真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第二十二話
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麗紗side

 

 

「ん〜………こっちにはありませんね………。」

 

「…………。」

 

 

黙々と地図を探すふりをする私。

 

しかし、その心はひどく動揺していました。

 

 

そもそも一介の庶民でしかない自分が、現皇帝劉協様の傍にいるということだけでも奇跡に近いことだというのに、その上話しかけてもらって、今は一緒にものを探しているなどこれは夢なのではないかと錯覚してしまいそうです。

 

いや、もういっそ夢なのではないでしょうか…。

 

あの場には私以外にも人が居たと言うのに、何故私が選ばれたのか…。

 

一番暇そうにしていたからでしょうか…。

 

確かにあの中では一番暇であったと思いますが……。

 

それでも、一軍の将としてやれるべきことをやっていた……はず……。

 

 

「そちらはどうですか、麗紗さん??」

 

「ひゃい!!?? なっ…なんでしょうか、菖蒲様!!」

 

 

考え事をしていたせいで全然聞いていませんでした…。

 

一体、菖蒲様はなんと仰ったのでしょうか…。

 

 

「あの……そちらの方に地図はありましたかと伺ったのですが…。」

 

「あ…その……申し訳ございません。まだこちらの方では地図は見つかっておりません。」

 

「そうですか。ではあちらの方を探してみましょう……。」

 

 

そう言って菖蒲様は、前皇帝劉弁様より受け継いだという事務机を探すのは諦め、箪笥の方の捜索を始めた。

 

ふぅ〜と嘆息したところで、先ほどの考えに戻る。

 

が、自分の考えではこれ以上は無理だ。

 

もしかしたら本人に聞けば、案外と簡単に何故私を選んだのか答えてくれるかもしれない。

 

 

「……菖蒲様、そのままで…探し物をしたままで構いませんので、聞いて頂けませんか?」

 

「…はい?? どうかなさいましたか??」

 

「今こうして菖蒲様と一緒に探し物をしているわけなのですが、何故菖蒲様は私をお選びになられたのでしょうか??」

 

「……それは、どう言う意味でしょうか??」

 

「あの部屋には私以外にも多くの人がいました。この洛陽を治める月さんとは既知のはずですし、その軍師である詠さんとも顔見知りかと思われます。そんな方たちではなくどうして私をお選びになられたのか……是非ともお聞きしたく思います。」

 

「う〜ん………そうですね〜……。」

 

 

首を少しもたげ、頬に指を添えて考え込む姿はとても可愛らしく、菖蒲様に少し残る幼さと相まって女の私ですらも守ってあげたくなるようなそんな母性をくすぐる力がある。

 

そんな菖蒲様の姿に見とれながら次の言葉を待っていると、

 

 

「あの中で一番、手が空いていたからでしょうか。」

 

 

と笑顔で仰られた。

 

 

………えぇ、分かっていましたとも。

 

だから、落ち込んでなんかいませんよ……落ち込んでなんか…。

 

でも……それでも……!! 

 

私に何かしら特別な理由があったのではと期待したくなるのが人の性というものでしょう!!

 

落ち込み模様の私をみて、慌てて菖蒲様は言葉を続けられた。

 

 

「あぁ!! 嘘です、嘘です!!! 手が空いていたからというのも確かにあるのですが、一番大きいところは私に似ていると感じたからなんです!!」

 

「私が……菖蒲様に似ている……??」

 

「はい。麗紗さんは私ととてもよく似ていると思います。」

 

「………どの辺りが……似ているというのでしょうか……。」

 

 

そう言って菖蒲様の御姿を一瞥したあと目線を真下に下げる。

 

するとなるほど………年の若い菖蒲様と私の体つきは大して差はないではないか……。

 

確かに………似ているのかもしれない……。

 

でも……まだ……これからだもん………ぐすっ………。

 

 

「………いえっ…。そうではなくて……、まぁ、それもあったことは今謝りますが……。麗紗さんと私では立場が一緒ではないですか。」

 

「立場……ですか……?? そんなもの、私と菖蒲様では天と地ほどの差があると思われますが……。」

 

