魔王は勇者が来るのを待ち続ける |
第一話「魔王と宰相」
薄暗い部屋の中に1人の男がいた。椅子に座り込んだまま唸っている。何かを思案しているらしく、眉間に深いシワができていた。目の前にある机の上には羊皮紙が重ねられており、そこには乱雑な文字が羅列されている。使ったと思しき万年筆は机の上を転がっていた。
突然部屋が明るくなる。男は褐色の肌。漆黒の髪。漆黒の鎧を身にまとっていた。細部に金色の装飾を施した豪華な鎧だ。灯りを反射して漆黒の光沢が鈍く光る。深紅の瞳を少しだけ揺らす。灯りは蝋燭に火を灯されたものだ。それを手にした白い影が男に歩み寄る。白い頭巾白いマントで覆い尽くされたモノだ。性別も姿もわからない。わかるのは意外と背が低いということだけだ。並べられた椅子の背もたれに頭頂部が少し覗く程度の背である。
白いモノは男の側まで来ると声を発した。
「もう諦めたらどうですか?」
黒い男は首を振る。幾度と無くこの問答を繰り返したのか、白いモノは深い溜息を漏らして呆れたような声を漏らす。
「わざわざ勇者なんか呼び寄せる必要なんてないでしょう?」
「嫌だ! 魔王としての存在意義がないではないか」
顔を背けて魔王は続ける。
「魔王と言えば勇者に討伐される宿命にあるのだ。あるはずなのだ! そう思うだろう宰相?!」
最後は力が入ったのか、拳を作り力を入れて説いた。
「んなもん野良犬の餌にもなりませんよ。そんなことより北のダムの建設の件なんですけど」
魔王は抗議するが、宰相は聞かずに進めていく。
白いマントの中から細く白い腕が延びる。それには丸められた羊皮紙が握られていた。それを広げていく。
「反対派がいるのか? しかし、ダム作らんと夏の水不足が深刻になるぞ」
「あーいえ、村人達が退去するから村の代替地早く決めてくれだそうです」
「あっれー? そんなに簡単に決まっちゃったの?」
そんな彼に宰相は呆れたように溜息をつく。宰相の様子を気にも留めず、魔王は地図を広げて唸り始める。
「代替地どうしようか?」
「知りませんよ。きっと魔王様が決めれば従いますよ」
それでも魔王は、あーでもないこーでもないと、地図を眺めて夜を明かすのだった。
青空の下。魔王は叫ぶ。
場所は城の中庭である。色とりどりの花々が鮮やかに咲き誇っていた。手入れは行き届いており、整然としている。そんな中、魔王と宰相は歩きながら喋っていた。
「宰相! 勇者達が来ないぞ!」
「そもそも勇者が来る理由がありませんよ」
「なぜだ? 私は魔王だぞ」
えっへんと胸を張り、悪そうな顔を作る。が、宮中の人間達が笑顔で挨拶すると、笑顔で挨拶を返していた。全くもって魔王としての品格がない。
「だったら人間でも蹂躙すればいいじゃないですか」
「ばっか宰相! うちの国の大事な財産だぞ! 生きとし生けるものの命はこの大地の未来だよ? ダメ物騒な事!」
魔王はしきりに頷き。人間の良さを宰相に説き始める。
「それですよ……」
魔王は「何がだ?」と、眉根を寄せた。
「何がだ? じゃありません。そんなんだから、勇者なんかが来る理由がないんですよ」
魔王は首を傾げる。宰相の言葉に納得がいかないのだ。
「いや、でも私がこの国を支配して半世紀だ。そろそろ勇者の1人や2人来てもいい頃合いじゃないか」
「前いた王の圧政から解放したようなもんじゃないですか」
「この国には魔族がいっぱい街にいるぞ!」
「この半世紀で種族の溝を埋めることが出来ましたね。皆仲良く暮らしておりますよ」
「そうだないいことだ」
宰相は舌打ちする。彼、彼女かわからない彼は咳払いすると、忌々しそうに言う。
「優しい魔族の王様ですこと」
「なんとか呼び込む方法はないか? 一応他国には勇者達を派遣しているところだってあるじゃないか。ウチをよく異端の国だ! 滅ぼせって吹聴してさ」
魔王は縋りつくように宰相に問う。宰相は不機嫌を隠さず、声に出して言う。
「そもそも怪しい奴は関所で弾いてますし」
「通せよ!」
「なんでだよ!」
「勇者様ご一行ご案内。そして即、城で私と勇者の決闘だろ?!」
「ちげーよ。そもそもその前に配下が行く手を阻むわ!」
魔王は「阻むなよ!」と叫ぶ。宰相はうなだれながら、声を漏らす。
「生きとし生けるものの命はこの大地の未来なら、それを統べる者を守るのは当然でしょうに」
「それでも勇者と決闘するんだ。そういうのが魔王なんだって、異世界の本だとそうなってたんだもん!」
「一国の王が、簡単に感化されんなや!」
宰相の叫びは青空にこだました。
〜続くか?〜
説明 | ||
60分で絵を描くなら60分でお話を書こうというコンセプトで書いたお話。 流行りの魔王を題材にしたものです。 ※小説家になろうにも投稿させていただきました |
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コメント | ||
続け!!(角の字) | ||
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