魔法少女リリカルなのは〜原作介入する気は無かったのに〜 第百二十五話 猫と天使と魔女と聖帝
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 〜〜優人視点〜〜

 

 「痛てててて……」

 

 俺は鼻を擦りながら通学する。

 

 「全く…優人が悪いんだからね」

 

 俺に歩幅を合わせ、隣を歩いているのは幼馴染みの九崎凜子。

 

 「だからって蘭丸を放り投げるか」

 

 この幼馴染み様は俺を起こすために、自分が飼っている猫の『蘭丸』を俺の顔面に投げつけてきたんだ。

 顔の上で蘭丸が暴れ、爪で鼻先を引っ掻かれた痛みで俺は目を覚ましたのだが…

 

 「うるさい!!女の子に対して『重い』っていう言葉はNGワード同然なんだから!!」

 

 「寝ぼけてる状態の俺に言われても困るってーの」

 

 少しずつ痛みが治まっていく中、俺は愚痴る。

 

 「まったく。16歳になったのにデリカシー無いんだから」

 

 「はいはい、すいま………16歳?」

 

 「そうよ。優人、今日が誕生日でしょ?ハッピーバースデー」

 

 凜子に言われて思い出す。

 確かに今日は5月30日。俺の誕生日だ。

 俺はポケットに入れていたお守りを取り出し、ジーッと見詰める。

 

 「(俺の身寄り……父さんと母さんが亡くなってもう7年か…)」

 

 7年……早いもんだな。

 家族がいなくなり、1人になって悲しかったけど寂しくは無かった。

 凜子や凜子の両親が良くしてくれたからだ。それに……

 

 「それっておばあ様から貰ったっていうお守り?」

 

 「うん。これ持ってたら何だかピンと張りつめた感じがしてたんだけど…」

 

 今は全くしないんだよな。

 もしかして身体が慣れた………訳無いか。

 じゃあ…

 

 「…ひょっとして、くえすの言ってたお守りの効果が切れたのかな?」

 

 このお守りは俺が鬼斬り役と言う事実を妖達に認識させないための物だったらしいし…

 

 「主が天河優人か?」

 

 「え?」

 

 お守りを見ていると誰かに俺の名前を呼ばれたので顔を上げる。

 そこにいたのは…

 

 「……………………」

 

 黒い長髪を束ね、どこか凛とした雰囲気を纏った女の子だった。

 …………誰?

 俺の名前を呼んだと思われる目の前の女の子の顔を見るが、知り合いの中に思い当たる人はいない。

 

 「ふん……中々男前になったのぅ」

 

 え?

 隣にいる凜子と反対の方から声が聞こえた。

 目の前にいた筈の女の子の声が。

 横を向いて確認しようと思った矢先、俺の首筋に『ふぅ〜』と息を吹き掛けられ、思わずゾクゾクと身震いしてしまう。

 

 「………………はっ!?」

 

 そこへ傍観気味だった凜子が再起動し

 

 ガシッ!

 

 「ち、遅刻するわよ!!遅刻遅刻〜〜〜〜っっ!!!!」

 

 首根っこを掴まれたかと思うと物凄い勢いで俺を引き摺って走り出す。

 

 「………ふふ」

 

 謎の女の子の姿がどんどん遠ざかっていく中、彼女は微かに笑っていた様な気がした………。

 

 

 

 〜〜優人視点終了〜〜

 

 今日も良い天気だな。

 学校の正門を潜ってから空を見上げる。

 家を出てから何度見上げた事だろうか。

 本当に良い天気なんだ。洗濯物を干すには絶好の日だよ。

 

 「今日は良い天気ですね。布団のシーツを干すのにはもってこいの日です」

 

 肩を並べていたアミタが口を開く。俺と同じ様な事を考えていたみたいだ。

 

 「授業中眠くなりそう………あら?」

 

 俺を挟んでアミタと反対側で肩を並べて歩いていたキリエは、自分が喋っている途中何かに気付いたみたいで俺達の後ろを振り返る。

 

 「………何か凄い勢いで凜子と優人が迫って来てるわねぇ」

 

 ん?

 その言葉に俺も後ろを振り返ってみるとドドドドド、と足音が聞こえる程の怒涛の勢いで九崎が優人を引っ張りながら登校してくる姿が見えた。

 徐々に近付いてくるクラスメイトに俺は声を掛け、挨拶しようとする。

 

 「よう2人共、おは………」

 

 ドドドドドドドドドドドドドド!!!!

