紅と桜〜二人の想いに始まりを〜 |
紅と桜〜二人の想いに始まりを〜
雨泉 洋悠
今日のお空は、灰色のお空です。
にこ先輩がどこからか部室に持って来てくれた、七夕の為の小さな笹に取り付ける飾りを、作っています。
「せっかくの七夕なのに、ちょっと、残念です」
窓の外を見ながら、そんな事を言ってみたら、にこ先輩が、窓際に置かれた小さな笹に、七夕飾りを取り付けながら、こんな事を言いました。
「七夕の日はね、曇や雨の方が良いのよ」
私が、その言葉に首を傾げていたら、にこ先輩は、得意げな顔で、言葉を続けます。
「その方が、織姫も彦星も、一年に一度きりのデートを邪魔されないですむでしょ?」
にこ先輩、そう言って笑いました。
何時も、私が見ている笑顔です。
にこ先輩の、部長としての、私達を思いやってくれている事が、良く解る、優しい顔です。
時々、面白い事を言ったりとか、正直私には良く解らない行動も、たまにはあったりもする、にこ先輩です。
でも、こう言う時に、ふと見せる、素敵な一面が、格好良くて、尊敬出来ちゃう、そんな、素敵な、先輩なんです。
「確かに、そんな風に考えると素敵です、ロマンチックです!」
にこ先輩と話していると、私は何だか何時も気分が高揚して来ます。
ちょっと、特別なものを、感じちゃいます。
私は、幸せです。
こんな身近に、尊敬出来ちゃう、素直に憧れる事が出来る、にこ先輩が居ます。
そんなにこ先輩が、何時でも私の事、私達の事を、気に掛けてくれています。
こんな幸せな事、私はついこないだまで、自分に起こるなんて、思ってもみませんでした。
私がにこ先輩の事を、尊敬の眼差しで見つめていると、にこ先輩は、少しだけ寂しそうに笑って、言葉を続けます。
「うん、ロマンチックよね。私もロマンチックだと思うし、憧れる面もある。でもね、私はそんな、一年に一度だけのロマンチックなデートよりもね、何気なく一緒に居られる、普通な毎日の方が、やっぱり、好きかな」
その寂しさの向こう側の、にこ先輩の気持ち、今少しだけ浮かんでいる寂しさの相手、私は凛ちゃんと一緒に、もう気付いちゃっています。
その事を思うと、少しだけ、にこ先輩の気持ちが移っちゃったみたいに、寂しさを感じます。
にこ先輩は、うちの部で唯一の三年生で、部長だから、私と凛ちゃんみたいに、一日中ずっと一緒には、居られません。
「その言葉も、凄く、解ります」
にこ先輩の気持ちを思うと、私はそれ以上の言葉が、出て来ませんでした。
「ね、必然的に別れざるを得なかった織姫と彦星には悪いけれども、やっぱりずっと一緒に居られる方が素敵よね。そう言えばさ、最近また、良い感じのスクールアイドルが出て来てて……」
取り付けを終えたにこ先輩は、そう言いながら私の隣に座ると、自分の鞄の中から、何時も買っていると言う、アイドル雑誌を取り出して、私に見せてくれます。
私にとって、にこ先輩とアイドルについて盛り上がる事が出来る、大好きな楽しい時間です。
「うわあ、この子達可愛いです」
雑誌の中の女の子達、キラキラしていて、皆素敵です。
「でしょでしょ、これで三人共中学生なんだって、凄いわよね、将来有望よ」
アイドルの話をしている時のにこ先輩は、凄く楽しそうで、私も楽しいし、楽しそうなにこ先輩姿を見られるので、私は凄く幸せな気分になれます。
でも、そんなにこ先輩が、アイドルの話をしている時以上の、一番嬉しそうな顔をする瞬間を、私は知っているんです。
「この子達が、来年音ノ木に入って、アイドル研究部に入ってくれたら良いのになあ」
そんな素直な気持ちが、言葉に出ちゃいます。
「……そうね、そんな風にうちの部も、もっと賑やかになると良いわね」
