機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 失われた記憶を追い求める白き騎士
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泣き疲れて寝てしまったカガリの髪を撫でると、護衛の男━━アレックス・ディノことアスラン・ザラは静かに立ち上がった。睫毛に涙の残る寝顔は、まるで幼い子供のようだ。

疲れているんだろう━━と、アスランは痛ましい思いでその寝顔を見下ろす。

このところ、ずっと休む間もなく飛び回っていて、先日来のこの事態だ。カガリは努力している。だがその努力が報われることは余りに少ない。それが彼女を、そしてアスランをも消耗させる。

アスランはそっと部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。

それから少しして、エレベーターのドアが開くと、艦橋内のモニターにユニウスセブンが映し出されたところだった。

 

「“ミネルバ“との回線、開ける?」

 

「いえ、通常回線はまだ……」

 

ブリッジでのやりとりを聞きながらアスランが歩み寄ると、デュランダルが気付いて振り向いた。

 

「どうしたのかね、アレックス・ディノ君」

 

その声でタリアも気付いてこちらに目をやる。アスランはしばしためらった。これから自分が口にすることは、これまでの自分の心情を裏切るものだ。だが、彼は決然と口を開いた。

 

「無理を承知でお願いします。私にもモビルスーツをお貸し下さい」

 

その言葉でブリッジ中のクルーが、驚きの目で彼の上に集める。タリアは硬い表情のアスランを見つめた。その目には咎めるというより、かすかに苦笑の光があったが、彼女はすぐに明瞭な口調で答えを返す。

 

「確かに無理な話ね。((今|・))は他国の民間人であるあなたに、そんな許可がでると思って?━━カナーバ前議長のせっかくの計らいを無駄にでもしたいの?」

 

彼がアスラン・ザラであることを暗黙に認めた発言だ。その上で彼女は、余計なボロを出すなと言っている。彼がアスラン・ザラであるなら、軍人である彼女には脱走者である彼を拘束する義務が生じる。それを回避するためには、オーブの一市民、アレックス・ディノとして遇するしかない。

タリアの温情を理解しつつも、アスランは頑なに言い募る。

 

「わかっています。でもこの状況を、ただ見ていることなど出来ません」

 

これはカガリのため━━彼女の、そして((自分の|・・・))同胞でもある、地上で暮らす全ての人たちのためだ。アスランは深く頭を下げる。

 

「使える機体があるのなら、どうか……!」

 

「気持ちはわかるけど━━」

 

困り果てたタリアの声に、デュランダルの声が重なった。

 

「いいだろう。私が許可しよう」

 

あまりにあっさりと横から言われ、アスランはつい、そちらに目を向ける。デュランダルの切れ長の目が、笑みを含んで彼を見つめていた。

 

「議長!?」

 

「━━議長権限の特例として」

 

危ぶんで声をかけるタリアに、デュランダルはまるで自分の権能を楽しんでいるように言う。

 

「ですが、議長……」

 

タリアは再三の差し出口に、むっとした顔で言い返そうとしたが、デュランダルの反論にあって黙る。

 

「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多い方がいい」

 

デュランダルは柔和な笑みをたたえながら、冗談めかして言った。

 

「((腕が確かなのは、君だって知っておるだろう?|・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・))」

 

本当に、彼は楽しんでいるようだ。━━だが、何を?

アスランの頭を何故か一瞬、奇妙な不安がよぎった。

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『モビルスーツ発進三分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す。発進三分前、各パイロットは━━』

 

アナウンスの流れる格納庫を、パイロットスーツを着用した刹那はモスグリーンと白の機体、ガンダムデュナメス目指して飛んだ。

 

「破砕作業の支援っていったって、何をすればいいのよぉ……」

 

「多分、メテオブレイカーを設置する際に邪魔な障害物を除去するんだろうね」

 

赤いザクの前で技術スタッフと話し合っていたルナマリアに対して刹那はそう答えてやるとデュナメスに乗り込んだ。

 

「メテオブレイカーのない俺たちにできることは、それくらいだろうし……みんなもいいね?」

 

「わかった」

 

「了解」

 

「「おう!」」

 

シン、レイ、ショーン、デイルの順で返事が返ってくる。本来ならフェイスのハイネが励ますべきなのだろうが、そっちは刹那の方が得意だった。

 

『モビルスーツ発進一分前……』

 

