欠陥異端者 by.IS 第二十二話(嫉妬)
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 [・・・ムクリッ]

零「・・・」

 

誰もいない寮室・・・。

一人分しか用意されていない生活雑貨品・・・。

こういう雰囲気をIS学園に来る前まで日課だったのに、こうして振り返ってみると寂しいものだ。

 

零「・・・はぁ。顔洗おう」

 

勢いよく顔に水を浴びせたが、どうもスッキリしない。

その正体が自分でもわからないから、余計にフラストレーションが溜まっていく。

・・・今頃、会長は一夏さんの部屋か。

 

零「っ・・・何考えているんだか」

 

制服に袖を通し、食堂へと向かう。

 

楯無「はい、あ〜ん」

 

一夏「た、楯無さん? 恥ずかしいからやめてくれません?」

 

イチャイチャと朝食を食べている会長と一夏さん・・・いや、正確に言えば一夏さんは強要されている。

 

零「・・・」

 

ここ何日ず〜っと見せびらかされているのだが、毎度ムカムカしてしまうのは何故だろう?

 

本音「ど〜〜〜んっ!」

 

零「おぶっ!?」

 

遠目から二人を見ていたら、突如として背中に衝撃が走る。

よろける程度の衝撃だったため、倒れはしなかった。

 

本音「おっは〜!」

 

零「お、おっは〜・・・?」

 

今日も朝っぱらから元気な本音さん。

ここ最近は、徹夜せずに規則正しい時間で寝ているそうだ。

本音さんとの関係は回復して、今では名前で呼び、こういうスキンシップが当たり前になっている。

 

零「・・・」

 

本音「れいちん、さっきからたっちゃんさんの事、ずっと見てるけどぉ、どしたのぉ?」

 

零「・・・いや、何でもない」

 

本音「?」

 

本音さんは首を傾げたが、目の前の朝食の方が重要ならしく、静かに食べ始めた。

私も、食事を進めようとするが、視線は無意識に二人の方に走っていて、多くの食べ物を詰め込む私の食事は、40分以上もかけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

鈴音「え〜・・・じゃあ、二組の出し物は"((飲茶|やむちゃ))"ってことで」

 

零「・・・」

 

鈴音「ちょっと、聞いてるの?・・・零?」

 

零「・・・」

 

鈴音「・・・[イラッ!]」

  [ゴツンッ!]

 

 

 

 

 

 

 

一夏「久々に昼食一緒にどうだ?」

 

零「・・・」

 

一夏「おーい?」

 

零「んっ? あ、ごめん・・・」

 

気付けば、もう昼休みになっていた。

一夏さんからの催促があったため、私達二人は並んで学食で昼食を取る事になった。

 

一夏「・・・あのさ、その頭のタンコブ、どした?」

 

零「え?・・・あっ、本当だ」

 

確かにあった。ポッコリと盛り上がっている。

覚えが無い・・・まっ、どうでもいいか。

 

零「そういえば、今日はみなさんいませんね?」

 

一夏「あ、ああ・・・何でか嫌われちまったようで。箒なんて俺を見るなり睨んでくるし、鈴はいきなり蹴りをキメてくるし、セシリアなんて────

 

零「最近、会長と一緒にいるからじゃないんですか?」

 

一夏「何で、そこで楯無さんが出てくるんだよ? まぁ、時期的には合ってるけどさ」

 

コイツはわざと言っているのか? 女子達の気持ちを察せられないのか?

・・・とりあえず、一発殴る。

 

  [ゴツンッ!]

一夏「いってぇ! な、何すんだよ!?」

 

零「いや、こうすれば直るかな、って」

 

一夏「はぁ?」

 

そんなやり取りを続けていると、

 

楯無「何か、二人っきりでいるの、久々に見るわね」

 

零「会長?」

一夏「楯無さん?」

 

盆を持って、許可なく私の隣に腰を降ろす会長。

少し優越感を得た。

 

一夏「どうしたんです?」

 

楯無「なによ? 私だって普通に食事をする時だってあるのよ」

 

一夏「ご、ごめんなさい・・・」

 

楯無「まっ、二人に頼み事があったんだけどね」

 

零「頼み事・・・」

 

一夏「・・・ですか」

 

