ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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 story02 決意

 

 

 

 その日の夜、如月はベッドに腰掛けてため息に近い息を吐く。

 

(西住。あそこまで戦車道を避けるとは。よほど去年のあれがトラウマになっているようだな)

 

 去年のテレビで見た内容を思い出す。

 

(まぁ、あの後何が西住の身に起きているかは、大体の察しが付く)

 

 西住の実家はもちろん、以前居た学校の事を考えれば、西住はかなりつらい事を受けている。

 

「・・・・・・」

 

 如月はパジャマの左腕の袖を引いて腕を見ると、腕と手の皮膚が抉れたように荒れ、所々が赤くなっている、見た目があまりにも酷い状態の腕があった。

 

(・・・・私も戦車道で色々とあった。代償を払ったり、後悔する事もあった)

 

 脳裏に様々な記憶が過ぎるも、すぐに振り払う。

 

(だが、それがあっても戦車道を諦めた事は無い。戦車道が無かった大洗に来てもな)

 

 袖を戻して左目を覆っていた眼帯を外してベッドの傍に設置している台の上に置き、そのまま横になって布団を被り、就寝する。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうして次の日の朝。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 西住は俯き、その様子を五十鈴と武部は心配そうに見つめ、如月は腕を組んで五十鈴の隣に立っている。

 

 西住の机の上には、如月と西住、五十鈴、武部の必修選択科目の選択用紙が置かれており、如月と五十鈴、武部はデカデカと記載された戦車道に丸を付けているが、西住は香道を選んでいた。

 

「ごめんね。やっぱり・・・・私・・・・」

 

 と、ボソッと西住は呟くように二人に謝る。

 

「・・・・どうしても戦車道をやりたくなくてここまで来たの!」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・分かった」

 

「ごめんなさいね。悩ませたりして」

 

 と、五十鈴と武部は戦車道に付けた丸を消すと、西住と同じものにする。

 

「私達も、みほのと同じのにする!」

 

「そ、そんな!?二人は戦車道を選んで!」

 

 戸惑いつつ西住は二人に言うも、武部と五十鈴は続ける。

 

「いいんだよ!だって一緒のほうが良いじゃん!」

 

「わたくし達が戦車道をやっていると、西住さん・・・・辛い思い出を思い出すかもしれませんし」

 

「わ、私は・・・・」

 

「・・・・それに、友達に辛い思いはさせたくりませんから」

 

「・・・・・・」

 

「私、好きな彼に合わせるほうだから大丈夫♪」

 

「・・・・みんな」

 

 

 

「私は戦車道をやめないぞ」

 

 少しして私は口を開く。

 

「き、如月さん・・・・」

 

「お前の事もあるが・・・・私はチャンスを見す見す逃すわけには行かない」

 

「・・・・・・」 

 

「・・・・まぁ、お前が戦車道を受けない代わりに、私がお前の分も背負っていくつもりだ」

 

「っ!?」

 

 と、西住は目を見開く。

 

「そ、そんな!?如月さんは戦車道で私よりもっとつらい思いをしているのに・・・・なのに!」

 

 戸惑いつつ、悲しげな表情を浮かべ、西住は如月に訴える。

 

「・・・・気にするな。お前の辛い思い出より、私の経験した事など、軽いものだ」

 

「・・・・・・」

 

 西住は申し訳なさそうに俯く。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから時間が過ぎて昼休み。

 

 周りでは必修選択科目や戦車道の話題で持ちきりだった。

 

 如月と西住、武部、五十鈴が同じ席に座って昼食を取る。

 

 カツ丼のご飯とカツを一緒に口に掻き入れながら、彼女は西住の様子を見る。

 

「・・・・・・」

 

 まだ悩んでいるのか、少し表情が暗い。

 

「あっ、そうだ!帰りにさつま芋アイスを食べに行かない?」

 

 そんな西住の様子から武部が話題を持ち出す。

 

「大洗ではさつま芋が有名なんですよ」

 

「あっ、知ってる!干し芋も有名だよね」

 

「一部では乾燥芋と呼ぶらしいな」

 

