コードヒーローズ〜魔法少女あきほ〜
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コードヒーローズ魔法少女あきほ編

第四話「〜変 革〜ワタクシの想い」

 

 

 

 

 

 結果的には私と水青ちゃん、そしてエイダさんだけになった。今はモールの近くを歩いている。

 私達は水青ちゃんのメイドさんから逃げてきたのだ。物凄い勢いで追いついてきた崎森 彩音さんを、暁美ちゃん凪ちゃんと鳴子ちゃんが飛びついて抑えることで私達は逃亡に成功。街まで来てどこで話をしようかと話しているところだ。

「あの……ごめんなさい。こんな事になってしまい」

「いいのいいの。そんなことより何か飲む?」

 水青ちゃんは「はい」と小さく言った。

 近くにあった喫茶店に入る。エイダさんは私達2人を店の外から観察していた。

 事の発端は水青ちゃんが私達ともっとお話をしたいっていうのが始まりだ。昼休みに話した内容で「今のままでは――」と言ったことを気にしているみたい。「何も今日じゃなくても」と、みんなで止めたけど納得できなかったみたい。

 だけどそこからどうしようかという話になった――。

 席に座りメニューを睨む。商品を決めて注文する。

 店の中から人通りを見る。街に来て人通りを見ても、どこかみんな怯えている感じがした。

 ――門限が厳しいこと、そして迎えが来ているということが最初の難関。学校の中で話をしても迎えの人が突入してくる可能性があった。何より学校も早く私達を帰したいみたいだし。追い出されたら意味が無い。じゃあ街の喫茶店で話をするか。ということになったけど、迎えの人がいるのでなんとか突破し無くてはならない。

 今のこの状況。井上君が亡くなった。爆発事故などの怪異事件が起きている最中である。本当に昨日の今日だ。その翌日に、こんなことをするのは間違っている。そんなのはわかっているけど。正しくないとわかっていても、水青ちゃんの心にはきっと必要だと思ったから。今変わりたいって強く思っているんだ。だからその手助けをしたいって思った。みんなも協力してくれたし。ここは一緒にいい方向にもっていかなくちゃね。

 頼んだ飲み物が運ばれてきた。ちなみに水青ちゃんはお財布をもっていなかったので全部私持ちだ。ちょっと厳しいかもしれない。

「こんなご迷惑をかけするなんて、思ってもみなくて」

 水青ちゃんは居心地が悪そうにしていた。時折身動ぎする。

「大丈夫! 友達って迷惑かけたりかけられたりするものでしょ?」

「あ……」

 水青ちゃんはそれから少し黙り込んだ。何かを躊躇っているようにも見える。

 うーん。どうしよう。水青ちゃんのこともそうだけどお会計ちょっと厳しいかもしれない。ちょっとじゃないかなり。

「先程の――」

「え?」

 財布と睨めっこしていたので気が逸れていた。

 水青ちゃんの話を聞こうって思ってた所でこれってないー。ごめんなさいー。

「先程のお話の続きです」

 私は「はい」と答える。けど、しばらく間が空いた。

「私に……何が足りないのでしょう?」

「だからそれは教えられない。みーちゃんがわからなくちゃいけないんだって」

 それがわからなくて、それがわかりたくて、水青ちゃんは今すごく苦しいんだと思う。言葉で説明するのは容易い。けど、それは本当に今の水青ちゃんのためだろうか? ためになるなら教えてもいい。

 けど私の直感はそれをよしとしなかった。

 水青ちゃんは飲み物のコップを強く握りしめて、口に運ぶでもなく中身を眺め続ける。そんな彼女にヒントとなるような言葉を探すが、見つからない。

 こんな時大ちゃんがいてくれたら的確でヒントになるような言葉をくれるんだろうけど。いつもいつでもピンチの時に駆けつけてくれるヒーローじゃないしね。

 このままじゃ埒が明かないので、お父さんの話しを振って見ることにした。

「お父さんにどんな不満があるの?」

「あ、その……早乙女君のお話。お父様とお母様がいないってお話です」

 意外だった。まさか大ちゃんの話が出るとは思わなかった。関係がないはずなのだ。これまで話した内容とは違う。だからちょっと私も声が揺れる。

「あ、うん。いないってお話?」

 

 

 

