欠陥異端者 by.IS 第二十話(Dive)
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  [ガラガラッ!]

一夏「おはよう」

 

クラスに声をかけると、全員がこっちを振り向いて個々それぞれの反応をしてくれる。

 

箒「ああ、おはよう」

 

セシリア「おはようございます、一夏さん」

 

シャルロット「おはよう、一夏」

 

ラウラ「遅いぞ。これが訓練でなく、実戦ならお前は既に死んでいる」

 

谷本「やっほ〜!」

 

楯無「おはよう、一夏君」

 

夜竹「おはよう!」

 

鷹月「おはよう」

 

本音「おっりむ〜!」

 

・・・・・・ん?

 

一夏「何で、楯無先輩がここにいるんです?」

 

楯無「バレちゃった♪」

 

ペロッと舌を出す楯無先輩は、一組の女子達の輪の中にいた。

・・・あの人、場を盛り上げたりからかったりするの上手いからな〜。簡単に溶け込めたってことか。

 

楯無「いや〜、さすがに八人もキャラがいれば、私の名前に気付かないと思ったけど」

 

一夏「そんな意味不明なこと言わないで、ここにいる理由を教えてください」

 

楯無「もうせっかちねぇ〜。まぁ用事があってね、君に」

 

一夏「俺?」

 

クラス全員も初耳のようで、先輩に質問攻めが始まる。

 

楯無「質問は放課後に生徒会室に来てね。といっても、この後の全校朝礼で全部分かるわ」

 

しかし、さすがは生徒会長。すぐに場を治めた。

 

一夏「で、俺に何か?」

 

楯無「じゃあ単刀直入に聞くけど、入りたい部活ってある?」

 

部活か・・・小学校の時は篠ノ之道場に通って剣道をやっていたが、中学からずっとアルバイトで働いていたからな。

 

一夏「いえ、特にこれといって・・・」

 

今更、入る必要もないだろう。

それを聞いた先輩は「そっ」と素っ気なく返して、教室を後にした・・・えっ? 本当にそれだけなのか?

 

箒「一夏っ! 前から言おうと思っていたが、剣道部に入らないか!? ま、またお前と一緒に・・・[ゴニョゴニョ]・・・」

 

最後の方は聞き取れなかったが・・・そうだな〜、入るなら剣道部かな。

 

シャルロット「料理部、なんてどうかな? 一夏、料理得意だし」

 

料理部・・・うん、悪くないな。

 

セシリア「テニス部は、一夏さんを歓迎いたしますわ! 丁度、マネージャーの座が余っていますの!」

 

いや、俺ってマネージャーって柄じゃないし、現マネージャーの吉村さんが後ろで涙目だぞ。

その三人以外にも、クラスの女子から部活の勧誘について突っかかってきた。

 

一夏(そういえば、俺はともかく、零の奴は部活に入ってんのか? 今度、聞いてみよう・・・)

 

真耶「みなさん、おはようございます! 体育館に移動しますので、廊下に背の順で並んでくださ〜い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここIS学園は学生主流で朝礼や行事を行う自主性分が多い学校だ。

だからなのか、今日の全校朝礼で各先生は一切口を開かず、ただ端で成り行きを見守っている。

 

三年生「それでは、次に生徒会長から"学園祭"についての説明がございます」

 

司会の進行が順調に進み、生徒会長である楯無先輩が壇上に立つ。

その背後には、空中ディスプレイに"学園祭"とデカデカと表示されていた。

 

楯無「みなさん、おはようございます。本当はもっと早くに挨拶を済ませたかったんだけど、色々とバタバタしていて・・・では、改めて」

 

先輩は立派な自己紹介をし、続けて学園祭についての説明が行われた。

生徒それぞれ一枚、外部からの人間を招待できる券をもらえること・・・

体育館の利用については生徒会へ必要資料を提示すること・・・

健全な学生として、節度ある態度を持つこと・・・などなど。

 

