IS〜歪みの世界の物語〜 |
4.本当の名前
「……んん〜」
たった今出始めた朝日を浴び、目が覚める……みたいなロマンチックなものは無く、全身に走る痛みで目が覚めた。
筋肉痛のような痛みだが、全身がそれだし、少し動かしただけで吐き気がするほどの痛みがくる。
(………あぁ〜。やっぱり1/2は辛いな……)
ため息を吐いても痛みが走る。……うん、痛い。
原因はすぐにわかった。楯無さんと戦う時にやった、“((拘束魔法解除|リミッターリリース))”のせいだ。
実際、楯無さんの上に乗っかった時に、もう解除していたのだが、その時には痛みはあまり…… ああ……。痛みを感じる前に、油断というか反応できなかった最後の攻撃のせいで気絶したせいか。
それに、1/2まで解除したのは……いや、そもそも解除したこと自体久々だったからな。この痛みの耐性がなくなりつつあったのもあるし。
分析しながら、“拘束魔法”に対してため息が出る。
“拘束魔法”これはシグの力を増幅するわけではない。『本来の力に戻した』だけだ。
シグの本来の力は、軽く腕を振っただけで人の骨を折るほどの力がある。その力を押さえるために魔法と、特殊な技術―――「特殊技」を融合した“拘束魔法”と呼んだ物を使っている。
それで、何でシグに痛みが走っているのかというと、理由は簡単だ。
力を制限するとはいえ、肉体を弱体化させるのだ。解除している時に力を使っていたら、肉体に負担がかかり、肉体が弱体化したらその強い負担に耐え切れず、筋肉痛のような痛み……ということだ。
結局は、力を無理矢理解放するのも、制限するのも、変わりは無い。
といっても、シグの場合は「そうしざるをえない」のだが……。
(とはいえ、体が痛いと何もできないな……)
うん。寝よう。そうしよう。
ということで、目を開けないまま体に抱きついている何かを、体が痛まない程度に抱きし……。
…………これ、何だ?
枕か?布団か?
…………違うよな。腕みたいなのがあるし。俺に思いっきり抱きついているし。
深呼吸して……ゆっくり目を開ける。
眩しい光。見慣れぬ場所。
そして………予想通りというか、あったのは、楯無さんの顔。
「う………ん……」
楯無さんが寝言的な事を言いながら、俺を抱きしめる腕に力が加わる。その分、楯無さんの体が俺の体に接触する。
いや、別に「発育いいな〜」よか思ってないですヨ?顔が赤いのも、この部屋が暑いからですヨ?
………よし、脱出開始。“拘束魔法”の痛みなんかしったことか。
ソ〜………グイッ。………グイッ?
「………マジか」
抱きしめられた腕が、予想以上に固かった。ね、寝ているくせに……!
となれば、下にしゃがむようにすれば、抱きしめられても関係―――――
「…………駄目だ」
脱出はできる。できる………けど。
ほら、あれですよ。そのまま下に移動したら、女の子特有の膨らみに顔を埋めることに……。
くそ、なんで女子なんだよ………。…………いや、男子に抱きしめられても気持ち悪いな。
結論:彼女が起きるまで待ちましょう。
(でも、男と女が出来合っていたら、変な勘違いされるのも面倒だな……)
少しだけ真剣に考えて……すぐに解決できた。
(……そういえば俺、女のような容姿だったな。なら、そこまで変な誤解はない……だろう)
たまに、女の容姿でよかったな〜と思うことはあるけど、喜ぶべきか悲しむべきか、いまいち判断に困る。
(さて……それなら、もう一眠りするか)
自然と、真正面にある楯無さんの寝顔をしまう。
じっくりと見つめ、見れば見るほどその綺麗さに見惚れる。
次第に、少しずつ理性がなくなっていてい―――――
……彼女の両頬を思いっきり引っ張った。
「ひょっ、ひふふん!?(訳:ちょっ、シグ君!?)」
「……やっぱり、起きていましたか、楯無さん」
「(ギクッ)ハ、ハハハ。はんのほと(ギュウウッ!)ひはいひはい!」」
「寝ているには顔が赤いな〜とは思いましたけど……小さく笑っていましたよね、楯無さん?」
「ハハハ………」
楯無を冷たい目で頬を離した後、すぐにベットから降りる。
“拘束魔法”の反動のせいで体が痛いが、立てないほどでもない。
「それで、何しに来たんですか?」
「え〜とね、そろそろ起きているかな?と思ったからおこしに来たんだけど、まだ寝ていたからね。それなら、お姉さんが膝枕してあげようかなって」
………ツッコんでいいよな?何で『起こす』じゃなくて『膝枕』という選択肢を選んだのかを。
「さて、それで俺に何か用です―――」
「シ〜グ〜君?」
楽しそうに、楯無さんが俺の名前を呼ぶ。
質問は何となくわかる。だからこそ、冷や汗が止まらない。
……さて、ここで問題です。
何で、膝枕をしようとしていた人が、俺に抱きしめられていたのでしょう?