 

 「…………よー」

 

 俺達の姿など眼中に無いかの様に無視をし、そのまま走り抜けて去って行く九崎と九崎に引っ張られていく優人。

 優人は手を振って俺達に助けを求めてた様な気がする。

 しかし俺達は何も出来ず、呆然として2人を見送るだけだった。

 

 「……行っちゃったわね」

 

 「……まあ、目的地は教室ですからすぐに会えますけどねぇ」

 

 だよなぁ。

 流石に九崎も教室に着いたら優人を解放するだろう。

 俺達は改めて歩きはじめ、校舎内に入り、教室へ向かう。

 

 「「「おはよー(おはようございます)(おっはー)」」」

 

 教室にいる皆に挨拶をして、自分の席に向かい、カバンを置く。

 優人と九崎の姿も当然あり、優人は机に突っ伏し、九崎に関してはどことなく怒っている様に見える。

 …あの2人の間に何があったんだ?

 俺は優人に近付き声を掛ける。

 

 「優人、おはよう」

 

 「……勇紀か。おは」

 

 「九崎との間に何かあったのか?」

 

 ぶすぅっとした表情のまま席にいる九崎。

 

 「ちょっと今朝に……な」

 

 やっぱり何かあったんだな。

 

 「チィーッス優人、勇紀」

 

 俺と優人の元に来たのは泰三。

 

 「「おはよう泰三」」

 

 「おう……てか優人どうしたよ?元気無えなぁ」

 

 「ははは……」

 

 「九崎との間に何かあったみたいだぞ」

 

 「んー?」

 

 ほれ、と九崎の方を見る様に顎で指す。

 

 「……成る程なぁ」

 

 九崎の様子を見て理解した泰三。

 

 「号外号外号外号外!!号外だよーーー!!!!」

 

 そこへ大声を上げながら忙しなく教室に飛び込んできた1人の女子生徒がいた。

 

 「どうしたんだ新聞?」

 

 クラスメイトの1人が声を掛ける。

 教室に飛び込んできた女子生徒の名は『((新聞|しんもん))やよい』。

 俺達のクラスメイトの1人であり、風芽丘の新聞部の部員でもある。

 

 「遂に!!遂に激写したのよ!!あの『怪盗天使ツインエンジェル』の姿を!!」

 

 「「「「「「「「「「嘘っ!?」」」」」」」」」」

 

 「本当よ!見てよコレ!!」

 

 驚くクラスメイト達をよそに((新聞|しんもん))は自分が作成した新聞を教室の壁に貼り付ける。

 その新聞を読もうとクラスメイト達の一部が集まり出す。

 俺と泰三もクラスメイト達の野次馬に交わり、新聞に目を通す。

 そこにはデカデカと『大激写!!コレが怪盗天使ツインエンジェルの正体!!』と書かれているが…

 

 「………どこに写ってるんだよ?」

 

 野次馬の1人が漏らした言葉に俺達もそうだそうだ、と続く。

 新聞の1面にある写真は夜空を採ったとしか思えないただの写真だった。

 

 「ここよここ!!」

 

 ((新聞|しんもん))が指差す先には建物の上に佇む人影っぽいのが2つ。

 

 「……全然見えねーじゃん」

 

 「こんなん撮ったって言えねーよ」

 

 「期待して損したよ」

 

 「戻ろ戻ろ」

 

 野次馬は新聞に興味を無くし、一斉に散らばっていく。

 俺達も再び優人の側へ寄る。

 それから予鈴が鳴るまで優人はグッタリと机に身を預け、九崎はジロリと優人を睨みつけていたのだった………。

 

 

 

 〜〜優人視点〜〜

 

 …昼休み。

 俺は勇紀や泰三とメシを食おうと思っていたんだが、今朝の登校時同様、凜子に首根っこを掴まれて屋上まで拉致された。

 

 「……脳内検索は終わった?」

 

 「な、何の事かなぁ?」

 

 「とぼけないで!今朝の子の事よ!!知ってるんでしょ!?」

 

 凜子は俺の胸倉を掴みながら詰め寄ってくる。凄い剣幕だ。

 

 「いやー…それがサッパリでして……」

 

 「だまらっしゃい!!」

 

 ひいぃぃぃっっ!!

