人生の旅路は、そんな道 |
始まりはあっても終わりはない。あるのは、ただの((区切|くぎ))りだけ。
人生の旅路は、そんな道。
目前に映る景色は先の見えない闇夜、何が待っているか分からないから不安になる。怖くなって足が((竦|すく))む。
そんな道でも進んで行くしかない。誰でも歩いて行くしか((方法|すべ))が無い。
たから、((予|あらかじ))めどうなるのかを知りたいと望む。
でも、いくら先に知りたいと望んでも、その望みは一向に((叶|かな))わない。
どれだけ事前に情報を集めてみても、それらの情報に満足する事も無い。
それは、実際に自分が歩いてみなければ分からない事だから。
実際に自分が歩いて体験し、経験した事が本当に求めていたものだから。
ならば仕方がないと諦めて、道を歩んで行く決心をする。
先が見えないから、何が待っているか分からないからこそ、楽しみなんだと思い定めて。
自らの内にある『((悦|よろこ))び』の感覚を、周囲を照らす光と成して。
眼下に広がるは雪原。
誰も歩いた((形跡|けいせき))の無い、そんな見渡すばかりが雪だらけの野原。
一歩、進んで((踏|ふ))みしめる。
良くは分からないけれど、何故か雪に自分の足跡をつけるのが楽しい。
二歩目、進んで踏みしめてみた。
何故か、さらに悦びの感覚が増してくる。
いつのまにか、雪に自分の足跡をつけるのに夢中になって歩き続けて行った。
ふと気がついて、顔を上げて前方を見てみる。
するとそこには、先の見えない闇夜が広がっていた。
その事に注意が向くと、急に自分が暗闇の中に居る事が怖くなってくる。
何故、自分はこんな場所に居るんだ? こんな事なら、歩かない方が良かった! と、過去の自分の((迂闊|うかつ))さを((罵倒|ばとう))する。
どうして自分がこんな((酷|ひど))い目に((遭|あ))わなきゃイケないんだ?! と、天の所業を恨む。
こんな酷い仕打ちがされるくらいなら、こんな世界など滅びればいい! と、世界を呪う。
そんな最中にあっても、何故か自分の内側に悦びの感覚が残っている事に、ふと気づく。
悦びの感覚に気がつくと、それが気になって我を忘れる事が出来なくなって行った。
何故か自分を罵倒し、天を恨み、世界を呪う想いが、どんどん消えて行き、仕舞には冷静に成ってる自分に気がついた。
冷静に成って眼下を見下ろしてみると、そこには自分の足跡があった。
さらには後ろを振り返って、今まで自分が歩いてきた形跡を((辿|たど))って見る。
するとそこには、自分の足跡という『点』が((連|つら))なっていた。
闇夜であるはずなのに、何故か自分の足跡は光っていたのだ。
それに後ろの景色は、なんとなく見えるような気がする。
ふと思いつき、点と点を繋げて『線』にしてみる。
すると何故か、急に自分がここまで歩いて来た理由に気づく。
点だけの時には分からなかった事が、線にした時にハッキリと分かったのだ。
ただ自分が今いる場所を『汚点』にしていただけだったと思い至り、((腑|ふ))に落ちる。
身体を向き直して前方を見る。
そこにはやっぱり、先の見えない闇夜が広がっていた。
闇夜を見ていると、やっぱり怖くなる。
先の見えない怖い道を進むより、光っている足跡を辿って戻った方が楽だなと考えだす。
元来た道を戻るか、それとも先の見えない闇夜を進んで行くかの答えを欲する。
答えを欲していると、何故か内側から悦びの感覚が急に増してきた。
その感覚は、初めの一歩を踏み出した時よりも大きく成っているような気がする。
感覚が増してきた((所為|せい))なのか、周りを照らす光も大きくなったように思う。
暫く悦びの感覚に身を任せていると、何故かまた一歩を踏み出して雪に足跡をつけたく成って来た。
でも前方を見てみると、先の見えない闇夜が広がっている。やっぱり、怖い。
闇夜に意識を向けると怖くなって、戻ろうかなと思う。
