欠陥異端者 by.IS 第十八話(二学期突入) |
慌ただしい夏休みが過ぎた九月。
IS学園も通常日課に移行して、現在は一年一組と二組による復習合同IS起動訓練を実施していた。
その中で、専用機持ち達は別行動で一対複数の模擬戦闘を行っていた。
一夏「くそっ、エネルギーが!」
箒「何故・・・何故、発動できないっ!?」
鈴音「二人とも最初に飛ばし過ぎなのよっ!」
一夏は箒と組んで、鈴音と。
セシリア「中々、すばっしこいですわね」
シャルロット「ラウラは下がって。AICをコピーされたら、厄介だから」
ラウラ「了解」
零は三人の代表候補性と戦闘。
零(って、あまりにもキャリアに差があり過ぎだろ・・・!)
しかし、この組み合わせは千冬からの指示のため、文句どころか余計な口出しすら出来ない。
ただ了解するしかなかった・・・。
シャルロット「セシリア、援護よろしく!」
セシリア「分かりましたわ!」
シャルロットが二丁のショットガンを両手に、『ブルー・ティアーズ』のビットの支援有りで一気に勝負をかける。
零(て、手加減っていうのを知らないのか!?)
零は別に特段強いわけでもない一般人あがりのIS操縦者。
普通の人とは特殊という面は少なからずあるが、三人の代表候補生はある思惑があって八分の力を出している。
セシリア(ラウラさんとの一悶着の一件から気になっていましたが、零さんには素質がある)
シャルロット(それを引き出させるためには、徹底的に叩いて────)
「ハァァ!」
零(ああもう、こうなったら自爆特攻だ!)
シャルロット「えっ!?」
自ら弾幕に突っ込んでくることなど予想もしていなかったシャルロットは、一瞬だけ発砲するタイミングがずれる。
零はそれを狙ったわけではなかったが、無我夢中にシャルロットに対して体当たりを決めた。
シャルロット「うっ・・・まだだよっ!」
しかし、さすがは代表候補生。もといシャルロット・デュノア。
持ち前の機転の良さで、宙返りで機体を即座に安定させ、アサルトライフルを呼び出そうとする。
特技の『((高速切替|ラピット・スイッチ))』であれば、ショットガンの収納、アサルトライフルの呼び出しまでたったのコンマ4秒。
シャルロット「あ、あれ?」
しかし、ショットガンは収納できてもアサルトライフルを呼び出せない。
何故なら、『カスタムU』の拡張領域に存在するアサルトライフルのデータが『展開不能』にさせられていたからだ。
シャルロット(うそ・・・もしかして、体当たりした僅かな時間の接触で、ハッキングされたの?)
セシリア「シャルロットさん!」
シャルロット「ッ────!?」
戸惑っている隙を狙って再度、突撃をかけてきた『カスタムV』の手には一丁のショットガン。紛れもなく『カスタムU』からコピーした武装。
射撃訓練を満足に行っていない零は、技術もろもろ必要のなさそうなゼロ距離射撃を狙って、ショットガンを選んだのだ。
セシリアからの射撃が援護するが、自爆覚悟の突撃のため直撃しても一切、動じない。
シャルロットは唯一、封印されていないショットガンを呼び出したが、既に零の持つ銃の口が懐に入れられていた。
零「取った!」
シャルロット(やられる────!)
