コードヒーローズ〜魔法少女あきほ〜
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第二十五話「〜風 雷〜けっせんはツヅク」

 

 

 

 

 

「ふざけないで欲しいんだな!」

「それはこっちの台詞」

 男達は罵声を浴びせ合う。

 マンションが立ち並ぶ大通り沿いに赤と黒の攻撃が降り注ぐ。

 赤い疾風と黒い迅雷が周囲を吹き飛ばす。建物、電信柱、街路樹、アスファルトの地面。それらは紙材でできているのではないかと錯覚しそうになるほど、容易く壊れていく。

 それらの破片が宙に舞い、重力によって地面に引き戻されて降り注ぐ。

 破片の雨の中を、緑の風と黄色の雷が走り抜けていく。

「ひゃあ〜」

「しっかり前見て。段差あるわよ」

 ガーネットは頭を抑えて前屈みになりながら走っているため、前の段差に気づいていない。それをクロムダイオプサイトが注意する。

「あっ!」

「もう」

 注意をされたにも関わらず、ガーネットは割れて浮き上がったアスファルトに足を取られたのだ。

 クロムダイオプサイトは躓いた彼女を掴み上げると、そのまま抱え上げた。危うく地面に激突するだけではなく、足を止めた瞬間に敵の攻撃にさらされて危機的状況になっていただろう。

「は、恥ずかしいよ!」

 ちなみに抱え方はお姫様抱っこである。そんな状況にガーネットは顔を真赤にしていた。

「緊張感ないわね」

「凪ちゃ……クロムダイオプサイトには言われたくないよ!」

 彼女の指摘通り、クロムダイオプサイトは常の様相とさほど変わりはなく。平静でいた。普段通りである。

「ガーネットがいるからね。私一人なら少しは焦っておたかもよ?」

 緑の風がクロムダイオプサイトを中心にうずを巻く。彼女の足は地から離れると、そのままホバリングするように地面をすれすれを浮き、滑っていく。

「どうするの?」

「逃げるしかないわ」

「で、でも予定の場所から大分……」

「そこはあっちにも知らせてある。踏みとどまったらこっちが追い詰められるわ」

「なんの話をしているんだな!」

 彼女達と並走する形で黒い稲妻が現れる。ライタクだ。

「この戦いが終わったら、オニキスにねだるご飯のおかずの話よ」

「ふざけるんじゃないんだな!」

 クロムダイオプサイトは「べー」と舌を出す。

 ガーネットはライタクに一度敗北している上に、舐め回されるという辱めを受けていた。その経験もあってか、彼を前にして表情を強張らせている。

 漆黒の雷は、その身から電撃を放った。

 濃緑の光が閃く。黒い一撃は濃緑の光をまとった大木によって阻まれた。

 大木は縦に割れ、濃緑色の光の粒となって霧散する。

「このぉおなんだな!」

「ライタク邪魔」

 赤い疾風が猛然と彼女たち目掛けて突っ込んできた。

「ふふん」

 クロムダイオプサイトは笑うと、続けざまに進行方向に向かって大木を生い茂らせていく。

 大木はその身を伸ばし続け、4階ほどある建物のくらいの大きさにまで育っていった。枝からは蔓などが伸び、力なく垂れ下がっている。

 クロムダイオプサイトはガーネットを抱えたまま、軽く跳躍すると蔓に捕まった。そのまま勢いで枝に飛び移る。

 枝に飛び乗った瞬間、彼女たちがいた空間に赤い疾風が駆け抜けていった。

「ひぃ〜」

「情けない声出さないの」

「でも! だって!」

「はいはい」

 漆黒の雷が彼女たちの大木を激しく揺らす。

 クロムダイオプサイトは風を纏い、大木から大木へと渡っていく。

 それを赤い疾風と黒い迅雷が猛然と追いかけた。

「さて、どうしたものか」

 クロムダイオプサイトは震える足に力を入れる。

 

 

 

 

 

 滝下浩毅は机上で腕を組んで、眉間に深いシワを作っていた。

「クロムダイオプサイト、ガーネットなおも大通りを南下中です」

 彼は女性オペレーターの報告を受けると、マイクを掴んだ。

「博士、ゴム弾と強化ユニットの方は?」

『ゴム弾は後少しだわい。もうちょっとなんじゃ。強化ユニットも少し遅れるが、間に合わせる』

 スピーカーから嗄れた声が帰ってくる。声音には緊張も焦りも無く。淡々としたものだった。滝下浩毅は「早くしてください」と短く告げると、目の前に広がるディスプレイを睨む。

 マップのあちこちで激戦が繰り広げられているのが示されている。その中で1つのチームのマーカーが消滅した。

「第37班と連絡途絶えました」

「01チームは?」

「担当地区を鎮圧したそうです」

 彼は「向かわせろ」と言いながら、瞑目する。

 

 

 

「敵が動き出した。間もなくこちらに到着するだろう」

「まだこっちの準備は完全に整ってないぞ」

 滝下浩毅の報告に、新堀金太郎は呻いた。

「こうなることも予想の範囲内だろう?」

「タッキー、確かに想定はしていたが、これは最悪の事態じゃないか?」

 ブリーフィングルームが静まり返る。

 皆表情を固くしていた。明樹保達は特に緊張しているのか、顔が少し白くなっている。

「一応聞きますが、自衛隊の方は?」

 神代拓海の質問に滝下浩毅は首を振った。

「ダメだ。先日のファントムバグ襲来以降、ファントムバグの活動が活発化している。陸自は首都及び、埼玉、茨木周辺に展開している状態だ。空自海自は浮遊艦隊の相手で精一杯だろう」

