超次元ゲイムネプテューヌmk2 希望と絶望のウロボロス |
『冥獄界』。
それは一言で説明すれば地獄だ。
肉体が滅び、その魂魄が良きものであるか、悪きものであるか区別する神聖で邪悪なる煉獄の地ギョウカイ墓場にあるシステムから選択された穢れし魂が落される場所。
嘆き、悲しみ、苦しみ、怒り。
人の叫び。人の殺意。人の断末魔。
最も深く、激しく、暗く、その感情は総合して『負』と呼ばれる。それは災禍を読み起こす種であるが故に、別の場所に保管して管理する必要があった。だからこそ必要になったのはゲイムギョウ界で顕現している希望の象徴、((守護女神|ハード))と対極なる絶望の象徴、『負』によって生み出されるモンスターに対しての命令権を持つ者。
−−−冥獄神ブラッディハード。
鮮血を纏い、負を背負い、人々の負の総意を治める器。
穢れ、歪んだ、狂った神は愛情と憎悪の矛盾の中で未だに自我を保っていた。
煉獄の業火すら生温い、地獄の劫火に魂を焼かれながら。
◇
なんとか、なんとかネプギアに当てずに奴に直撃出来た。
近くにアイエフとコンパもいる。懐かしいな、最後に会ったのが四年前だったよな。
もう一つ、女神の気配がしたので横目で探すとユニもいた。大樹の蔦に体が埋もれていた気を失っていた。
「……こぅさん、怪我したんですか…?」
心配するような震える声。コンパの声だ。あまり変わっていない。
会った当時から記憶が凍結され、今解凍されたような新鮮さがあった。
順調なら看護学校を卒業しているんだよな。夢だった看護師になったのだろうか。
「…怪我、じゃ、ない」
頭を横に振るって否定した。怪我ではない傷跡と言った方が正しいのかな。
とにかく、再会を素直に喜んでいるほど余裕はない。炎の魔銃『イォマグヌット』の爆熱弾を真面に直撃したのにも関わらずコートが焦げ、煙を上げる程度で済んでいる俺と同じ真っ黒のコートが不愉快だ。
足を進める。涙を流しながらこちらを見つめているネプギアを通り過ぎて、背中に携えた黒曜日に破壊力を求め、双剣に分ける機能を破棄し、改良してもらった紅い分厚い片刃の機械剣『紅曜日』を抜き取った。
「起きて、いる、ん、だろう」
「ありゃ?ばれたか?」
「殺す気、で放った、から、な。その、コートが、耐火性質、でも、なければ、今頃、お前は、消し炭だ」
「ははは、容赦ないな。お前殺人鬼とかそういう類か?」
そう、なのかもしれない。
少なくても殺人経験者の魂を取り込んでしまったから、もう殺せと言われた殺せるだろうなバッサリ。特に相手が女神なら笑って首を飛ばせる自信がある。
「お前、あれだな……((壊れているな|・・・・・・))」
「まだ、狂っていない……欠片だろうが、((まだ俺|・・・))だ。お前、ユニを、ぶっ飛ばした、だろう?」
「おう、ちょっと煽ったらいきなりな。……はぁ、お前の目、感情が死んでいるな。唯一残ったのは女神に対する殺意か?お前の行動は可笑しいぞ」
可笑しい、可笑しいときたかアハハハハ。
「……生気なく笑うな。流石に気持ち悪いぞ」
「勘違い、するな。お前、は女神を、殺せる。だから、お前、は俺が、絶対に、コロス」
「あー、なるほど。支配欲の強い男って面倒だな、オイ」
女神に殺されるために俺はいる。
だからこそ、誰だか分からないお前の様な奴が出てくるのが非常に不愉快で堪らない。
今すぐ俺の前から消え失せろ。俺の終わりを捕まえやがってただじゃ済ませない。
「冥獄界に、蠢く、モンスターの餌、にして、やる…」
「リンダ、直ぐにここから逃げろ。流石にお前を意識しながら戦えるほどこいつは正道じゃない」
「帰って晩飯作ってくれるならここから逃げてやる。あ、勿論私の大好物な」
「りょーかい。余裕あるなら買い物よろしく挽肉が少なくなってきたから」
今夜の献立を考えれるほどの余裕はあるのか、そうか俺はどうやらあいつにとってその程度の存在しかないようだな。リンダと呼んだ空気も服装も不良の女は挑発的な笑みを浮かべてダンジョンの奥に走って逃げた。もし追跡しようとすれば目の前のこいつが止めるだろうな。
奴に注意を払いながら未だに呆然とするネプギアとそれを支えるコンパ。こちらを警戒するアイエフ。
逃げろと言っても中々ここから失せてくれない。こいつ等耳がないのか?理解する頭がないのか?
