涼宮ハルヒの製作 第一章
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――――――――第一章

 

 

 

なんとも妙な展開になってしまって、俺としては少々複雑な思いだ。

俺個人として趣味の仲間……同好の士が増えるのは非常に喜ばしい。

だがその相手があの涼宮ハルヒだ、勢いで始めたはいいが「やっぱり面白くない!飽きた!」なんて言って匙を投げられるのは非常に面白くない。

ここはひとつ、やる気の程を確かめてやるとするか……。

 

「あー……コホン、ガンプラを始めるというのは本気か、ハルヒ?」

 

「なによ、本気に決まってるじゃない!信用できないっていうの?」

 

悪いがその通りだ。

大抵一時の感情で始めようと思った趣味なんて、長続きしないに決まってるのだ。

それにハルヒには北高の全部の部活に入部して、「面白くない」という理由で辞めたという前科がある。

そんな人間の言うことなど信用することが度台無理というものだが、それを本人に伝えたところでさらに頑なになるだけだ。

まずは現実的な問題に直面させてやることにする。

 

「じゃあハルヒ、まずは移動するぞ。」

 

「なによ、ここじゃダメなの?」

 

別にここでも構わないことは構わないんだが、先ほどのエレクトリカルな舌戦でここは少々居心地が悪い。

それにこういう電気店の一角に設けられたトイ・ショップより、本格的な模型店に連れて行った方がいいだろう……。

 

「あぁ、どうせ行くならもうちょっと専門的なところがいいだろう。すこし歩くがガンプラを始めるにはうってつけな場所がある」

 

「ふーん……まぁいいわ、案内してちょうだい!」

 

「へいへい。」

 

とハルヒに返事をするが早いか、出口へと向かう。

途中、レジにいた店員に何か奇妙なものを見るような眼で見られたが気にしないことにする。

 

 

さて、まだハルヒのやる気に幾許かの不安があるものの、目的の模型店――――『イオリ模型店』に案内した。

ハルヒめ、まずはここで経済的な方面からやる気を試してやる。

 

「さ、着いたぞハルヒ。ここが目的の場所だ。」

 

「ふーん……、まぁまぁ小ぎれいでいい感じの店じゃない、アンタにしてはよくやったわ!」

 

「そりゃどーも」

 

全く何様のつもりだ、と心の中で悪態をつきつつ店の中に入る。

 

「いらっしゃいませー」

 

店の中に入ると、少年の声が店内に響く。

このイオリ模型店の息子で、今現在店番をしているイオリ・セイという少年のものだ。

このイオリ・セイという少年は、年に見合わずそれはもう見事なガンプラを制作して店内に飾っているくらいのモデラーだ。

ガンプラバトルでは作品の出来栄えが性能の差になるので、イオリ君ほどのガンプラになるとほぼ無双出来る……ハズなのだが、なぜか勝ち星に恵まれなかった。

……が、それもちょっと前までの話で、今ではコンビを組むようになり、イオリ君が制作に、パートナーが操縦に専念する形で勝ち星を挙げ、今ではガンプラバトルの日本国内予選を勝ち抜いている。

 

え、俺は予選に出なかったのかって?

まぁ、俺もバトルに興味がないわけではないが……、そこまでガンプラ製作に自信がないのとガンプラに傷をつけるのに抵抗があってな、いまいちやる気が起きないのだ。

 

「あっ、キョンさんこんにちわー。あれ、今日は一人じゃないんですか?」

 

「おう、こんにちわ。あぁ、ちょっとこれからガンプラを始めてみようってやつを連れてきた。まだどうなるかわからんがね。」

 

「えぇ!?絶対始めるべきですよ!こんな面白いこと他にありませんって!!」

 

とハルヒを紹介しようとするや否や目を輝かせながら興奮するイオリ君。

気持ちはわかるが少し落ち着いてほしい、せっかくガンプラを初めて見ても「やっぱりつまんない!」なんて言って飽きてしまったら嫌だろう?

