超次元の外れ者・リメイク |
[血を分けた姉弟]
(インターセンター3番街・病室)
……気が付くと、目の前には真っ白な天井が写っていた。
身体が痛い、動かない、ちょっと首を右に傾けると、点滴が見える。
生きてるのは分かるけど、ここまでの記憶があやふやで所々欠けてる。欠けてるながらも思い出してみる。
確か帰る前にクエストやってたんだっけ、収集の。
その過程でモンスターと遭遇して、応戦したり撤退したりしながら依頼の品を集めて……
集め切ったから帰ろうとしたけど、何かが気になって……何が気になったんだろ?
何をしようとしたのかよく思い出せなかった。覚えているのは学園長の叫び声と爆音だけだ。
ふと、右腕だけ痛みが無い事に気付く。上にあげて見てみると、点滴の針が刺さってる以外は全くの無傷だった。
他は痛いのに何でここだけ綺麗なんだろうか、そもそも僕は何でこんな大怪我したのだろうか。
……これ以上考えても何も出てこないから、この事を考えるのはやめよう。
目の前に義父さんが写ってないし、今五体満足で生きている、それだけ分かれば十分だ。
「あ、起きたみたいだね。」
白衣の人間の男性が病室に入って来た。角刈りで眼鏡をかけており、傍には複数のナス型の看護婦がいる。
どうやら僕の様子を見に来た医師のようだ。
「目立った異常はないみたいだね……うん、数日前まで生死を彷徨ってたとは思えない回復ぶりで安心したよ」
採血や脈拍、体温の測定などの軽い健診をした後、医師はそう言って安堵した。
……そうか、僕は何日か眠っていたのか。
「あの子には感謝するといいよ? あの子が血液提供してくれなかったら、今頃君は死んでたかもしれなかったからね……今日は来てないみたいだけど」
あの子……?あの子とは一体誰なのだろうか。まあその内会うだろうという事で、深く考えないようにした。
それから一週間後、結局【あの子】とは一度も会えずに退院した。
家に帰った途端、源さんにいきなり怒られた。「これ以上無茶するな」とか「そんなところまで義父に似るな」とか言われた。
……僕は良く覚えてなく、且つ危険承知でやる仕事ではないのかと思っていたが口論とかしたくないので「ごめんなさい」と言って済ませた。
その夜は何故か目がパッチリするほど覚めてしまって上手く寝れず、逆に朝はいつもより遅く起きてしまい、危うく遅刻しそうになった。
医師からは「あまり魔術的な処置はしてない筈なのに、他種族の血が混ざってるかのような回復力だ」と言われたけれど、有りえないと思った。
異種族間の輸血と言うのは技術的にはほぼ可能だが、混血扱いになる、血統が穢れる、多種族の血なんてナンセンス等、未だに抵抗が強い。
そもそも人間の血と良く合うのは人狼、鳥人、吸血種等の人型系統が多く、その殆どは特に異種間輸血を快く思ってない。
その為他種族の血が使われた可能性は有りえないと言えるぐらいに限りなく低いので、その可能性を否定した。
……だが放課後、その否定はあっけなく覆された。
【央共学園・レッドチェッカーズ拠点】
ガラッと戸を引く音が聞こえたと思ったら、強面のモンスターに取り囲まれていた。
確か僕は授業が終わった後まっすぐ帰ろうとした筈。
けど途中で思い出したかのように物置部屋に行かなきゃいけない気がしてそれで……あれ、何このデジャヴ?
「ようこそ、我がレッドチェッカーズへ」
正面から聞き覚えのある声が……考え込んで下を向いてた顔を上げると、優雅にソファーに腰かけているハイマがいた。
……やられた、またあの術だ。
しかも部屋に入るまで気付けなかった所を思うに前回よりも腕を上げている……!