 

 「私聞いたんだから!『天河優人』って確かに言ってた!それにあの制服、近隣の学校じゃないわ!かなり遠くから来てる!!」

 

 「凜子って制服に詳しいんだ」

 

 見ただけで分かるだなんて実は制服フェチなんじゃ……

 

 「言っとくけど、制服フェチとかじゃないからね。運動部助っ人の際に行った県大会でイロイロなトコの制服見てるだけだから」

 

 「成る程…」

 

 そういう理由なら納得出来る。

 もし凜子が制服フェチや制服マニアだったりしたら…。

 ………いや、趣味趣向は人それぞれ。俺がとやかく言うべき事じゃないよな。

 ただ、周りの人間が距離を取ろうとも俺だけは変わらず凜子と接しようと思う。

 

 「優人、アンタ何か失礼な事考えてるでしょ?」

 

 「イエ、ベツニ…」

 

 勘が良いなこの幼馴染みは!?

 こりゃ迂闊な事は考えられないぞ。

 

 「……で、結局あの子は誰な訳?まさか神宮寺くえすみたいな『ヒミツの許嫁その2』とかじゃないでしょうね〜〜〜〜?」

 

 ギリギリギリ!

 

 胸倉を掴む凜子の手に加わる力が増す。

 

 「わ、分からないッスいやマジで……」

 

 もしじっちゃんやばっちゃん、もしくは父さんや母さんが勝手に決めてたのなら俺に言われてもどうしようも無い。

 でも案外その可能性あったりして。喋り方も何か古風だったし……

 

 ギイイイィィィィィ…

 

 「……見つけたぞ……末裔……」

 

 「「???」」

 

 屋上の扉が開く音がし、俺達以外の声が耳に届く。

 

 「……泰三?」

 

 「柾木君?」

 

 クラスメイトであり見知った顔、泰三の姿がそこにあった。

 

 「天河……」

 

 ゾクリ

 

 な、何だ今の悪寒は?

 それにいつもの泰三と比べると若干声色が低い気がする。

 アイツは泰三……なのか?

 目の前の泰三…だと思う奴は右腕を軽く横に薙ぐと目に見えない((何か|・・))が俺に当たる。

 

 「痛っつー……」

 

 「ちょっとぉ…尋常じゃないわよ柾木君。優人一体何したのよ?」

 

 凜子は丁度、泰三の位置から見て俺の真後ろにいたので今の衝撃は受けなかったみたいだ。

 

 「何もした覚え無いって!」

 

 「ククク…天河の末裔を見つけてみれば己の血が持つ意味も知らぬ小僧ではないか。しかし安心せぃ。ひと思いに屠り、その肝を思う存分に食ろうてやろうぞ」

 

 オイオイホントに何があったんだ泰三?

 てか今『天河の末裔』って言ったよな?

 それって鬼斬り役の事を指してるのか?何で泰三がその事を?

 

 「それは困るな」

 

 「「へ?」」

 

 「ぬ?」

 

 屋上にいる俺達は一斉に反応する。

 背後から突如、俺と凜子の頭上を跳び越え、俺達と泰三の間に割って入って来た乱入者が。

 

 「コイツは私の((男|エモノ))だ」

 

 左手に刀を携え、悠然と立っているのは今朝俺と凜子が遭遇した謎の少女だった。

 

 「キ、キミは……」

 

 「け、今朝の誘惑女!?」

 

 声を掛けようとしたら視線だけをチラリと向けられる。

 

 「無駄じゃ。今の主には何も出来ぬ」

 

 「え?」

 

 そう短く告げると再び泰三に向き直る。

 

 「貴様、何者だ?」

 

 「三文妖に名乗る名は持たぬ」

 

 そして鞘から抜き出した刀を静かに構える。

 

 「我、刃を向けるは妖のみ。我、斬り伏せるは妖のみ」

 

 「な、何々!?その刀って((真剣|ホンモノ))!?」

 

 「待って!待ってくれ!その刀で何する気だ!?ソイツは友達なんだ!止めてくれ!!」

 

 「生憎私は山育ち故、街の空気にはまだ身体が馴染んでおらん。妙な手心を加えるには少々((たるい|・・・))のだ」

 

 「……ククク、面白い。ヒトに屠れるモノなら屠ってみせよ」

 

 「承知!」

 

 言うが否や少女は泰三に向かって駆け出す。

 マズい!!((真剣|アレ))で斬られたら泰三は……。

 そう思った俺は反射的に身体が動き、背後から少女を抑えつけた。

 

 「や、止めろって言ってる……」

 

 ぐにゅっ

 

 「……だ……ろ………?」

 

 俺が少女の背後から回した手は弾力のある((ナニカ|・・・))を掴む。

 

 「な……////」

 

 むにむに…

 

 や、柔らか……

 

 「ど、どこを触っておるかぁっ!!////」

 

 ゴガッ!!