ぶっちゃけて言うとハルヒの機嫌はコロコロと、まさに女心は秋の空という格言通りに変わるのだ。

まぁ流石に本人を目の前にして言えるほどの度胸がないので、その言葉をぐっとこらえておれは次の言葉を紡いだ。

 

「いや、俺も同好の士が増えればうれしいのだが……、なにしろ、な。」

 

と、俺は右手の親指と人差し指で○を作り、イオリ君とハルヒに見えるようにジェスチャーをした。

 

「あっ、そうですよね……。」

 

イオリ君の表情が一瞬のうちに暗くなった。流石模型店の息子、察しが速くて助かる。まるであのニュータイプのようだ。

一方のハルヒはというと今だ脳内にキュピーンと電流が走っていないようで、きょとんとした顔で突っ立ってる。

 

「なによその指?もう、まどろっこしいからはっきり言いなさいよ、男らしくない。」

 

余計なお世話だ、この察しの悪いオールドタイプめ!逆セクハラで訴えてやろうか!

 

「わかったわかった、正直に言うとこのガンプラ製作というのは金がかかるんだ、それも極めようとすればするほどな。」

 

「えっ、ただ作るだけじゃないの?そんなにお金がかかるの?」

 

意外そうな顔をするハルヒ。

それはそうだろう、俺でさえ初期の頃はそう思ったものだ。まさか、本体より工具の方が高くつくなんて思わなかった、おかげで俺のお年玉が一発で吹っ飛んださ……。

 

「えぇ、始めるまでにお金がかかるんです、一回揃えると後はプラモ代だけで済むんですが……。」

 

商売人といえど、流石に無茶なオススメはしないイオリ君。

さぁ、この調子で経済的損失をハルヒに言って聞かせてハルヒの暴走を止めてくれ!!

 

「たかがプラモデルの工具でしょ?

いいわよ、ちょっとくらいお金がかかっても。この私に見合うような最高級のものを持って来ること、いいわね!」

 

……この発言に、俺とイオリ君は絶句した。

そう、俺達の言わんとすることが何一つ理解していないどころか、逆に思い切り無茶な事を言い出したのである。

 

「きょ、キョンさん……」

 

と俺をとても不安げに見てくるイオリ君。

あぁ、大丈夫だ言わんとすることはわかる、ここはひとつハルヒの奴に痛い目を見せてこの世界の洗礼を浴びせてやってくれ。

 

「えーっと、じゃあまず見積もりをだしますね……」

 

そういうとイオリ君はPCを操作しながら器用に電卓を叩く。

数分の時が流れイオリ君は、「全ての物を最高級に」、というハルヒの指示通りに見積もりを立てて持ってきて来たのであった。

 

「え"っ、ちょ、ちょっと冗談でしょ!?な、何でプラモごときにこんなにお金がかかるのよ……。」

 

む、今のセリフはちょっと聞き逃せんな。

仕方ない、経済的に攻めた後には理論的に攻めるとするか。

 

「いいかハルヒ。今、プラモごときと言ったがそれはおおいに間違ってると言っておこう。」

 

「ど、どういうことよ……」

 

「今、このガンプラは世界的な人気を博している。そりゃ子供でも手を出せるくらいおもちゃと言ってしまえばそれまでだが、それだけにその裾野は広い。

そして子供のころに見たかっこいいガンプラと一緒にいたい、その想いでガンプラを作る大人だっている。それにハルヒだって世界大会くらい聞いたことあるだろう?

そこまでの大会に出る選手は当然その道具にだってこだわるさ、ガンプラの出来栄えがそのまま性能になるんだからな。ちょっと手間を厭うだけで、勝利の女神さまはそっぽ向くと言っても過言じゃあない。

つまり俺が言いたいのは、『プラモごとき』なんて心構えでガンプラ道に歩を進めると、先ほど言ったような世界を盛り上げるどころか痛い目を見て途中で飽きてしまうのがオチだ。

悪いことは言わん、さっきの口論のことなんてスパッと忘れて、無駄金を使う前に退散しよう。」

 

少しきつい言い方になってしまったが、途中で飽きてしまってガンプラや道具を放置してボロボロにしてしまうよりかははるかにマシだと思う。

ハルヒも思い当たる節があるのか、顔を下に向け心なしか落ち込んでいるように見える。

しかし俺だって、同じ趣味を持つ人間がいなくなるのは辛い。厳しいとは思うがこれもハルヒのためを思えばこそなのだ。

 

「ふむ、話は聞かせてもらったよ。」

 

と、いつの間にいたのか、棚の後ろから腕を組みオールバック気味の髪型をした壮年男性が姿を現した。

 

