妖世を歩む者 〜2章〜 2話 |
2章 〜鍛える者〜
2話「最低条件」
アトリの両親 ――母親はサクヤの姉にも当たる―― は、数年前に北の大陸へ向かった。
理由は妖怪が人間を襲うようになった原因を探るため。
アトリの父親は、"人妖"についての研究をしており、その原因に"人妖"が関係しているのではないかと考えていた。
そんな時に耳にしたのが、北の大陸へ異世界の人間が来たという情報。
それは、妖怪が人間を襲うようになる少し前の事だった。
北の大陸に行けば、何かが分かるかもしれない。
それは、陽介の思いと同じだった。目指す"何か"は違っていたが。
1人では心配だからと、アトリの母親は夫に付いていくことを決めた。
幼いアトリを連れてはいけなかったが、幸い妹のサクヤがいたためアトリのことを任せることが出来た。
そうして北へと向かったアトリの両親。たまにやってくる手紙を、アトリは楽しみにしていた。
しかしある時、手紙が途絶えた。そのまま数年経っても、連絡はない。
手紙の内容からすれば、途絶えたのは北の大陸に入ってからのこと。
アトリ、そしてサクヤは、ただ無事を願うしかなかった。
―――
「私は、…反対よ」
サクヤは、静かに口を開いた。
「でも、私は…、私はお父さん達に会いたい!」
「あなたまで、いなくなってしまうつもりなの…?」
「――― ッ!?」
陽介は黙って見ていることしか出来なかった。
サクヤが反対する理由、そこにある思いを陽介は知らない。
"いなくなった"のがアトリの両親だということはすぐに分かった。
しかし、サクヤとアトリがどんな思いをしてきたか、陽介には想像することしかできないのだ。
「…きっと、無事だから…」
アトリは折れなかった。
「2人とも無事だから。私が会いに行くの!」
「でも――」
「もう、待ってるだけは嫌なの!」
「―――ッ」
今度はサクヤが押されていた。『会いたい』というアトリの気持ちの強さに。
しばらく沈黙が続いたその場で口を開いたのは、サクヤだった。
「本気、なのね」
サクヤは折れた。しかしそれは、説得を諦めたのとは違った。
「条件を出しましょう」
置いてけぼりだった陽介も、ここで話の中へ戻されることになる。
「アトリと陽介さん、2人で一緒に私へ挑み、1度でも勝てば北へ向かうことを認めます」
陽介はゴクリと息を飲んだ。アトリはというと、
「えぇーーーー!?」
その顔は、サクヤの出した課題がいかに絶望的かということを表していた。
「異論は認めません。期限は半月。1度も勝てなければ、しばらく村でおとなしくしていてもらいます」
少し巻き込まれたように感じた陽介だったが、サクヤは当然陽介の心配もしているのだ。
"生き抜く"と決めた。
この課題をクリアすることは、きっとそのための"最低条件"。
「やろう、アトリ」
「陽介、さん?」
アトリが見た陽介は、先ほどまでと明らかに雰囲気が違った。そして、
「僕達に必要なことなんだ。サクヤさんに、心配しなくて大丈夫だって、2人で証明しよう」
それまでの口調ではなかった。優しい口調に変わりはない。でも、そこには親しみのような何かがあった。
「うんっ!」
サクヤの実力をアトリは知っている。
出された課題が、どれだけ困難なものかも。
しかしアトリは感じていた。陽介と2人なら、乗り越えることができるかもしれないと。
説明 | ||
これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 構成) ・1章5話で構成(場合により多少変動) ・5話の2ページ目にあとがきのような何かを入れます |
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