義輝記 蒼穹の章 その二十四
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【 識別の大長考 の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

稟「あれが………『車懸りの陣』! 次から新手を繰り出し差し迫る─必殺の陣形!! ─────ですが、あのように……兵達の体力を無駄に使うようなやり方、長続きなどしませんよ!! 

 

全軍前衛──盾を配置!! 雁行の陣に移行! 敵の攻撃を流しつつ疲れを待ちます!」

 

風「敵が疲れてきましたら、鶴翼の陣に移行しますー! 敵を包囲して殲滅ですよ─────!!! 

 

華雄さんに伝令ー! 禁裏兵を率いて、洛陽と月様の前に陣を構築! 中央に陣を構えて下さいー!!! 翠さんと白蓮さんに、両翼の指示を!!」

 

ーーーーーー

 

華雄「私が中央前衛を指揮する! 馬孟起達は左側を! 公孫賛は右側を頼む!」

 

程遠志「オ、オイラも!!」

 

華雄「お前は……月様の傍で指揮を取れ! 本来は私の役目だが……お前に任せる! …………必ず、月様を守れ!! いいな………?」

 

程遠志「か、華雄将軍────!!」

 

華雄「言った筈だ! 颯馬の代わりを行うのは私だと! ……後を任す! 出来れば……お前も、背中で人を教える者になれ!!」

 

ーーーーーーー

 

翠「面白くなってきたじゃねぇか!! ガチとガチとの大勝負──燃えてくるぜぇ!!! お前達……移動したら盾による防御陣を構築するんだ!! 無駄な被害を防げ!! あたしは、相手が弱り次第、横から奇襲を掛ける!」

 

蒲公英「脳筋のお姉様にしては、まともな作戦で……ものすご〜く、蒲公英、嬉しいな! 華麗に勇ましく突撃〜!……なんて、無茶を言われなくてぇ!!」

 

翠「誰が脳筋だぁ!! あたしだって……兵をなるべく国に返してやりたい! だけど……戦わずに帰国すれば、臆病者呼ばわりされて……蔑まされるだけなのは、お前でも分かるだろう!?」

 

蒲公英「………そうだね! じゃあ………蒲公英も!」…ブルブル!

 

翠「お前は、こっちの陣を守れ! あたしが行けば誰がここを守ると思ってるんだ!? それに蒲公英の武じゃ……正直心配だ。 幾ら強がり言ったて…足が震えているぞ!!!」

 

蒲公英「だ、だってぇ〜!」

 

翠「…………お前は、あたしより守勢に優れている! 適所適材さ!」

 

蒲公英「う、うん!! その時は………必ず戻って来てよ!? 必ず!!」

 

翠「心配すんなって! ………………必ず戻るさ!!」

 

ーーーーーーー

 

白蓮「……………………」ジィ〜!

 

白蓮は、袁術軍の『車懸りの陣』を…………観察している。

 

ーーーーー

ーーー

 

袁術軍は隊列を回し勢いつかせたが……未だに、洛陽軍勢へ到着していない! 何故なら、先に仕掛けた荷車……いや、火車が袁術軍を遮っていた。

 

しかし、久秀は……………非情な命令を下す!!

 

久秀「……こんなモノが何ぃ? クスクス……児戯の玩具に等しい物が…久秀の玩具に勝てるわけないじゃないぃぃ!! そのまま突撃して、障害物を破壊するのよぉ!? 久秀の為に……その命ぃ……用立てなさいぃぃ!!」

 

無造作に……久秀が手を振り上げ、火に覆われた荷車に突撃の指示を命じる!

 

袁兵「───────!!」

 

ドドドドドドドドッ────!!

 

その隊列の袁兵達は……顔色も変えず、勢いを付けたまま飛び込んで行く!!

 

結果は…………ご覧の通り。 

 

ガシャン───!! ドカッ! グシャ──!!

 

袁兵1「グエエェェェ────!!」

 

袁兵2「ギャハアアァァアアア!!」

 

ゴロゴロ ゴロゴロ────

 

炎に包まれた車を車懸りで蹴散らす……ややこしいが成功! しかし、荷車の竹には『黒き水』も入っていたため、何十人が火達磨となり転げ回る!