「ラルさん!」

「大尉!」

 

イオリ君と一緒に発言し被せてしまい、聞き取り辛かった諸兄へ。

俺が大尉、イオリ君がラルさんと呼んだ壮年男性はこのイオリ模型店の常連で、なおかつこの世界でかなり広い顔を持つ知る人ぞ知るビルダーである。

 

「ふむ、どうやらそのお嬢さんはガンプラを始めたいようだね。

そしてキョンくんは優しいことに、彼女が思いつきで痛い目を見る前にそれを止めようとしてると言ったところか。」

 

「そ、そうなの……?」

 

えぇい、こっちを見るな、恥ずかしい。

それに俺はそんな優しい思いで言ったんじゃない、SOS団の一員として無駄な出費をしようとしている団長様の暴走を咎めただけだ。

しかも、きっかけがきっかけだし、喉元過ぎれば何とやら、で飽きそうなのが怖いんですよ!

 

「しかしキョンくん、もう少し彼女を信用してあげてもいいんじゃないかね?」

「えっ!?」

 

まるでこちらの心を見透かされたような問いに俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「確かにあのような口論がきっかけで始めるともなると、幾許かの不安があるキョンくんの気持ちもわかる。

だが、彼女のガンプラで世界を盛り上げたいという気持ちやその他の気持ちも組んであげてもいいんじゃないかな?

彼女は張り切りすぎて少しばかりペースとテンションを上げ過ぎただけじゃないか。ただそれだけのことで君たちの言うガンプラ道を止めさせるほど、この道の門は狭くないと思うぞ?

それに飽きや何かでガンプラをやめてしまうことなんて、我々ビルダーに常について回ることじゃないか。」

 

うげっ!あの口論から見られてたのか……!

う〜ん……確かに大尉の言うことにも一理ある……。俺も心配性なのかなんなのか……。

 

「ハルヒ。」

「な、何?」

 

ハルヒもさすがに反省したのかすこしは冷静な眼差しに見える、これなら大丈夫か……?

 

「誓ってくれ、嫌なことや面倒なことがあっても簡単には投げ出さないって。」

 

「わ、わかったわよ!ここまで言われちゃそう簡単に投げ出すわけにはいかないし!

団長たる者、団員の気持ちを汲んであげるくらいしてあげても罰は当たらないんだから!」

 

フン!と擬音がつきそうなくらいそっぽを向くハルヒ。やれやれ、すっかりっ元の調子に戻ってやがる……。

でもまぁこう固く誓ったんだ、大丈夫だろう。それにさんざん言っての通り同じ趣味の仲間が増えるのはいいことだしな、俺ができる限り協力してやるとするか。

 

「うんうん、青春とはいいものだね。さ、キョンくん、彼女に道具を選んでやるといい。」

 

「はい、ありがとうございます大尉!」

 

礼を言い終えると大尉はサッと自分のキット選びへと戻ってしまった。

ふむ、頼まれた手前、無下にするわけにもいかんな、さぁハルヒのガンプラや道具選びを手伝うとするか。

 

「それじゃ、いっちょ道具を選ぶか……と、その前に……。」

 

「え、何よ、道具選ぶんじゃないの?」

 

「いや、そうなんだが……ハルヒ、お前、どこまで作るんだ?」

 

「え、ていうかどこまで作るかって言われても、わかんないんだけど……。」

 

「あー、そうだったな……、説明しておかなきゃならん。

まぁ俺流で悪いが、基準としては『パチ組み』『簡易フィニッシュ(素組み)』『全塗装』の三つくらいに分けられると思う。」

 

「ふんふん……。」

 

「まず『パチ組み』というのは一番簡単な奴で、キットをニッパーで切り取ってデザインナイフでゲート処理をし、シールを張って説明書の手順通り組み上げるというやつだ。

必要なのはニッパーとデザインナイフやピンセット位だな。」

 

「なるほど、まずは説明書通りに組み立てるところから始まるのね。」

 

「そうだ、つぎは『簡易フィニッシュ(素組み)』だ。

これはちょいと面倒な奴でな、パチ組みに加え、合わせ目消し、やすり掛け、つや消しをする。」

 

「う〜、早速わかりづらいわね……。」

 

