ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長 |
story05 練習試合
あっという間に二日は過ぎて教官が来る日となった。
「いよいよですね、如月さん」
「そうだな」
教官が来るまでグラウンドにメンバーが集まっていた。
珍しく西住が遅れてきたと言うのは少し意外だったが、そこは置いておく。
「しかし、教官遅いですね」
と、坂本が呟く。
「教官遅ーい。焦らすなんて大人のテクニックだよ!」
近くで西住達と一緒に居る武部も呟いている。
(お前は何を言っている?)
内心で呟きながら如月が右手で首筋を摩った時だった。
「・・・・?」
すると大きな音が徐々に近付いてくる。
「あれって・・・・」
と、西住達と一緒に居る秋山が見上げると、こちらに大型の輸送機が近付いてくる。
って、何か結構低空飛行してないか?
すると輸送機の後部ハッチが開くと、そこから箱状の何かを投下し、パラシュートを展開する。
「あれって・・・・10式戦車?」
と、西住がそれを見て呟く。
「さすがは西住殿!日本の自衛隊が誇る脅威の最新鋭戦車ですね!それもLAPES仕様とはっ!」
秋山が興奮気味で言う中、10式戦車を乗せたそれは勢いよく学園の駐車場に滑りながら着地するも、最後辺りで一台の車を巻き込む。
って、輸送機から降下って・・・・空挺戦車じゃないんだから。
「学園長の車が・・・・!?」
と、副会長(名前は確か小山だったか?)が顔を青ざめる。
あぁそいつはやばいな。
それを見ても会長は「あぁやっちったねぇ」と干し芋をかじりながら言う。
と、追い討ちを掛けるかのように10式戦車は箱状のユニットより後退して降りるも、その後ろにひっくり返っていた学園長の車を踏み潰す。
ウン千万の塊が糸も簡単にぺしゃんこ・・・・
「ポテチ・・・」と広報(名前は確か河島だったか?)も顔を青ざめて呟くと、10式戦車はそこから走り出してグラウンドの中に入り、私達の前でドリフトをしながら止まる。
キューポラが自動で開くと、そこから一人の女性が出てくる。
「こんにちは!」
女性は私達を見て明るく挨拶をする。
―――――――――――――――――――――――――――――
そうして私達の前に戦車から降りてきた女性が立っていた。
近くで武部が「騙された」と呟いていたが・・・・誰も男性であるとは言っていない。。
「本日特別講師をしてくださる戦車教導隊の『超野亜美』一尉だ」
「よろしくね!」
と、超野教官はみんなを一瞥して一言挨拶を交わす。
「戦車道は初めての方が多いと聞いていますが、頑張っていきましょう」
超野教官の挨拶を聞くも、さっきの事があってほとんどは少し戸惑いの表情を浮かべていた。
「あれ?」
と、超野教官は西住を見つけると声を漏らす。
「もしかして、西住師範のお嬢様ではありませんか?」
「・・・・!」
超野教官が西住の前に来ると、西住は少し戸惑いの表情を浮かべる。
「間違いない、妹さんですね。あ、師範にはお世話になっているんです。直接ご指導をしていただくこともありますし」
「・・・・・・」
「お姉さまはお元気で?」
「・・・・は、はい」
まほの事を聞かれると西住の表情に暗みが浮かぶ。
「・・・・・・」
如月がその様子を見ていると、周囲より「師範?」「西住さんちって有名なの?」と呟きが出る。
「西住流って言うのはね、戦車道の流派の中でも、由緒ある名門なのよ」
超野教官が説明するとおぉ!と更にざわつく。
「それにお姉さん、『西住まほ』さんは一昨年、一年生で隊長を務めた戦車道の高校生大会で優勝したの。
確か国際大会の強化選手にも選ばれたのよね?」
そしてまほの事をベタ褒めしているが、西住の表情は暗いままだ。
「勝利の秘訣『諦めない事、そしてどんな状況でも逃げ出さない事』は本当にいい言葉だわ!」
「・・・・・・」
そういえば、まほもよくその言葉を口にしていたな。
「教官!教官はやっぱりモテるんですか!!」
「え?」
と、武部が挙手してそんな質問をして超野教官は一瞬唖然とするも、すぐににこやかな表情を浮かべる。
西住を気遣って空気を変えたのか。本当にいい友達を持ったな。
「モテると言うより、そうね。狙った的は外した事が無いわ。
撃破率は120パーセントよ!」
大人な対応をすると、周囲よりおぉ!と声が上がる。