 ブリーフィングルームにある巨大なディスプレイに首都東京が映し出され、赤い点が表示されていく。その数数百。その点に日付が表示されており、命ヶ原の事件以降のモノがほとんどである。

「余剰戦力もあるにはあるが、空と海の増援に向かっている」

「やはりそちらもあまりいい状況ではないですか?」

「詳しくは教えることは出来ないがな」

 神代拓海の問いを彼は否定しなかった。

「とはいえ、こちらも同様な状況です。県警と周辺の所轄しか導入できません」

 滝下浩毅は瞑目して考え込んだ。時間にしては数秒だったが、それを眺めていた面々はそれ以上に感じられた。

「その戦力は何かあった時の保険としておきたい。避難誘導及び、周辺の規制などに割り振ってほしい」

 部屋全体が否定的な雰囲気になる。滝下浩毅は一度咳払いして見せる。

「彼らと対峙経験もない。連携も不慣れなまま前線に出すのはかえって危険だ。君たちに負担をかけざる得ない状況だというのは、理解してほしい」

「我々は出られるぞ」

 そう力強く言ったのは、雨宮蒼太だった。気合が入っているのか、今にも飛び出しそうな勢いで立つ。

 普段は仕事で忙しいのだが、この日に限って彼はここに顔を出せていたのだ。もちろんたまたまである。娘の顔を見に来たのだ。

 滝下浩毅は「いえ」と、その申し出を断った。

「な、なぜだ? 我々は君たち以上の力があると自負しているぞ」

「我々、タスク・フォースより強いのは重々承知しています。だからこそ守るべき人たちを貴方方に任せたい。避難誘導、及び市民の護衛をお頼みしたい」

 雨宮蒼太は娘の顔を一瞥する。困ったような彼女の顔を見て、肩を落とし「わかった。君の指示に従おう」と言いながら、力なく座った。

 滝下浩毅はブリーフィングルームを見渡し、各々に質問などが無いことを確認する。

「オニキス。作戦概要を頼む」

 オニキスは席を立ち、滝下浩毅の元まで歩み出た。

「作戦はこの前提案したとおりです。空の力とエイダさんの探査魔法で敵の位置を割り出し、そこにピンポイントでローズクオーツたちには向かってもらいます」

 オニキスは淡々と作戦概要を説明していく。

「エイダさんは魔法少女達が敵と接触をしはじめたら、探査魔法を全解除。すぐにクリスを対応してください。ここから探査はアゼツライトの空の力だけになるから、敵を見逃さないように」

「わ、わかりましたわ」

 これから決戦を控えているからなのか、白百合の声は震えてしまう。その後ろの席に座っていた和也は、白百合の頭を掴んで撫で回した。

「大丈夫か〜?」

「和也さんがいますから」

「なっ! おまっ! お前!」

 和也は白百合の言葉に赤面してしまう。

 そんな様子に凍りついていたブリーフィングルームの空気が溶けていく。

「やれやれ。次行くよ? 問題は赤銅のエレメンタルコネクターだ」

「なんでそいつは問題になるんだ?」

 暁美は聞きながら首を撚る。

 そんな彼女の言葉に凪と水青は小さいため息を漏らした。すぐに飽きれられたとわかった彼女は「なんだよ」と抗議の声上げる。

「赤銅のエレメンタルコネクターだけが、相手がいないんだ」

 オニキスが視線で滝下浩毅に促す。彼は端末を操作しディスプレイに敵の戦力と自軍の戦力を表示した。

「実際は敵のエレメンタルコネクターの数とこちらの魔法が使える人数は同じだ。だけど、ルワークに2人割り当てることになっているから、どうしても赤銅のエレメンタルコネクターだけが対応できる人間が居ないんだ」

「他の戦力を当てたいところだが、どうしても赤銅の戦士だけが浮いてしまうんだ」

 滝下浩毅が補足する。

「だからこそ、我々雨宮を――」

「すでに避難指示を出しているとはいえ、混乱などが各所で起きています。それらを無視することは出来ない。下手すると市民に被害が出てしまうでしょう。それだけはコレ以上出してはならない。だから貴方方に守ってほしいのです」

 雨宮蒼太は苦々しく、滝下浩毅の言葉を聞くしか出来ない。

「先程も滝下さんが言いましたけど、エレメンタルコネクターと戦闘した経験がないとかなり厳しい。向こうは魔力さえ尽きなければ、魔法をほぼノーリクスで使ってくるし、防御力も超常生命体の空間湾曲領域と同等か、それ以上。おまけに身体能力向上効果もある」

「更に付け加えると、向こうは背水の陣で、こちらに総攻撃をかけてくるでしょう」

 神代拓海のダメ押しの言葉に、雨宮蒼太は「わかった」と静かに答えた。

「そう。神代さんが言ったとおり敵は死に物狂いでこちらを殺しに来ます。なりふり構わずやってくるでしょう。もしも関係のない人が人質になったときにローズクオーツ達は戦えるかい?」