 そう話していると―――――

 

 

『普通一科二年A組み西住みほ。普通一科二年A組み西住みほ。直ちに生徒会室に来るように。繰り返す――――』

 

 

 と、生徒会の広報より西住の呼び出しが放送で流される。

 

 恐らく西住が戦車道を選択しなかった件についてだろう。

 

「どうしよう!」

 

「私達も一緒にいくよ!」

 

「落ち着いてください」

 

 武部と五十鈴は西住の手を取る。

 

「・・・・私も付き合うか。生徒会のやり方には少し腑に落ちん所がある」

 

 そうして四人は席を立ち、生徒会室へと向かう。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「これはどういう事だ」

 

 と、広報は西住の必修選択科目も用紙を突きつける。

 

「何で選択しないかなぁ。如月ちゃんは素直に選んでるって言うのに」

 

 会長は左頬に手をつけてぼやく。

 

「我が校。受講した如月と残り三人以外は戦車道経験者は皆無です」

 

「終了です。我が校は終了です!」

 

「勝手な事を言わないでよ!」

 

「そうです!嫌がっているのに無理矢理やらせようとするなんて!」

 

 西住の両手を持つ武部と五十鈴は会長に反論する。

 

「んな事言ってるとあんた達。この学校に居られなくしちゃうよ?」

 

 やる気の無い表情だが、その目は本気だった。

 

「なっ!?」

 

「脅すなんて卑怯です!」

 

「脅しではない。会長はいつでも本気だ」

 

「そうそう」

 

「・・・・・・」

 

 如月は顔を顰めて腕を組む。

 

 

「んで、何か言いたい事があるのかな、如月ちゃん?」

 

 会長は如月の方に目を向ける。

 

「あぁ。残りの三人は知らんが、私を含めれば四人も経験者が居るじゃないか。だったら西住を無理矢理受講させる理由は無いはずだ」

 

「まぁ、一理あるけどねー。でも、こっちはこっちで譲れない理由があるんだよねー」

 

「・・・・その理由とは?」

 

「それは言えない。こちらには秘匿義務があるのでな」

 

「言い逃れとしてはよくある言い訳だな。理由を言わずに納得が行くと思うか」

 

 苛立ちが込み上げてガリッと歯軋りを立てる。

 

「そうですよ!理由も言わずに、それもみほの事情も知らずに勝手なことを言わないでください!」

 

「そちらの事情など知った事ではない。さっきも会長がおっしゃった通りに、こちらには譲れない理由があるとな」

 

「っ!」

 

「酷い!」

 

「横暴です!」

 

「横暴は生徒会に与えられた特権だ。問題はない」

 

「そうそう」

 

「それでも生徒会なのですか!?」

 

「とにかく!みほは戦車道はやりませんから!!」

 

「西住は諦める事だな」

 

 

 

 

 

(・・・・みんな)

 

 三人が生徒会に反論している間に、西住は心にプレッシャーが重く圧し掛かっていた。

 

(二人共・・・・本当は戦車道をやりたいのに・・・・。それに、如月さんまで・・・・・・私の為に・・・・)

 

 こんな時に何も出来ない自分が情けなかった。いつまでも・・・・何も出来ない自分が・・・・

 そのせいで、あの時だって・・・・

 

 

 無意識に武部と五十鈴の手を握り締める。

 

 

「・・・・・・!」

 

 そして、彼女は心の中で決意を固める。

 

「・・・・あ、あの!!」

 

 西住は大声を上げると、生徒会の面々は呆気に取られる。

 

「・・・・っ!」

 

 一瞬戸惑うも、口を開く

 

「戦車道・・・・・・やります!!」

 

「「えぇっ!?」」

 

「なっ!?」

 

 武部と五十鈴は驚き、如月も予想に反しての事だった為に驚きを隠せなかった。

 

「・・・・・・」

 

 如月は一瞬西住の目を見て、少し信じ難かった。

 

 

 その目には、もう迷いは無く、決意が現れていた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「しかし、本当によかったのですか?」

 

「う、うん」

 