「いえ……あなたも私も……妹という立場では一緒ではありませんか……。」

 

「…………それは……そうですが……。」

 

 

正確には、菖蒲様は本当に血の繋がった兄妹であり、私は全くの他人ではあるのだが……。

 

 

「妹として、出来る兄を持つと誇らしい反面、何も出来ない自分に嫌気がさす……そんなことはございませんか?」

 

 

笑顔で問いかけられた言葉に、私は驚愕の表情を浮かべた。

 

私の心の中を的確に言い当て、そしてその上で自分と同じであると言い放つ菖蒲様の慧眼に心底驚いたのである。

 

 

「麗紗さんも随分と苦労なされているのでしょう?? 何か自分に出来ることはないかと必死に右往左往しているのではないですか??」

 

 

菖蒲様の言葉は私の胸に深く深く突き刺さる。

 

そうだ、私はお兄ちゃんのために何ができるのだろうか……。

 

 

「……一旦その考えはお捨てになった方が良いですよ。高みを望んでは地べたに足がつきません…。」

 

「で……ですが!! 私も彼の役に……!!?」

 

「今は自分に出来る事だけをしっかりとこなすことが、次の一歩につながります。かつての私の様に、焦って何かをなそうとしてもそう上手くはいかないものです。ならばこそ今は、じっとその時を待つしかないのではないでしょうか。」

 

 

菖蒲様の言葉はまさにお兄ちゃんが言っていたものと同様であった。

 

そのまま、菖蒲様は話を続ける。

 

 

「かつて私も、兄の様になりたくて必死になっていた時期がありました。そんな時に、聖お兄様に言われたのです。『君は一体誰だい?』と……。衝撃的でした………。聖お兄様が頭を強打して記憶を失ったかとさえ思いました。しかし、困惑する私に彼は優しく語りかけるように言いました。『菖蒲は菖蒲、兄は兄だろ?? 同じようにやろうとしたって必ずどこかで違ってくるんだ。ならば、その人にしか出来ないことをやる方が十分に有意義であると思わないか??』と。その一言で、私の考えは大きく変わりました。兄のようになるのではなく、兄に出来なかったことを私に出来る範囲ですることで、私もまた兄と同等の評価を受けるのだと……。」

 

 

しみじみと、その時を思い出すかのように一言一言を噛み締めるように話す菖蒲様。

 

私はその言葉たちが胸にすっと溶け込んでくるように感じました。

 

万人に適応する物差しなどない。

 

あるのは、その人を評価する人間の個別的な物差しであり、ひいてはその人の価値観というものに左右される。

 

私たちの主は、その価値観とはその人個別の能力で図るべきで、同じ仕事をやらせることで優劣をつけるべきではないと言っているのだ。

 

…………やはり……変わっている……でも……だからこそ……彼なのだ…。

 

 

「………ふふっ。なにやらスッキリされたみたいですね……。」

 

「……はい。こんな簡単なことを迷っていた自分が恥ずかしいです。菖蒲様、ありがとうございました。」

 

「お礼を言われる筋合いはありませんよ。全て聖お兄様の受け売りですから。」

 

「しかし、私を気にかけてくれたのは菖蒲様ですので…。」

 

「そうですか…。では、一つお願いを聞いてください。」

 

「はっ…。なんなりと…。」

 

 

お願いとは一体何だろうか…。

 

私に出来る範囲のものであればなんでもするが……。

 

 

「麗紗さんを、今後お姉様とお呼びしても……よろしいですか?」

 

 

頬を僅かに朱に染めて恥ずかしげに語る菖蒲様。

 

斜め上からのお願いにしばらく反応できない私。

 

 

「あの……ご迷惑でしょうか…??」

 

「いえ……その……急な話に頭がついていかなくて……。え〜っと……何故私を姉と呼ぶのでしょうか??」

 

「はい。麗紗さんは私よりも早く聖お兄様の妹でありましたので……歳も私の方が下ですし、お姉様とお呼びする方が正しいかと……。」

 

「…………。」

 

 

果たして、皇帝からこのような頼み事をされた人がこれまでにあったであろうか…。

 