自分の内側にある悦びの感覚に意識を向けると、楽しくなって一歩を踏み出したくなる。
想いがごちゃ混ぜに成り、どうすれば良いのか分からなくなって思い悩む。
ちょと試してみようかなと思い、元来た道を戻ってみる。
すると急に悦びの感覚が小さく成って、胸にポッカリとした穴が開いたような喪失感に見舞われた。
喪失感に見舞われた所為なのか、周りを照らす光が心許なくなる。
光が小さく成って闇の度合いが増したので、さらに自分が暗闇に居る事が耐え難くなった。
耐え難いから、再び自分の所業の迂闊さを罵倒し天を恨んで世界を呪いだす。
怒りを覚えて爆発している間は、喪失感から解放されるからだ。
だが、二度目だからなのか、何故か前回ほど怒りに我を忘れる事が出来ず、発散する事が((叶|かな))わない。
そうしていると、ふと自分の内側に悦びの感覚が残っている事に気づく。
悦びの感覚に気がつくと、また気になって我を忘れる事が出来なくなって行く。
そしてまた、どんどん恨みつらみの想いが消えて行き、仕舞には冷静に成ってる自分に気がついた。
元来た道を戻って喪失感に見舞われるくらいなら、光を大きくして先の見えない闇夜を進んだ方がマシだと悟る。
でも光は、いくらやっても、何をしても、望んだように大きくは成ってくれなかった。
それならば仕方がないと諦めて、今の光りの大きさのまま前に進んで行く事にする。
ここで、ふと思う。
どうせ前に進まなきゃイケないのなら、何か達成する事を思い浮かべてみようかな、と。
そこで、((満漢全席|まんかんぜんせき))という宮廷料理の食事風景を思い浮かべ、それを実感してみる事にする。
想像力((乏|とぼ))しくも、フカヒレのスープや((北京|ペキン))ダックなどを思い浮かべ、それらを食す感覚を想像してみた。
じゅるり。と、よだれが口元から((溢|あふ))れ出す。いいかもしんない。と、((恍惚|こうこつ))とした気分に成る。
すると、悦びの感覚が急に増してきて、周りを照らす光も大きくなった気がした。
何故? どうして? さっきまで何をしてもダメだったのに。
いくら回答を求めてみても、その答えは帰って来なかった。
考えても無駄だと思い直し、満漢全席の食事にありつくべく先の見えない闇夜を前進して行く。
どれだけ歩いたのだろうか? ふと気がつくと、そこには((洞窟|どうくつ))があった。
洞窟の近くまで来てみると、その穴から何やら美味しい料理の匂いが((漂|ただよ))ってくる。
おお! この匂いはまさに想像していた通りの満漢全席の食事に違いない! と思って、洞窟の穴の中へと飛び込んで行く。
飛び込んだ洞窟の中は、どうやら壁が所々光っているだけの一本道であった。
でも、そんな事はどうでもいい。重要なのは、満漢全席の食事だけ。
ただ一路、美味しい料理の匂いに誘われるままに、その場所に向かって駆け足で走って行く。
すると、ちょっとした休憩所のような((膨|ふく))らんだ空間に行きついた。
その空間を見まわしてみると、テーブルのような大きな岩が目につき、その上に何やら食事の用意が成されているのが見て取れる。
やっと望みが叶った! とばかりに、その場所に向かって走って行く。
悦び((勇|いさ))んで、テーブルの上に存在するであろう満漢全席の食事にありつこうとした。
そこで目にしたのは――
ハンバーグ・ステーキ弁当。
どこにでもある、ただのコンビニ弁当だった。
はい?
頭の中が一瞬、真っ白になる。
暫くして、再起動を果たす。
そこでもう一度、事態を確かめるべく、コンビニ弁当の上・下・左・右を順番に見まわしてみた。
だがやはり、満漢全席の食事は無い。あるのは、ハンバーグ・ステーキ弁当ただ一つ。
それに、ペットボトルのお茶が一本と、((一膳|いちぜん))のお((箸|はし))が((添|そ))えられているだけ。
何故? どうして? なんで、満漢全席の食事が用意されていないの?
