魔王は勇者が来るのを待ち続ける
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「魔王と友人」

 

 

 

 

 

「ぐっは! ……勇者め……我が魔王様への忠義は潰えることはない! ガクッ」

「私の策を見破るとは……ガクッ」

「よくぞ私が魔王の間者と見抜いたな……ガクッ」

「くくくく。我が家臣を倒すとは、さすがだ勇者たちよ! ここからは私が相手だ!」

「おい仕事しろやお前ら」

 日暮れ時。酒場は仕事終わりの男たちで繁盛していた。その酒場は特殊だ。人間、魔族などの種族の差など無く、初めて訪れた者達はその光景に驚くという。

 そんな酒場に魔王たちはいた。いつもの豪華絢爛な鎧も礼服でもない。市民達と同じ服を着ていた。周りにいるワーウルフ。筋骨隆々のペンギン。そして重役を担っている人間も市民の衣服と変わらない姿をしていた。彼らは勇者と戦う予行演習をしながら、酒を楽しんでいる。

「宰相! なぜここが!」

「バレバレだ! むしろバレてないと思っていたのですか?」

「ふふふ、よくぞ見抜いた」

 人間の男。外務を担当している人間が不敵に笑う。そこへ酒場の主人が酒とつまみを運ぶ。魔王達は空いた皿や、コップを差し出しながら、新たに現れた飲食を並べていく。

「魔王様達がここで飲んでいることは、首都に住んでいる人間の間では有名ですよ」

 酒場の主人は笑う。彼は「おかげでうちは繁盛だ」と鼻歌交じりに店の奥へと下がっていく。

「それより、礼服なんかでここに来るとは、凄い場違いだぞ宰相」

 白い頭巾で見えない顔がうんざりとしたように見えた。彼、または彼女である宰相は頭を抱えながら魔王に食って掛かる。

「あのですよね! カンクリアンとか、カラミティモンスターとか、アトランディスなんか問題が山積みなのに、なんで宴なんか開催しているんですか! そんな暇はありませんよ!」

 魔王は「余裕が無いな」と鼻で笑う。もちろん宰相は怒りを露わにする。口を開こうとしたところで邪魔が入る。筋骨隆々のペンギンが手で遮ったのだ。

「まあまあ、私達が駐屯部隊として明日発つのだ。宴くらいいいだろう?」

「何も前日にやることないでしょうが!」

 ワーウルフは豪快に笑いながら「いいじゃねぇか」と酒を浴びるように流し込んだ。

「1人を除いて集まれるのが今日だけだったのです。ご容赦を」

 筋骨隆々のペンギンは酒に呑まれないと、自信満々に豪語する。それは店に響き渡り、さらに店に勢いがついたように見えた。

「我々ペンギン族と、魚人族。そしてクラーケン族が先発隊としてアトランディスに入るのだ! 皆盛大に送ってくれ!」

 宰相は無理矢理席に座らさる。そして流れるように酒を手渡された。さすがに諦めたのか、ちょっとずつ酒に口をつけはじめる。

「依然として国境付近はマナの濃度が高いのですか?」

 宰相の言葉にワーウルフは息を吐きながら、高い旨を報告した。そして彼はカラミティモンスターがマナの濃度を高めているかもしれないと、推測する。それに同席するもの達は同意の言葉を投げた。

「仮に討伐するとなると、霊力を持つ者がいないと対処出来ないだろうな」

 魔王はつまみを口に運びながら続ける。

「魔神騎はマナプロテクトがあるとはいえ、魔衛騎、魔剛騎は完全に足手まとい。魔神騎とカラミティモンスターの戦いとなれば、周囲は吹き飛ぶだろう。それは我が国にとっても痛手だよ」

