ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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episode10 対決!聖グロリアーナ!

 

 

 

 その頃―――――

 

 

 

「始まりましたね」

 

「あぁ」

 

 大洗町のアウトレットに設けられた試合を観戦出来るモニターを、二階堂達がアウトレットの敷地内に設置されているベンチに座って観戦していた。

 ちなみに言うと、二階堂達の周囲には殆ど人が居ないのは、まぁ言わずとも外見から遠ざかれている。

 

「どんな戦いを見せてくれるんでしょうかね、西住流の家元と五式の隻眼の車長は」

 

「どうだろうな。まぁ、俺はそれを楽しみにしている」

 

 と、二階堂は腕を組む。

 

「しかし、まさかいきなり全国大会で準優勝をした事がある強豪と当たるなんて、よく杏は試合に取り付けたっすね」

 

「伊達にリーダーの跡を継いだってわけじゃないな」

 

「そうだな」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 砲撃音が響く中、Aチーム以外は河嶋が提案した作戦と同じ地形で待機し、Aチームが帰るのを待っていた。

 

(今のはW号の砲撃か)

 

 すると次々と最初と違う砲撃音が続く。

 

(一応聖グロの戦車を引き付けているようだな。

 だが、あのまま広報の作戦を採用とはな。全く)

 

 内心でため息を付き、装填手が付ける手袋の口を引っ張ると、キューポラハッチを開けて立ち上がり、上半身を外に出す。

 

(だが、本当に大丈夫かどうか不安だな)

 

 両側にはそれぞれ各チーム待機しているが、その仕方がそれぞれだ。

 

 Bチームの元バレー部はバレーのトスとパスをして待機している。

 

 Cチームの歴女達はV突に乗ったまま静かに待機している。

 

 DチームはM3の上でトランプをやって暇を潰している。

 

 Eチームは待機していると言えば待機しているが・・・・・・何て言うか、会長は相変わらずだな。

 

 

(Cチーム以外は緊張感がない。これで大丈夫なのか心配になってきた)

 

 内心でまたため息を付くと『Aチームより各チームへ!』とヘッドフォンを通じて西住から通信が入る。

 

『敵を引き付けつつ、待機地点まであと3分で到着します!』

 

 

「各チームに通達!Aチームが戻ってきた!全員持ち場に戻れ!!」

 

「えぇうそ!?」

 

「せっかく革命起こしたのに」

 

 と、ざわつきがあるも、メンバーは戦車に乗り込み、私も車内に戻ってハッチを閉める。

 

『あと600メートルで、敵車両射程内です!』

 

 

「600か。鈴野。射撃準備だ」

 

「はい」

 

 鈴野は引き金に指を引っ掛けてスコープを覗き、ハンドルを回して主砲を下げる。

 

「・・・・・・」

 

 キューポラの覗き窓を覗くと、T字路の奥よりW号が現れる。

 

 

『撃て撃て!!』

 

 と、河嶋の声がヘッドフォンに伝わる。

 

「なに!?」

 

 すると他のチームは一斉に射撃を行い、西住達のW号に攻撃する。

 

『ま、待ってください!』

 

『味方を撃ってどうすんのよぉぉぉぉ!?』

 

 無線越しに武部の悲鳴に近い声がして、私は舌打ちをする。

 

「ちっ!味方に撃ってどうするんだ!!貴様ら!!」

 

 咽喉マイクに手を当てて各チームに怒鳴りつける。

 

「味方を撃つなど素人同然の行為だぞ!!それに河嶋!!勝手に命令を出すな!!!」

 

『なっ!貴様!呼び捨てなど「副隊長は私だ!!貴様に命令の権限は無い!!」うっ!?』

 

 一時は怒りを露にしたが、怒りを表した如月に圧倒されて河嶋は言葉を途切った。

 

『まぁこれは怒られても仕方無いねー』

 

 無線越しで角谷会長の声がした時に、聖グロの戦車がキルゾーンに近付く。

 

「っ!各車両!砲撃始め!!」

 

 如月は各チームに命令を下すと轟音と共に砲撃が始まるも、キルゾーンに入った聖グロのマチルダUにチャーチル、エクセルシアーに掠りもしない。

 