にこ先輩、ちょっと寂しそうに、そう言いました。
私はこう言う時に、自己嫌悪です。
来年の話なんてしたら、にこ先輩が寂しくなってしまうのは、解っている筈なのに。
もっとちゃんと、自分の話す言葉の意味、考えてから話さないと、何時でも笑っていて欲しい人を、哀しませちゃいます。
それでも、そんなにこ先輩が、廊下から聞こえる音と声を聞き付けて、期待に一杯の、ちっちゃな子供みたいな、幼い感じの表情をします。
私だけが見る事が出来る、にこ先輩の特別な表情です。
その期待の向く先への、にこ先輩の気持ちを思うと、私は切なくなります。
こんなにも先輩は、私が目の前に居る事にも、気に掛ける余裕が、無くなっちゃうぐらいに、どうしようもなく、その人の事を、想っているんです。
私は、そのにこ先輩の気持ちと、多分同じ感じの気持ちを、ずっと前から、私にとって一番大切な人に対して、想っているから、その想いの、強さも、どうしようもなさも、どれだけの気持ちが自分の中に溢れてしまうのかも、知っているから、尚更、その胸が締め付けられるような気持ちを、感じ取れちゃいます。
その相手が、そこに、自分の直ぐ傍に、居てくれる事が、どれだけ嬉しい事か、私には、解るんです。
今だって、廊下からは、二人分の足音と、話し声が聞こえて来るから、にこ先輩が今、本当に私と同じ気持でいると言う事が、言葉が無くても、伝わって来ちゃいます。
にこ先輩の胸も、いま、私の胸と同じように、締め付けられるように、高鳴っていると思います。
「だから、私は今日だけなんて嫌なんだってば」
「でもでも、今日しかないからこそ、燃え上がるというのもあると思うにゃ」
部室のドアが開いて、にこ先輩と私が待っていた、二人が入って来ます。
「そう言う凛の、ロマンチストな部分も解るけどね」
「真姫ちゃんはやっぱり、結構現実的だにゃ」
「それは否定しないけど、別にロマンチックなデートが嫌な訳じゃないからね」
その姿が、この場所に現れた瞬間に、にこ先輩はその姿を見つめながら、一瞬だけ、ちっちゃな子供みたいな、可愛らしい笑顔を、浮かべるんです。
私だけが知っている、にこ先輩の、秘密の姿です。
真姫ちゃんに、教えてあげたいとも思うけど、私が真姫ちゃんに教えちゃったら、きっとにこ先輩は嬉しくないんです。
だから、真姫ちゃんが、ちゃんとした意味で、にこ先輩事を解るようになってあげて、にこ先輩のこう言う顔を、当たり前に見られるようになれたら、良いなって、ちょっとだけ、凛ちゃんにも言えない、ちょっぴり切ない気持ちもあるけれど、そう、思います。
二人が、私達の隣に座ります。
「二人とも、何話してたの?」
にこ先輩が、さっきの話の内容を、二人に聞いています。
その表情は、さっきまでの気持ちを、奥に潜めて、先輩の、部長の顔をしています。
私も二人の話が、気になっています。
「ああ、凛がね、一年に一度だけのデートはロマンチックだって言うから、私はそれよりもいつも一緒に居られる方が嬉しいって言ったの」
真姫ちゃんはいつもの様に髪を弄って、にこ先輩から視線を逸らします。
誰ととは言わないけど、凛ちゃんと私には、解っちゃってます。
そんな真姫ちゃんを見る、にこ先輩の瞳が、凄く優しくて、嬉しそうです。
「そっか、真姫ちゃんはそうなんだ」
やっぱり二人は、出来る事なら、いつでも一緒に居たいんです。
「凛はね、やっぱりどうしても一年に一度きりのデートとか良いと思うんだーかよちんもそう思うでしょ?」
凛ちゃんが、私に顔を向けて、聞いてきます。
凛ちゃんがそう思うのは、私と凛ちゃんが何時でも、一緒に居られるからかなあって、ちょっと自惚れちゃいます。
