涼宮ハルヒの製作 第四章 |
ここは、駅前の繁華街の一角にある電気ショップのおもちゃ売り場。
今日の目的地はココである。
最近は電気ショップといえど侮れない。
なんとゲームはおろか、およそ電気とは全く関係ないおもちゃまで売り始めているのだ。
経営の多角化をしないと生き残れないというのか……まったく、不景気とは世知辛いぜ。
「うわぁ、なんていうか凄い量ねぇ……全部作れるかしら?」
ハルヒよ、流石にそれは無茶というものだろう。
ここにあるもの全部作るとなると膨大な時間と資産ががかかる。やめておいた方が無難だぞ。
「ふふ、まるで子供のように無邪気ですね、涼宮さん。僕にもああいう時期がありました」
まぁ、気持ちはわからんでもない。
俺だっていまだにいろいろとこみあげてくるもんがある。
「わぁ、このプラモ可愛いです」
と朝比奈さんは朝比奈さんですでに自由行動をし、その手にはHGUCのゴッグの箱があった。そうかー、朝比奈さんはジオン水泳部かー……。
まぁ、見ようによっては可愛いところもあるが、俺が理解できるのはアッガイあたりかな、うん。
朝比奈さんの行動をを皮切りに各自、思い思いの所へ行く。
とはいってもそこまでガンプラコーナーが広いわけではないので、声をかけてもらえばすぐ集まれるのだが。
そして俺はというと、少し思うところがあり『機動戦士ガンダムSEED』のプラモデルを探していた。
古泉は用具のコーナーで塗料と、長門は工具のコーナーでそれぞれ真剣な目つきで吟味している。
なんというか職人という感じがして恐れ多い。二人ともさぞかしすごい作品を作るのだろうなぁ……
「ねぇ、キョン」
「ん、どうしたハルヒ?」
『HG1/144 カラミティガンダム』を手に取って見ていると、不意にハルヒに声をかけられた。
「次に購入するプラモデルなんだけど」
「お、何だ、もう買うのか?それじゃあこの『HG1/144ストライクルージュ+I.W.S.P.』とかどうだ?
色も女の子っぽいし似合うんじゃないか?」
「え……、そ、そう?
って、そうじゃなくって!ちょっと気になることがあるのよ」
「気になること?」
「HGとかMGとかっていったい何?どう違うの?」
「あーそこか……」
確かにガンプラ始めたハルヒにはわかりづらいだろう。
ここはひとつ、説明しておこう。
「言ってしまえばサイズの違いだな」
「サイズ?」
「うむ、設定されている全長を縮小してこういうふうにプラモデルになっている、これはわかるな?」
「うん」
「大体HG(ハイグレード)は設定された全長の1/144、MG(マスターグレード)は1/100というものが多い。
まぁHGUCとかSEED HGとかHG GUNDAM 00とか後ろや前に文字がついているのがあるが、これはただの年号みたいなもので基本はHGなので説明は省く」
「う、うん……」
ふぅ……と一息を入れ、二の句を紡ぐ言葉を探す。
「でだ、HGの特徴というのは比較的安価で塗装をあまりせずとも完成するという手軽さだろう。
簡単に言えば、完璧な作品が100%だとしたらパチ組みだけでだいたい80%の出来栄えになる、余計なことをしてないわけだからな」
「つまり、私たちみたいに塗装とかをするのは80%以上を目指してやってるってワケね」
「あぁ、そうだ」
「それと、HGはバリエーションが多いんですよ」
いつの間にか塗料を見ていた古泉が、俺達の会話に混ざってきた。
その手には黒と灰色?の塗料が握られていた。
「それに、TVで機体が登場してからのキット化も早く、コレクション性もあります」
「つまりお手軽ってこと?」
「このグレードに関してはそうですね。ただ……」
「ただ?」
「お手軽で発売が早いぶん、ギミックの完全再現とまではいかないんですよ」
「そうなんだ……」
「いわゆるMGとの差別化ですね、必要以上に作りこまず、違和感を持たれない程度な造形、これがHG系のプラモです」
とさらりとHGの説明をする古泉、悔しいが絵になるな……。
ハルヒもハルヒで納得したようである。
「それで、MGなのですが……簡単に言ってしまえば高級品……ですよね?」
「お、おう、そんな感じだ」
いきなり俺に振るな古泉!焦って鼻から心臓が飛び出すところじゃないか!!
