[HXL] 福岡港改造生物密輸事件 10 |
「愛。あかね!」
広美が、キュウキサウルスの正体と、レジェンド・オブ・ディスパイズのパイロットの名を呼んだ。
どっちもかわいい後輩だ。
ザザッザザー
その時、HMDの画面がゆがみ、砂嵐が走った。
何も表示しなくなった。
フクイペリオンの太陽風、電磁波のせいだな。
HMDを外す、ここからは肉眼で勝負だ。
最後に得た情報を伝えないと。
と言っても、無線はもう使えない。
今のところ対象は俺の背中から引っ張りあげるイーグルロードしかいなくなってしまった。
「生き残りのスイッチア軍が、こっちへ向かってくる! いったん隠れろ!」
イーグルロードは、きっと後ろ髪を引かれる気分だろう。
一瞬悲しげな表情で、後輩達を見る。
それでもオレの指示に従い、川辺の工場に降下していった。
千鳥橋ジャンクションでは、福岡から避難しようとする自動車がひしめき合っている。
その周りでは、組成の違う巨大な怪物達が戦っている。
福岡湾に立つ、身長1200メートルの正義の巨大ロボットスーパーレジェンド・オブ・ディスパイズ。
略してスーパーディスパイズ。
あの巨体からみれば、ジャンクションも一跨ぎだ。
だがそんなことをすれば、ここら一帯が足を振り下ろした衝撃で津波に飲み込まれるだろう。
スーパーディスパイズの腕は、ひじから手首の部分をはしご車のはしご状に3倍ほど伸ばすことができる。
そのため、半径1キロ以内の地面に置いてあるものを、しゃがむことなく拾うことができるのだ。
奴が立つ博多湾は、ここから1キロほど南にいった埋立地の向こう。
全身を動かすモーターが、幾重にも重なる重低音を響かせ、辺りのガラス窓をビリビリ震わせる。
スーパーディスパイズの左腕を戒めるのは、太陽でできた全長300メートルの雷竜・フクイペリオン。
そのフクイペリオンに立ち向かうのは、星空の体を持つワイバーン・キュウキサウルスだ。
大きく鳥のような形の羽を広げる。それだけで羽ばたくことなくその巨体をホバリングさせている。
足から生えた鍵爪が、青白い光を放ち、伸びる。
大地を駆けるためのスパイクから、相手を切り裂く武器に替わったんだ。
そこへ、自らを天にそびえる1本のバトルアックスと化したアステリオスが刃を振り下ろす!
その砲身は、もはや高さ2キロメートルを超えている。
三節棍のように2つの間接を生み出し、変幻自在の斬撃を次々に繰り出す。それも電撃付きだ!
これらの巨体同士がぶつかり合うたびに、オレたちの体は左右にゆすられる。
ガガーン! ドドーン!
それでもオレ達は、工場横を走る川辺の道路に逃げこんだ。
そこでは、逃げ遅れた人々が呆然と戦いを見詰めていた。
携帯電話やカメラで戦いを撮影しているのもいる。
「逃げろ! 陸のほうから敵のロボットが来てるぞ!」
オレがそう言おうとすると、人々はおびえた表情で倒れこんだ。
明らかにオレ達を恐れて。
「機械の化け物だ!」
オレ達のことか。
ひげ面の、やたら恰幅のいいオッサンが叫んだ。
白いラーメンの汁で汚れたエプロンをしている。
どこかの屋台の店主だろうか。
そのゴツイ声に、周囲の人々は浮き足立って逃げ出そうとする。
でも、すぐその足は止まった。
オレは察した。どこへ逃げればいいか、分からないんだ。
「「バカッ!!!!」」
怒りのあまり、オレが叫んだ。
同時に、広美も。
だが、すぐに後悔した。
オレだって、もう偵察能力はないのに。
着陸する。
とにかく、避難誘導しないと。
「すぐ近くまで、ヒーローの機甲部隊が来ています! 安全なところまで連れて行ってくれますよ!!」
そう言ったとたん、人々の叫び声にかき消された。
「また機械の化け物が来たぞ!!」
その指差す先を見ると、黒い高さ5メートルほどの人型ロボットが。
「さっき言った、ヒーローの機甲部隊です。オーバオックスですよ!」
夜空を照らす砲火が激しく、明るくなってきた。
スイッチア軍が近づいた証拠だ。
オーバオックスのハッチが開き、千田隊長が顔を出した。
声を張り上げる。
「我々は味方です! 安全なところまで護衛します!」
隊長機の後ろから、さらに3機のオーバオックスが現れた。
どれもすすけ、関節からスパークが漏れているものもあった。
でも、激戦を潜り抜けてきてくれた。
それが頼もしい。
人々は千田隊長の誘導に従い、一人、また一人とオーバオックスが囲む菱型隊形の中心に集まり始めた。
ただ一人、あの太った男性だけはうずくまり続けている。
「どうしたの!? 早く逃げなさい!」
イーグルロードが声をかけたけど、彼はうずくまるばかり。
いや、土下座しているのか?