 

しかも───熱さと痛みで正気に戻り、事情が分からぬまま……本能に従い苦しむ!! 体力も限界以上に使ったのにも関わらず、ただ……この苦しみから逃れたい一心で…………。

 

─────そして、何人かが転げ回り、動けなくなった場所に………………。

 

袁兵1「 ───────! 」

 

車懸りを行う袁兵達が、無表情の顔で……火傷や大怪我を負って動けない戦友達の上で……行進を進めた!! 

 

ドドドドドドドドドドドド!

 

   ───────────────────!

 

グシャ! バキッ! グシャグシャ!!

 

何人かの袁兵が顔を……一瞬……歪ませる!

 

断末魔が聞こえたか、踏みつけた物の感触で何かと気付いたか……?

 

一瞬だが正気に戻ったようだったが………また、元の無表情に戻る。

 

ーーー

ーーーーー

 

白馬義従3「………白蓮様は……何をしているんですか?」

 

白馬義従2「黙ってみてな。 あれは……白蓮様お得意の『識別の大長考』だ!」

 

白馬義従3「『識別の大長考』ってなんですか?」  

 

白馬義従2「……お前は新人だったな。 手短に教えてやろう! 

 

……簡単に言えば『物事の通りを見て弱点を探る』能力だ! これを白蓮様が行い……結果が出れば……我々の勝利だ!!」

 

白馬義従3「へっ!?」

 

白馬義従2「何を間抜け顔している? 実際、白蓮様が……これを行い戦場での負け戦は皆無! 一度は袁紹を追い詰めた事がある程だ!」

 

白馬義従3「す、凄いじゃないですか!! でも、なんで『普通』なんて他の太守様から言われるんです?」

 

白馬義従2「あの技の弱点は、異常に考えるのが長いんだよ。 他の太守様……曹孟徳様や孫呉の軍師様達の出す答えと、ほぼ一緒かそれ以上の回答を出すんだが………数刻掛かる事があるため、平凡呼ばわりされている!!」

 

白馬義従3「あぁ! それで………『識別の大長考』ですか!!」

 

白馬義従2「今回は……俺達の命を守るために……あの伝家の宝刀を抜き、頑張ってくれているんだ!!!! ────分かったか!?」

 

白馬義従3「────はいっ! 分かりました!!」

 

◆◇◆

 

【 戦術 対 戦術 の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

ドドドドドドッ────!

 

袁兵「──────────!!」ブ───ン!

 

禁裏兵「ーーーーーー!!」ガキィン!!

 

クルッ! ドドドドドドドドドッ────!!

 

袁術軍の攻撃は熾烈を極めた!! 生気が無い真っ青な顔で、無表情で攻撃する袁兵達。 幾人は重傷者だと判断出来るのに関わらず…精兵並みの速さ、威力を持って攻め上げる!!

 

禁裏兵達も…洛陽を攻められた国辱を忘れず、練兵に励み……前と比べ見違えるような強兵になっていた! しかし、颯馬が自分の策に、敢えて董卓軍を連れて行ったのは……戦場経験が少なかったのを、危惧していたため。

 

それが………今回、裏目に出てしまった…………!

 

ーーーーーーー

 

袁兵「ーーーーーー!!」

 

禁裏兵「でやぁ!!」

 

ガキィ──ン! ドドドッ!

 

中央で─────また、袁術軍と禁裏兵達が衝突! 

 

……果たして何回目の衝突だろうか?

 

敵は……一度だけ此方に攻撃を仕掛けると、直ぐに逃げて……別の新手に代わる。 そして、次の相手も攻撃をすれば……また新手に…………。

 

今回も……新手の袁兵と若い禁裏兵が剣を交える!!

 

血気盛んな禁裏兵は……敵が迫っては逃げ、迫っては逃げるため、防御だけ行う事に我慢出来なくなった!!

 

禁裏兵「くっ! 逃げるかぁ!」ダッ!

 

華雄「待てぇ───!! 追うな!!」

 

一人の禁裏兵の離脱は、他の禁裏兵の更なる離脱を招いた!!

 

禁裏兵「俺も我慢ならない! 行くぞ!!」

 

禁裏兵『おおぉぉぉ────!!』

 

禁裏兵達は………弱兵と侮り突撃して行った!!

 

 

★☆☆

 

 

▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼

 

心ある人は言うだろうか……?

