超次元ゲイムネプテューヌmk2 希望と絶望のウロボロス |
濡れた枕にしがみ付き暗い部屋の中でネプギアはベットの上で座り込んでいた。
カーテンは閉められ、外の様子が分からず陽光すら差し込まない。
外はまだ昼時なのに、ネプギアの部屋は星すら輝くことない闇夜の空間となっていた。
「疲れた……」
溢れる涙も声も枯れてしまった。
無様に今までの全ての鍛錬を嘲笑うかのような敗北。
誰よりも強いと信じていた四女神達を虫のように掃い倒す絶対なる覇者。
女神を崇めていた信者たちは新たなる神からの贈り物に歓喜して女神という存在は時と共に衰退していく日々。
それでも微かに残った微かな希望も現れる暗黒の覇者の手に粉砕された。
誰よりも信頼を寄せれることが出来た人物からの憎悪の眼差し。
それらはあまりに辛く激しく一度に降り注いだ。
心に宿していた女神としての自信も、心の拠り所も何もかもを壊す勢いで。
「…………」
壊された希望は枯れ果て、代わりに絶望が咲く始める。
結局、誰かの背の後ろで物事を見てきてしまった弱い少女は寄り添える場所を無くした事で簡単に倒れてしまった。
立ち上がってしまえばまた現実が少女を突き刺す。だからここで朽ち果てた方が楽かもしれない。
「アイエフさんや…コンパさんの方が私より……」
その先を遮るようなノックの音。
濡れた枕から顔を上げ、赤い瞳は扉の方に向く。
「ごめん、なさい。今は……一人に、してください…」
『…………』
扉の奥で気配が止まる。
誰にも会いたくない。誰とも目を合わしたくもない。誰とも会話したくない。
鍵を閉めた部屋の中で、再びネプギアは枕に顔を沈めようとしたその時、甲高い発砲の音と共にドアノブが吹き飛んだ。
「…………えっ?」
突然の事に目を丸くするネプギア。魔力で編んだ弾丸が次々と扉に風穴を空けていき脆くなった部分に放たれた一蹴は扉を完全に粉砕される。飛び散る扉だった物が床に散乱して、呆然とするネプギアを前に扉の欠片を踏む音と共に黄金の髪がゆらゆらと揺れる。徐に顔を上げると同時に銃口の冷たい感触が押し付けられる。
「−−−反応遅い、護身用の武器ぐらいは最低でも手が伸ばせる場所に置いとけって言ってなかったけ」
「ッ、空さ、ん!?」
「動くな、今の状況分かっている?」
安全装置を外される音に身が凍るように寒くなる。
枕を抱き締めている状態では直ぐに動けない。更に自身の武器であるビームブレイドは手の届かない机に置いてある。
ネプギアの命は、空の人差し指に握られていた。
「聞いたよ。本当に色々合ったそうじゃないか……それで、君はどうしてここにいる?」
「わ、私は………」
それ以上の言葉は口から出ることは無かった。
唇を噛み締めても、答えが出なかった。
呆然と口を開いていたアイエフは首を左右に振って空に掴みかかる。アイエフの力に従ってベットの上から降りたが、銃口は未だにネプギアに向けられたままだ。
「あ、あんたいきなりなにしてんのよォ!!」
「ここで腐るだけならいっそ楽にしてやろうかと思って」
「それじゃ、何も解決しないわよ!」
「いやいや、ちゃんと考えはあるよ」
殺意はなくても、殺す価値はあるという様に未だに白銀色の銃口はネプギアを逃さない。
「君を作り出しているシェアを君を殺す事で分散させ、新しい女神候補生を作り出す。かなり弱いかもしれないけど、部屋で籠っているより有益に女神として働いてくれるよ」
「空ッ!!」
「崇める存在の神は常に前を見続けなければならない。どんな絶望が降りかかろうが、それに断固と反発する強い意思は必要なんだ。それ故に神は折れたらいけない、導く存在が止まったり迷子になれば進む人の道は迷路に嵌ったように散り散りになるからね」
唄を歌うような美声から放たれる現実。
銃口を向けられたままのネプギアは何も語らず空を見つめている。
「自分じゃダメだ。本気でそう思っているのなら、ここで死ね。次の女神に託せ、お前は用済みだ」
「…………貴方に何が分かるんですか…」
蘇った死体のように立ち上がり、白くなるほどに握りしめた拳で睨むように空を睨むネプギアの双眸は悔しさと苦しさ等の負の色に染まっていた。
