PHANTASY STAR ONLINE 2 レゾンデートルのカギ ♯01:密林のアークス |
アークスが調査中の惑星の一つ、惑星ナベリウス。
一見穏やかなこの惑星にもダーカーは闊歩しており、どこか不気味な雰囲気を放っている。
それは招かれざる客への原生生物の警戒なのか、それとも…。
♯01:密林のアークス
惑星ナベリウス 森林エリア
鬱蒼と生い茂る草木の中、猿型の一体のエネミー:ウーダンが跳んだ。
鋭い爪を振りかざす先には、迎え撃つ構えの少女。
戦闘用に調整された長杖をキンッ!と鳴らし、炎属性のフォトンを身に纏う。
「いきます…フォイエ!」
杖を振りかざすと、詠唱を終えた初級テクニック:フォイエが放たれる。
すれ違いざまに火球を浴びたウーダンは、少女の一歩後ろで崩れ落ちた。
焼け焦げた臭いが辺りを満たし、まだ燃える残骸が振り返った少女の視界を煌々と照らす。
ーこれで何体目なんだろうー
ナベリウスに降り立った少女の目的は、アークス訓練生の修了任務達成…即ち、凶暴化した原生エネミーを討伐しつつ最深部の標的を撃破すること。
…なのだけど。
「………。」
目の前の炎を見つめ、悲しげな表情を浮かべる。
この宇宙に巣食うアークスの宿敵、ダーカー。
彼等の影響で侵食、凶暴化した生物は通常…二度と自我は戻らないとされている。
これまで訓練中に遭遇したエネミーについても、教官は手遅れだと言って始末していった。
実際、私の力ではどうにもできなかった。
侵食核を破壊しても彼等は止まらないし、隠れて試した回復系テクニック:レスタや状態異常回復のアンティも完全に無意味で。
でも、それでも、その星の原生生物を殺すことには抵抗があって。
姿形が違うだけで、本来平和に暮らす彼等はアークスシップ内の人類と何ら変わりない存在だと思う。
アークスはフォトンを扱える事からダーカーの影響は受けないって言われてるけど、もともと人類もどこかの惑星で暮らしていたっていうし…もしかしたら逆の立場になっていたかもしれない。
他愛ないたられば話だけど、そう思うと、やっぱりいたたまれない気持ちになる。
最初は教官の戦闘すら、見てて吐き気がするぐらい嫌で、怖くて。
でも、やらなきゃいけないことなんだって、思う。
凶暴化した彼等は本来の意識を無くし、周りの仲間、家族までをも平気で襲ってしまう。
それはきっと彼等も辛いことだと思うし、先輩達はこの状態をさして、死んだようなものだと言って始末していった。
仮に逃がしたとしても、ダーカーの汚染はエネミーからエネミーへとうつってしまう上、正常な原生種がこれを駆逐したとしても汚染は消えず、拡大する一方だ。
汚染を食い止める方法は、フォトンの力で標的を倒すこと。
現状、そのフォトンを操ることができるのはアークスだけ。
つまり、自分達がやるしかないことなんだと思う。
「よう、道行くフォースのお嬢さん?」
「ふぇっ?!」
慌てて声の出元に顔を向けると、私の身長ぐらいはある大きな剣:ソードを持った近接職:ハンターの青年が立っていた。
「悪い悪い、脅かすつもりはなかったんだ。ただ、あまりにもボーッとしてたし、フォースの一人旅は心配だしな。」
彼が言うフォースは、今の私の職種で、テクニック…いわば魔法のようなものが得意な支援職にあたる。
ハンターと比べて空気中のフォトンの扱いに長け、その分肉体強化が苦手なので主に後方支援が仕事になる。
だから本来、誰かと組まずにソロで戦うなんて愚行なんだけど…
「あー、もしかして…お嬢ちゃんも、相方かリタイアしちまったクチか?」
「『も』ってことは…」
「そ、俺んとこもだ。へっぴり腰のフォースだとは思ってたが、運悪く背後から敵に出くわしただけでビビって帰っちまった。」
そう言って彼は、情けねえよな、と肩をすくめてみせる。
「私の場合、それ以前の問題でしたけど…」
「ん?どういうこった。」
〜30分前〜
「以上が、修了任務の組み合わせだ。各自準備が出来次第、キャンプシップにて待機せよ。」
と、言われてキャンプシップに着いたら、相方さんはもうとっくに到着してて。
座っているのか、物陰から足が見えていた。
「初めまして、私はフォースの…」
すー………すー………
…あれ?