 

『何故、大事な局面で中央へ禁裏兵を配置したのか……?』と。

 

稟と風、詠は……後に尋ねられて、こう答えと言う。

 

稟「洛陽を背後に置いたのは、禁裏兵達の矜持を利用したのです。 ……要は背水の陣をとれば、禁裏兵達が奮起してくれる!! そう、信じていたのです!!」

 

詠「それに………翠や白蓮殿は……私達に援軍で来てくれた将じゃない? そんな中、禁裏兵を差し置いて、中央を守らせるなんて……出来なかったのよ」

 

風「それから、翠さんや白蓮さんは、騎馬隊で活躍した軍勢です〜! 得意な馬を降りてまで戦う彼等の戦力と……歩兵で訓練して来た禁裏兵では、扱いの差が出ると考えたのですよー!!!」

 

▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼  ▼▽▼

 

 

 

間違ってはいなかった。 考え方は三者三様……正解である!

 

ただ……久秀の戦術眼が……三人の考えていた事の……更に上へ───!!!

 

 

 

△▲△  △▲△  △▲△  △▲△

 

久秀『禁裏兵ねぇ………。 確かに強くなっているようだけど……増長している様子がはっきり分かるじゃないぃ! 後ろは洛陽だから、守るには強いけど攻めさせてみれば……どうなるのかなぁ〜?

 

袁兵達よぉ! 禁裏兵達に軽く……《挨拶》をして上げなさいぃ! 一回攻撃して直ぐに入れ替わりして離脱ぅ! 相手に侮りと恐怖をぉ! 久秀達を恐れ、侮り、攻撃を仕掛けたくなるように仕向けるのよぉ!』クスクス

 

△▲△  △▲△  △▲△  △▲△

 

 

現に……禁裏兵は追いかけた! 洛陽を守るために! 賊を殲滅するのだと!

 

しかし、思い違いを起こしているのに……気が付かない。

 

洛陽を守るのであれば、その場で待機して守備を固める。 そして、機会を見て、将が指示を発し……始めて全軍で攻め寄せれる!! 

 

それが、将の制止を無視して……少数で突撃すれば────!

 

禁裏兵「とりゃあぁ──! ………えっ?」ガキィン!

 

袁兵「ーーーーーー!」ブン!

 

禁裏兵「ギャアアァァアアア!」ザシュ!

 

禁裏兵「そんな! 強い、強すぎる!! 戻らなきゃ───!」

 

袁兵「ーーーーーー!!」シュッ────!

 

禁裏兵「ぐわぁぁっ!!」グサッ!!

 

禁裏兵達は、敵の実力を見誤り………袁兵に討たれる! 

 

相手は『車懸りの陣』! 一度入り込めば、新手に襲われる蟻地獄の陣形!

 

逃げる選択など────無くなるのだ!!

 

そして………その愚かな行いは………手痛い代償を払う事になる!!

 

 

◇◆◇

 

【 久秀 対 月 の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

久秀「………残念ねぇ、洛陽の軍師さん達! この国の諺に『押して駄目なら引いてみな!』というのが無くてぇ………。 もし、知っていたら……久秀の策、破られていたかもねぇ──? フフフ!! ハハハハハッ!!

 

袁兵達! 愚直な正義の味方が……久秀をわざわざ導いてくれたわぁ!! あの開いた隙間をこじ開け、洛陽勢を壊滅に追い込みなさい!!」

 

久秀からの新たな指令を受け、中央部分に軍勢を集中させる袁兵!!

 

ーーーー

 

華雄「負けるな!! ここを打ち破られたら……軍が崩壊してしまうぞ!!」

 

華雄は自慢の金剛爆斧を奮って袁兵を討つ!!

 

禁裏兵「ぐはっ!!」

 

禁裏兵「し、死にたくねぇ───」バタッ!

 

だが………多勢に無勢! 禁裏兵を討ち果たされ、華雄の周囲には袁兵達が槍を持ち囲む!! 

 

華雄「────くっ! ここまで………かぁ!!」

 

華雄は、死を決意して金剛爆斧を握り直す!!

 

華雄「───金剛爆斧よ! 我が主の為………共に死のう!!!」

 

そして、周囲の軍勢に躍り掛かろうと、動く直前───

 

シュ──ッ! シュ──ッ! シュ──ッ!

 

袁兵「グハッ!」

 

袁兵「ゴボッ!」

 

周囲の袁兵が倒され───! 一人の将が駆けてくる!

