「真・恋姫無双  君の隣に」 第28話
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桔梗が戻ったと聞いて、わたしは部屋を飛び出す。

一昨日に気を失っている焔耶ちゃんが運びこまれて、敗戦の報と桔梗が捕縛されたと聞いた時は覚悟していたのに。

城外に待機している劉璋軍の陣営で、桔梗と抱きかかえられてる璃々を見つける。

桔梗の腕から飛び降りた璃々が駆け寄ってくる。

「お母さ〜ん」

抱きしめた璃々の温もりが夢ではない事をわたしに教えてくれる。

「ああ、璃々、ごめんね、寂しい思いをさせてしまって」

良かった、本当に良かったわ。

「桔梗、本当にありがとう。貴女が戻らないで襄陽も陥ちたと聞いて、もう、どうしたらいいのか分からなくなってたの」

「礼には及ばん、実際わしは何の役にも立っておらんのだ」

「そんな事ないわ。璃々を無事にわたしの元に返してくれたじゃない」

「その事なのだがな・・・・・・・・」

事のあらましを聞いて、わたしは言葉を失う。

璃々も桔梗も、敵である御遣いに救われたというの?

「紫苑、焔耶の様子はどうだ?」

「まだ起き上がれないけど、大丈夫よ、意識はしっかりしてるわ」

「・・ここに逃げて来たという、劉表軍の輩はどうしとる?」

「・・昨日到着して、ここの、江陵の指揮権を召し上げて籠城の準備をしてるわ」

「益州の兵が城外で待機してるのも、そやつらの命か」

「ごめんなさい、桔梗」

劉j様と蔡瑁将軍が璃々の事を盾にわたしから実権を奪い、劉璋軍を城外に出して自軍のみ城に入れたわ。

更に籠城の為に、民に強制の徴兵と徴収を行おうとしてる。

わたしの意見は一切通らなかった。

「紫苑、目通りを頼んで貰えるか。それとすまぬが城内を汚してしまうので、お主は焔耶を外に連れ出してくれんか」

「・・桔梗、貴女」

「つまらぬ喧嘩だが、報いというものを教えてやる!」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第28話

 

 

襄陽の統治を始めて半月が経ち、二つの報告が入ってきた。

一つは月達が宛を陥とした。

これで劉表が居る新野を陥とせば領土が繋がり、月達と合流して国を名乗り挙げる段階に入れる。

下準備は着々と進めていて、寿春では噂にあがるまでの情報を市井に流している。

七乃の報告では好意的に受け取られてるとの事だ。

天水や長安では月が俺の正室になるとの噂まであがってて、むしろ期待されてるらしい。

もう一つは江陵だ。

厳顔将軍が江陵に逃げ込んだ劉表配下を殲滅して益州に帰ったそうだ。

元々の太守だった黄忠将軍が降伏の書簡を送ってきて、璃々ちゃんの件のお礼も書いてあった。

新野の劉表は江陵を失い、もう虫の息だ。

窮鼠、猫を噛むともいうし、暫く放置して向こうの出方を見る手もあるか。

以前ほどの甘い条件はつけないが、降伏してくるならそれも良し。

徹底抗戦する気なら風に頼んで内部から瓦解してもらうか。

漢が介入してくる可能性もここまで形勢が傾けば無いだろう。

あとは江陵か。

襄陽の統治は順調だが、もう少し時間が欲しいから俺は行けない。

真桜、風、祭も仕事が山積みだ。

どうしたものかな。

悩んでいると、天和達が襄陽に到着したと報告が来た。

 