頭が混乱して、そんな事ばかりが頭に思い浮かんでは消えていく。
いくら考えても良く分からない。考えるのにも疲れた。
望み方が((拙|まず))かったのだろうと見当をつけて、次回に期待しようと考える。
ふと、手にしているコンビニ弁当のフタに付いている値札が目に留まった。
税込、五百円。ワンコインぽっきり。
この((品揃|しなぞろ))え、このボリュームにして、このお値段。中々、リーズナブルである。
お腹も減っている事だし、これはこれで良いだろうと思い、箸をとってみる事にした。
フタを開けて、メインディッシュのハンバーグを箸で((挟|はさ))んで口にほうばってみる。
一口、((噛|か))んでみると肉汁が、じゅわり。
((美味|うま))くてたまらん! とばかりに、無我夢中で弁当を食べまくる。
いつ食べ終わったのだろうか? いつの間にか、口直しのお茶を((啜|すす))っているのに気づく。
大変おいしゅう御座いました。と、手を合わせて感謝を表してみた。
お腹も((膨|ふく))れて休憩もはさんだ事だし、今度こそ満漢全席の食事を食べてやるぞ! とばかりに、先の見えない闇夜を前進すべく洞窟を後にした。
もちろん、食べ終わったコンビニ弁当を、いつの間にか出現していたゴミ箱へと捨てた後に、である。
どれだけ雪を踏みしめながら歩いたのだろうか、また洞窟が見えて穴の中から良い匂いが漂ってきた。
飛び込んだ洞窟の中は、前回と同じように壁が所々光っているだけの一本道。
でも本当、そんな事はどうでもいい。満漢全席の食事以外に価値は無い。
今度こそ満漢全席の食事に違いない! とばかりに、その場所へと急ぐ。
さあ、ご対面! と、休憩所のような空間にあったテーブルのような岩の上にある食事と対面した。
そこにあったのは――
ハンバーグ・ステーキ弁当。
前回、出会ってお((馴染|なじみ))みの、どこにでもあるただのコンビニ弁当。
それに加えて、前回と同じように、ペットボトルのお茶とお箸が添えられている。
はい?
再び、頭の中が真っ白になる。
暫く立って、再起動を果たす。
その後、色々と調べてみるも、やはり前回と同様にコンビニ弁当だけだった。
再び、何故? どうして? 何がイケなかった? と、満漢全席の食事にありつけなかった理由を探し出す。
でも、どれだけ考えようと、いくら答えを欲しても、納得できる答えは得られなかった。
後ろを振り返り、足跡という点を線にしても、それは分からなかったのである。
色々と確かめていると、ふと腹が減っている事に気づく。
他に食べ物が無いなら仕方がないと諦め、コンビニ弁当を食べる事にする。
食べた弁当は、やっぱり美味しかった。
再び、お腹も膨れて休憩もはさんだ事だし、今度こそ満漢全席の食事を食べてやるぞ! とばかりに、先の見えない闇夜を前進すべく洞窟を後にした。
それから何度、雪を踏みしめただろうか。何度、洞窟を見つけては食事をしただろうか。
何度、洞窟を見つけて食事場所に行っても。
そこに現れるのは――
ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。
ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。
ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。ハンバーグ・ステーキ弁当。
以下、略。
今度こそ〜。なんとか〜。これなら〜。きっと〜。いつかは〜。
そう思いながら色々考えつつ頑張って歩いているのに、何故か出てくるのはハンバーグ・ステーキ弁当ばかり。満漢全席の『ま』の字も出てきやしません。
道を進む方向がダメなんだろうと思い、今いる場所から左側へと方向転換を((図|はか))った。
結果、大きな木々が邪魔をして行き止まる。
その結果に諦めきれず、そのまま木々に((沿|そ))って右側へと進む。
結果、木々の袋小路で行き止まる。元居た場所へと立ち戻るしかなかった。
元居た場所に戻って来て、左側がダメなら反対の右側ならばどうだ? と思い、右側へ進路を取る。
結果、左側の時と同じように袋小路で行き止まり、元居た場所へと立ち戻らざるを得なかった。
最初に居た場所に戻ってから考えてみる。
元来た道を戻るのは言語道断。しかし、前に進むのは気が進まない、と。
