義輝記 蒼穹の章 その二十六
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【 司馬懿、死すとも…… の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

稟「…………自刃して果てるとは……」

 

稟が眼鏡をかけ直し………司馬懿の遺体を注視する。

 

詠「いえ……油断は禁物よ! 誰か生死を確認しなさい!」

 

禁裏兵「はっ!」

 

詠は……司馬懿の自刃が偽装ではないかと疑い……禁裏兵に確認を命ずる!

 

風「…………ん〜〜〜、何か腑に落ちませんねぇ〜?」

 

風は………何か引っ掛かるらしく………何度も首を傾げる。 そのたびに宝ャが、必死に落ちないように髪の毛に掴まっている!!

 

洛陽の軍師勢は………それぞれ思いを巡らす。

 

洛陽の軍師勢の共有する認識『あの司馬懿(久秀)が……死んだ?』の疑問。

 

確かに……少し離れた先で……久秀が果てた! 短剣が根元まで刃を差し込むのを見たのだ!! 現状況も……出血も半端な量でなく、久秀の上半身を赤く染め続けている。

 

状況から見れば……間違いは無い! 

 

だけど……どうしても信じられない! 

 

数々の策を繰り出し……多くの将兵を煙に巻いた奇才の最後。 

 

あれは……本当に……『死んだのか?』………と。

 

………………

 

間もなく…………久秀の遺体を確認した兵が戻ってきた。

 

報告の答えは………『遺体に脈は無し! 呼吸もしていない! ……間違いなく司馬懿──お前は既に死んでいる!!』

 

何故か……司馬懿に指を差して……宣言していた。

 

…………………

 

詠「疑心暗鬼……杯中の蛇影……半信半疑……! 

 

あぁ───もぅ!! 生きて居れば生きているで、対抗策を考えなきゃならないのに!  死ねば死んだで、その生死を疑うハメに……どこまで人を苦しめるのよ!! あの女は〜〜〜!!!」

 

風「それだけ有能だった………と言うことですねぇ?」

 

稟「悔しいですが………その通りとしか言えません。 ですが……ここで、論議を繰り返し、時間を費やす暇はありませんよ! 死が確認出来れば……遺体を纏め……それなりに処置しなければなりません!」

 

風「先程の兵士さんに命令して、松永久秀……もとい『司馬懿』さんの遺体を別の場所に移させましょうー!」

 

詠「─────禁裏兵! 筵を用意して司馬懿の遺体に被せ、遺体を守備せよ! 敵は来るか分からないけど……狼や野犬が、死臭を嗅いで来るかもしれない! 人数を集めてから……行動するのよ!!」

 

禁裏兵「はっ!」

 

稟「では、私達は───政宗殿達に、孫呉の状況を尋ねましょう! 後……周辺に斥候を放ち状況把握! それから……敵味方の損害、論功行賞、被害の掌握、兵士達の慰撫等………やる事が目白押しですよ!!」

 

風「ではでは〜風は、その中で最優先の〜睡眠を────ぐぅ」

 

稟、詠「「 起きなさい!! 」」

 

風「おおぉう!! 何故邪魔を────!?」

 

稟「一人だけ………休んでいるなど狡いですよ! 三人でやれば早く終わるんです!! 風も頑張りなさい!!」

 

詠「私だってね〜! 月の事……心配なのよ! だけど、仕事投げ出して行けるワケないじゃない!! そんな事すれば……月に思いっきり叱らるわ! だから─────貴女も手伝いなさい!!!」

 

風「確定事項のようですねー。 大事な睡眠の為……頑張りますかねー!」

 

三人は連れ立ち………本陣へ戻る。

 

月は元より翠や白蓮、華雄、白馬義従達も……本営に既に戻っていた。 

 

 

◆◇◆

 

【 ……久秀は死せず! の件 】

 

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

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ーーーーーー

 

軍師達が去った後………終わりを告げるかのように……日が落ちる。

 

朝から始まった………この大戦も………多くの者が戦渦に巻き込まれ……嘆き苦しみ……明日を託して………亡くなった。 

 

周りは……ゆっくりと夜の帳が下りる。 様々な戦渦の跡を……一時的に闇に隠し……凄惨な出来事が……まるで無かったかのように……。

 

 

 

────────

──────

────ストッ!

