IS〜歪みの世界の物語〜
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2.インフェニット・ストラトス

 

「ふぅ……。ありがとう、一夏」

「シグ、もう大丈夫なのか?」

 

 

 氷水が入った袋を一夏に返し、ゆっくりと立ち上がる。

 ……少しふらつくが、問題ない。地面に接触する前に、魔法で落ちるスピードを下げたおかげかな?

 

「……それにしても、なんかシグって名前似合わないな」

「本人を目の前に酷いな」

「あ、いや……なんというかな。結構、男っぽい名前だなって思って」

 

 ハハハッと笑う一夏には悪気はないのだろう。おそらく、本人は褒めているみたいだ。

 そんな彼に、腹を思いっきり殴った俺は悪くないと思う。

 

「痛っ!ど、どうしたシグ……?」

「一夏、俺は男だぞ?男っぽい名前で合っているんだが?」

 

 軽く殺気を放ちながらそう伝えると、一夏は「嘘!?」と言って大きく驚き……よし、こいつ殺す。

 

「あの……すいません。少しいいですか?」

 

 右手を握りしめていると、横から不意に声をかけられた。見ると、若いスーツ姿の女性が立っていた。

 とりあえず、一夏を殺……殴ることを後回しにして、女性の話を聞いてみることにする。

 

「それで、どうしたのですか?道に迷われたとか?」

「はい。このあたりに、『織村』という名字の人の家を知りませんか?」

 

 女性に丁寧に接していた一夏の目が点になった。俺も、自然と一夏の方へ視線が向く。

 

「えっと、俺が織村なんですけど……」

「え、じゃあ、あなた達が織村一夏と、織村((隼人|はやと))?」

「いや、一夏が俺で、隼人なら家にいますよ」

「……隼人?」

 

 小さく呟いた俺の疑問に、一夏が「俺の双子の弟だ」と答えてくれた。

 なるほど。……というか、なぜ一夏がこの人に探されてるんだ?

 

「あ、俺と隼人に用事って……もしかして『あの事』ですか?」

「いいえ。たぶん、あなた達が思っている用事とは違いますよ」

「そうなんですか?」

 

 よほど想像と違ったのが不思議だったのか、一夏は納得してない……というより、他に何かあったけ?みたいな顔をしている。

 ……にしても、顔の表情で何考えているのかわかりやすいな。

 

――――――――その時だった。

 

「そうか……あなたが………」

 

 女性が、小さく呟き、笑った。

 耳がいいからか、偶然なのか、その女性の声が聞こえた。

―――――同時に、背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

 

 女性の手が、懐へ伸びる。

 

「―――――――!一夏!!」

 

 シグが叫んだ直後。

 パンッ!!と乾いた音が響きわたった。

 

 シグは、一夏を押し倒しているような格好になっていて、

 女性の手には、黒い拳銃が握られていた。

 その射線は、少し前に一夏の頭があった位置にある。

 

 一夏と女性の二人が驚いた顔をしている。だが、女性はすぐに銃を持ち直し、再び一夏に狙いを定めた。

 手に力を入れて一夏が下手に動かないようにする。今下手に動いてもそこを撃たれるだけだからだ。

 

 女性の指が、銃の引き金を動かし始めた。

 その一瞬のタイミングを逃さず、一夏を横に突き飛ばし、シグもその反動を利用して一夏とは反対方向に移動する。

 

 再び、鼓膜が痛くなるほどの大きな音が響き、石(?)でできた地面に穴が開いた。

 大きな音を聞くと同時に、シグは動き出した。

 

 銃は、小さな弾を肉眼で見えないほどの速度で放ち、その弾の「硬さ」と「速さ」を利用して相手に怪我を与える。

 これだけの大きな音。俺の世界の銃とは桁違いに威力もある。

 

 ――――だからこそ、それに比例して体にかかる反動も大きくなる。おそらくだが、反動で1秒弱は動けない。

 それを理解したからこそ、シグは腰に常備していた小刀を、女性の銃に向けて投げつけた。

――――そして、一夏と離れてしまった以上、今この間に銃を奪い取るしかない事も。

 

 カンッ!!

