インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#125
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「ん?」

 

戦闘指揮所となった一室。

最初に異変に気がついたのはオペレーター担当の一人だった。

 

一瞬だけレーダーに表示された光点。

それは次の瞬間には影も形も無くなってしまっている。

 

 

誤反応かと思うが早いか、((警告文|ワーニングメッセージ))を表示したディスプレイが現れた。

 

レーダー画面を見れば高速で接近する((IS反応|光点))がいくつも現れている。

 

「敵襲っ!場所はさっきの逆側ッ!」

 

彼女はインカムに向かって叫ぶ。

 

「くそ、((世界最強|オリムラチフユ))を囮に使うとは豪気なことを。数は?」

 

「くっ、電子戦機でもいるのかレーダーが安定しない。推定で十以上!」

 

「いつの間に?」

 

「そんなことより、突入してくる敵機の迎撃を!あの速度は航空機じゃない、ISだ!」

 

「迎撃、回せ!」

 

無人機制御を担当するオペレーターが島周辺の警戒に当たらせていた機体のうち、織斑千冬らの一団と対峙していない機体を対応に当たらせるべくコマンドを飛ばす。

 

「やった!艦隊と消耗戦を続けてるゴーレムの一部がコマンドを受信して戻ってくる!」

 

完全自律戦闘モードに入っていた((最新鋭機|ゴーレムIII))が制御命令を受け付ける自動戦闘モードに戻りコマンドを受け付けた。

それは彼女たちを守る戦力が増えることを意味しており、ISのシールドをいとも簡単に貫通する高出力ビームを備えるゴーレムならば襲撃者たちを一掃することも不可能ではない。

 

危機から一転、時間さえ稼げばまたイニシアチブを取り戻せると判ると管制室の中に安堵の空気が漂い始める。

 

「それにしても、用意周到な連中だわ。流石は織斑千冬ね。」

 

緊張が解け、普段の口調に戻ったところで、その中の一人が気がついた。

 

「まっすぐ((本校舎中央タワー|ここ))に向かってくると思ってたけど、このコースだとちょっとずれてるわね。」

 

「どれどれ?」

 

予想進路と学園の地図を重ねると、指摘の通り目的地にずれが生じていた。

 

「このコースだと第一アリーナの辺りになるわね。」

 

何気ないその一言に、数瞬遅れて空気が変わった。

 

「ッ、まずい!」

 

第一アリーナには、今彼女たちが使っているコンソールと同じ設備が揃っている。

そして、それらは学園の((中央制御装置|メインフレーム))に接続されている。

 

「((第一アリーナ|あそこ))を抑えられたらシステムに侵入される!」

 

「第一だけじゃない、生きてる端末全部が侵入経路になるわ!」

 

その上、襲撃側は本来の学園職員だ。

当然のことながら『正規のIDとパスワード』を持っている。

 

「回線を切れ!」

 

「どうやって!?」

 

「システムでできないなら物理的にやるしかないだろ!」

 

「わ、わかった!」

 

再び慌しくなる管制室。

 

表示されたモニターには第一アリーナを占拠した二十近いIS反応が映し出されていた。

 

 

 * * *

 

 

『先輩、大変です!』

 

そんな、真耶からの切羽詰った通信が千冬の元に届けられたのは目前にいる((雑兵|無人機ラファール))を((愛刀|雪片改))の光刃で打ち倒し、機能停止に追い込んだのとほぼ同時のことだった。

 

「どうした、何があった。」

 

持ち場を一夏と代わり、少し下がってから千冬は通信ウィンドウに向き合う。

 

数分前、わずかに差し向けられた迎撃部隊を文字通り一蹴して第一アリーナを占拠した別働隊であったが、何か問題が起こったらしい。

 

『第一アリーナと学園メインシステムの間の回線が全て遮断されました。こちらからは制御不能です!』

 

「束。」

 

『――こっちもダメ。理事長権限でもダメってことは、もしかすると物理的に回線を切られたのかも…』

 

新たに開いたウィンドウでは眉間にしわを寄せた束が映し出された。

 

「直接行くしかない、か。真耶、第一アリーナ地下のエレベータは?」

 

『一応、生きてますがロックされています。』

 

「束。」

 

『ほいほい。』

 

「話は聞いていたな?」

 

『エレベータのロックを解除するんでしょ?今から行くよ。』

 

「頼む。――ああ、千凪のヤツはこちらに回してくれるか?」

 

『くーちゃんを?』

 

束の声には『何ゆえ?』という疑問が多分に含まれていた。

 

「我々は別の場所から突入し中央制御室を直接押さえる。」

 