ガナーウィザードからスラッシュウィザードに喚装したルナマリアの赤いザクウォーリア(速度は通常の三倍じゃないよ)。レイのブレイズウィザードを喚装したブレイズザクファントム。ショーンとデイルのゲイツR。ハイネは調整中のキュリオスに変わるオレンジカラーのグフイグナイテッド。シンはコアスプレンダーで待機、モジュールはフォース。そして刹那はトレミーの強襲コンテナ後部にあるGNアームズを装備する予定のガンダムデュナメスが準々にガントリークレーンでカタパルトへ運ばれていく。

そして━━

 

『通達。臨時のパイロットが1名、参加しするとのことです』

 

メイリンが通信越しにそう告げてきた。

 

『臨時のパイロットォ?』

 

デイルが怪訝そうに言う。すると通信用ディスプレイにその姿が写し出された。カガリと一緒にいた、護衛の男だ。

 

『アレックス・ディノだ。しかしみんなはもう知っているとは思うが、俺の本当の名はアスラン・ザラ。元ザフトレッドだ。訳あって姿を隠していたが、この事態にいてもたってもいられずデュランダル議長にお願いして加えてもらった。よろしく頼む』

 

アスランと名乗る男の挨拶に、ショーンはふぅん、と目を伏せて相槌を打った。

…………ところでアスラン・ザラってどんな人なんだろう?あとでハイネに聞いておかないと。その時、メイリンの声が慌ただしく事態の変化を告げた。

 

『━━発進停止!状況変化!』

 

刹那は不審を抱いて目を上げた。続いて告げられた言葉に、彼らは驚いた。

 

『ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!』

 

「アンノウンだと?」

 

イザークたちがユニウスセブンに向かっていたのは知っていた。だからこそここで現れるアンノウンにハイネは反応した。

 

『さらにボギーワン確認!グリーン二五デルタ!』

 

ボギーワン。つい先日取り逃がしたばかりの不明艦だ。その艦が何故ここに?まったく状況がつかめず、アスランがつい、声を荒げてメイリンに尋ねる。

 

『どういうことだ!?』

 

モニターの向こうにいるメイリンは困惑顔だ。

 

『わかりません!しかし、本艦の任務がジュール隊の支援であることは変わりなし!喚装終了次第、各機発進願います!』

 

対モビルスーツ戦闘。

思い掛けないことになったが、刹那は特に躊躇うこともなく機体をデュナメスからエクシアに乗り換えた。GNアームズtype−Dはそのままプトレマイオスに強襲コンテナとして発揮するよう指示を飛ばしていると、シンのコアスプレンダーと三つのユニットが一足先に発進していく。ブレイズウィザードがマウントされたレイのザクファントムも発進する。続いてショーン、デイルのゲイツRにルナマリアのスラッシュウィザードに喚装したザクウォーリアがそれぞれ発進する。発進前にルナマリアがアスランに何か言っていたようだが、特に気にすることでもなかったのでそのまま流した。

そしてとうとう刹那とハイネだけが残る。ユニウスセブンの落下阻止。出来なければ多くの同胞が死に、輸入に頼っているプラントはそう遠くない日に滅びることになるだろう。勿論、そんなことはさせない。そのために刹那はここにいるのだから。ランプがグリーンに変わる。刹那は進路の先をまっすぐに見据えた。

 

「刹那・F・セイエイ。ガンダムエクシア……出る!」

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かつてはプラントの一基として機能していたユニウスセブン。そこに辿り着いたエクシアとGNアームズはドッキング体勢に入った。GNアームズが慎重に、だが迅速に後背から接近してくる。戦闘機に似たGNアームズが変形を開始し、左右に突出している細長い盾状の装甲をそのままに、上下へと機体が展開していく。その中央にある落ち窪んだ擂り鉢状のへこみ……GNドライヴとの結合部分へエクシアが背中を押し込む。両脚がそれぞれ定位置に固定され、ドッキングが完了した。その姿は、エクシアが自機より二周りほど大きな重兵装のユニットを背負った━━あるいは、二周りほど大きな重兵装のユニットにエクシアが取り込まれた、ように見えた。GNアーマーTYPE−E━━エクシア用にカスタマイズされた兵装を持ち、エクシアとドッキングした後のGNアームズの正式名称である。左右に突出した細長い盾状のパーツは大型GNソード、その内側に左右に一門ずつGNビームガン、エクシアの両肩上部には巨大な砲口を持つ二門のGNキャノンを装備している。少し先を見れば、工作隊のゲイツRがカオスによって火球にされているところが映