「紅夜……!」
足を一歩踏み出したアイエフを拒絶するために紅曜日を振るった。
剣閃が地面を走り、俺と彼女達に境界線を作り出す。
信じられない様に動揺するアイエフはゆっくりと口を震わせながら喋り出す。
「……ごめん、なさい」
「?謝罪する、暇が、ある、のなら、早く、行け」
「誤ってすむ問題じゃないけれど……私は、私達は貴方に甘えてしまった」
意味が分からない。
一体何に対して謝罪しているんだこいつは。
「仲間を拒絶しても、お前の表情は全然変わらない。いや、どうでもいいのか?お前の中にあるのは歪み狂った自殺願望だ」
「ーーーそれがどうした?」
世界の方向を決める守護女神達が希望を選んだ。それという絶望が討たれることは当たり前の事。
アイツらがいるからこそ続いていく未来がある。俺を殺して、モンスターを滅ぼして世界は正しく照らされる。絶対悪として俺は殺され続ける。そうすれば人々の関心は永劫不動のものとなる。
だからこそ、お前の様な不安要素は早急に排除すべきだ。紅曜日のトリガーを引くと弾丸が飛びだず、込めていた魔力が紅曜日に搭載されているジェット推進剤から真っ赤な炎を吹き出し、暴れ狂う反動を腕で殺しながら気に距離を詰める。
コロス、絶対に。殺意を込めて横殴りに振り回す。
「……最悪だわ」
落胆の口調と共に黒剣に斬撃が防がれる。空間に満ちている空気が剣圧に吹き飛ぶ、かなり力を込めてもびくともしない。単純に速さが足りない力が足りない。
「……デペア」
『ここでブラッディハードしたら、目の前の敵より女神の方に標的が移るけどいい?』
それは困る。今のネプギア達にはまだ、俺を殺す程の力がない。
『既に二葉ッ子達は撤退したよ。黒ッ娘の妹もちゃんと回収しているから、もう辞めて撤退しよう相棒』
「ここで、こいつ、殺さないと後々、面倒」
「デペア、今のコイツに何を言っても無駄さ。殺してもらう為に女神に愛情を注ぐ−−−誰かがこいつを殴らないと止まらないぞ?」
突き出したイォマグヌットは奴の腕に逸らされた。
デペアと知り合いだったのに驚いたが、どうでもいい。
「ころす、殺す、コロス!!!」
「あれだな、形は変われどお前を最初に殺したあの男の目にそっくりだ」
『……あぁ、僕もそう思う』
態勢を崩そうと回し蹴りしようとするが関節を止められた。
片手で鍔迫り合い状態、片手に持った魔銃は奴の手にとって逸らされている。
足もお互いに阻害していて動かせない。
どんっと頭に衝撃が走る。先に頭突きを決められ足が下がった。先に決められ、更に下がり態勢を整えようとするが低く態勢に構え既に懐に潜られていた。
「−−−頭、冷やしてこい!!」
とつぜんの加速の所為か、深いフードが脱げていた。
露出した顔はよく知っている。会った記憶が合った。思い出せないけど。
視界が真っ赤に染まり意識が宙に舞う。
斬られた感触、防御は微かに間に合わず両断されることは無かったがここはステージ上の建造だ。
大樹の蔦から差し込む陽光が一気に遠くなって手を伸ばしても距離は離れるばかり、最初から手加減されていたことにため息を吐きながら最後に味わったのは体の砕ける音だった。
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その5 |
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