これが噂のぱんけいき、本当に美味しい、これなら幾らでも食べられるわ。

でも人和に食べ過ぎるなと言われてるし、お腹が出たら困るし、何で天和姉さんはあれだけ食べて太らないのよ。

「そうですか。一挙に領土が増えても、それはそれで困る訳ですね」

「ああ、優秀な人材はいるけど、先ずはうちの政に慣れてもらわないとね。とはいえ寿春の文官を軒並み連れて来る訳にもいかないし」

「これ、美味しい〜。もう一つ、おかわり〜」

だからどうして太らないのよ、胸か、食べた分が全部胸にいってるのかっ。

「でも黄忠将軍は評判が良いのでしょう?任せてもいいのではないですか?」

「任せるのはいいけど、政の方針が様変わりしたら流石に混乱するよ。それに民にも為政者が代わった事を示す必要がある」

「まだかな〜」

頼んだばかりでしょ、フン、いいわよ、こっちは一口を噛み締めながら味わうから。

「でも一刀さんが襄陽を離れる事は出来ない」

「あと一ヶ月は欲しい。それで目途は立つ」

「あっ、さっきのと味が違う。でも、美味しい〜」

他のもあるのっ!食べたい、食べたい、食べたい〜。

「それなら私達が江陵に行きます。公演の前の挨拶で一刀さんの事をお話すれば、民にも伝わると思います」

「それは助かる。襄陽での公演は後回しにすればいいし、細かな政策は置いといて、治安の事だけ優先すれば駐屯部隊を派遣するだけで何とかなる」

「やだ〜。私、此処でゆっくりしたい〜」

あたしもよ、そのぱんけいき、明日食べるんだから。

「その代わりと言っては何ですが、私たちの待遇改善をお願いします」

「うっ、・・分かった。でも華琳には内緒にしてくれよ」

「やった〜。人和ちゃん、偉〜い」

「一刀、買い物に行って来るからお小遣い頂戴」

 

全く、姉さん達ったら、はしゃぎ過ぎなのよ。

夕食を食べたら直に寝てしまうなんて、打ち合わせする予定だったのに。

でも仕方ないか、久しぶりのお買い物だったし、一刀さんも付き合ってくれたから。

天和姉さんは遠慮無しに一刀さんに引っ付いて、ちい姉さんも文句を言いながら傍を離れなかったし。

「人和、江陵での予定表、よく出来てるよ。疲れてるのにありがとう。助かったよ」

「お世話になってますし、仕事ですから」

「それでもお礼を言うよ。待遇改善も期待してくれ」

「いえ、今のままで充分です。昼間の事は忘れて下さい」

私達にそんな資格はないから。

あんな馬鹿な事をして、たくさんの人達に悲しい思いをさせた罪人に。

「人和?」

時間が経てば経つほど、自責の念が膨らんでいきます。

各地を巡り、自分達のしでかした事の爪跡を見てきました。

姉さん達と一緒に仕事に打ち込むことで、頑張る事で気持ちを奮い立たせてますけど、ずっと頭から離れない。

一刀さんと華琳様には本当に感謝してます。

死罪で当然のところを、償う機会を与えてもらえた。

ずっと言いたかった事を言います。

「本当にありがとうございます。私達姉妹がこうしていられるのも全部一刀さんのお陰です。これからも頑張りますから」

言いたかった事を伝えた私は退出します。

一刀さんは呼び止めてたけど、私は聞こえない振りをします。

きっと、一刀さんなら許してくれると思う。

昼間の発言も、一刀さんに甘えたい気持ちが出てしまったから。

でも駄目、私達は許されたら駄目。

一生懸けて償わなければいけない、それだけの事をしたから。

 

翌日、天和達が兵と一緒に江陵に出発した。

人和は俺と顔を合わせようとしないで、早々に馬車に乗り込んだ。

俺は失念していた。

彼女達は将でも軍師でも兵ですらない、只の一般人だという事を。

人の死の受け止め方に耐性はあるが、戦いを生業にしている訳じゃない。

以前は戦力増強の為に歌ってもらっていたから罪悪感は薄かった。

でも今回、俺は償いを前提に歌ってもらった。

彼女達が罪の深さを理解すれば、耐えられるレベルじゃない。

人和が退出した後、暫く逡巡してから部屋に向かうと、天和が扉の前に居た。

人和に頼まれたそうだ、俺がきっと来るから気にしないで欲しいと伝えてと。

そして天和は、二人が寝ている時によく謝ったり泣いたりしてる事を、普段は必死で明るい顔をしている事を、本心から笑っているのは俺と居る時だけだと教えてくれた。

天和は笑いながら、「私達は大丈夫だから」と言って部屋に戻った。

あんな悲しい笑顔を俺は大事な子にさせてしまった。

クソッ、北郷一刀の大馬鹿野郎。

一刻も早く襄陽の事を片付けて江陵に向かう。

彼女達の本当の笑顔を、絶対に取り戻す。

 

 