「はい。その件、私の父も少し関係していたらしいのです。ですから――」

 水青の二の句は意外な形で切られる。

「やれやれ。それは雨宮には関係のない話だろう」

 明樹保と水青は話題の主が突然現れたことに驚愕する。

「なっ、なななな、なんで大ちゃんここに?!」

 驚き慌てふためく2人をよそに、彼は当然のように同席した。

「んまぁ厄介事を残していった2人に連絡があってな」

 明樹保と水青は顔を見合わせる。優大はそんな彼女たちの様子にお構いなしで続けていく。

 優大は一度大きく息を吐く。

「まずはひとつ。崎森さんは、この先のモールの中にあるサービスカウンター前で待っている。雨宮が納得するまで待つそうだから、追いかけてくることもうないよ」

 優大は優しく笑う。明樹保も釣られて頬が緩んだ。

「はい……ありがとうございます」

「ただ、なるべく早めにな。物騒だからな」

 明樹保たちは首肯する。

「でもどうやって?」

「騒ぎを聞いて飛び出したら、緋山と葉野と神田が崎森さんに飛びかかっててな。そこに割って入って話をつけた。それだけだ」

 優大は「あいつらヒーロー相手によくやるよ」と付け足す。明樹保は驚いた。勢いそのままに言葉が漏れる。

「え? ヒーロー?」

「ああ。あくまで推測の域だけどね。俺の見立てだと、スターダムじゃないな。ローカルで……結構厳しい場所にいたな」

 優大はいつの間にか頼んでいたようで、ホットコーヒーが運ばれてきた。そして一口つける。

「さすがですね」

 水青は感心するように言った。が、当の優大は心底どうでもいいという感じだ。

「で、話の続きだな」

 明樹保の表情が強張っていく。優大は一瞬だけ視線を明樹保に向けるが、特に反応は見せなかった。

 無言で話を促している。

「私の父はその昔、早乙女君のお父様とお母様の会社にいたのです。今は独立して会社を立ち上げていますが。当時その企画にも携わっていたはずです。その当は重役でしたし」

 水青は物凄く申し訳なさそうに話す。

 明樹保はちらと優大を見る。特に変わった様子はない。彼はしばらく考える素振りを見せて――。

「雨宮。もしかして雨宮はお父さんを責める理由がほしいのか?」

 核心をついた。水青は表情を暗くして、視線を落とす。

 そうかそれなりの理由があれば自身の父親に不満をぶつけられると思ったのだろう。

 水青は視線を落としたまま口を開く。

「だって……だってそうでしょう!? 娘の私がいるこの街でおかしな事件が起きている。しかも同級生や、その家族にまで危害が出ているのですよ?! それなのに、そんなことは知らぬ存ぜぬで、ヒーローを送ってくれないんですよ。事実、桜川さんと早乙女君のご学友だってそのせいで亡くなっています」

 水青の大声に、周りお客も視線が明樹保たちに集まる。しかも視線は冷たい。内容が内容だけに快く思わない人が多いのだ。

 優大は水青の言葉に動揺を見せなかった。対して明樹保は目を見開く。そんな態度に水青のほうが動揺し始める。顔を落としたままコップの中身をまた見つめ続ける。

「でも雨宮だけを守るのに、街にヒーローを送るなんて非効率的なことしないだろう? 雨宮1人守るだけなら転校させる。というか、崎森さんとさっき話した時もそんなこと言ってた」

 水青の表情が崩れた。今にも泣きそうな顔になる。優大はそれでも気にせず続ける。

「確かに雨宮の話を聞いて少しだけ、お前さんのお父さんを恨む気持ちがないわけではない。だけど、俺の父親と母親が亡くなったこと。そしてその後、それをどうするかは俺次第なんだ。だから雨宮が気に病むことはない」

 最後に優しく笑いかけるように言った。水青は激しく狼狽する。

 

 

 

 そこで私は気づいた。もしかしたら水青ちゃんはお父さんに――。

「みーちゃんは……お父さんにヒーローになってもらいたかったのかな? 自慢できるお父さんなんだって皆に知って欲しかったんじゃないかな?」

「わ、私は……ッ!」

 突然水青ちゃんが走って店の外に飛び出した。そのままどこかへ走っていく。とっさのことで反応が遅れた。

「わ、わわわ、私変なこと言っちゃったのかな?!」

「いいからさっさと追いかけるんだ。そしてちゃんと話し合うこと」

 そ、そうだね。街中に1人にしておくのも危険だよね。

「あ! でも――」

「ここは俺に任せておけ」

 それだけ聞いて私は店の外に飛び出す。走っている背中を追いかける。が、運動音痴の私はあっという間にその背中を見失った。

「あ、カバン!」

 途中でカバンの事に気づいたけど、たぶん水青ちゃんの分も含めて大ちゃんがなんとかしてくれる。

『追いかけるなら魔力で足腰を強化なさい』

 言葉が脳内に走った。

『どうやって?』

『うちある温かいモノ。それを足腰に持っていくように意識なさい』

 私は言われたとおりに足腰に、うちにある温かいものを持っていくように意識させてみる。途端に普通に走るより格段に速くなった。その次は動体視力を強化しろと言わる。言われるままにやっていく。

 私を知る人は驚くかな。なんか別人みたいな速さだよ。

 目にも止まらない速さで人垣を避けながら、走り抜けていく。最高速度を維持して水青ちゃんを探す。

『いた。探査魔法の圏内にはいるわ。誘導する』

 私の視界の端から黒猫、エイダさんが生えてきた。

『エイダさんどうして?』

『彼女もかなりの魔力の持ち主よ。だから側にいた方がいいわ』

 水青ちゃんが? それだけはダメ。早く合流しないと。

 

 

 

 

 

 アネットはビルの屋上から眼下を睨む。

「ふんっ。アリュージャンの尻拭いなんかごめんだわさ」

 昨日の失態の尻拭いとして、ここで目覚めた桜色のエレメンタルコネクターの討伐。

 それがアネットに与えられた使命である。

「倒すのはいい。それはいいだわさ。けどアリュージャンの尻拭いっていうのが嫌だわさ」

 ビルの屋上には彼女1人である。アネットの手には袋が握られていた。中身を取り出し、それを空に掲げた。黒い宝石。そう魔石だ。彼女は魔物を引き連れてはいない。だが、魔物を生み出す道具を持ち合わせていた。

「面倒だわさ。面倒だわさ!」

 アネットはビルの屋上で駄々をこねるように暴れまわった。

 しばらくしてアネットは考えるのをやめた。表情を狂気に歪め。改めて眼下を覗きこむ。

「そうだわさ。面倒だわさ。片っ端から魔物に覚醒させてやるだわさ!」

 手に握りしめた魔石を数個、魔力を流し込む。

 行動を起こそうとして、ふとオリバーの言葉を思い出した。

――エイダを侮るな――

「ふん。あんな猫になった奴に何ができるさ。元の姿ならいざ知らず。ふん! さあ、儀式のはじまりだわさ」

 眼下にいる少女を見て、アネットの表情は狂喜に染まる。

 