「そうだな……ざっと説明するが、合わせ目消しというのは接着剤を使ってキットを組み上げるんだ。これは作るときに詳しい説明をする。

次のやすり掛けというのは読んで字のごとく、やすりでキットを研磨することを言う。

そして、つや消しというのはスプレーを吹きかけて艶を消すんだ。」

 

「艶を?」

 

「あぁ、よく見るとプラスチックって独特の光り方をしてるだろ?」

 

「そうね、なんか安っぽい光り方よね、あれ。」

 

「いい目をしている……、あの安っぽい光を消すのがつや消しスプレーだ、俺は半光沢を好んで使っている。」

 

「これだけでも難しそうね……。」

 

「あぁ、特にやすり掛けはすごい時間がかかる、これが原因でガンプラ飽きる人間が多い気がする。

そして最後に全塗装だな。」

 

「う……あの思いっきりお金のかかるやつね……」

 

「アレは最高級とか言うからああなったんだ、もっと敷居が低いもんだぞ実際は。」

 

「そうなの?」

 

「まず全塗装は大きく二つに分けられる、『エアブラシ』と『筆』だ。

簡単に言えば筆を使い手作業で全部塗るか、機械で一気に塗るかだ。

まぁ、エアブラシは早く済むが値段が高く、筆は安価だが乾燥や塗装に時間がかかる。」

 

「う〜ん、さらに難しそうだわ……。そういえばキョンはどこまでやってるの?」

 

「俺か?俺はこの前まで簡易フィニッシュだったがつい最近筆で塗装し始めた。」

 

そう、ここまで偉そうな講釈を垂れていて悪いが、俺はつい最近ようやく全塗装し始めた若輩者なのである。

イオリ君や大尉に比べて腕の方はというと、察してほしい。それでもガンプラ愛は二人に負けないつもりだ!

 

「そう……、じゃあアタシも『筆』で『全塗装』する!団長が平団員に後れを取るわけにはいかないからね!」

 

おいおい、いいのかそんな理由で決めちまって……なんというか、この後に血判状でも書かせてやりたくなってきた。

 

「それじゃあ、道具コーナーに案内しますね。それと、全塗装するなら塗料どうしましょう?」

 

「塗料?」

 

ああ、そうだ、そうだった、塗料にもけっこう種類があるんだった……失念していたぜ。

うぅ、まいったな……俺は適当に決めちまったからどうやって説明したもんか……

 

「じゃあ僕が説明しますね。塗料には『ラッカー塗料』『水性アクリル塗料』『エナメル塗料』と大きく3つあるんです。」

 

俺の不安な表情を見て察してくれたのか、イオリ君が塗料についての説明を始めてくれた。

 

「どう違うの?」

 

「まずラッカーから説明します。

GSIクレオスより発売されている、『Mr.カラー』が一般的に模型制作に使用されているラッカー塗料になると思います。

特徴としては、乾燥が早くて塗膜が強く発色が良くて筆ムラも出にくいんです。それになんていったって価格が安い優れものです!」

 

「へぇー、いいじゃない!」

 

「でも……唯一最大の欠点として、思いっきりシンナー臭が凄いんです……。

僕もラッカー塗料使ったりするんですけれど、昔うっかり換気を怠ったまま長時間使ったせいで軽く中毒になって、

シャア専用ザクが四方八方から僕に向かってきて赤い彗星の脅威を身をも「はいストップ!やばい話はストップストップ!!」

 

「う……シンナー中毒は嫌ね……。」

 

「それさえなければおすすめできる塗料なんですけどね……。」

 

あの赤い彗星に四方八方から襲われたらたまったもんじゃないぜ全く、俺は白い悪魔じゃないんだよ。

 

「続いて、水性アクリル塗料ですね。GSIクレオスより発売されている『水性ホビーカラー』が有名ですね。

他にも『タミヤアクリル塗料』なんかもあります。

この塗料の特徴はなんて言ったって環境や人体に優しいことですね!

臭いもそこまで強くありません!筆だって水洗いできるんです!!絵の具のような使い心地ですね!」

 

「ふむふむ」

 

「しかしながら欠点もあるんです……。

乾燥時間がラッカーより遅く、筆ムラもできやすいし塗膜もそこまで強いわけじゃないんです……だから可動部の塗装にはお勧めできません。

メタリックの発色もイマイチですし……。」

 

「そうそういい話は転がってないというわけか。」

 

そういう俺は、ガンプラキットの説明書に使う色が書いてあるからという理由で水性アクリル塗料を使っていたりする。

どの色を使えばいいというのが載っているのは相当なアドバンテージだと思うし、ガンプラつくってるBANDAI様、『財団B』が使うことを奨励しているからな!

