龍驤ちゃん太る。
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「なんでやああああああああああああああああああああああ!!!!」

 鎮守府の一角、ドッグもとい大浴場の脱衣場で悲痛な叫びが響く。

「あかん・・・・・・アカンで。これはアカンやつやで・・・・・・」

 目の焦点はろくにあってなかったがしっかりと目の前の体重計に映し出される真実は冷酷にも脳裏に焼き付いていた。

 その数値はいつも明るく元気な少女をうちひしがらせるには十分すぎる値だった。

 

 

>>龍驤ちゃん太る。<<

 

 

「ご馳走さんでしたー......」

 力なくパチンと手を合わせて食材への感謝の言葉を述べる。

いつもはご飯三杯は軽いと言っている彼女だったがここ最近は茶碗一杯すら食べず、皿に乗った半分以上身の付いた美味しそうな魚の煮付けと茶碗にこびり付いたご飯が悲壮感をか持ち出していた。

「龍驤さん最近はあんまり食べないんですね……」

 食器の片付けをしながら鳳翔が心配そうな目で龍驤を見つめ言う。

「あっ。いやぁ、言いづらいけど最近ちょっと太ってなぁ……減量しようと頑張ってるんよ、ダイエットちゅーやつ」

 自分が情けなくて、苦笑いしながら龍驤はそんなことを口にした。

「無理な食事制限はストレス貯まるし、美容にも悪い。それに不健康になってむしろ太っちゃいますよ?」

「ええええええええ!?食事量減らしたら痩せるんとちゃうんか?」

「一昔前まではそう言われてましたけど……今は食事制限というよりは3食定量、バランスよくしっかり食べて適度な運動するっていうのがベターだと思います。食事量減らす方法だとリバウンド怖いですし、痩せれても健康的で美しいわけじゃないときもありますし。」

「ただ食べないだけじゃだめだったんかぁー……」

「食事のことなら任せてください!私が腕によりをかけて美味しくて健康にいいもの作りますよ!」

「やったー!いいん?ホントにいいんか?」

「もちろんですよ。私に出来ることなんて……これくらいですし」

「これくらいって謙遜せんでもすごいことやと思うで?うちなんて料理なんてカップラーメンぐらいしかつくれへんし」

「そうです、かね?……嬉しいです」

「せやってせやって!んじゃちょっと走り込み行ってくるわぁ。やっぱり運動大事やしね」

 そう言って龍驤は手を振って食堂の外に走っていってしまった。茶色のポニーテールがのれんをさらりと通り抜ける。

 そしてそんな彼女を目で追いながら「相変わらず風のような人ですね」と鳳翔はもの悲しげに笑みを浮かべながら呟いた。

 

 

 グツグツと鍋が音を立てて煮え、その中で色彩豊かな食材がコロコロと踊る。それを垣間見ながらフライパンを揺すり、菜箸を使って味を絡めるようにもやしやピーマンをかき混ぜる。毎日やっているいつもどおりの作業のはずなのにこう何故か楽しくなってきて思わず鼻歌が漏れてしまう。

 「まーもるもせむるもくーろがねの〜♪うーかべるしろぞたよみーなる〜♪」

 歌のおかげかいつもよりテンポよく料理は出来ていた。いつの間にかできたものを盛る皿は次々と埋まっていっていた。

 炒め終わったもやし炒めを皿に盛って鍋のスープをカップに注ぐ。今まで作ったのも合わせてお盆の上にきれいに陳列させたら完成。自分でも驚くほど時間過ぎるのが早く感じたが実際はキチンといつもどおりに時間が経っていたようでもういつもあとすこしであの人がご飯を食べに来る時間になる。

 お盆を持ってカウンターに出るとほら、やっぱり来た。毎日律儀にこの時間に来るからちゃんと出来上がりになるように作ってるんですよ?

 いつもの風景が今日は何か微笑ましくて、私はあの人のところへと急いだ。

 

 

「鳳翔さんコレおいしいなぁ。うちピーマン嫌いなんやけどこれなら食べれるわ!」

 待ち望んでいた、言葉。だけど、

「こんなおいしい料理食べて痩せれるなんて夢みたいやわ。ほんとありがとうなぁ」

 少し、元気がない。

 いつものハキハキしたような声でしゃべるけど、笑顔で振舞っているけど、はっきりわかる。いつもより全然元気がない。食べているときの龍驤の少し俯いた横顔を見たときに鳳翔はそう確信した。今までも何度かこんな表情をしている時があった。

「大丈夫ですか?」

 その度に私はこう聞いていた。

「なにが?」

 その度に彼女は笑ってこう返していた。

「体調がですよ。朝はそんなに感じなかったですけど」

「心配してくれるのはありがたいけど大丈夫やって!ほれ」

 そう言って一気にもやし炒めをご飯に入れてかきこんだ。

「ふう、ご馳走さん。めちゃくちゃ美味しかったで。んじゃまた走り込み行ってくるわあ」

 そのまま立ち上がるとまた食堂の出口へと軽く走った。少し、よろけながら。

 ああ、やっぱりいつもこうだ。

 辛くても悲しくても、この人はいつも私の元に風のように吹き込み、

 私を幸せにして行ったあと

 何もなかったかのように吹き去って行く。

「待ってください!」

 鳳翔は叫ぶ。自分でも驚くぐらいに声が響き、食堂ではほかの人たちがなんだなんだと注目し出す。

 それでも気にしない。今日は言おう。はっきりと言おう。

「休む時は、キチンと休んでください!倒れたらどうするんですか!」

 いつも喋らないおかげで息が続かない。でももう一回息をしっかり吸い込んで続ける。

「そうやって、いつも自分に無理させて!笑顔作って!!明るく振舞って!!もっと自分にも優しくしてあげてくださいよ!!」

 喋りながら龍驤の近くへと駆け寄る。距離を一歩一歩縮める。そしてその距離は限りなくゼロに近くなり

「……私は龍驤さんが大好きですから。龍驤さんが辛そうなのは私もとっても辛いですよ。」

 抱きしめた、しっかりと。また風のように離れていってしまわないように。

「……へへ。見え見えってか、なさけないなぁ。カッコ悪いとこは見せたくなかったんやけどなぁ」

 そう言って少しかすれた笑いをした龍驤は全身から力がふっと抜けたように私に体を預けてきた。

「大丈夫、辛い時は休んでいいんですよ」

 鳳翔は龍驤をおぶりながらそういった。

「……ほんまにありがとうな」

 龍驤は鳳翔の背中の熱を感じながらそっと瞼を閉じた。

説明
元がギャグSSだったはずなのに百合SSになりました。ので違和感あるしなんかミスったなぁと。ごめんなさい。
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艦これ 龍驤 鳳翔 

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