 

日の本では………この時間帯を『逢魔が時』と呼ぶ。

 

魑魅魍魎が跳梁跋扈する『魔が蠢く時間帯』──────。

 

 

司馬懿……松永久秀の遺体の傍に、どこからも無く一人の少女が降り立つ。

 

 

順慶「…………何時まで寝ていますの? 早く起きて下さい! 警備兵が此方に向かって来られると、厄介ですわよ!?」

 

官渡に向かった『筒井順慶』が……この地に戻り……久秀の遺体に声を掛ける。 普通は……遺体に声を掛けて返事をする事は……無い。 

 

稀に……怪談話や生き返った方の話とか……あるかも知れないが…………。

 

??「………五月蠅いわね。 人がいい気持ちで寝ていたのに」

 

筵の中から……両手両足が伸びて……『ポキッ』『パキッ』と関節が鳴る音が聞こえる。 「ウ〜ン! よく寝たわ〜!」などと……のんびりした声も………。

 

順慶「早くなさい! 何で……私が貴女の母上様のように、起床を促さなければならないのですか!! あぁ〜! もうぅ〜早く早く早くぅ!!」

 

莚に被せていた遺体が動き出し………上半身が起き上がる。

 

久秀「………大丈夫よ。 禁裏兵の大多数は敵前逃亡で不足気味。 西涼勢や白馬義従達は援軍故、それ以上の拘束は無いから、手持ちの兵で行うしかない。 洛陽まで呼びに行ったか……やりくりして集めているか………。

 

どちらにしても……刻は稼げるわ……ウ〜ン!!」

 

『生きている』久秀は、両手を天に伸ばし………背骨を伸ばす。

 

順慶「…………それなら……宜しいですわね。 ──って! そのお召し物の汚れは! ………えっ? 久秀、貴女の胸……片方腫れていますわよ? どうしたのですの?」

 

順慶が久秀の血みどろの衣服を指摘した際、違和感があった! 久秀の豊かな胸が………片方縮んでいる?

 

いや……順慶の言い方だと……久秀の胸は……元々大きくない…………?

 

久秀「惨い言い方ねぇ……順慶。 久秀は……貴女の貧乳より元々あったのよ。 ほらほらぁ!!」プルン

 

順慶「う、嘘ぉ!! ひ、久秀に唯一確実に勝てる要素が……! こ、こんなもの……詰め物か何かですわぁ───!!」 ギュウ〜、ムニィ〜

 

久秀「ちょっと──止め、止めなさ──!! きゃぁ!」パァーン!

 

順慶「えっ!?」

 

久秀の衣服が………更に真っ赤に染まる…………。

 

久秀「うえぇぇええぇぇ─────!!!」

 

………………………………

………………………………

 

久秀「───順慶! 久秀の衣服がベトベトじゃ無い!! この『鶏の血』結構生臭いのよ!! どうしてくれるの!!!」

 

順慶「ふ、ふん! 自業自得というモノですわ? (あぁ〜良かったですわぁ!! 殿方は胸の大きな方を好むと聞きますし……)」

 

久秀「………順慶。 胸の大小など関係ない! そんな物は……ただの脂肪! 大事なのは……どの『おなご』を気に入るのか……いえ、調教を施して、久秀だけの命令に応えてくれれば……いいだけなの!」

 

順慶「くっ! 人の心を勝手に読まないで下さいまし!! それに、颯馬様は私だけの物ですわよ!?  

