

それから、またジョイさんは、海外に逃亡したという情報だけを残して日本での足取りはピタリと止まってしまったのだった。だが、それから一年か二年後にその後に知り合った新しい友人のM・Sちゃんと横浜に遊びに行った時に、また彼女の姿を見てしまったのだった。ジョイさんは、ハッキリとは、とは覚えていないけれど緑っぽい上下のつなぎみたいな格好で(迷彩色だったかもしれない)髪の毛は金髪でふわふわとカールが巻いており長さは長めだった。そして、大きなブランド製のバッグを手に持っていた。すごい驚きと懐かしさが溢れてきたことを今でも覚えている。

 

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