 当然明樹保達は首を横に振る。

「つまり、雨宮さん達には、ローズクオーツ……アイオライト達が安心して戦える様にして欲しいのです」

「なるほどな。そういう風に言われちゃ仕方がない。死に物狂いで守りぬこう」

 雨宮蒼太は笑う。携帯を取り出しどこかへ連絡をし始めた。相手は自分の会社のヒーローたちだろう。

「で、それたけど、赤銅のエレメンタルコネクターが浮いてしまっている。グレートゴールデンドラゴンナイトとタスク・フォースの08チームに相手してもらいたいんだけど」

 オニキスの目配せにグレートゴールデンドラゴンナイトと08チームの面々は首肯する。

「先にも述べたとおり、戦闘に回せる戦力がギリギリだ。他の魔導師達をある程度、数を減らしてからの戦闘が望ましい。グレートゴールデンドラゴンナイトの攻撃力は、エレメンタルコネクターに匹敵している。これをそのまま赤銅の戦士ぶつけてしまうと、周りがジリ貧になるだろう」

 滝下浩毅は部屋全体を見渡しながら、説明した。

 実際のところ、魔法少女達と超常戦士2人以外は、特筆すべき能力がない。ましてや、警察が所持している武器は精々ライフルだ。もちろん普通の人には、殺傷能力がある。だが、相手は魔鎧を持ち得る魔導師達。そしてオートマターだ。

「わかった。俺はなるべく、素早く敵を蹴散らす」

 グレートゴールデンドラゴンナイトは「任せろ」と胸を打つ。

「すまない」

 この部屋にいる大人たちの表情は固く。強い決意のようなモノが感じられた。

「で、ローズクオーツ達の相手だけど、ローズクオーツとアメジストがルワークを相手してほしい。訓練通り、終焉の剣さえかわせれば、黄金の月と湾曲の力は銀の太陽に対向しる力だ」

「あの……」

 真っ直ぐと伸びる手。その手の主は水青である。

「どうしたの?」

「以前戦った方と戦わせて欲しいのです」

 

 

 

「……ここまでは計画通りか」

 女性オペレーターは「はい?」と聞き返すが、彼は手を振りなんでもないという意思を伝えた。

 歯を食いしばり、何か苦痛にも似たモノをこらえるかのようにする。

「辛いな……」

『滝下君、ゴム弾の完成だ。届けてくれ。これより強化ユニットの最終調整に入るわい』

「了解です。新堀」

 新堀金太郎は『あいよ』と応えた。

 ディスプレイに表示されていた彼のマーカーが物凄い速度で移動する。タスク・フォースの基地へと向かっていた。

「これで少しはこちらの流れになるか」

「消防団位置に着きました」

「杉原さんがタンクローリーを確保。支払いはどうしますか? とのことです」

 矢継ぎ早に朗報が飛び込んでくる。これには滝下浩毅も表情をほころばせた。

「こっちで持つと伝えておいてくれ」

 

 

 

 

 

『愛しのゴム弾届けるよーん。な・の・で――』

「どこへ誘導すればいいの?」

 突然の無線も冷静に応対するクロムダイオプサイト。無線越しの相手は、息を吐くかのように笑う。この間にも赤い風と黒い雷が彼女たちの背中に追いすがる。

 大木を生やしてはその枝に飛び乗り、蔦を手にとって渡っていく。

 思い出したかのようにアスファルトに着地して、地面をめくり上げた。

「クロムダイオプサイト! 左……じゃなくて右に飛んで!」

 ガーネットの悲鳴にも似た叫びに、クロムダイオプサイトは冷静に対処する。

 背後からの攻撃を振り向かずに横へ飛んで躱す。彼女たちの左を黒い稲妻が轟音と衝撃を伴って直撃する。

「待つんだな!」

「待てと言われて待つ人間がどこにいるかしらね」

『お取り込み中みたいだなー』

 金太郎の声に緊張感は感じられない。むしろ朗らかであった。

「気楽に言ってくれちゃって。割りと焦っているんだから、早くして」

『特にないんだわ。適当にお前さん達が戦闘を開始した場所に行くって感じだな』

「そんなこと……」

 カーネリアンは不安そうな顔になる。

『だからなるべく早く、位置取り決めてくれよ。こちとら魔法の力なんててんでないんでね』

 命ヶ原の大通りは二車線。彼女たちはその大通りをフウサク、ライタクの猛攻を躱しながら走っていた。そのため大通りのアスファルトは粉々に打ち砕かれ、土や下水道が露出している。

 クロムダイオプサイトは自分の後方へと視線を流す。

「車両での移動は難しいわね。天乃里公園に向かうわ」

「えっ? でもそこってそんなに広くないよ」

 ガーネットの問いに彼女は「いいのよ」と言うと、風を纏う。緑の疾風は吹き抜けていく。

「速い速い。そうでなくちゃね」

 嬉しそうにフウサクは笑う。赤い風で自分の感情を表すかのように躍らせた。

 

 

 

 

 

 天乃里公園。街中にある公園にしては広すぎず狭すぎず、自然も多い。テニスコートがあり、時折婦人たちが談笑しつつテニスをしている姿も見られた。グランドは大小2つあり、子供達を夢中にさせるプラスチック製のアスレチックが公園の中央にある。また広いグランドもあり、平日の昼はゲートボール場として、夕方にはペットの犬や子供たちが、縦横無尽に走っていた。休日には少年野球の試合が度々開催されるほどである。

 遊ぶには狭くない。しかし、移動しながら戦うには狭い。

 到着すると同時にクロムダイオプサイトは濃緑色の光を瞬かせ、大木を無数に生やした。間髪入れずに破壊音が響く。グランド、アスレチックなどは見るも無惨に壊れ、公園に備え付けられていたトイレは吹き飛び、水を噴き出していた。