「もしかして…」
近付いて見ると、同い年ぐらいだろうか?
壁に寄り掛かっている紫髪の少女がいた。
…いたのだが。
「…あの〜……」
「すぅ…すぅ………んぅぅ…」
寝てる?!
(そんな、まさかこれから修了任務なのに寝てるわけ…)
「あのっ!!」
「すぅ……すぅ……」
「えっと、もうすぐ任務開始ですよ!起きて下さい!!」
「んぁぅ…それはダーカーじゃなくてから揚げです……すぅ…」
熟睡してる?!
しかも夢まで見るほどに!
そして、一体どんな夢なんだろう…汗
「から揚げって……じゃなくて!!」
(どうしよう…)
このままこの子が起きてくれないと、一人で行くか試験を見送ることになってしまう。
「起こすしか、ないよね。」
…そして……。
「起きなかったわけ、か。」
「…はい……。」
声をかけ続けたり、物音をたてたり、くすぐってみたり、色々手を尽くしたのだけど、結局あの子が目を覚ますことはなかった。
「…なんというか、お互い災難だったな。」
話を聞いていた彼も、呆れ半分で苦笑いを浮かべる。
「そんで、災難ついでなんだが…俺と組まないか?」
「いいんですか?」
「いいも悪いも、もともと二人一組って決まりだろ?それに、仮にルール違反だとしても一人で行って死ぬより遥かに良いだろ?」
「そう、ですね。」
「んじゃ、よろしくな。えーっと…」
「カノンです。」
「おっと、よろしくな、カノン。俺は………そうだな、普通に先輩って読んでくれ。」
「…?」
同期なのに?と思ったけど、どう見ても歳上の人だもんね。
「よろしくお願いします、先輩!」
「ああ、よろしくな。」
それから数分、一人の時とは比べ物にならないほどサクサクと進んでいった。
戦闘もそうだけど、警戒する範囲が半分で済むのが楽で、その分早く歩を進めることが出来る。
(それに、この人…)
気のせいかな、なんだか戦い慣れしてる気がする。
「あとはっと。…見えるか?」
指された方角を物陰から伺うと、今回の標的…大型の原生種:ロックベアが暴れていた。
周りに何がいるでもなく、拳を振り回しては木々を薙ぎ倒している。
ダーカーの侵食の影響か、教本に比べると体は赤みを帯びて禍々しい外見に変貌していた。
「侵食の影響で強化されてやがる、注意しろよ。いいか、まずはセオリー通り俺が注意を引く。お前はテクニックで補助と援護を頼む。無理はするな、狙われたら一度逃げに徹するんだ。お前が狙われてる間、フリーになった俺が必ず隙を突く。その繰り返しだ。」
「はい!」
「いい返事だ。よし、行くぞ?」
ガサッと茂みを飛び出した瞬間ロックベアの頭上の空間に赤い光で大穴が開く。
「ダーカー転移?…デカいぞ!」
現れた黒い巨大なダーカーは、4本脚の、まるで蜘蛛のような…
「ダーク・ラグネだと!?こんなとこに…っ!」
「あれは……っ!!」
見間違えるはずはない。
あれは、あいつは…
(ルチルちゃんをやった奴だ…!)
現れた巨大ダーカー:ダーク・ラグネはロックベアを見ると、その長い腕を振り回し、一撃で吹き飛ばしてしまった。
「っ…」
倒れて動かないロックベアを踏んだダーク・ラグネが、一瞬の溜め動作を挟んで両腕を振り上げる。
ギャァアアアアッ!!!
咆哮するダーク・ラグネ。
それを見てロッドを握る腕に力が篭り、ギシッと音を立てる。
あの光景を思い出したことによる一瞬の吐き気と、全身を緊張が覆い汗が噴き出した。
「おいカノン、大丈夫か?あいつはダーク・ラグネっつって、訓練生の手に負える相手じゃねぇ。ここはロックベアに気を取られているうちに一旦引いて…」
キンッ!