 

 金属同士がぶつかり、甲高い音が鳴る。しかし、地面に落ちたのは小刀のみで、銃は女性がなんとか持っている感じだった。

 間を入れずに、走りだしながらもう一本の小刀を投げる。

 小刀はもうない。小刀が当たるのが先か、女性が持ち直すのが先か。

 

―――――軍配は、シグの方に上がった。

 二つ目の小刀が地面に落ちる。女性よりも、投げたと同時に走り出したシグの方が、銃と小刀を早く拾った。そして、状況をまだ理解できていない一夏を立たせ、彼の腕を引っ張って遠くへ逃げ出す。

 

「くっ……!待て!!」

 

 後ろを見ると、女性がもう一つの銃を構えていた。

 一夏の手を右に引き、女性が撃つ前に、シグが片手で奪った銃の引き金を引いた。

 その銃弾は、正確に女性の持つ銃の発射口を破壊する。

 

「シグ、こっちだ!」

「一夏?―――――痛っ!」

 

 一夏に手を引かれ、一緒に狭い通路へ入った。…そして、銃の持った腕に激痛が走る。

 

「一度、俺の家に行くぞ。今なら、千冬姉もいるし……!」

「…っ。……ああ、わかった。」

 

 一応返事はしたが、正直、よく聞こえてなかった。

 それでも、一夏に何か良い案があるようなので、それに従って走る。

 

(……それにしても、この腕の痛み……)

 

 何で痛いのか。

 それは明白だ。銃を撃った時の反動が予想以上に大きかった。

 一応、これでも(制限はしているが)人間以上の力は持っている。けど、油断していたとはいえ、片手ではさすがにやばかったようだ

 

 ………いや、それよりも。

 

 

――――――これだけ大きな音が出たのに、何故、人が誰も来ないんだ?

 

 

 

 

 

十数分後……

 

「……っ!またか……!?」

 

 狭い裏路地を走っていた一夏が急に立ち止まった。

 彼の目の先には、先ほどの女性と同じスーツを着た人が見張っているかのように数人立っている。

 これで4度目。偶然とは考えにくい。

 だとしたら…………まさか。

 

「………一夏、この路地の中で目的地に一番近い出入り口はどこだ?」

「それは……確か、ここが一番近い」

「なら、隙を見て一気に抜けるぞ。タイミングは任せる」

「……?あ、そうか。一般人のふりをして通らせてもら――――」

「んなわけないだろ。

 ……それに、今この付近には、俺たちとあいつらの仲間しかいないよ」

 

 一夏の息を飲む音が聞こえた。

 信じられない気持ちもわかるが、そうじゃないと、発砲したにも関わらず人が一切現れない上に、こいつら以外に人を見かけない理由も説明できない。

 

「……なんでこんな事に」

「それなんだが、一夏、お前何かやったのか?」

「いや……なんというか……」

「……あるのかよ」

 

 冗談半分で聞いたつもりだったが、どうも思い当たる節はあるらしい。

 はぁ……。と、ため息を吐く。

 すると、一夏が妙に決心したような顔で何か考え始めガンッ!

 

「痛っ!?な、何すんだシグ!?」

「お前、どうにかして無関係の俺を逃がす方法を考えていただろ」

 

 ギクッ。と、効果音が聞こえそうになるほど引きつった顔を見せてくれた。普通に図星だったようだ。

 

「俺の事を考えてくれるのは嬉しいが、命を狙われているのはお前なんだ。もう少し自分の心配をしろ」

「あ、あのなぁ!だからって、シグが巻き込まれる理由なんかどこにも」

 

「――――友達、だろ?友達がピンチなのに放っておけるか」

 

 俺がそう言うと、一夏は黙り込んだ。

 ……その姿を見て、心の中で少し笑った。

 馬鹿にしたのではない。少し……その姿が、昔の俺に重なったからだ。

 

「……シグ」

「何だ?」

「――――頼む」

「任せろ」

 

 短く言葉を交わした後、一夏はタイミングを計るべく、敵の動きを観察し始める。

 シグは……いつでも動けるように注意をしながら、腰のポーチから、琥珀色の、ビー玉ほどの大きさの球を取り出した。

 魔力がこめられ、魔力を持たない人でも魔法が使える球。『魔法石』と呼ばれる球を。

 

「“――大地の加護を受け継ぎし者よ

     我らに降りかかる害ありし物から守る力を

       汝の力を我らに与えたまえ―――”」

 

 子供に優しく諭すように、球に向けて呟いた後、『魔法石』を、一夏に投げ渡すように上へ投げる。

 『魔法石』は、俺と一夏の間にきた辺りでパリンッと音をたてて割れた。

 そして……

 

「――――シグ!」

 

 一夏の合図が出した瞬間に二人が路地を出た。当然、あの女の仲間たちにも見つかるが、撃たれる覚悟で走り続ける。

―――――だが、シグの予想に反して、銃声は一度も響かなかった。それどころか、不気味に笑う彼らを見て、背筋がゾッとする。

 再び、一本道に入った。一夏について行く。……だが。

 

(あれは……なんだ?)