楯無「じゃあ最後に、今回限り導入する特別イベントについて説明するわ」

 

その発言に体育館にいる全ての生徒達がザワザワとしだすが、先輩の一言ですぐに収まる。

 

楯無「生徒、先生方、一般の来客者から各部活で出す催し物の中で、一番楽しく面白く有意義な時間を過ごせたものに投票してもらって、見事一位の座を手に入れた部活動に織斑一夏君を入部させます!」

 

その名も『各部対抗織斑一夏争奪戦』・・・高々と宣言された発言に生徒全員がどよめく。

いつの間にか、賞品にされた俺も例外ではない。

 

楯無「もう全部活の部長と顧問の先生には、事前に伝えていますが、織斑一夏君の勧誘は一切しないように。全ては学園祭の出し物で決まるから、頑張ってね〜」

 

「おおおおおおっ!!」と盛り上がる女生徒が十数名・・・

同じ部員同士で握手を交わす女生徒が十数名・・・

俺が目視できるだけでも、これだけの生徒が気合いを露わにしている・・・ってか、ここはIS学園で女子が殆どのはずだ。何だ、この男子高のノリは?

 

楯無「ちなみに、落合零君については知っている人もいると思うけど、過度な運動は厳禁なため、今回のイベントから外しています」

 

一夏「え? そうなの?」

 

そういえば、そんな事を言ってた気が・・・って、あいつはどこにいるんだ? 朝から見かけないけど・・・。

 

楯無「では、これで全校朝礼を終わりにします。今日も頑張りましょ〜!」

 

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陵「さぁ、ここだ」

 

ご主人に連れてこられたのは山奥にある診療所。

私は急遽、更識家当主である会長の指示で、学園へ許可を取って休み、ここの診療所を訪れた。

 

零「・・・」

 

調べられるのは眼帯で隠されている左目。

抵抗はあるものの、言い方は悪いが、既に更識家の"所有物"となった私に拒否権はない。

少しでも私の事を知る必要があるし、個人的に私も情報が欲しかった。

 

陵「やぁ、連れてきたよ」

 

華城「ああ」

 

零「・・・華城、先生?」

 

電灯が点滅して薄気味悪い廊下を通り、案内された診療室にいたのは、IS学園で療養室+保健室の担当教諭である白衣姿の((華城|はなぎ))先生だった。

学園では眼鏡をかけていなかったが今はかけていて、ヘアスタイルもワンレンからポニテになっている。

この後、ご主人から説明を受けたが、ご主人と先生は昔からの友人で、先生は更識家の専属医師とのこと。幼馴染と言っても良い柄らしい。

 

華城「まぁ、かけろ」

 

手で丸椅子へと促され、私は少し不安に思いながらもその場に座る。

 

華城「陵、お前は席を外せ」

 

陵「・・・わかった。零君、彼女は信用に足る人だ。安心してくれ」

 

零「はぁ・・・」

 

と言い残して診療室を出ていく。

先生はそれを確認すると、背もたれにかけていた態勢から、私の顔を上目遣いで覗き込むように前のめりになる。

 

華城「私は医者だ。無理やり検査だとか解剖だとかするマッドサイエンティストじゃない。お前に直接聞く・・・検査を受けるか?」

 

零「・・・」

 

鋭い眼光が私の眼を逃がさない。

私は恐ろしくなったが、先生の眼が嘘をついていない、と感じ取ると左目にかけている眼帯を外した。

そして左目をそっと開く。

 

華城「・・・そうか。なら始めるぞ」

 

先生は驚きもせず、たんたんと必要な物を用意する。

まず最初は健康診断でよくある検査で、目にライトを照らされた。しかし、この目に視力がないため光すら感じ取れない。

次は、特殊なレンズを装着した先生は、左目をじっくりと観察する。どうやら、レンズの視界に入った対象物の何らかの数値を検出しているらしかった。

 