 鈴野も引き金を引いて轟音と共に主砲から砲弾を放つも、砲弾はマチルダUの砲塔に着弾するが曲面部だったので弾かれる。

 

(着弾点が悪い上に、角度が悪い・・・)

 

 

「セシア。あなたは左を。わたくしは右からいきますわ」

 

『了解ですわ』

 

 聖グロはそれぞれ左右にチャーチルとエクセルシアーを筆頭に散開し、エクセルシアーがマチルダU二両を引き連れて左側に回り込んで来るので、反対側を西住とB、Cチームに任せ、私はD、Eチームと共に左側に五式を向けさせ砲撃を始める。

 

『そんなにバラバラに撃っても。履帯か車体側面を狙ってください!』

 

 西住が各チームに伝えるも、それ以前にAチームとFチーム以外は車体にすら砲弾を当て切れてない。

 

『もっと撃て!次々と撃て!!見えるもの全て撃て!!』

 

 

(ちっ!想定以上だなこいつは!)

 

 内心で文句を呟きながらも砲弾を装弾機に乗せてボタンを押して薬室に装填し、坂本と鈴野に砲撃命令を下して主砲と副砲より轟音と共に砲弾が放たれるが、エクセルシアーの車体と砲塔の正面装甲に火花を散らせて弾かれる。

 

 

 

「全車両前進」

 

 と、ダージリンの命令でチャーチル、エクセルシアー、マチルダUが左右よりじわじわとにじり寄る。

 

「・・・・攻撃」

 

 そして聖グロの戦車隊の一斉砲撃が始まって砲弾が大洗の戦車の周囲の地面に着弾する。

 

 

『凄いアタック!!』

 

『ありえない!?』

 

 無線で各チームがパニックになった声が伝わる。

 

『落ち着いて!攻撃をやめないで!!』

 

 西住は説得をするも、混乱は収まらない。

 

『無理ですー!!』

 

『もう嫌ぁ!!』

 

 するとピンクのM3より砲撃と破片が飛び交う中を一年が全員出てきて逃げていく。

 

「あっ!逃げちゃダメだってばっ!!」

 

 西住の声は届かず、その間に無人となったM3はエクセルシアーの放った砲弾が車体側面に着弾し、その瞬間白旗が上がる。

 

 

「こんな危険な状況で外に逃げる!?」

 

「そっちの方がもっと危ないって言うのに・・・・」

 

 外に逃げて行った一年を早瀬と坂本が見ると、後ろで「ちっ!」と舌打ちがする。

 

「・・・・ろくに敵に被害も与えずに敵前逃亡とは・・・・こいつは銃殺刑物だな」

 

 さすがに怒りを感じられずには居られない状態だった。

 

「怖い事言わないでくださいよ、如月さん!?」 

 

 早瀬は青ざめて叫ぶ。

 

「しかもそれ・・・・犯罪ですよ」

 

 冷静に鈴野がツッコミを入れる。

 

「なら絞首刑だ」

 

「同じですよ!?って言うか惨くなってる!?」

 

 坂本がツッコミを入れている間にも聖グロの砲撃は止まず、轟音が響く。

 

 

『あ、あれ!?どうなってるの!?』

 

『あー、如月ちゃん。ちょっと外から見てくれないかな?』

 

 角谷会長より通信が入ってすぐにキューポラの覗き窓を覗くと、38tの左側の履帯が転輪から外れていた。

 

「38tの片方の履帯が外れている」

 

『そっか。やっぱ38tの履帯は外れやすいねー』

 

 すると操縦不能となった38tはそのまま窪みの中に入って身動きが取れなくなる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「武部さん!各車の状況を確認して!」

 

「あ、うん!AチームよりBチーム!そちらはどうですか?」

 

『こちらBチーム!何とか大丈夫です!』

 

「Cチームは?」

 

『こちらCチーム!言うに及ばず!』

 

「Dチームは・・・あっ、そうだった。Eチームは?」

 

『こちらEチーム。ダメっぽいね』

『無事な車両は撃ち返せ!!』

 