 当然隣にいたガーネットは抗議の声をあげようとしたが、彼女の真剣な面持ちに閉口してしまう。

「ここで迎え撃つ。ここですべて決める」

 普段は声に感情を乗せないクロムダイオプサイトだが、今の言葉には強い決意が込められていた。そんな彼女の言葉にガーネットは短く「うん」とだけ答えた。

 程なくして敵は到着する。

「わかっちゃいるけど、先に味方が来て欲しかったわね」

「そうだね」

 カーネリアンは自身の指輪を最終確認した。

「いくわよ」

「うん」

 黄色と黒の雷。緑と赤の風が激しく激突する。

 

 

 

 

 

 ローズクオーツとアメジストはルワークと対峙していた。彼女らはいつでも飛び出せるように構えを取っている。対してルワークは無防備だ。両の腕をだらんと下げ、無気力とも思えるほど殺気の類はない。彼の目が明樹保の指先で止まる。その先には彼女が持ち得ない指輪、黄金の月。

「なるほど、志郎の読みは外れたか。お前たちはさしずめ時間稼ぎが目的だな」

 ルワークは声を押し殺すように笑う。

「何がおかしいの?」

「いやな。お前たちの仲間の……オニキスだったけか? 結構無茶するなってな。オリバーが是が非でも倒したい気持ちがわかってな」

 ローズクオーツとアメジストは顔を真っ青にした。目の前の男が口を大きく歪めて笑っている。その瞳に狂気を宿して。

「お前達が迷いなく俺達と遭遇している事、お前の指にある黄金の指輪、そしてオニキスの性格を考えれば、指輪無しでオリバーと戦闘しているのだろう? まんまと志郎の作戦の裏をかかれたが、精々五分に持ってこれたくらいだ」

 アメジストは軽く怒りを見せる。

「それでも勝てないっていうのかしら?」

「違うな! 最高じゃないか、面白いじゃないか! 俺達もお前たちも背水の陣だ。負ければ先がない。どっちが勝つかなんてわからない。だから面白いだろう! さあ、始めようか――」

「私達の決着を」

 ローズクオーツはその先を先に言う。2人は笑った。次の瞬間には互いに肉薄。わずか数センチの攻防が始まっていた。アメジストは呆気にとれられて、出だしが遅れる。少し戸惑いを見せつつも、仲間と敵の動きを冷静に見極めて援護に入った。ルワークは2人を相手にしても余裕だ。拳打をすべて受け止めていく。

「そうだ! もっと楽しませろ!」

 ルワークは2人を吹き飛ばすと、左腕の義手を突き出す。そこに収められた魔石を輝かせる。銀の光が周囲を差す。2人は眩しそうに顔を覆おうとして、バイザーの遮光機能が機能する。光はみるみるうちに形を象っていく。そして大剣が出現した。

「あれが……」

「くっ!」

 彼女ら2人の脳裏にはオニキスとルワークが戦った光景が蘇る。一瞬で3度振り抜くルワークの剣技に汗が伝う。

 アメジストは歯を食いしばる。顕現して間もなく、彼女は駆け出す。

 飛び出した衝撃で小石が跳ねる――。

 彼女は剣を握る前に蹴り飛ばそうとしたのだ。しかし、ルワークは彼女が肉薄するよりも早く柄を握った。魔力を込めて赤き宝玉を瞬かせる。その頃にはアメジストはルワーク肉薄していた。2人は視線を交わす。焦燥と余裕。

 紫の光が閃く。否、即かき消される。重力と糸は顕現する間もなく終焉したのだ。終焉の剣はアメジストの首筋に向かって動いていた。それは藤色の光によってねじ曲げられる。

「なっ!」

 ローズクオーツが歪曲の能力を使って曲げたのだ。直後に蹴りでルワークの腕ごと軌道をそらす。

 ――小石は地面に落着して転がった。

 その攻防はわずか数瞬。

「アメジストさん。連携ですよ」

「え、ええ。ごめんなさい」

「はっ! お前とはつくづく相性が悪いようだ」

 ルワークがそう言った時には2人の目の前に現れていた。大剣を一瞬で3度。否、4度振り抜く。黄金と藤の光が閃く。終焉を歪曲し反射。それを魔鎧を強化した蹴りで、蹴飛ばす。

「無駄ぁ!」

 蹴りで吹き飛ばされそうになった剣を強引に振り下ろす。

「させない!」

 アメジストが重力と糸で強引に軌道を変える。ルワークは腕に絡みついた糸を強引に引きちぎると、距離を取った。

「これならばどうだ!」

 終焉の剣を両手で上段に構える。赤い宝玉が3つ輝く。

 がら空きになった懐に飛び込もうとしたローズクオーツはアメジストに阻止される。首根っこを掴まれてしまう。

「何を?」

「来るわ!」

 ルワークはそれを振り下ろす。アメジストは糸と重力で退避する。

「終われ!」

 剣から放たれる衝撃波。それらは触れたモノを終わらせる。

 アスファルトで舗装された地面。街路樹。電信柱。建物。乗り捨てられた車。それらは塵へと化す。

 ローズクオーツ達は体勢を立て直す。剣が振り下ろされた場所から衝撃波が走った場所は一直線に塵へと変わっていた。すべてが何もない土へと変わってしまっている。その事実に彼女たちを恐怖させた。