 

 「おぶっ!?」

 

 裏拳を顔面で受け、俺は吹き飛ばされる。

 俺が離れた事により自由の身となった少女は再び泰三に迫る。

 そのまま泰三を斬り伏せるのかと思いきや、刀を返し、刃の無い部分で鳩尾に一撃。

 

 「な、何ぃっ!?」

 

 直後、泰三の背中から黒い靄のようなモノが出て来た。

 何だアレ?俺が疑問に思っている間にも少女は靄に刀を突き立て、『ギャアアァァァ!!』という断末魔の叫びを聞いた後に屋上から飛び降りていった。

 ……((屋上|ここ))、結構高いんだけど?

 

 「優人ク〜ン…」

 

 ……何だろう?今、背後を振り向いたらいけない様な気がする。

 

 「今度こそ教えてくれないかなぁ?思わず抱き着いちゃったあのデンジャラスサムライ((少女|ガール))の事、じっっっっっっっくりと教えてくれないかなぁ?ねぇ?ゆ・う・と・く・ん!!!」

 

 ……起こってるやーん。俺の事『くん』付けで呼んでる辺りメッチャ怒ってるやーん。

 俺は背を向けたまま背後にいる((修羅|りんこ))に言う。

 

 「り、凜子さん。アレは泰三を助けるために止む無く…でして……」

 

 「ふううぅぅぅぅぅん?じゃああの((少女|ガール))の胸を揉んだのも柾木君のためなんだ?」

 

 「も、揉んでなんかナイデスヨ?」

 

 「……大きかった?」

 

 「うん。結構………あ」

 

 しまった!!

 俺は慌てて釈明しようとしたが時既に遅し。

 

 「死ねえええぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!!!」

 

 凄まじい速度で正面に回り込まれ、拳の連打を浴びて俺は悲鳴を上げる間もなく意識を手放した………。

 

 

 

 〜〜優人視点終了〜〜

 

 〜〜飛鈴視点〜〜

 

 「…確かこの辺ね」

 

 私は今、昼休み中とはいえ、学校の外、街中をうろついていた。

 …いや、正確にはとある妖気を追ってきたのだ。

 以前、姉様と手合わせを行った駄猫の妖気を。

 学校を出て程無くして追い付いた。

 

 「私や姉様の通う学校に堂々と侵入するなんて随分と舐めた真似してくれるじゃない駄猫」

 

 「っ!?お主は!?」

 

 駄猫…野井原の緋剣は私がここにいる事が信じられないのか、驚愕の表情を浮かべた。

 が、それも一瞬の事。すぐに駄猫は目付きを鋭いものに変え、僅かに敵意を滲ませる。

 

 「まさかこの様な地でお主に会うとは思わなかったわ。今日の私はツイてないのぅ」

 

 「ふん。あの((天河優人|みそっかす))が風芽丘に通ってる以上、いずれは会う事になるとは思ってたけど」

 

 「……各務森の腰巾着であるお主がいるという事は飛白殿もいるという事であろう?中越に居を構える鬼斬り役が何故この地におる?」

 

 「別に私や姉様がどこにいようと勝手でしょう」

 

 「……お主等は既に若殿と鬼斬り役として接触したのか?」

 

 「接触したきっかけは末席のせいだけどね」

 

 「末席……まさか神宮寺くえすまでもがこの街におるのか!?」

 

 ((末席|じんぐうじ))がいるのも予想外なのだろう。先程同様に表情が驚愕のモノに変わる。

 

 「そういう事よ。だからこの街で可笑しな事はしない事ね」

 

 「……まるで私が何かしでかすとでも言いたげそうじゃな?」

 

 「アンタの内に潜む獣の本性を姉様は危惧してる。((天河|みそっかす))ですら止められるかどうか分からないもの。出来るなら今この場で私が消してやりたいぐらいだわ」

 

 後の禍根になりそうな存在なのよねこの駄猫は。

 

 「……ふん。なら一戦交えるか?もっともここで騒ぎを起こせばすぐにでも人が来ると思うが」

 

 「何?遊んでほしいの?」

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 私と駄猫はお互いに身構えるが、しばらくした後私の方から構えを解く。

 