『Fチームは?』

 

『(本当にうるさいな・・・・あのトリガーハッピーが)こっちは大丈夫だ。まぁそれもいつまで続くか分からんがな』

 

 最初ボソッとボヤいてる・・・・

 

 

 そうしている間にも聖グロの戦車は徐々に近付いてくる。これでは全滅も時間の問題だ。

 

『私達どうすれば!?』

 

『隊長殿!指示を!』

 

『撃って撃って、撃ちまくれぇぇ!!』

 

『ちっ。どうする、西住?』

 

 

 

「・・・・このまま居続けても、全滅を待つだけ」

 

 西住は真剣な表情で考える。

 

「隊長は西住さんです」

 

「私達、みほの言う通りにする!」

 

「・・・・どこへだって行ってやる」

 

「西住殿!命令してください!」

 

 

「・・・分かりました。B、C、Fチーム!私達Aチームに付いて来てください!ここから移動します!」

 

『分かりました!』

 

『心得た!』

 

『何!?許さ――『少しは黙ってろ!!』ひっ!?』

 

 

『・・・・これより、もっとこそこそ作戦を開始します!』

 

 作戦名の通達後にAチームのW号は方向転換して走り出す。

 

「Aチームに続くぞ!早瀬!」

 

「了解!」

 

 右のレバーを引いてアクセルを踏み、五式を右へと方向転換させるとレバーを戻してW号の後に続くと、八九式とV突がそれに続く。

 

 

 

「逃げ出すの?セシア!追撃するわよ!」

 

『了解ですわ!』

 

 ダージリン達も身動きが取れず明後日の方向に砲弾を放つ38tなど無視して追撃を始める。

 

 

 

 

 

 聖グロの追撃がある中何とか市街地へと入る。

 

「これより市街地です!地形を最大限に生かしてください!」

 

『way not!!』

 

『大洗は庭です!任せてください!』

 

『了解した!』

 

 そうして市街地の複雑な地形の中、散開して狭い道へと入る。

 

 

 

 

「・・・消えた?」

 

 市街地に到着するも、既に大洗の戦車は見当たらない。

 

「・・・わたくし達も市街地に入りますわ。決して油断はしないことよ」

 

『えぇ』

 

 それぞれバラバラになって市街地へと侵入する。

 

 

 

 

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 それから如月達Fチームはある場所に五式を潜めさせる。

 

『所定の位置に五式を配置しました』

 

「分かった」

 

 耳に当てているスマホより早瀬からの電話が入る。

 

『・・・・それにしても、こんな事やっていいんでしょうか?』

 

「構わん。どうせ連盟の方から補償金が出て新しく建てられるんだ。問題は無い」

 

 如月は木に登って葉っぱの中に身を潜め、双眼鏡で路地を監視する。

 

『・・・・それだけで済む話ではないような』

 

 Fチームはとある場所に五式を隠し、敵車両が来るのを待ち構える。

 

 

 

「・・・・来たか」

 

 すると路地を通るマチルダUの姿を見つける。

 

「獲物が来るぞ。早瀬は合図と共に飛び出せ。鈴野と坂本はすぐさま砲撃」

 

『了解!』 

 

『分かりました』

 

 鈴野と坂本より返事が返り、私は監視を続ける。

 

 

 

「・・・・突撃っ!!」

 

 マチルダUがキルゾーンに入り、如月が叫ぶと隣の敷地にある倉庫のシャッターが膨れると、物凄い音と共に倉庫の壁が倒れ、中より五式が出てくる。

 

「て、敵襲!!」

 

「あんな所に隠れていたのか!?」

 

 マチルダUの乗員は突然の襲撃に慌てて主砲を五式に向けようとするが、その前に如月が砲撃の合図を叫び、五式の主砲と副砲より轟音と共に砲弾が放たれ、そのままマチルダUの車体側部と砲塔の根元に着弾し、白旗が揚がる。

 

「こちらFチーム。一両撃破だ」

 

『分かりました。引き続きお願いします!』

 

 西住に撃破を報告すると、如月は木から降りて五式に近付く。

 

