「あとは本当に、各自で練習してもらうだけだから、週末になったらメンバー全員で先週みたいに集まってセッションすればいいかな」

　サングラスの青年が、シンセサイザーから手を離して言った。

「そーいえばお前、ビートルズのファンって事はレッド・ツェッペリンみたいなクラシック・ロックのが好みだろ？ハードロックなんて大丈夫か？」

　青年は、男性部員の方に目を向けて話しかける

「いえ、確かにビートルズは今の曲と比べると演奏は単純だし激しい演奏や歌い方とは思いませんよね。でも、ビートルズがデビューした１９６２年当時は作詞・作曲・演奏・歌を自分たちだけでやるバンドはおそらくその当時の日本にはほとんど無かった。それに全てのジャンルのロックはビートルズから始まっているんですよ。」

　と、男性部員が語り始めた横からサングラスの青年が

「激しく同意！、プレスリーやビートルズの音楽がロックでないならロックと呼べる音楽は無いぜきっくん！いやー、やっぱりビートルズ好きならハードでもメタルでもドンとこいだと思っていたんだよ！リードギターパート以外は早いリズムは使ってないから大丈夫だと思う」

「はい。ビートルズの活動期間は長くて、バンドも色々なことを試しながら製作していたから初期はロックンロールが主だったけど、後期はそれこそサイケな曲からハードから色んなタイプの曲がありますよ。」

　ニコニコしながら男性部員が一気にサングラスの青年と語り始めた。

　ちょっと驚いたような視線を青年が向ける。

「いや、知ってるけどさバンドマンの常識だから！ビートルズの発明品みたいに言われてるエイトビート自体はチャックベリーの物とか！」

「言うねきっくん！俺だって10ccやストーンズはもっと評価されてもいいと思うぜ！他の60sバンドがやったことでもビートルズの手柄扱いされすぎだよな！」

「ビートルズが音楽の幅を広げたのは確かだけど、ロックを進化させたのは他のバンドっていう意見もよく聞きますよね 」

　三人の男たちが、ワイワイとビートルズ談義を始めてしまう。

　女性部員は蚊帳の外だ。

「私も、ビートルズとHIDE語りたいんだけどなあ・・」

　ヘルタースケルター聴けば、メタルですらビートルズが元祖だと言われてる理由が分かる。今まで聴いたことが無いとか、昔の曲だろとか言ってる人達でも、音楽をやっている人間がビートルズを聞けば自然と語るようになってしまう。　

　気がついたら口ずさんでる曲が多い。

　歌手の後ろで伴奏する裏方的な存在だったバンドマンを、 女の子にキャーキャー言われるアイドル的な存在に変えたのがビートルズだ。ビートルズがロックバンドというパフォーマンススタイルを確立した。

「でもさあ、ギターは全然関係ないじゃん！チャックベリーでジミヘンでエディーだろ？ギタリスト的には微妙だぜ。バンドマン的には俺も好き。」

　青年が、男性部員の髪をぐしゃぐしゃとやると、変なポーズを決めながら、青年が二人に向いて語る。

　それにまた、三人が語り始める。

（今日の練習はもう無理だろうなあ・・・・・・）

　貰った楽譜を手に持って女性部員は、ため息をついた。

　女性部員は帰宅すると

　貰った楽譜を手に、自室で読み直していた。

　手持ちのミニギターはburnyのイエローハート。

　もちろん、大ファンのHIDEモデルだ。

　エレキギターだと中古でも３０万前後してしまうイエローハートを廉価かつ女性向けに小さなサイズに調整したミニギターモデルだ。

　ミニギターながら、内臓アンプだけでなく、コードでつなげば通常のエレキギターのように使用できる代物だ。音質も遜色ない。

　廉価版ながら、学生にはまだ厳しい値段だったが、バイト代をはたいて買ったものだ。

　『ロリロリなモデルでゲロゲロな曲を弾く』がモットーのモデルだが、ハードロックを弾くに相応しいと我ながら自画自賛した。

　明日は、パート打ち合わせと、セッションをして、狂いが無いか確認する。

　来週は、またスタジオでセッションだ。

　そういえば、学園祭の日時の打ち合わせもまだだった。

　そうだ、衣装も決めないといけない。

　そういえば、衣装と言えばビートルズは、デビュー当時の彼等のトレードマークと言えば、あのマッシュルームカット。

　当時は「男のくせに長髪にして女みたいに前髪を垂らしている」と言われ、エルビス・プレスリーの時代からあった「ロック＝不良」というイメージに、新たに「ロック＝長髪」というイメージを作り上げた。そんな彼等を真似た若者達が不良と呼ばれて親にしかめっ面されたらしい。

　三人のビートルズ講義のせいで覚えてしまった無駄な知識を思い出した。

　思いついたマリオの衣装を、明日提案してみよう。キノピオなら何人居てもおかしくないしかわいいと思う。　

　残り少ない期間でどれだけやれるだろう？

　まだまだ決めなくちゃいけないことは沢山ある。

　そんな思いを巡らせて、女性部員はベットに入った。