 「……止め止め。姉様やアイジさんからの命がある訳でも無いし、今日の所は見逃したげるわ。さっさと飼い主である((天河|みそっかす))の元にでも向かえば?」

 

 こんな所で争っても今の私に得する事なんて無いし。

 はっきり言って時間と労力の無駄ね。

 

 「何じゃ?かかって来んのか?」

 

 「アンタとじゃれ合ってる時間なんて無いって言ってるのよ。私学生だし」

 

 腕時計に目をやると昼休みが終わりかけてる。

 ヤバ、早く戻らなきゃ。

 私は踵を返し学園に向かって走り出す。

 仮にこの街で駄猫が暴走しても止められる人材なんて結構いるしね。

 私や姉様、((末席|じんぐうじ))に神咲の退魔師に彼女が従えてる子狐。

 それに……未だ戦ってるのを見た事は無いけど長谷川勇紀も戦力にはなるだろうしね………。

 

 

 

 〜〜飛鈴視点終了〜〜

 

 ……ほーうーかーごー。

 今日も無事平穏に授業が終わりました。

 もっとも昼休み直前まで飛鈴ちゃんはどっか校外に出てたみたいだし、昼休みが終わっても優人が戻って来ず、1人戻って来た九崎に聞いた所、保健室直行したとかという出来事はあったけど。

 ……優人に何があったんだろうか?

 九崎が不機嫌な所を見るとまた九崎にでもボコられたと思うのだが…。

 …気にしててもしょうがないか。

 

 「長谷川くーん!!」

 

 「ん?」

 

 このゆかりんボイスは…。

 

 「あのねあのね。ちょっと聞きたい事があるんだけど良いかな?良いかな?」

 

 クラスメイトの水無月遥さんじゃないですか。

 

 「何か用か水無月?」

 

 「モチョッピィ君知らないかな?今日私と一緒に日直なんだけど…」

 

 「あー…モチョッピィならあそこだ」

 

 俺が窓の外…グラウンドの一点を指す。

 そこには

 

 「モチョッ!!」

 

 サッカー部の部員とPK対決してるモチョッピィの姿があった。

 モチョッピィの蹴ったボールは見事ゴールに収まり、周囲からの歓声が沸く。

 

 「…何してるの?」

 

 「PK対決だな。何でやってるのかは知らんけど」

 

 そもそも普段から『モチョ』『モチョッピィ』としか言わない奴との会話、意思疎通って成り立つのか?

 向こうはコチラの言葉を理解してる様だが、俺からすれば何言ってるのかさっぱりだ。

 

 「うーん、まあいいや。モチョッピィくーーーーーーーん!!!!!!」

 

 水無月が大声でモチョッピィを呼ぶと、呼ばれた当人がコッチを向く。

 

 「今日日直でしょーーーーー!!!学級日誌早く書いてーーーーー!!!」

 

 「モチョッ!!?」

 

 水無月の言葉を聞いて自分が日直だという事を思い出した様だ。

 サッカー部の人達に何度も頭を下げてから校舎に向かって駆けてくる。

 中々の速さだ。陸上部にでも入ればレギュラー取れるんじゃないだろうか。

 

 ドオオオォォォォォォンンンン!!!!

 

 「うおっ!?」

 

 「にゃっ!?」

 

 モチョッピィが校舎の中に入ったのと同時に轟音、そして地響きが。

 突然の事だったが俺も水無月も転んだりする事は無かった。他のクラスメイトは尻餅をついていたりするが。

 何だいきなり!?

 窓の外を眺めると巨大なロボットが学校の保管庫を襲撃していた。

 

 「(おいおい……)」

 

 こんな白昼堂々とロボットが姿現して良いのか?

 ロボットは周囲を一切気にせず破壊して出来た保管庫の穴に巨大なアームを入れ、抜き出したアームの先には何かを掴んでいた。

 あれって……

 

 「(((聖遺物|ティアラ))……だよねぇ)」

 

 聖遺物……世界中に散らばった無数の『聖杯の欠片』の呼称。

 あのティアラはその聖遺物の中でも特に強い力を持つ((7つの聖遺物|セブン・アミュレット))の内の1つ。

 その聖遺物の強奪事件という事は…。

 俺が教室内に視線を戻すと既に水無月の姿は無かった。

 

 「(本格的に始まりましたか……)」

 

 俺が前世で観ていたアニメの1つ……『怪盗天使ツインエンジェル』の原作が………。

 

 

 

 午後6時半過ぎ……。

 

 「しまった…」

 

 俺はキッチンで調味料を置いてる棚を見て呟く。

 

