英雄伝説〜運命が改変された少年の行く道〜 |
〜クロイツェン州領邦軍拠点・オーロックス砦〜
「こ、これは………」
「凄いな……」
オーロックス砦に到着したリィンとマキアスは砦がさらけ出す雰囲気に呑まれた。
「”オーロックス砦”……帝国東部、クロイツェン州の治安を守る『領邦軍』拠点ですね。」
「ちょっと予想外。ベースは古い砦だけど大規模に改造されてるね。」
「さすがは四大名門の一角を敵の刃から守る拠点と言った所ですか……」
エマは静かな表情で呟き、フィーは目を丸くし、ツーヤは真剣な表情でオーロックス砦を見つめていた。
「………………」
一方オーロックス砦の事を一番良く知っていると思われるユーシスは呆けた表情で砦を見つめ
「ユーシス、どうしたんだ?」
ユーシスの様子に気付いたリィンは尋ねた。
「いや、何でもない。とっとと魔獣の事を報告しに行くぞ。」
「……?」
そしてリィン達が少し進むと貨物列車が砦内へと入って行った。
「……………」
その様子をユーシスは目を細めて見つめ
「あ、あれは……!?」
「バ、バリアハートからの貨物列車みたいですけど……」
マキアスは驚き、エマは戸惑いながら貨物列車を見つめた。
「……積荷は”戦車”か。それもかなりの重戦車みたいだけど……」
「RF(ラインフォルト)が生産している最新鋭の主力戦車。”18(アハツェン)”だね。」
「……メンフィル帝国軍でも採用されている戦車です。」
リィンの疑問にフィーは答え、フィーの説明にツーヤは真剣な表情で補足した。
「………………」
その時無言で通り過ぎて行く列車を睨んでいたユーシスは砦に向かって歩き出し
「お、おい……?」
ユーシスの行動にマキアスは戸惑った。
「……グズグズするな。とっとと用事を済ませるぞ。」
「くっ、あいつ……」
「と、とにかく私達も行きましょう。」
「そうだな……」
そしてリィン達は砦の出入り口を守る領邦軍の兵士達に近づいた。
「お前達は……」
「制服……?そう言えば。」
「自分達はトールズ士官学院、”Z組”の者です。」
「……こちらで出した魔獣退治の報告に寄らせてもらった。」
「お前達が……」
「話には聞いていたが、子供までいるのか……」
リィンとマキアスの報告を聞いた兵士達は驚きの表情でリィン達を見つめた。
「む。」
兵士達に視線を向けられたフィーは頬を膨らませ
「その、指定された魔獣は先程何とか退治しました。この場で報告をする形で構いませんか?」
エマは遠慮気味に尋ねた。
「ああ、それは構わんが……」
「お前達、本当にあれを倒せたのか?」
「ええ、何とか。」
「……まあ、手こずりはしたが。」
「軽傷は負いましたが、全員無事で撃破しました。」
「ふむ、大したものだな。動きが素早い上に獰猛だからつい放置してしまっていてな。」
リィンやマキアス、ツーヤの報告を聞いた兵士の一人は感心し
「装甲車で行き来する分はまったく実害はなかったが……さすがに学生に回していいか、少々心配だったもんでな。」
もう一人の兵士は目を丸くしてリィン達を見回した。
「そうだったんですか……」
「フン……いい訓練になったとだけは言っておこう。」
「……?」
「へ……」
ユーシスの声を聞いた兵士達は呆け
「!!」
「ユ、ユーシス様!?どうしてこんな所に……ハッ、その制服、もしや……!」
やがてユーシスを確認すると顔色を変え、ユーシスはリィン達の前に出た。
「見ての通り、ちょうど実習でバリアハートに戻ってきている。あくまで士官学院の一学生。彼らと同じように扱ってくれ。」
「は。」
「了解であります!」
(凄いな……)
(……フン、領邦軍にまで顔が利くというわけか。)
ユーシスの指示に敬礼をして答えた兵士達の様子を見たリィンは驚き、マキアスは呆れた。
「それよりも……先程の列車はなんだ?」
「ああ、ご覧になりましたか。いやぁ、ついに我が領邦軍にも戦車が配備され始めましてね!」
「やはり装甲車と戦車では装甲と火力が段違いですし……いつまでも正規軍の連中に大きな顔をさせておけませんよ!」
「ええ!それにこれならケルディックに要塞を建設しているンフィル軍にも対抗できますよ!ケルディックには”空の王者”の二つ名で恐れられている”竜騎士(ドラゴンナイト)”の部隊も配備されているそうですが……戦車の前にはひとたまりもないでしょうな!」
真剣な表情のユーシスの質問に兵士達はそれぞれ嬉しそうな表情で答えた。
「「……………………」」
兵士達の話を聞いたマキアスは呆け、ツーヤは真剣な表情で黙り込んでいた。
「……口を慎め。既に耳に入っていると思うが俺のクラスメイトの中にはメンフィル帝国の皇族、貴族出身の留学生もいる。ケルディックの件のように再びメンフィル帝国ともめてアルバレア公爵家の品格を下げるつもりか?」
「い、いえ!」
「め、めっそうもございません!」
嬉しそうな表情で説明していた兵士達だったがユーシスの忠告に慌てた様子で答えた。
「………見たところ、砦の方も大幅に改修されたようだが?」
「ええ、つい先月に大規模な工事がありました。ちょっとやそっとの砲撃ではビクともしないそうです。」
「いずれは対空防御も大幅に強化される予定です!我らがクロイツェン州の誇り……どうか楽しみにして頂けると!」
「……ああ。―――用件は済んだ。バリアハートに戻るぞ。」
兵士達の言葉を重々しい様子を纏って受け取ったユーシスは兵達に背を向けた。
「そうだな……」
「そろそろ夕刻ですし……」
「ラジャ。」
「それじゃあ行きましょうか。」
「……………………」