そのために空が必要なのだと言われれば束としては納得して『ハイどうぞ』としか言いようが無い。

 

『ん、判った。くーちゃんとかんちゃんのセットでそっちに送るよ。護衛はたっちゃんとスーさん、まどっちの三人で何とかなるだろうし。』

 

「頼む。」

 

『それで、どこから侵入するんです?』

 

「―――((現在位置|ここから))、だ。」

 

『そんな場所に突入可能な通路なんて――』

 

「無ければ、造ればいい。」

 

『へっ!?』

『まさか―――!』

 

「千凪、お前の持っている武器で一番貫通力のあるヤツを用意しておいてくれ。そいつで地表部をぶち抜く。」

 

『了解。((地殻掘削爆弾|バンカーバスター))なんてどうです?』

 

「いいぞ。盛大に大穴を開けてくれ。」

 

「―――了解です。」

 

最後のそれは、通信を介した声だけではなく肉声も混じっていた。

 

 

「総員、遮蔽物の陰に隠れろ。巻き込まれるぞ!」

 

言うが早いか、一斉にその場を離れると数発の『対地ミサイルのようなもの』が地面に突き刺さる。

 

「―――不発?」

 

「いや、違う!」

 

ラウラの声とほぼ同時、甲高い回転音が孔の中から響きだす。

 

突き刺さっていた爆弾が少しずつだが地中へと姿を消してゆく。

 

そして―――

 

「たーまやー。」

 

能天気な空の声とともに火柱が立った。

 

さらに、もう一発。

 

今度は爆発音とともに何かが崩れ落ちるような音が振動とともに伝わってくる。

 

「は、派手にやったねぇ…」

 

物陰から出てみると先ほどまでいた場所に三メートル四方はありそうな大穴が開けられていた。

 

孔の四隅が盛大に抉れているのは、そこがバンカーバスターの起爆地点であったからなのだろう。

 

「上出来だ。――さて、」

 

ISを展開していても問題なく通れる大きさな孔を背にして千冬は一夏たちを見回す。

 

「引き返すなら、今のうちだぞ?」

 

まるで挑発するような形になってしまっているが不器用な千冬の、不器用な気遣い。

今更ながらではあるが、大切な教え子たちにこれ以上危険なまねをさせたくないという千冬のエゴ。

 

だが、それは当の教え子たちにより一蹴された。

 

「何寝言言ってんだよ、千冬姉。」

「今更過ぎますよ、千冬さん。」

 

ほぼ同時にぶつけられた一夏と箒の言葉。

他の面々も『その通り』といわんばかりに頷いていた。

 

「――まったく。そういえば、そういうヤツラだったな。お前たちは。」

 

この場にいるのは『守るべき教え子』である以上に『背中を預ける戦友』であったようだ。

一端の『戦うもの』の顔をした彼らにとっては愚問だったらしい。

 

千冬は彼女らに背中を向ける。

 

「一夏。」

 

「おう。」

 

「箒。」

 

「はい。」

 

唐突に始まった点呼。

だが、その『呼び方』はいつもと少しばかり趣が違っていた。

 

「((鈴音|リンイン))。」

 

「はい。」

 

「セシリア。」

 

「はい。」

 

「シャルロット。」

 

「はい。」

 

「ラウラ。」

 

「はっ。」

 

「簪。」

 

「はい。」

 

「空。」

 

「いつでも、どうぞ。」

 

全員の名前を呼んだ千冬は、雪片を手に孔の中を睨む。

 

「よし、行くぞ!」

 

「了解っ!」

 

 

 * * *

 

「施設内に敵機侵入!」

 

「なんて奴らだ。地表を吹き飛ばしやがった!」

 

「迎撃を向かわせろ!」

 

管制室は再び喧騒に包まれていた。

 

各施設郡につながっている通信回線はケーブルを配線坑ごと爆破して切断し、中央システムへの侵入を防いだ。

 

ついでに、各施設から本校舎へと繋がる地下通路へのエレベータの管制システムも同様に封印しておいた。

 

後はゴーレムほかの無人機の群れを突破しながら中央タワーを攻撃する以外の方法は無いはずだ。

 

 

 

そう思って安堵した矢先の地表破砕、侵入孔確保である。

 

…普通、ISが((地下貫通爆弾|バンカーバスター))やら大型爆弾やらを装備しているはずが無いので考えられないのも無理は無いが。

 

「これは、本格的にヤバいかもしれないわね。」

 

管制室を預かる幹部の一人は誰にも聞こえないようにそのつぶやきを飲み込んだ。

 

その視線の先では地下構造体へと侵入を果たした一群に、迎撃部隊が向かっていく様子がディスプレイ上の光点という形で表示されていた。

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