 「砂糖が切れているじゃないか」

 

 今日の夕食当番は俺。

 で、スーパーで夕食の食材を買って帰って来たまでは良かった。

 だが、砂糖が切れている事をすっかりと忘れていた。

 今日はすき焼きにしようと思っていたんだが…。

 

 「勇紀、どうしたの?」

 

 「レスティアか。実は砂糖が無いのですき焼きの準備が出来ないんだよ」

 

 「私が買ってきましょうか?」

 

 「良いのか?」

 

 「家に居て夕食を待つだけというのも退屈だしね」

 

 「じゃ、お願いしようかな」

 

 俺は財布から千円札を1枚渡す。

 

 「あ、レスティア。もし街中でサウザー見掛けたらさっさと帰って来る様に言っといて」

 

 アイツ今日は聖帝様の集いで海鳴の子供達集めて何かしてる筈だけど、この時間まで子供達解放してないとなると少し問題だからな。

 誘拐事件なんて起きようものならシャレにならん。

 もっともこの街の治安を乱そうとする奴は聖帝様の餌食になるんだけどね。

 

 「了解」

 

 レスティアは小さく頷き、キッチンを後にする。

 

 「さて……」

 

 とりあえずすき焼きをすぐにでも作れる様下準備をしておきますか………。

 

 

 

 〜〜サウザー視点〜〜

 

 「聖帝様、お疲れ様です」

 

 「奴等、口先だけで実力は大した事無かったですな」

 

 「ふっ、当然よ。俺からすればあの程度のネズミ共、いくら群れを成そうが敵ではない」

 

 つい先程、俺と聖帝軍の連中は群馬県からやってきた暴走族というネズミの群れを殲滅し終えた所だ。

 以前、俺にガンをつけてきたネズミが暴走族の一員だったらしく、叩き潰してやったのだが、その時の報復と言わんばかりにネズミは群れを成してこの海鳴市へ攻め込もうとしていた。

 お師さんの治められているこの街をネズミ共の血で汚す訳にはいかんからな。聖帝である俺自らが聖帝軍を率いて敵地へ殴り込み、ネズミの群れを壊滅させたと言う訳だ。

 平日であるにも関わらず聖帝軍は全員集合。

 当然だな。学校などに通うよりも、お師さんの治められているこの街を守る事の方が優先されるのだから。

 

 「しかしあの程度の連中が群馬一の暴走族とは……」

 

 「聖帝様が出るまでもなかったと言わざるを得ませんね」

 

 聖帝軍の隊長格、雄真とハチの言う通り、あの程度なら聖帝軍だけでも充分だったな。

 聖帝軍の連中はほとんどが小学生だが、俺自身が鍛え上げてやったのだ。最早一般のネズミ程度では止められる筈も無い。

 

 「だがこの俺、聖帝の((暴力|チカラ))による絶対的な恐怖を奴等に教え込む必要があったからな。今回は出陣する必要があったという訳だ」

 

 おかげで奴等はすっかり従順な奴隷と化したわ。

 ついでに群馬一の暴走族を支配下に置いた事で、群馬県は我等の手に落ちたという事でもある。

 

 「これでお師さんの日本統一に一歩近づいたんですね聖帝様」

 

 「そういう事だ」

 

 全ては偉大なるお師さんのため。

 お師さんはこの国、ひいては世界の頂点に立たれるべき御方なのだ。

 その障害となるもの、立ちはだかるネズミ共を潰すのが我等海鳴聖帝軍の存在意義よ。

 

 ドオオォォォォンンン!!!

 

 「むっ?」

 

 遠くで謎の爆音が。

 

 「何だ?」

 

 「敵襲か?」

 

 聖帝軍の連中もざわつき始めるが

 

 「静まれぃ!」

 

 俺が一言発し、聖帝軍のざわつきを収める。

 

 「どうやらこの街で騒動を起こす愚かなネズミがいる様だ」

 

 俺は爆音のした方角を眺めながら言う。

 

 「お師さんの街で騒動を起こすだなんて!!」

 

 「そいつ等絶対許さねぇ!!」

 

 「害虫は駆除だ!!いますぐ駆除するべきだ!!」

 

 聖帝軍も怒りを露わにし、口々に言う。

 

 「お前達の言う事はもっともだ。この街に騒音をもたらすネズミを一掃しに行くぞ!」

 

 「「「「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」」」」

 