って、モテるんじゃなくて、撃破してしまうんだ・・・・
「教官!本日はどのような訓練を行うのですか!」
と、今度は秋山が挙手して質問をする。
「そうね。じゃぁ早速本格戦闘の練習試合、行ってみましょうか!」
『えぇっ!?』
と、ほとんどのメンバーが驚く。
そりゃ初心者にいきなり戦車を動かせと言って驚かないやつはいない・・・・・・はず。
「大丈夫よ。何事も実践よ実践!戦車なんてバーン!って動かしてダーッ!って走らせてドーン!と撃てばいいんだから」
えらい説明が大雑把だな・・・・これで戦車教導隊に良く入れたな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
それからして私達は倉庫の中に入り、それぞれの戦車の近くまで歩く。
「どうやって動かすのぉ?」
「知ってそうな友達に聞こっか?」
「それよりネットで調べたほうが早いよ」
と、M3の近くに居る一年の一人が携帯を取り出すと調べ出す。
「ここで頑張れば、バレー部は復活する!!あの廃部を告知された屈辱を忘れるな!!」
『ファイトォォォォ・・・オォォォォ!!!』
八九式のバレー部は手を重ね合わせると気合を入れる。
「初陣だ!!」
「ここは車がかりの陣でいきますか」
「ここはパンツァーカイルで」
「いや、一輌しかないじゃん・・・・」
と、歴女チームはそうぼやくと、V突に乗り込む。
「はい!!みんな乗り込んで!!」
超野教官が手を叩いて催促する。
「我々も乗り込みますか」
「あぁ」
会長は38tに近付いて車体の前部ハッチを開けようとするも、上に上がらない。
「河島」
「はい!」
と、河島はとっさに38tの前に四つんばいになると、会長はその上に乗る。
「しかし、いきなり練習試合って大丈夫なんでしょうか?」
小山の心配事を「まぁ何とかなるんじゃない?」と会長は返す。
「じゃぁそれぞれ役割を決めてね。三名のチームは車長に砲手、操縦手。四名のチームは通信手、五名のチームは装填手を決めてね」
超野教官が言うと、全員話し合う。
「それで、どういった配置にしますか、如月さん?」
私と早瀬、鈴野、坂本は五式の上に乗って話し合う。
しかし前にも言ったが、他の戦車と比べてもティーガーT並に大きい五式はもちろん大洗の全戦車中一番でかい。
「それぞれ中学の戦車道でどういった役割を担っていた?」
「私は操縦手ですね。一年から三年までずっとそれです」
と、早瀬が言う。
「ならば、それでいいな?」
私が聞くと「はい!」と返事する。
「私は砲手ですね。射撃は幼い頃から得意でしたので」
と、鈴野が続けて言う。
「ならば、主砲の砲手を任せても良いか」
「はい。是非お任せください」
鈴野は頭を下げる。
「・・・・あの、私はどうすれば?」
と、坂本が聞いてくる。
「お前は何をやっていた?」
「あ、はい!私は砲手をやってしました。でも、それほど長い経験はありませんが・・・・」
「なら十分だ。副砲の砲手兼装填手を頼むぞ」
「は、はい!」
「では、私は車長と装填手、それと通信手を兼任する」
「三役も大丈夫ですか?」
「通信手は私が副砲手と兼任しましょうか?」
「心配ない。五式だからこそ三役をこなせれる」
「そ、そうですか」
心配そうな坂本に鈴野が肩に手を置くと「大丈夫よ」と囁く。
「なら、決まりだ」
そうして私達は五式の砲塔のキューポラハッチと車体前部のハッチを開けて中に入っていく。
「凄い。内装も結構綺麗になっていますね」
操縦席に着いた早瀬は車内を見渡す。
「まだ錆び臭いのは残っているけどね」
鈴野は砲手席に座ると、主砲のスコープを覗く。
「それを除けば、自動車部の技術力に驚かされる。と言うより、信じ難いな」
如月は最後に車長の席に座り、喉に咽喉マイクを装着してキューポラの覗き窓を覗いて視界の広さを確認する。
(片目が無いとこうも視界が狭まるのか。日常生活じゃ気付かない欠点だな)
「副砲異常なし」
「主砲も異常なしです」
坂本と鈴野はそれぞれの箇所を点検して私に伝える。
「各員、マイクのテストだ。聞こえるな?」
如月は咽喉マイクに手を当てて喋る。
「大丈夫です!」
「こちらも聞こえます」
「問題ありません!」
と、耳栓兼通信ヘッドフォンを通じて返事が返ってくる。
『それでは、全戦車!パンツァーフォー!!』