もし居たというのなら、どのように対応したのか教えて欲しいものである。

 

だが一方で、私自身この提案を嬉しく思っている節がある。

 

今まで頼ることしか出来なかった自分を頼ってくれる人が出来ると言うのは、なんだか認められた気がしてむず痒い。

 

これだけ出来る妹を持つということは、姉としては苦労するかもしれないが、それはそれで姉冥利に尽きるというものだ。

 

 

「……分かりました。菖蒲様のお好きなようにお呼びください。」

 

「はい!! 麗紗お姉さま!!!」

 

 

ぱっと花が咲いたように笑うその笑顔を、姉として今後は守っていくのだと、その時の私は心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

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〜聖side〜

 

 

「ふっ!!! はっ!!!!」

 

 

連続で放った斬撃を、布を翻すかのようにふわりとした挙動で、しかし巧みに左慈はかわす。

 

この戦いが始まって既に一刻。

 

お互いに手数を放つも、決定的な一撃を決めることが出来ないまま勝負は長引いていた。

 

しかし、対峙している俺には分かる。

 

奴はわざとこの戦いを長引かせている。

 

これだけの闘気を発することが出来るやつがこの程度のわけがないからだ。

 

何か目的があるというのか……。

 

 

「でぇぇぇぇやぁ〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」

 

 

左から右に胴を一閃するように磁刀を振り抜くが、手応えは残念ながら感じなかった。

 

 

「ふふふっ……。どうした御使い? お前の力はそんなものか!?」

 

「……はぁはぁ。けっ!! 直ぐにその口を塞いでやるよ。」

 

「ほうっ……。口だけは元気なようだが、息があがってるじゃないか。額に汗も浮かべたその姿がお前の限界を如実に表していると思うが?」

 

「………じゃあ、見せてやるよ…。天の御使いの力の片鱗ってやつを…。」

 

 

すぅ〜と深く息を吸い込み、腰を落とすと同時に愛刀を鞘に納刀する。

 

奴と俺との距離は5歩程度。

 

この間合いなら問題はあるまい。

 

この技をお前は避けることが出来ずに終いだ。

 

これで、決める!!!!!!

 

 

「はぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

裂帛の気合とともに俺の最速の抜刀術を放つ。

 

かの剣士が作中で使っていた、あの最速の抜刀術を……。

 

俺の動きに対して、奴は少しも動かない。

 

よしっ!!! とった!!!!

 

鋭い金属音と共に鞘から奴の脇腹目掛けて放たれる剣戟。

 

その剣戟が、あと10cmで奴の脇腹に当たるといったその瞬間。

 

 

ガキンッ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

「っ!!!!!」

 

 

鈍い金属同士のぶつかる音と共にその動きは止まってしまう。

 

見ると、俺の刀は奴の靴によって受け止められている。

 

まさか!!? 見切られたというのか!!!

 

 

「くっくっくっ………はっはっは〜!!!!!!!! どうした!? 力の片鱗っていうのを見せてくれるんじゃないのか!? それとも、今のが全力か? だとしたら遅い!!! 遅すぎる!!!!」

 

 

「…………ぐっ!!」

 

 

もしかしたら、全力で技を出せていなかったのかもしれない。

 

この技は出すのに自身の体に大きな負荷をかける。

 

ましてや、片腕を怪我している現状では無意識下でどこか動きをセーブしていたのかもしれない。

 

それなら奴に止められるのも納得が出来る。

 

そうだ、そうに違いない!!!!!

 

………いやこれは………そうであって欲しいと言う俺の願望………か……。

 

 

「………ふっ、今の貴様の顔に色濃く浮かぶは絶望……自身の最速の攻撃を防がれ万事休す……大方、今の貴様の心は動揺と焦燥感で満たされているのだろう……。そんな乱れた心でこの俺を倒すなど、万に一つも出来やしない!!!」

 

 

……………悔しいが、奴の言うとおりだ。

 

俺の心は今、動揺と焦燥感で満たされている。

 

くそっ!!!! 何か手はないのか!!!!