華城「・・・なるほどな。よし、次だ。部屋を移動する」

 

最後はCTスキャンだった。CTスキャンが設置されている部屋に案内される。

 

華城「これを被って、ここに寝ろ」

 

機材とケーブルで繋がれているヘルメットを被り、促された場所に寝そべる。

すると、ウィンと寝台が動きだした。

 

零「・・・」

 

さすが更識家と言うべきか・・・こんな場所に総合病院顔負けの設備が整っている。

でも、森の中にこんな施設を建てる意味ってなんだろうか? う〜ん・・・

と、考えている間に赤外線が顔を通過する。

 

 [ピキッ]

零「っ・・・」

 

ま、またあの時の痛みだ・・・ラウラさんの意識世界に飛ばされたあの時と─────

 

零「うぐぐっ・・・!」

 

華城『どうした? 何かあったのか?』

 

コントロールルームにいた先生の声は、既に私の耳には入ってこなかった。

前回ほどではないが、頭痛の強烈さが私の意識を断とうとする。

 

零「うっ、ぅっ・・・うがぁああああっ!?」

 

暴れる体を抑えられることも出来ず、頭を抱えながら発狂した私はそのまま気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「・・・」

 

次に飛ばされたのは、上も下も左も右も全てが真っ白な世界。

いや、目を凝らすと白の壁面には、薄黄色の無数の線が刻まれている。

 

零(配線・・・っぽいな。もしかしてここは─────)

 

確信に近づこうとする瞬間、また意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華城「起きろっ!」

 

零「っ・・・」

 

目を覚ますと、そこは先ほどの診療室だった。

ベットで眠る私の前には、ご主人と先生が必死の形相で私を見下ろしていた。

 

陵「よ、よかったぁ・・・」

 

零「・・・そうか。あの時、気絶して」

 

華城「そうだ。ダッグマッチ戦が起きたあの日と同じように」

 

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スィナー「ああもう! 何で、こんな急に忙しくなるのよ!?」

 

国際連合本部ビル地下三階のフロアで、スィナーが一人しかいない事をいい事に、仕事の愚痴を大声に任せて吐き出していた。

スィナーのイライラの原因は、デスク上にある『亡国機業』に関する報告書にある。

各国で、IS強奪や何らかの裏工作で侵入している事態が多くなり、シャロンや永住達は出払って、ただ一人待機のスィナーはその資料整理をただ黙々と続けている。

 

スィナー「昔はこういうの得意だったはずなのになぁ〜・・・」

 

資料の上に腕を組んで顔を伏せる。

 

スィナー(いっそこのまま寝ちゃおっかな〜・・・)

 

 

 

 

 

 

[プルプルプルプルプルッ!]

スィナー「・・・」

 

[プルプルプルプルプルッ!]

 

スィナー「・・・ん?」

 

[プルプルプルプルプルッ!]

スィナー「げっ!? やばっ!」

 

さっきから鳴りっぱなしの内線電話の受話器を即座に取る。その瞬間、怒りの叱責がスィナーの鼓膜を震わした。

 

スィナー「す、すみません・・・ちょっとうたた寝を─────すみませんっ! だから、給料カットは勘弁してください!」

 

一応、伝えておくが、スィナーは国連内部で特別な位置にいる。

"各国で活動するテロ組織を調査する部門『アンノウングループ』"というだけではない。

スィナー自身、ある人の根回しによって国連に所属している。そのある人の影響のおかげで、こうした軽い言動も許されているのだ。

 

スィナー「はい・・・はい。以後、気を付けます。それで頼みたい用とは?・・・はい? 何で? あっちには更識家がいるじゃないですか?」

 

スィナーは珍しく、仕事に対して意欲的でなく、電話越しの上層部の人間は戸惑っている。

しかしそこは粘って強く出た。

 

スィナー「・・・何で、そこで給料カットなんですか? そこしか攻めるところが─────わ、分かりました! 行きますからっ!」

 