されていた。

 

「カオス、それにアビス!」

 

シンが怒りを露わにしそうになるのを抑えながら奪われた二機を忌々しげに睨む。妨害しているのはジンハイマニューバ2型とカオス、アビス。だが後者の二機は少なくともジンたちの味方というわけではらいらしい。現に、二機はゲイツRにも攻撃を仕掛けていた。

 

「あの二機、今日こそっ!」

 

ルナマリアが威勢良く叫びながらカオスとアビスへと飛び出した。が、そのとき聞き慣れない声がルナマリアをいさめた。

 

「目的は戦闘じゃないぞ!」

 

一拍おいて、それがアスラン・ザラのものであることに気付いた。シンの中には苦いものが広がっていた。ザフトを裏切ってオーブなんかに逃げ込んだ奴が、我が物顔に自分たちの機体を乗り回し、あまつさえ指図しようとしていることに苛立ちを隠せずにいた。

 

「わかってますよ!けど撃ってくるんだもの!あれをやらなきゃ、作業も出来ないでしょ!?」

 

反抗的に叫ぶルナマリア。そこへハイネがプトレマイオスパイロット全員にまとめて回線を送った。

 

「よぅし、それならシンと刹那であの二機をやる。お前たちはジュール隊の破砕作業を手伝ってやってくれ」

 

「頼んだぞ、シン」

 

続けて開かれた回線の向こうにいる刹那から名指しで頼りにされて嬉しかった衝動を抑えながら、シンは「はいっ!」と返事をしてからルナマリアたちと分断して刹那と共に二機へと向かう。それを確認すると刹那は今度はアスランの方に回線を繋げた。

 

「アスラン・ザラ。かつてザフトではフェイスに任命されていたと聞きましたが、今のあなたはもう民間人です。少しは((ご自分の立場をご理解していただいて貰いたいです|・・・・・・・・・・・・・・))」

 

先ほどの指図はどう考えても民間人が軍人に対する態度としてはいただけないものだった。刹那はそれをアスランに指摘していたのだ。

 

「……すまない」

 

昔の癖が出てしまっていたのだろうが、あれではシンやルナマリアが不機嫌になる一方であった。

 

「あいつら……沈めぇ!!」

 

アビスがこちらの存在を認めると、すぐさまアビスの全門砲撃が放たれる。しかしインパルスは軽やかにかわし、GNアーマーTYPE−EはGNフィールドを展開して砲撃を受け止めた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

インパルスのヴァジュラビームサーベルがビームランスを構えていたアビスの右腕ごと斬り落とされる。斬り落とされた右腕は負荷に耐えきれず、そのまま爆発を引き起こした。

 

「アウル!」

 

「行かせるか!」

 

アビスの援護に回ろうと兵装ポッドを射出せんとするカオスにエクシアのGNライフルと、GNアーマーTYPE−Eのビームガンがカオスの足を止めた。

 

「ちいっ!」

 

カオスはモビルアーマーに姿を変形すると、GNアーマーTYPE−Eの死角へ向かう。もちろんGNアーマーTYPE−Eも急転しつつカオスを牽制する。

しかし、モビルスーツの二周りほどの巨体を誇るGNアーマーTYPE−Eでは小回りの利くカオスをいつまでも正面に捉え続けることはできず、とうとうカオスに背後をとられてしまう。

 

「へっ、貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

背後をとったカオスがヴァジュラビームサーベルを抜きはなってGNアーマーTYPE−Eに突き刺さんと接近してくる。もはや旋回しても間に合わないと判断した刹那は、GNフィールド展開のスイッチを押した。緑色に輝く光の粒子がカオスのビームサーベルを受け止めたのを視認すると、刹那はすぐさまGNアームズとのドッキングを解除し、GNフィールドの内側からエクシアがGNロングブレイドとGNショートブレイドでカオスの両腕間接部に突き刺して破壊した後、GNソードでメインカメラのある頭部を破壊した。

 

「ぐおおおおおおおおっ……!」

 

「流石だね刹那!」

 

見ればシンもアビスをダルマ状態にしてこちらにやってきていた。本当ならこのまま二機を取り戻したいところだったが、ボギーワンからモビルアーマーと連合のダガーであろうモビルスーツが出撃しているのを確認したことと、ユニウスセブンを最優先しなくてはならないという使命感がそれを阻害した。

