リリカルHS 50話
[全3ページ]
-1ページ-

 

 

 

 

 

士希「………はぁ」

 

とある休日の昼下がり。私が士希の家で本を読みながらのんびりしとると、

すぐ近くでパソコンいじってた士希がなにやらため息をついていた

 

はやて「どないしたん?」

 

私は聞いてみた。士希は少し疲れた笑みでこちらに向き直った

 

士希「あぁいや。俺、ミッドチルダの孤児施設に生活金の補助をしてんだけどさ…」

 

はやて「え?そんな事しとったん?」

 

初耳やった。えらい立派な事しとんのやな

 

士希「まぁな。俺が金稼ぐ理由はその子ども達の為ってのが大きいし。

ま、それは別に問題じゃないんだ。問題は、その補助をしている子の一人に、

俺が保護責任者になった子がいるんだけど、その子がなんというか…

あまり迷惑をかけてこないんだ」

 

なるほどなぁ。士希的には、もっと迷惑かけて欲しいとか思ってるんやろな。せやけど…

 

はやて「士希、それはちょっと難しいに。ただでさえ普段から世話になってるんやで、

そんな中で迷惑かけようなんて絶対考えへんよ。補助を受けとる子って、

みんなが思てる以上に気ぃ使って生きとるで」

 

私も昔はそうやった。迷惑かけまいと家事を覚えて、家計簿の付け方とかも覚えて、

一人でも生きていけるように勉強して…

 

はやて「!?」

 

士希「悪い…」

 

気づけば、私は士希に抱きしめられてた。いったい、どうしたんやろ?

 

士希「俺、お前に寂しい顔させちまってた。いろいろ、思い出させたんだよな?本当に、悪かった」

 

士希は優しく私を抱きしめてくる。士希の優しさが、とても嬉しかった

 

はやて「ふふ、私、そない寂しい顔しとった?」

 

気をつけとったつもりなんやけどなぁ

 

士希「あぁ、お前、結構気ぃ使って生きてきただろ?

だけど、俺には気使わなくていいから。しっかり頼ってほしい。

お前には、笑っていてほしいから」

 

はやて「うん…ありがと…」

 

今までは、強くあろうとしてたけど、今は士希がおる。

私の弱い部分を見せても、優しく受け止めてくれる人がおる。

それはとても、幸せな事なんやと思った

 

 

-2ページ-

 

 

はやて「んで?士希的にはその子の事、どうしたいん?」

 

少し時間を置いてから、私は話を戻す。士希は少し悩みながらも、口を開いてくれた

 

士希「そう、だな。一度話し合おうと思ってる。いくらなんでも、少し子どもらしくない。

その子くらいなんだ。施設の中でも、大人しくて、何も言わないのは」

 

必要以上に、大人になってしまったんやろな。こりゃ、私も何か協力してあげたいな

 

はやて「ふーん、ならさ、その子連れて遊びにいかへん?」

 

士希「遊びに?」

 

はやて「せや。もうちょいこう、近づいてみたら、何か変わるかもしれへんやん」

 

多分これは、普段会ってないのも原因にある。

お互いに気を使わん程仲良くなってしまえば、問題は解決されると思うけど…

 

士希「なるほど…よし、なら早速誘ってみるよ。ありがとう、はやて!」

 

はやて「ええで。お互い様や」

 

士希は早速パソコンに向かってメールを打っていた。

士希って、基本的に真面目って言うか、優しいんやろな。こういう事に悩む程なんやでな

 

はやて「ところで、その子って男の子?女の子?」

 

私はなんとなしに聞いてみる。少しどんな子か興味が出てきた

 

士希「ん?あぁ、ほらこれ、写真があるぞ」

 

士希はそう言って、パソコンを見せてくれた。

ディスプレイに映ってたのは、髪色が濃い黄色の、整った顔立ちの女の子やった

 

士希「ルネッサ・マグナス。『オルセア』って地方世界出身の12歳の女の子だ」

 

はやて「『オルセア』?それってあの、内戦しとる…」

 

士希「流石に詳しいな。3年前、NGOが傷ついた彼女を助け出し、

以来ミッドチルダの施設で保護している。俺もその時一緒にいて、

何かの縁だと保護責任者になったんだ」

 