楯無「そっ。学園祭も近くなってきて、確実に騒ぎの中心になるのは君たちだから。それ相応の対策を練らないと」

 

零「一夏さんなら分かりますけど、何で私まで」

 

一夏「何で俺だけなんだよ? 零だって今じゃ学園内で注目度高いじゃないか」

 

零「え? そうなんですか?」

 

楯無「そうよ・・・って、薫子の書いた記事、読んでないの?」

 

あ〜、そういえば、数日前に会長に頼み込んで取材を受けたことをすっかり忘れていた。

 

一夏「ほら、これだよこれ」

 

折りたたまれた記事が手渡される。

何で、持ち歩いてんの・・・?

 

零「えーと・・・『実は、落合 零君は意外と初心なため、しっかり第一印象を良くしなければ避けられてしまうかもしれません。しかし、懐かれてしまえば、素直で従順な"弟"に大変身・・・かも』・・・こんなくだらない事が、学園中に出回っているの?」

 

楯無「だって本当の事じゃないの? 薫子の人間観察は本物よ」

 

零「そんな人が"かも"って最後に書かないでしょう。会長の観察眼も怪しいですね」

 

楯無「へ〜、私に喧嘩を売っているのかな〜? そんな悪い子にはっ!」

 

零「っ、ちょっ、何して───ハッ、ハハハハッ! や、やめっ───」

 

会長の綺麗な指が、脇の弱い所を的確に狙ってきた。

席から立って逃げようとするが、つま先を踏まれて、つんのめった俺は学食のソファに倒れこむ。

会長は容赦なく追撃してきて、覆いかぶさってきた。

 

零「ほっ、ほんとう、やめ・・・! このぅっ!」

 

楯無「やんっ♪ 落合君のエッチ」

 

零「押し退けただけでしょうがっ。もう・・・」

 

一夏「相変わらず、乱されてるなぁ。はははっ」

 

頬杖を突いている一夏さんを、もう一度殴りたくなった。

 

楯無「じゃっ、放課後に生徒会室でね〜!」

 

零「・・・ホント、嵐みたいな人だ」

 

一夏「今更だろ。俺達も戻ろうぜ」

 

零「うん」

 

盆と食器を厨房に戻し、教室へ戻る途中、篠ノ之さんと遭遇した。

 

一夏「おっ。箒、一緒に戻ろ───」

 

箒[ギロッ]

 

お、おぅ・・・これは想像以上に拒絶されているな。

その後も、セシリアさん、ラウラさん、あまつさえデュノアさんにまで拒絶されていた。

 

一夏「じゃ、じゃあまた後で・・・」

 

零「う、うん・・・気を付けて」

 

先が思いやられているのだろう。鬱気味の一夏を見送って、私も二組に戻った。

 

鈴音「あっ、やっと来た・・・ほいっ」

 

鈴さんから渡された紙片に書かれていた内容は、学園祭の出し物に関するものだった。

 

零「中華店喫茶になったんですか?」

 

鈴音「アンタ、本当に何も聞いてなかったのね・・・まっ、朝に一発キメたし、作戦通り学園内で注目してくれてるし、勘弁してやるわ」

 

零「はぁ・・・それで、何で私がホール担当なんですか? これは女子の役目でしょう」

 

鈴音「別にいいでしょ。それに一組も"あの朴念仁"を出すんだから、目には目をよ」

 

零「・・・」

 

これまで引っ越し業者(運送業)やら何やらしてきたが、人を相手にする接客業は苦手。

どうも、肌に合わない気がしてならない・・・やるからにはしっかりとやってはいたが・・・。

 

鈴音「なに、文句あんの?」

 

凄みを含ませた目つきに、私はただ首を縦に振ることしか出来なかった。

その日の放課後。

帰りのSHRが終わり、私は一夏さんのいる一組へ顔を出しに行く。

一組もSHRが終わっているらしく、何人かの生徒が教室を出ていた。

 

零「っと・・・」

 

箒「・・・」

 

入ろうとした私と、出ようとした篠ノ之さん。

ギリギリのところで止まったため、衝突はしなかった。

 

箒[ぶつぶつぶつぶつぶつ]

 

零「・・・」

 

怖い顔をしてぶつぶつと歩いていく。

私の事は視界に映っていないようだった。

 