 

 

 

 

 私は噴水の近くにあるベンチに座り込んだ。息はいつまで経っても整うことはない。

 私は何をやっているのか。見透かされた。いえ、私自身が気づかなかったことに気づかされた。それが突然恐ろしく思えて逃げ出してしまったのだ。変わることを願い、手助けしてもらってこれでは笑えない。

 周りを見渡すと知らない景色だけが広がっていた。夕方の買い物客で賑わっている。視界の中には親子連れなどもいた。普通の買い物風景。普通の日常が広がっていた。

 私が住んでいる街なのに……こんなにも知らないなんて。知っているようで知らない。先程のことも……私自身が気づけなかった。他者がいなければ何もできない。ただの小娘。なんて脆くて弱い。社長令嬢なんてただの飾りだと痛感します。

 自分一人では何もできないほど籠の中の鳥であることに、内心落胆した。

 こんな私では変わることなど出来ない。桜川さんたちの言うとおりだ。

「変わりたい」

 無意識に近い言葉。羨むように妬むように言ったそれは――。

「なら手伝ってやるだわさ」

 ――邪悪な返事が返ってくる。

 声のする方へと振り返ると、ローブを纏った老婆が立っていた。フードで顔が隠れてよく見えない。

 本能が告げている。ここから早く逃げろと。でも体が思うように動かない。何か恐ろしいものに睨みつけられたかのように足がいうことを聞かない。

「お、お断りします」

 辛うじて言葉で拒絶する。

「遠慮することはないさね。その生命を糧に変わるんだよぉ」

 狂気のこもった叫びに、恐怖した。

「なにを……言って……」

「変わりたいんだろう? だから変えてあげると言っているだわさ。ただし――」

 老婆は徐々に歩み寄ってくる。そして細長く痩けた指で頬を撫でられる。そして私は見た。フードの中の老婆が恐ろしく歪んだ笑みをしているのを。

「――お前は死ぬけどねぇ。イーヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」

 この老婆は危険だ。すぐに引き剥がさないと。

 振り払おうとした瞬間だった。腹部に熱い何かが当てられていた。その手から黒い光が漏れている。

 これは一体? そういった疑問を口に出す間もなく激痛と高熱が体を走った。自然と体がくの字に折れて地面に引き寄せられる。

「あっ……がっ!」

 水青が倒れた瞬間、周りから悲鳴が上がる。幸せな日常風景が一気に非日常へと塗り変わる。

「お前も魔物にしてやるだわさ! イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」

 かすれた耳障りな笑い声が悲鳴を生み出していく。

 視界の端で私と同じような光が何度か光り、悲鳴と絶叫、泣き声が響いていた。

 あれはきっと同じ目に合わされているのでしょう。

 腹部に触れると、堅い異物が肌と一体化しているのがわかる。が、目で確認する余裕もなく、意識もだんだんと薄れていく。薄れていく意識と反比例に頭に響く声は大きくなっていく。

――私は変わりたいのでしょう? ワタクシが変えて差し上げますわ――

「変わりたい……でも私は……」

 腹部の石の輝きは黒さを増していく。

――お父様に不満を言いたい。なら変わらないといけませんね――

 そうなのでしょうか? 変わることでお父様に不満を言えるのでしょうか? みんなのように私も……。でもそれは違う気がします。

――可哀想なワタクシ。そんなアナタは変わるのです。さあワタクシになるのです――

「私は……?」

 

 

 

 水青の周りで大きな黒い影が3つ膨れ上がった。それは最初卵の形をし、2階建ての一軒家ほどの高さまで大きくなった。そこで影の膨れ上がりは止まり、紫の霧が表面を走る。しばらくして卵自身が揺れ動く。それは外からではなく中から何かが這い出ようとするかのようだ。最初は小さく、が、徐々に大きく。そして白いヒビが全体に走り、動きが止まった。瞬間、黒い殻がはじけ飛んだ。中から蝶、蜘蛛、蟷螂を模した巨大な生物が生まれでた。

 さらに街はパニックに陥った。我先にと逃げ惑う人たち。しかし黒い霧に阻まれ、そこから先には進むことが出来ないのだ。霧に阻まれた人々はさらにパニックを起こし、混乱は広がっていく。そんな様をアネットは面白そうに眺めていた。

「さて……どいつから餌食になってもらおうかねぇ? 生まれたばかりのこいつらはお腹を空かしているだろうしね!」

 わざとらしく考える素振りを見せながら、混乱している獲物を観察する。すると――

「ママー! ママー! ママどこー?!」

 幼い少女の泣き声が大きく響く。親とはぐれたらしく、不安で泣き喚いていた。少女は大きな魔物の存在よりも親がいないことに恐怖している。

「ああっ! うるさいガキだね! お前たちあのガキから始末しちまいな」

(それだけは……それだけはダメっ! だ、誰か誰かあの子を助けて)

 水青は内心絶叫するが声が出せない。息は乱れ地に伏して、頭に響く声に意識を掠め取られそうになるのを必死にこらえるので精一杯だった。

――ほら、アナタはやっぱり何も出来ない――

「ワタクシは何も……でき……ない……」

 3つの大きな影が少女に迫る。初めてその存在に気づいたかのように少女は魔物に気づき、泣き叫ぶ。

 魔石の輝きが黒く染まる。

 少女は恐怖で足腰が言うことを聞かないらしく、逃げることが出来ずに迫る魔物たちを泣きながら眺めることしか出来ない。

「イッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! いい泣き声を上げてくれだわさ!」

 蟷螂を模した魔物の鎌が振り上げられる。

「ダメです! ダメェ!」

 水青の悲鳴が引き金になったかのように、蟷螂はその鎌を振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 最悪の状況になるなんて思ってもみなかった。水青ちゃんのところに辿り着こうとした瞬間。目の前で黒い霧が発生して、水青ちゃんのところへ行けなくなってしまった。