「お姉さんビックリしちゃった〜。シグ君に触れた途端に抱きついてきちゃったんだから」
「とりあえずいい訳だけでもさせてくださいお願いします!」
ニヤニヤする楯無さんに速攻で土下座。
え?プライド?何それ食えるの?
「ん〜それじゃあ……条件を飲んだら聞いてもいいかな〜?」
「………条件?」
……この際、もう恥ずかしいなどとは言えない。
なら、今さら何をされても問題は無い!
ということで、条件の内容を聞いてみてよしこの世界を見回ってみ(ガシッ)離してくれぇぇ!
…………。
………………。
「へぇ〜。寝ている間に触られると、触れたものに抱きついちゃうんだ」
「はい……寝ているから直しようがありませんし、いろいろ面倒なことになるから困るんですよね……」
ガックリとした様子でシグは話し、そんなシグの様子をみて、楯無は微笑する。
会話のみだと一見変わっていないように見えるが、それぞれの顔には、少し前とは違った表情があった。
楯無は、シグに対して子供を見守るような目で見つめ、シグはそんな楯無の目から背けるように別の場所を見ていた。そのシグの顔は、薄く赤色に染まっている。
シグが赤色に染まっている原因は、楯無が提示した条件―――――「膝枕」をしながら会話をするという馬鹿らしい条件のせいだった。
もちろんシグは抵抗した。
曰く「あなたの女としての価値が下がる」や「今日あったばかりの人にそんなことをされるのは変」とか「こんなところを見られたらやばい」などなど。
それに対し楯無は屁理屈から強引論とかいろいろ使って反論し、
「やっぱり説明はいいです」
とシグが言ったら、楯無は
「それじゃあ、勝者の権限ね♪」
と返されました。
そのときようやく楯無が「負けたら相手の言う事を何でも聞く」という約束にしていたことを思い出し、現在に至る。
……というか、何で「質問に答える」から「勝った人のいう事を何でも聞く」に昇格してるんだよ。気づかなかった俺も俺だが。
ちなみに「そんなの聞いてない!」という反論はしません。なんだかんだで俺も男だし。気持ちいいし。恥ずかしいけど。元の世界の友人に知られたら絶対殺されるけど。
「ふふっ。それじゃあ、質問していいかな?」
「………お好きにどうぞ」
楯無が優しい眼差しで俺の頭を撫でてくる。
…………子ども扱いは止めてください。顔から火が出そうです。止めてください姐さん。
「それで、シグ君は一体何者なの?」
「………聞いても信じないと思いますよ」
コツンッと、頭をノックするように叩かれた。
楯無を見ると、笑っているけど、目は真剣だった。
その眼が語っている。「信じるかどうかは、私が決める」って。
これは……さすがにごまかせないな。
「……簡単に言うと、俺はこの世界の人間ではありません。別の世界……異世界から来た人です」
「異世界……?」
「はい、そうです」
楯無が何かを言う前に腰にある機械を発動させる。すると、すぐにイメージ通りに魔法が発動される。
発動させたのは風。小さな肉眼でも見える、小さな竜巻を掌に起こした。
「これ……」
「魔法です。俺の世界にある、この世界にはない技術です」
この世界にはおそらく魔法が無い。そのかわり、俺の住む世界よりも格段に鉄や物を使った技術が用いられている。
道具などで示せない以上、この魔法だけが、俺の話を信じさせれる唯一の手段だった。
なにより、さっきの戦闘でも魔法を何度か使ったのだ。信じてくれる可能性は高い。
「ここに来たのは……というより、いきなり目の前が真っ白になって、気づいたらこの世界にいましたからね。俺も、よくわからないんです」
苦笑するように、楯無に向かって笑いかける。
楯無は、じっと何かを考えるような顔をしている。
まぁ、それが当然だろう。たとえ、どんな証拠があっても、こんな現実味の無い話をすぐに信じられないのはしょうがないことだ。
「……ねぇねぇ、シグ君、何にもないところから武器を出してたよね?あれも魔法なの?」
「いや、あれは魔法に似てはいますけど違いますね」
武器を出したのは「特殊技」と呼んでいる技術。魔法との違いは正直、口で説明するのは難しい。
……という事で、論より証拠。実際に見せた方がわかりやすいだろう。
袖に常時隠し持っている小刀を持ち、ポーチから取った白色の魔法石「聖刻石」と呼ぶ石に当て、呪文を唱える。
補足するが、この魔法は「特殊技」をつけるための魔法であり、「特殊技」=魔法ではない。
「今、この小刀にとある能力つけました」
小刀に左指を触れさせる。小刀は当然、俺の指の皮を斬る。
――――――そしてそのまま、勢いよく自分の足に向けて小刀を振り下ろした。
だが、小刀の刃物はズボンの生地すら斬ることなく、すぐに止まった。
「これが、俺が『特殊技』と呼んでいる技術です。なんらかの負荷を背負うことで、それに見合った特別な能力を付けることができるのです」
「それじゃあ、ズボンを斬れなかったのも、そういう代償を付けたから?『布団の生地だけは斬れない』みたいな」
「まぁ、そんな感じですね。『人より柔らかい物は斬れない』という条件です。
そして、その見返りは――――――」
さっき斬りつけた指を見せる。
斬れた皮が、小刀で斬った時よりも傷が深く、そして大きく広がっていた。
「こんな風に、少しだけ傷を大きくできるってことです」
「なるほどね……」
楯無が、俺の手を取ってじっくり傷を見る。
とはいっても、「特殊技」で傷を広げたとはいえ、その傷も小刀少しで深く斬られた時と大差はない。べつにジロジロ見てもあまり指先が生暖かいんだけど!?