 

こちらの思考を嘲笑うかのよう、左慈はこちらを見下すような表情のまま言葉を続けた。

 

 

「このまま貴様を殺しても良いのだが…………まぁ、今回は足止めが本来の任務だからな。しかし、十分な時間稼ぎにはなっただろう…。」

 

 

その言葉に、やはりかと俺は納得しつつも疑問を呈さずにはいられない…。

 

 

「時間稼ぎ………だと……?? お前らは一体何を企んでやがる……。」

 

 

素直に答えてくれるとは思わないが………。

 

 

「…………企みを暴露してやるほど俺はお人好しではないが………まぁ、知ったところでどうしようもない貴様に教えるのもそれはそれで一興か……。」

 

 

不気味な笑みを浮かべる左慈。

 

その姿をみて、俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

 

 

「俺たちの今回の目的は、この漢王朝を滅ぼすために皇帝である劉協を暗殺すること。その為には、傍にいるかもしれない貴様を引き離し、押さえつける必要があったのさ。今回の俺の役目がお前を押さえつけることなら………頭の回転の良い貴様ならこの後の事も用意に想像がつくだろう??」

 

「……っ!!!? 俺を練兵場まで連れてこさせたのも罠の一つだというのか!!! このままじゃ、菖蒲たちが危ない!!!!」

 

「そろそろ向こうは向こうで始まる頃だろう。一方的な殺戮ショーが………ふふふっ……はっはっはっ〜!!!!!!!!!!」

 

 

高笑いをあげる左慈を前に、俺は後悔の念に苛まれていた。

 

あの時練兵場になど行かずにずっと護衛についていれば……。

 

こんなことを言ったところでたらればであることは分かっている。

 

悔しさと自分への怒りをぶつけるアテがなくて、俺は力一杯に握られた拳を地面に打ち付けた。

 

……………その瞬間だった。

 

 

「………らしくないわね。漢なら、何があっても最後の最後まで諦めることは許されないのよ。そして、それが天の御使いだと言うのなら尚更に!!!!!」

 

 

一陣の風が吹き抜けたかと思ったその時、

 

 

「ぶぅぅぅるるるぁぁぁぁああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

獰猛な叫び声と共に何かが左慈にぶつかっていった。

 

その勢いを殺すことが出来ず、反対の壁側まで吹き飛ばされる左慈。

 

一瞬何が起こったのか理解が出来なかったが、直ぐに左慈にぶつかった何かについて見極めようと凝視する。

 

巻き起こった砂塵が晴れる中、その中心にはおさげでピンクのビキニを下だけ履いた筋肉隆々な変態が、サムズアップして立っていたのだった。

 

 

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弓史に一生 第九章 第二十二話      真実  END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

 

本当にお待たせしてしまってすいませんでした。

 

説明にも書きましたが、6月は忙しくて書いている余裕がなかったのです。

 

決して皆さんを焦らすために行ったわけではありませんよ??

 

 

 

さて、今話はいかがだったでしょうか。

 

菖蒲様が麗紗を誘った理由は、暇そうだったからと昔の自分に似ていたから……。

 

なんでも出来る兄の様になりたくて努力して、でもなれなくて苦悩していたかつての自分の様に……。

 

だからこそ、麗紗にはそんな道を通って欲しくないと考えて、話す機会を探っていた……というところでしょうかね……。

 

まぁ、少しシリアスな空気が和んだのはご愛嬌ということで……。

 

 

 

そして、左慈と聖の方には謎の筋肉オバケが!!!!!!

 

………まぁ、皆さん分かりますよね……。

 

今後どうなるのかは次話に期待ということで!!!!!

 

 

 

次話ですが、早くても7月中、遅くても一ヶ月以内には投稿したいと思います。

 

それまで少しお待ち頂けるとありがたいです。

 

それではまた次話をお楽しみに!!!!!!

 

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

投稿が一ヶ月半ぶりになってしまったこと、本当に申し訳なく思います。作者の方で6月は忙しい時期であったがために書く余裕もない状態でして……。

7月に入って少しはマシになったので、最新話の投稿になんとかありつけたという状態でございます………。
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