矛盾駅
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   矛盾駅

 

 静かだった。朝方の喧騒の様子など微塵もなく、駅内には誰一人として存在しない。世界が止まっているかのような雰囲気だなとしみじみ思う。

 駅近くに設置されている街灯が、仄かな明かりを駅内にも注いでくれている。月明かりは無く、夜のカーテンは真っ黒のままだ。

 ふと、お伽話の世界を想像してみた。誰もいない空間を、一人で歩いている。カツンカツンと、足音だけが響いてく。でも、どこにも到着することはない。

 そんな世界だったら楽しい気もする。無限は怖い。それでも、不思議のほうが面白いと思う。私は線路を歩いて行く。レールの上からはみ出さないように、ゆっくりと進んでく。

 先にある風景は見えない。それでも、私はこの行き着く先を知ってしまっている。おかしい矛盾だった。見えないのに分かる。分かるのに見えない。

 いっそ、横にだけではなく上に行けたらなあと空を眺めてみる。月はやっぱり出ていない。それでも、月があることを私は知っている。これもおかしなことだった。

 世界はおかしいことばかりだ。でも不思議じゃない。

 どうすれば不思議なことに出会えるのだろう。そんな憧れから駅に侵入をしてみたけれど、新しい発見はそこそこしかなかった。

 一つ、この駅は警備が雑であるということ。

 女子高生が制服のまま線路を歩いていても、誰も気づかないからだ。

 二つ、知っている土地柄では新たな発見も少ないということ。

 私の前も後ろも、どこに繋がってるか私は知ってしまっているからだ。

 このぐらいなものだ。リスキーなことをしている興奮感も多少あったけれど、問題になるような気配もない。つまらないものだった。

 ああ、でもこの駅が無人になってるのは初めて見たのか。

 一応発見である。大切なものを見るように見回しておく。電気の通っていない電光掲示板、駅の改札、うっすらと確認できる3番ホームの表示、そして私が今いる線路。駅内部だけではやはりどこかつまらない。

 線路の上からネオン街のほうを見てみた。私が今いる無人駅と違って、騒々しい雰囲気がネオンだけで伝わってくる。楽しそうではあるが、ああいうのを求めているわけではないのだ。

 もっと、もっと、この世とは完全に隔離されたものが見てみたい。

 だからって死ぬのは興味がない。生きている内に、この世では見られない光景を見たい。

 ……ああ、私自身が矛盾しているんだな。

 うまく行くわけがなかった。ロジックも、感情もめちゃくちゃなのだ。

 異常者じゃなかったら、こんなことをしないだろうし、当然なのだろうけど。

 レールの上で腕を広げて、平均台に乗る子供のような格好をとってみた。意味はなかった。人間、人が見ていない時には奇怪な行動をしたくなるものだと思う。

 そんなことをしていたら、後ろから光が迫ってきた。なんだと振り返ると、それが電車であることは一目瞭然だった。なんでこんな時に電車が来るんだ! と思いながらもレールの上を横に移動してレールから外れると、私が立っていた場所を列車が通り抜けていく。

 通過していく列車はコンテナばかりの貨物列車だった。こんな時間にも貨物を運んでいるのか。驚きだった。

 はあはあと息を漏らす。自分で考えている以上に予想外のことだったのか、動揺? 興奮しているみたいだ。できるだけ落ち着かせるように深呼吸をする。

 夜の冷たい空気が私の肺を満たしてくれる。喉には悪そうだけれど、随分気持ちが良かった。そろそろ駅を後にしよう。なんだかんだで楽しいこともあったように思う。

 コンビニで帰りにアイスでも買って帰ろう。甘いものを食べることは人生で大事だ。夢のない生活だけれど、私はそうやって生きていく。どこかで、フィクションに会えることを祈って。

 

 了 

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無人駅
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短編 女子高生 SS 無人 

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