 

────勝手に所有物の権利、主張しないで頂きたいですわ!」

 

 

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久秀の策  《 偽殺空蝉の計 》

 

今回………術の連続使用が多かった為、策が失敗した時に使えるように偽装計を用意周到に準備………それが役に立った。 

 

久秀の胸に革袋に入った『鶏の血』を用意。

 

脇差しは……刃は無論ついていない。 しかも……当たれば中に引っ込みバネ仕掛け式。 ただ、先が少し出るため、そこで革袋を破る。

 

口からの血は、白蓮に問い掛ける事で……人の目が白蓮に集中させ、鶏の血が入った小さい革袋を口に含む。 折りを見て噛むと…血が流れる。

 

心拍が止まっていたのは………左慈より教わった『超人一〇二芸 仮死の芸』を利用し、仮死状態になった。

 

後に、別の遺体と入れ替わり……逃走時間を稼ぐ。

 

▼△▲  ▲△▼  ▼△▲  ▲△▼

 

久秀「………で、折りを見て、逃げ出そうとしていたのだけど……まさかね。 順慶が迎えに来てくれるなんてぇ………ふふふ」

 

順慶「あ、貴女が来てくれませんと、私一人では颯馬様の策を破れませんわ! だから、仕方無く………ちょっと! 聞いてるのですかぁ!」

 

久秀は口に手を寄せ、コロコロと笑い……順慶は顔を真っ赤にさせ……理由を説明するが……相手にしてくれない!

 

久秀「でも………礼を言わせて頂戴。 今の久秀は………術が使用過ぎて……力が足りない。 逃げ切れるか……分からなかったのよ………」

 

順慶「久秀……………」

 

ーーーーー

 

その後、順慶から顔を背け………夜空を見上げる…………。

 

まだ………日が明るいが……星が幾つか見える。

 

………久秀の目に………涙が…………浮かぶ。

 

久秀( 術の多用……怒りと嫉妬に任せ過ぎたわね。 久秀の命数……一年持たないかも……。 後悔先に立たずとは……よく言ったものね?

 

別に……自分の命数が……星を眺めたって……分かる訳じゃない。 だけど……久秀の力が………生命力が……弱くなってるのは分かる。 

 

颯馬………。 久秀は……颯馬という星に集まる事……出来ないのかな? )

 

ーーーーー

 

順慶「……私も礼を伝えて無いですわね! 先に逃がしてくれて………」

 

順慶の言葉に振り返る久秀。 

 

先程の乙女の顔は……消え失せ……相手を嘲笑う『何時もの久秀』の顔に戻る。 順慶には……自分の弱音を気付かれないように、毒舌を吐いた!

 

久秀「何を『しんみり』しているの! 適所適材! 三人も洛陽に名軍師が揃っているのよ? 貴女じゃ……まともに戦う事も出来なかったでしょうに!! そろそろ……見張りが戻ってくる頃! 逃走の準備なさい!!」

 

順慶「ひ、人が珍しく感謝しようと『あらっ、久秀には感謝の言葉より、その働きで示して貰った方が嬉しいな!』 ─────久秀えぇぇぇ!!!」

 

◇◆◇

 

【『死司馬嗤生将兵』 の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

 

後に────見張りの兵達が来て……確認したところ、司馬懿の遺体が無くなり………大騒ぎになった!!

 

司馬懿の…………松永久秀の遺体が消えた!? 生き返った? どこへ? どこへ!? 洛陽の中は……蜂の巣をつついたような騒ぎになった!! 

 

ーーーーーー

 

詠は…自分の判断に油断があった事を後悔し……己を責め続ける!

    

月「詠ちゃん………! あんまり自分を責めると……身体に………」

 

詠「分かってる! 分かってるけど! ……どうしても悔やむのよ! アイツの恐ろしさは対戦して……初めて分かった! アイツを世に解き放すと手に負えない……! あの千万一遇の機会を無駄にした事……どうしても!!!」

 

ーーーーー

 

稟は……久秀の策を完膚なきまでに破るつもりで、軍学書を一から学び直している。 あまりにも熱心に勉強するため……鼻血を出して倒れる事もしばしば。

 