「次は外さん」

 もう一度構える。アメジストは回避を試みようとして、動かない仲間に動揺する。

「え? ローズクオーツ?」

「ダメです! これ以上はやらせない! 街が」

 ルワークは笑う。

「この期に及んで、街の心配なんかしているとはメデタイやつだな」

「みんなの住む場所を守る事の何がいけないのよ!」

「自分のモノを守れない弱者なんて気遣う必要なんてどこにある?」

「私が魔法少女だからだよ」

「は?」

 ローズクオーツは笑ってみせた。

「知らないの? 魔法少女ってみんなの夢と希望と平和を守るヒーローなんだよ」

「はん! くだらない。弱き者を守って優越感に浸りたいだけだろう?」

「弱い人を虐げて優越感に浸りたいだけの人に言われたくない」

 避け続けることは可能かもしれない。しかし、それでは何の解決もできない。それどころか街が破壊されていくだけである。彼女はルワークと対峙した。アメジストは止めようか少しの間迷う。

 桜色の光が収束する。それを見せつけられた瞬間アメジストは諦めたように笑った。

「いいわ。でも、負けたら承知しないから」

「わかりました」

 アメジストはローズクオーツの後ろでいつでも飛び出せるようにする。ルワークは彼女らが何をしようとしているのかわかって笑う。そうローズクオーツは終焉の衝撃波に己の魔法で立ち向かおうとしているのだ。

「いくぞ!」

「負けない!」

 先に仕掛けたのはルワークだ。終焉の剣を振り下ろし、魔法少女たちを終わらせんと衝撃波が迫る。

「私は! 魔法少女!」

 ローズクオーツは叫ぶと、桜色の光を放つ。

 桜色の光と終焉の衝撃波が激しく激突する。終焉の衝撃波は光を泡状に霧散させていく。桜色の光を飲み込んでいったかのように思えた。しかし、それは――。

「魔法少女なんだぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 ローズクオーツの雄叫びにも似た絶叫に呼応するかのように光はその勢いを、輝きを強めていく。

 ――衝撃波が光に押される。

「馬鹿な! 何ものも終焉させることが出来るんだぞ!」

 桜色の輝きは散るどころか勢いを増していく。ついに衝撃波を飲み込んでルワークに迫る。

「弱い奴のやめの力なんかに!」

 ルワークの雄叫び。終焉の衝撃波もまた息を吹き返す。

 赤い宝玉に小さい亀裂が入る。

「負けてたまるか!!!」

 相打ち。互いに相殺したのだ。霧散した桜の光は、花びらのように舞い散る。その舞い散る花道を紫の光が疾駆していく。アメジストだ。両の拳に魔法で重力波を収束させる。肉薄し拳打の連撃。ルワークは大剣を盾のようにして攻撃を受け流す。

 赤い宝玉に当たり亀裂が広がる。

「ッシャアアアアアアアア!」

 回し蹴り。ブリッジでこれを回避。ローズクオーツが距離を詰めていた。飛び蹴りを繰り出した。

「地に足がついていないと死ぬぞ!」

 彼の言うとおり、ローズクオーツは空中を一直線でルワークに迫っていた。それをルワーク狙い。大剣を振りかぶる。

「私を忘れてないかしら?」

 彼の視界の下でブリッジしたままのアメジストがいた。

「ちぃ!」

 がら空きになった懐に、飛び込むように両足で蹴り飛ばす。バランスを崩したところにローズクオーツの飛び蹴りが入った。ルワークは地面を転がるが、即座に立て直す。片膝をついてすべり、距離を開ける。それは一度相手の連携を終わらせるためだった。彼女たちも焦らないために、下手に詰めずに相手の出方を伺う。

 しばし事態は膠着する。

 

 

 

 

 

 草木が生い茂り赤い風の行く手を阻む。強風を吹かせてなぎ倒そうとするが、魔法の木は折れることはない。周囲の自然に生えた木々はなぎ倒されて、吹き飛ぶ。それらは家や車などに突き刺さっていく。

「やるね……」

「どうも」

 クロムダイオプサイトは視界の端でカーネリアンの様子を伺った。よろしくない状況である。前回と同じくカーネリアンは逃げているだけになっていた。黒い稲妻が彼女を捕らえようと迫る。その度に木を盾に逃げるが、打ち砕かれる。爆破して距離を開けて、の繰り返しだ。

 

 

 

 なんとかしないと不味いわね。鳴子もあれで結構戦えているほうだけど。前回の恐怖と生理的嫌悪感から逃げてしまっている。そもそもたかだか学生だった私達が、大人の男と戦えってのが無理なお話だ。曲がりなりにも相手は戦闘のプロだ。なんとかできている今がおかしいのかもしれない。

 私がなんとかしないと不味いわね……。もう少し耐えてね鳴子。

 ふと脳裏に明樹保の笑顔が過った。

 明樹保は紫織さんと一緒にルワークと戦っていたわね。早く行ってあげないと。今度こそ一緒に背負うんだ。

「余所見しないでよ……」

「あんたつまんないし」

 相手は露骨に怒りを露わにする。

 嫌ね。私も得意ではない相手なのに。つい挑発してしまう。

怒ると赤い風となる相手。魔石の位置は常に一定。バイザーに魔石の軌道情報を逐一入れていく。後は――。

 

 

 