ラウラ「私がいる事を忘れるな」
敗北を覚悟したシャルロットだったが、そこに待機していた『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICが、二人がいる空間全てを停止させた。
セシリア[ガチャッ]
零「・・・参りました」
一夏「おう、お疲れ」
零「お疲れ様」
行動演習を終えた二人は、二人で使うには勿体ないほどの広さがある更衣室にいた。
ちなみに、最後の挨拶は両組別々で行われて、一組の方が終了するのが遅く、一夏が更衣室に入ると、既に零は着替え始めていた。
零「そっちはどうでしたか? 新しい『白式』」
一夏「相変わらずの燃費の悪さだよ。第二形態になって余計にエネルギー消費量が増えてさ」
零がIS学園に通ってもう5ヶ月が経過し、零から人に話しかける事が当たり前になってきた。
それだけ、他人との距離感や対応というものを日々学び、大きな成長へと繋げられたのだろう。
一夏「零の方は、結構・・・いやかなり奮闘してたな。すげぇな、あの三人相手にさ・・・お前、そんなに強かったっけ?」
零「専用機の能力のおかげですよ。それに、三人とも全力は出していなかったと思いますし」
一夏「それでも、あのシャルに一矢報いるなんて恐れ入るよ。んじゃさ、今日の放課後に俺と模擬戦やんね? 一度も、零と戦ったことないから」
零「かまいませんが────ッ!」
一夏「? どうした、俺の後ろに誰か────」
[むにゅー]
楯無「あはっ、引っかかったなぁ♪」
一夏「え?」
振り向こうとした一夏の頬に扇子の先端が、むにゅと埋まる。
その予想通りな反応に楯無は、ニコッと笑った。その笑みには一切の邪気は無い。悪戯心はあるだろうけど・・・。
一夏「あ、あなたは?」
楯無「私? 私は[キーンコーンカーンコーン・・・!]あっ、時間だ。じゃ、まったね〜」
一夏「え、ちょっと!」
零「追わなくていいですよ」
影のように現れ、風のように去っていった楯無。
そんな楯無と知り合いだという事に、一夏はまたもや驚いた。
一夏「お前、あの人と知り合いなのか!?」
零「・・・何でそんなに驚くんです? 私の知り合いの輪が広がっている事がそんなに不思議ですか?」
一夏「そ、そういうんじゃないって。悪かった」
零「謝られると逆に困るんですけど・・・って、時間が不味くないですか?」
一夏「───ゲッ! 次は千冬姉の授業じゃねぇか!?」
他の先生なら遅れても大丈夫・・・って事はない。ただ、お叱りの度合いが雲泥の差がある事は確かだ。
零は、自分も遅刻犯のはずなのに一夏に向かって合掌した。
本音「れいち〜ん、かおぉかせぇ〜い!」
帰寮前のHRが終了すると同時に、本音が二組に突入を仕掛けた。
どうやら、"顔を貸せ"と言ったようだ。
零「・・・」
本音「? どったの〜?」
零「いや、まさか"顔貸せ"と言われるなんて思わなかったから」
最終学歴が小学校で止まっていた零にとって、この手の台詞はドラマでしか聞いたことがない。
本音は未だに零の戸惑いの真意を掴めないでいたが、目的を思い出して零の腕を引っ張り、廊下へ引きずり出す。
零「な、何ですか?」
本音「たっちゃんさんがね〜、『急いで連れて来て』〜って言われたから、こう・・・ぐい〜んって!!」
「ぐい〜い」の擬音に合わせて、先ほどより強く引っ張る。
零「うわっ!」
本音「わぁ!?」
そのせいで態勢を崩した零は、前方を歩く本音に寄り掛かる形で傾き、本音もぶつかられて前のめりになる。
零の脳内に、自宅療養中に本音が家の壁に頭をぶつけた事と今の状況が重なる。
しかし、二人の目の前は階段が─────
零(ヤバイッ!)
このままでは二人とも階段から転げ落ちる。
いや、転げ落ちるならまだいい。もしかしたら、本音が下敷きのまま階段を滑り落ちるかもしれない。
絵面としては笑えるが、現実に起きたら洒落にならん。
零「んっ!」
片足を強引に本音の前に突き出して踏ん張り、引っ張られていない腕で本音を抱え込む。
本音「ひやぁ!?」
零「え?」
女の子らしい小さな悲鳴。
零自身、咄嗟の行動だったので気付かなかったようだが、抱え込んだ腕は見事に本音の胸を押し潰していた。
その自覚が零にも現れると、飛び退くように零は本音から離れる。
零「ご、ごめんなさい!」
顔を真っ赤にして目を泳がせながら謝罪する零。
それに対し、珍しく胸を両腕で隠し恥じらいを見せる本音は、俯き気にコクッと頷くだけだった。
その様子を遠巻きに見つめる人物がいた。
簪「・・・」
(やっぱり落合さんも姉さんの・・・というか、本音の胸、前より大きくなってない?)
