ワールドエンド 3
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「敵か?」

 通信機に向かってイオンは語りかける。もちろん彼の望む答えはイエスだ。普段の飄々とした態度とは裏腹に、彼は戦いが好きだった。いや、ADに乗るのが好きなのだ。そのため彼は船長という立場にも関わらず、ADで出撃する。その間の船の指揮は、副船長であるリーザが執ることになっていた。つまり、この船の戦闘時の船長は副船長のリーザなのだ。

「海底軍です。蟹が一組のみですので、おそらく哨戒中ではないかと思われます」

「じゃあ本隊が来る前にそいつら片付けて逃げるぞ」

 日に二度目の出撃。今日はツイてるな。笑顔で通信をきる。

 そしてイオンは当然のように、ブリッジではなく格納庫へと足を向けた。

 

「出撃ですかい大将?」

 イオン機のコクピットハッチを開けながら、整備班長のダニエル。

「俺はこいつに乗るためにこの船に乗ってるようなもんだからね。死ぬときはこいつの中がいい」

「縁起でもねえこと言うなよ大将。大将が死んだら俺のせいになっちまう。そうなりゃリーザちゃんに蜂の巣にされちまうよ」

「ちげえねぇ。あいつはマシンガン中毒のトリガーハッピー野朗だからな」

『聞こえてますよ艦長。誰がトリガーハッピー野朗なんですか? それに私は女なので野朗には当てはまりません。むしろトリガーハッピー野朗はあなたです』

 どうもコクピット内の通信がオンになっていたらしい。イオンとダニエルの軽口はブリッジに筒抜けになっていた。ダニエルは確信犯らしく、口笛を吹いてわざとらしく視線を逸らしている。

(ダニエル……こいつはてめえの仕業か?)

(はて、いったいなんのことやら)

(帰ったら覚えてろよクソ)

『覚えておくのは艦長のほうです。帰ったらたっぷりトリガーハッピーについてご教授くださいますようお願いします』

「この地獄耳が……」

 悪態をつきながらコクピットシートへ。ダニエルが笑いを堪えながら手を振っていた。

 

 敵はそれなりに錬度があるようだった。海底軍なので当たり前と言えば当たり前なのだが、水中戦に慣れているようだった。

 蟹の親子が一組。戦力は互角ではあったが、母艦を伴っていない彼らは圧倒的に不利な立場にあった。つまりキャンサーが撃墜されれば、ADは長時間の運用が不可能になるのである。

 キャンサーの支援なしではADは一時間も稼動できない。母艦のない彼らがキャンサーを失えば、もはや投降するしか助かる道はないといえるだろう。世界の9割を海が占めるこの世界で、漂流者が救助される確立は限りなく低いのだ。

「マックス、アドルフ、蟹からやるぞ。ジョージは援護してくれ」

 了解、という3つの声が通信機越しに返ってくる。

 マシンガンを構え、突撃。

 キャンサーが狙われるのを予測してか、敵はADとキャンサーを繋ぐケーブルを切り離しはじめた。そしてキャンサーは後方へ。キャンサーを完全に後方支援に徹しさせたAD主体の戦術である。

 下がったキャンサーからの魚雷。イオン機がバルカンで迎撃し接近。それを阻むように2機のAD。

 マックス機とアドルフ機が弾幕を張り、敵2機の接近を押しとどめる。

「こいつら偵察兵のくせになかなかやりやがる!」

「ジョージ、右に回れ! 誘いこむぞ!」

 キャンサーを下げ、ケーブルを外しているため海底軍側は極端に持久戦に不利になってしまっている。しかし、持久戦が好ましくないのはイオン達も同じであった。海底軍の本隊が到着すれば、イオン達のような小さな海賊など物量で殲滅できるのだ。かといってここで偵察隊を見逃せば、間違いなくその後にやって来る本隊に追われることになる。

 危機的状況は、どちらも同じなのだ。

 

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ホント戦場は地獄だぜ!フゥハハハーハァー!
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