 凪ちゃんの足を引っ張っている。どうしようなんとかしなくちゃ。

 背後で破裂音。恐る恐る背後を見た。

「ペロペロさせるんだな!」

「ひぃ!」

 相手の人は私が嫌がっているのをわかって、舌なめずりしてみせる。それを見る度に体が思うように動かなくなった。

 なんとか歯を食い縛って、逃げる足に力を入れていく。目の前の大木を垂直に駆け上がる。

「無駄なんだな!」

 追いかけてくるところを爆破。

 これでもダメか。

 黒い稲妻になって躱されてします。

「今のは危なかったんだな」

「なんとかしないと」

 凪ちゃんに任せっきりではダメなんだ。私だけが凪ちゃんを、みんなの足を引っ張っている。なんとかするんだ。なんとか。

 ふと明樹保ちゃんの笑い声を幻聴する。

 明樹保ちゃんは無事だろうか? 直ちゃんの時のようにはさせない。だから、待っててね。必ず……必ずなんとかするから。

 

 

 

 カーネリアンは周囲に爆弾を張り巡らす。深紅の輝きが多数同時に爆発する。それは仲間であるクロムダイオプサイトにも影響が出た。巻き上げた土埃で視界が大きく遮られたのだ。もちろん風の能力を持つクロムダイオプサイトとフウサクはすぐに土煙を風で吹き飛ばす。その瞬間クロムダイオプサイトは驚きに目を見開いた。そこにあったのはフウサクの背後に深紅の輝き。そしてカーネリアンだ。

「なっ?!」

 クロムダイオプサイトが驚いたことにフウサクは気をよくする。そう彼は気づいていない。背後の深紅の輝きが轟音と共に破裂する。クロムダイオプサイトは風を纏って爆風を受け流した。フウサクも咄嗟に風になって受け流す。赤い魔石にカーネリアンの掌底が延びる――。

「こっちを無視するなんて酷いんだな」

『クロムダイオプサイト!』

「わかってるわよ!」

 クロムダイオプサイトはカーネリアンに迫るライタクの進行方向に濃緑の光を走らせる。茨が壁となり彼を阻む。

「無駄なんだな」

 彼は黒い稲妻になって走る――。

 ――掌底が魔石に届く直前でフウサクは実体化する。元の人へと戻ったのだ。その影響でもろに掌底を受けてしまう。カーネリアンはそのまま雷撃を放出する。彼の体を稲妻が穿つ。彼はお返しと言わんばかりの暴風をカーネリアンに投げつける。

「……殺す」

 ――稲妻は茨を弾き飛ばしながら疾駆した。茨を抜けようとしたその瞬間だ。魔石を捉えようと蔓が網のようにライタクの行く手を塞いだ。黒い稲妻はそれを容易く吹き飛ばす。

「甘いんだな! だな!」

 直後に直下から大木が魔石を穿かんと顕現する。回避不可能と判断して元の人へと戻る。大木に打撃を受けて顔を苦悶に歪める。

「邪魔! 邪魔! 邪魔なんだな!」

 黒い雷球が周囲を覆う。

 赤い暴風と黒い稲妻が彼女らを吹き飛ばす。すぐに地面から起き上がり、お互いの無事を確認する。

「ごめん。相手を変えれば上手くいくかなって思ったんだけど」

「悪くなかったわ」

 それぞれ肉弾戦に移行していく。クロムダイオプサイトとカーネリアンは防戦一方である。カウンターを打ち込んでみるものの、余裕で対応されてしまう。

「切り裂く」

 フウサクの赤いかまいたちが3人を襲う。クロムダイオプサイトは咄嗟に風の壁を顕現させてカーネリアンをかばう。

「あ! 凪ちゃん!」

 かまいたちは容赦なく壁を遅い。ついに突破する。無数の切り傷が彼女の体を走った。

「あっはっはっはっは」

「何をするんだな! おかえしなんだな!」

 同じく傷だらけのライタクは雷球を3人に攻撃する。カーネリアンは傷ついたクロムダイオプサイトをかばう。稲妻で雷撃を撃ち落としていく。が、抜けた雷撃が彼女を穿つ。激痛に悶える悲鳴が響く。

 赤と黒の光が煌々と閃く。

「邪魔、終わらせる……」

「黄色い子はペロペロするから殺しちゃダメなんだな」

「うるさい。殺す」

「ダメだって言っているんだな」

「うざい」

 2人は口論を始める。互いに憤怒の形相となった。目の前の相手を無視して互いに相手を攻撃し始めた。彼女らは突然の事に呆けてしまう。赤い竜巻と黒い雷が衝突した。その余波に巻き込まれてクロムダイオプサイトとカーネリアンは、吹き飛ばされる。

 

 

 

 

 

 グレートゴールデンドラゴンナイトの視界に巨大な赤い竜巻と黒い雷が飛び込んだ。

「あ? なんだありゃあ?」

『こちら司令部。グレートゴールデンドラゴンナイト応答せよ』

「こちらグレートゴールデンドラゴンナイトだ」

『すまないが、作戦を変更する。クロムダイオプサイトとカーネリアンが苦戦している。援護に向かってくれ。彼女たちは天乃里公園にいる』

 グレートゴールデンドラゴンナイトが公園の方に視線を向けると、赤い竜巻と黒い稲妻が地面と空気を震わせていた。

「和也達の方は大丈夫なのか?」

『そっちは――とにかく、君の位置関係的に近いのが、天乃里公園だ。すぐに向かってくれ。後少しで00ゴールド達が合流できる』

「……了解」

 グレートゴールデンドラゴンナイトは方向転換すると、猛然と走りだす。地面を蹴る度に、アスファルトをめくり上げさせる。

 黄金の閃光が走るかの如く。あっという間に彼は目的に到着し、跳躍。そのまま着地点を黄金の旋風で吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 黄金の光と、土煙が巻き上がる。