ならば、これならどうだ! とばかりに、空へ向かってジャンプする。
結果、((履|は))いていた((長靴|ながぐつ))が雪に足を取られて((膝|ひざ))が伸びきってしまう。
痛い。もの((凄|すご))く痛い。涙目である。
痛む膝を抱えながら身((悶|もだ))えた。
悶えながらも、ある事を悟る。
これなら、素直に前へ進んだ方がマシだったと。
仕方がないと諦めて、前方へと進路を取る事にした。
仕方がないと諦めて前方に進路を取ってから、どれだけ((経|た))ったのだろうか。
たいして経っていないようにも思うし、永遠の時を過ごしたようにも感じた。
そうして何度目かの雪道を歩いている時、結局のところ望みは叶わないんじゃないか? という考えが頭を((過|よ))ぎる。
その考えに身を任せると、どんどん身体が重く成って歩く速度が((衰|おとろ))えてきた。
身体が重い。足が上げられない。歩くのが((億劫|おっくう))だ。そういった思いが((募|つの))り、歩くのを止めてしまう。
どうして歩いていたんだろう? どこに向かっていたんだっけ? と、自問し出す。
望みが叶わないのなら、望みを叶えてくれないのなら、歩く必要なんてない。
何をやっても無駄なんだ、それなら歩くのを止めて楽になろう。
もう、疲れた。歩きたくない。と思い、その場で丸くうずくまる。
再び、内側から悦びの感覚が増してきた。が、こんな悦びの感覚など、なんの役にも立ちやしないと無視を決め込む。
すると急に、胸にポッカリとした穴が開いたような喪失感に見舞われた。
だが、それでも((構|かま))わないと思う。
周りが先の見えない闇夜でも。暗闇が増してきても。内側の悦びの感覚が小さく成っても。寒さで((凍|こご))え死んでも。本当に、それらすべてが、どうでも良くなった。
むしろ、このまま死ねたら楽に成れるんじゃないかとさえ思うように成る。
どんどん暗闇が増してきて、すべてが闇に閉ざされた。
そこは、凍えるほど寒かった。だが、その寒さが((心地|ここち))よい。
そこは、闇しか存在しなかった。だが、その闇が愛おしい。
さあ、((永遠|とわ))の眠りにつこう。ただ、ひたすら静かに、どこまでも深く。
そうすればきっと、今よりも楽に成っているはずだから……
どれだけ静かにうずくまっていたのだろう? ふと気がつくと、周りから荒い息が聞こえてきた。
なんだろう? と思い、目を開けて周りを見渡す。
するとそこには、無数のオオカミが獲物を狙う瞳を光らせながら、こちらを((伺|うかが))っているのが見て取れた。
それを見た瞬間、死のうと考えていたのにも((関|かか))わらず、短い悲鳴を上げて飛ぶように立ち上がる。
立ち上がって((直|す))ぐに、周りを見渡して逃走路を確認する事にした。
確認できた逃走路は二つ。
一つは、オオカミの群れの側面を抜けた辺りにある広場。
もう一つは、直ぐ横に見える((崖|がけ))。
こんな所に崖があったのか? と、今まで気づかなかった事を不思議に思う。
その時ふと、崖から飛び降りた方が良いという考えが頭に浮かぶ。
同時に、内側から悦びの感覚が現れてきたようにも思う。
だが、崖に飛び降りるなんて冗談じゃない。と、オオカミの群れの側面を抜けようと考える。
実際にオオカミの群れの側面を抜けようと、慎重に一歩ずつ足を進めた。
足を一歩ずつ進めるごとに何故か、赤信号が点滅するように何度も崖を飛び降りた方が良いという想いが増して来て、次第に頭から離れなくなる。
何故? どうして? どうすれば良いんだ? と、頭が混乱して思い悩む。
心拍数を上げながら悩んでいる間も、オオカミの群れは包囲網を完成させつつ((迫|せま))って来た。
思い悩んだ末に、ある決断を下す。
たとえ一時オオカミの群れの側面を抜けられたとしても、人の足では逃げ切れない。
どちらの道を選んでも、次期に死ぬ事に変わりは無い。
ならば、オオカミに生きたまま((喰|く))われる感覚を味わうくらいなら、崖から飛び降りて一瞬の痛みを感じて死んだ方がマシだ、と。
そう決心したら、後の行動は早かった。
すぐさま崖に向かって走り出し、そのまま大地の裂け目へと飛び降りる。
飛び降りながら、こんな所で天に((召|め))される人生の((儚|はかな))さを感じながら思う。
さようなら、我が人生。さようなら、満漢全席。出来れば死ぬ前に一度、食べてみたか――ゴフッ?!