 俺達は一斉に煙が上がり始めた場所へ向かい始める。

 覚悟するがいいネズミ共、フハハハハハハ………。

 

 

 

 〜〜サウザー視点終了〜〜

 

 〜〜遥視点〜〜

 

 「エンジェルアターーーーーーック!!」

 

 私の回し蹴りが昼間、学校に現れた巨大ロボットを蹴り飛ばす。

 昼間盗まれたティアラは万が一の事態に備えて執事の平之丞さんがすり替えていた偽物だったらしく、ホッとしたのも束の間。

 本物のティアラは明日から美術館で一般公開するため、夜の内に美術館に運ぶ手筈になっており、もし昼間のロボットが再度襲ってきたら今度こそ奪われちゃう。

 だから私と葵ちゃんは葵ちゃんのお婆さんでもある風芽丘の学園長からティアラの強奪を阻止するため護衛を引き受けた。

 そしたら案の定、昼間の巨大ロボットが現れたのでこうして交戦中なんだよね。

 

 「エンジェルアローーーーーー!!」

 

 葵ちゃんの放った大量の弓がロボットを操縦してた人を正確に捉え、そのまま服の裾だけを貫いて近くにあった看板に磔にする。

 

 「ティアラ!?ティアラはどこっしょ!?」

 

 ロボットを操縦してた人の言葉が届き、私も周囲を見渡すとティアラは空中に放り出されていた。

 

 「((ティアラ|これ))は返して貰うよ」

 

 私が高く跳躍し、ティアラを取ろうとした瞬間

 

 スカッ!

 

 「ふえっ!?」

 

 私の手は空を切る。

 ティアラが別の誰かに取られた。

 そのまま地面に着地した私はキョロキョロと辺りを見回すと

 

 「聖帝様、これを」

 

 1人の少年が大人の人にティアラを差し出していた。

 大人の人の後ろには10数人の子供達もいる。

 …誰だろう?あの泥棒さんの仲間かな?

 

 「ほぅ……中々出来の良い装飾品ではないか。気に入ったぞ。これはお師さんに献上するとしよう」

 

 「そうですね。お師さんもきっとお喜びになられると思います」

 

 そう言って大人の人は懐にティアラを収める。

 …って、ダメだよ!!

 

 「そのティアラを返して下さい!!」

 

 「そうです!!それはただのティアラじゃないんです!!」

 

 私の傍に寄って来た葵ちゃんも大人の人にお願いする。

 

 「何だ貴様等は?」

 

 「私達は怪盗天使ツインエンジェルです!!」

 

 「怪盗天使……そうか、貴様等か。最近この辺りでチョロチョロしているドブネズミ共は」

 

 「ドブッ!?」

 

 す、凄い言われ様だよ…。

 

 「お師さんが住まわれるこの街の平穏を乱すのは例え天が許してもこの俺が許さぬ。丁度良い、ここで貴様等を叩き潰してくれるわ!」

 

 「「ひうっ!!」」

 

 物凄い剣幕で睨まれ、私と葵ちゃんは小さく悲鳴を上げる。

 こ、怖い。凄く怖い。

 

 「待って下さい聖帝様」

 

 「む?」

 

 一歩踏み出した大人の人を先程ティアラを奪い取った少年が制止する。

 ひょっとして説得してくれるのかな?

 

 「あんな害虫に聖帝様の手を煩わせるまでもありません」

 

 「そうです!ここは俺と雄真に任せて下さい!!」

 

 って、説得してくれないの!?

 

 「ふむ。貴様等の実力をはっきりと測るのに丁度良いかもしれんな。群馬のネズミの群れよりかは目の前のドブネズミ2匹の方が実力はあると見た。良かろう、雄真、ハチよ。ネズミの処理は任せるぞ」

 

 「「御意!!」」

 

 「御意じゃないよ!?」

 

 「黙れ害虫め!!海鳴市に騒動を持ち込んだ罪、死んで償え!!」

 

 「お前等の首を刎ねてお師さんの献上品に追加してやる!!」

 

 そう言って2人の子供が構える。

 何でこんなに敵意剥き出しなの!?