 

「シン、カオスとアビスは諦めるぞ」

 

「わかった。今はユニウスセブンの方が大事だもんね」

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「にしても、普通ここまでする!?」

 

そのころルナマリアはというと、ファルクスG7ビームアックスでジンハイマニューバ2型を瞬く間に斬り捨てていたところだった。

やはり、誤射マリアには格闘をやらせた方が良さそうだ。

そこに刹那とシンも加わり、作業を妨害するジン部隊はさらにその数を減らしていく。

そして遂に、メテオブレイカーがユニウスセブンを半分に割った。

 

「ユニウスセブンが……」

 

「割れた……」

 

「けど、まだだ!もっと細かく砕かないと!!イザークさん、炒飯さん、援護します!」

 

感嘆の声を漏らしているショーンとデイルに通告すると、刹那は再びドッキングしたGNアームズでジンを薙払う。

 

「刹那にハイネか!助かるけどいい加減炒飯言うのはやめろ!」

 

炒飯こと、ディアッカ・エロ……エルスマンのガナーザクウォリアーが、オルトロス高エネルギー超射程ビーム砲でジンを火球に変えた。

残ったジンも次々と撃墜させていき、メテオブレイカーも徐々にユニウスセブンを砕き続けた。しかしそこへ、ユニウスセブンが不気味な軋みをあげてビリビリと振動を始めた。

 

「突入コースに入ったか……加速度的に落ちていくぞ!」

 

レイが険しい口調でパイロットたちに伝える。それとほぼ同時に、プトレマイオスから帰還信号が放たれた。先着隊も、ミネルバから放たれた帰還信号を見て離脱を始めた。

すでにユニウスセブンは幾片かの破片に砕かれていた。とはいえ砕ききれなかった部分は一辺数メートル以上の大きさを残している。確か直径二十メートル以上の物体は大気圏で燃え尽きることはないと聞いたことがあった。当初ほど壊滅的ではあるまいが、このままでは地上の被害は目を覆うものとなるだろう。

だがこれが限界だ。最後まで残って作業をしていたジュール隊の作業班も諦めて離脱をしていく。

帰還信号に遅れてレーザー通信が入った。送信先はプトレマイオスからだった。

 

━━本艦はモビルスーツ収容後、大気圏に突入しつつ、ミネルバとプトレマイオスの艦首砲による破片破砕作業を行う━━。

 

シンは艦長の決定に驚きつつも、少し安堵する。“タンホイザー“とGNキャノンでどれだけの破片が砕けるのかはわからなかったが、それで少しでも地上への被害は減るだろう。

もっとも、下方に散った破片はすでに、炎のように灼熱したガスに包まれていた。シンは見切りをつけて自分も離脱しようとする。

 

「あれ、刹那は?」

 

「え?」

 

視線を転じようとしたとき、ルナマリアがエクシアの存在が確認出来ないことに気が付き、シンは急いでエクシアの位置を確認した。GN粒子の影響で本来ならば通信もレーダーも使えないはずなのだが、プトレマイオスに乗艦している機体だけにはGN粒子の影響を受けないようにジャマーをかけてあるのだ。刹那のエクシアはジンの妨害で設置し損ねたメテオブレイカーを設置しなおそうとしていた。すでにGNアームズはハロに撤退させているようだ。

 

「刹那、帰還信号が出てるよ!早くトレミーに戻らないと!!」

 

シンは言いつつ、インパルスでエクシアに近づいた。

 

「分かってる、でも少しでも砕かないと地上が……」

 

「……手伝うよ!」

 

刹那の言葉にシンはインパルスで、エクシアの反対側からメテオブレイカーを支え、起こした。

位置を垂直に据えてから、スイッチを入れる。浸透用のドリルが作動し、爆砕用の弾体が潜り込んでいった。

 

「うおぉぉ!!」

 

「これ以上はやらせん!」

 

一条のビームがインパルスを掠め、同時にアラートが鳴り響く。驚いて振り仰ぐと、三機のジンがビームライフルを放ち、腰の刀を抜き放って襲い掛かってきた。あるものは足、あるものは腕を失い、破損していない機体は一機もなかったが、三機とも躊躇いも見せずに突っ込んでくる。

 

「こいつらっ、まだ……」

 