そう思い、己の胸板を擦ると先ほど以上に表情に暗さが増幅された。
【一夏SIDE】
一夏「うぅ・・・ここは?」
楯無「あら、お目覚め?」
あれ? 俺はさっきまで楯無先輩と組み手をしていたから、剣道場にいたはず。そして何度も何度も投げ飛ばされて・・・
でもここは明らかに保健室だ。そして、楯無先輩に何故か膝枕を・・・えっ!?
一夏「い、一体何を───うおっ!?」
楯無「ほら、動かない動かない♪」
飛び起きようとした俺の肩を掴み、再び自身の膝へ持っていく楯無先輩。
女性特有の柔らかさが後頭部から伝わってきて、心臓の動悸が早くなる。
一夏「い、いいから離れて下さい!」
楯無「ええ〜・・・嫌」
な、何故に・・・?
[ウィンッ]
本音「や、やっと見つけたぁ〜」
抗いきれない状況の中、のほほんさんと何故か同伴している零が保健室に入ってきた。
まるで、さっきまでフルマラソンに参加していたほどの疲れを見せるのほほんさん。
零も同様の疲れを見せており、顔色が少し悪い。
楯無「あら、どうしたの二人とも?」
零「はぁ、い、いや・・・はぁ、はぁ・・・んんっ、はぁ・・・あなたが呼んだ・・・でしょ?」
楯無「・・・あっ、そうだったわね」
本音「もう、10年分ぐらい・・・はぁ、はぁ、走ったよぉ〜」
どんだけだよ・・・。
零「って、何してるんですか?」
一夏「いや、それ俺が知りたい」
息を整えた零は、口角を引きつかせて唖然としている。
零にしては珍しく気持ちが表情に出ていた。
楯無「膝枕♪ 羨ましい?」
零「馬鹿言わないでください」
そう平然と言い放つ・・・零の奴、普段と違って刺々しいぞ。仮にも先輩なんだから。
楯無「なによ、"仮にも"って」
一夏「いてててっ!?」
思いっきり頬をつねられた。あれ? 俺、声に出してたか?
本音「え、ええと〜・・・じゃ〜、失礼しま〜す」
ささ〜と保健室から去る際、チラッと零の方を見たのほほんさん。その視線に気づく零だったが、目を合わせようとしなかった。
何だ、あの意味深い仕草は・・・。
楯無「・・・ハハーン♪ 落合君、あなた本音ちゃんに────」
零「いっ、いやっ、私はっ────」
ラウラ「ここにいるのか、いち、か・・・」
不敵な笑みで尋ねた先輩の発言に、あからさまに動揺する零の後ろ・・・つまり廊下からラウラがやってきた。
そういえば、今日はラウラにIS訓練の相手をしてもらう事になっていたな。
そのラウラは、俺を見つめて固まっている・・・
ラウラ「目標を撃退する」
が、目に留まらぬ速さで零の横を走り抜き、ISを腕部だけを部分展開し、プラズマ手刀で先輩に斬りかかった。
楯無「"戦場では、常に冷静な判断力が求められる"」
ラウラ「ッ!?」
先輩は無駄のない動きで部分展開された腕部装甲を扇子で流し、勢いのまま懐に飛び込んできたラウラの首根っこを掴み、頸動脈に開いた扇子を押し当てた。
ラウラは驚きを隠せない様子だったが、負けを認めて部分展開を解除。
俺はというと、先輩の膝の上で超至近距離から二人のやり合いを目の当たりにし、零は速過ぎる展開についていけてないようだ。
ラウラ「くっ・・・」
楯無「はい。ラウラちゃんはお利口さんね」
ラウラ「ら、ラウラ、ちゃん・・・?」
ちゃん付けで呼ばれて、完全にラウラの戦意を削いだ・・・この人は、人をかき乱したりペースに乗せることに長けてる。
俺も、つい安い挑発に乗せられて、先輩のISコーチを受ける事になった・・・。
零「・・・で、私に用って一体?」
楯無「ああごめん。すっかり忘れてたわ」
零「・・・」