「申し訳ありません!」
彼は頭を下げたまま、涙声で叫んだ。
「機械の体を持つだけで、侵略者と間違えるなんて! この上はいかなる罰を設ける覚悟です!」
オレとイーグルロードは、思わず彼の迫力に圧倒されそうになった。
でも、オレの意識のあらゆる部分が、彼の行為を無意味と結論付けた。
「罰なんかする暇ありません。それより、ちゃんと逃げてくれたほうがうれしい」
オレはそう言うと、川のほうへ注意を向けた。
「イーグルロード。オレにも銃をくれ」
彼女はすでに、両手で土の字型レーザー銃を構えていた。
もう一丁レーザー銃を、創生してオレにくれる。
それを受け取ろうとした、そのとき。
キャアアアアア!
カナキリ声の後で、おじさんにどたどたと近づく足音があった。
「アンタたち!自分がどれだけ醜いか分かってるの!?」
オレ達のことか。
女の声だ。 しかも野太い。
おじさんの奥さんだろうか。
音の感じで体重は分かる。似たような体型の夫婦なんだろう。
「何で家でおとなしくしていないの! 人を不安にばっかさせやがって! 畜生!!」
再び、オレとイーグルロードの声がハモった。
「「うるさい!!」」
ああ、こんな時まで俺を信じてくれる彼女の存在を喜ぶべきか、同じ年頃だった自分と比べて凄惨な事件に巻き込まれているのを嘆くべきか。
おばさんは、まだ叫んでいたが、旦那さんに引きずられて退避していった。
本当に人々が混乱しているからと言って、構っていられないのだ。
川沿いに、エアマフラーやエアバグが大挙して迫ってきた。
迎撃がさらに激しくなる。
ノッカーズの仲間が放つ、巨大な火の玉や風の刃が跳ぶ。
川の中に人影が見えた。
そこから、何万気圧にも圧縮された川の水が、ウォーターカッターとなって空に吹き上がる。
イーグルロードが両手に2丁、オレが1丁のレーザーもそれに加わる。
そんな中でも、最も迎撃しているのはスーパーディスパイズだ。
全身に配置されたハッチが開き、仕込まれた無数の近接防護システムが一斉に火を噴いた!
小型ミサイルが、機関砲が、レーザー光線が数の論理で異星のロボット兵器を価値のない鉄くずに変えていく。
「エアバグが来る!」
建物の壁や、物陰から黒い影がうごめいている。
オレ達の後ろでは、まだまだ避難する人たちが集まっていた。
イーグルロードなら、機械以上のスピードでカニか蜘蛛型ロボットを打ち抜く。
でもオレは肉眼だ。もどかしい。
「パパとママを責めないであげて!」
また、逃げる人の中から声を掛けられた。
今度は、小学生くらいの女の子のようだ。
「二人とも、私達を助けたかったの。でもうまくいかなくて、パニックに陥ってるだけなの!」
さっきの夫婦の子供か。
なんてこった。
今一番大人っぽいのは、この子じゃないか。
その時、隣のビルから、重なり合うたくさんのギヤ音が聞こえた。
視線を向けると、4メートルほど上の壁の影から、大量のエアバグが飛び出してきた!
説明 | ||
世界よ! これが日本の下っ端ヒーローだ! と、胸を張って言えないのが悲しい。 アウグルとイーグルロードも、ほんとにいい子なんです。 |
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