無線で超野教官より通信が入る。
「いよいよですね!」
坂本が後ろの車長席に座る如月の方を向く。
「あぁ。早瀬、エンジン始動だ」
「了解!」
早瀬は右の方にある機器のイグニッションボタンを押し、五式のエンジンが呻りを上げ、ブロロロロッ!!!と大きな音と振動と共にエンジンが起動する。
同時に隣のW号もエンジンが始動する。
が、その直後になぜかエンジンが止まる。
「あれ?何で止まったんでしょうか?」
「恐らくクラッチを入れずにシフトレバーを無理やり動かしたんだろうな。初心者にはよくある事だ。
とりあえず、我々はスタート地点まで前進だ」
「はい!!」
早瀬はギアを一速に入れて前のレバー二本を手にし、足元のアクセルを踏み込むと、五式中戦車はギュラギュラと、履帯より音を立ててゆっくりと前へと進み出す。
「懐かしいですね、この振動!」
「あぁ。・・・・本当に懐かしい」
懐かしい感じが蘇り、如月は思わず笑みがこぼれる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
それから他のチームも先に倉庫より出ると、学園の裏山に行ってそれぞれのスタート地点に向かう。
「早瀬。次の道を右だ」
如月は席を立って上のキューポラハッチを開けて上半身を外に出して周囲を確認し、咽喉マイクに手を当てて早瀬に伝える。
「了解!」と返事を返して右のブレーキレバーを後ろに倒して右側の履帯を止めて車体を左方向へと向け、すぐにブレーキレバーを前に倒して前進させる。
そうして如月達はFチームのスタート地点である山道に到着する。
「何とか無事に到着できたな」
「はい」
早瀬は疲れたようにイスの背もたれにもたれかかる。
如月はキューポラハッチを開けて上半身を外に出し、周囲を見渡して確認し、車内に戻ってハッチを閉める。
『全員開始地点に着いたわね』
と、教官が確認の通信を入れる。
『ルールは簡単。スタート地点からガンガン前進して、敵車両を見つけたらバンバン撃って!自分以外の戦車を撃破したら勝ちよ!分かった?』
本当にざっくりな説明だな・・・・
『戦車道は他の武道と同じ、礼から始まって礼で終わる。それでは、一同、礼!』
「よろしくお願いします!」と通信を通して全員の声がする。
『それでは、試合開始!!』
「それで、これからどうしますか?」
一旦副砲のスコープから目を離し、坂本が咽喉マイクに手を当てて聞いてくる。
「とりあえず今はここから移動する。敵と遭遇次第交戦する」
「意外とシンプルですね」
「その方が分かりやすいだろ?」
「まぁ、そうですね」
「坂本。副砲に徹甲弾の装填。主砲も徹甲弾を装填する」
「はい!!」
如月は砲弾ラックより一本の砲弾を取り出すと、装弾機に砲弾を置くと砲尾にあるスイッチを押し、装弾機によって砲弾が戦車砲に装填される。
坂本も砲弾ラックより砲弾を取り出し、副砲の尾栓を開けて砲弾を装填し、尾栓を閉める。
「鈴野はいつでも撃てる様にしろ。早瀬。このまま前進。速度は今の所ゆっくりでいい」
「はい!」
「了解」
と、早瀬がアクセルを踏んで五式を前に進ませる。
「他のチームの開始地点から見ると、一番近いのはEチームかDチームだな」
超野教官より渡された地図を見ながら顎に手を当てて作戦を練る。
「38tと八九式の主砲なら脅威はないが、M3とV突、W号の主砲は無視出来ない」
「では、Eチームには目もくれずに、二番目に近いM3を叩くのはどうですか?」
身体を後ろに向かせて鈴野が地図を覗いて意見を言う。
「それもそうだな。ならば――――」
ズドォォォォォォォンッ!!!!
『っ!?』
突然轟音と衝撃が車内を襲う。
「いきなりなんですか!?」
「くっ!」
如月は慌ててキューポラハッチを開けて上半身を外に出して周囲を見ると、五式の近くに着弾後があった。
「っ!」
すぐに周囲を見渡すと、五式の前方10時半の方向約数十メートル先に一両の戦車が砲口をこちらに向けていた。
「Eチームの38t」
「もう来たんですか!?」
「向こうもこちらを撃破しに向かっていたのか(38tで倒す事自体が難しいだろうに・・・・何を考えている)」
舌打ちをしてとっさに車内に戻る。
「鈴野!すぐに砲撃だ!」
「了解!」
鈴野は砲塔を回転させて38tに向ける。
ズドォォォォォォォォンッ!!!