 放課後に如月と西住と武部、五十鈴は昼食の時に話していたアイスクリーム店に入り、さつま芋アイスを食べていた。

 

 如月から見て西住が正面で、その横に武部、如月の横に五十鈴が座っている。

 

「無理にしなくていいんだよ?」

 

「私は・・・・大丈夫だから」

 

 西住は手にしているさつま芋アイスを見つめる。

 

「・・・・私、嬉かった」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「・・・・みんなが、私の為に一生懸命にしてくれた。そんなの、初めてだった」

 

(初めて、か・・・・)

 

 ボソッと内心で呟く。

 

 昔から彼女の事を知っているからこそ、その気持ちが理解出来る。

 

「・・・・誰も私の気持ちを考えてくれなくて、お母さんもお姉ちゃんも、家元だから戦車をやるのが当たり前だって思ってるし。

 まぁ、あの二人は才能があるから・・・・」

 

 と、西住は表情を暗くする。

 

「・・・・でも、ダメな私は―――――」

 

 

 ビシッ!

 

 

「あぅっ!?」

 

 湿気る雰囲気になり、如月は西住が言い終える前に彼女の額にデコピンをする。

 

「そうやって自分と他人と比べる癖。直すんだな」

 

「如月さん・・・・」

 

 西住がデコピンされた箇所を涙目で押さえていると、如月は苦手だったが、微笑みを浮かべる。

 

「あの二人は二人だ。お前はお前らしくやればいいんだ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・一年ぶりだが、よろしく頼むぞ」

 

「・・・・はい!」

 

 ようやく西住の表情に明るみが現れる。

 

 

 

「・・・・あぅ」

 

 と、西住は痛みのあまりか、俯く。

 

「あっ、痛かったんだ」

 

 武部はその様子からすぐに察し、苦笑いを浮かべる。

 

「手加減したつもりだったんだがな」

 

 少し気まずく、如月は呟くのだった。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうして一夜が過ぎる。

 

 

 

 五時限目と六時限目にグラウンドの隅にあるレンガ造りの倉庫の前に戦車道を選択した生徒がそこそこ集まっている。

 

 しかし、中々癖のある面々が多い。

 

 一年前まで活動していたバレーボール部四人に話の内容から所謂『歴女』の四人、一年が九人がいた。

 

 

 

「あっ・・・・」

 

「・・・・?」

 

 と、一瞬一人の女子生徒と目が合うと、その生徒は如月の方に歩いてくる。

 

「あ、あの・・・・如月翔さんですか?」

 

 緊張気味でその生徒は如月に問う。

 

「あぁ。そうだが?」

 

「やっぱり!」とその女子生徒は確信を得たかのように声を上げる。

 

「詩乃!!鈴!!やっぱり見間違いでなければそっくりさんでもなかった!!」

 

 と、その女子生徒が呼ぶと、呼ばれた二人の女子生徒が集まる。

 

「・・・・お前達は?」

 

「っ!失礼しました!如月さん!」

 

 と、最初に如月の元にやって来た女子生徒が右手を伸ばしてこめかみ辺りに当てて陸軍式の敬礼をする。

 

 オレンジっぽい茶髪を後ろでまとめており、瞳の色が水色のボーイッシュな顔立ちで、背丈は私より拳一つ分低い。

 

「私は『早瀬(はやせ)昴(すばる)』です!中学校の時の戦車道で一緒のチームに居ましたが、覚えていませんか?」

 

「早瀬?そういえば居たような気が・・・・」

 

 うろ覚えであったが、頭の中に思い浮かぶ。

 

「はい!それと、ここで西住副隊長ともまた会えるなんて、光栄です!」

 

「は、はぁ・・・・」

 

 あまりもの勢いに西住は少し戸惑う。

 

「私は『鈴野(すずの)詩乃(しの)』と言います。昴と同じく如月さんの部隊に一緒に居ました。まぁあんまり目立った存在じゃなかったので覚えてないでしょうね」

 