 エイダさんの説明だとこの霧は結界。霧の中と外を魔力で壁ができていて、普通の手段だと中に入れないと。

 で、今エイダさんが結界に穴を空けようとしている。その間、私は周りに人がいないか監視だ。

 ちなみに私がぶっとばそうか? と聞いたらすぐに反対された。私がやると街が吹き飛ばしてしまう可能性があるらしい。

 エイダさんは黒い霧に触れて、若草色の光を波紋のようにして霧に走らせている。

 明樹保は周りを見渡す。その視線の先には閑散とした街だけが広がっていた。

 魔物だと思うけど、大きなバケモノが出たと言って、ここらへんにいた人たちはみんな逃げて行っちゃった。

 つまりすでに犠牲になった人がいる。すごく嫌な気分になった。

 また人が死んだ……。

 見張りをしているだけにも関わらず、緊張して息が乱れる。整えようとするけど、全く整わない。気を紛らわそうと監視カメラの死角か、再確認。

 それでも私の息が整うことはなかった。

「よし出来たわ! 明樹保行くわよ」

 うなずく。もう一度辺りを見渡す。人がいないことを確認して、霧の中へと入っていく。

 

 

 

 明樹保たちは気づかなかった。その姿を影から覗く存在に。

 

 

 

 

 

 霧の中に入った私は即座に変身。魔法少女へと変わった。昨日と同じく桜色の制服に似た形の衣服にコートのようなモノを羽織っている。私とエイダさんは猛スピードで中心部へと向かっていく。走りながら私は思ったままのことを言ってみた。

「この服って?」

「エレメンタルコネクター――「魔法少女!」――ああ、もうっ! 今はそういうこと話している暇はないの黙って聞いて!」

 納得がいかない。けど黙って聞くことにした。

「エレメンタルコネクターになると、無条件で魔鎧と魔糸織り万能保護服と呼ばれる衣服が手に入るの」

 エイダさん曰く。魔糸織り万能保護服は、覚醒した術者の戦う時の強いイメージで編み込まれるらしい。つまり私は魔法少女っぽい姿になっているのはそういうことらしい。

「ちなみに変身するときにイメージすることで衣服を変えることが出来るわ」

「本当?! 今度試してみよう。でもどうして?」

「わからないわ。そこら辺もヴァルハザードでもわかってないわ」

 とにかくなるもんはなる。ということらしい。あっても困らないモノでもないので、脅威ではないね。

 ふと走る足が強張る。

「やっぱり……」

「やっぱり?」

 エイダさんは私に視線だけを向けた。

 私は一度視線を落とし、手を握りしめる。

「やっぱり怖いね。まだ手とか足とか震えちゃう」

 熱も奪われ、下腹部に冷たい鉛のようなものが入ったかのように体は重く感じた。それが錯覚だとわかっていても、震えは止まらない。あの夜の恐怖が消えたわけではない。

「今ならまだ間に合うわよ?」

 試すかのようなエイダさんの問い。私は満面の笑みを作る。

「ううん。私は私に出来る事をする。怖いけど、出来ないって逃げるのはもっと嫌だ。何より水青ちゃんを助けたい」

 エイダさんも笑顔になった。

「なら、いくわよ。エレメンタルコネ……違ったわね。慣れないのよ。魔法少女」

 私の抗議の視線に気づいたのか、わざとらしく咳き込んだエイダさん。私とエイダさんは速度を落とさず最高速度で駆け抜けていく。道中逃げ惑う人が視界に入った。走りぬけながら穴を開けた場所を説明する。

 上手くあそこから逃げて欲しい。

 肌にビリっとした感覚が走った。この感覚はなんだろう?

「感じたようね。魔物が近い証拠よ。それも今回は3匹ね」

 エイダさんは走りながら、光の玉を大量に発生させては、ばら撒き始めた。

 3人も亡くなった事に絶望しそうになる。もしかしたらそのうちの一匹は水青ちゃんを犠牲にしているかもしれない。

 そう考えると目眩に似た感覚が襲ってきた。頭を振ってその考えを何処かへと押しやる。大ちゃんならこんなこと考えない。今できることを考えるはずだ。

「あの道を曲がった先にいるわ。気をつけて!」

「わかった!」

 体全身に力を込める。一度軽くジャンプして、地面に食いつく。舗装された道は、まるで最初からどうだったかのように抵抗もなく、簡単にめくれ上がっていった。猛スピードで走ってきた勢いを殺しながら、曲がり角に突入。溶けていた景色がくっきりと見える。

 

 

 

「ダメです! ダメェ!」

 水青の絶叫が明樹保の耳に届く。明樹保は目を見開き、敵を見据えた。

 そのまま跳ねて一息で魔物に接近。勢いそのまま蟷螂の顔面目掛けて蹴りを入れた。

 振り下ろされた鎌は少女ではなく、近くの噴水に直撃して破壊した。綺麗な放物線を描いていた噴水は直線的な水流を四方にまき散らすようになった。少女はその場に座り込んで動けなくなる。