まぁ、いきなりのバトンタッチを受けたので説明を続けていく。
「古泉が言ったとおり、MGは高級品、HGは普及品といったところだ。
まぁとにかく内部メカやらギミックやら、とにかくこだわっている」
「なんだか高級品というと高そうね」
「あぁ、実際高い、平均は4000円程度、中には10000円超えるものもある。」
「い、いちま……」
思わず絶句してしまうハルヒ。
その気持ちはわかるぞ、俺だってその値段と難易度からMGには手を出せずにいる。
「そしてそのこだわりが故に、製作難易度も高い。だがうまく作れた時の迫力は段違いだろう」
「うーん、じゃあひとまずはHGでつくるべきなのかしらね……」
「そうだな、もうちょい腕が上がってからだって罰は当たらないだろう」
「そうね、そうするわ!じゃあたしHGを中心にもう一回見てくる!」
とエネルギッシュにウィンドウショッピングを再開した。
やれやれ、と思いつつ俺もガンプラの吟味を続けるのであった。
「ところで、貴方は何を買うつもりです?さっきから熱心に見ているようですが……」
「いや、改造機の構想をな……少し考えてた。
まぁ、腕がそれに見合ってないからしばらく保留だな……」
そう、俺にだって想像力はあるのだ。だがそれを出力できないでいるだけで……もどかしいぜ。
「よかったら、僕が作って差し上げますが?」
「いや、やめておく。こういうのは自分で作った方がいいからな」
「そうですね、余計なおせっかいをしてしまいました」
その後、各々が目的の物を購入したりしなかったりして、プチショッピングを終え帰宅の途についた。
そして時間は飛んで、週末、今日はハルヒたちが家に来る日である。
目的は主にお互いの作品を持ち寄り、楽しむというものだ。
正直に言うと俺の作品はというと、ほとんどまともなものがない。
今まではほとんどパチ組みにスミ入れをした物だけだったし、最近全塗装似たものはいろんなところで評価がボロクソだったのだ。
あぁ……いっそ逃げてしまいたい……
そう思いながら俺は、ハルヒたちが来るのを待った。
そして数十分後、運命のチャイムが鳴らされた。
ハァ……もうしょうがあるまい、と運命を右傾いれる準備をし、俺は玄関へ行ってハルヒを招いたのであった。
「やっほー、ガンプラ見に来てあげたわよ!」
「……おじゃまする。」
「僕も楽しみだったんですよ、失礼します」
「キョンくん、お邪魔しますね♪」
どれだけ楽しみにしてたんですか……俺の心はもうバクバクで逃げ帰りたいくらいなのに……
もうここまで来たら仕方あるまい、そう覚悟して俺は部屋へと案内した。
「ふぅ、相変わらず漫画ばっかりおいてあるわねー、少しは活字読みなさいよ」
うるさい余計なお世話だ、そんなものは俺の性に合わないんだ。
大体活字の本を読んでいれば頭がよくなるというわけでもないしな、身の丈にあった本を読むだけの話だ。
「……相変わらずこの漫画のラインナップは興味深い、目的が違っていたらこの本棚の本を読み進めるところ」
お褒めにあずかり光栄だ。
正直自分の本棚のラインナップはそこそこ自信がある。
某全然年を取らならない作者の奇妙な冒険や、来訪者や短編集まで網羅。
次に控えるのは、力をくれてやる!の漫画やお前に命を吹き込んでやる!で有名な漫画家さんの本だ。
我ながら渋いチョイスだと思うぜ……。
「ふむ、それでは今日の趣旨、メインイベントを始めるとしましょうか」
と古泉の一言で漫画トリップしようとしてた俺の気持ちを引き戻される。
メインイベントというなら、もうちょいオードブル的なものを味わうとかでもいいんじゃないか?