本音「れ〜いちんっ!」

 

零「おぶっ!?」

 

本音「珍しいね〜、こっちに来るなんて〜。どしたのぉ?」

 

零「一夏さんにちょっと・・・あと、隙を狙って突撃してくるのやめてくれません?」

 

本音「えへへ〜」

 

えへへ〜、じゃないよ・・・。

 

零「それで、一夏さんは?」

 

本音「あそこで、ぐろっき〜」

 

本音さんの指差す方向には、机に突っ伏している一夏さんの後頭部が見えた。

「ありがと」と本音さんにお礼を述べて、一夏さんに駆けよって声をかける。

 

零「一夏さん、生徒会室に行きましょう」

 

一夏「お、おう・・・でもちょっとだけ。ちょっとだけ待ってくれ」

 

零「はあ」

 

とりあえず、名も知れぬ方の席を拝借して座る。

 

本音「せいとかい室に行くのぉ? 私もいこ〜。ほら、オリム〜」

 

一夏「ひ、引っ張るな〜・・・」

 

一夏さんの襟首を掴んで廊下へ引きずり出す本音さん。

 

零(男一人を片手で・・・やっぱり、不思議な人だなぁ)

 

二人の後ろを黙ってついていく。

一夏さんは抵抗もせずに、「おーい、助けてくれー」と力なく言ってくるが、私は苦笑いを浮かべるだけ。

実を言うと、見ているこっちからしては面白かった。

 

一夏「失礼します」

 

本音「失礼しま〜すぅ!」

 

結局、本音さんに抵抗した一夏さんが生徒会室の扉を開ける。

室内には、会長は勿論、本音さんのお姉さんである布仏先輩もいた。

 

楯無「来たわね。じゃ、どこでもいいから座って」

 

促された私と一夏さんは自由に席に座る。

本音さんも、座ったが瞬時に睡眠モードに入った。

 

楯無「さ〜て、まずは学園祭中の二人の動きについてなんだけど────虚ちゃん、二人に資料を配って」

 

虚「かしこまりました、お嬢様」

 

楯無「だからぁ、お嬢様って呼ぶのやめてよ」

 

虚「お嬢様はお嬢様ですから」

 

楯無「ぅ〜・・・」

 

IS学園の学園祭は、普通の高校と異なる部分が多い。

一般人の入園は許可されておらず、生徒一人に付き一枚の招待券が渡される。つまり家族を呼ぶにしても"一人"しか呼べない。

さすが国立と言うべき、か・・・。

しかし、例外の入園者として、各国のお偉いさんだったり、IS関連の有名企業の人が来たりする。

 

楯無「まぁ、勧誘とか、取引とか持ちかけられると思うけど、一切相手にしないでね。校則でも守られているし、いざって時は先生以外に"生徒会"と"風紀委員会"にも拘束の権利はあるから。それを頼ってね」

 

一夏「風紀委員会なんてあるんですね?」

 

楯無「行事以外じゃ機能はしないけど・・・まぁ、気を付けなさい。この世に二人しかいない男性操縦者を、引き込もうと考える輩は多いわ」

 

零「それは分かりますけど、そこまで警戒しますか?」

 

虚「したに越した事はないと思いますよ。はい、紅茶とケーキです」

 

五人分の紅茶にショートケーキが置かれる。

 

本音「うまうまっ♪」

 

寝入っていたはずの人物が、口の周りにクリームを付けてケーキを頬張っていた。

 

楯無「虚ちゃんの言う通り、したに越したことはない」

 

会長が話を続けている中、布仏先輩が本音さんの注意に入っている。

 

楯無「あと、必ず単独行動は控えて。連絡をくれれば、私と虚ちゃんもすぐに駆けつけるから」

 

一夏「はあ。分かりました」

 

零「なら、私達はこれで」

 

楯無「落合君は残って。一夏君は帰っていいわよ・・・また部屋で、ね♪」

 

一夏「ぅ・・・」

 

零「・・・」

 

苦い表情を最後に、一夏さんは生徒会室を出ていった。

 

楯無「二人も席を外してくれる?」

 

虚「分かりましたお嬢様。ほら、本音」

 

本音「や〜! まだた〜べ〜る〜!」

 