 明樹保は即座に辺りを見渡す。

 魔物3匹は今すぐにでも動き出せるような態勢だ。幼い少女には怪我はないが、恐怖で表情が固まっていた。明樹保の視線が水青の腹部に黒く光る物体を見て止まる。

 彼女はようやく気づく。最悪の事態に。

「水青ちゃんが……? そんな……」

 最悪の事態に無意識に声が漏れる。水青も声が自分に向けられたものだと理解して、明樹保に視線を向けた。

「も……しかして……」

 しかし後が続かない。苦痛で言葉が続かない。

「しぶといやつだわさね。そのまま楽になればいいものを」

 かすれた声が明樹保の鼓膜を震わせた。声の方を見ると、腰の折れた老婆が立っている。

 明樹保は構えを取る。それは付け焼き刃のようにも見えた。

「貴方は?」

「初めましてさね。桜色のエレメンタルコネクター。私はアネット! お前を冥府に落す者さね」

 明樹保の顔は怒りで鋭くなった。今にも飛び出しそうな彼女の姿勢にエイダは叫ぶ。

「落ち着きなさい」

 明樹保は小さくつぶやく。それは自分自身に言い聞かせているようにも見えた。

 

 

 

 付け焼刃的な構えは、大ちゃんに昔教えてもらった護身術の構え。呟いたのは大ちゃんの教えてくれた言葉。――冷静になることで自分も周りも救う――

 狭まっていた視野を意識的に広げる。

 ここに来て2つ後悔。もう少し魔法の使い方を聞いいておくべきだったこと。大ちゃんから護身術をもっと教えてもらっておくべきだったこと。この場で後悔しても仕方がないとわかっていても、せずにはいられなかった。

 1つは時間がない。もう1つはこんな事態になることを普段想定している女の子なんてそうはいない。

『明樹保、魔法を使わずに少しだけ時間を稼げる? この状況を打破する考えがあるの』

『わかった。頑張る』

 

 

 

「そっちから来ないなら、こっちから行くだわさ!」

 アネットが腕を振り上げると同時に3つの影は動き始める。蝶は舞い、蜘蛛は尻を天に突き上げ、蟷螂は鎌を大きく振り上げた。蝶の鱗粉が舞い散り、触れたところから爆発していく。蜘蛛は黒い糸を明樹保目掛けて吐き出した。

 明樹保は爆発で巻き起こった煙幕に視界が奪われる。

「なっ!」

 彼女は咄嗟に飛び退いて視界を確保しようとするが、糸が腕に絡み取られた。そのまま振り上げられ地面に叩きつけられる。背中を強打し、呼吸が止まった。

「がっ! はっ!」

 一瞬地面と空が反転したことに混乱したせいか、自分の居場所がよくわかっていない。彼女黒目の端で鎌が反射する。本能的に動き、地面を転がり、蟷螂の懐に飛び込んでやり過ごす。明樹保は振り返る。視線の先には地面が大きくえぐり取られていた。

「魔法少女!」

 エイダは叫ぶと同時に、若草色の光を数本打ち出した。狙いそのままに、絡みついていた糸を切り裂く。

 自由になった明樹保はすぐに周りを見渡す。

 煙幕の向こうで濁った濃緑色の光が輝きを放っていた。

「魔法!?」

 咄嗟に地面を転がったため、受け身もなにもあったものではない。受け身を取れないほどの勢いの飛び込み。数瞬後、地面が蟷螂ごと吹き飛んだ。蟷螂は羽を広げ、上空で体制を立て直し、こちらを見据える。

 吹き飛ばした原因は棘付きの蔓。それが数本濁った緑の光から生えていた。その蔓が明樹保を叩きつけようと、音を立てて振り下ろされる。

「このぉ!」

 明樹保は強化した腕で殴って蔓を跳ね返す。その攻防は1秒に3度。音を超えた音と鈍い音が周囲の空気を震わせる。

 黒い鱗粉が彼女の周囲に降り注ぐ。気づいた時には遅く、爆発で建物の壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられていた。

「痛い!」

 痛みと、恐怖も手伝ってか、明樹保の行動は鈍化している。何をしていたのかも忘れそうになっていた。

(冷静にならなきゃ)

 周囲で爆発が起き、煙が巻き上がる。

 頭でわかっていてもそうはさせてくれない。壁にもたれながら立ち上がった瞬間。赤い目玉が6つ見えた。

「考えさせる暇なんて与えないだわさ!」

「しまっ――」

 その目玉の主が蜘蛛だと理解した時には、牙が目の前まで迫っていた。

(あ、私、死んだかも)

 彼女の脳裏に走馬灯が走る。

 が、死は免れる。若草色の光刃が目玉を5つに減らしていた。蜘蛛はのたうち回る。

「しっかりなさい魔法少女!」

「う、うん。ありがとう」

 明樹保がよろよろと立ち上がると、エイダは言った。

「行くわよ魔法少女」

 

 

 

 舌打ちした。

「反応が消えただわさ」

 視界を煙幕で覆い。そこから魔力を探知して、相手に考える暇も与えることなく飽和攻撃で、一気に叩き潰そうとした。もちろん途中まで上手くいっていたのだが。相手の姿が探知できなくなった。

 そもそも数も、そして実力もこちらが上である。猫ごときがついていようと、たかが小娘1人でどうにもならないほどの状況。圧倒的こちらの有利。だから一瞬で終わるはずだった。終わるはずだったのだが、終わらなくなった。