 北の国境付近に現れたカラミティモンスター。その場所は山々があり、天然の壁となっている。海を挟んでいるとはいえ、その先にある国はカンクリアン。

「山が吹き飛べばそこから雪崩れ込んでくるだろう。カンクリアンはこちらの大使を皆殺しにしている奴らだ。そんな好機を与えれば難癖つけて雪崩れ込んでくる」

「つまりわしの霊力が必要かな?」

「いや、そもそも討伐するという仮定の話だ……なっ!」

 魔王は驚きに目を剥いた。魔王達の席の前に白髪の老人が立っている。老人は頭巾がついたローブを身にまとっていた。背には大きな背負い袋を下げている。彼は白い歯を見せて笑う。魔王は立ち上がり、老人の手を握った。2人は固い握手を結ぶ。

「元気そうだなバハムート」

「そちらもご健勝でなによりだラガン!」

「まさか、御身に会えるとはなんたる奇跡か!」

 筋骨隆々のペンギンが立ち上がった。

「久しぶりだなラガン。テメェにつけられた傷が嬉しさにうずくぜ」

 ワーウルフは右腕の傷を見せつけながら立ち上がる。

「生前父がお世話になりました」

 外務を担当している人間は、他の面々よりゆったりと立ち上がり頭を下げた。

「コゥティ、ガルゥも元気そうだな。アルも……色々あったみたいだな。後で墓参りさせてくれ」

 宰相以外の面々がラガンという男の登場に沸き立つ。宰相はというと、面倒臭そうに酒を飲んでいた。

 そして魔王は気づく。ラガンの後ろにいる小さな存在に。幼い少年がいた。ラガンと同じような格好。そして彼は興味深そうに店と、魔王達を眺めていた。

「ラガン。弟子を持ったのか?」

 ラガンは気恥ずかしそうに頷いた。魔王は口元を歪める。

「――もう弟子は持たない――なんて言ってたのに」

「茶化すな。色々あったんだ」

 ガルゥの言葉にラガンは照れ隠ししながら笑う。

 魔王は少年をまじまじと見入る。そしてなんども「なるほど」とつぶやいた。少年と同じ目線となるように片膝をつく。

「私の名はバハムート。君の名前は?」

「ソラ。ソラ・エクサーベ」

 魔王はほんの一瞬だけ間を作った。すぐに笑うと「友達になろう」と言う。ソラは笑いながら頷く。

「まおう様と友達になる」

「違うぞソラ。バハムートだ! バハムートと呼んでいいのだ」

「そうか! バハムートよろしく!」

 少年の満面の笑みを見て、魔王達も笑った。

 

 

 

 

 

 魔王城の中には巨大な浴場がある。その風呂の中に数人の魔族と人間が浸かっていた。魔王バハムートとラガン、そしてソラ、ガルゥ、コゥティ、アルだ。

「俺達なんか泊めて良かったのか?」

「友を歓迎するのは、友として当たり前だ」

 ラガンは白い歯を見せて笑う。魔王も同じ顔で笑った。

「凄い逸材を見つけたものだな」

「ああ、まだ元老院に御目通りさせてない」

 魔王は「それがいい」と言う。ソラを手招きすると、頭をガシガシ撫でた。

「お前ならそう言ってくれると思ったよ」

 ラガンはどこか遠くを見るような顔となる。

「こいつを勇者にしたて上げる計画を思いついた」

「お前……まだ言っていたのか」

 魔王は「無論」と不敵に笑う。対してラガンは呆れたように笑った。

「しかし年齢で衰えているとは言え、君の霊力をこの年齢で抜いているのは驚きだな」

「霊将になれるほどの実力と経験。そして霊力を持ち合わせている」

 ソラは嬉しそうに笑う。

「だが、人間としての経験は少ない。そういうのを建前に元老院のところには行ってないまま、俺の弟子とさせている」

 ソラは「師匠は師匠だよ」と言う。そんな言葉に魔王とラガンは笑みを浮かべた。ラガンは手で湯をすくう。それをしばらく眺めて顔にかける。

「この歳で愛着を持ってしまった」

 ラガンの顔には哀愁がにじみ出ていた。

「いいじゃないか。大切に育てるんだぞ。できれば勇者に」

「させねーよ」

 浴場からは笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

〜続く〜

説明
60分で書くお話という名の習作。
題材は流行りの魔王と勇者を扱ったものです。

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