空中を((漂|ただよ))っている間に、悲劇のヒロイン宜しく((辞世|じせい))の句のようなものを読み上げていると、いきなり背中とお尻が強打された。
痛い。めっちゃ痛い。呼吸が出来ず苦しい。
ついでに、人が死ぬ瞬間なんて一生に一度しか無いんだから、もう少し空気を読んで最後まで言わせて欲しいとツッコミを入れたい気分にもなった。
だが、崖の谷底に着くには早すぎるのではないか? と思い直し、身体を起こして周りを見渡す。
するとそこには、雪が薄い((膜|まく))のように((覆|おお))いかぶさっている氷の斜面が存在していた。
助かったのか――
そう((安堵|あんど))した瞬間、身体を支えていた手が((滑|すべ))ってしまう。
そのまま態勢を整える事も出来ずに、氷の斜面という名の滑り台を使って谷底へ向かって落ちて行った。
自然というものは時に神秘の芸術家に((変貌|へんぼう))するものだ。と、後に成って思う。
幾何学模様のような氷の滑り台を創り上げてしまうのだから、称賛する他に((方法|すべ))がない。
だが、実際に谷底に向かって落下している時は、そんな事を考える心の余裕など存在しない。
ひたすら大きな悲鳴を上げながら落下するに任せ、真っ逆さまに谷底へと滑り落ちて行く。
それはもう、遊園地に置いてあるようなジェットコースターなんて、めじゃ無い。
上下の高低差のある((凸凹|でこぼこ))コースなどは当たり前。
そんなものは、コンビニ弁当に申し訳なさそうに置いてあるマカロニサラダみたいなもの。つけあわせの、お((惣菜|そうざい))に過ぎなかった。
メインディッシュは一回転・バレルロール・コークスクリューといった、『いっその事、((一思|ひとおも))いに昇天させて下さい!』と泣いて((懇願|こんがん))したくなるようなコースが盛りだくさん、((目白|めじろ))押しだったのである。
どれだけ滑り落ちたのだろうか? 一瞬の出来事だったようにも思えるし、永遠の出来事だったようにも思う。
ふと気がつくと、大量の雪をクッション代わりにして止まっていて、天地が((逆|さか))さまの状態で口端をヒクつかせながら上空を((眺|なが))めていた。
もう、矢でも鉄砲でも持ってこい! といった心境で((呆然|ぼうぜん))と空を((眺|なが))めていると、ふと上空に向かってそびえたつ崖が目に留まる。
立ち上がって、その崖が登れるかどうかを確かめてみた。
確かめた感触は、やってやれなくもないかも知れない。といった微妙な感じ。
どの道、氷の滑り台なんかに戻ったって仕方がない。と諦め、崖をよじ登って行く事にした。
結構、登ったかな? と思うぐらいの時間が経った時、ふと下はどんな感じなんだろう? という考えが頭を((過|よ))ぎる。
だがしかし、下を見れば高さに恐怖して足が竦むのは目に見えている。でも、どんな感じなのか見てみたい気もする。といった相反する想いで((葛藤|かっとう))しだす。
色々と葛藤した後、下を見ずに崖をよじ登る事を優先する。
中途半端な場所で下を見て硬直した後、さらに崖をよじ登って行けるほどの強さは持ち合わせていないからだ。
ただ黙々と崖をよじ登って行くと、やっと頂上の出っ張った岩に片手を着ける事が出来た。
やっと、頂上に着いた――
そう思って安堵した瞬間、身体から緊張が抜けた所為なのか、足を滑らせた。
短い悲鳴を上げながらも、なんとか頂上から谷底へ落下するを踏み止めて九死に一生を得る。
暫く呼吸を整えて心を落ち着かせた後、慎重に崖をよじ登って行く。
全身を頂上によじ登らせながらも、まだ安心が出来ないとばかりに、そのまま四つん((這|ば))いの格好で((這|は))いつくばって前へと進んで行った。
安心できる所まで這いつくばって進んで行った後、これでやっと休む事が出来ると思って腰を落ち着ける。
腰を落ち着かせて休んでいると、これまでの道筋がどうなっていたのかが気になって、後ろの景色を見てみる事にした。
崖の向こう側は、どうなっているんだろう? あのままオオカミの群れの側面を抜けていたら、どうなっていたんだろう?