「はっはー! お前らこのグレートゴールデンドラゴンナイトが来たからには好きにはさせないぜ!」

 と、自身に親指をさして名乗る。が、しかしグレートゴールデンドラゴンナイトの搭乗に敵はまったく反応しなかった。否、反応している余裕がなかったのだ。互いに殺しあっていたのだ。

「えーっとこういう場合はどうするんだ?」

 彼は周囲を見渡す。と、一点で止まると慌ててそこへと走った。そこには傷だらけで倒れていたクロムダイオプサイトとカーネリアンがいた。

「おい。おい大丈夫か?」

 両方を肩を掴んで揺する。最初こそ反応はなかったものの、徐々に反応示す。その様子にグレートゴールデンドラゴンナイトは安堵の息を漏らす。

「あ? あんた」

「うぐぐぐ……鈴――「グレートゴールデンドラゴンナイトだ」――そうだった。ごめん」

「カーネリアン、あんたさっき私の名前言ったでしょ?」

「え? 嘘? ごめん」

「もう……」

 クロムダイオプサイトは呆れたように笑う。

「おいおい、そんな余裕ないぞ」

 直後に赤い風の刃が彼らを襲う。咄嗟にグレートゴールデンドラゴンナイトが迎撃して相殺する。

「あ? 仲間割れ?」

「のうよね」

「つまり今がチャンスだ」

 彼女らは首を振る。

「なんでだ?」

「力の差がありすぎる。あんなの2人も相手にしても消耗するだけ。この先の事を考えると無駄な消耗はしたくない。それよりも今のうちに色々と仕掛けておきたい。グレートゴールデンドラゴンナイト時間稼げる?」

 彼は彼女らに背中を見せる。

「あいよ。任せておけ。何を隠そうそういうのはこのグレートゴールデンドラゴンナイトは得意だ」

 そして一瞬も間も置かず赤と黒の嵐の中に突っ込んでいく。

「クロムダイオプサイト、そっちはついた?」

『おうよ。どうする?』

 クロムダイオプサイトの言葉は、轟音に遮られた。

 

 

 

 

 

『こちらラボ。強化ユニットとエイダ君の武器を用意したぞい』

「は?」

 その報告に滝下浩毅は口をあんぐりと開けた。

『いや、だから――』

「いえ、もう何も聞きません」

 彼の疑問は後者の武器だ。エイダへの武器は予定になかった。だが、早乙女源一はこの短時間でそれも用意したのだ。その時間があれば強化ユニットの改良はもっと早く終わったのではないかという疑問は強くあるだろう。それでも彼はやらねばならいことを優先した。

「誰か運べる者は……」

 マップを見る彼の表情は苦々しくなる。運びに動ける要員がいないのだ。

「私が運びましょうか?」

 男性オペレーターが名乗り出る。しかしそれを手で却下した。

「いや、私が出る。インカムを用意してくれ」

 司令室は一瞬の間が空く。

「な、何を言っているんですか? 司令官が前線に出るなんて――」

「君らにはまだ役割がある。それに指示出しくらいは現場でも出来る」

 滝下浩毅はすでに出る準備を終えて、臨時の指揮官を男性オペレーターに一任する。

「あ、でも――」

「私に行かせてくれ。こんなに事態を悪化させた一因は私にもある。だから――」

『滝下君。君に託すが死なれちゃ困るんじゃが?』

 早乙女源一の言葉に滝下浩毅は笑う。

「そんなことをすれば保奈美に怒られてしまいますよ。この戦いが終わったら、生きて彼女の宿題をやり遂げるつもりだ」

 その言葉に誰もが「あっ」となる。

 

 

 

 

 

 赤いかまいたちが走る。それは空間湾曲領域をついに突き破った。グレートゴールデンドラゴンナイトの右腕が肩口から切り飛ばされる。赤い鮮血が勢い良く噴き出た。しかし、彼は声1つ上げず、切り飛ばした相手に突っ込んで頭突きをお見舞いした。その背中に黒い雷撃が穿たれる。地面を転がり、赤い血飛沫を撒き散らす。

 突如、周囲に濃緑の森林が顕現する。

「頼んだぞ」

 グレートゴールデンドラゴンナイトはそうつぶやくと、吹き飛んだ右腕を探した。

「また? 邪魔」

「だな! だな!」

 フウサクはそのすべてを吹き飛ばそうと竜巻になる。ライタクも稲妻の龍へと化けた。先に動いたのはライタクだ。彼は森の中を逃げるカーネリアンを見つけたのだ。己の目的のために彼女を追撃する。木々を吹き飛ばしながら彼女を追い詰めていく。

『無駄! 無駄なんだな! ペロペロされるんだな!』

 黒い稲妻が通った後の木の陰から男が数人現れる。彼らはその手に太い筒がついた銃を取り出す。全員が全員それを最終確認して、構えた。

 カーネリアンは黒い稲妻から逃げながら元来た道を戻ってくる。

「やっと俺達の出番だな」

「そうですね」

 櫻井と制服を着た警官は、悪巧みをする子供のように笑う。

「正義の味方はヒーローだけじゃないって見せてやりますか」

「おうよ! おやっさんに自慢してやるぜ」

 カーネリアンは全力で駆け抜けて、彼らに目配せした。稲妻の龍が直後に現れる。

「撃て」

 短い一言。男たちはそれを発射する。特殊なゴムで作られた網だ。それに覆われたライタクは引き剥がそうと暴れるが振りほどけない。弾き飛ばすことも出来ない。強引に放電するが、ゴムが電気を遮断する。例え漏れでた電気があったとしても――。