今度は悲しげな表情をする・・・零であっても、先輩の前では手玉のように揺さぶられてしまうのか。
楯無「それじゃあ、行きましょう。これから、一夏君も落合君も私が付きっきりで強くしてあげるわ」
って事なので、俺達四人(ラウラも楯無先輩に連れられてきた)は第三アリーナにやってきた。
シャルロット「あ、あれ? 一夏・・・それにラウラも落合君まで」
セシリア「今日はラウラさんと第四アリーナで特訓のはずでは・・・あなた誰ですの?」
シャルロット「せ、セシリア、生徒会長だよ」
セシリア「ああ、どこかで見た事あると思ったら、この前の全校集会で見ましたわね」
シャルロット(い、一応、相手は先輩なんだよぉ・・・)
シャルのフォロー空しく、セシリアの高飛車な態度は続く。
苦労体質だな、シャルは・・・。
楯無「今日から一夏君と落合君の専属コーチになりました、更識楯無会長です♪ これからよろしくぅ!」
手を挙げて高々と宣言。
すると、シャルとセシリアがあたふたと俺に詰め寄ってきた・・・ラウラに話した時も同じ反応だったな。
一夏「しょ、勝負の結果なんだ! すまん!」
シャルロット「・・・もう」
セシリア「勝手すぎますわ・・・」
ほっ・・・何とか怒りの矛を納めてくれた・・・。
楯無「それではさっそく始めましょう。シャルロットちゃんもセシリアちゃんも手伝って頂戴」
零「今回は、かなり手抜きが多いですね」
一夏「まぁ、くどくど書かれるよりこうやって場面を飛ばせば、読みやすいと思っているんだろう・・・・・・・・って、何が?」
やべっ、零の意味不明な発言に乗っかったせいで、僅かな余力が消費された。
俺と零はあの後、セシリアとシャルロットが実践してくれたマニュアル操縦技術を徹底的に叩き込まれた。
ISには様々な操縦者を補助する機能が搭載されている。
例えば、銃撃による反動を軽減させたり、超高速中の何倍もののGを吸収してくれたり、と操縦者の負担を減らしてくれるものもある。
今回、俺達が習ったのはシューターフローと呼ばれる射撃戦闘技術の一つ。
対象物の周囲を円を作るように旋回し、機体制御、射撃の二つの動きを同時に意識し、なおかつ敵の攻撃にも対応せねばならない・・・あ〜、考えただけで頭gおかしくなりそうだ。
零「夕食、食べれそうですか?」
俺がこんなに疲れているのに、零はものの10分でシューターフローを会得していた。
だからなのか・・・椅子に座って、こんなにも余裕な面持ちで、今にでも崩れ落ちそうな俺に向かって夕食を誘おうとしやがって。
こちとら、この低反発ベットの心地よさを心から味わっているというのに・・・!
って、零に八つ当たりしても仕方がないよな。反省、反省・・・。
一夏「いや、俺はいいや」
零「そうですか・・・なら、私もいいです」
一夏「気を遣わなくていいぞ。ちょっと顔色悪いし、食える時食っとかないと、いつ体調を崩すか分からないぞ」
零「・・・なら尚更、行かないでおきます」
そう言って、椅子から立ち上がりベットに倒れこむ。
俺は何事かと思ったが、すぐに零の寝息が聞こえてきてハッとした。
一夏「・・・そうだよな。お前も疲れてるよな」
シューターフローを会得したからといって、その後は何もしない事なんてない。
俺が夕食に行くといえば、零はついてきただろう・・・1秒も経たずに寝れるほどの疲れを抱えながら。
一夏「よく分かんねぇけど、やっぱ良い奴だな・・・zzz」
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