 魔力反応を探るが見当たらない。魔力の反応がそこかしこから感知できてどこにいるのかわからないのだ。魔物達も見失ってしまっている。

 極端に魔力の強いところへ蜘蛛を向かわせるが、爆音と共に蜘蛛がダメージを負ってしまう。

「きいいいいいいい!! 忌々しい!!!」

 一度叫んだ後、周りの状況を細かく確認していく。

 煙幕にまじり、若草色の光の粉が見えた。

 どうやら魔力を鱗粉のように撒いて、こちらの探知を阻害させている。これでは探知不能だわさ。そして極端に大きい反応がするのは、触れると爆発する魔法ということか。

「こちらの煙幕を利用されるとは。だが――」

 アネットは勝利を確信し笑う。

 私の魔石の力。植物を生やす力でここら一帯の地面を一気にめくりあげさせよう。そうすればどうしようもないはずだ。魔物たちを周囲に集める。

「これで終わりだわさ」

 

 

 

 ため息を漏らす。

「蝶々の爆発とかじゃないの?」

 明樹保はそのほうが手っ取り早いと指摘した。もちろんその可能性もあるけど、アネットの性格を考えるとその可能性は皆無だ。だから否定した。

「そうなんだ」

 先ほどの狙われていた幼い少女を抱えて、店の中に伏せている。ちなみに少女には悪いけど眠ってもらっていた。明樹保の友人を拾う余裕がなかったことは心残りだが、せっかく魔物に覚醒させようとしているのだ。敵も簡単に見捨てるはずはない。何より抱えている状態で魔物に覚醒されても困る。

 そう自分と明樹保に強く言い聞かせて、ここで耐えていた。

 敵はこちらの狙い通り、魔力で模したチャフとクレイモアに引っかかってくれている。

「魔法でそんなこと出来るんだ」

「この魔法の使い方は以前こっちに来て覚えたモノよ」

 明樹保は「へえ。そうなんだ」と声を漏らす。

 そろそろ苛立って行動を起こすだろう。

「もう一度確認するわよ」

 明樹保は黙って頷く。

「敵はそろそろしびれを切らし、ここら辺一帯を魔法で吹き飛ばすわ。その際魔物を自分の周りに固めると考えられる」

「その場所を即座に探知して、私の一撃で一気に終らせる」

 そう。それが今できる最大限の最善の策。数も、そして魔法の熟練度もこちらは劣る。ならばどうするか。こちらが唯一勝っている点。それは一撃の威力。それを最大限に活かせる状況に持っていく。

 魔物が3匹いるとわかった時点で、かなり下準備を急いだつもりだったが、やはり急場をしのぐ程度ね。明日から街に埋め込む魔法は、探知魔法以外も必要ね。

 地面と空気が激しい衝撃と音を伴って辺りを震わせた。窓ガラスが耐え切れずに割れる。

 明樹保は地震が来た時に備えるように、机の下に少女と一緒に避難した。

 即座に生き残っている探知魔法で辺りを調べあげる。そして一箇所だけポッカリと空いた空間を見つけた。

「明樹保! そのまま10時の方角に全力でお願い!」

 明樹保は「水青ちゃんは?」と心配する。一応射角に入ってない旨を素早く伝えた。

「分かった!」

 机の下から這い出た彼女は、気合の叫びの後に、桜色の光の顕現。巨大な一閃が敵を黒い霧を貫いた。

 

 

 

「やった、みたい? だね」

「魔物の反応も全部消えたようね」

 明樹保とエイダまだ煙が立ち込める辺りを見渡す。

「霧の中にいた人々は、たぶん霧の結界を吹き飛ばしたお陰で、外に出れたと思う。というかそう願うわ」

 噴水が吹き飛ばされていたせいか、地面の水溜りは大きい。歩く度に水を叩く音がする。

 安堵し、胸をなでおろす。明樹保はすぐに友人のいる場所へと駆けていく。

(これからだ。問題はこれからなのだ。どうやって明樹保の友人をエレメンタルコネクター側に覚醒させるか)

 エイダが思案していると明樹保の悲鳴が聞こえた。

 悲鳴の方へと視線を向けると、明樹保が縛り上げられていた。

「明樹保!」

 エイダが叫ぶと同時に地面がめくれ上がり、茨にきつく縛り上げられる。黒い体躯から赤い鮮血が零れ出す。

「イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! 私のほうが一枚上手だっただわさね!」

 

 

 

 水青は無力な自分に絶望した。

「ごめんなさい」

 そう言わずにはいられず、縛り上げられている少女に謝罪した。

「みー…ちゃんは…悪くない。ああっ!」

 きつく縛り上げられて苦悶の声をあげている。なんとかしてあげたい。けど、体が動かない。情けなくて涙だけがこぼれ落ちていく。

「イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! 後少し、お前たちの狙いに気づくのが遅かったら、死んでただわさ。このお礼はたっぷりさせてもらうだわさ」

 アネットの手には棘付きの蔓が握られ、明樹保と猫を執拗に叩きつけていく。何度も何度もだ。

 私の側まで来た老婆は、光をやり過ごし、助けに来た桜川さんを襲ったのである。

 桜川さんたちにとっても私という存在は、手出しが出来なかったのである。寸前でそこにこの老婆は気づき、彼女たちの攻撃をやり過ごしたのである。

「せっかく手に入れた魔物を失った代償は、その体に刻みつけてやるだわさ!」

 耳に幾度となく肉を打つ音が響く。その度に涙は溢れる。

――ワタクシがあの時逃げなければ、ワタクシが変わりたいと思わなければ、ワタクシが強ければ、ワタクシがもっと早く魔物になっていればこんなことにはならなかったのに。全部ワタクシとワタクシのお父様のせい――