 

 前方に、何かがいる。

 走って近づくうちに、何なのかがわかってくる。

 

 機械を身にまとった女性。全体に機械をつけているのでは無く、レオタードのような物の上に、何か所かに機械がついている。

 そして、その女性は、空中に浮いていた。

 

「な……IS!?」

 

 一夏が驚愕の声を出したとともに立ち止まる。

 だが、シグは走り続けた。一夏がISと言った機械を装備した女性に向かって。

 

「そこの馬鹿、止まりなさい」

 

 女性は銃を片手に、俺を見下した目で見てきた。

 ……ほんの少しだけ、その眼にイラッとくる。

 

「――――“((拘束魔法解除|リミッターリリース))1/4”」

 

 小さく、呟く。制限していた力を開放し、体が軽くなったような感覚がする。

 地面を思いっきり蹴り、一気に距離を縮めた。

 女性はそれを見て、無表情のまま引き金を引いた。

 

 放たれた弾は、真っ直ぐシグのところに向かう。

 そして―――――シグに触れる直後、まるで時が止まったかのように、銃弾が動きを止め、地面に落ちて行った。

 

 シグが、『魔法石』を使って発動させた魔法。“干渉の盾”

 平凡な名前とは裏腹に、物理の遠距離攻撃をほぼ完全に無効化する高等魔法。

 銃弾が止まったことに驚いている女性の肩を掴み、容赦なく顔面に膝を入れた。

 

「―――――?」

 

 手ごたえはあった。だが、女性はビクともしていない。

 反撃を警戒して、すぐに女性から離れる。

 

 ……………なんか、信じられないといった眼で見られていた。

 驚いているのか、俺を常識知らずの大馬鹿野郎と思っているのか……なぜだろう。後者だと断言できる。

 

 「ふざけんなクズ!!」

 

 最初に襲ってきた女性が持っていた銃と同じような銃で撃ち続ける。あの機械のおかげなのか、反動で止まることなく連射してくる。

 最低限の動きで銃弾を避けながら女性に近づく。そして、さっき奪い取った銃を取り出し、その銃先を女性の横腹につけた。その前に、女性が持つ銃から発砲音が鳴り響く。

 

―――――だが、再び“干渉の盾”によって、銃弾は止められた。

 女性の息を飲む音を耳に、引き金を迷いなく引いた。

 

 本来なら、この世界の銃の威力だと横腹に穴が開くはずだが、銃を離したと同時に、銃弾が落ちた。

 多少は予想していたとはいえ、思わず舌打ちを漏らした。

 さっきの蹴りも、銃弾も“干渉の盾”のように……いや、普通の攻撃も防げる分、はるかに精度の高い能力で守られているのだろう。

 

 ………ならば。

 

「調子に乗るな!!」

 

 相手の拳が襲いかかってくる。だが、銃弾と比べたらはるかに遅い。

 簡単に避け、右手で相手の顔面を鷲掴みにする。

 

 その瞬間、相手の両腕が動く。

 目的は簡単に理解できた。「肉を切って骨が立つ」の言葉通り、あえて攻撃をくらい、捕まえようとする作戦だろう。

 

「――――――甘い」

 

 掴んでいる手の甲に力を開放するイメージ。反動で、片手で銃を撃った以上の衝撃が腕にかかり、女性は数メートル後ろに飛ばされた。

 

 “((零距離の衝撃波|ゼロ・インパクト))”

 魔法とは少し違う、特殊な技術での攻撃。

 外部ではなく、内部に強い衝撃を与える攻撃。“拘束魔法解除1/4”の状態で全力のこの攻撃は、下手すれば人を殺せる威力を持つ。いくら優秀な防御性能があっても、少しはダメージが貫通するはずだ。

 

――――そう思っていたからこそ、女性が痛みを感じていない様子を見た時に、軽く頬が引きつった。

 

「…………やばいな」

 

 このまま戦うか、逃げるか。そんな選択肢が頭の中を横切る。

 これ以上はさすがに手加減が上手くきかない。だからといって、下手すればこちらがやられる。

 かといって逃げれば、一夏が今後危ないし、俺の情報も知られる。

 

(さて……どうするかな)

 

――――――パパンッ!!

 乾いた音が『後ろから』響いた。

 銃弾はシグに触れる前に全て止まったが、同時に“干渉の盾”の限界がきたのか、微かに割れた音を残して消えた。

 後ろを振り向くと、遠くから、5人ほどの人物が銃を向けていた。

 

(まずい、挟まれた……!)

 

 心の中で舌打ちをして、危険と思ったシグは一夏を―――――

 

「一夏………?」

 

 友人がいない。ここは一本道。一人で逃げてくれた、なんてことは……あいつの性格からしておそらくない。

 まさか……あいつらに!?