 

「最後はエナメル塗料ですね。これはほとんどタミヤから発売されています。

特徴は、塗料がよく伸びるため、筆ムラが出にくいんです!それに発色がいいため、塗装後には他の二つとは違う独特な発色感が出てきます。」

 

「これもよさそうなんだけど……欠点があるんでしょ?」

 

「そうですね、まぁどの塗料にも言えるんですが専用の薄め液が必要なんです。しかもエナメル塗料は筆や道具を専用のクリーナーで手入れする必要があります。

そしてエナメル塗料の欠点は、乾燥時間が一番遅く塗膜も弱いんです……。

完全に乾燥した後に触ったのに指紋が付いたり、塗装表面が色落ちしたり……。しかもプラスチックに浸透するから脆くなるんですよ!

下手に触るとせっかく作った作品が……なんて悲劇も起こりやすいんです。」

 

「えぇ〜、そ、それは困るわ……でも臭いのも嫌だし……。だとすると……。」

 

 

ハルヒの目は水性アクリル塗料の棚に向けられた。

まぁ、そうだろうな……イオリ君の説明は少し誘導的な気もするが、この中でお手軽でとっつきやすいと言えば水性塗料だろうな。

なまじ高校生の懐状況を考えるとなぁ……それに臭すぎるシンナーの匂いはご近所にも迷惑だ、仕方あるまい。

 

「うん、筆の水性塗料にするわ!一番問題が少なそうだし!」

 

「決まったか、それじゃあまず使用する道具を確認するぞ。

まずタミヤの薄刃ニッパーだな。」

 

「う、結構するわね……安いのじゃダメなの?」

 

さっき最高級の物もって来いって言ったどの口がほざくのだろう。

と、直接言うわけにはいかないので視線で軽く攻撃しつつ、ハルヒに説明しようと思う。

 

「まぁ下を見ればきりがないんだがここには置いていないな、なぜならばここが模型店であるからだ。

簡単に言ってしまえばプラモにはプラモ用に適したニッパーがあるんだ。100円均一のニッパーなんか使ってみろ、すぐ刃が駄目になる。

切れ味が悪くなるとパーツが持っていかれて……」

「わ、わかったわかったわよ!!」

 

「では次だな、デザインナイフだな。」

 

「これは結構手ごろな価格だけど……何に使うの?」

 

「一口に言ってしまえば万能工具だな、いろいろな局面で発揮する。まず主に使うのがゲート処理、これはするときになったら詳しく教える。

あとは向きとかを間違ってハメてしまったパーツを開けるときに使ったり……まぁ様々な場面で活躍するんだ、持っていて損はない。」

 

「じゃあこれも購入ね……」

 

「あ、これどうぞ」

 

「あ、ありがと……」

 

ナイスタイミングでハルヒに買い物かごを渡すイオリ君。

そうだよなぁ、今日ここでたくさん買うんだよなぁ……なんかむず痒いぜ。

 

「キョン、ぼーっとしてないで早く次の道具説明しなさいよ!」

 

ぐぐ……すっかり俺はハルヒの中で説明係になってやがる……

 

「へいへい、次は接着剤だな。」

 

「やっぱりガンプラ用の接着剤があるのよね?」

 

「察しが良くて助かる、その通り普通に使うタイプと流し込みタイプがある。

まぁ二つとも購入すれば色々と捗るので買ってしまう。」

 

ハルヒの顔が訝しげになっていたが仕方がない、今から接着剤の効能について一から説明したら日が暮れるぜ。

こういうもんは、実際使ってみて初めて用途が理解できるもんなんだよ。

 

「そいでさっき言ってたつや消しだ、ハルヒどうする、お前も半光沢にするか?」

 

「まぁ、アンタが使ってて問題ないんでしょう?いいわよそれで……。」

 

はいよ、と軽い言葉をかけて買い物籠につや消しスプレーを入れる。

全くこれだけでも高校生に取っては大きな出費だぜ。

 

「じゃあ次は筆だが……、お、流石模型店面相筆が置いてあるな」

 

「めんそうふで?」

 

「あぁ、これはコリンスキーと言ってな、天然のイタチから作っている高級な筆だ。

かくいう俺も人に買うよう勧められて買ったがもったいなくて一度も使ってない。」

 

「何よそれ!」

 

「塗料の食いつきもいいらしいし、この高級感ハルヒにぴったりだと思うんだがな?