稟「今度こそは、松永の策を読み切り……打ち破ります! ここの陣営に加入出来た事……今ほど喜ばしいと思った事はありません!! これほどの強敵と頼もしい味方の中で策を振るう! ………軍師冥利に尽きます!!」

 

ーーーーー

 

風は…………睡眠時間を増やした。 

 

風「風は……どうせ影が薄いんですよぉ〜! 忘れられてても……仕方ないんですよぉだぁ──────ぐぅ」

 

おっと……『ふて寝』をしているようだ。

 

★☆☆

 

久秀が自分の偽死まで利用した……恐るべき謀。

 

最初……順慶が───代わりの遺体を用意しようとすると、久秀は止めた。 

 

久秀「そのままにして置きなさい………その方が効果が高いから。 さ〜てぇ『  死セル久秀ガ生ケル者達 』を……何人動かせるかな?」クスクス

 

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《 死セル仲達 生ケル者達ヲ 嘲笑ウ  》

 

数々の実績を挙げた『司馬懿』の名を持つ者が………姿を消す。

 

 

 

─────生きているのか? 

 

 

死んでいるのか─────? 

 

 

 

実際に見た将兵は………口を揃え『死んでいた!』と言うだろう。 

 

しかしながら、話を聞いただけの者達は………違う。

 

《 袁紹から袁術に鞍替えするが、最後まで袁家に仕え、大陸の大部分を敵に回しながら、その知謀と統率力で勢力を拡大! 最後の戦いで、運命を悟り、敵に捕縛される事を潔くないとして、自刃の道を選んだ孤高の謀将!! 》

 

洛陽勢の兵や民も……上記のように捉え、司馬懿の評価は割りと高かった。 

 

そんな司馬懿だから……物的証拠である『死体』が無いという事に……その最後を見ていない兵や民が……納得いかなかった。 

 

─────────納得出来なかった! 

 

 

 

『 あの知謀の溢れる謀将が………死ぬはずは無い!!! 』

 

 

 

最初は………判官贔屓の噂だった。

 

『司馬懿が生きていたら………こうなっていった!』と《もしかしたら……》の架空世界の話。

 

 

 

しかし…………上部の将の変化にも……兵や民達の不安を掻き立てた! 

 

 

 

『 本当ハ………生キテイル! 洛陽ヲ────狙ッテイル!?』

 

 

 

それが………疑心暗鬼を生み出し……混乱を生み出し……洛陽全体が麻痺してしまう結果を引き起こす!

 

例を挙げれば……『司馬懿が洛陽に侵入、皇帝陛下の暗殺を謀った』とか『司馬懿が洛陽を攻め立て、火の海に変える!』 ──果ては『天城颯馬争奪戦に参戦』等噂が流れ……混乱に因る被害を齎した!

 

そして被害は広まり……税収の減少、治安警備の悪化、外交等の不手際を発生し、大陸全体にも少なからず影響を与える事となったのだ!!

 

 

 

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あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

久秀が死んだと思われた方………いらっしゃれば………久秀の策に嵌まったと言う事で笑って許して下さい。

 

戦極姫を知ってる方には分かるように、前作の部分に久秀の体型の変化を書いてみたのですが……わかりましたでしょうか?

 

こんなワケで、久秀は最後まで颯馬の敵として……居てくれる予定です。

 

また、よろしければ読んで下さい。

 

 

 

…………で、十年後の話。

 

あくまで……この話の中での結末であり……作者の妄想と未熟さとコメントいただいた方達の意見を参考にして……創作した世界です。

 

後、本編もこの結末になるかは……定かではありません。

 

書いた事が……あまりない……恋物語?ですので……自信なんか……これっぽっちもありません! こちらも、よろしければ……読んで下さい!

 

 

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【 絆で祝福されし者達 の件 】

 

? 司隷 洛陽周辺 にて ?

