魔王は勇者が来るのを待ち続ける
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「魔王、再開す」

 

 

 

 

 

「勇者は来て欲しいし、その要望は叶えたい。決闘できるならな」

「そうですか」

 魔王は力説する。対して宰相は気のない返事だ。2人の会話を他所にアルは身構えている。そして周囲の近衛騎士団の騎士達は彼らを守るように周りに展開していた。

 自由市場を目指して建築された海上都市。その都市は海の上にあり、来るためには船か、魔王の国から延びる橋を渡らなければならない。つまりそこを抑えられると、何か起きると孤島になってしまうのだ。

「まさか魔王陛下に会えるとは思いませんでしたよ」

 下卑た笑みを浮かべる男たち。彼らは年端もいかない少女の首筋に剣をあてていた。少しでも刃を滑らせれば、そこから赤い鮮血が噴き出るのは、想像に容易い。故に、周囲にいる人間達も魔族も動けないでいる。

「しかし今日もマナの濃度が濃いな」

「いいから早くなんとかしてくださいよ」

 魔王は目の前の男たちに目もくれない。マナの濃度を計測する提灯のような装置を眺めている。そんな様子に男は笑う。

「そうだな。マナの濃度が高いな。つまりここでオレたちが魔法を使えばどうなるかは、わかるよな?」

 男は目で合図すると周囲の男たちは魔法を発現する。そして大きな炎が顕現し、周囲を熱で炙った。少女も熱波にさらされる。苦痛に耐える絶叫が街に響く。周囲の人間は逃げ出そうとするが、男の仲間達がそれを武器で制した。

「魔王様、多いですよ」

 魔王はどうでも良さそうに「そうか」と言う。そんな対応に宰相は怒鳴る。まるで相手にされていないとわかった男も激怒した。

「おい聞けよ! こっちの要求は金だ! 金さえくれれば――」

 男はありきたりな金銀財宝を要求する。そんな要求に魔王は深くため息を吐く。物凄くつまらなそうに初めて男を見た。そしてその視線の先に見知ったローブが映る。魔王は口元を歪めた。それは男にも誰の目にも見えるものだ。故に相手は逆上する。それでも魔王はやめない。むしろ勝ち誇ったかのように嗤う。男は怒鳴りながら見せしめと言わんばかりに少女の首に刃を振り下ろす。が、それは白刃の刀に阻止された。

「な……に?」

 男は次の行動を起こすことが出来ない。なぜならすでに絶命していたからだ。赤い鮮血が飛び散る。少女には一滴もかかることはなかった。何か見えないモノに阻まれたからだ。

 歳を感じさせる声が少女の安心させるように声をかけた。頭巾を取り外し白い歯を見せて笑う。隙だらけな行動に男の仲間達が飛び出す。直後に魔王の近衛騎士団が全てを押し飛ばす。街の人々を脅していた仲間達も都市にいる魔族、人間により打破される。

「くそっ! こうなったら道連れだ!」

「いかん! マナ干渉爆発を起こす気だ!」

 騎士団の1人が叫ぶ。騎士団の面々は駆け出そうとして、倒れている男の仲間達に足を取られた。

「魔王様!」

 宰相は怒鳴りこむように魔王に掴みかかる。しかし、彼または彼女の期待を裏切るように魔王は何もしない。楽しそうに見ているだけだ。否、提灯のようなマナ計測機器を指さす。

 マナの濃度を頼りに魔法を発現させようとする。怨嗟の叫びと共に魔法を発動させるが、先ほどとは比べ物にならないくらい小さな炎が出た。小さく爆ぜる音と共に霧散する。

 男は驚きの声を漏らす。直後に空気を切る音が響く。水っぽい音と地面を鈍く打つ音と共に男の体は地面に倒れた。

 蒼い刃。それが虹色の光沢を放ち綺麗な一閃を魅せていた。まだ幼さが残る少年がそれを成す。蒼き刀を鞘に収める。

「助かったぞラガン、ソラ」

 魔王は嬉しそうに友人に呼びかけた。

 

 

 

 

 

 事態を収集した魔王一行は橋を渡っている。馬車の中には魔王、宰相、アル、ラガンの4名だ。ソラは外を歩いている。

「マナの濃度が回復しました」

「8割に戻ったな」

 アルは指差ししながら言う。マナ計測機器の光が8のメモリまで上がっている事を確認する。魔王は満足そうに頷き答えた。

「いくらなんでも濃すぎやしないか?」

「これくらいでいいんだよ。あそこは魔法を使わせないためにマナの濃度を高めているんだ」

 ラガンは合点がいったらしく。「なるほど」と言うと、それ以上何も言わずに窓の外の少年を眺めた。少年は楽しそうに近衛騎士団の面々と話をしている。

「こうして見て、改めて思うよ。人間の成長は本当に早い」

 ラガンは少し寂しそうに同意した。魔王はさらに続ける。

「そして老いの早さも、な」

「うるせいやい」

 ラガンは笑っているが、顔つきも肉体も随分と老いぼれていた。皺もより深くなり、目もかつての鋭い眼光はない。服装が整っていなければそこら辺にいる老翁と変わらない。それほど彼は老いていた。

「霊将にしようと思うてな。その前にここに立ち寄りたかったんだ」

「なるほど」

「もうあいつには敵わない。今じゃ俺があいつの冒険の足を引っ張っているような状況だ」

 ラガンは言葉の割に表情は明るい。我が子の成長のように嬉しそうに語っている。そんな姿に魔王も自然と微笑む。

「まあ、ゆっくりと我が城で休み給え。おっと拒否権は認めないぞ」

「そうか……そうだな。では遠慮無く。あの浴場にも行きたいと思っていたところだ」

 

 

 

 

 

 闇夜の空に瞬くは星々。それらは無数に輝き幻想的な景色を彩っていた。魔王は城の屋根上から眼下を見下ろしている。街の灯に嬉しそうに顔を歪めた。

「これで勇者でも来てくれたら最高なんだけど。なってくれないかソラ?」

「お断りするよ。俺は勇者なんて興味ない。ましてや友人と戦うなんて嫌だな」

 背後からソラが現れる。彼は魔王の隣まで来ると同じように眼下を見下ろす。感嘆とした声を上げる。視線の先には夜更けにも関わらず、煌々と光る街だ。

「いい街だな」

「そうだろう? 私の愛する民があそこまで栄えさせたのだ。自慢の民。自慢の街だ」

「回避できるといいな。戦争」

 魔王は短く同意した。しつつも表情は明るいそれから暗くなる。

「愚痴だがな。ここに来てアティーナスの内乱がいい具合に、カンクリアンの追い風になっているのが癪に障る」

 魔王は煩わしそうに言う。目はいつもより鋭く、虚空を睨んでいた。

「師匠から話は聞いたと思うけど、ここに来る前にそこに立ち寄ったんだ。結構酷い有様だったよ」

 ソラは面白くなさそうに言う。

「君から見た状況も知りたい。明日話を聞かせてもらってもいいかい?」

 ソラは「ああ」とだけ答えると屋根の上に寝転がった。

「空は1つなのになー」

 

 

 

 

 

〜続く〜

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〜あとがき〜

ゲームに目処ついたので頑張る

説明
パノプティコン。そこでは懲役100万年を科せられた者達がいる。咎人だ。咎人として、ボランティアに勤しんでいた銀空。彼は真の自由を勝ち取るために貢献を行う。それが仲間を、自分を助けるものだと信じて。

レッツ貢献

※60分で書くお話です。題材は流行りのいいもんの魔王のお話

今までのお話のリンク
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