「おいカノン!ここは引いて「ダメですよ…」
ダーカーは、生かしておいちゃダメなんだ。
特に、お前は…
「ルチルちゃんの仇だから!!」
「おいやめ…ちぃっ!」
ラグネに向かって走るカノンを追って、ソードを引き抜く。
「はぁぁっ!」
ゴォッ!
カノンが放ったフォイエはラグネに命中するも、無情にも厚い殻にかき消されて目立ったダメージは認められない。
「ダメだ!そいつの本体はいくら攻撃しても硬くて歯が立たない、コアを狙うんだ!そのためには…っ。」
フォイエに気付き、標的をカノンに変えたラグネの側面に走り込み…
「脚を潰せ!!」
ガッ!
振り切ったソードが、ラグネの脚の装甲に傷を付ける。
(硬てぇ…っ!)
「きゃあっ!!」
「っ、しまった!?」
悲鳴に気付くと、ラグネの一撃でカノンが木に叩きつけられるのが見えた。
ぐったりと倒れこむカノンに、トドメとばかりに前腕を振り上げるラグネ…
「マズイっ!」
駆け出すが、この距離じゃ…
間に合わーーー
「ピアッシングシェル、です。」
チュイン!
彼の視界を、青い弾丸が走り抜けた。
貫かれたラグネの前腕に別方向からの追撃…炸裂弾:グレネードシェルが命中し、内側からの爆発で関節ごと吹き飛ばす。
ギャァアアアアッ!!!?
「カノン、大丈夫か?!」
ラグネの悲鳴にも似た咆哮を無視してカノンに駆け寄ると、木々の合間からライフルを装備した少女が姿を見せる。
「お前は…」
少女は紫のツインテールを揺らし、じっとカノンを見つめる。
「遅れてしまってごめんなさい、です。ここからは、私も手伝うです。動けますか?」
差し出された手を掴み、カノンがぐっと立ち上がる。
「うん、大…丈夫。」
痛みを堪えながら、ロッドをラグネにかざす彼女に
「そうでなきゃ、困りますです。」
と満足そうに笑う紫の少女。
「遅れて来といてそりゃねぇだろ、嬢ちゃん。」
彼もまた、ソードを構え直して臨戦態勢に入る。
「いいか、ここまで狙われちゃもうあいつからは逃げられねぇ。帰るには、倒すしかねぇってこった。」
「アニスがあの傷付いた脚にウィークバレットを打ち込むです。その隙に…」
「コアを全力で攻撃、だな!行くぞ!!」
ダッと側面に駆け出した彼に反応して、ラグネが旋回する。
「今ですっ!」
ビシュッ!と射出された脆弱弾:ウィークバレットがラグネの脚に命中し、部分的に防御力を著しく低下させた。
同時に駆け出した少女が至近距離で銃口を向け
「ディフューズ・シェル!」
バンッ!!と散弾を撃ち込む!
脆くなった脚の殻に無数の穴があき、ガクガクと揺れる。
「座標固定…」
キンッ!
「内側から爆ぜろ…ラ・フォイエ!!」
ドォンッ!!!
ギィアアァァッ!!
穴だらけの脚の内側から起こったフォトンの爆散が硬い殻を吹き飛ばし、柔らかいその中身がむきだしになる。
「隙ありだな!」
ラグネの動きが止まったのをいい事に、反対側からハンターの彼が駆け寄る。
「でぇやぁぁあっ!!」
走る勢いそのままに、振り切ったソードがズバァッと脚を両断する。
支えを失ったラグネばバランスを崩し、頭部の後ろ…赤いダーカーコアが露出した。
「グランツは、使えますか?」
「もちろん!」
カノンが構えたロッドに光属性のフォトンが収束し、キンッ!と音を鳴らす。
「オッケーです、そこ!」
ビシュッと発射されたウィークバレットがコアに命中し、弱点に弱点を重ねる。
「これでトドメです…グランツっ!!」
コアを取り巻くように複数の光の矢が展開され、ダーク・ラグネの弱点、ダーカーコアを一斉に射抜く!
ギィアアァァッ!?