 

 

私と田国譲が……二人して厳綱の墓参りに来ていた。

 

洛陽内で………今も語り継がれる大戦《 洛陽の野戦 》 

 

偶に『洛陽の奇跡』とか……言われる事があるが………何とも恥ずかしい。

 

前半は稟達軍師の活躍が大きく、後半は……私より亡き厳綱の貢献の方が有名なのだ……。 

 

白馬義従達は、私の献策も、もっと評価されるべきだと言ってくれている。 

 

しかし、私としては……有名になって堅苦しくなるより……何時もの生活を送れる方が…………幸せだ!! 

 

 

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《 白蓮 回想 》

 

 

………あの戦いのあった日から……

 

私と白馬義従達は………大陸が平和になった年より、一年に一回、皇帝陛下に挨拶と一年の報告を奏上している。

 

その後……田国譲と古参と新人の白馬義従達を伴い……厳綱の墓参りに参拝するのが……恒例の行事となった。 

 

古参の者は………早く別れた友に涙し、今後の誓いを新たに明日を目指す!

 

新人の者は………偉大な先人の生き様に無言となり……自分の将来目指す人として心に刻む!! 

 

何度も……何度も……見てきた光景。 

 

白馬義従達の中で……『兄貴』と慕われた威光は……今も変わりはない。

 

 

( 厳綱「白蓮様や白馬義従隊に─────栄光あれ!!!」 )

 

 

……最後に見せた生前の勇姿を思い浮かべ………………密かに涙を拭いた。 

 

私と白馬義従達にとって………聖なる場所なのだ。

 

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白蓮「…………あれから、十年かぁ! つい、昨日のように思うよ!」

 

私は……ワザとらしく明るく話す。 

 

……何時までも……引きずってはいけない! 

 

平和な世を守り抜く為には……前を向いて行かなければ…………!!

 

国譲「そ、そうですね…………あははは………」

 

国譲が、私の隣に立ち………顔を赤らめて……苦笑する。 

 

──? 毎年の事なのに何を恥ずかしがっているのやら。 

 

 

****************

 

《 白蓮 回想 》

 

田国譲は……十年の歳月の中……白馬義従の中で一番変わった。

 

始めは女の子にしか見えなかった奴なのに……背も伸び、声失も低く、身体も逞しくなり──今では、立派な青年にしか見えない!

 

しかし──私の前では、ごく稀に昔の状態に戻る。 無論……性格がな。

 

あの誓いの後───軍師の勉強を始め……颯馬に直接教え請いて師事、今では『御遣い唯一の弟子』として、大陸中に名が広まっている。 

 

それに、実戦にも何度か立案し、颯馬の弟子として………恥じない奇策を編み出し……なるべく……失う命を敵味方問わず……少なめに済ましている。 

 

誉めると……『颯馬様の信念でしたから』と言葉少なめに……顔を俯く。

 

そうそう、白馬義従達も鍛錬を重ね……久秀の言っていたような死の別れは、厳綱一人で済んでいる。 

 

古参の兵も……白馬義従に残る者、他国に招かれて去って行く者、在野に下る者と散り散りになったが……一年に一回……どこに居ても、厳綱の墓参りに必ず参ってくれるらしい。 

 

厳綱の残してくれた物の偉大さに…………頭が下がる。

 

****************

 

 

私達………二人は、墓参りに向かう。 

 

途中まで馬で行き……歩きで墓を目指す。

 

国譲は片手に水桶、私は……『モリンホール(馬頭琴)』を持ってきた。

 

洛陽に来た際、初めて見かけ………逸話を聞いてから一緒懸命練習した。 少年と白馬の出会い、急な別れ、それでも魂の絆の深さを知り、私も習おうと思ったのだ! ふと……白馬義従に重なったから………。

 

練習には、白馬義従達に頼み……稽古を積んだ。 それも──この日の為。 

 

下手な演奏では……厳綱に悪いし……白馬義従達には、何回も聞かせる事は出来るが……厳綱には……こういう機会だけだからな。

 

白蓮「今回は……白馬義従達……お前以外全員後から来るなんて……どういう事だ!? 今年は、厳綱が亡くなって十年! 大規模な宴を施し……皆の無頼を慰めようと思っていたのに………」

 

国譲「す、すいません! 白蓮様!!」

 

私より頭一つ高くなった背を、一緒懸命、縮こませて謝罪をする。

 

 

 

**************

 

《 白蓮 回想 》

 

むぅ〜〜、………………何だか腹立たしい! 