 

月「か、華雄さん!!! 大丈夫ですか!?」

 

華雄「月様!! な、何故──この場所に!?」

 

月「前衛部隊が崩壊間近と聞いて救援に来たんですよ!!」

 

華雄「し、しかし!! 貴女は……この軍勢を纏める大将の身! 私如き討たれても、状況など変わり『 変わります!!! 』──!」

 

月「貴女は人一倍責任感が強く、私を守るために武を磨いている! そんな貴女が討たれば……慕う兵士は落ち込み、詠ちゃんや皆さんが悲しみ、わ、私は……また…家族を失う失望感を味あわなくては……いけないのですか!?」

 

大粒の涙を溜めて反論する月……! 

 

華雄は……魂の震えを感じていた。 将の一人に過ぎない自分を、家族の一人だからと心配して……単身駆けつけてくれた! 

 

本来は、護衛を付けず来た事を、叱らなければならない! しかし、この主は……どこかの軍師と同じで……仲間の為に単身で突っ込む! 

 

それに、人の事は到底言えないな………と思っていたりもする。

 

そんな思いに浸りながら、声を掛けようとすると……矢の飛来音が!!!

 

華雄「月…………あ、危ない!!!」

 

月「きゃああぁぁぁ!!」

 

シュッ────! ドンッ!  グサッ!!

 

華雄「ぐっ!!」ドクドクドク………

 

咄嗟に月を突き飛ばし、身代わりになる華雄! 

 

月は慌てて現状を見れば……華雄の右肩に矢が刺さっている!!

 

月「───か、華雄さん! 華雄さん!! しっかりしてえぇぇ!!」

 

華雄「つ、月様! ご心配には及びません………。 右肩に矢が刺さっただけです………!」

 

月「で、でも!!」

 

??「あらあら〜残念ねぇ……。 素敵な忠犬に守られたようでぇ……無事の様子ね。 大丈夫よ、その矢には……毒なんか塗ってないわぁ!」

 

月「────あ、貴女は!!」

 

久秀「ご機嫌よう───董卓様ぁ!! クスクスクスクス……あの時以来ねぇ? 変な怪人や三好長慶、大事なお友達に守られて……無事で居られたけどぉ。 

 

今回は、誰も邪魔しに来ないわよ! 久秀のぉ、久秀の力でぇ! こんな大舞台が出来たのだからあぁ! アーッハハハハハハハ!!!」

 

華雄「月様あぁぁ!! 御逃げ下さいぃ!! 私の事は置いてぇ──」

 

久秀「──煩いわよぉ! 黙りなさい! ───『縛』!!」

 

華雄「────────!」グッ………ガクッ!

 

 

久秀が印を結び、華雄に切ると──華雄の身体の自由がきかなくなり、押し黙って……膝を地面に付いた。

 

月「華雄さん!!!」

 

久秀「フフッ……董卓! 貴女は私に殺されのぉ! この洛陽の見える場所で…己の無力さを感じながら死ぬのよ!! 貴女が死んだ後、洛陽も後を追わせてあげるわ。 皇帝も大将軍も……他の将達も仲間もねぇ? 

 

だけど────颯馬だけは……アゲないぃ! だって……久秀の玩具よ? 持ち主の久秀に返して貰うのが……筋! 

 

まぁ〜死んじゃう貴女には……関係ない話よねぇ!?」

 

月「天城様は! 天城様は!! 断じて…貴女の玩具なんかじゃ……ありません!! この地に平和を齎す(もたらす)天の御遣い様です!!! それに、私達は……私は───まだ諦めません!!」

 

久秀「そぉう! そうこなくては……ねぇ! 無抵抗で董卓を殺害しても〜つまんないから、思う存分に抵抗なさい!! まぁ……逃げてもいいけど〜? 逃げれば……あの将は……代わりに早く死ぬだけよぉ! 

 

袁兵達! この周りを囲みなさい! 総大将同士の一騎打ちなんて………面白い趣向…………他の者に見せる義理も情けもないわぁ!! クスクスクスクス

 

この久秀が無残に討ち果たし……周りの袁兵達が……貴女を嘲笑って、あの世に送り出してくれるわよぉ! そして、もっと周りに……洛陽勢からの貴女に対する呪詛の言葉を抱かせて、永遠に苦しめてあげるぅのぉ…………!」

 

月「……………………!!」

 

久秀「………久秀より颯馬を奪った……報いを……与えてあげるぅ!! アッハハハハハハ───! それじゃ───覚悟なさいぃ!!」

 

◇◆◇

 

 

【 意外? の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

月は久秀と対して………距離をとり、久秀を狙う! 