机に残されたケーキを求める本音さんは、先輩に容赦なく襟首を持たれて連行されていった。

二人だけになった室内の空気が、一気に張りつめた気がする。

 

楯無「はぁ、虚ちゃんったら。"お嬢様"って呼ぶの止めてほしいって言ってるのに」

 

零「それで、何でしょうか?」

 

楯無「伝えたい事が一つと頼みたい事が二つあるの。この後、予定とかないわよね? 部活、入ってないし」

 

零「ええ、まぁ」

 

表情から見て、けっこう真面目な話なのだろう。

両肘を机につけて手を組む会長さんは、静かに淡々と話を進めた。

 

楯無「伝えたい事は、前に華城先生の検査結果についてだけど、異常はなし、だって」

 

零「そう、ですか」

 

楯無「でも、ちょっと気になる結果があるのよ」

 

零「そ、それはっ!?」

 

私は驚きと期待を込めた声色で聞いた。

 

楯無「私は見た事はないから結果資料に書かれていた事全てを言うけど、その左目に金属反応らしき結果が出たのよ」

 

き、金属・・・?

 

楯無「本当に金属なのか不明だけどね。仮説は色々あるらしいけど、出産時からその眼をしていたなら、落合君のお母様に問題があるんだと思う」

 

零「つまり、私の母は鉄でも食べていたと?」

 

楯無「極端に言えば・・・まっ、今はこんな話をしても仕方ないわ」

 

零「それは、確かに」

 

私の中で両親の行方不明については、決着がついている。

恨んでもいないし、探そうとも思っていない・・・ただ、金属を食していたとなると・・・その、複雑な気持ちなるというか。

もしかして、昔から貧血とか起こしたりする原因って、これにあるのか?

 

零(それこそ、今考えなくていい事か・・・)

 

楯無「じゃあ、次は頼み事ね。一つ目は部活動について」

 

零「部活?」

 

楯無「そう。実を言うと、落合君と一夏君を「ぜひ我が部に!」って言う生徒が多くてね。一夏君については、学園祭が終われば自動的に配属されることになっているけど、落合君についてどうしようかなって」

 

そういえば、前に一夏さんが愚痴ってた。

「あの人は勝手に〜」とか何とか。

 

零「入らないとマズイんですか?」

 

楯無「非常にマズイ。これは学園長命令だから」

 

久々の登場の扇子には、『絶対君主』と達筆に書かれている。

更識家に関して少し情報を得ているが、その代表に命令できる学園長は、やはり只者ではないようだ。

 

零「でも、そんなすぐに決められませんよ」

 

楯無「大丈夫。私が決めるから」

 

零「え〜・・・」

 

楯無「どうせ、入りたい部なんてないでしょ? 私としては、目の届く範囲に君を置いておきたいの」

 

零「私は子供かペットですか?」

 

楯無「ご主人様って呼んでもいいけど?」

 

零「・・・」

 

楯無「もう冗談に決まってるでしょ。そんなに睨まないで」

 

きゃぴっとウィンクする会長が、結構可愛かった事は秘密である。

 

零「はぁ・・・それで? 次の頼み事は?」

 

楯無「さっき学園祭中は単独行動はしないようにって言ったわね?」

 

零「ええ」

 

楯無「実は─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み。

私は、滅多に寄らない一年四組の前まで来ていた。

道中、色々な人に声をかけられた。編入当初はありえない体験だ・・・新聞部の影響って凄いな。

 

四組の女子「あれ? もしかして、落合君!? 四組に何か用?」

 

零「ええ、まぁ・・・更識さん、いますか?」

 

四組の女子「え? う、うん。いるけど」

 

零「じゃあ、ちょっと失礼します」

 

四組の女子「あっ、ちょっと、更識さんに何のよう────」

 

女子が言い切る前に、私は四組に入って目的の人物を探す。

一番窓際の後ろ・・・そこに、空中ディスプレイの操作に追われる簪お嬢様がいた。

 

零「少しいいですか?」

 

簪「ぇ────え? な、何でここに・・・」

 

 

楯無『お願い。簪ちゃんと一緒に回ってくれない?』

 

 

零「一緒に屋上へ行きませんか?」

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さすが夏休み。
暇があり過ぎるっ・・・!
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