 だが、考える時間は敵の銃声によって中断された。

 

 

 ギリッ…と、奥歯を噛みしめた。そして……あることを決意した。

 

 

 

――――――この6人。全員殺す。

 

 そう決意をした瞬間だった。

―――――シグの眼の色が変わり始めた。

 

 

 

―――――刹那。目の前に大量の水が降ってきた。見たところ、普通の水。

 だが……ありえるだろうか?

 降ってきた水が、5つの銃弾を上から叩きつけるかのように当たり、そのまま銃弾が地に落ちるなど。

 あまりにも理解不能なことに、思わず思考が停止した。

 

「君、大丈夫?」

 

 凛とした綺麗な声。それが真上から聞こえた。

 一瞬、あの機械をつけた女性かと思ったが、すぐに違うと解った。

 

 声の主は水色の髪をした女子。

 顔は見えなかったが、何故か彼女が笑みを浮かべているのがわかった。

 

「それじゃあ、あっちはお願いね」

 

 その「誰か」はそう言って、銃を持った5人の所へ行ってしまった。

 一瞬だけ見えた「誰か」の肩、足、腕などに機械のようなものがあり、

――――そして、空中に浮いている。

 

(あれは……)

「よそ見している――――場合か!?」

 

 ISをつけた女性の怒鳴り声が聞こえた。反射的に横へ飛ぶ。

 ……おいおい。誰かが言っていた「あっち」ってこの人のこと!?

 

「いいかげん―――――死んでしまえ!!」

 

 怒声と共に攻撃が襲いかかる。

 拳程度なら……そう思っていたが、女性の両手には、何かが握られていた。

 

「――――剣!?」

 

 慌てて回避するが、腕が少しだけかすった。傷を気にする間もなく、すぐに次の敵の攻撃を回避した。

 相手が持っているのは、シグと同じくらいの長さの太刀。それを、あの女性は木の棒を持っているかのように扱ってくる。

 

(……あの機械のせいだよな……)

 

 人を殺せる威力でも無効化できる防御壁に力の増幅。おそらく、あの太刀もあの機械によって『具現化』されたものだろう。

 

「いい加減にあきらめろ!ISにかなうはずないでしょ!?」

 

 こざかしく抵抗される俺に対しての苛立ちか、怒りしか見えない表情で武器をふる。

 だが、その冷静さをかけたことが、シグにとっては幸運以外なんでもない。

 

 武器を避けて、懐へ入り込む。

 そして―――――シグの手に、彼が「((煌煉|こうれん))」と呼んでいる真っ赤な棍棒が握られていた。

 

「“金輪―――」

「なっ!?」

 

 急に現れた棍棒に相手が驚き、後ろに下がろうとする。……が、もう遅い!

 

「―――撃”!!」

 

 無防備の腹に思いっきり叩き込む。腹に殴ったと同時に、肩と腰の装甲にひびが入った。

「煌煉」を離し、別の武器――――シグが「雷雹(らいはく)」と呼ぶ、少し曲がった刃物の双剣を何もない場所から『具現化』した。

 その武器を、自分の目の前でクロスさせる。

 

「“縫い――――」

「……っ!」

 

次の攻撃に移る前に、女性が一瞬で真後ろへ距離をとった。

しかし、女性の判断は失敗だった。もし、捨て身覚悟で俺に攻撃してくれば、彼女は勝っていた。

 

「―――影”!」

 

地面を蹴り、真っ直ぐ銃弾のように女性に向かった。何メートルかあるにも関わらず、一度も地面に触れることもなく

―――――音と同じ速さで。

 

 速さが力になり、攻撃を受けた装甲が砕け散った。女性が怒りと悲鳴を混ぜた声で剣を振ってきた。単純なその攻撃を、片手のみで止める。

 

「き……さま……一体、何者だ!?」

 

 怯えにも似た表情で見てくる女性に、ポツリと呟いた。少し、殺気をこめながら。

 

 

――――――――死神です。

 

 

 二つの剣が相手の体を斬りつける。

 その瞬間にISと呼ばれた機械は光を失い、同時に剣ではなく拳で彼女の腹を思いっきり殴る。

 一撃で気絶した人間を冷たい目で見る。

 

「IS……誰だ?こんな物を作ったのは……」

 

思わず、シグはそう呟いた。

 

説明
二作品目です。……他の作品と比べて、終わりまで長くなりそうな予感が……
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IS インフェニット・ストラトス オリジナルキャラ オリ主 恋愛 主人公最強 魔法 

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