「指を口にくわえないでください!唾液染み込んで痛いし(ペロペロ)舐めるな!!」
「大丈夫大丈夫。おいしいからね♪」
「怖いこと言わないでくれますか!?」
口元に血が付いたのを気にせず、楯無は笑っている。
……やばい。本当にこの人が吸血鬼とかの類に見えてきた。
「ふう……ごちそうさま。なんなら消毒もしちゃう?」
「……いいです。この程度の傷、魔法で簡単に治せます」
楯無から指を離す。
………血が止まってる。少し濡れていてあれだが。
「それじゃあ、シグ君。もう一つ質問いい?」
「……なんですか?楯無さん」
恨めしそうに睨みながら、シグは楯無の方を向く。
そんなシグの眼など気にもしない様子で、楯無は笑顔のまま、
「―――――シグ君の、本当の名前って何?」
シグが、一番聞かれたくなかった質問を口にした。
「…………他人の名を聞くなら、まず自分から名乗るのが礼儀じゃないんですか?『更識さん』」
「あ、気づいたの?」
「なんとなく、わかります」
そう。何となくだがわかる。
――――俺と、同じように目の前の少女は、偽名を使っている。
理由はわからないが………俺のような、変な理由というわけではないだろう。
だとすれば、世間に知られたらマズいとか、家の風習だとか。そんなあたりか。
「………で、本当の名前を教えてくれないかな?」
「嫌です」
「それじゃあ、命れ」
「―――――更識さん」
楯無が最後まで言う前に、その言葉を止めた。
……ほんの少しだけ、殺気を込めながら。
「教えて、くれないの?」
「自分だけ知って、俺には教えないつもりですか?」
「……………」
初めて、楯無が動揺した顔を見せた。
彼女なら、お互いに本当の名を隠す人なら、自分の本当の名は、とても大切な人でないと教えたくないという気持ちは、理解してくれるはずだ。
楯無は敵ではない。信頼もできる。
けれど、信頼できると大切は同類語ではない。
楯無……いや、この世界の人に、俺の本当の名前を明かす気など、サラサラない。
「……………」
「……………」
気まずい沈黙だけが流れる。
目を合わせず、何も喋らない時間だけが過ぎていく。
………もう、いいか。
このまま、どこかに行って、元の世界に戻れる方法を考ガララッ。
「お嬢様、言われた通り、参考資料を――――………。」
「…………」
「…………」
突然入ってきた人が、俺たちを見て固まった。
………?何で?
いや、ここはあえてよく考えてみよう。さすれば扉は見えるはず。
可能性1.彼女が言った「お嬢様」とやらが居なかったから。
可能性2.この人なりのギャグ。ならツッコミを入れなければ……!
可能性3.絶世の美女が二人いたから。………二人?
可能性4.俺が未だに楯無に膝枕をされている状態だから。
結論:4だな。
っていうか、なんでまだこの状態だったんだよ!?気づけよ俺!!
「シグ君。そろそろ膝枕止めてもいい?」
「急に俺が無理矢理膝枕をさせていたような感じに言わないでくれませんかね!?」
シグがすぐに、他人に見られたことで真っ赤になりながらその場を離れる。
楯無は、シグが離れるとすぐに固まっている女性から女性が持っていた厚い本を取った。
「ありがとうね、虚ちゃん。
――――――はい、シグ君。これは大切な情報だから、覚えてね♪」
「面ど――――わかりました。迅速に覚えます」
だから、腕の部分だけとはいえ、ISを展開するのは止めてください。
……このとき。
シグは、簡単に受け取った本のせいで……すぐに、この場から立ち去らなかったせいで、自由に世界を見回ることができなくなっていく事を、知るわけもなかった。
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