〜雪蓮視点〜

孫呉の陣営

「……………」

精神を研ぎ澄ませ目の前の戦場図に集中する。只。一心不乱に戦を思い浮かべる。

戦の事を考えていないと、心配で胸が張り裂けそうになるから…。

あの後、一刀が傷を負い帰還した際、城内は騒然となった。

一刀を慕う者は勿論、侍女、兵らにも負傷の報が広まり胸を痛めた。

この事から一刀の仁徳の良さがわかる。一刀はこんなにも多くの人から

好かれている。だから、安心させる為、

一刻も早くこの戦を終わらせる。今の私にはそれしか、

一刀の想いに応えられないから。

「姉様、我が部隊、準備が整いました。何時でも出陣可能です」

「ご苦労様、蓮華」

蓮華が私に報告する。その眼には並々ならぬ決意と闘志を宿している様に

窺える。実は一刀の負傷で一番心配していたのは蓮華なのだが、

いち早く気持ちを切り替えて行動を起こしたのも蓮華だった。

明命、亞莎と言った次世代を担う子達を励まし、自らの責務を全うした。

その姿こそ、私が期待していた君主への片鱗そのものだった。

「弓兵部隊、準備万端じゃ」

「……遊撃部隊、準備が整いました」

「私の部隊も準備完了です〜」

祭、亞莎、穏の三人が報告にやってきた。先程、思春、明命の

報告を受けたから、後は再度、確認するだけ。

「………」

「…大丈夫よ亞莎。一刀はまた元気な姿を見せてくれるわ」

「す、すみません。蓮華様……」

「いいのよ、誰だって一刀が心配なのだから。でもね、心配の余り

　上の空になるのはよくない。一刀を想うのなら、今、自分が

　成すべき事に力を注ぎましょう。じゃないと、

　一刀に会わせる顔がなくなるわ」

「は、はい!!」

「…権殿の成長は著しいのう。日に日に頼もしくなってきたわい」

「そうですね〜。以前の蓮華様とは比べられない程の成長振りです〜」

本当ね。何時の間にこんなにも成長したのよ。一刀を一番心配しているくせに

それを、おくびにも出さないなんて。…頼もしくなったわね、蓮華。

「……雪蓮」

陣幕の隙間から冥琳が入ってきた。私は間髪容れずに質問をぶつける。

「一刀の様子はどうだった。

　医師に診察してもらったんでしょ。何て言ってた!!」

評定を始める前に冥琳が医師を手配していた。

診察の際、私達も帯同しようとしたのだが、

『俺に割いてる時間はないだろ。大丈夫、一人で診察を受けられるさ。

　子供じゃないんだから』

と、断られた。そして、今、その結果を知る事が出来る。

「矢によって出来た傷は相当深く、傷が残る可能性があるらしい。

　だが、命に――別状は無い」

「…そう、良かった」

一刀が無事で本当に良かった。

城に帰還する際に感じた嫌な勘は杞憂だったみたいね。

これで、気兼ねなく曹操との戦に望める。

「思春、明命。北郷がお前達に話があるらしい。

　早急に北郷の下へ赴いてくれ」

「「了解致しました」」

思春と明命は急いで一刀が休んでいる野営に向かった。

「それと、雪蓮。北郷からの言伝だ。『戦が始まる前の兵への鼓舞、

　これを俺に任せて欲しい。最高の士気で戦場に出してやる』と」

…何か考えがある見たいね。なら、一刀を信頼しよう。

「わかったわ。冥琳。一刀に任せてみましょう。

　でも、無理をしない様に気をつけて様子も見ないとね」

「…ああ。そうだな」

「それじゃあ、皆。再度曹操軍の対策を確認するわよ」

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ジャーン！ジャーン！ジャーン!!

銅鑼の音。いよいよ曹操軍到来ね。曹操、私を怒らせた事を

後悔するといいわ。私は憎悪の念を南海覇王に込め、

そして、今までで一番であろう覇気を纏いながら決戦に望む。