 そうだワタクシがいけない。ワタクシが、彼女を、街を追い詰めているんだ。だから私なんて。

 泣いていることに気づいたアネットは、狂喜に笑う。

「イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ! いいだわさいいだわさ! その絶望! その涙! そうさね! お前さえいなければこの娘はこんな目に合わなくてよかったのだわさ!」

 頭を掴みあげる。

 痩けた腕で私を軽々と掴み上げて、桜川さんに見せつけられた。

 そして桜川さんが鞭打たれる姿を見せつけられる。

「やめ……くだ…さい」

「最高だわさ! お前のせいだわさ! お前のせいだわさ!」

 老婆の狂喜に満ちた笑い声が高々と響く。

 

 

 

 水青に埋め込まれた石は黒く染まって――

「みーちゃんのせいなんかじゃない」

 ――いかない。寸前で踏みとどまる。

 水青は驚くように明樹保を見つめた。明樹保は絞りだすように言う。

「私がドジだから、みーちゃんに変なこと考えさせちゃったね。でもみーちゃんのせいなんかじゃない! それだけは違う!」

「違い……ます! 私が」

――そうワタクシが――

 アネットは蔓できつく縛り上げて黙らせようとする。腕と足の肉に蔓と刺が食い込んで、鮮血が溢れだす。明樹保は激痛に悲鳴を上げた。だが、すぐに彼女は歯を食いしばり、水青をまっすぐと見据え言葉を続ける。

「みーちゃん! 自分から……あぐっ! 逃げないで! きっと変われる。1人じゃ無理でも! 私が、私達がいるからっ!! 石なんかに負けないで!!!」

「黙れってんだよ!」

 アネットはしなだれていた蔓をピンと伸ばして、サーベルのように構えた。

「死になさいな!」

 水青を捨て、サーベルを刺そうとした瞬間である。

 鈍い肉を打つ音と何かが砕ける高い音が、水青の耳に響いた。視界に蔓のサーベルが転がる。

「ぃぎゃああああああああああああああああああっ!」

 アネットが突如右肩を抑えて、地面をのたうちまわった。

 水青は何事かと視線を泳がせると、アネットの足元に人の頭ほどある血のついた瓦礫が転がっていた。

「だ、誰だぁああああああああああああああああッ!」

 激痛に表情を歪ませ、怨嗟の叫びをあげるが返事はない。

 意識が激痛に向いたせいか、蔓の拘束が緩んだ。明樹保とエイダは即座に脱出。水青を抱えてアネットから距離を取る。

「お前たちぃい! まだ仲間がいたねぇ!!! 許さないよ!!」

 蔓がアネットの周りに生えて暴れまわる。アネットの感情を現すかのように、周りにあるものを無差別に破壊していた。

 般若のような形相。見ているだけで命が刈り取られそうな気迫。それでも明樹保は対峙する。

「もう魔力はないわ。ここ退きましょう」

 エイダの言葉に、明樹保は首を振って否定する。水青を近くのベンチに横たわらせ、アネットに向き直る。

「ここで逃げたらあの人何をするかわからないよ」

「そんな無謀よ。貴方1人で――「エイダさんがいるよ」――あ……もうっ! どうなっても知らないわよ」

 明樹保は構え、猫の周りに若草色の光の玉が数個浮遊しはじめる。

 学校では見たことがない背中。傷つき血も出ている。満身創痍、そんな背中に問わずにはいられない。

「どうして?」

――どうしてアナタは変われたのか――

 明樹保は律儀に向き直る。その瞳が水青の瞳を射抜く。

「んー……? 魔法少女だから、そうでありたいからかな?」

 水青の問いに明樹保は笑顔で答えた。

 そうでありたいから。そうなりたいから。だから戦う。そんな答えに驚いた。

 

 

 

 桜川さんの足は少し震えていた。

 怖いと思う自分とも戦っているんだ。それでも魔法少女であるから、ありたいから。それに比べ私はどうだろうか? 今、私は安易な方向に逃げているんじゃないだろうか?

――きっと変われる。1人じゃ無理でも! 私が、私達がいるからっ!!――

 先ほど言われた言葉を思い出した。変わろうとすることを諦めていたら、変わることなんてできるはずがない。何もせずに諦めていた。また諦めてしまいそうになっている。

――嫌いだな。そういう、諦めた態度言いたいこととか、伝えたいことがあるなら、ちゃんと相手に言わないと伝わらないだろう――

 そうだ。私は素直になれなかったのですね。自分にも他人にも、諦めなければ手に入るんだ。変わりたい。けどそれはネガティブから来るものではない。変わるから成せるのではない。何かを成して変わるのだ。石が私を変えるのではない。私が石を変えるのだ。

 黒い輝きは薄れていく。

――私のせいではないわ――

 そうじゃない。いつだって選ぶことすら放棄していた。自分の考えを、想いを伝えようとせずに、わかってもらえないといつも逃げた。父からも自分自身からも。

 青が石を覆い。

――ワタクシは頼ることができなかった――

 頼ろうとしなかった。頼ることを恐れた。そして壁を作りあげた。だから頼れなかった。それでも手を差し伸べてくれる人はたくさんいた。いつもそれに気づかないふりをしていた。

 青き輝きが増していく。

――私は――

 体を襲っていた激痛と高熱は引き、温く柔らかいモノに身を包まれたかのような心地よさ。体が軽くなり、自然とベンチから立ち上がることが出来た。体の内から溢れ出る泉のように力が湧き上がる。

「私は雨宮 水青。雨宮 蒼太の娘、雨宮 水青です!」

 水青の叫びと、同時に青き光が辺りを支配した。明樹保はすぐに理解し叫んだ。

「水青ちゃんなら出来るよ!」

 光が視界を覆い。すべてを溶かしていく。

――アナタは私。ワタクシは貴方。だから忘れないで、いつもワタクシは貴方の側にいます――

「肝に命じておきます」

――ワタクシの力、貴方に捧げます――

「ありがとうございます。では参ります」

光が止む頃には敵も、明樹保さんたちも驚きに目を剥いていた。

「これは……」

 自分の姿の変わり様に驚いた。明樹保さんとほぼ同じ衣服。

 これはこういう決まりなのだろうか?