そしてリィン達はバリアハートへと戻り始めたがマキアスが呼び止めた。
「待て……!これはどういうことだ!?」
「マ、マキアスさん……」
ユーシスを睨むマキアスの様子をエマは心配そうな表情で見つめ
「………………」
ユーシスは何も答えず黙り込んでいた。
「共和国と国境を接しているクロスベル方面やメンフィル帝国と国境を接しているケルディック方面はともかく……!どうして地方の領邦軍なんかに最新の戦車が必要になるんだ!?おまけに砦を大幅に改造して、対空防御まで備えるなんて……さすがに常軌を逸しているぞ!?」
「……マキアス……」
「まあ、確かに。」
「フィ、フィーさん。」
マキアスの指摘を聞いたリィンは真剣な表情になり、同意したフィーをツーヤは冷や汗をかきながら見つめた。
「―――貴様にもとっくにわかってるんだろう。これが帝国(エレボニア)の”現状”だと。」
「っ…………」
ユーシスを睨んでいたマキアスだったがユーシスの指摘に息を呑んだ。
「”貴族派”と”革新派”………四大名門による貴族連合と鉄血宰相オズボーンの対立は水面下で激化している……今のがその一端というわけだ。」
「……………………」
ユーシスの説明を聞いたマキアスは何も答えず目を閉じて黙り込み
「噂は聞いていたけど……」
リィンは真剣な表情でユーシスを見つめていた。
「軍備増強を決めたのも俺の父、アルバレア公だろう。だが、その事について俺からコメントするつもりはない。……文句があるなら受け付けてやってもいいが?」
「……いや、いい。そろそろ夕方だ……街に戻るのが先決だろう。」
ユーシスに尋ねられたマキアスは疲れた表情で答えた。
「そうだな……」
「じゃ、行こうか。」
その後リィン達はバリアハートへ向かっていると、サイレンの音が聞こえてきた。
〜オーロックス峡谷〜
「なんだ……?」
「サイレンの音……みたいですね?」
「これは……砦の方からか?」
「一体何があったんでしょう?」
「……?」
サイレンの音にリィン達が傾げる中何かに気付いたフィーは振り向いて空を見上げた。
「フィー、どうした―――」
そしてフィーが見つめる先をリィン達も見つめると何と謎の人形兵器が浮遊しながら砦からバリアハート方面へと向かって行った。
「………………」
「な、なんだアレは!?このあたりにはあんな鳥が飛んでいるのか!?」
人形兵器が飛び去る所を見ていたエマは呆け、マキアスは信じられない表情で声を上げ
「阿呆が……そんな訳あるか。」
(人形兵器……?という事はまさか”結社”の……?だとしたらあの人形兵器に乗っていた子供はまさか……”執行者”?)
マキアスの言葉を聞いたユーシスは呆れ、ツーヤは真剣な表情で考え込んでいた。
「……今の人が乗っていたね。」
「ああ……子供みたいだったな。」
その時何かに気付いたフィーとリィンは呟き
「な、なんだって!?」
「本当か……?」
二人の言葉を聞いたマキアスとユーシスは驚きの表情で二人を見つめた。
「ああ、さすがに顔はわからなかったけど……」
「信じられません……」
リィンの答えを聞いたエマが驚いていたその時、領邦軍の戦車がリィン達に近づいてリィン達の姿を確認すると停車して兵士達が近づいてきた。
「ユーシス様!」
「お、お帰りになるところでしたか……!」
「一体、何の騒ぎだ。あのサイレンはどうした?」
「そ、それが……つい先ほど、オーロックス砦に侵入者がありまして……」
「そ、それって……」
「さっきの銀色の……」
兵士達の話を聞いたエマは驚き、マキアスは真剣な表情をした。
「み、見たのですか!?」
「その銀色はどちらへ!?」
マキアスの呟きを聞いた兵士達は顔色を変えて尋ね
「……南西の方角へと飛び去って行ったばかりだ。かなりの速度だったぞ。」
「くっ……失礼します。」
「ユーシス様もくれぐれもお気をつけて!」
ユーシスの話を聞くとすぐに戦車に乗り込みその場から去って行った。
「追いつけるとは思えないけど……」
「まあ、わかっていても諦める訳にはいかないんでしょうね。」
フィーが呟いた言葉を聞いたツーヤは苦笑し
「……でも一体なんだったんだ?」
先程見た人形兵器の正体が気になったリィンは首を傾げた。
「そうですね……飛行船でもないのに空を飛べる物体なんて……」
「そんな発明がされたなんて聞いたことがないぞ……?」
エマとマキアスはそれぞれ戸惑いの表情で考え込んでいた。
「…………………まあ、彼らに任せておけ。俺達はあくまで士官学院の実習中の身。逃げた侵入者を捕まえてやる義理も余裕もないだろう。」
「そ、それはそうだが……」
「一応、サラ教官への報告には記した方がよさそうですね。」
ユーシスの言葉を聞いたマキアスは戸惑いの表情で頷き、エマは提案した。
「そうだな……それじゃあそろそろ行こうか。」
そしてリィン達は再びバリアハートへ向かって行った。
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第48話 | ||
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コメント | ||
感想ありがとうございます 本郷 刃様 確かにここでリィンがいなければ、また噛みついていたかもしれませんね(sorano) マキアスも無駄に噛みつくことはしなくなりましたが、それもリィンが居ないと無理なんでしょうね〜・・・(本郷 刃) |
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