シンの頭にカッと血が上る。すでにビームライフルを失っていたが、彼女は背中からビームサーベルを抜き放ちながら、ジンに向かっていく。エクシアがGNソードを展開して素早く体勢を立て直す。

 

「我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!」

 

目の前に迫ったジンのパイロットのものだ━━そう気付いたときには、すでにシンの光刃はその銅をなぎ払っていた。

 

「娘……?」

 

勢いのまますれ違い、背後で爆発したジンを振り返ったシンは、唖然として呟く。

 

「まさか……血のバレンタインの……?」

 

“血のバレンタイン“

C.E.70年2月14日にザフト・地球軍プトレマイオス基地艦隊及び艦載モビルアーマー“メビウス“部隊の攻撃をモビルスーツ部隊によって迎撃し、これらを殲滅する。しかし、ルーズベルトに1発持ち込まれていた核ミサイ ルを搭載して発艦したメビウスだけは攻撃行動に成功し、これが今目の前に存在しているユニウスセブンに命中した。これにより24万3721名の人々が犠牲となり、コーディネーター強硬派の敵意と憎悪は頂点に達し、オペレーション・ウロボロスに代表される報復攻撃を招いたという。謂わば、前大戦が開幕した直接的原因である出来事だ。

 

「此処で無惨に散った命の嘆き忘れ……!討った者等と、何故偽りの世界で笑うか、貴様等はっ!?」

 

その糾弾はシンの胸に突き刺さった。

 

「軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった……!」

 

ジンのパイロットはなおも恨みの言葉を吐き出す。シンは攻撃することも忘れ、呆然と彼の言葉を聞いた。

━━この人たちは、ザフトの……?

どうしてこんな馬鹿なことを、なんでこんな酷いことを……?━━と、ずっとこの部隊に憤りと疑問を抱いていた。今、シンは悟る。

━━彼らには、ユニウスセブンを落とす正当な理由があったのだ……

 

「何故気付かぬか!」

 

ジンはしゃにむに打ち込みながら、叫んだ。

 

「我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそ唯一正しきものと!!」

 

(パトリック・ザラ……?)

 

確かプラント評議会初代国防委員長で自由条約黄道同盟ザフトの創設メンバーの1人であり、その前身、黄道同盟の創設メンバーでもある。プラントの国家主権獲得、ザフトの建設を主導した中心人物だったはずだ。シンも刹那も後に知ることになるが、このパトリック・ザラという男こそが、今回の破砕作業に参加していたアスラン・ザラの父親なのである。

 

「……それでも、無差別に人を死なせることが正しいことなんて、あるもんか!」

 

GNロングブレイドがジンの左腕間接に突き刺さり、続いてGNショートブレイドが右足間接を斬り裂いた。

 

「ぐうっ!」

 

「たとえそれが正しいことだったとしても……」

 

ジンのパイロットが怯んでいる中、エクシアは展開されていたGNソードを高々と突き上げる。

 

「罪のない人たちの命を無差別に奪うことは、よくないんだ!!」

 

振り下ろされたGNソードは、ジンの左半身から股関節までを切断した。

ようやく沈黙したジンに背を向けて、エクシアとインパルスはその場から離脱した。そして、インパルスとエクシアが帰還するのと同時に、デュランダルとステラを乗せたランチがボルテールに着艦したのだった。

僚機の着艦を認めたミネルバのタンホイザーとプトレマイオスのGNキャノンがユニウスセブンに向かって放たれる。

 

「フッ……撃つがいい……貴様達の欺瞞に満ちた平和のために!」

 

エクシアに切り刻まれたジンのパイロットの独白がコクピットに響き渡る。

 

「だが、覚えておけ!その一撃が穿つものは自らの心なのだということを!!」

 

タンホイザーとGNキャノンの砲撃に巻き込まれたジンは瞬く間に蒸発した。

その日、地上には幾千幾万もの流星が降り注いだ。

流星は多くの都市を消し去り、山河を刔り、幾千幾万もの人の命が奪われていく。しかし、宇宙から見たその光の明滅はまるでクリスマスのイルミネーションのように美しく煌めいていた。

プラントの人々には、これが新たな動乱の狼煙となる光だとは俄かには信じられない光景であった……。

説明
PHASE6 ユニウスセブン

春風にて限界突破のリミットブレイカーと名乗って 〜ISD〜インフィニット・ストラトス・ディメン ションを投稿しました。以後はそちらに書くので宜しくお願いします。
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