私がロマンチックに感じたのも、それが理由なのかなって。
にこ先輩と、真姫ちゃんからすれば、贅沢な憧れだと思うけど、私の凛ちゃんへの答えは、だから決まっています。
「うん、一年に一度だけの、ロマンチックなデート、憧れちゃうよね」
凛ちゃんと私にも、一年に一日、特別なデートの日を、作っちゃおうかな。
「でしょーかよちんならそう言ってくれると思ったー」
こう言う時の凛ちゃんの笑顔は、何度見ていてもやっぱり最高に可愛くて、凛ちゃんには絶対に言えないけれども、抱きしめちゃいたいと、思ったりもしちゃいます。
「だからー、私だってそう言うロマンチックなデートが嫌な訳じゃないって言ったでしょ?」
真姫ちゃんは凛ちゃんにそう言いつつも、ちらっと、にこ先輩の方を見ます。
にこ先輩、その視線に気づいているのかいないのかまでは解らないけれども、真姫ちゃんの方を見ながら、少しだけ、意気込んだ顔をしています。
真姫ちゃんはにこ先輩にだけ、さり気なく伝えたいんだろうし、にこ先輩も気付かれないようにと思っているのだと思います。
けれども、凛ちゃんと私には、どちらもバレバレです。
凛ちゃんと、思わず目を合わせて、小さく笑い合っちゃいました。
その時に、凛ちゃんが、窓際の飾り付けられた笹に、気付いたみたいです。
「あ、七夕飾りだにゃ」
凛ちゃんが、小さな笹を指差しています。
「うん、知り合いに笹を貰ったから、部室用に持って来たのよ、七夕だしね。そうだ、皆願い事短冊に書いて、吊るしなさいな」
そう言って、にこ先輩は今度は鞄から四人分の短冊を取り出します。
にこ先輩のはピンク、真姫ちゃんのは赤、凛ちゃんのは黄色、私のは緑です。
多分、にこ先輩の事だから、七人全員分用意して来てるんだと思います。
みんな、願い事を書き始めます。
「どんなお願い書いてるのよ?ちょっと見せなさいな」
「恥ずかしいからダメです、見せません」
「えーケチ」
「ケチなんて言われても見せませんからね」
にこ先輩と真姫ちゃん、楽しそうです、良かった。
「凛ちゃんは何書いたの」
「んー、はい。かよちんのも見せて」
凛ちゃんのと、短冊を交換します。
そこには、こう書いてありました。
かよちんとロマンチックデートする
凛ちゃん、嬉しいけど願い事じゃなくて、確定型になっちゃってるよ。
「じゃあ、今日帰ったら日にち決めようか」
こういう事を、当たり前のように言わせてくれる凛ちゃんが、やっぱりとっても可愛いんです。
「うん!かよちんのお願いごとは、かよちんらしいね!」
私が、短冊に書いた願い事。
みんな、ずっと一緒に
にこ先輩と、真姫ちゃんの事、お願いしてあげたかったけど、目に見えて解る書き方をしちゃうのはダメかなと思ったから、今居るミューズのメンバーみんなが、ずっと一緒に居られる事を、お願いしてみました。
真姫ちゃん、短冊をどうにか見ようと周りを動き回るにこ先輩に、どうにか見られないように、必死で頑張ってる。
本当にもう、これじゃあ二人が凄く仲が良い事、誰にでも直ぐバレちゃうよ?
ねえ、にこ先輩、解っちゃうよね、真姫ちゃんて、本当は、凄く、解りやすいの。
ねえ、真姫ちゃん、知ってる?
本当はにこ先輩ってね、凄く、解りやすい人、なんだよ。
次回
希
説明 | ||
花陽ちゃんのにこちゃんへの想いを描かないと、 私が書きたい物語が終わらないんですよ。 これで、残りの流れが確定しました。 次であれやって、残りであそこまで書こうと思っています。 そして、あの日に終わります。 |
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