 

 「やれやれですわね」

 

 「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

 

 その時、新たに響き渡る声。

 私達や子供達は周囲を見渡して声の主を探してたけど、大人の人だけはある一点……道路標識の上を見ていた。

 私もその視線を追う様に顔を向けると、標識の上には長い銀髪を靡かせ、ゴスロリドレスを着た女の人が立っていた。

 

 「久しぶりに海鳴に戻って来てみれば街中で騒動は起きてるし、妙な力も感知するし……随分騒がしい街になったものですわね」

 

 女の人は私や葵ちゃん、そして大人の人や子供達を一瞥して軽く息を吐く。

 次から次へと増えてくる乱入者さん達。

 ううぅぅぅ……何だか大変な事になりそうだよぅ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コラーーーー!!アタシを無視するなっしょーーーー!!!」

 

 「そうだそうだーー!!サロメ様を無視するなんて無礼だぞーーーーー!!!」

 

 ………ロボットを操縦してた人達が何だか叫んでるけど、今はそれどころじゃないんだよね………。

 

 

 

 〜〜遥視点終了〜〜

 

-2ページ-

 〜〜あとがき〜〜

 

 色んな勢力が顔合わせ。

 次回はツインエンジェルVS海鳴聖帝軍VSくえす様の三つ巴…………なんかにはなりません。

 あくまで顔合わせさせただけですので。

 それと読者の皆さんのコメント見たくて前回のあとがきでは敢えて書かなかったんですが、やっぱり『聖杯戦争=Fateシリーズ』って連想する人が多いですねぇ。

 期待してる読者の皆さんを裏切る様で申し訳ないんですが、この作品内の『聖杯戦争』とは『怪盗天使ツインエンジェル』での聖杯戦争を指していますので英霊を召喚して殺し合う物騒な戦いは行いません。

 あくまで聖遺物を巡っての戦いって感じです。

 いや……この作品内で『Fateシリーズ』の聖杯戦争をやれない事も無いんですが、自分が書くともう聖杯戦争じゃなくなってしまうと思うんですよ。

 マスターが魔術師じゃなかったりサーヴァントが英霊じゃなかったり殺し合いしなかったりetcetc……。

 ですので自分の気が向かない限り書く事は無いです。

 

 ※追伸

 

 なのはINNOCENTのイベント、今回は((本気|ガチ))で挑んだので150位以内に入る事が出来、レヴィのHRカードをGET出来ました。

 現在はレヴィ軸のデッキ考案中だったりします。

 てかこの小説読んでる方でなのはINNOCENTプレイしてる方どれぐらいいるんですかね?

 

説明
神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。
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コメント
やり始めたばかりですが自分もイノセントやってますよ(ォタでなにが悪い)
なんというか、原作剥離とかそんなチャチなレベルじゃ断じてない。もっと混沌とした何かに変わってきてます・・・そのうちスパロボとか恋姫とか出てくるんじゃないだろうか?あと東方とかC3とか・・・(微願望www)(海平?)
僕はプレイは配信開始のときからで今回はシグナム軸で2000位台でした。これ以上あげようとすると課金しないとな〜(。>д<)しかし、ツインエジェルのほうとは予想がつかなかったです。(((((((・・;)(紅天の書架)
なんか色々混ざり過ぎて話がどんどんわからなくなってきた。どうせならなのははなのはで進めてクロスはIFとかでやって欲しかった(狼少年)
3000より上に行った事無いからHRなど夢のまた夢っす・・・vivid系SR一枚も出ないし・・・それにしても・・・登場人物が偉い数になってきましたなぁ・・・収拾付くのだろうかこれ・・・(孝(たか))
この世界だと英霊が出てきても違和感がないですけどね・・・INNOCENTは一年近くやってます。ただ毎月毎月スマホのデータ容量との戦いで・・・今回のイベントは1600位台でした。(ライブラリアン)
自分はアインス軸ですね。 凄く・・・カオスです・・・(青髭U世)
すごく・・・混沌です。(Fols)
そっかー、英霊を召喚は難しいか。 そんで自分もINNOCENTやってまーす。ちなに自分はヴィータ軸デッキ!!(グラムサイト2)
そしてレスティアが勇紀の名前を出したらくえすと葵と遙が物凄い反応しそうで楽しみです。(俊)
成る程、聖杯戦争はそう言う意味でしたか。そして、色々な勢力が顔を合わせましたね。特に最後の聖帝軍とツインエンジェルとくえすの三つ巴はかなり危険だけど、次回買い物帰りのレスティアの言葉でサウザーはアッサリ解散しそうです。(俊)
あ、勇紀キレるな・・・・これ・・・・(FDP)
前はやっていたが今はサッパリ。ちなにはやて軸のデッキです(ロワイン)
私なのはINNOCENTやってまーす。お風呂レヴィ一枚ならなんとかゲットできました。(REGION)
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