結局、お金の誘惑に負けたスィナーは受話器を置いてから大きくため息をつく。

 

スィナー「会いたくないんだけどな〜・・・まっ、行きますか[ブブブブッ、ブブブブッ]・・・あっ、シャロンちゃんからだ」

 

「もっしも〜し♪」とさっきまでとのテンションを逆転させるスィナー。

後輩には、常に明るく、気を遣わせず、頼られる存在である事が、先輩の定義だと持論を持つスィナーは、悪戯もしながらも可愛い後輩を大切にしているのだ。

 

スィナー「仕事は順調?・・・うん、うん♪ 良かった良かった。それで?・・・へ〜。それ、どっからの情報? ドイツ・・・分かった。丁度、日本に行く用事があったからついでに調べとく。じゃ、またね〜」

 

受話器を置いたスィナーは椅子に掛けていた上着を手に取る。

既に、顔つきは仕事モードに切り替わっていて、目つきが鋭くなっていた。

 

スィナー「行くとしますか・・・」

 

この部署の扉は入る時も出る時も、カードキーを使用しなければならない。

扉を開け、エレベーターに乗り込み一階へ。本部ビルを出ると、金髪の美女と出くわした。

 

ナターシャ「あっ・・・ご無沙汰してます」

 

スィナー「ナタルちゃん! おっひさ〜!」

 

見た目では同い年に見えなくもないのだが、ナターシャは自分の倍近く生きているスィナーの事を知っているので、自然と敬語を使っている。

ちなみに、ナターシャ・ファイルスは臨海学校の際に起きた福音暴走事件で、『銀の福音』に搭乗していたテストパイロット。

 

スィナー「今日はどしたの?・・・って、福音の事よね」

 

ナターシャ「ええ、まぁ。早く、あの子を大空に出させたいので」

 

あの子・・・とは、福音のことである。

 

スィナー「・・・ちょっと暗くなっちゃったわね・・・う〜ん。そういえば、イーリスちゃんは元気?」

 

ナターシャ「元気すぎて困っています。毎日毎日、"妹はやらんぞ〜!"って八つ当たりされてます」

 

スィナー「シャロンちゃん、可愛いもんね。私も妹が欲しいな〜、弟でも可」

 

ナターシャ「それなら、とっておきの子がいますよ」

 

ナターシャの含み笑いにつられて、スィナーもノリノリで聞き返す。

 

ナターシャ「織斑千冬の弟・・・知ってますよね?」

 

スィナー「当たり前よ。へぇ〜、ぜひ会ってみたい」

 

「まっ、すぐ会う事になるけど・・・」と呟くスィナーに、ナターシャは気付かなかった。

 

ナターシャ「では、私はこれで」

 

スィナー「うん。今度、イーリスちゃん込みでお茶でもしましょっ」

 

ナターシャ「はい」

 

一礼し、本部ビルへ歩き出すナターシャを、スィナーはその背中が見えなくなるまで目で追う。

 

スィナー「・・・さて、それじゃ行きますか」

 

手提げのバックを肩に担ぎ直し、タクシーを拾うため大通りへスィナーも歩き出す。

目的地は─────IS学園。

 

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場面は変わり、スコール達が隠れ家として利用している高級ホテルのスィートルームへ。

オータムとマドカは次の任務で出払っており、マームは別の隠れ家で休養中なため、この部屋にいるのはスコールだけだ。

そのスコールは、お風呂上がりの艶やかな金髪をなびかせて、バスローブを纏ってソファーにどかっと座り、携帯端末機を耳に当てている。

 

スコール「────それで? わざわざ連絡をよこすなんて、どういう魂胆?」

 

?『─────』

 