こりゃまた、思ってもないとこの子が出てきたな。

『オルセア』言うたら、管理局の介入を拒んどる世界や。

噂でしか知らんけど、あの世界はずっと戦争しとるって聞くな

 

はやて「親は?」

 

私の質問に、士希は首を横に振った

 

士希「両親は戦争で亡くなったらしい。親代わりのような人がいるらしいが、

その人はまだ『オルセア』で戦争に挑んでいるらしい」

 

天涯孤独か…

 

はやて「なんで、そうまでして戦うんやろな…」

 

地球でも、戦争はある。でも、ここ日本じゃ馴染みのないものや。

せやから、少しわからへん。なんでみんな必死になって、命の奪い合いができるんや…

 

士希「戦う理由か…それは、視点が違うだけで、大きく変わってくるな」

 

士希はメールを打つ手を止め、私を真っ直ぐ見つめてくる。

その目には、寂しさや悲しみといった感情が含まれているように見えた

 

士希「例えば兵士は、金の為に戦う者もいれば、愛する人を護る為、

自分の誇りの為に戦う者もいる。だが、ほとんどの兵士は、

心の底から戦いたいなんて思っていない。何故だと思う?」

 

私は少し考えてみる。パッと思いついたのは…

 

はやて「死ぬんが怖いから?」

 

誰だって、傷つくのは、痛い思いするのは怖い。

痛覚は、人間の基本的な感覚の一つで、最も恐怖心を刺激する感覚やから

 

士希「そうだな。怖い、ってのは正解だ。傷つく、死ぬってのは誰だって怖い。

だけどな、それ以上に怖いって感情を抱く瞬間がある。それが、人を殺す瞬間だ」

 

人を殺す瞬間…その言葉を言う士希には、妙な重みを感じた。

まるで、自分が経験したかのような…

 

士希「普通の人間は、人の命を奪うって行為は気が気じゃなくなる。殺人の重み。

平気な奴なんていない。いたらそいつは根っからの殺人鬼、サイコパスだ。

だが戦場は、殺人を正当化させてしまう、正当化させなければいけない。

じゃないと、自分の心が壊れるから」

 

なんとなく、そんな気はしてたけど、やっぱり士希は元軍人なんやろう。

士希の言葉には、怒りと、悲しみと、恐怖と、深い後悔があるように聞こえた

 

士希「話を戻そうか。戦う理由、視点を国家とすると、様々な理由が介在する。

地球でも過去、宗教や政治的理由で何度も戦争があっただろ?

つまりは、価値観の違いなんだよ。それぞれ違う意見があって、その意見を通す為に、

武力を行使して貫く。ケンカと一緒さ。どっちが正しいのか、どっちも正しい、

なら勝った方が正しいことにしようってな」

 

実際はそんな単純な話やない。けど、確かに士希の言うことには納得できる。

自分の考えを貫く為に戦って、その結果犠牲になるのが国民…

 

はやて「上は、なんの罪のない人を戦場に駆り出して、殺す殺されることをなんとも思わんのやろか?」

 

士希「思う奴もいれば、思わない奴もいる。『オルセア』なんて良い例だ。

内戦の大抵の理由は、王が独裁的な政治を強行したが故に、市民の自由を奪い、

反感を買ってしまう事にある。そして王は、私腹を肥やす為に兵士に戦う事を強要する。

所詮、こういう王は前線にでないから、兵士の損失を数字でしか知らない。

だから、良心が痛むなんてことも無い」

 

士希は最後に「こういう奴は人とは呼べない」と呟いていた。

士希に同意や。こんなん、怪物やろ

 

はやて「『オルセア』が管理局の介入を拒むのは、独裁政治を貫く為?

いや、せやけど、そうなると反乱軍側まで拒む理由がわからん」

 

『オルセア』って言う世界は、頑なに管理局を拒んどる。

政府側が拒むのはわかるけど、どうして反乱軍側まで?

そんな疑問に、士希は答えてくれた

 

士希「そうだな、戦争をする理由に、こんなものがある。それが、経済・技術の発展だ」

 

経済に技術の発展?