 早瀬の隣に黒髪でこめかみの所だけを伸ばして束ね、瞳の色がグレーでメガネを掛けている大人しげな女子生徒が同じように陸軍式の敬礼をして話す。

 

「『坂本(さかもと)鈴(りん)』です!私、中学時代如月さんに憧れて戦車道を始めたんです!」

 

 と、鈴野の隣に居るこげ茶でロングヘアーのポニーテールで赤い瞳を持つ活発的な女子生徒が続けて話す。

 

「そ、そうか・・・・。しかし、私も随分と人気者になったものだな」

 

「そ、そうですね」

 

 如月の隣に立つ西住が苦笑いする。

 

「こうしてまた如月さんと一緒に戦車道をやれて光栄です!」

「私もです」

「私も!」

 

 と、三人は如月に迫る。

 

 そのメンバーが私のチームメンバーになる生徒達であった。

 

 

 

 

 

「これより、戦車道の授業を始める」

 

 それからして生徒会が倉庫前に立つ。

 

「あの!戦車はシャーマンかティーガーですか?それとも――――」

 

 と、一人の生徒が会長に聞いてきた。

 

「えぇと、なんだっけ?」

 

 会長は首を傾げて副会長を見る。

 

 

 

 そうして倉庫の扉が開いて全員が中に入るが、中は鉄と錆、油の臭いがして一年の一部が「鉄臭い」と呟く。

 

 しかし中にあったのはたくさんの機材や荷物。その中に黒ずみだらけで履帯が外れたW号戦車があった。

 

「なに・・・・これ・・・・」

 

「・・・・おぅ」

 

「・・・・・・」

 

 予想外にもこれしかないと言うのがなんとも・・・・

 

 しかし西住はW号に近付くと、「装甲も転輪も大丈夫そう」と呟いた。

 それを聞いた他のメンバーは「おぉ・・・・」と声を漏らす

 

(一目で分かるとは・・・・さすがと言った所か)

 

 

 

「それより、こんなにボロボロで大丈夫なの?」

 

「たぶん・・・・」

 

(まぁこんな状態じゃ大丈夫とは言い難い)

 

 履帯が外れ、埃と油まみれの姿を見て、これで大丈夫と言うやつの神経がおかしいだろう。

 

「男も戦車も新しいほうが良いと思うなぁ」

 

「それを言うなら女房と畳みでは?」 

 

「同じもんだよ。それにさ、一輌しかないよ?」

 

 と、当然の事だが、武部がそれに気付く。

 

「えぇと・・・・この人数でやるとなると―――――」

 

「全部で六輌辺り必要になります」

 

「じゃぁ、みんなで戦車探そっか」

 

 と、会長の言葉に他のメンバーもざわつき出していた。

 

「我が校においては戦車道は何年も前に廃止されている。だが、当時使用されていた戦車がこの学園艦のどこかにあるはずだ。

 いや、必ずある!」

 

 と、広報の女子生徒が言う。

 

「明々後日には教官がお見えになる。それまでに残り五輌を探すのだ」

 

「して、一体何所に?」

 

 歴女四人組の内一人が問う。

 

「いやぁ、それが分からないから探そうって言ってんの」

 

 と、会長はお手上げと言わんばかりに両手を上に向けて広げる。

 

「何にも手掛かりは無いんですか?」

 

 と、一年の一人が言うと「ない!」と会長は軽々と返事する。

 しかし、こんな状態でよく戦車道を復活させたな・・・・。

 

「では、捜索開始だ!」

 

 広報が言うと、一部は文句を言いながら倉庫を出る。

 

 

「何か聞いていた話と違う!戦車道をやったらモテるんじゃないの?」

 

 武部もぶつぶつと文句を言っていた。

 

「明々後日カッコいい教官来るから」

 

 と、会長が武部にその事を伝えると、「本当ですか!?」と顔を上げる。

 

「ホントホント。ちゃんと紹介すっから」

 

 そう言うと、武部はテンションが上がって西住達に声を掛けて倉庫より出る。

 

(現金なやつだ)

 

 内心でそう呟くと、如月達もその後に続いて倉庫を出る。

 

 

 

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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