そんな、もし○○だったら? 的な事を考えながら後ろを振り返って、向こう岸の様子を((伺|うかが))ってみた。
崖の向こう側を見てみると、それほどの距離があるようには感じられ無かった。
そうであるはずなのに、氷の滑り台を滑っている時には((永劫|えいごう))の時の長さを感じたのを不思議に思う。
不思議に思っていると、オオカミの群れが未だ崖付近に居る事が目に留まった。
さらに、オオカミの群れの左側面にある広場に視線を向かわせる。
そこには、雪のように真っ白な毛皮を((纏|まと))う虎の群れが存在していたのだった。
白虎の群れを見た時、『もし、あのまま突き進んでいたら?』という事を思い浮かべて身体が硬直する。
同時に、崖を飛び降りる前に何故、白虎の群れが目に留まらなかったのかを不思議に思う。
オオカミの群れは、どうやら白虎の群れと勢力争いをしているようだった。
数の上ではオオカミが勝っているものの、個体の能力では白虎が勝っているとい事なのだろうと推測する。
いずれにしても、崖に飛び降りず広場へと突き進んでいたら、今頃は良くても悪くてもオオカミや白虎のお腹の中に居た事だろう。
もう、笑うしかなかった。
口の両端をヒクつかせながら乾いた笑いを((一頻|ひとしき))りした後、心の底から安堵して大の字に成って寝転がる。
暫く寝っ転がって気を静めた後、今までの行いを((省|かえり))みる事にした。
満漢全席の食事にありつこうと頑張った。
いくら頑張っても食事にありつけず、望みは叶わないのだと絶望した。
望みは叶わないと絶望したので、永遠の眠りにつこうとした。
絶望していたのにも関わらず、オオカミの群れが迫ってきたら反射的に飛び起きた。
オオカミの群れからの逃走路を発見するも、選択支を選べずに思い悩んだ。
決断を下し、崖から飛び降りたら助かった。
助かったと思ったのも束の間、氷の滑り台という恐怖を味わう事となった。
氷の滑り台を滑り切った後は、さらに崖をよじ登るという苦行だった。
崖をよじ登った後に確認してみたら、安全に見えた逃走路は安全では無かったと判明した。
色々な事を振り返った後、ある考えが頭にふと浮かぶ。
永遠の眠りにつこうとした時、本当に絶望していたのだろうか? と。
打つ手が無いから絶望する。自ら望みを((絶|た))つのだ。
だが、永遠の眠りにつこうと考えた時、楽に成れるかも知れないからという望みを抱いていた。
それはつまり、まだ絶望し切れていなかった事になる。
本当に永遠の眠りにつけば楽に成れたのだろうか? と、疑問を抱く。
ここでふと、ある事に気がついた。
楽に成れると決めつけていたのは、他ならぬ自分自身。そう成ってくれる保証など、どこにも存在しないという事を。
もし、あのまま永遠の眠りについていたら、もっと苦しい事に成っていたかも知れないという可能性を見落としていたのだ。
生きてさえいれば、何度でもやり直せる。だが、死んでしまっては、それすらも叶わない。
そんな気づきを得て、思わず((愕然|がくぜん))としてしまう。
どれだけ((呆|ほう))けていたのだろうか、気がつくとお腹から可愛い音が聞こえていた。
気だるい感じで、お腹をさすって腹具合を確認してみる。
氷の滑り台を滑り落ちた後に崖をよじ登ったのだから、お腹が減っても仕方がないなと思う。
そうしていると、どこからからか食べ物の匂いが漂って来た。
思わず目を大きく見開き、飛び起きて周りを見渡す。
見渡して目にするは、お馴染みの洞窟。
食べ物の匂いは、どうやら洞窟から流れてきているようであった。
おお! 今度こそ満干全席の食事に違いない! と、喜び勇んで洞窟へと突進して行く。
飛び込んだ洞窟の中は、いつもと変わらない壁が所々光っている一本道。
だが本当に、そんな事はどうでもいい。
満漢全席の食事にありつけるのなら、やっとこれまでの苦労が((報|むく))われる。
探し求めても辿りつけなかった苦労も、オオカミの群れに迫られて命の危険を感じた事も、氷の滑り台で絶叫した事も、崖を苦労しながらよじ登った事も、それら全てが無駄ではなかったのだと思えるのだ。
他の何ものも目にくれず、一目散に休憩所のような空間に置いてあるであろう満漢全席の食事に向かって((駈|か))けて行く。
さあ、ご対面だ! と、目にしたのは――
ハンバーグ・ステーキ弁当。
毎度お馴染みの、どこにでもあるただのコンビニ弁当。
加えて、ペットボトルのお茶とお箸が添えられているだけ。
はい――?
燃え尽きた、真っ白に。頭の中どころか、身体全体が。
吸血鬼が陽光を浴びて灰に成るように真っ白に成る。
不死鳥が灰から((蘇|よみがえ))るように再び色を取り戻す。
何故? どうして? といった疑問すら抱きたく無い。
そういう事なら、そういう事なのだろうと諦めた。
もう、お腹が膨れるならこれでも良いや。と思い、フタを開けて弁当を食べ始める。
食べた弁当のお味は、お腹が((空|す))いている事もあってか、とても美味しかった。
弁当を食した後、口直しにお茶を啜る。
そうしていると、ふと弁当のフタについている値札に目が留まった。
税込、五百円。ワンコインぽっきり。やっぱり、リーズナブルである。
その値札を良く見てみると、値段の下にカロリー数値が載っているのに気づく。
軽い気持ちで、どれくらいのカロリー数値なのかな? と、調べてみる。
目についた、その数値は――
10,000キロカロリー。
カロリー高っ!!