「やりましたね!」

 

「まさか連中もこんな所に待ち伏せているとは思わなかったでしょうね」

 

 車体前部の左側の上部ハッチと砲塔天板前部のハッチが開いて坂本と鈴野が顔を出す。

 

「そうだろうな」

 

「でも、持ち主は涙目物ですけどね・・・・」

 

 坂本の隣のハッチが開いて早瀬も顔を出す。

 

「あぁ〜」と、四人が声を合わせて口にすると、倉庫を見る。。

 

 ぶち破った倉庫の向こうにもぶち破った跡があり、更に中に置いてあった資材も大半が踏み潰されている。

 

 

『こちらCチーム!一両撃破!』

『Bチーム!一両撃破!』

 

 如月が五式に乗り込んだ時に、通信で更に二両撃破の知らせが入る。

 

「あの八九式でマチルダを!?」

 

「凄い・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「感心している場合じゃない。ここから移動して次の目標を撃破する!」

 

『了解!』

 

 如月は五式をよじ登ってキューポラハッチを開けて砲塔内に入ってハッチを閉めると、早瀬は右のレバーを引いてアクセルを踏み、車体を右に傾けてレバーを戻して五式を前進させる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『こちらマチルダU1号車!V突の砲撃を受け行動不能!』

 

『こちら4号車!同じく五式の砲撃を受け行動不能!』

 

『こちら3号車!被弾に付き現在確認中!』

 

 

「なっ!?」

 

 入ってきた報告にダージリンは驚きを隠せず、手にしていたテーカップを手放してしまって車内にティーカップが割れる音が響くと中に入っている紅茶が撒き散らされる。

 

『一気に二両も撃破された!?まさかこんな事が・・・・!?』

 

 通信越しでもセシアも驚きを隠せれない様子が窺える。

 

 

「・・・・大洗女子。おやりになるわね」

 

 少し戸惑うも「でも、ここまでよ!」と言って気持ちをすぐに切り替える。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「これからどうしますか?」

 

 家と家の間の路地を五式を走行させながら早瀬が聞いてくる。

 

「敵は残り三両だ。だが、エクセルシアーとチャーチルが厄介だが、まず最初にエクセルシアーを叩く」

 

「側面を取れば、何とか勝機はあるかと」

 

「うむ。ならば―――――」

 

 

『大変です!翔さん!』

 

 と、ヘッドフォンより武部の慌てた声がする。

 

「どうした?」

 

『先ほどBチームとCチームが撃破された報告がありました!』

 

「なに!?」

 

『しかもBチームは敵撃破に失敗してるみたい!』

 

「やっぱりか」

 

「言ってしまったらお終いですけど、やっぱり・・・・ですよねー」

 

 早瀬は「ハハハ・・・・」と乾いた笑い声を漏らす。

 

 

『一旦合流しようってみほが言ってるから、すぐにB308に来て下さい!』

 

「了解した。早瀬!B308地点に向かえ!」

 

「はい!」

 

 早瀬はアクセル全開で五式を走らせる。

 

 

 

 ドガァァァァァァンッ!!

 

 

 

「っ!?」「くっ!」「へぁっ!?」「っ!」

 

 すると後ろから衝撃が走って車内が揺れ、如月はとっさにキューポラハッチを開けて上半身を外に出して後方を見る。

 

「っ!」

 

 そこにはエクセルシアーが路地の角より車体を出して主砲をこちらに向けていた。

 

「向こうから来たか!早瀬!とにかく飛ばせ!やつは重戦車でも小回りが効く!路地を複雑に曲がって撒くんだ」

 

 如月は車内に戻ってハッチを閉め、早瀬に命令を下す。

 

「はい!」

 

 早瀬はアクセルを踏んで五式を飛ばし、すぐに五式を右折させ、更に左折し、もう一度右折させる。

 

「早瀬!このまま直進しろ!」

 

「えっ!?しかし前方には!?」

 

 目の前にはT字路があり、その先はブロック塀に家屋がある。

 

「構わん!このまま直進だ!」

 

「は、はい!」

 