 

久秀と月の距離は五丈(約10b)!

 

本来なら……こんな血生臭い事なんかしたくない!! 皆が……無事に平和で暮らせればいい! 

 

だけど……このまま手を拱いて(こまねいて)いれば……大事な家族、尊敬する方、慕ってくれる皆! そして……自分の途方もない願いを実現してくれるアノ方の志が……全部……無になってしまう!! 

 

心を鬼にして………数発……射かける!

 

シュッ──! シュッ──! シュッ──!

 

久秀「………正確無比だけど……気迫が足りないわねぇ! 久秀の居た世界で……こんな甘い攻撃───死ぬ者なんて居ないわよぉ!!」

 

カン! カン!  ──カン!

 

鉄扇を優雅に開き、死角から狙ってきた矢を……円を描きつつ落とす!

 

久秀「───次は……久秀の番ねぇ!!」

 

──スッ! ──ススッ! 

 

───────ザッ!!!

 

あの距離を一瞬に詰めて、月に接近する!

 

 月「───────!?」

 

久秀「大口叩いて───なんなの! その動きィ!!」

 

久秀の鉄扇が開いた状態で、月に襲いかかる。

 

シャアアァァ────────!

 

たかが扇如きと思いなかれ! 『扇骨』は『総鉄製』となっている故、刃の付いた実剣と対等に戦える!! しかも、鉄扇の『天(扇の先端部分)』は、内骨を加工して……鋭く尖らせてある。

 

勿論、普段は使わず………こういう戦場限定だが……。

 

月「くっ!!」

 

久秀の攻撃は、月の綺麗な顔を……右から左に───横一文字に切り裂こうと向かう!

 

クルッ! トッ! トッ! トン! 

 

月は、その方向に逆らわないように、時計周りに身体を回転、その回転の勢いで後方に避けながら、天に向かい矢を放つ!!

 

シュッ! シュッ! シュッ!

 

久秀「──────!」

 

矢は放物線を天へと描き……久秀の居る場所へと襲いかかる!!

 

久秀「─────フッ!!」

 

久秀は……軽く笑い、自分を狙う矢を鉄扇で鏃を叩き………逆に、月に向かい打ち返す!!

 

シューン! シューン! シューン!

 

月「!!」

 

月は急いで横に避け………久秀を探すと………周辺に居ない! 

 

どこへ………? 

 

 

月の背中に冷たい汗が流れる!

 

 

久秀「どこを………見ているのよぉぉお!!」

 

────久秀の声が後ろから!? 

 

頭上に殺気と圧力を感じ、急いで弓を頭上に上げた!!!

 

 

ガキィ────ン!!!

 

 

月「きゃああぁぁぁ!!!」ドタッ!

 

 

持っていた愛弓で防御するが、余りの打撃の強さに支え切れず、膝を付く月!

 

普通の弓なら……持ち手の頭蓋骨と同時に粉砕されるほどの威力! しかし、月の弓も………万が一のためには武器になるように、こちらも鉄をふんだんに使用した一級品! そう易々……主の命を渡す真似は……しないようだ!!

 

 

久秀「ふ〜ん……。 面白かったけど……これでお仕舞いね! あの世で……颯馬と久秀の関係を……皆で指を咥えて見物なさい!!!」

 

 

鉄扇を頭上高く振り上げる久秀! 

 

そのまま、振り下ろそうとすると……涙を流しつつも、久秀を見つめる月の姿が目に止まった…………。 

 

久秀は微笑しながら……嘲笑の言葉を月に浴びせる! 

 

月の希望を踏みにじり、更なる後悔に……のた打つ様を眺めるために!!

 

 

久秀「……どうしたのぉ? あれほど諦めないって叫んでいた貴女が……黙って久秀の顔を見ているだけぇ? やはり……口だけの中身の無い者だわぁ! 

 

クスクスクスクス…………貴女なんて、颯馬に相応しくない主君よねぇ?」

 

 

しかし、月は久秀の言葉を肯定しない! 

 

逆に驚く事を言い出した!!!