どうやら、相手は男のようだ。しかも同じ『亡国機業』の実働部隊、スコールとは別グループであるリーダーから。

『亡国機業』は大きく分けて"幹部会"と"実働部隊"がある。

第二次世界大戦中に設立され内部事情について、未だ謎に包まれているが、幹部会、複数ある実働部隊がそれぞれが孤軍奮闘して協力体制なんてない。

それは何十年経っても変わっていないはず・・・だからこそ、別の実働部隊リーダーがスコールに連絡を入れるのは珍しい。

 

スコール「────そっちの任務が何なのか知らないけど、こっちの邪魔だけしないでよ」

 

?『─────』

 

スコール「あなたたちと馴れ合うつもりはないわ。じゃあね」

 

無理やりに通話を切り、ソファーから立ち上がったスコールは、苛立ちを隠せない様子で部屋の窓へまで歩み寄る。

しばらく、真昼の街を高層から眺めて、豆粒くらいの人間を鑑賞していた。

 

スコール(・・・私も行きましょう)

 

決断して携帯を手に取る。

 

スコール「────マーム、予定変更。私達もIS学園に行くわよ」

 

マーム『・・・? でも、バチカンから奪取した機体は────』

 

スコール「そこに置いておきなさい。その隠れ家なら、侵入できる人物なんて篠ノ之束ぐらいよ」

 

マーム『了解』

 

スコール「あなたのISも忘れずにね・・・ふふふっ」

 

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零「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 

華城先生の診療所をあとにしたご主人と私は、そのまま更識家の屋敷に戻ってきた。

時刻は夕方の5時を過ぎていて、夕日を背中に浴びながら渡り廊下の雑巾掛けを行っていた。

今日ぐらいはくつろいで良いと言われたが、心にもやもやを紛らわしたくて、全力で端から端へ駆ける。

 

佐々木「あっ、落合君。丁度良かった。今日の調理当番、代行で入ってもらってもいい?」

 

今日、担当だった従者が体調不良で倒れたらしく、自主的に従事している私にヘルプを頼もうと探していたらしい。

私を見つけた瞬間、間髪入れずに手を合わせていた。

 

零「か、かまいませんが・・・はぁ、はぁ・・・」

 

佐々木「大丈夫?」

 

零「はぁ〜・・・問題なしです」

 

私が息を切らしているのが珍しいのか、佐々木さんは訝しげに表情を覗いてきたが、私はそそくさと調理場へ移動した。

その途中、居間の畳にあぐらをかき、手入れが行き届いた庭と夕日を眺めるご主人を見つけた。

その殺風景な光景は、美術展に飾られるほどの、物静かで神秘さを感じさせられる画を思わせ、私はしばらくずっとそれを眺めてしまっていた。

 

陵「・・・どうしたんだい? 零君」

 

ご主人は振り向きもせず、声をかけてきた。

さすがは更識の人間・・・気配だけで誰なのかを判別できるのか。

 

零「いえ・・・ただ、通りかかっただけです」

 

陵「そうかい」

 

会話は終わったが、私はその場で立ち尽くしていた。

 

陵「・・・大丈夫」

 

ひとり言のように呟いたご主人の言葉が、私をドキッとさせた。

心中に鬱陶しく漂うもやもやの正体・・・華城先生による検査の結果を、伝えられていないことだった。

実際、結果が出たのかは定かでないが、それを聞くのも怖くて、知らないままっていうのも苦痛・・・。

"知らない事柄"に関して、生物全ては不安感情を膨れ上がらせる。"お化けが嫌い"="得体のしれない存在"という図式が、例として挙げられる。

 

陵「大丈夫だって。不安に思う事なんて、何もないよ」

 

ご主人は、そのまま振り向かずに私を言葉で宥めた。

 

陵「大丈夫・・・大丈夫」

 

零「・・・そうですか」

 

素っ気ない返答になったが、先ほどよりも気分が晴れやかになった。

その事に感謝をして、私は静かに気合いを入れ、調理場へ足早で向かう。

 

 

陵「・・・大丈夫。君一人を守れることぐらい出来る・・・更識家として・・・いや、"大人"として」

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