紅と桜〜貴女を探しに〜 |
紅と桜〜貴女を探しに〜
雨泉 洋悠
今日は貴女は、何処に居るのかな?
私が、貴女を探す、この時間。
私にとって、私が心の速度を上げていく、大切な、愛おしい時間。
何時もの様に、あの人を探して、校舎内を歩く。
私の心を躍らせる、優しい色彩。
それを求めて、校舎に響く、楽しげな音の中を歩く。
ああ、とても良いな、この音も、私はとても好き。
この校舎の中に響く音は、何時だって明るくて、元気で、これからの何かを感じさせる、未来に向いている。
あの人の音を、早く聴きたい。
この音の中で、当たり前に響いている、今しか聴けない、音を聴きたい。
その思考に、少しだけ、私の音は、乱される。
今だけ、その事は、何時だって私の音を、哀しい色に染める。
もう、仕方のない事と、受け止めていても、心の音度が乱れるのを、止める事は難しい。
どうして、もう少しだけで良いから、早く気付けなかったのかな。
その思考に、歩みを遮られて、振り仰いだ窓の外の、青空。
そうか、今日は、きっと。
校庭の隅、空の青の中に、濃い緑と、薄い緑を混じらせた中で、眠る色彩の姫。
にこちゃんは、こんなにも、私を惹きつける、自分の持つ素敵な色に、気付いているかな。
今だって、その胸のリボンと同じ色彩を、周りに従えて、その姿から私は、眼を離せない。
その、唯一人で美しくある、その姿を見ていると、思う。
ああ、やっぱり私は、にこちゃんに会えて、良かった。
こう言う姿のにこちゃんを、私は一人にしておきたくない。
何時だって、私はにこちゃんを、見つけたい、一緒に居たい。
「にこ先輩、今日はここに居たんだ」
にこちゃんの顔を、覗きこむ。
にこちゃんは、私に気付いたけれども、何も言わずに、その頭のリボンと同じ色の瞳を静かに向けてくる。
その視線の、弱々しさに、今日のにこちゃんの想いが、現れている。
こんなにこちゃんを、私が放っておける訳が、無い。
私は、にこちゃんの隣に、静かに腰を下ろす。
にこちゃんの香りがする。
「にこ先輩、私明日は久々にお弁当で、凛と花陽と食べると思う」
そう報告しながら、持っていた今日のお昼のパンを、袋から出す。
明日は久々に、凛と花陽と、にこちゃんの四人で、一緒にお昼。
にこちゃんは、何時もよりもちょっと力の無い笑顔で答える。
「あーうん、解った。にこは部室ででも食べるから」
ああ、もう、違うの、そうじゃないのに。
そうやって、にこちゃんが当たり前に自分を外して考えてしまう姿を見る度に、私の音はとても揺らぐ。
にこちゃんの寂しい顔なんて、にこちゃんが隠そうとしたって、私には解っちゃうんだからね。
だから私は、こういう時には、ちゃんと、出来る限り、頑張って素直にならないといけない。
「そ、そうじゃなくて。だから、それなら明日は三人で昼休み部室行くから……」
そう言うと、にこちゃんは、少しびっくりした顔。
その顔が、とても良いなあと、思う。
ああでも、やっぱり恥ずかしいから、私はにこちゃんの顔を、まともに見られなくなってしまうの。
「……ありがと。じゃあ、部室で待ってる」
良かった、にこちゃんと明日も一緒に居られる。
私は振り返る。
「うんっ、待ってて」
にこちゃんを見ると、ちょっと嬉しそうな笑顔になっていたから、私もやっぱり、嬉しさを抑えきれなかった。
それでも何だか、にこちゃんの瞳が、少しだけ、潤んで来ているような気もした。
不意に、にこちゃんが話を変える。
「ねえ、そう言えば真姫ちゃんさあ、あの日全然キャラ違ったよね。何でー?」
子供っぽい疑問の顔をして、鋭く刺して来るような、先輩らしい感じもする、大人な問い掛け。
もう、何て言うか、改めてあの日の事を聞かれるなんて、恥ずかし過ぎる。
「あ、あれは、もう、忘れてよって言ったのに」
顔から火が出そうなぐらいに、温度が上がっている。
それでも、にこちゃんのこの質問には、ちゃんと答えないといけないと思うから、恥ずかしさを逸らすように、私は空を見上げるの、一面の青空を。
「何だか、泣きそうに見えたから」
ちゃんと、にこちゃんに聞いていて貰わないといけないんだ、あの日の私の事は。
「家は、にこ先輩も知っての通り、病院なんかやってて、パパの専門は脳外科だけど、脳外科とは言っても、結構子供とか多くて」
にこ先輩、私の音、ちゃんと聴いてね。
「脳外科に来るような子達って、当然それなりに症状の重い子もいて、皆辛い思いや痛い思いをしていて、色んな事に不安を抱えて、家に来るの」
私いま、この学校でも、まだにこちゃん以外の誰にも見せていない、自分の事を話しているの。
「家のパパも、子供の扱いはとても上手い方だけど、子供にとってはやっぱり大人の男の先生は怖かったり、不安を感じたりするのよね」
ねえ、にこちゃん、届いてる、私の音。
「そういう時に、どうしても放っておけなくて、あんな感じで話しかけちゃうのよね。何でか、あの時のにこ先輩も同じ様に感じちゃったの。不安なのかな、怖いのかなって。にこ先輩、そんな弱くなんか無い、強い人なのに、そんな風に感じちゃって、申し訳ないんだけどね」
パパとママしか知らない、私の姿。
にこちゃんにだけ、伝わったら、解って貰えたら、嬉しいな。
そう思いながら、にこちゃんの言葉を待っていたけれども、何の反応もなくて。
青空から視線を落としてにこちゃんの方を見る。
にこちゃんの綺麗な瞳が、瞼にその姿を隠されている。
「にこ先輩?寝ちゃったの?」
きっと寝ちゃったんだと思うけど、私の話は、ちゃんと聞き届けて貰えたと思う。
「しょうがないなあ……意を決して人が大事な話をしている時だって言うのに」
だって、その瞳から、にこちゃんの心の粒子が一粒、流れ落ちようとしていたから。
私はそれを、人差し指で拭ってあげる。
感じられる、その粒子の温かさと、にこちゃんの心。
誰よりも繊細で、傷つきやすくて、それでもそれを表に出さない強さがあって、華やかな色彩と、可愛らしい音と、儚げな香りを身に纏う。
私の、素敵な、格好良い先輩、それが貴女、私達の、私のにこちゃん。
次回
嬉しい
説明 | ||
ついに終わってしましました。 でも、まだまだ続きそうですね。 続いてくれるならどんな形でもいいかなと思います。 9人で行く卒業旅行でも、ラブライブ卒業生も参加OKでも楽しみに待ちたいと思います。 まだまだ思うことが多すぎて書ききれません。 まだまだにこまきを書きたいと思います。 なので、一生にこまきします。 |
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