魔王は勇者が来るのを待ち続ける
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第四話「魔王と他国の王様」

 

 

 

 

 山々に囲まれた緑豊かな土地。その中心に脈動する小さな山がある。否、生き物がいた。襲われることを考慮していないのか、堂々とした寝姿だ。獅子のようなたてがみ、頭部に二本の鋭い角が生えている。突進すればたやすく突き刺せそうなほど真っ直ぐに伸びていた。前足は後ろ足より二回りもでかく。四足の先から伸びた爪は、分厚い鋼鉄すらたやすく切り裂きそうなほど鋭く見えた。

「魔王様の言ったとおりだな」

 甲冑を身にまとった男が言う。それに随伴していた同僚も頷いた。二人共人間である。

「今じゃ俺達にも見向きもしないな」

「そうだな。言ったとおり、下手に手を出すよりやり過ごす方がいいかもしれない」

 男たちは羊皮紙に報告を書き進める。途中で一瞬だけ地面が大きく揺れた。慌てて確認するが、寝返りだけだったようだ。先ほどとは体の向きが変わっていた。

「脅かしやがって……」

「睾丸が縮む」

 彼らは交代の人員が来るのを待ち続けた。内心は「早くしてくれ」と願うばかりである。

 

 

 

 

 

「ということで、三週間が過ぎました」

「仮設住宅の方は?」

 白い頭巾を深く被った存在は「問題ないようです」と続けた。彼、または彼女なのかわからない宰相だ。相手はもちろん魔王である。彼らは城の廊下を歩んでいた。魔王はいつもの漆黒の鎧ではなく、礼服だ。宰相とワーウルフを1人、そして近衛兵の人間を二人引き連れて足早に歩む。

「大将。カラミティモンスターも動きはないようです。前線の兵士たちも魔王様の方針に肯定的な意見が増えてきました」

 ワーウルフが報告する。

「マナの濃度は?」

「以前高いままだな。仮に討伐するとして、魔神騎は使えないし推奨も出来ない。地形も起伏が激しいから、数を展開して倒すにも苦労しそうだ」

「牧草地まで下がればよろしいのでは?」

 ワーウルフは宰相の提案を「バカ言うな」と否定する。

「あそこはあの村の収入源だ。仮に展開するとしても後始末が大変だ」

 宰相は依然として討伐推進のようだ。厳つい顔のワーウルフは保守的であり、魔王と同じく現状維持を推奨していた。魔王は2人の会話を楽しそうに聞いている。時折口論しかかるのを笑って聞いていた。近衛兵達は慣れているのか、特に2人のやり取りに表情を変えることはない。埒が明かないと判断したのか、ワーウルフは魔王に判断を委ねる。

「とにかくだ。俺、そして農林水産長官も早期の討伐決定には反対だ」

「特に動きはないようだし、国防長官、現状維持だ。対象に変化があれば早急に報告しろ」

 ワーウルフは「ハッ」と返事する。突き当りで魔王達とは反対の方向に向かった。

「それよりだ宰相。抜き打ち調査の方は?」

「はい。二割が職務怠慢と思われる結果でした」

 魔王は「由々しき事態だな」と溜息を吐く。

「処罰の厳罰化も考慮なされては?」

「それじゃあ意味が無い。抜き打ちでの調査も、手がかかるだけだからあんまりしたくない」

「わかりました。色々と練ってみます」

 魔王は「任せる」とだけ言う。宰相の答えに満足したのか、表情は晴れやかだ。

 彼らが歩む先に、大きな扉が現れる。そこに重装備の騎士が二人いた。魔王は「大仰だな」と漏らす。もちろん二人は魔王軍の騎士である。

「すでに皆様お待ちです」

「それは悪いことをした」

「会合の前に勇者ご招待案なんて考えこむからですよ」

「いやだが……その話は後だ」

「さっきあんだけ――今出るから! いい案でるから!――って言ってたくせに」

 魔王は舌を出し「てへへ」とふざけた。直後に宰相の拳が振りぬかれるが、余裕でかわされる。

「仕事してください!」

「じゃあするか」

 重装備した騎士達は扉に手をかける。そしてゆっくりと開けた。その先には長い机があり、向い合って座る形だ。魔王は部屋に入ると、詫びた。

「遅れて申し訳ないアトランディスの王よ」

 白髪の老人が椅子から立ち上がる。身に着けている礼服は決して豪華とは言えなかった。

「忙しい時分なようで、このような機会を設けてくれただけでもありがたい」

 アトランディスの面々は魔王達と向かい合う形で座っている。彼らの礼服も王と同じく貧しさがにじみ出ていた。対して魔王達は魔族も人間も豪華絢爛である。人目で豊かさと貧しさが浮き彫りになっていた。

 魔王と宰相は席につく。魔王はアトランディスの王に座るように促した。

「それで……話とは?」

 魔王は開口一番に切り込む。アトランディスの面々の表情は堅い。王は「単刀直入に言う」と前置きを入れた。

「我が国をソナタの国の属国にしてもらえないか?」

 沈黙が支配する。魔王も魔王の配下達も静まり返る。対してアトランディスは動揺を見せた。

 宰相は魔王に耳打ちする。ソレに対して魔王は否定の旨を言う。

「やはり駄目か?」

 アトランディスの王は問う。話を続けるための目的なのだろう。

「貧しいが海洋資源はそなたらに全て譲ってもいい」

 魔王の配下たちもその話に少しだけざわつく。彼らは己のもつ利権、王として主権すらも放棄すると言い始めた。さすがに魔王も、また彼らの配下も驚きを見せる。

「待て。アトランディスの王よ。話が見えない」

「だから我々は――」

 魔王は「違う」と言って制した。

「何故だ?」

 魔王は努めて冷静に、そして声音を低くして問う。アトランディスの王は額に汗をにじませながら話を始めた。

「財政難だ。国として成り立たなくなってきたのじゃよ」

「抱負な漁獲量が売りのはずだが?」

「少し話が飛ぶがよいか?」

 魔王は首肯する。

「数年前に遡る。漁獲量が落ちてきての、原因は深海生物だ。あれがいついてから落ちてきての。もちろん大きく減ったわけではない。だが、将来の不安から討伐を試みたのだ」

 王は自嘲する。「結果は惨敗」と視線を落とした。

「大型船五隻を含む多数の漁船を展開。大型船三隻と多くの漁船を失った。ここ数年なんとかやりくりしてきたが、国として限界を迎えてきた」

 王は「だから――」と言う。魔王は瞑目した。魔王の配下と宰相は属国することに好意的な意見を言い始める。

「断る」

 魔王は低く短く言い切る。

 

 

〜次回に続けます〜

説明
60分でお話を書くというコンセプトです
題材は流行りの魔王がいい国作ろう鎌倉幕府的な

http://www.tinami.com/view/694016 第一話
http://www.tinami.com/view/694174 第二話
http://www.tinami.com/view/694578 第三話
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