「負けて、捕まって、お姉ちゃんの造った世界はボロボロになって、お兄ちゃんは可笑しくなって、ゲイムキャラは壊されて、私に……私に何が出来るって言うんですか!!私だって頑張ったんです!私だけに出来る事を頑張って探した結果がこれなんですよ!!」
「努力の見返り、正当なる報酬が欲しいって?バカじゃない?理不尽こそが世界だ。そして絶対悪を否定した女神の選択によって生まれる”偏り”の中で、善悪のバランスが崩れていくこの未来こそが、想像通りの結末だ。それを自覚していたか、していなかったのか……、ギョウカイ墓場で捕まっているあいつ等は計算していたのか知らないけど、それで紅夜は狂うのは必然だよ。むしろ、君達と会話できたことすら奇跡だと言ってもいいね」
「こうなる事、貴方は想像していたの…?」
「答えはイエス。流石にマジェコンヌ復活は全くの予想外でも、紅夜が女神を殺しに来る……そんな不回避な未来は想像がつく」
ありとあらゆるゲイムギョウ界の世界軸を見続けた空の言葉。なぜ、言わなかったそんなことは口が裂けてもいえない。何度も忠告されていたから、なによりアイエフ自身そうなることを既に予想していから。
それでも、夢を見たかった。その代償が今に来ている。ただそれだけの事だ。
「おねえちゃんが、そもそも間違っていたと言うんですか…!」
「あいつがどれだけ頑張っても、可能性とは混沌だ。良い方に向けば簡単に悪い方にも向かう。それにあいつ等は頑張り過ぎた。故に人は女神を失った時に、新しい神に縋りつき、又は神無き世界の中で希望を持とうと前に進む奴も出てくる」
「徹底的なダメだしね。……でも、私は今も女神を信じているわ」
えっ、と言葉を零しネプギアの顔はアイエフに向かう。
「依存するわけでもない、否定するわけでもない。共存していく世界をネプ子達は望んでいる。だから、私は世界の終りまで信じ続けるのよ。誰かが出来ない代わりに私は続けていくだけ」
「………アイエフさん」
信者に勇気を貰う神って立場的にどうよとため息交じりに頭を掻く。
本来であるのなら信者に道を示すのが神の役目、そういう神と人との関係を嫌と言うほど見てきた空は頭を悩ませた。理解できない者からこそ、それが良い方向に行くのかもしれないと思いながら。
「それに空の事なんてあんまり真に受けちゃだめよ。空が持ってきたえっと…「旧約聖書ね」そう、それに書いてあったんだけど『年老いた者が賢いとは限らず、年長者が正しいことを悟るとは限らない』。空は現実を語るのは得意だけど、打開策は論理を無視しているから支持されにくいのよね」
「………ふんッ、そもそも万人に受けを狙う様な事は無理、力でとりあえず脅して無理やりして、ある程度まで育てれば捨てて自分で頑張れ、が僕のスタイルだからね」
「子供は崖から突き落とせば成長するとはいいますけど、空さんはやっぱり鬼畜ですね」
「嫌われ者なら任せろバリバリー……っで、気分はどう?」
空の微笑に気づき、ネプギアはその手を見た。
小さな二つの手が目に映った。
溜め込んだ物を吐けたおかげか、体が軽くなった気がした
「ネプギア、確かにあなたの努力しているわ。けど、それじゃ通じない相手もいること。でもね、【艱難は忍耐を生じ、忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず】ってこと、失敗してもいいわよ。でもね……折れないで、大丈夫よ。明日世界が滅びる事はないから」
「………はい!」
光を戻した瞳で力強く拳を作った彼女の姿に空は安堵のため息を吐いた。
「−−−大変です!ユニちゃんがいなくなったです!!」
そして、走って部屋に飛び込み呼吸荒くしながら苦し混じりに吐いたコンパの言葉に二人は慌てるが、それを横目に空はカーテンを開いて外の様子を遠い目で見つめた。
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第二章『天獄のディスペア』 剣を取る者は、 みな剣で滅びる −−−新約聖書より |
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