思わず、飲んでいたお茶を口から吹き出す。
周りに人が居なかったのが((幸|さいわ))いであった。
今まで食べてきた弁当は、同じ品揃え、同じボリュームである。
それはすなわち、これまで食べてきた弁当も同じカロリー数値であったという事を意味した。
普通のコンビニ弁当は、ボリュームのあるものでも1,000キロカロリー程度。
だが、見た目は同じであるのに、食したコンビニ弁当は10,000キロカロリー。
ありえない、なんの冗談だ。と((呻|うめ))いていると、ふとウエスト周りのお肉が気に成りだす。
今までカロリーなど気にせず弁当を食べまくっていた。
すなわち、ちょっと太っちゃったかな? てへペロ? 程度で済むはずが無いという事実に思い至ったのだ。
それを思うと、ウエスト周りの現状がどうなっているのかを確かめなければ成らない。だがしかし、それを知るのは((余|あま))りにも恐ろし過ぎる。
悩んでみても今更、結果は変わるはずも無い。
仕方がないと諦めて、戦々恐々としながらウエスト周りのお肉を((摘|つ))まんでみる。
っ――!!
驚愕の事実に、思わず心の中で叫び声を上げた。
摘まんで確かめてみたウエスト周りのお肉は、予想に反して肥大化していなかったのである。
あいがたや、ありがたや――
あれだけ暴飲暴食していたのにも関わらず、デブっていなかった事に嬉し涙を((滂沱|ぼうだ))のごとく流しながら感謝を((捧|ささ))げる。
これぞ、まさに奇跡だ! と、安堵感と感謝が入り混じった感覚を感じながら周りを見まわすと、ふと色々な事を疑問に思いだす。
何故、お決まりとはいえ、ハンバーグ弁当やお茶があるのだろう?
何故、洞窟が光っていて、弁当を食べるのに適した光量なのだろう?
何故、洞窟は一本道で間違いようが無く、休むのに丁度よい温度なのだろう?
何故、テーブルのような岩があり、休めるような空間がるのだろう?
何故、何故、何故――
今まで気にも留めなかった事柄が、何故かとても気に成りだしていく。
だが、いくら待っても、その問いかけに答えは見い出せなかった。
それなら仕方がないと思い、立ち上がって洞窟を出ていく事にする。
洞窟の出口に差し掛かり、そこから外を眺める。
外を眺めると、やはりそこには先の見えない闇夜が広がっていた。
また闇夜の中を歩いていかなきゃイケないのかと思い、少しゲンナリする。
ここでふと、ある事に気がつく。
何故か、先の見えない闇夜が依然ほど怖くは無いのだ。
それどころか、歩いて行かなきゃイケない事を((面倒臭|めんどくさ))いと感じるような余裕が生まれていたのである。
ならば、もしかして先の見えない事を楽しみに感じられないだろうか? と思い立ち、実行に移す。
すると何故か、これから何が起こるのかが分からない事が、自然と楽しみに感じられたのであった。
なんじゃこりゃ? と、自分に起こっている感覚を不思議に思っていると、ふとある事が頭に思い浮かぶ。
その気づきを受け取った時、今まで”ちぐはぐ”だった事象の理由に答えが見い出せた。
点と点が繋がり、線に成った瞬間である。
その気づきとは。
自らが必要とする事がもたらされるのでは無い――
自らに必要な事がもたらされるのだ――
という事であった。
その意味に気がついた時、愕然として腰が砕け、崩れるように膝を地面につかせた。
絶望する以外、他に取れる手段がなかったからである。
先の見えない闇夜が怖いのは、何が待ち受けているのかが分からないからだ。
それの裏を返せば、自分に自信が無いという事に他ならない。
自信が無いから怖い。もし自信があれば、何が待っていようと意に((介|かい))する必要は無く、ただ単に乗り越えていくだけだからだ。
だが、自信が無いという事は、自分を信じていないという事では無い。
自分には乗り越えていく事が出来ないと、自らの人生を創っていく((力|ちから))が無いと信じているという事だ。
だから人生は、自らの力を認識させる為に苦難を与える。
それを乗り越えさせる事で、自信をつけさせて行く為に。
初めは、一歩を踏み出す事。
一歩を踏み出した後は、歩き続ける事。
満漢全席の食事にありつこうとした事。
望みが叶わないと歩む事を止めた事。
オオカミに追われて窮地に立たされた事。
崖から飛び降りる決断を下した事。
氷の滑り台を滑り落ちる事。
崖をよじ登って行く事。
それらの合間にある休息する為の洞窟があり、乗り越えて行くに必要なカロリーを得る為の弁当がある事。
これらすべてが、少しづつ少しづつ自信をつけさせる為に必要な事だったのである。