「アンタ、サブ業とはいえ術士の癖に術体制ないとか致命的よ?」
ハイマは呆れたような顔で頭に手をやるも、「ま、これから教えてやれば良い事か」と言って割り切った。
……? 「これから」とは一体どういう事なのだろうか、まるで僕が仲間に加わるような言い方だけど……
「さて、手短に言うよ……((担徒|ニナイト))((有座|ユウザ))、アンタをこのレッドチェッカーズの一員として迎え入れる」
「……何で?」
突然の強制入隊に咄嗟の一言
その時やはりと言うかなんというか、舎弟たちが
「あ”ぁ”!? テメェ何ナマ言ってんだ!姐さん直々のご指名だぞここはありがたく――」
ドガシャァァン
瞬間、メンチ切った猿人種が窓の外へ吹っ飛ばされた。……何をしたのか見えなかった。
「静かにしな……って言ったはずだよ。何故かも言ったはずだよ。忘れたんならこの手で刻んでやるよ」
舎弟にギロリと睨みを効かせるハイマ、僕が入院していた一週間と数日でどんな特訓をしたのだろうか。
「……良いかいお前達、この事をよーく覚えて、聞いてなかった奴にも教え広めな。」
ハイマが立ち上がり、僕の肩を軽くたたく。
「アタシの血を分けた姉弟に手を出したら、それ相応の報いを受けてもらう。」
「分かったらさっさと帰れ、今日はこれで解散だよ」と言って舎弟たちを帰らせる。
僕もどさくさに紛れて帰ろうとしたが袖を掴まれ引き止められる。
……って言うか、彼女は一体何を言ったんだろうか。
弟と言っていたが僕の事だろうか、何故? どうして? 確かに義父さんの実子なら養子の僕は義第だけど認めてなかったはず。
そもそも義姉弟なのに血を分けた姉弟って……
「……良し、皆行ったな…………」
部屋中を見回して誰もいない事を確信した後に深呼吸するハイマ。
ゴムを外して纏めていた髪を解くと、さっきまで肌で感じられた威圧感が消え、雰囲気も普通の女の子と変わらなくなっていた。
「その……ごめんね、急過ぎて何が何だかわからないでしょ」
全くその通りです、説明下さい。そのそも親違うはずなのに血を分けた姉弟って……
「そりゃ貴方に血を分けたわけだから……」
いやそれどういう意味なのか……待てよ? 『血を分けた』……?
頭に引っかかった言葉を基に、僕は今までの記憶を辿ってみた。
確か血を分けると類似した言葉を聞いたことがあるはず。確か……『提供』?
最近その言葉を聞いたのは確か入院中、担当の医師が言ってた言葉にあった。確か……
『あの子が血液提供してくれなかったら、今頃君は死んでたかもしれなかったからね』
『あの子』……『あの子』ってまさか……
いや、それなら『多種族の血が混ざってるかのような回復力』と言うのにも合点がいく。
僕は思い切って聞いてみた、「君が僕に血液提供してくれたのか」と。そしたら「うん」と即答が来た。
「どうして? 君は僕の事を認めてなかったはず」
「もしかして……あの時の事を覚えてない?」
質問したら質問で返された。何の事だと返したら、僕が採集クエストに行ったあの日の事だった。
「ふーん……つまり、採集を終えた後の事は覚えてないと」
僕が話せる事を全て話すと、ハイマはため息を漏らし、「あの時の言葉も覚えてないの?」と小声を漏らした。
……流石にその事は聞けなかった、聞いたらさっきの猿人種のような目に遭いかねないと直感が言っていた。
……けどあの日、彼女がボロボロの身体で試験に行った事、彼女が義父さんの実の子だと知った事
「あのさ、あの日の事は良く覚えてないけどさ……」
彼女の態度の変化、僕を入隊させた事そして……
「もし僕が死にそうになった事に君が関わっているのなら、君が生きてさえいたら、僕は死んでも悔いは無かったと思う」
「…………ッ!」
パンッ
瞬間、頬をはたかれた。加減抜きだからかすごく痛い。
「……やっぱり貴方、マトモじゃない。どうしてそんな事素で言えるの? わけわかんない……」
え……あの日も何か言ったのか? けど死に際に失礼な事を言うとは思えないし、今のも十分マトモだと思うのだが……
「何で自分は死んでも良いって思ってるの、なんで自分が死んでも誰も悲しまないと思ってるの!?」
怒鳴られた。「何で?」と思った。
僕が死んでも悲しむ人はいない筈、源さんは泣くだろうけどそれは義父さんとの約束を守れない悔しさからだ。
それに寧ろ僕が死んで喜ぶ人がいるだろうに、「ワーカー養子だからっていい気になって」とかよく聞くし、表面上では良くしてくれても実は……
「あのまま目の前で死なれてたら……私は……っ」
……何故か何かと考えていると、ハイマの目から涙が流れていた……泣いているようだ。
誰の為の涙? 自分の未熟さを呪う涙? 己の失敗を悔やむ涙?
それとも……まさか……いやそんな……
「……けど、だからその為に貴方を入れたんだから。」
ハイマはビシッと僕に指を指し、目に涙をためたままの笑顔で宣言した。
「先ずアンタは人の気持ちを知るべきそうするべき、その為にも一先ずは私の家族になりなさい。」
「……?」
「もう『自分の為に泣く人はいない』……なんて言わせないから覚悟しなさい」
その言葉を聞いた時、一瞬だけ心のスカスカが消えた気がした。
こうして僕は、武闘派寄りの組織、レッドチェッカーズの一員になってしまった。けど何故か、不思議といやではなかった。
……心が少し、埋まった気がしたからかもれない
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ワザとぼかしてる所あり。詳しくは他視点ルートにて | ||
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