「させない!」

 カーネリアンが撃ち落とす。

「このっ! なんでだよ! なんでなんだな! このっ! このっ!」

 ライタクはいつの間にか元の姿へと戻っていた。ゴムの網が絡まり彼は地面を転がる。

「ペロペロしないと救えないじゃないか! 救えないんだな! 今度こそ救うんだな!」

 目を血走らせてライタクはカーネリアンに飛びかかろうとした。しかし直後に複数の銃撃音が降り注ぐ。銃弾はライタクを、そして彼の魔石を撃ちぬいた。銃撃音が止む頃にはライタクは絶命。

 大木の上に「SWAT」と書かれた装備を身にまとっていた男たちが十数人待機していたのだ。

『こちらカーネリアン。作戦通り倒したよ……』

 

 

 

 作戦は至ってシンプル。それぞれ執着している相手がいるから、彼女らを囮に分断させる。黒い雷の奴は予め用意していた絶縁性の高いゴム、撃てば網になるゴム弾を使って動きを封じ。動きが鈍った所を待機させているSWAT隊で射殺する。

「ここまではいいが」

 問題はクロムダイオプサイトの方だ。あっちの方は風になった所を狙撃班と俺で、魔石を撃ちぬくという。結構強引な作戦だ。魔石の軌道データはあるとはいえ、その通りに動くとは限らない。

「ってか、女の子を前線に立たせて後ろにいるのって情けないな」

『00ゴールド来るわ』

「りょーかいっと」

 俺はうつ伏せになってヘッドアップディスプレイを狙撃モードに変えた。

 使う武器は、前回の戦闘で作ったフォトンスナイパーライフルの改良型。威力は多少堕ちたが、信頼性は高い。

 覗きこんだスコープ越しに、赤い風が全面に映る。心臓が高鳴った。

 くそー。マジ、こういう役割苦手なんだよなー。

 トリガーにかかる指に無駄な力が入る。

 焦るな。焦るんじゃない。魔石をターゲットに入れて狙撃するだけだ。それに他にも狙撃銃を構えている奴らはいるし、カーネリアン達の方も手が空いているから、なんとかしてくれているはずだ。

 赤い旋風が樹木の壁に阻まれている。赤い旋風の中に魔石を探す。軌道データを照らしあわせて、ターゲットサイトで追う。

 見つけた……。

 

 

 

 オレンジの光弾が一直線に赤い旋風を穿つ。赤い旋風が霧散した。誰もが息を飲んで様子を伺う。沈黙が周囲を支配する。

『こちら狙撃班。木々が邪魔で確認出来ない』

『こちらクロムダイオプサイト。様子を見てみるわ』

 一部の樹が濃緑の粒となって霧散する。その瞬間だ。

『今のは危なかったよ!!!』

 フウサクの怒号にも似た叫びが、空気を震わせる。赤い突風が刃となって駆け抜ける。クロムダイオプサイトは攻撃を防ごうと濃緑の木々と緑の風を展開した。

『逃げろ! クロムダイオプサイト!』

 新堀金太郎の叫び声が通信機越しに、彼女の鼓膜を震わせる。

『死ねぇええええええええええええッ!!!』

 巨大な赤い刃がクロムダイオプサイトを襲う。

 赤い風は何もかも削りとった地面を見た。そこだけパックリ割れた地面。それを愉快そうに見て風は踊る。

『やった! やったぞ! 僕が殺したんだ!』

「残念でした」

『え?』

 その声は自身の風の中からだ。そして風に乗って何か緑と黄色と黄金の影が抜け落ちていく。

 彼は最後まで自身に何が起きたのか、理解しないまま消滅した。

 

 

 

 

 

「ったく、無茶しやがって」

「「ごめんなさい」」

 クロムダイオプサイトとカーネリアンは2人して、謝罪した。隣にいるグレートゴールデンドラゴンナイトはふんぞり返っているだけである。

「まさか、土壇場であんなことするなんて」

 攻撃を受ける瞬間、カーネリアンがクロムダイオプサイトを救ったのだ。彼女は自身をエレメント体にすると、クロムダイオプサイトを抱えて風の背後に回り込んだのだ。そこでグレートゴールデンドラゴンナイトと合流。そのまま風の懐に飛び込んで魔石に宿り木を付着させ、グレートゴールデンドラゴンナイトがそれを目印に斬り捨てたのだ。

「金ピカ、腕は大丈夫?」

「グレートゴールデンドラゴンナイトだ!」

「金さん大丈夫?」

「なんか突然ババ臭くなったぞ! だからグレートゴールデンドラゴンナイトだって!」

 彼は五体満足になっていた。

 彼の説明によると、超常戦士は腕が斬り飛ばされても、くっつければ治るとのこと。

「なるほどな。とにかく、こっちは無事に終わったな」

『こちら司令室』

 通信の声は滝下浩毅の声ではなかった。金太郎は首を傾げる。

「あん? タッキーは?」

『今はエイダさんのところへ武器と強化ユニットを運んでいます。皆さんはそのまま急いでルワークの元へ。ローズクオーツ達の戦況は思わしくないです』

「了解だ。聞こえたな? 急ぐぞ」

 全員首肯して、駆け出していく。その遥か先に銀の太陽が顕現する。

 

 

 

 

 

〜続く〜

 

説明
最終決戦は続くよ
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