 

やはり………私と二人だけの墓参りは……嫌なのか?

 

関係無いが……国譲は女性の好意に鈍感だ。 

 

師の颯馬が……そうだったが……女性に優しくして、好意を自分に向けさせるが……その好意を見抜け無いため、何時までも進展しない。

 

偶に……告白される事もあるらしいが……思いを寄せる女性がいると言って、丁寧に断るらしい。 全く………その女性が……羨ましい……って、何を考えているのだ私は!!

 

………………………………

 

あの頃の国譲は、可愛くて弟のような、妹のような不思議な感覚があった。

 

………いつの頃か、国譲が成長して……『成果を挙げました!』と嬉しそうに報告に来ると、私も嬉しくなって有頂天になったり、『失敗を起こしてしまいました……』と、悄げ返る(しょげかえる)と、私も辛くなり……他の者に余計な心配を掛けさせてしまう…………。

 

…………まぁ、私のような『普通』で年上の女性では、国譲も嫌がるだろう。

 

国譲に言い寄る女性も……私より遥かに若く、可愛く思える者が散見できた。

 

こんな報われない思いは……あの世まで持って行き……厳綱と酒の肴にして酌み交わしながら………愚痴を吐かさせて貰おうか…………。 

 

こういう時は……お前の性格が羨ましいよ……………桃香。

 

**************

 

★☆☆

 

 

国譲「あっ……つ、着きましたね!」

 

白蓮「……国譲、お前……どこか調子でも悪いのか? 悪ければ、先に帰っても………『 全然、全く、大丈夫です! はいっ! ……ぁぅ 』 ……それならいいが…………」

 

 

私達の目の前に……陵墓がある。 

 

でも…………こんなに立派だったかぁ!?!?

 

確か………昨年、来た時は土饅頭だけで……何もなかったぞ? 

 

それが………周囲は五十囲(約6b)ぐらいの盛り土が盛られ、焼き煉瓦で覆われている。 しかも……周囲を柵で囲まれて……専任の番人が付いている?

 

国譲「白蓮様…………実は…………」

 

国譲の話に寄れば………董相国を助けた漢の忠臣、洛陽を救う一助になったその臣に報いる為という事で……漢王朝より、度々改修の命を下されていたそうだ。 勿論……説明も許可も白蓮様に通して頂きましたよ?………と。

 

ーーーーー

 

白蓮「…………立派になっていくな………」

 

国譲「それだけ……感謝されているんですよ!」

 

今回は………十年経過するから……と墓碑の修復やら、祭祀の建物を建立するやらで大部……派手改修を行ったそうだ。 

 

どうも……洛陽の軍師達の意向が………動かしているらしい。

 

国譲「でも……素直に……喜ぶ事も出来ないんです。 

 

十年も経てば……将兵も民も……平和に甘んじ、戦の苦しみ、悲しさを忘れがちなんです。 見て下さい……厳綱兄貴の墓が…いい例です。 助かった時は、涙を流して骸に感謝した者が……今では、墳墓に見向きもしない……!」

 

私は……腹が立った! 

 

厳綱の死に救われた─────洛陽の民に! 

 

国譲「…………白蓮様が言いたい事、僕にも分かります! だから……洛陽の先生達も……考え抜いた事なんですから!」

 

国譲が………悲しそうな顔で……厳綱の墓を仰ぎ見る。

 

国譲「厳綱兄貴の墓が……粗末なままだったので、数年間、僕は何回も上奏しました! 『洛陽を守った一人の英雄の墓! この者の功績を……後生に伝える為、どうか修築を───!』……と」

 

国譲が………悔しそうに………拳を震わす!