「そうね、じゃあさっさくみんなのプラモを見せてちょうだい!!」
「じゃあまずは僕からですね。僕のはこれです」
そう言って箱から出したのは『HG ストライクノワール』だった。
その出来栄えというと……なんとまぁ、見事の一言である
綺麗に塗れているのはもちろんハミだし等など見当たらず、アンカーワイヤーにはリード線を使って再現をしている。
これはもう文句のつけようのない出来栄えである。
「す、すごいわね、これ……古泉くん見事よ!」
「お褒めにあずかり光栄です」
うぅ……どうするか、いっそうプレッシャーが強まったぞ、どうしたものか……
「つぎは私ですね」
お次は朝比奈さん。
朝比奈さんが取り出したのは、HGUCの『ハイゴッグ』をワインレッドとピンクを基調とした可愛らしいものだった。
まさかそういうアプローチで来るとは……
「みくるちゃんらしいかわいいガンプラねー」
「えへへ、がんばってオリジナルカラーにしちゃいました」
そうなのだ、もともとハイゴッグは水色系に近い色であり、朝比奈さんのハイゴッグとは真逆の色合いである。
まぁ、ガンプラは自由な発想で作っていいとイオリ君が言っていたし、これはこれでありだろう。
「つぎは……有希ね」
「私のはこれ」
すっ……と茶道の所作のように差し出された箱の中に入っていたのは『HG ダブルオークアンタ』だった。
長門らしいと言えば長門らしい。
そのクオリティはというと文句のつけようがないくらい精密な塗り分けがされていた。
こんなのよく塗れたな、というほど小さい場所でもはみ出し等が一切ないのである。
「派手さはないけど、職人技って言っていいわね……。有希、見事よ……」
長門はコクリと頷く。
少しばかり表情に喜びが見えるのは気のせいであろうか?
「さっ、次はキョンね!」
びくっ、と身体が震える。冷や汗が噴き出てくる……どうしよう、この作品の後じゃ俺のガンプラなんて見せられたもんじゃない……。
しかし、見せないとなるとどうなるかわからない。あぁ、皆の期待に満ちた視線が痛いぜ……。
「……どうしたのよ?早く見せなさい!」
ぐぬぬ……、もはや覚悟を決めるほかないか……。
俺はその場を立ち、本棚の上から『HG ジェガン』の箱を取り、皆の前にジェガンを晒し出したのであった。
「……」
うぅ……、この沈黙がつらく苦しい……空気が重い!時間よ早く過ぎてくれ!!
「ま、まぁ、こんなもんだ、下手くそだろう?」
俺は沈黙に耐えきれず、やけくそ気味にジェガンを掴みながら次の言葉を紡いだ。
「こことか、そことか、結構はみ出してるし、それに塗り方も結構汚いしな!
あ、ほら、塗装も若干剥げちゃってる!もうだめだめだなこ……」
「うるさい!!」
……ッ。
急に発せられたハルヒの怒号により、俺の動きは止まってしまった。
「あんた馬鹿じゃないの!?なによ自分の作品をそんなに悪く言って!!
あたしたちがそんなにバカにするとでも思ったの?ふざけないでよ!!」
俺は言葉が出なかった……。いや、ハルヒに気圧されて出せなかったというべきだろうか。
「あんたがそんなビルダーだと思わなかったわ!自分の作品でしょ、なんで愛着もてないのよこの馬鹿!!
そんなちっぽけなプライド守っていいの?楽しい!?」
ハルヒの一言一言が胸に刺さる。確かに俺は自分で作品をこきおろすことで、みんなからどう言われようとも大丈夫なように予防線を張っていた。
そんなチンケなプライドによって発せられた言葉をあっさりとハルヒは見抜いたのだ。
「すまん……、怖かったんだ、それに認めるのが怖かったんだ……自分の技量を……」
そういうと俺はジェガンを箱の上に置きアクションベースに取り付け、引き撃ちのポーズを取らせた。
「そう悲観することもありませんよ、これはこれで味があります」
まず言葉を発したのは古泉だった。
「確かにハミだし等が目立つ、しかしこの程度ならば修練によって修正可能」
「そうですよ、私だってハミだしちゃってるの家に多いですから!」
「みんな……」
「私なんてもっとひどいの想像してたけど?」
思わず涙ぐみそうになりぐっとこらえる。
そうだよな、いろいろイベントや困難を乗り越えたっていうのに、なんでもっとみんなを信用できなかったんだ俺は……。
「そうですね、今度ウェザリングにチャレンジするのはいかがでしょう?」
「マスキングテープの購入も勧めておく。ゾルだけではマスキングが難しい」
「あとうまい塗り方も教えますよ?」
うぅ、いかん本気で泣きそうだ。
みんな、すまん……俺のためにここまで言ってくれるなんて……。
「まったく……まぁいいわ、馬鹿キョンは今後とも精進すること!いいわね!」
「あぁ、わかっているとも!」
「まったく、アンタは頭でっかちに考えてるから変なプライド持っちゃうのよ!まず作りなさい!」
……まさか始めたばかりのハルヒに諭されるとはな。
うん、せっかくこの前『ブレイズザクファントム』買ってきたし、今日はこれを作るか!!