 明樹保さんの瞳の中の私の頭髪と瞳は青々としていました。左手の中指に青い指輪。

 力は水。なぜかそれがわかる。

 明樹保さんは「やったー」と叫びながら、私に抱きついてくれます。凄く心地が良い。少し前なら拒絶した温もり。

「そんな!? 馬鹿な! あそこまで黒く染まっておいて!」

「嘘でしょ……?」

 猫さんと老婆は信じられないといった面持ちである。

 

 

 

「今更1人増えた所で、なんとかなるもんじゃないさね!!!」

 アネットは蔓を力任せに振り回す。明樹保達は距離を取りやり過ごした。

 水青はやり過ごすと、アネットに手をかざす。青い光を纏い。彼女を中心に青い線で箱を作り上げた。次の瞬間水が箱の中を満たす。

「ごがぼぼぼ」

 アネットは突然の事態に混乱し、水の中で暴れまわる。蔓を操るが、水の中では動きが鈍り、思うように抵抗ができない。水の箱から飛び出そうとするが、水の壁に阻まれ出れない。

 唯一動く左腕で叩くが水を叩く感触しかなく。その先に手が進まない。暴れる度に息が漏れて、精神的にも肉体的にも追い詰められていく。

 肺の中の空気が完全に押し出され、意識が薄れていく。

(冗談じゃないだわさ! こんなところで死ねないだわさ!)

 残った魔力をすべて使って、蔓を生やす。その勢いで水から出来た箱を打ち破り、外に飛び出る。

 外に飛び出て肺の中を酸素で満たす。息は乱れたまま、憎悪の感情を言葉に紡ぐ。

「覚えておくださ!! 次は絶対に絶対に殺してやるだわさ!!!」

 

 

 

 アネットの恨みがこもった叫びを聞き届け、私と明樹保さんは見つめ合う。

「ありがとうみーちゃん」

 満面の笑顔で笑いかける。そのまま抱き合う。

「その……。前々から思っていたんですが、みーちゃんというのやめていただいでもよろしいでしょうか? なんだかペットの名前みたいで……嫌です」

 そんな要求に明樹保さんは目を見開いて、笑顔を輝かせた。

「うん。いいよ!」

 あっさりとした承諾に驚いた。

「だって、そういう風に言って欲しくてみーちゃんって呼んでたんだもん」

 これまた笑顔。

 如何に今までの自分自身に興味がないか。それを思い知らされると同時に、みーちゃん。という呼び名にそこまでの意味があったことに改めて驚いた。

「だからよろしくね。水青ちゃん」

「はい。私もこれからは明樹保さんと呼ばせて頂きます」

 明樹保さんが満面の笑みで「うん」と答えてくれた。それだけなのに、すごく嬉しい。涙が出そうになるほどに。私が欲しかった温もりが今手に入りました。

 視界の端で黒猫が一歩進み出たのに気づいて、向き直る。

「私はエイダ。よろしくお願いね」

 猫が喋っていることと、それに慣れている自分自身になにやら不思議な気持ちになります。

 本当に私は変わることが出来たのだと実感しました。

 

 

 

 

 

 アネットは路地裏で、動かない右腕を恨めしそうに睨む。

「一体誰が邪魔を! きぃいいい!! 忌々しいだわさ!」

 そう叫ぶしか力はない。水に濡れたローブでここまで逃げたことをむしろ褒めるべきだろうか。

 彼女は体を調べて、体力も魔力もすでに限界であることがわかったらしい。その場に倒れこむ。

「探したぞアネット」

 空から低く重い声が降りてきた。

「遅いだわさ!」

 怒鳴りつける。ちょうどいいとばかりに八つ当たり気味だ。そんな声に表情をを変えることなく降りてきたのはオリバーだ。

「すまないな」

 謝罪の言葉にアネットは拍子抜けした。

「なんでだわさ」

「その怪我は我の不手際だ」

 アネットは驚きと怒りに目を剥いた。

「どういうことだわさ!?」

「アジトに帰ってから話そう。それでいいな?」

 有無を言わさぬ迫力、触れるだけで何かが壊れる様に、アネットは首肯することしか出来ない。何よりオリバーが笑っていた。何か玩具を見つけたかのように狂気に染まっている。そんな仲間の様にアネットは黙るしかない。

 

 

 

 

 

「一体誰が……?」

 少女を探しにきた母親に預け、来た道を帰ってくると。結界の外、私とエイダさんが結界内に侵入した辺りを中心に破壊の痕あった。紛れもなく私達の戦闘ではない。誰かの手によってだ。

 地面にはいくつも抉れており。建物の壁には穴だったり、切り裂かれた後だったり。狭い範囲だけどかなり激しいことだけは物語っていた。

 エイダさんはその痕を調べた後に言った。

「この技……オリバーね」

 

 

 

 

 

〜次回に続く〜

 

説明
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http://www.tinami.com/view/690601 3話
の続き

やったねあきほちゃん! 新しい仲間が増えるよ! って感じ
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