 如月はとっさに砲弾ラックより榴弾を取り出して装弾機に乗せて薬室に装填する。

 

「鈴野!すぐに撃て!」

 

「はい!」

 

 鈴野はすぐに引き金を引き、主砲より榴弾が放たれてブロック塀に着弾すると同時に爆発し、ブロック塀ごと向こう側にある家屋の一部を吹き飛ばす。

 すぐに砲弾ラックから取り出した榴弾を装弾機に乗せて薬室に装填すると同時に鈴野が引き金を引いて榴弾を放ち、家屋に着弾して爆発させて吹き飛ばす。

 

「全速前進!!」

 

 早瀬はギアを上げてアクセル全開で五式を飛ばし、破壊したブロック塀を乗り越え、更に向こう側にある榴弾で半分が吹き飛んだ家屋を破壊しながら突き進む。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!俺ん家がぁぁぁぁ!!これでようやく新築できるぞ!!」と、観客席でそんな事を叫ぶ男性が居るなど、如月達は知る良しも無い。

 

 

 家を破壊しながら突き進んでそのまま前進する。

 

「っ!W号Aチームです!」

 

 すると前方の路地を横切るようにW号の姿が一瞬映る。

 

「このままAチームと合流する!」

 

 そのまま五式を前進させてT字路を左に曲がろうとしたが、その直前に前方に前を横切ろうとするマチルダUが現れる。

 

「っ!?」

 

 停止させれずに、五式はそのまま横切ろうとしたマチルダUの車体側部に衝突してそのまま向こう側の家のブロック塀を破壊して押し込む。

 直後に燃料タンクが吹き飛んでその周囲が黒焦げになっているマチルダUが砲撃を行い、砲弾が五式の砲塔側部に着弾するも、運よく弾く。

 

「くぅっ!右に急旋回!同時に全速後退だ!!」

 

「了解!!」

 

 早瀬はすぐにギアを入れ替えて左のレバーを引いてアクセルを踏み、五式をW号が通った方向に車体後部を向けさせてレバーを戻し、アクセルを踏んで一気に後方へと走らせる。

 

 その間に砲弾ラックから徹甲弾を取り出して装弾機に乗せて装填すると、キューポラの覗き窓を覗く。

 

「っ!停止しろ!」

 

 すると行き止まりにこちらに車体前面を向けていたW号が見えて、とっさに五式を停止させる。

 

『如月さん』

 

「・・・・西住」

 

 ちょうどW号の右側に間を少し空けて停車して、私はキューポラハッチを開けて上半身を外に出すと、西住も同じくキューポラから上半身を出していた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 前方を見ると、聖グロのマチルダU二両にチャーチル、エクセルシアーがこちらにじわじわと迫ってくる。

 

「進退窮まるとは・・・・まさにこの状況だな」

 

「・・・・・・」

 

 

 すると聖グロの戦車隊は一定の距離を空けて停車すると、チャーチルの砲塔天板ハッチが開かれて、中よりダージリンが出てくる。

 

「こんな格言を知ってる?イギリス人は戦争と恋愛では・・・・・・手段を選ばない」

 

 と、全車両の主砲がこちらに向けられる。

 

(万事休す・・・。どう動いても砲撃の直撃は避けられない。五式の正面装甲でも、連続の砲撃に耐えられるかどうか)

 

 半分内心で諦めかけた。

 

 

 

『参上ぉぉぉぉ!!』

 

 すると前方左の路地より金色に輝くEチームの38tが姿を現す。

 

「生徒会チーム!?」

 

「生きていたのか!?」

 

「よくあそこから履帯を直しましたね」

 

「小山先輩が必死に直したんでしょうね」

 

 四人が呟くその間に、38tはチャーチルに向けて砲撃を放つ―――――

 

 

 

 

 ―――――が、至近距離にも関わらず砲弾は明後日の方向に飛んでいく。

 

「あの距離を外す!?」

 

「ありえない・・・・」

 

「マジ?」

 

「・・・・戦犯が」

 

 そして案の定聖グロの一斉射撃が始まり、38tに全弾命中して白旗が上がる。

 