 

 

月「いいえ! 私は……最後まで! 命を失われるまで! 諦めません!! 必ず、必ず──私達を救い出しくれます!! 私達の仲間や敬愛する御遣い様達は! 天城様は────そんな方達なのです!!! 」

 

 

その言葉に、久秀の中の『心』が反応して叫ぶ!!

 

 

??『ヒサ……、ヒサヒデ! ヒサヒデ────!』

 

 

嘲笑する対象より……覚悟を示された? 

  

久秀は……甘言に乗っている今の自分を、激しく糾弾(きゅうだん)されているように感じ取る! 

 

 

《 貴女の思いは……人を、愛する者も、信じられないのか!! 》

 

 

そして………久秀の『心』も賛同…………

 

 

久秀「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇ───────!!!」

 

 

急に久秀が………怒鳴りだした。 普段、怒気を表に現す事など稀な姫武将が……この世界の将に………その怒りを見せた! 

 

久秀「───董卓! 最後の最後まで良い子ぶってる貴女に教えてあげる!! 

 

久秀や順慶は……ただの駒! 本当の敵は…………別にいるわよ! 詳しくはアノ漢女が知ってるけど……ここで死ぬ貴女に……これ以上……知る必要はないわ!! 颯馬の幻想を抱きながら───死になさいぃぃ!!!」

 

ブゥ──────ン!!!

 

 

月「─────────!!!」

 

 

 

 

────月の頭上に───久秀の鉄扇が───

 

 

『──────タタタタタタタッ!』

 

────────電光石火の動きで────

 

 

 

 『ガキィ──────ン!』

 

────────遮られた!!!

 

 

 

??「フゥ────! 何とか間に合ったか!?」

 

 

久秀「誰! 誰なの!?」

   

 

──────月の危機に駆けつけた将!

 

 

白蓮「おおぉっい! なんだこの硬さは!? 私の『普通の剣』が刃こぼれ起こしているじゃないかぁ!! どうしてくれるんだよ!!!」

 

幽州太守………公孫白珪 ! 真名は白蓮と言う!

 

 

 

月「白蓮さん────!!」

 

月は………自分を救ってくれた将……白蓮を仰ぎ見る!

 

白蓮は……月の前に立ちふさがりつつ、声を掛けた!!

 

白連「月! 大丈夫だったか? ──待たせたな! 私の白馬義従が……袁術軍を崩している!! 他の将達も………皆、無事だ!!」

 

久秀は、つまらなそうなに白蓮の様子を見ている。 

 

久秀(『 戦闘力……普通。 知謀……普通。 統率力……優 』かしら?

 

この将一人……どこから入ってきたか分からないけど……久秀と袁兵達の力があれば………充分に対処なんか出来るわね!!)

 

そんな考えを持ちながら、白蓮に声を掛けた!

 

久秀「ふ〜ん、虚言飛語? おあいにく様………久秀には、そんな浅はかな謀略なんか通じないわよ…………大体、周りの袁兵は動いてないじゃない!」

 

白蓮「おいおい! 私は人を騙す謀なんて出来ないんだ! どちらかと言えば騙される事ばかりだし…………。 

 

あっ? ……信用してない顔だな。 

 

仕方ない………。 数で物を言わすなんてしたくないが……皆! 正体を現してくれ──────!!」

 

ザワザワザワ ザワザワザワ 

 

カポッ! カポカポッ! バッ!!

 

周辺を囲んでいた袁兵が……一斉に兜を投げ捨てた!!

 

翠「へっ! 敵大将がのこのことまぁ……! だがなぁ! あたしらの大将を虐めてくれた借り………きっちり返させて貰うからなぁ!!」

 

白馬義従5「白蓮様! 華雄将軍を無事保護いたしましたぜぇ!」

 

白馬義従6「おうおうおうおうおぅ! 俺等の主、白蓮様が謀略だと? この方が……テメェみたいに卑怯な真似すると思ってんのかぁ!? あぁ〜!?」

 

白馬義従7「白蓮様! 白馬義従三十人! 腕っ節の強い野郎ばかり集めましたぜぇ!? このふてぇ奴を踏んづかまいてぇ、黄河の魚の餌にしてやりやしょう!?」

 

白蓮「頼むから……これ以上言わないでくれ!! こうも……あからさまだど……私が恥ずかしいんだ! とりあえず………分かったか! この周辺の兵達は、私達が入れ違いで倒した! 倒しても声を出さないから助かったよ!」

 

白蓮は顔を赤らめて恥ずかしがるが……白馬義従達は白蓮を持ち上げ、久秀を貶す(けなす)! 当然と言えば………当然なんだが…………。

 

久秀「嘘よ……! 出鱈目よ!! 久秀の術が掛かっている……あの軍勢が……こうも……簡単に打ち破れるわけ─────!!」

 

───信じられない! 信じたくない! 信じない!!!