どこに向かえばいいだろう。

森の中の川原で火を熾して、魚を焼きながら考える。

私が寝床から起き上がれた時には、桔梗様は益州に兵と共に戻られていた。

紫苑様からお聞きした桔梗からの言伝。

「焔耶、旅に出て己を見つめよ。武運を祈る」

荊州に来てからの桔梗様と交わした言葉が蘇える。

仰った通りだった。

御遣いの将に手も足も出ず、倒される兵達にも何も出来なかった。

桔梗様は責任を取らねばならないからと、益州に戻られた。

あの敗戦の最大の原因は、何も考えずに飛び出した私の所為なのに。

私が益州に戻ろうとするのは紫苑様に止められた。

「焔耶ちゃん、私達、将の役目は責任を取ることなの。兵の命を預かるとはそういう事よ。貴方は将ではないわ」

私は将でありながら将ではなかった。

魚が焦げ始めてたが、食べる気にならなかった。

「ふむ、己の浅はかさに気付いたようだな」

不意な声に驚き、聞こえた方に顔を向けると斧を持つ女が私を見据えていた。

いつからそこに、戦いなら間合いに入る距離にいながら気付かなかった。

慌てて飛びのき、鈍砕骨を構える。

「誰だ、貴様は。それ以上近づけば容赦しないぞ!」

「世には貴様より強い者が大勢いる。その事を身を持って味わったのではなかったか」

「う、煩い!私は、私はーーーーーーっ!!」

私は突進して鈍砕骨を振り下ろす、が、次の瞬間手に衝撃が走り、鈍砕骨が弾き飛ばされていた。

呆然とする私に武器が突きつけられる。

「こんな所で死ぬのが望みか?」

全身から力が抜けて膝をつく。

「どうして、どうして私はこんなに弱いんだ」

今迄必死に鍛練してきた事は、一体なんだったんだ。

女が武器を引き、声を掛けてきた。

「暫く私に付き合え、少しは強くなれるだろう」

 

 

「大したもんやな、一日に四つの城を陥とすなんてな」

「僕も驚いてる、並みの軍師じゃ話にもならないほどの戦術眼よ」

「おまけに政にも長けてて、度量も昨日まで敵やった陳珪・陳登母子も躊躇無く重臣に抜擢かい」

「ここまでくると厭味な位の才ね。総合的な才で大陸に並ぶ者はいないわよ」

「まっ、ウチらが仕える器量は充分あるか」

「閨に誘われるのはご免だけどね」

「霞、詠、何を堂々と華琳様を評価してるのよ!」

 

 

「雪蓮、蓮華様が零陵太守の劉度を降伏させたぞ」

「一兵も使わずにね。冥琳、もう蓮華に王の座、譲っちゃおうか」

「その前に劉度軍を恐怖のどん底に落としたのは誰だ」

「何よー、直ぐに止めたくせに」

「当たり前だ。どうやら反省が足りないようだな」

「さっ、次は桂陽よ。もたもたしてる時間は無いわ」

「安心しろ、桂陽に着くまで時間は充分にある」

「蓮華様〜、桂陽攻略は雪蓮様にお任せしましょ〜」

 

 

「漢の大将軍であり、反董卓連合の盟主でもあったわたくしに逆らうなんて良い度胸ですわ。斗詩さん、猪々子さん、思い知らせてやりなさい」

「何でこの兵力差で逆らうんだ?負けるのは目に見えてるだろ」

「姫に従ったら碌な目に合わないって知られてるからだよ」

「一刀さんが襄陽を陥としたと聞きましたわ。生涯の敵であるわたくしが遅れをとるわけにはいきませんわ」

「よっしゃー、冀州を制圧してやっつけてやるぞー」

「うう、力攻めはしないように言われてたのに。田豊さんの怒ってる姿が目に浮かぶよ」

 

 

「并州を獲ろうって、本気か、朱里?」

「はい、このままでは私達も愛紗さん達も袁紹さんに飲み込まれます。袁紹さんが冀州制圧で手間取ってる間に并州を獲ります」

「だが出せる兵は精々五千だ。いくらなんでも無理だ」

「愛紗さんの平原から全兵力を出していただきます。それで数は補えます」

「全兵力?平原の守備はどうするんだ」

「平原ではどう死力を尽くしても守りきれません。守備には絶望的に不利な立地なんです。ならば守れる地を獲る為に使わせていただきます」

「白蓮ちゃん、私が平原に行くよ」

「桃香」

「朱里ちゃん達が并州を獲るまで、私が平原で時間を稼いでみせるよ」

説明
襄陽を攻略した一刀の次の手は
戦乱の世は更なる激しさを増す
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コメント
群雄割拠でどこも動いておりますなぁ…(はこざき(仮))
仰られた通りだった。→仰った通りだった(「仰られる」は「仰る」と「られる」の二重敬語なので誤り):守備には圧倒的に不利な→絶望的に不利(「圧倒的」は「他より有利」の意味が含まれる)(XOP)
読み返してみると、何気に英雄譚で恋姫化した陳母子と劉度の名前が出てるという(デーモン赤ペン)
…ちょっと気になったのは、地和の台詞に罪の意識が感じられない事。妖術使いだと言う事は、ある意味で黄巾党扇動の最大の実行者でもある訳で…。それにしても、心に芯が生じさえすれば一気に覚醒する恋姫が多いと言う事は、スペックは高いが経験不足な奴が大半な事の裏返しなんだよな。(クラスター・ジャドウ)
三姉妹は自分らのやった事の影響に気づいたらきついわな〜一刀どうフォローするんだろう?(nao)
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