 

士希「たとえば、かつて地球では、冷戦と呼ばれる時代があっただろ?

西と東の核戦争勃発が危惧され、長らく緊張状態が続いた時代だ。

冷戦下の中、ソ連とアメリカは宇宙開発競争をしていた。

互いにロケット開発の技術を高めていき、1961年にソ連の宇宙飛行士、

ユーリ・ガガーリンが人類史上初の有人宇宙飛行を実現させた」

 

はやて「あ、それ知ってるで。『地球は青かった。しかし神はいなかった』やんな?」

 

この地球において、かなり有名な言葉や

 

士希「あぁ。だがその宇宙開発競争の背景にあったのは、核発射技術、つまりロケットだ。

両国どうやって核を撃つか。宇宙開発はそんな物騒な技術向上の副産物みたいなものだ。

だが、その技術力のおかげで人類は偉業を成し遂げた。人は競い合うことで成長する。

戦争は、その体系の一つなんだ」

 

それは、なんて皮肉なんやろう。競う事は良い事やのに、その結果人が死ぬなんて…

 

士希「だが、内戦で技術の発展なんてほとんどありえない。そこで、もう一つの理由だ。

戦争をすることで、儲かる所がある。どこかわかるか?」

 

戦争で儲かる?戦争に必要なものやんな?となると…

 

はやて「!?武器と食料か」

 

なるほど、見えてきたで。『オルセア』が今も内戦状態なんが…

 

士希「正解。もう分かって来たと思うが、この『オルセア』内戦の背後には、

武器や食料の密輸組織がいるはずだ。そいつらが煽動して、戦争を続けさせている。

じゃなきゃ、何年も内戦なんてあり得ない」

 

政府は私腹を肥やして、武器を提供しとる組織は儲かって、その犠牲になっとんのは市民。

きっと、よくある話なんやろうけど、酷いな

 

士希「いつだって、どんな所だって、戦争で犠牲になるのは民だ。

いい加減、人類は学んで欲しい所なんだけどな」

 

歴史の先生も、そんな事言っとったな。人類の歴史は戦争の歴史。

それくらい、人類は戦って来て、そして今がある。

私らの生活は、そんな多くの血から成り立ったものやと思うと、少し悲しくなる

 

 

-3ページ-

 

 

士希「さて、重くて暗い話はここまでだ。ルネッサ連れて何処に行こうか。

あ、はやても来てくれるか?」

 

はやて「あ、ええの?」

 

誘われるとは思わへんだ

 

士希「もちろんだ。ミッドだから、はやての方が詳しいだろ?それに、

相手は女の子だからさ、男には言いづらい女性特有の悩みとかもあるかもしれないし、

そういうのがあれば、乗ってあげてほしいんだ」

 

はやて「そういうことなら、お安い御用や。

ミッドの案内が出来るかわからんけど、話聞くくらいならどんだけでもできんで」

 

士希「ありがとう、助かるよ!」

 

私は士希の笑顔を見て、士希は基本的に人の為に行動しとる、って印象を抱いた。

レーゲンの事も、ルネッサちゃんの事も、そして私を護ってくれると言ったことも、

全部自分の事やなくて周りの人の事や。それが士希の為、なのかもしれへんけど、

なんとなく士希は、常に自分を後回しにしとる気がした

 

はやて「なぁ士希…」

 

私は声をかけ、士希の背中に抱き着く。とても広くて逞しい背中。

でも、何故か少し寂しさも感じる

 

士希「ん?どうした、はやて?」

 

はやて「あんまり、無理せんといてな?」

 

士希「……それは、俺が言いたい台詞だな。お前こそ、あまり一人で抱え込むなよ?

お前、愚痴る事は多くても、頼る事はあんまりないからな」

 

やっぱり私と士希は、どこか似とる。そんな気がした

 

 

 

説明
早いもので、この作品ももう50話目です
今回はこの作品には似つかわしくない、少し真面目なお話です
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1269 1135 2
コメント
まさかルネッサが出て来るとは。これからの物語の鍵なのか気になります(ohatiyo)
タグ
リリカルなのは オリキャラ 八神はやて 

桐生キラさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com