ダーク・ラグネの咆哮と共にダーカーコアは粉々に砕け、その体組織が崩壊していく…。
「ハァ、ハァ…勝った、の?」
「みたいだな、まったく、ヒヤヒヤさせやがって。」
「大丈夫、です?」
少女に心配されて気が付いた。
私、今頃腰が抜けて座り込んじゃってるよ…。
「うん、安心したら腰が抜けちゃって…。」
えへへ、と笑い返すカノンを、少女はじーっと見つめる。
「?」
じーっ。
「???」
ぎゅーっ。
「ふぇっ?!」
唐突に抱き締められたカノンが狼狽するのもお構いなしに、少女は満足そうに
「抱き心地も100点、です。胸が無いのが少し残念ですが。」
「胸っ?!」
貧乳を指摘されて困惑するカノン。
なにこの子、すごく失礼だよ?!
(確かに私の胸はちっちゃいけど…。)
自分の凹凸の無い体を見て、ずーんと落ち込む…。
見返すと、相手の少女は結構しっかり膨らんでるし…。
「…気にしてますです?」
カノンは「当たり前だよ!」叫びたくなるのをグッとこらえ…
「ちょっとだけ、ね。」
と笑い返す。
そんなカノンを見て。
「………」
ふに。
「?!」
ふにふに。
「ギリギリB…ぐらいですね。大丈夫、希望はありますです。」
グッ!と親指を立てて見せる少女に、カノンは
「あわわわわわわわ!?」
と顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「?」
そんなカノンを見て首を傾げる少女の隣でハンターの青年がやれやれと腰をおろす。
「お前ら、俺の存在完全に忘れてるよな。」
「あ。まだいたんですね、です。」
「へいへい、その程度の扱いで十分だよ、まったく。」
彼はハァっ。とため息を着き、空を指す。
もうすぐ迎えのキャンプシップが来る。それでー
ヒュゥン
彼の説明の途中で、三人の前に開いたモニター。
その向こうで女性が血相を変えて身を乗り出している。
『ゼノ、大丈夫!?ダーク・ラグネの反応が出たって今…』
「おっせーよバカ、もうとっくにこいつらと倒しちまってるから安心しな。」
『良かった…って誰がバカなのよ!!』
「自己紹介が遅れたな。俺はゼノ、このせっかちでノロマなバカは…」
『エコーよ、よろしくね。バカでもノロマでもせっかちでもないから、誤解しないように!』
「んで、こっちがカノンと…あーっと…」
「アニスちゃん、だよね?」
無視するなー!と叫ぶエコーを尻目に、カノンが笑いかける。
「あれ、自己紹介しましたです?」
きょとん、とするアニス。
「ううん、されてないけど…さっき自分のこと、アニスって言ったでしょ?」
「覚えてた、です?」
「うん。可愛い名前だなって思ったから。私はカノン、フォースだよ。よろしくね♪」
カノンが握手の手を差し出すと、アニスの顔がぱあっと明るくなり、カノンに抱きついた。
「ちょっと、アニスちゃ「私はアニス、レンジャーのアニスです。これからずっと、よろしくです♪」
「うん♪…って、ずっと?ずっとって、え?え?」
「あいつらは大丈夫そうだな。」
じゃれ合う二人を遠目に、ゼノが呟いた。
『片っぽの子は途中参加だけど、ダーク・ラグネを倒したなら実力は十分だと思うよ。』
「そうじゃねぇよ、バカ。」
『どういう意味よ!』
むっとしたエコーが、画面の中からゼノを睨みつける。
「どうもこうもねぇよ。あいつら二人なら、多分この先大丈夫だと思ってな。アークスだとか、関係なしにさ。」
『よくわかんないけど、わざわざ新人の振りまでして付いて行って…ゼノってばロリコンになったんじゃないでしょうね?』
「はぁっ?!お前今の話でなんでそうなるんだよ!!俺はただフォースのソロは厳しいと思って」
『じゃあなんで私はほったらかしなのよ!!』
「お前はいいんだよ!」
『なにがいいのよ!』
「だーっ、もううっせえ!黙ってろ!」
『ちょっー』
ヒュン…
やかましいモニターを閉じ笑い合う2人を優しく見守るゼノ。
「よろしくな、危なっかしい後輩ども。」
視界の端で、着陸したキャンプシップの扉が勢いよく開いた。
まだまだ、彼の厄介ごとは終わらなそうだ。
to be continue …
説明 | ||
あの日から一年。ニューマンの少女、カノンの物語はここから始まる。 | ||
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