『やられたぁぁぁぁ!!』

 

 と、角谷会長の悲鳴に近い声がするも、好機だと察し、如月は西住と目を合わせると頷き合う。

 

「前進!一撃で離脱して!路地左折!」

 

「こちらも前進して一撃離脱!そのまま右折だ!」

 

 W号と五式が走り出して砲塔をマチルダU二両に向けると同時に停車し、砲弾を放ってマチルダUの砲身を吹き飛ばして二両より白旗が揚がるのを確認してそれぞれ左折右折して離脱する。

 

『五式はわたくしが!ダージリンはW号を!』

 

「確実に仕留めなさい!」

 

 と、残されたチャーチルとエクセルシアーはW号と五式を追撃する。

 

 

 

 

「このまま前進!敵車両が曲がるのを狙って一斉射!」

 

『はい!』

 

 早瀬は右レバーを引いて路地を右折し、次に左折するとそのまま前進させると二つ目の曲がり角を左折し、五式を停車させる。

 

「坂本!副砲の同軸機銃を撃て!」

 

「しかし、そんな事をしたらこちらの居場所を教える事になりますよ!」

 

「それが狙いだ!いいから撃て!」

 

「は、はい!」

 

 坂本は副砲に搭載している同軸機銃である九七式車載重機関銃の引き金を引いて弾を放つ。

 

「早瀬は前進後左折!次も左折して別の路地に入れ!坂本はすぐに再装填!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

 早瀬はアクセルを踏んで前進させ、五式を左折させて停止させる。

 

 

 するとエクセルシアーが前方を横切ろうとし、鈴野と坂本は車体側面が見えた瞬間に引き金を引き、同時に砲弾を放って車体側面に直撃させた。

 

「やった!」

 

「読みが当たりましたね」

 

「・・・・・・」

 

「如月さん?」

 

 

 

 と、煙が晴れると、そこには車体側部に砲弾がめり込んで、斜めにして停車していたエクセルシアーがこちらに主砲を向けていた。

 

「うそっ!?」

 

「くっ!」

 

 坂本が叫んだ瞬間に早瀬はギアを入れ替えてアクセルを踏み、後退しようとするもエクセルシアーより砲弾が放たれ、五式の左側履帯に着弾して履帯を吹き飛ばす。

 

「くぅ!」

 

 それによって五式は左側の塀にぶつかって動きを止める。

 

「まさか、急停車して車体を斜めにしたの!」

 

「しかも当たったのは主砲の方だけ。副砲は恐らく砲塔に当たって弾かれてる」

 

「・・・・相手の方が一枚上手だった、と言う事でしょうね」

 

「・・・・あぁ」

 

 内心で舌打ちをして、砲弾を取り出して装弾機に置き、砲弾を装填する。

 

「だが、このまま終わるわけにはいかん。道連れぐらいは・・・!」

 

 鈴野は引き金を引いて轟音と共に砲弾が放たれ、それに続いてエクセルシアーも砲弾を放つ。

 

 そして五式の砲弾がめり込んでいる箇所に命中し、エクセルシアーの砲弾が五式の砲塔根元に着弾するが、撃破までには至らなかった。

 

「構うな!撃ち続けろ!!」

 

 如月は砲弾ラックより砲弾を素早く取り出して装弾機に置き、ボタンを押して薬室へと砲弾を装填する。

 

 すると、エクセルシアーも同じ箇所の被弾によってその場から動く事ができず、直後に鈍い音と共に動きを止める。

 

 直後に鈴野と坂本が引き金を引いて主砲と副砲を放つと、エクセルシアーも主砲を放って五式にさっきと同じ箇所に砲弾を命中させ、五式の砲弾はエクセルシアーの側面に二発命中する。

 

 そして五式の砲塔天板から白旗が揚がると、少ししてエクセルシアーも白旗が揚がる。

 

 

 直後に二つの砲撃音が響き渡ると、アナウンスが流れる。

 

『大洗女子!全車両行動不能!よって・・・・・・聖グロリアーナ女学院の勝利!!』

 

 

 と、私達の敗北が告げられた。

 

 

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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