「っ!」
すると更に五式の近くで更に砲弾の着弾がして車内に轟音が襲う。
とっさにキューポラの覗き窓を覗くと、前方にDチームのM3が見つかる。
「Dチームまで来るとは・・・・」
「共同戦線を張ってこちらを撃破しようとしているみたいですね」
想定していたが、それでも予想よりも早い。
「・・・・・・」
「ど、どうするんですか?」
「早瀬。すぐに五式をジグザグにしながら後退しろ。出来るな?」
「いきなりハードルが高いですね。でも、やってみます!」
「よし。私の合図と共に急停止して車体を38tに向けろ。鈴野はM3に、坂本は38tに停止と同時に撃ち込め」
「は、はい!」
「分かりました」
早瀬はギアを入れ直し、アクセルを踏んで五式を後退させる。
その直後に38tとM3が五式の後を追い、一斉に砲撃を放つが、五式はスラノームをしながら後退し、周囲に着弾するだけで当たらない。
すぐに38tとM3は五式を追いかけながら砲弾を放ってくるも、走りながらの射撃はそうそう当たるもんじゃない。
「停車!主砲、副砲、撃てっ!!」
しばらく後退した頃を見計らって、如月が叫んだ瞬間、早瀬はレバーを後ろに倒して五式を停止させ、右のレバーを戻してアクセルを踏んで車体を38tに向けると、鈴野と坂本はすぐに狙いをつけて主砲と副砲の引き金を引く。
ドォォォォォォォォンッ!!
ダァァァァァァァァンッ!!
轟音と衝撃と共に主砲と副砲より砲弾が放たれて砲身が後退し、閉鎖機が水平に動いて空になった砲弾の薬莢が煙を纏って薬室より排出され、籠に入る。
放たれた砲弾は勢いよく一直線に飛び、主砲の砲弾がM3の浅い角度の装甲に着弾し、「きゃぁぁぁぁぁ!?」と車内で悲鳴が上がる。
が、その瞬間にM3の主砲より轟音と共に砲弾が放たれ、その直後に撃破された事を知らせる白旗が揚がる。
ガァァァァンッ!!
「ぐっ!」「くぅ・・・・」「うわぁぁっ!?」「あぐっ!?」
M3の砲弾が五式の右側の履帯付近に着弾し、車内に衝撃が走る。
ちなみに副砲の砲弾は38tに着弾するも、一番装甲が厚い砲塔の防楯に着弾した為に撃破には至らない。
「撃破失敗です!」
「M3は撃破出来ましたが、それと同時に攻撃を喰らいましたね」
「あぁ。だが、38tだけなら問題は無い。続けて砲撃だ!」
「了解!」
如月はすぐに砲弾を取り出して装弾機に乗せ、砲尾のスイッチを押して砲弾を棒で押して薬室に装填する。
その間にも38tは走りながら主砲より砲弾を放つが、弾は明後日の方向へと飛んでいく。
「撃てっ!!」
鈴野と坂本が同時に引き金を引いて轟音と衝撃と共に砲弾が放たれ、38tに二つとも着弾し、今度こそ白旗が揚がる。
「あぁ、やられちったね」
「桃ちゃんここで外す?」
「桃ちゃんと呼ぶなぁっ!!」
煙が立ち込める中、38tの車内ではそんなやりとりがされていた。
「やりましたね、如月さん!!」
坂本がガッツポーズを取る。
「あぁ。だが、余計なダメージを受けてしまったな」
目を閉じてからイスの背もたれにもたれかかり、ゆっくりと息を吐く。
「だが、まだ安心は出来ん。他にも居るのだからな」
「はい!」
と、早瀬がギアを入れ替え、左のレバーを倒してアクセルを踏むと五式は左へと車体の向きを変え、後方を向くとレバーを引いてブレーキを解除し、前進させる。
ズドォォォォォォォォン・・・・・・
「今の砲撃音は!」
「それほど遠くは無いな」
如月はキューポラハッチを開けて上半身を外に出し、周囲を見渡す。
『有効!Cチーム行動不能!』
と、無線でヘッドフォンより超野教官より状況が知らされる。
(V突撃破。西住達がやったのか・・・)
如月はすぐに車内に戻る。
「早瀬。五式を前進させろ。これよりAチームを叩く!」
「はい!」
「了解!」
「分かりました」
早瀬はギアを入れ直してアクセルの踏み、五式を前進させる。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。 戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。 |
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