 

久秀は自分の知謀、戦術、戦略に自信を持っていた! 曹操を敗走させ、陸遜を苦しめ、あの天城颯馬と五分に渡る戦術を繰り広げたのだ!! 

 

今回は、普段使わない術まで使用し、洛陽勢の軍師達が編み出した戦術をも凌駕して、この通り董卓まで……あと一息で殺せるところまでいった!!

 

それが……先程の自分の見定めでは……『普通』としか言えない将が……久秀の戦術を破る要になった!?!? 

 

どうして、どうやって、どういう理由で………?

 

翠「形成逆転…………だ! 司馬懿!!!」

 

久秀「─────────!!」

 

久秀の目の前は………暗くなった!!

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

次の話でこの戦いが……終わります。

 

因みに………久秀の車懸りを破ったのは……白蓮です。

 

どう見破ったのかは……次回になる予定………と言う事で……。

 

次回もよろしければ……読んで下さい!!

 

説明
義輝記の続編です。 今回、ある将が活躍してくれます。
よろしければ、読んで下さい!
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コメント
戦極姫では……覇王様っぽい万能タイプが多いですね。 状況が違う為ですけど。 能力が特化した方も勿論大事です!(いた)
雪風様 コメントありがとうございます! 確かに突出した才能が無い為の普通扱いですが……咄嗟の場合に任せられ人材だと思うですけど……。 しかし、この世界には、それを上回る覇王様とか居るので……目立ちません。(いた)
「どれか突出してる技能を持ってる士もいますが、全てこなす力がある士・・これは影の功労者ですね」by太田資・「なにかしらのスペシャリストを育成も大事です」by大谷(雪風)
奇才・逸材・天才に比べて劣って見える普通(平均的)・・しかし戦闘・内政・全てふつうにこなす・・これは凄い事です。野球なら全ポジションを守備可能の選手がベンチにいる・いないだけでもチームの戦略等に影響大ですから。(雪風)
禁玉⇒金球様 コメントありがとうございます! どこかの頑固な委員長タイプと違う委員長タイプの白蓮です。 戦術等に精通している人は戦術で対抗しますが……今回は『普通』の目線で気付いた所を攻めた故の勝利です。(いた)
Jack TIam様 コメントありがとうございます! 白蓮の見いだした陣の弱点。 如何にも『普通』だから気付いたモノです。 今回は久秀の油断とキレた?為の甘さでの敗北です。(いた)
普通の人間にしか見えないものもあるのでしょう、白蓮が熟女…いや熟慮した結果が久秀様の策謀を破ったと。場違いですが「もう少しで出来ますもう少しで」とのたまい友j編集者の胃を攻撃するのではなく「出来たけど締切まで時間あるよねもう少し見直させて」というタイプだな白蓮は。(禁玉⇒金球)
変に偏らないのは大切ですよね。能力面でも、精神面でもね。華琳は能力面でこそ全てが高水準ですが、偏屈な性格なのでこうはならない。白蓮だからこその結果ですね。『油断大敵』だぞ、久秀よ。策が完璧に見えても、人が作るものに綻びが無いなんてことは有り得ない。(Jack Tlam)
mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます! 久秀の出番は……まだ続きます。 この戦と赤壁の後始末が終われば……最終章になります。(いた)
さすが白蓮さん!予想外の伏兵に知謀を一歩凌駕された久秀の今後に注目…かな?(mokiti1976-2010)
ふかやん様 コメントありがとうございます! 確かに『普通』とは『偏りが無い』意味も含みます。 この作品の白蓮も『普通』に考えたのです。 色々と思い浮かべ……そして『大長考』の末に答えを得た成果が……この勝利に繋がりました。(いた)
普通…なるほど、確かに突出した才を持つ者から見ればそれは弱いと思うかもしれない。だが…普通と言う事は言うなれば『あらゆる状況に対応できる』と言う事にもなる。久秀、この敗因はそれを見抜けなかったことにある!!(ふかやん)
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戦極姫 真・恋姫†無双 

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