 

国譲「しかし……答えは賄賂の量、質、送り届ける速さで決めるという馬鹿げた回答! ────厳綱兄貴は………お前達、悪徳役人を………のさばらす為に犠牲になったんじゃない!!!」

 

私は……こんな怒る姿の国譲を見た事がなかった………。

 

国譲「僕は……洛陽の先生……詠先生、稟先生、風先生と相談して……策を実行に起こして、厳綱兄貴の陵墓を守る手段と悪徳役人の捕縛を、同時に仕掛ける事をお願いしました!」

 

 

▼△▲  ▲△▼  ▼△▲  ▲△▼

 

まず……稟先生より上奏で『陵墓の改修』を挙げて貰います。 陛下の周りの宦官は反対を申し出るのは分かっていました。 ですから……利の部分を強調して漢王朝に得がある話だと……納得させました。 

 

次に詠先生と月様にお願いして……忍びを放ち……金の流れと情報を掴みます。 

 

このまま追求しても……知らぬ存ぜぬを通す輩ですので、自白に近い証言が必要。 そして、賄賂を受け取る役人と行う商人を調べ上げて……流通経路を封鎖、宦官との連絡先を潰し、孤立化を謀らせます。

 

その後、その者達を捕まえ、個別に尋問。 それぞれが…欲の皮が突っ張った連中ですし……他の者が白状したと偽の情報を流せば、勝手に喋ってくれて、証拠が揃い───自滅しました。

 

 

風先生には……陵墓の修築と洛陽の民に関心を持ってもらう事に相談を。

 

それには、洛陽の英雄の墓を改修して、民の娯楽と合わせ……有名化させるのが一番だとか……。 何でも一刀様の天の国には『遊園地』なる遊び場かあったそうで……小さい子が遊べれば大人も遊べるかな………と。 

 

▼△▲  ▲△▼  ▼△▲  ▲△▼

 

 

国譲「───有名になれば……事跡に注目されます。 小さい子も……何時しか大人になり、ここの場所を思い出すでしょう。 

 

そうすれば………私達が亡くなった後でも、厳綱兄貴は寂しくないのでは……と思うんです!」  

 

国譲が───自分の企てを、早口でまくし立てる。 

 

全く………軍師が周りの様子を伺わなくてどうする!

 

国譲が……厳綱をどれだけ慕い、どれだけ……洛陽の民達に『英雄』を忘れ去って欲しくないか……よく分かった。 ここまで……私の代わりに怒ってくれたのであれば………何も言わないし……不満など持たない。

 

………稟達にも……手伝って貰った結果か………と、安堵して顔を上げた!

 

すると────目の前に国譲の顔がぁぁぁ!!!

 

白蓮「───ば、馬鹿! 顔が近いっ、近い!!!  ………全く、意中の女性に勘違いされても知らないぞぉ!!」

 

すると…………驚いていた国譲が、急に居住まいを正し………真面目な顔で………私に………『告白』した。

 

国譲「───白蓮様!! この時期、この場所で……貴女に思いを告げたかった! ぼ、僕は………白蓮様が好きです! 愛しているんです!」

 

へっ? な……なんて……言った? 

 

────お、おい! 告白したのなら……相手の顔を見ろ!!

 

恥ずかしいがって、しゃがみ込むんじゃないっ!!! こらっ! 国譲!!

 

国譲「………やです! こんな事……恥ずかしい事……伝えて……断りの言葉言われたら……僕……立ち直れない〜〜!!」

 

さっきまでの威厳はどうしたぁ!! 

 

十年前と変わってないじゃないか!!

 

こらっ! さっさと立てぇ!!

 

…………………………

 

わ、私が………『承諾』の返事が出来ない………じゃないか!!

 

★★☆

 

白馬義従5「かぁ───っ! 全く、相変わらずの蚤の心臓だぜぇ! ウチの若頭はよぉ!? せっかく……俺らが、白蓮様をお譲りしたの………あぁ、ネエチャン……ここ……今、貸切だから! ……入っちゃいけねぇよ!!」

 

白馬義従6「そういうな………。 白蓮様の行動……バレバレなんだから。 全く……見ている方が歯がゆいんだよ…! 