そのうち使えるようになればいい相棒になってくれるさ。」

 

「う〜ん、そうね……先を見据えて買う、というのも必要なことよね……。」

 

あっという間に出しかけた矛を収めてくれたハルヒ。なんというか意外にちょろいな。

 

「まぁ、あとはナイロンで出来てるタミヤの筆セットでいいだろう……。おっとスミ入れ用のペン3種も忘れちゃいかん!

あとはあれだな薄め液とそれに使うスポイト、塗料皿、筆トリートメント用洗浄液……。

そして次が……ヤスリか……。」

 

「なんかいっぱいあるわねー、どれ買えばいいの?」

 

「そうですね、ガンプラだけならそうたくさん使わないです、せいぜい400番から1000番くらいで十分かと思います。

でもヤスリだけじゃあれなんで、こちらもお勧めします。」

 

「お、タイラーか、便利なんだよなーこれ。」

 

「タイラー?」

 

「言っておくが無責任艦長のことじゃないぞ?

簡単に言ってしまえば当て木のついたヤスリだ、広い場所を磨くときに効率よく磨けるようになる。」

 

「(無責任艦長?)そもそも、ヤスリって何のために磨くの?やらなきゃクォリティ下がるっていうのはなんとなくわかるんだけど……。」

 

うっ、どうしよう……俺も深く考えずに適当なサイト見て、やすり掛けってやっとくもんだろうと思ってたからわかんねーよ。

仕方がない、困ったときのイオリ君頼みだ……。と、助けてくれと言わんばかりの視線をイオリ君に送り、救助をお願いする。

 

「ヤスリっていうのは中継ぎみたいなもんなんですよ。」

 

「中継ぎ?」

 

「そう、次の塗装のための下地を作って塗料の食いつきをよくするんです。さっき筆で全塗装するって言ってましたし、やすり掛けは必須だと思います。

その他にもパーツについてる薄い『バリ』を取ったり、キットの凸凹を平らにする『ヒケ処理』とこんな感じですね。

すこし忍耐力が必要かと思いますが、完成した喜びもひとしおですよ!」

 

「そう、じゃあ400番〜1000番の紙やすりとそのタイラーってやつも買っておくわ。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

イオリ君は元気よく感謝の念をハルヒにぶつけた。いやいや、なかなか商売人堅気な少年じゃないか……この子は化けるね、なんとなくだが!

 

「とまぁ、買うのは薄刃ニッパー、デザインナイフ、タミヤセメント、タミヤセメント流し込みタイプ、スミ入れ用ペン三種、紙やすり400番〜1000番(400番〜800番タイラー)、つや消しスプレー(半光沢)。

そんでもってマスキングテープ、面相筆、ナイロン筆、ブラシトリートメント液、水性薄め液と塗料か……ん?」

 

いざ、塗料を選ぶとなったところで頭上に『?』マークが一瞬浮かび、そして弾けて消える。

 

「そういやハルヒ、お前なんのガンプラ作るんだ……?

そうだよ、買うキット決めなきゃ塗料も買えないじゃないか!」

 

いかんいかん、何か講釈たれるのが心地よくなって、脳からドーパミン出ていたせいか肝心なことを忘れるところだった。

肝心のキットがなければ、先に買う道具たちも意味をなさなくなってしまう……うっかりしすぎだ、俺。

 

「そうねぇ……」

 

と言って買い物籠を持ちながら店内を物色し始めるハルヒ。正直言ってハルヒがどんなガンプラを選ぶのかワクワクしている。個人的にはガンプラ選びには性格が出ると思っているのである。

そして、店内を一回りするかしないかのところでハルヒが止まる。

 

「―――――これにするわ。」

 

とハルヒのお眼鏡にかなった名誉あるガンプラはというと……

説明
涼宮ハルヒがガンプラ買ったりするまでのところです。
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製作ドキュメント ガンダムビルドファイターズ ガンプラ 涼宮ハルヒの憂鬱 

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