先の見えない闇夜を怖がらずに歩いて行けるようにする為だったのだ。
何かをどれだけ望んでも、必要だと思っていたとしても、それが自らに必要なものでない限りもたらされる事は無い。
どれだけ忌避したとしても、どれだけ逃げようとも、それが必要なものならば受け取らざるを得ない。
これではまるで、望みが叶うかどうかの結果などはどうでも良く、その過程を経験する事の方が重要みたいではないか。望んだ結果を受け取りたいが為に、これまで頑張ってきた。努力してきたのだ。それなのに、それはたいして価値が無い事などと、どうして言えようか。納得できるはずも無い。これまで、どれだけ努力したと思うのか。どれだけ頑張ってきたと思うのか。それもこれも、これまで費やしてきたものに見合うだけの成果を欲しての事ではないか。望む結果を得られずして、どうして報われよう。まったく、報われぬではないか。などと、葛藤する。
だが、どれだけ納得できない事であったとしても、受け取ってしまった答えは、それらを否定していた。
認めたくは無い。だがしかし、認めざるを得ない。
受け取った答えが本当の事なのかどうかを判断できるぐらいには、これまでの人生体験で経験を積んでしまっていたのだった。
ずっと、知りたいと望んでいた。
自分が生まれて来た事に意味があるのだと、何かしらの理由があるのだろうと。
それを知る事さえ出来れば、こんな((碌|ろく))でも無い人生を生きる事にも価値があると納得できると思っていたから――
だから、知りたくは無かった。
自分が生まれて来た事に初めから決まっている意味など無く、意味は自らの生涯を通じて創っていくものなどと。
ましてや生まれいずる理由が、その意味を成す人生を経験する為だったなんて――
これまでの努力が、まったく報われぬ。それどころか、報われようかどうかに関わらず、これからも歩き続けなければ成らない。後ろには戻れない。左右にも行けない。前に歩き続けるしかない。そんな絶望を感じたがゆえに、力なく崩れ落ちたのだった。
だが、これからどうやって歩けば良いのだろうか? と思い、途方に暮れる。
これまでは、結果を追い求めていたからこそ頑張れた。だがら、それ以外の方法を知らないのだ。
すると急に、内側から悦びの感覚が増してきた事に気がつく。
その感覚はまるで、『自らを信じ、悦びと共に楽しみながら歩んで行きなさい』と言っているようだった。
もう、泣くしかなかった。
どれだけ((呆然自失|ぼうぜんじしつ))していたのだろうか。気がつくと、洞窟の入口付近の岩を背もたれにして座り込んでいた。
だが何故か、絶望していた割に気分は悪くない。
望みが叶わないと永遠の眠りにつこうとした時とは違い、優しく包み込まれて守られているような感じだったのだ。
良く分からない事態に、そっと溜め息をつく。すると、ある事が頭に思い浮かぶ。
必要とする事と必要な事が一緒になる時がくるよ、と。
少し間を置いてから、本当なのだろうか? と思う。
本当だと良いな、とも思う。
どっちなんだろうか? と問いかけてみる。
だが、((応|こた))えは、どこからもやってこなかった。
もしかしたら、応えが無い事が答えだという事なのかも知れない。と思う。
本当の事なのかどうかは、そこまで自分で歩いて行って確かめなさい。という事なのだと。
優しく導いてくれはしても、決して甘やかしてはくれない。
思わず、口角が上がった。
ならば、一歩一歩を踏みしめよう。味わおう。
人生という名の食事は、満漢全席の食事などよりも、よほど食いでがありそうだ――
始まりはあっても終わりはない。あるのは、ただの区切りだけ。
楽しんでいても、怖がっていても。
気づいていても、いなくても。
誰もが歩む、((果|は))てしなく続く。
人生の旅路は、そんな道。
説明 | ||
このお話は、恋姫のお話ではありません。 第50話の内容を補完する(かも知れない?)物語で御座います。 ですので、読んでも読まなくても次話である51話の内容には影響ないと思われます。(たぶん、ですが) それでも構わないと言われる方は、読んでやって下さいませ。 もちろん、この物語だけで完結しております。 なので、このお話だけ読まれても、ま〜たっく問題ありません。 それでは。 |
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読んで下さってありがとう御座います。(愛感謝) | ||
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