 

しゃないから……いい加減くっつけてやろうと、優しい『お兄さん』達が気張ってやたんだ! これで…つき合わなきゃ…仕舞いにゃ泣くぞぉ!?」

 

白馬義従7「俺も………まさかぁ、この歳まで……白馬義従やるとは思わなかったが………厳綱の兄貴の事……思うと抜けれなくてな………」

 

〜♪?♪?  〜〜〜♪??♪

 

白馬義従5「おっ? モリンホール(馬頭琴)を弾かれ始めたか………」

 

白馬義従6「ふふふっ………あの物悲しい曲が………浮かれて聞こえるぜ?」

 

白馬義従7「偶には、こんな明るい話題の参拝も、悪くは……無いと思う。 厳綱の兄貴は、暗い話題嫌がったもんな?」

 

白馬義従5「俺らも………あの二人の行く先を祝福して乾杯といきましょうや! …………おっと、厳綱の兄貴の分、忘れんな!?」

 

白馬義従6「はははっ! 了解!!」

 

ーーーーーー

 

白馬義従の古参………数十名。 

 

陵墓より少し離れた陵墓の囲みの入口に……たむろっている。

 

陵墓の番人は……元白馬義従だから……何も言わない。 それどころか……参戦の準備まで始める始末。

 

番人「クウゥ────! 白馬義従を辞めて……数年後! まさか、まさかの大展開! こんな姿が見れるなんてぇ───俺は幸せ者だぁ!!!」

 

白馬義従7「うるせぇ! 静かに飲みやがれぇ!! 二人に聞こえちまうじゃねえかぁ!」ボカァ!!

 

 

ーーーーー

 

 

??♪ ??♪ ???

 

田国譲は白蓮の肩に両手を載せ……モリンホール(馬頭琴)の演奏を聞く。

 

白蓮は………微笑みながら……弦を強弱を付けて……曲を奏でる。

 

優しく……悲しい………音だが、拍子は……何故か嬉しそう………。

 

そんな曲が……厳綱の陵墓に……知らせを送るが如く……ゆっくりとゆっくりと……染み込んでいった。

 

説明
義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい!
 今回……例のオマケを入れましたが……本文より長くなりました。 合わせると……かなり長い文章ですので……御注意して下さい。

7/9……………若干付け加えました。
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コメント
雪風様 コメントありがとうございます! 『司馬懿死すとも……久秀は死せず!』 歴史での司馬懿は死にましたが、久秀はご覧の通り。 戦極姫が居なかった理由……胸の大きさで策がバレるから。(いた)
小田「あわわわ、久秀さんが幽霊となって復活したのですです??」太原「臨場の場に、私達戦極姫達がいなかったのが悔やまれます」(雪風)
naku様 コメントありがとうございます! そこまで言って頂ければ仕掛けた久秀も満足している…? ん? 胸の大きさをバラしたのがいけなかったのか怖い顔をしてやがる。 この話の白蓮さんの未来は……カカア天下確定と……申し上げます。 (いた)
mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます! 久秀や順慶……あの二人が颯馬に会う前に死ねなんて……ほぼ……ありません。 白蓮に『普通』以上の幸せを望ませるのは……難しいですね。      (いた)
なるほど、あっさり死ぬなと思ったらそういう事ですか。それと…まあ、白蓮さんは普通におめでとうという事ですね。『普通』にね!(mokiti1976-2010)
Jack TIam様 コメントありがとうございます! 久秀「久秀にはねぇ……まだ、やりたいことが残ってるの……」というわけで……久秀の活躍は続きます。 白蓮に関しては可もなし不可もなしのようで……少し安心。 (いた)
やはり死を偽ったか、久秀……!その執念そのものが彼女の命を燃やし尽くす日も近いのかもしれませんね。そして……うーむ。実に普通の恋愛?(Jack Tlam)
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戦極姫 真・恋姫†無双 

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