こうして俺たちはこの日、いろんなことを話しあい、PCでいろんなことを調べたりして有意義な時間を過ごした。
全くいろんなことを考えさせられたが、こういう気持ちもいいもんだな。
そして週明け、ハルヒは部室でガンダムマークUの製作に入った。
「うん、ちゃんと乾いてるわね……でもはみ出してるせいかかなり汚くなっちゃってるわね……」
ハルヒはクリップに留めてある接着したパーツを取り、舐めまわすように観察する。
「そうだな、それで下地を整える必要があるわけだな。
ハルヒ、この前買ってきたヤスリがあるだろう?それを出すんだ?」
「あー、これのことかー……これで磨くのよね?」
「そうだ、番号の若い順からな、用途が違うから。
まぁ簡単に説明すると400番は荒削り用に、600番は下地調整用、800番は仕上げ用、1000番は仕上げ磨き用だ。」
「ふーん……、じゃあ早速磨いていくわ!」
「あぁ、待てハルヒ、平面はタイラーで磨いた方が効率がいい」
「この当て木付きのヤスリでしょ?」
「そうだ。そして曲面や狭い面を磨く場合には手で磨いた方が効果的だ。
いわゆる適材適所というやつだな。」
少し地味な描写になってしまうが黙々とハルヒはやすり掛けをしていく。根気がいる作業なんだよなぁ、これ……。
イオリ君はすこし忍耐力のいる作業というが、一気にやろうとすると休日があっという間に潰れてしまうからな……。
計画的に作業を三分割して行うようにしている。
俺の場合の作業だが、まず最初に上半身、つぎに下半身、そのつぎにその他の部分を三日かけ、ローテーションで組み上げる。
そして次に同様の順番でやすり掛け→塗装という風に制作していくスタイルを取っている。学業もある以上、ガンプラばかりに時間を取るわけもいかんからな。
「あれ……?」
ハルヒの素っ頓狂な声を聴き、そちらに注意が向く。
「どうしました、涼宮さん?」
「んーとね、なんかちゃんと磨いてるのに、よく見ると磨けてない箇所があるのよ」
「あぁ、それはヒケですねー」
「ヒケ?」
「あぁ、それは要するに凹みだ、イオリ君もやすり掛けで処理するって言ってたろ。」
朝比奈さんの解説を横からもぎ取るようで悪いが、つい口が出てしまった。
「あぁ、なんか言ってたわね……で、これ堂すればいいのかしら?」
「これはですね、600〜800番のヤスリで磨いていけばそのうち均一になりますよ、だから今のうちは気にしなくていいです。
どうしても気になるようだったら『パテ』で塗る方法もあるんですけど無いようですし、このまま磨いちゃってください。」
「それに磨いていくうちにパーティングラインも消えるしな」
「えっ、パ、パー……?」
「パーティングラインです。プラモを作るときって金型にプラスチックを流し込んで作るんです。
その金型は上下に別れてはさむようにしてるためにちょっと隙間ができて、そこにちょこっとプラスチックが入り込み、跡になっちゃうんです」
「大量生産品の宿命だな」
「もっとひどいので言えばバリ、ですね。金型が劣化すると隙間ができてそこにプラスチックが入り込むんです。
羽根つき餃子ってありますよね?アレの羽の部分を想像してもらえると解りやすいです」
「へーえ……みんな詳しいのねー」
「雑誌とかそういうサイトがありますから」
そういうと朝比奈さんは幼顔ながらも小悪魔的な笑みを受けべ、説明の締めとした。
「そうだなハルヒ……せっかくの備品なんだ、パソコンで調べながらやるのも一つの手だぞ」
俺は腰を上げると団長様の席へ行き、PCの電源を入れていくつかのサイトを出してやった。
まぁ、調べ物を自分で処理するのもいいからな、聞いてばかりいると想像力の無くなる大人になるっていうしな。
ハルヒもそれくらいわかっているだろ。なんてことを思いながら調べものややすり掛けをするハルヒを少し寂しそうに見ることを今日の活動とする。
じろじろ見るなとハルヒに怒られたがな。
説明 | ||
ハルヒがついに俺の家へやってきた 作品に自信がない俺は…… |
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